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災害時に保健医療従事者は何をすべきか  ―期待と現実のGap―

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Academic year: 2021

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〈巻頭言〉

災害時に保健医療従事者は何をすべきか ―期待と現実の Gap ―

武村真治

国立保健医療科学院公衆衛生政策部  わが国は,最も多くの自然災害が発生している国の一つであると同時に,最も大規模災害(事故,テロなど)が発 生する可能性の高い国の一つである.自然災害に関しては,風水害,土砂災害,地震災害,火山災害など,ありとあ らゆる自然の猛威に,毎年のようにさらされている.今年の6月にも,岩手・宮城内陸地震によって被害が発生し たところである.また人口の過密化,高度に発達した科学技術と産業,政治・経済・社会情勢に影響されやすい国際 関係,これらの不安定で不確実な要素は,事故,テロなどのあらゆる大規模災害の発生のリスクを増幅する.  災害への対応に関しては,われわれは自然災害等の豊富な経験に基づく知識と技術をすでに獲得しているはずであ る.しかしそれらの知識と技術は,それぞれの被災地に,それぞれの関係機関に,それぞれの専門職に散在し,各領 域で閉じられたままである.  自然災害・大規模災害への対応にあたっては,保健所,市町村等の行政機関,医療機関等の様々な関係機関,そし てそれらに従事する様々な専門職が連携することの重要性が再三指摘されている.なぜ連携する必要があるのだろう か? それは,一つの地域,一つの関係機関,一つの専門職だけでは,つまり各領域で獲得された知識や技術だけで は対応できないからである.連携するための第一歩,それは,各領域の知識や技術でできることとできないことを互 いに明らかにすることである.しかし各領域で認識されている可能性(できること)と限界(できないこと)もま た,閉じられたままである.  本特集のねらいは「開くこと」である.つまり,自然災害・大規模災害において保健医療に深く関与する関係機 関・関係者が,経験等によって獲得しているそれぞれの知識や技術に基づいて,被災者の生命と健康を守るために実 践している活動,実施できる支援,果たすべき機能を「公開すること」,そしてそれぞれの可能性と限界,期待され る役割と現実とのGapを「公開すること」である.  本特集では,自然災害・大規模災害の関係機関・関係者のそれぞれの立場から,上記の観点に基づいて論述してい ただいた.鈴木幸雄先生には,新潟県において発生した豪雨と2度の地震への対応の経験を詳細に分析していただ き,その知見に基づいて保健福祉行政部局(都道府県,保健所,市町村)の役割の本質を明らかにしていただいた. 内藤万砂文先生と平野美樹子先生には,豊富な救護活動の実績,平時からの研修・訓練,連携の経験に基づいて,災 害における医療(保健医療従事者)の実践的な役割を示していただいた.奥田博子先生には,阪神淡路大震災以降の 自然災害の事例を詳細に分析していただき,保健師(被災地の保健師,派遣保健師)が実施すべき活動の体系を示し ていただくとともに,今後の課題を指摘していただいた.須藤紀子先生と吉池信男先生には,全国調査の結果に基づ いて栄養士の役割を分析していただき,被災者の多様なニーズに適合した栄養・食生活支援活動が広範であること, その中で栄養士が果たす役割は非常に大きく,かつ重要であることを示していただいた.中久木康一先生はじめ諸先 生方には,災害における歯科専門職(歯科医師,歯科衛生士)の役割は,予防,治療,口腔ケアだけでなく,摂食困 難者への支援,歯型による遺体鑑別など広範にわたること,それらの役割を果たす上で歯学教育の充実,関係者との 連携が必要であることを指摘していただいた.鈴木友理子先生には,災害における精神保健支援に関して,PTSDだ けでなく幅広い精神保健問題に対応する必要があること,災害精神保健活動は多層的であり,精神保健医療専門家の サービスだけでなく現場の保健師等によるアセスメントや心理的応急処置が重要であることを示していただいた.山 本裕子先生には,北見市で発生した大規模な断水の影響に関する調査に基づいて災害時における水の確保の問題を分 析していただき,水道利用者(住民,施設など)への適切な情報提供,水道利用者自身の危機管理意識の向上と備え の必要性を指摘していただいた.尾島俊之先生とボランティア研究班の先生方には,災害におけるボランティアの活 動と役割を体系化していただき,機動性,柔軟性,人数の多さの点でボランティアの潜在能力が大きいこと,一方で 活動の統率,地区組織活動の活性化,活動内容,安全衛生などの課題を抱えていることを指摘していただいた.  しかし本特集で開かれた知見は,いまだ「日本」という領域の中に閉じられたままである.今年に入って,ミャン マーのサイクロン,中国四川大地震など,諸外国で重大な災害が多発している.このような状況の中で,日本に閉じ られた災害への対応に関する卓越した知識と技術を世界に向けて「開くこと」が必要である.災害への対応は,日本 が国際的に貢献できる数少ない活動の一つであり,日本は,災害への対応で国際的に貢献できる数少ない国の一つで あることを,本特集で再確認したい. 3 8 7

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