Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College, Available from http://ir.tdc.ac.jp/
Title
Morphologic Evaluation for Safe Le Fort I Osteotomy
in Cleft Lip and Palate
Author(s)
渡邉, 美貴
Journal
歯科学報, 120(2): 236-237
URL
http://hdl.handle.net/10130/5184
Right
論 文 内 容 の 要 旨 1.研 究 目 的 唇顎口蓋裂は,手術侵襲と瘢痕形成により上顎の劣成長を示すことが多く,顎裂幅や骨架橋の程度により複 雑かつ多様な上顎骨形態を示す。Le FortⅠ型骨切り術は,上顎劣成長に対して選択される手術であるが多く の併発症が報告されており,唇顎口蓋裂では併発症の発症率が25.2%と高く手術の難易度が上がる。本研究の 目的は,上顎劣成長の唇顎口蓋裂に対して安全に Le FortⅠ型骨切り術を行うため,上顎骨の構造・形態を把 握することである。 2.研 究 方 法 対象は,片側性唇顎口蓋裂を伴う顎変形症(CLP 群)で症候群を除く17例34側,コントロール群は先天異常 を伴わない骨格性下顎前突症5例10側。有限要素解析は,コントロールモデル(FEAc),CLP 群骨移植なし モデル(FEAnBG),CLP 群骨移植ありモデル(FEABG)の3パターンを作成し,上顎骨への咬合力の応力 分布状態を把握し,続いて応力集中が見られた部位を中心に三次元計測を行った。三次元計測は Le FortⅠ型 骨切り術(LFI)の骨切り線を想定するため,眼窩下孔から ANS までの垂直距離を測定し,ANS より1/5で切 断した平面を計測平面とした。計測項目は,Le FortⅠ型骨切り術の際にランドマークとなる部位,①梨状口 側縁,②頰骨下稜,③翼突上顎接合部長径,④翼突上顎接合部幅径,⑤上顎洞前壁外側,⑥上顎洞前壁中央, ⑦鼻腔側壁前方,⑧鼻腔側壁中央,⑨上顎骨後方,⑩冠状断断面積,⑪大口蓋管前後径,⑫大口蓋管前方距 離,⑬大口蓋管後方距離,⑭大口蓋管側方距離,⑮上顎洞体積の合計15項目とした。
3.研究成績および考察
FEAnBG は,Small Segment に強く応力集中がみられた一方,FEABG は両側にほぼ均一な応力集中が みられ顎裂部骨移植が均一な応力分布に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。三次元計測の結
果,上顎洞体積と上顎洞前壁中央は SSBG(γ=−0.67),上顎洞前壁外側は SSnBG(γ=−0.88)と SSBG(γ
=−0.68)で相関がみられ,唇顎口蓋裂は上顎洞体積を計測することで上顎洞前壁の骨の厚みを予測すること
が可能であることが示唆された。唇顎口蓋裂の梨状口側縁と鼻腔側壁が有意に厚く骨の厚みに影響を与える因 子として mechanical stress が挙げられた。しかし,FEA と三次元計測の結果が一致しない項目については, segment の状態,顎裂の幅や骨架橋の状態,咬合接触面積や歯牙植立状態,残存歯等の口腔環境因子,習癖 氏 名(本 籍) わた なべ み き
渡
邉
美
貴
(千葉県) 学 位 の 種 類 博 士(歯 学) 学 位 記 番 号 第 2189 号(甲第1390号) 学 位 授 与 の 日 付 平成29年3月31日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当学 位 論 文 題 目 Morphologic Evaluation for Safe Le Fort I Osteotomy in Cleft Lip and Palate
掲 載 雑 誌 名 The Cleft Palate-Craniofacial Journal 2018年
論 文 審 査 委 員 (主査) 山本 仁教授 (副査) 柴原 孝彦教授 末石 研二教授 阿部 伸一教授 歯科学報 Vol.120,No.2(2020) 236 ―134―
等の生活環境因子や骨密度等の因子による影響も考えられた。特に,骨密度は骨強度の指標となるため今後も 検討の余地がある。翼突上顎接合部の付着は厚く幅広いという報告がされていたが,本研究の結果,顎裂部骨 移植が翼突上顎接合部の付着状態に影響を与える重要な因子であることが明らかとなった。術後の上顎骨へ血 流を確保するために重要な栄養血管である下行口蓋動脈は,segment ごと,そして骨移植の有無により大口 蓋管前方距離が異なるため,bone saw の挿入距離を変えて骨切りすることが重要である。 4.結 論
本研究の結果から,唇顎口蓋裂の解剖学的構造と形態を踏まえた上で bone saw の挿入距離や osteotome の 位置付けや操作を行うことで併発症の発症を抑制することが可能となる。 論 文 審 査 の 要 旨 唇顎口蓋裂は,Le FortⅠ型骨切り術に至るまでの患者背景が異なるため複雑かつ多様な上顎骨形態を示 す。唇顎口蓋裂の Le FortⅠ型骨切り術は,複雑な形態に加え鼻咽腔閉鎖機能や瘢痕組織による後戻りについ ても考慮しなければならないため手術の難易度が高く,併発症の発症率も25.2%と高くなる。本研究は,唇顎 口蓋裂に対して安全に Le FortⅠ型骨切り術を行うため,上顎骨の構造と形態を把握することを目的とした。 その結果,梨状口側縁と鼻腔側壁の骨が厚く,上顎洞前壁と上顎洞体積の間には負の相関関係が認められた。 また,翼突上顎接合部の付着は,顎裂部骨移植による影響を受けることが示唆された。大口蓋管の位置は bone saw の挿入距離や osteotome の位置付けを行う上で重要であり,大口蓋管までの前方距離は短く,側方 および後方距離が長いことが明らかとなった。 本審査委員会では,⑴コントロール群を選択した理由と上顎後退を伴う骨格性下顎前突症を選択しない理 由,⑵計測値を比率で比較する意義,⑶骨移植が pterygomaxillary junction の厚みの違いに影響を及ぼす因 子,⑷顎裂症例における応力の分布,などについて質問があった。これらの質問に対して,⑴顎変形症の病名 がない場合,倫理上 CT 撮影は行えないため,上顎骨が正常に近い顎変形症をコントロールとした。その際に 上顎に対し基準を設けて劣成長や非対称のないものにした,⑵実際の手術では患者毎の実測値が重要である が,比較検討を行う上で実測値は個体差が大きく,唇顎口蓋裂全体としての特徴を隠してしまうため,本研究 では上顎骨に対する厚みを比率で検討した,⑶有限要素解析の結果,pterygomaxillary junction に応力集中は 見られなかったため,咬合力以外の因子が考えられた。今回検討した項目のうち顎裂部骨移植において有意な 差が見られたことから,顎裂部骨移植が因子の一つとして考えられた,⑷顎裂症例の場合,large segment と small segment ともに,咬合力は約300N であり,有意な差はないとの報告がある。Large segment と small segment に同等の咬合力が加わった場合,単位面積当たりの応力が大きいのは small segment であるため, small segment に応力の集中が見られたと思われる,との回答を得た。この他,計測部位と解剖学的構造の関 係,応力の集中部位や応力と軟組織との関係性などについての質問がされたが,適切な回答が得られた。また 英文表記,図表の修正,タイトル等についての指摘があった。 本研究で得られた結果は,今後の歯学の進歩,発展に寄与するところ大であり,学位授与に値すると判定し た。 歯科学報 Vol.120,No.2(2020) 237 ―135―