1.緒 言
超小型モビリティの一つであるミニカーの活躍が 期待されている。ミニカーは小回りが利き運転しやす いことや駐停車スペースを広く取らないことから、高 齢者の移動手段や小口配達用の車両として適してい ると評価されている1)。一方で衝突安全性に関しては 法規や自動車アセスメントにおいて安全基準が定め られておらず、研究の取り組みが少ないようである2)。 ミニカーは普通乗用車に比べ車両が小型であるため、 クラッシャブルゾーンの確保が容易ではなく、前面衝 突時に車体変形がキャビンまで進行し、乗員が内装 部品に衝突することにより受傷する可能性がある。 これまで本研究ではミニカーを用いて衝突速度 55km/hのフルラップ前面衝突実験を実施した3)。こ のときキャビンまで至る車体変形のためにステアリン グホイールが大きく後退し、乗員の頭部および胸部と 要 旨 超小型モビリティの一つであるミニカーの活躍が期待されている。ミニカーは小回りが利き運転しやすい ことや駐停車スペースを広く取らないことから、高齢者の移動手段や小口配達用の車両として適していると 評価されている。一方で衝突安全性に関しては、法規や自動車アセスメントにおいて安全基準が定められて おらず、研究の取り組みが少ないようである。ミニカーは普通乗用車や軽自動車に比べ車両が小型であるた め、クラッシャブルゾーンの確保が容易ではなく、前面衝突時に車体変形がキャビンまで進行し、乗員が内 装部品に衝突し受傷する可能性がある。 これまで本研究ではミニカーを用いて衝突速度 55km/h のフルラップ前面衝突実験を実施した。このとき、 キャビンまで至る車体変形のためにステアリングホイールが大きく後退し、乗員の頭部および胸部と衝突す るという課題が確認された。そこで本論文では CAE(computer aided engineering)を用いて、実験車両 の前部車体フレームおよび足回りの構造を再現した有限要素モデルと内装部品および乗員を再現したマルチ ボディモデルを構築した。車体構造の改善として、車体の前部フレームの剛性を上げることによりキャビン の変形を抑制した。併せて剛性を上げたことにより最大減速度が上昇するため、衝撃吸収部材を追加して車 両の最大減速度を従来と同等とした。またシートベルトのプリテンショナーとフォースリミッターを追加し、 シートベルトの拘束力を調整することで、ステアリングホイールと胸部の衝突を回避させつつ、胸部および 頭部の最大減速度を抑制した。本論文における車体構造と乗員の拘束方法の改善により、胸部傷害値である 胸たわみおよび頭部傷害値である HIC36を傷害基準値未満に低減できることを示した。 キーワード:衝突安全、ミニカー、前面衝突、車体フレーム構造、シートベルト 受付:2019 年 12 月 3 日 受理:2020 年 3 月 11 日 (1)東京都市大学大学院総合理工学研究科機械専攻 (2)科学警察研究所 (3)東京都市大学 著者連絡先:鬼本大輝 [email protected]衝突し傷害リスクが高くなるという課題が確認され た。
そこで本研究では、ステアリングホイールの後退量 を乗員と衝突しない範囲に抑えるために、車体構造の 改善を施した。CAE(computer aided engineering) を用いて、前部車体フレームおよび足回りの構造を 再現した有限要素モデルと内装部品および乗員を再 現したマルチボディモデルを構築した。車体下部の フレーム構造に対して、質量比で効率的な剛性向上 を行い車体前部の変形を抑制し、乗員傷害の基準を 満たす改善を図った。
2.フルラップ前面衝突実験
2-1.実験方法 トヨタ車体製コムスZAD-TAK30(以下、実験車両) のフルラップ前面衝突実験(以下、実車衝突実験) を国内の自動車アセスメントに即して行った4)。実験 車両の衝突速度は55km/hとした。乗員ダミーとして 運転席にはHybrid-Ⅲ AF05(身長:145cm、体重: 45kg)を搭載し、乗車姿勢は通常の使用方法に準じ 調節した(Fig. 1)。乗員ダミー搭載時の車両重量は 460kgとなった。乗員ダミーは3点式シートベルトで固 定した。実験車両のシートベルトには、プリテンショ ナーおよびフォースリミッターは装備されていない。 乗員ダミーの頭蓋骨内の頭部重心位置にブラケット を介し、3軸の加速度計を取り付けた。車両のフレー ム後端部に3軸加速度計を設置した(Fig. 2)。取り付 け方向はx軸を車両の前後方向、y軸を車両の左右方 向、z軸は車両鉛直方向である。剛体壁には多分割ロー ドセルを取り付け、各場所でのバリア荷重を計測し た(Fig. 3)。多 分 割ロードセルのサイズは高さ 125mm、幅125mmとし、縦10列、横16列の計160個 を設置した。多分割ロードセル設置時の下端を地上 高80mmとし、最大許容荷重は300kNおよび500kNと した。車両の3軸加速度計と多分割ロードセルの計測 は10kHzとした。Table 1に示すとおり、米国自動車 技術会規格SAE J2115)で定義されるCFC (channel frequency class)フィルタ処理を行った(Table 1)。Fig.1 Overview of actual vehicle Fig. 2 Accelerometer mounting position
Fig. 3 The outline of the multiple load cell barrier Table 1 Measurement channel
衝突地点の上部と左右側面に高速度ビデオを設置し、 1,000fpsにて撮影を行った。 2-2.実験結果 実験車両のフレーム後端部に取り付けた加速度計 の測定結果をFig. 4(a)に示す。実験車両の車両減 速度を評価するため、平均車両減速度を算出し、普 通乗用車のものと比較した6)。 a V=t 0 1 (1) ここでV[m/s]は衝突速度であり、15.3m/s(55km/0 h)である。t1[msec]は車体潰れ量が最大となる時 刻であり、70.2msecであった。(1)式より算出した平 均車両減速度の大きさāは218m/s2(22.2G)となった。 これは普通乗用車の平均車両減速度である150〜 225m/s2(15.3〜22.9G)と同程度である6)。 車体前部の変形はキャビンまで至り、車体の潰れ 量が427mmとなった時点においてステアリングホ イールが120mm後退し乗員の上体と衝突することが 確認できた(Fig. 5)。その後ステアリングホイールは 最大で276mm後退した。以上より、ステアリングホ イールの後退量を乗員と衝突しない範囲とするため に、本研究では車体の潰れ量を427mm未満に抑制す ることとした。ここでステアリングホイールの後退量 はステアリングホイールとシートのターゲットマーク の移動量の差とし、高速度ビデオから求めた。 合算した多分割ロードセルのバリア荷重の遷移を Fig. 4(b)に示し、ピークの荷重を示した19msecお よび40msecの荷重分布をFig. 4(c)に示す。バリア 荷重は19msecで最大となり、最大値は385kNとなっ た。この時刻のバリア荷重の分布図から前輪、車体 下部および上部のフレームが剛体壁に衝突し、バリ ア荷重が最大となったと考えられる。車体前端部の フレームが座屈し、前輪が後退した20〜32msecの間 においてバリア荷重は低下した。その後、前輪と車 体下部のフレームが剛体壁に衝突した40msecにて、 2次ピークが生じた。以上より、剛体壁から車両に加 わった荷重が前輪を含む車体下部のフロントフレー ム構造に集中していることがわかった。 頭部の3軸合成加速度を示す(Fig. 6)。ステアリン グホイールと頭部が衝突を始めた44msecにおいて1次 ピークが生じ、頭部がもっとも倒れこむ55msecにて 頭部減速度が最大となった。頭部傷害値であるHIC36 は1,521となり、傷害基準である1,000を上回った。胸 部についても32msecにステアリングホイールと衝突
Fig. 4 Measurement result of actual vehicle collision test
Fig.5 Relationship between steering wheel retreat amount and vehicle displacement in actual vehicle collision test
を始めているため、胸たわみが増大し傷害リスクが 高くなると推定される。乗員の上体とステアリングホ イールが衝突した要因は、車体変形がキャビンまで 進行したことによるステアリングホイールの後退があ げられる。 以上のとおり実車衝突実験から、車体変形がキャ ビンまで進行したことによるステアリングホイールの 後退により、乗員がステアリングホイールと衝突し傷 害リスクが高くなることを明確化した。そこでCAEを 用いて車体構造を改善し、キャビンの変形を乗員へ 衝突のない範囲に抑えることで、乗員とステアリング ホイールの衝突を回避し、乗員傷害の低減を図った。
3.解析モデル
3-1.車体構造の改善のための車両モデル 車体構造の改善を行うために、実験車両を参考に 前部車体フレームおよび足回りを再現した車両モデ ルを構築した(Fig. 7)。材料については実験車両に 即して、クラッシュバー、メインフレーム、フロント フレーム、アッパーフレーム、サスペンションアーム はSS400、ホイールはA5154とした。またバッテリー は剛体とし、タイヤはNeonモデル7)を参考に作製した。 衝突解析を行う際の計算コストを考慮し、衝突時の 車体変形に大きく影響しない車両先端から1,070mm のフロア前半部以降の構造については、集中質量を 用いて簡易化した(車両重量460kgのうち353kg相当 の構造)。各部材間の接続については、実験車両に即 してスポット溶接、連続溶接、ボルト締結とした。サ スペンションアームとホイールは剛体要素で接続し た。ショックアブソーバーの沈み込みに関しては車体 の並進方向の変形に対して影響が小さいと判断し、 ショックアブソーバーを剛体要素で再現し、ホイール およびメインフレームと接続した。解析ソルバーは Livermore Software Technology社製のLS-DYNA ver.971を用いた。なお車両モデルの節点数は31、 886、要素数は37、717である。 3-2.車両モデルの妥当性確認 車両モデルの妥当性を確認するため、車両モデル に55km/hの速度を与え剛体壁に衝突させた。集中質 量を入力した節点の衝突方向以外の並進および回転 を拘束して解析を行った。解析では乗員傷害に影響 を及ぼす加速度が生じる50msecまでの現象に着目し た。車両モデルの車両減速度および内部エネルギー を実車衝突実験の結果と比較した(Fig. 8)。車両減 速度は実車衝突実験と同様に、CFC 60のローパス フィルタ処理を行った。車両減速度波形は、乗員傷 害に影響を及ぼす加速度が生じる50msecまでの実車 衝突実験を再現したとみなした〔Fig. 8(a)〕。また 車体の内部エネルギーの差は50msecまでの間におい て5%以内となった〔Fig. 8(b)〕。以上より、衝突か ら50msecまでの間において、車両モデルは実車衝突 実験を再現できていると判断し、車両前部構造の変 更時における車体の潰れ量および車両加速度の予測Fig. 6 Head deceleration of actual vehicle collision test
に用いた。 3-3. 乗員の拘束方法の改善と傷害評価のため の車内モデル 乗員の拘束方法の改善と傷害値の評価を行うため に、乗員と実験車両の内装部品を再現した車内モデ ル を 構 築 し た(Fig. 9)。 乗 員 はSiemens社 製 MADYMO version 7.7 のHybrid-Ⅲ AF05相当のマ
ルチボディモデルとした8)。実車衝突実験にて測定し たシートフレームの変形、ショルダーベルトアンカー とインストルメントパネルの位置、ステアリングホイー ルの後退量、車両のピッチング角度を再現した。シー トの荷重変位特性については、Siemens社にて公開さ れているモデルを用いた9)。また本研究において乗員 とシート間では、摩擦係数が乗員の衝突挙動にもっ とも影響すると考え、乗員とシート間の摩擦係数を0.4 とした。 3-4.車内モデルの妥当性確認 車内モデルの妥当性を確認するため、Fig. 4(a) の実車衝突実験の車両減速度を車内モデルに入力し、 乗員挙動と頭部の3軸合成加速度を比較した(Fig. 10)。実験車両および車内モデルともに、32msecにス テアリングホイールと胸部が衝突し始めた。44msec には、ステアリングホイールと頭部が衝突し始め、頭 部減速度波形には1次ピークが生じた。55msecには、 頭部がもっとも倒れこみ、頭部減速度は最大となった。 またこのタイミングにおいて、乗員は車両前方にもっ とも移動した。以上より、乗員の車両前方への移動 量が最大となるまでの間において、車内モデルは実
Fig. 8 Comparison of vehicle deceleration and internal energy between actual vehicle collision test and original model
Fig. 9 Overview of vehicle interior model
Fig. 10 Comparison of head deceleration and occupant behavior between actual vehicle collision test and original model
車衝突実験を再現できていると判断し、作成した車 内モデルを本論文に用いた。
4.車体前部の変形の抑制と傷害値低減
4-1.車体の潰れ量の目標値 車体の剛性上昇によるキャビン変形の抑制の効果 を3-1節の車両モデルを用いて検証した。Fig. 5に示 すように実車衝突実験では車体潰れ量が427mmと なった時点において、乗員とステアリングホイールは 衝突した。そのため車体の最大潰れ量を427mm未満 に低減することを目標とした。 4-2.車体下部フレームの板厚変更 Fig. 4(c)の実車衝突実験のバリア荷重の分布図 より、剛体壁から車両に作用した荷重は車体下部の フロントフレーム構造に集中していることがわかっ た。そのため車体の剛性の向上によりキャビン変形を 抑制することを目的に、車体下部のフレーム構造の変 更を行った。車体下部フレームの剛性向上案として 車体下部フレームの板厚を増加させた。車体下部フ レームはフロントフレーム(Ⅰ)、ジョイント(Ⅱ)、メ インフレーム(Ⅲ)から構成されている(Fig. 11)。 そこで車体下部フレームを構成しているⅠ、Ⅱ、Ⅲの うち、車体の潰れ量の低減にもっとも効果のあるフ レームを選定するために、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲそれぞれの質量 増加が1 kgとなるように板厚を増加させ(Table 2)、 車体の潰れ量の比較を行った。その結果、フロント フレーム(Ⅰ)の板厚を厚くすることで車体の潰れ量 がもっとも低減された(Fig. 12)。以上より、車体の 剛性を向上させるためには、フロントフレーム(Ⅰ) の剛性を上げることがもっとも有効であると確認でき た。 4-3.フロントフレームの剛性の改善 前節の結果を受け、フロントフレームの板厚を初期 板厚の1.5mmから0.5mmずつ厚くし、車体の最大潰 れ量が目標値の427mm以下となる最低の板厚を確認 した。フロントフレームの板厚が3.5mmのとき車体の 最大潰れ量が423mmとなり、目標値を下回った(Fig. 13)。一方で、車体下部フレームの剛性が向上したたFig. 11 Lower body frame structure
Fig. 12 Comparison of vehicle displacement on x-axis between front frame, joint and main frame Table 2 Frame thickness of body frame
Fig. 13 Vehicle displacement on x-axis at each frame thickness
め、フロントフレームおよびメインフレームが座屈す る11〜27msecの間においてオリジナルモデルに対し 車両減速度が増大し、最大値は14G高くなった(Fig. 14)。これより、乗員の最大減速度も増大しシートベ ルトの圧迫により胸部傷害が発生することが考えられ る。よって、車両の最大減速度を抑制するために衝 撃吸収部材の追加を検討した。 4-4.衝撃吸収部材の追加 車体の衝撃吸収量を増加させるため、フロントフ レームの板厚を3.5mmに変更した条件において、衝 撃吸収構造を車体の前端部に追加した。衝撃吸収構 造はアルミハニカムコアとアルミハニカムコアをメイ ンフレームに接続するステー(材料:SS400、板厚: 2mm)とした(Fig. 15)。衝撃吸収構造は、車両前 端部の取り付け可能なスペース(L 326×W 320×H 86)に追加できる最大の寸法に設定した。アルミハ ニカムコアとステーはボルト締結、ステーとフロント フレームはスポット溶接で接続した。衝撃吸収構造 を改善後の車体に適した剛性に調節するため、アル ミハニカムコアの板厚は0.6mm、0.7mm、0.8mmの厚 さを検討し、車両減速度の最大値で評価した(Fig. 16)。アルミハニカムコアの板厚が0.8mmのとき、衝 撃吸収構造の剛性が高いため、Fig. 16のAに示すよ うに衝撃吸収構造が十分に潰れず、フロントフレーム およびメインフレームの変形の仕方が変化したこと で、36msecにおける最大減速度が元形状より大きな 値となった。アルミハニカムコアの板厚が0.6mm、 0.7mmのとき、Fig. 16のBに示すように衝撃吸収構造 が潰れたことで、30msecまでのフロントフレームとメ インフレームが座屈するタイミングにおける減速度が 元形状より低くなった。また車体の剛性向上前の車 体での最大減速度が44Gであるのに対し、アルミハニ カムコアの板厚が0.7mmにおける最大減速度は46Gと なったことが確認できた。これより、車体の剛性が上 昇したことにより増大した車両の最大減速度は、アル ミハニカムコアの板厚を0.7mmとした衝撃吸収構造 を追加することで、車体の剛性向上前と同程度に抑 えることが可能となった。 以上より、フロントフレームの剛性を向上させるこ とに加え、衝撃吸収構造を車両前端部に追加して衝 突初期の衝撃吸収量の増加を行うことにより、車両 の最大減速度を抑制しつつ、車体の潰れ量の抑制を 満たせたことを確認した。一方で車体の剛性を向上 させたことにより乗員に加わるエネルギー、すなわち 減速度の時間積分は増大するため乗員傷害の対策に
Fig. 14 Comparison of vehicle deceleration between original model and improvement model
ついて検討する必要がある。 4-5.乗員の拘束方法の改善 乗員に加わる最大減速度を抑制させるため、シー トベルトの拘束特性を調節した。改善案は、シートベ ルトにプリテンショナーと1〜5kNの範囲のフォースリ ミッターを追加することとした。プリテンショナーは、 衝突初期にシートベルトの拘束力を高め、乗員の車 両前方への移動を抑制する。フォースリミッターは、 シートベルトの圧迫により生じる胸部の最大減速度を 低減する。 4-6.頭部傷害値および胸部傷害値の測定方法 頭部傷害値の評価指標としてHIC36を用いた。頭部 の3軸並進加速度の合成加速度を算出し、式(2)を 用いて傷害値のHIC36(head injury criterion)を計
算して判定した。 HIC36 2 1 2 1 1 2 2.5 1 =
(
−)
− t t t t t tdt t α ( ) max (2) ここで、t1、t2は計算開始時刻、終了時刻[sec]、 αtは合成加速度[G]、maxはHIC36が最大となる時間 幅(t2-t1≤0.036sec)である。胸部傷害値の評価指標 として胸たわみを用いた。胸たわみは、胸骨中心部と 胸椎間の相対変位を算出した。 4-7.頭部および胸部の最大減速度の低減効果 前述の車体構造および乗員の拘束方法の改善案を 車内モデルに適用し、頭部と胸部の最大減速度の低 減効果を確認した。車内モデルでは、頭部および胸 部傷害値を評価するため、解析時間を80msecまでと した。これは実車衝突実験において、HIC36の最大と なる時間が40〜76msecであったためである。車内モ デルに入力する車両減速度については、フロントフ レームの板厚が3.5mmの条件(条件1)(Fig. 14)お よび条件1に衝撃吸収構造(アルミハニカムの板厚 0.7mm)を追加した条件(条件2)(Fig. 16)の解析 結 果 を50msecま で 与 え た。50〜80msecま で は、 80msecまでの車両の運動エネルギーの総和が実車衝 突実験に対して等しくなるように、Fig. 4(a)の実車 衝突実験の車両減速度をスケーリングした。またス テアリングホイールの最大後退量は120mmとした (Fig. 5)。条件1と条件2の車両減速度を入力した場合、 頭部とステアリングホイールは衝突したため頭部減速 度はオリジナルモデルに対し低減しなかった(Fig. 17)。しかし車体構造を改善したことで、胸部とステ アリングホイールの衝突は回避され、胸部の最大減 速度はオリジナルモデルに対して低減した(Fig. 18)。 入力した車両減速度別で頭部および胸部の最大減速 度を比較すると、条件2が条件1に比べて小さくなった。 これは条件2の最大減速度が8G小さいためと考えられ る。条件2にプリテンショナーとフォースリミッター (4kN)を追加した場合(条件4)、乗員の拘束性能が 向上したため頭部および胸部の最大減速度は、オリ ジナルモデルに対してそれぞれ44G、39G低減しもっ とも抑制された。各減速度が最大となったのは、Fig.Fig. 16 Comparison of vehicle deceleration between original model and crashable box equipment model
17のH4(head of condition 4)に示すように頭部はス テアリングホイールと衝突した45msec、Fig. 18のC4 (chest of condition 4)に示すように胸部は乗員がもっ とも車体前方へ移動した33msecであった。以上より、 車体構造の補強および衝撃吸収部材の追加により乗 員に加わる減速度を調整し、シートベルトの拘束方法 を改善することにより拘束時の乗員に加わる荷重を抑 制した。この2点を用いて、頭部と胸部の最大減速度 が低減したことを確認した。なお、本研究の結果は、 乗員の前方移動に影響するパラメーターがシートの 荷重変位特性よりも、シート乗員間の摩擦係数が支 配的であり、シート座面への潜り込みの影響は考慮 する必要がないという仮定に基づき得られた。 4-8.頭部傷害値および胸部傷害値の評価 乗員に加わる最大減速度がもっとも低減した条件4 の頭部傷害値および胸部傷害値を算出し、実車衝突 実験の結果と比較した。HIC36は実車衝突実験の1,521
Fig. 17 Comparison of head deceleration and occupant behavior between original model and modify model
Fig. 18 Comparison of chest deceleration and occupant behavior between original model and modify model
H4
C4
C0
C4
5.まとめ
本研究では、ミニカーの実車衝突実験およびそれ を再現したCAEにより、以下の知見を得た。 ・ 実車衝突実験において、衝突速度55km/hのフルラッ プ前面衝突では車体変形がキャビンまで進行した ことで、ステアリングホイールが後退し、乗員と衝 突した。これにより、乗員に加わる最大減速度が 増加し傷害リスクが高くなることを確認した。 ・ 車両前部構造を再現した有限要素モデルを用いて、 衝突中の前部構造の変形を抑制する効率的な補強 手法を検討した。剛性を上げることにより最大減速 度が上昇するため、エネルギー吸収部材を追加す ることで最大減速度を現行車両と同等に抑えた。 補強した車両において乗員加速度が上昇するため、 シートベルトのプリテンショナーおよびフォースリ ミッターを追加し、頭部傷害および胸部傷害を傷害 基準値未満に抑えた。 ・ 本論文における車体構造と乗員の拘束方法の改善 【参考文献】 1) 国土交通省:超小型モビリティの成果と今後.2016. https://www.mlit.go.jp/common/001125685.pdf (accessed 2020/02/20) 2) 平成 24 年度 第 1 回車両安全対策検討会:超小型モビリティ の安全基準検討に資する事故分析.2012. https://www.mlit.go.jp/common/000217255.pdf (accessed 2020/02/20) 3) 鬼本大輝,関口樹,湯原隆博,他:ミニカーのフルラップ前 面衝突時における乗員傷害に関する研究(第 3 報),自動車技 術会学術講演会前刷集(秋季),2018;No.135-18. 4) 独立行政法人自動車事故対策機構:衝突安全性能評価の概要. http://www.nasva.go.jp/mamoru/assessment_car/ newtest.html(accessed 2019/02/20)5) SAE J211-1: Instrumentation for Impact Test. https://law.resource.org/pub/us/cfr/ibr/005/sae. j211-1.1995.pdf(accessed2019/02/20)
6) 水野幸治:自動車の衝突安全─基礎論,名古屋大学出版会, 名古屋,2018,p92-100.
7) National Highway Traffic Safety Administration: Crash Simulation Vehicle Models. https://www.nhtsa.gov/crash-simulation-vehicle-models(accessed 2019/02/20) 8) Seiemens: Hybrid-III 05th percentile female dummy. https://tass.plm.automation.siemens.com/madymo (accessed 2019/02/20) 9) Seiemens: a_frontalel.xml. https://tass.plm.automation.Siemens.com/madymo (accessed 2019/02/20)
transportation of elderly people and for deliveries because of its small size and single seat. However, collision safety of a minicar has not been reported. Because a minicar is smaller than small cars, so it is difficult to secure an enough crashable zone. Therefore, in frontal collision of a minicar, the cabin may be largely deformed and the steering wheel collide with the occupant. Occupant injury occurs because of the collision with the steering wheel.
In previous studies, a full frontal rigid barrier impact test using a minicar was conducted (initial speed 55 km/h) and the problem of minicar in frontal collision were clarified. The steering wheel retreated and collided with the occupant because of the large deformation of the body frame. Therefore, occupant face a high risk of injury. Therefore, in this study, a full frontal rigid barrier impact test was simulated using the finite element model reproducing the front body frame and chassis structure of the experimental vehicle, and the multi-body model reproducing the interior parts and the occupant. To reduce the occupant injury by improving the body frame structure, deformation of the cabin was suppressed by increasing the rigidity of the front frame. On the other hand, the maximum acceleration was increased because of the high rigidity of front frame. Therefore, the maximum deceleration was suppressed by equipping the crushable box. In addition, the restraint force of the seat belt was adjusted to avoid the collision between the steering wheel and the chest by adding a seat belt pretensioner and a force limiter. Two consecutive improvement to the body structure and occupant restraint method were enforced, and then chest deflection and HIC36 as a head injury index reduced below injury
criterion.
Key words:passive safety, minicar, frontal collision, body frame structure, seatbelt
(1)Tokyo City University Graduate School (2)National Research Institute of Police Science (3)Tokyo City University