新規スピロ型キラル相間移動触媒を用いる
実用的アミノ酸合成
寄稿論文
京都大学大学院 理学研究科 化学専攻 教授丸岡 啓二
1.はじめに 近年,地球規模で広がる環境への負荷をできるだけ軽減し,いわゆる環境に優しい化学 合成,環境に優しい分子・反応の設計を目指してより良い環境を作るためにグリーンケミス トリーへの取り組みが進んでいる。必要な物を望むだけ作ることを目指してきた有機合成 化学の分野でも,21世紀になると,資源を無駄遣いし環境汚染を広げてきた20世紀の化 学から質の転換が求められるのは致し方ないであろう。例えば,現在,縦横無尽の活躍をみ せている有機金属触媒は有機物質変換の鍵を握る有用な機能性物質であり,その汎用性,多 様性の点から極めて優れた価値を有していることは言をまたない。ほんの10年ほど前に は見ることもなかったようなレアメタルを使う金属触媒が次々と開発され重要視されるに 伴い,それらレアメタルの採取時と廃棄時の環境汚染がだんだんと問題になってくるであ ろう。こういった観点から,私どもの研究室では金属を使わない環境調和型の不斉有機分子 触媒としてキラル相間移動触媒の開発に取り組んでいるが,その触媒設計と各種アミノ酸 合成をはじめとする実用的不斉合成の最近の進展を紹介したい。 2.相間移動触媒としての第四級アンモニウム塩 テトラアルキルアンモニウム塩 (R4N + X-)は,そのイオン構造のため通常水溶性であるが, そのアルキル基が長鎖になると脂溶性が高まり有機溶媒にも可溶となる。1) 1965 年頃,こ のようなアルキルアンモニウム塩の特性を活かしたカルベンの付加反応に関する特許が Starksによって申請された。2) すなわち,濃い水酸化ナトリウム水溶液とクロロホルムから 成る二相溶媒系に,相間移動触媒としてトリオクチルメチルアンモニウムクロリドを加え ると,この四級アンモニウム塩が水相と有機相の間を行き来する「相間移動触媒」として働 き,オレフィンのシクロプロパン化反応が速やかに進行するというものである。それまで は,この反応の活性種であるジクロロカルベン1の発生には無水条件下,かなりの低温を 必要とし,おのずから実験操作も繁雑であった。しかし,相間移動触媒を利用することによ り,このような反応を常温でしかも水の存在下で行うことが可能となり,同時に反応速度の 大幅な増大が期待できるようになる。更に,実験操作が非常に簡便となるなど,様々な合成 化学的利点から,その後の活発な研究につながっていった。3 ) CHCl3 Cl C Cl Cl Cl 1 60% (式1) 触媒 NaOH 水溶液 触媒:トリオクチルメチルアンモニウム クロリド(式2) キラル相間移動触媒, 50% NaOH N N H HO H H CH3-Cl 2 (10 mol%) O Cl Cl MeO CF3 O Cl Cl MeO CH3 N N H HO H H 20 °C, 18 h 95%, 92% ee 2 Br 3.キラル相間移動触媒を用いる光学活性α - モノアルキルアミノ酸の合成 20世紀後半における有機合成化学の飛躍的な発展の中で,新たな反応性の獲得ととも に,反応の位置及び立体選択性の制御が極めて高いレベルで実現されるようになり,精密合 成化学という言葉が相応しい状況になっていった。その中でも触媒的不斉合成の進歩は目 をみはるものがあり,真に実用的な不斉合成プロセスが開発されてきている。そのような背 景のもと,近年,キラル相間移動触媒を用いた不斉合成反応の報告が幾つかなされてきたが 実用的見地からはほど遠く,最初の成功例は 1984 年にメルク社から報告された。4) すなわ ち,Dolling らはシンコニンアルカロイドとp-(トリフルオロメチル)ベンジルブロミドから 得られる光学活性第四級アンモニウムブロミド2をキラル相間移動触媒として用いること で,α - フェニルインダノン誘導体の不斉メチル化反応が高いエナンチオ選択性で進行す ることを見い出した。この報告は,(i) 実用的不斉合成の最初の成功例であること;(ii) そ の後,開発されたキラル相間移動触媒は,ほとんどがシンコナアルカロイド由来である点で 意義深い。 (シンコニンアルカロイド) それから5年後の 1989 年,O’Donnell らはシンコニンから容易に合成可能なキラル相間 移動触媒3を用いることで,グリシン tert- ブチルエステルのベンゾフェノンシッフ塩基の 不斉アルキル化反応が温和な条件下で進行することを見い出した。5) ベンゾフェノンシッ フ塩基を用いることによりモノアルキル化が円滑に進行し,しかも生成したモノアルキル 化体のα - プロトンはこの反応条件下で容易に脱プロトン化しないことが認められている。 一方,シンコニジンから得られるキラル相間移動触媒4を用いると,逆の絶対配置をもった α -アルキルアミノ酸が得られてくる。このようにして得られるα -アルキルアミノ酸誘導 体の光学収率は必ずしも高くないが,酸処理でイミンとエステルの加水分解を同時に行っ た後,再結晶でほぼ純粋な光学活性α -アミノ酸へと導くことができる。この報告を契機と して,その後,光学活性アミノ酸の不斉合成が幾つか報告されることになった。(式 3) まず,Imperiali や Bowler らは,シンコニジンをベンジル化したキラル相間移動触媒4を用 いると金属カチオンに対し,強い結合能力を有する非天然型アミノ酸,あるいはピリドキ サール補酵素を含むアミノ酸の不斉合成に有効であることを示した。6) (式 4,5) トルエン キラル相間移動触媒
N Ph Ph O OBut N Ph Ph O OBut H H2N O OH H Cl Cl H 81% (66% ee) N N H HO H H 82% (62% ee) H [ >99% ee; ] 3 (10 mol%) CH2Cl2 20 °C, 12 h 50% NaOH N N H HO H H Cl 3 4 Cl CH2Br N Ph Ph O OBut H Cl Cl H2N O OH H Cl 4 (10 mol%) (式3) 50% NaOH, CH2Cl2 [ >99% ee; ] 20 °C, 1 h N N Br N OBu t Ph Ph O N OBu t Ph Ph O N N H2N OH O N N 83% (53% ee) 6N HCl, 4 h 4 (20 mol%) (式4) (式5) 5 °C, 2 h 50% NaOH, CH2Cl2 N N OBu t Ph Ph O N OBu t Ph Ph O 4 (20 mol%) [ >99% ee; ] CH3 Br O O N CH3 O O N H OH O N CH3 O O 68% (52% ee) Fmoc キラル相間移動触媒 キラル相間移動触媒 シンコニンアルカロイド由来の キラル相間移動触媒, シンコニジンアルカロイド由来の キラル相間移動触媒, キラル相間移動触媒 キラル相間移動触媒 再結晶後 再結晶後 再結晶後
N H CO2H Fmoc CN N H CO2H Fmoc OMe OMe FmocHN N H O N N CO2H 7 5 6 さらに Imperiali らは,アミノ酸側鎖にそれ ぞれ蛍光を発する基,金属に配位可能な基や 蛍光消失基を導入することにより,5,6,7 のような非天然型アミノ酸を合成し,さらに 固相ペプチド合成法によりオリゴペプチド を合成して,光励起による電子移動に基づく 金属イオンセンサーを作り上げている。7 ) Rao や塩入らは,抗菌作用, 細胞毒性を示す環状ペプチド であるテオネラミドFの南半 球部の合成に,あるいはグリ コペプチド系抗生物質である テ イ コ プ ラ ニ ン の 不 斉 合 成 に,キラル相間移動触媒を用 いる不斉合成によって得られ た光学活性アミノ酸(点線で 囲った部分)を利用している。 9,10) O’Donnell らは,シンコナア ルカロイド由来のキラル相間 移動触媒8が塩基性条件下で どのように分解を起こすか詳 細に検討し,キラル相間移動 触媒が塩基性条件下で容易に O-アルキル化を起こし,得ら れた生成物9が活性な触媒に なることを見い出している。 11) (式 7) (式6) Pirrung らは,アミノ酸の側鎖にシクロオクタテトラエニル基を導入したアミノ酸を不斉 合成している。8) この場合,グリシンのアルキル化では相間移動反応を使っているものの 不斉導入はなされておらず,得られたモノアルキル化体を後に酵素による速度分割によっ て光学活性α - アルキルアミノ酸誘導体を合成している。シクロオクタテトラエニル基を 導入することによってペプチド鎖におけるアミドの回転と同様の構造変化が期待でき,ま た,電子移動反応や遷移金属の配位子としても利用できる。 1) HCl 2) KOH 3) Ac2O N OMe Ph Ph O NH CO2H + Br Bu4N•HSO4 O N H CO2H O H2N CO2H 10% NaOH, CH2Cl2 20 °C, 24 h Acylase I HN O NH NH CONH2 HN O OH NH O Br O H2NOC N HN O NH O HO O HN CO2H OH O N NH O HN O OH NH NH HO Br O O OH Theonellamide F N H H N N H H N N H HN O H O OH O H O H O NH2 H O HO HO O O O H Sugar Cl O Sugar Cl HO O Sugar OH HO2C H Teicoplanin
C o r e y らは,さらにこういったシンコニジンアルカロイドに構造的に剛直なアントラセ ンユニットを組み入れることにより,新たなキラル相間移動触媒10をデザインした。1 2 ) さらに,通常,用いられている有機溶媒/アルカリ水溶液の液/液系でなく,固体の水酸化 セシウム ・ 1水和物をジクロロメタン溶媒中で使う固/液系により,しかも低温下で反応 を行なうことによりグリシンエステルの不斉アルキル化で高い不斉収率を得ている。 このキラル相間移動触媒10は,グリシンエノラートのα ,β -不飽和カルボニル系への 不斉共役付加においても高いエナンチオ選択性が発現することが見い出されている。13 ) Corey らと同じ時期に,Lygo らもシンコナアルカロイドにアントラセンユニットを導入 することで,新たなキラル相間移動触媒11や12を作り上げ,グリシンエステルの不斉ア ルキル化を液/液反応系で行うと高い不斉収率が得られることを見い出した。14) これらの アプローチは各種の天然及び非天然型α - アミノ酸合成に極めて有効であることを示して いる。 N Ph Ph O OBut N Ph Ph O OBut H H2N O OH H Ph Ph 10 (10 mol%) CsOH•H2O 84%, 94% ee PhCH2Br H N N H O H H + -78 °C, 23 h CH2Cl2 Br 10 N Ph Ph O OBut N Ph Ph O OBut H (CH2)2CO2Me 10 (10 mol%) CsOH•H2O 85%, 95% ee + -78 °C, 23 h CH2Cl2 OMe O N R1 N H HO H H 8 Br N R1 N H O H H OH N R1 N H R2O H H Br N R1 N R2O H H N R1 N H OH H R2-Br Base [R1 = CH2Ph; CH2CH=CH2] 9 [R2 = CH2Ph; CH2CH=CH2] (式7) シンコニジンアルカロイド由来の キラル相間移動触媒, キラル相間移動触媒, キラル相間移動触媒 (式8) (式9) キラル相間移動触媒
特に,ジヒドロシンコニジンアルカロイドにアントラセンユニットを導入した触媒13 (X= Cl)を用いると更に光学収率の向上(94% ee)が認められた。これらの報告を機に, 相間移動条件下での触媒的不斉合成の研究がいっそう加速されていくことになる。 N Ph Ph O OBut N Ph Ph O OBut H Ph N Ph Ph O OBut H Ph PhCH2Br 63% (89% ee) 68% (91% ee) 11 (10 mol%) 20 °C, 18 h 50% KOH / N N H HO H H N N H HO H H Cl 11 12 Cl 12 (10 mol%) N Ph Ph O OBut THF, N N H HO H H Br Br CO2But ButO2C Ph2C=N N=CPh2 CO2But ButO2C NH2 NH2 X OH O CO2H H2N NH2 NH2 HO HO CO2H CO2H NH2 CO2H 15% , 24 h 50% KOH, 13 55% ( ), 72% de, >95% ee 13 (10 mol%) こういったアントラセン メチル基を有するキラル相 間移動触媒13(X = B r ) は,ビス(α- アミノ酸)合成 にも有用であることが Lygo らによって報告された。1 5 ) ビス(α -アミノ酸)は,自 然界でジチロシン,イソジ チロシンやメゾ - ジアミノ ピメリン酸などが知られて いるが,この方法を活用す る と 各 種 の 非 天 然 型 ビ ス (α -アミノ酸)の合成が可 能になる。 O’Donnell らは,不斉相間 移動反応プロセスにおいて 実用的見地からアルカリ水 溶液を用いる液/液系の反 応よりはイオン結合を持た シンコニンアルカロイド由来の キラル相間移動触媒, キラル相間移動触媒 シンコニジンアルカロイド由来の キラル相間移動触媒, キラル相間移動触媒 トルエン (式10) (式11) シンコニジンアルカロイド由来の キラル相間移動触媒, キラル相間移動触媒 くえん酸 室温 総収率 トルエン 室温 ジチロシン イソジチロシン
ない塩基としてホスファゼンを使って均一系の反応を行えば,大量合成にも適用できやす いことを述べている。さらに,この系を使うと低温での反応が可能になるため,エナンチオ 選択性の向上が期待できる。16 ) また,O’D o n n e l l らは,グリシンのエステル部を固相担持したものを用いて,非天然型 α - アミノ酸の固相合成も行っている。17) このように,キラル相間移動触媒の適用範囲は 多岐にわたっている。塩入らは,同様にシンコニンから誘導されるキラル相間移動触媒14 を用いて,さまざまな不斉合成反応の開発に成功している。18) その際,触媒の置換基Rと して立体的に嵩高いものを用いるのではなく,電子吸引性の置換基を導入するというアプ ローチで触媒の修飾を行っている点は特に興味深い。これによって,四級中心である窒素原 子上の電子密度を下げ,反応基質から生成する対アニオンとの距離を縮めることで,反応の 遷移状態においてより強固な不斉場を形成できると考えられる。実際,ジブチルエーテル 中,3 0 %過酸化水素水を酸化剤に,水酸化リチウムを固体塩基として用いた相間移動条件 下でのα ,β -不飽和ケトンの不斉エポキシ化反応では,触媒として14 aを用いると生成 物であるエポキシケトンにおいて不斉誘起はほとんど見られない(∼1% ee)。これに対し て,キラル相間移動触媒14 b の存在下で反応を行った場合には,84% ee という高いエナ ンチオ選択性で生成物が得られてくる。また,同様な相間移動条件下での不斉 Darzens 反応 において,p-(トリフルオロメチル)基を有するキラル相間移動触媒14c を用いることで, α-ハロケトンとアルデヒドから光学活性エポキシケトンを満足のいく選択性で得ている。 N Ph Ph O OBut Ph N Ph O OBut H R R X
92% (94% ee) with MeI/BEMP 89% (89% ee) with EtI/BTPP 88% (91% ee) with PrI/BTPP 96% (90% ee) with Allyl-Br/BEMP 88% (91% ee) with BnBr/BEMP N P N NEt 2 N P N N N N Bu t But 10 (10 mol%) non-ionic base Me Me + -78~-50 °C CH2Cl2 BEMP BTPP N N H HO H H Ph Ph O Ph Ph O O Cl Ph O Ph O O CHO R Br 73%, 69% ee 14a : R = H 14b : R = I 14c : R = CF3 LiOH 14a: 72%, 1% ee 14b: 97%, 84% ee 30% H2O2 / Bu2O 4 °C 14 14c (10 mol%) + Bu2O, LiOH•HH2O 4 °C 14 (5 mol%) キラル相間移動触媒 (式12) (式13) キラル相間移動触媒 キラル相間移動触媒 キラル相間移動触媒, ◎ 不斉エポキシ化反応 ◎ 不斉Darzens反応 キラル相間移動触媒, キラル相間移動触媒,
N Ph Ph
N
X X
[ X = halogen, OH, enolate ]
[ ] 15a 16a このように,キラル相間移動触媒の分野ではほとんどすべての系においてシンコナアル カロイド由来のキラル相間移動触媒が使われている。しかしながら,こういったアルカロイ ドから出発すれば触媒設計に限界があることは明白であり,通常は,(i) 第四級アンモニウ ム塩合成のためのアルキルハライドを変える; (ii) シンコナアルカロイドの水酸基を保護 するためのアルキル基を変える,ぐらいしか方法がない。加えて,シンコナアルカロイド由 来のキラル相間移動触媒は幾つかのβ - 水素をもっているため,アルカリ水溶液を加えた 際,Hofmann 脱離を引き起こし,触媒自体が分解してしまうといった欠点がある。こういっ た状況下で我々は,(i) 合理的な触媒設計の観点からC2対称軸を導入する;(ii) Hofmann 脱離をひき起こすβ - 水素が不必要な系を構築する,という2大前提で次世代のキラル相 間移動触媒の創製に着手した。 まず,これらの条件を満たす単純な触媒として光学活性 (S)- ビナフトール由来のキラル アンモニウム塩15を調製した。この触媒1モル%を用いてグリシン tert- ブチルエステル のベンゾフェノンイミンの不斉ベンジル化反応を検討した。トルエン/ 50%水酸化カリウ ム水溶液中で相間移動反応を行なったところ,収率 34%で望ましいモノアルキル化体が得 られ,その光学収率は 21%であった。光学活性ビス(α -ナフチル)アンモニウム塩15 b を用いても光学収率は 28%であった。こういった触媒15ではエノラートが光学活性ビナ N Ph Ph O OBut N Ph Ph O OBut H Ph N Ar Ar + 15a, b (1 mol%) 50% KOH 0 °C 15a, b 15a (Ar = Ph) 15b (Ar = ) Br s PhCH2Br : 34% (21% ee) : 46% (28% ee) キラル相間移動触媒 キラル相間移動触媒 キラル相間移動触媒 (式14) アキラルな部分 α-Naph トルエン フチル部の近傍にいる場合には不斉導入が期待できるが,アキラルなジベンジル位の部分 では必然的に光学収率の低下を招いてしまう。そこで更にジベンジル位の部分にもうひと つの光学活性ビナフチル部を導入したスピロ型ビナフチルアンモニウム塩16 a を調製す れば,より有効な不斉環境が構築できる。この触媒は市販の光学活性 (S)- ビナフトールか ら出発して,無水トリフルオロメタンスルホン酸/トリエチルアミンを用いてビス(トリフ ラート)に変換し,メチルマグネシウムブロミドを用いたニッケル触媒によるクロスカップ リング反応によってジメチル誘導体を得た。続いて,ベンゾイルパーオキシド/ N-ブロモ
スクシンイミドを用いるラジカルブロモ化によってジブロミドを得て,これをアリルアミ ンと反応させると環状のアリルアミンが得られた。Wilkinso n 触媒を用いる脱アリル化に よって第2級環状アミンを得,これを先のジブロミドと反応させると望みのスピロ型ビナ フチルアンモニウム塩16 a へと導けた。 OH OH Me Me OTf OTf Br Br NH N N Tf2O, Et3N CH2Cl2 MeMgBr NiCl2(PPh3)2 ether NBS (PhCO2)2 cyclohexane MeCN Allyl-NH2 RhCl(PPh3)3 MeCN-H2O MeOH K2CO3 Br 16a : 73%, 79% ee (R) for 6 h : 81%, 89% ee (R) for 0.5 h : 95%, 96% ee (R) for 0.5 h Br 16a (Ar = H) 16b (Ar = Ph) 16c (Ar = ) 16 N Ph Ph O OBut Ph N Ph O OBut H + 16a~c (1 mol%) 50% KOH 0 °C R PhCH2Br N Ar Ar Ph キラル相間移動触媒 キラル相間移動触媒, キラル相間移動触媒 (式16) (式15) β-Naph トルエン この触媒1モル%を用いてグリシン tert- ブチルエステルのベンゾフェノンイミンの不 斉ベンジル化反応を以前と同様の相間移動条件下で行うと,化学収率,光学収率ともに向上 することが認められた。驚くべきことに,光学活性ビナフチル環の 3,3' 位にフェニル基を 導入した触媒16 b を用いると,グリシンエステルの不斉アルキル化は更に速く進行する ことを見い出し,これまで0℃で6時間要した反応がわずか 30 分後にはほぼ完結し,81% の収率でベンジル化体が取れ,しかもその際の光学収率は8 9 %であった。さらに,3 , 3 ' 位を β- ナフチル基に変えたキラル触媒16c を1モル%用いることによって反応のエナンチオ 選択性はさらに向上し,わずか30分後には収率95%,光学収率96%になることが判った。19) スピロ型のキラル相間移動触媒,
キラル相間移動触媒16では,ふたつのビナフチル部は共に (S)- 異性体のものを使って いるが,その一方を逆のエナンチオマーに変えるとどうなるだろうか? 試みにβ - ナフ チル置換されたビナフチル部に (R)- 異性体のものを使ったキラル相間移動触媒17を作り 上げ,それを1モル%用いて同様の相間移動条件下,グリシン tert- ブチルエステルのベン ゾフェノンイミンの不斉ベンジル化反応を行なったところ,アルキル化反応は非常に遅く なり,しかもエナンチオ選択性も大幅に低下することが判った。 3,3' 位にβ - ナフチル基を導入したキラル相間移動触媒16 c は,グリシン tert- ブチル エステルのベンゾフェノンイミンの不斉アルキル化反応において高い一般性を有すること がわかり,表1から明らかなように,わずか1モル%の触媒存在下,通常の相間移動反応条 件下で各種のアルキルハライドを用いるといずれの場合も 9 0 % e e 以上の高いエナンチオ 選択性が認められた。19 ) 表1 . スピロ型キラル相間移動触媒を用いるグリシンエステルの不斉アルキル化反応 アルキルハライド 反応時間 エナンチオ選択性 収 率 PhCH2Br 0.5 h 96% ee 95% CH3I 8 h 90% ee 64% CH3CH2I 10 h 95% ee 41% CH2=CHCH2Br 1 h 94% ee 84% CH2=C(Me)CH2Br 1 h 93% ee 82% 1 h 95% ee 90% 0.5 h 96% ee 80% 1 h 96% ee 81% 1.5 h 96% ee 60% (注) 不斉アルキル化反応は,グリシンエステル(1当量)とアルキルハライド(1 . 2 当量)をスピ ロ型キラル相間移動触媒16cを1モル%存在下,トルエン/ 50%水酸化カリウム水溶液中,0℃で 行なった。 N Ph Ph O OBut N Ph Ph O OBut H Ph R 17 (1 mol%) 50% KOH 0 °C, 62 h N PhCH2Br + R S Br 17 53% (18% ee) Br Me Br F Br HC CCH2Br キラル相間移動触媒 トルエン キラル相間移動触媒, (式17) β-Naph β-Naph
この触媒的不斉アルキル化反応の遷移状態を考察することにより,エナンチオ選択性発 現に関する知見を得ることができる。3,3' 位にβ - ナフチル基を導入したキラル相間移動 触媒16 c の空間モデルを図1に示した。この図を見ると,置換されていない光学活性ビナ フチル部を土台に 3,3' 位にβ - ナフチル基を導入した光学活性ビナフチル部がその周囲を 取り囲むような形をとっており,そこにベンゾフェノンイミンのグリシン tert- ブチルエス テルエノラートが近づくと無置換型ビナフチル部とベンゾフェノンイミン部との間で効率 の良いπ , π - 相互作用が働き,グリシン tert- ブチルエステルエノラートの一方のエナン チオ面が有効に遮蔽されていることがわかる。この状態でアルキルハライドがエノラート に近づけば,望ましい (R)- 配置を持ったα - アルキルアミノ酸が得られるという訳である。 図1 . キラル相間移動触媒 16c を用いたグリシン誘導体の 触媒的不斉アルキル化反応の遷移状態図 さて,こういった相間移動反応では,反応スケールが大きくなればなるほど,反応の攪拌 効率が問題となってくる。特に二相の界面で反応が起こる場合,いかに効率良く撹拌するか が反応速度を大きく左右する。こういった問題も超音波照射を行なうことによって,ある程 度は解決できる。20) 例えば,単純なケトンのアルキル化反応を例に取ると,ベンジルフェ ニルケトンのベンジル化を通常の相間移動反応条件下,超音波照射すると,0℃,10 分で アルキル化体が定量的に得られるが,攪拌条件下ではわずか 10%しか得られない。その他 のメチル化やブチル化でも,超音波照射と攪拌では反応性に大きな差が認められた。また, キラル相間移動触媒16 c を用いるグリシン tert- ブチルエステルの不斉メチル化でも,通 常の攪拌条件では0℃,8時間で 64%の収率が得られるが,それを超音波照射すると,1 時間後には同様の収率が得られることが判る。その際,光学収率にほとんど差異は認められ なかった。 N N Ph Ph O OBut R H N O O But R R-X
4 . キラル相間移動触媒を用いる光学活性α , α - ジアルキルアミノ酸の合成 光学活性α ,α -ジアルキルアミノ酸は天然に存在しないものの,ペプチドの修飾や酵素 の阻害剤あるいは不斉合成における有用なキラル素子として高い潜在需要を持っている。 従来,Schollkopf,Seebach や Vedejs をはじめとする多くの化学者によって,光学活性α - モ ノアルキルアミノ酸から化学量論的に各種のヘテロ環に変換し,それらのジアステレオ選 択的なアルキル化反応を行なうことによって,望みの光学活性α ,α -ジアルキルアミノ酸 18へと変換するのが通例であった。2 1 ) E (Schollkopf) (Seebach) E N N Bz OM R Me O B N Me2N OM R Ph F H2N CO2H N N R OMe M MeO N N R OMe MeO (Vedejs) E * * E * H2N CO2H R E 18 N O OBut p-Cl-Ph N O OBut p-Cl-Ph Me Me R PhCH2Br R-X R-X = : 36% ee (78%) : 50% ee (84%) p-F-PhCH2Br CH2=CHCH2Br 3 (10 mol%) K2CO3/KOH, CH2Cl2 : 44% ee (80%) , 15 h 19 (式18) 超音波照射: トルエン/ 撹拌あるいは超音波 水溶液 キラル相間移動触媒 (式19) 酸処理 キラル相間移動触媒 室温 (式20) トルエン- 1992 年になると,O’Donnell らは光学活性α,α-ジアルキルアミノ酸の触媒的合成法を報 告した。2 2 ) すなわち,シンコニンアルカロイド由来のベンジルアンモニウム塩3を1 0 モル %用いてアラニン tert- ブチルエステルのp- クロロベンズアルデヒドイミンの不斉アルキ ル化反応を相間移動条件下で行うと,相当する光学活性α, α- ジアルキルアミノ酸19が 良い収率で得られた。それらの光学収率はいずれの場合も5 0 %以下と,それほど満足のいく 値ではないが,光学活性α , α - ジアルキルアミノ酸合成の触媒反応例として評価できる。 撹拌では 撹拌では 撹拌では 水溶液 8 hの撹拌では 超音波 Ph O Ph Ph O Ph R N Ph Ph O OBut Ph N Ph O OBut Me H BuI (5 eq); 15~25 °C, 2 h R-X = PhCH2Br (1.2 eq); 0 °C, 10 min MeI (5 eq); 15~25 °C, 30 min
(5 eq) 63%, 88% ee Bu4NBr (5 mol%) , R-X 50% KOH , 0 °C, 1 h Me-I + 16c (1 mol%) 50% KOH [0 °C, , 64%, 90% ee] : quant ( , 10%) : 85% ( , 2%) : 71% ( , 9%)
続いて,Lygo らは自ら開発した,シンコニジンアルカロイドに構造的に剛直なアントラ センユニットを組み入れたキラル相間移動触媒12を触媒量(10 モル%)用いて光学活性 α , α - ジアルキルアミノ酸19の触媒的不斉合成を行なった。23) 不斉ベンジル化の場合 は比較的高い光学収率(77∼87% ee)が得られるが,その他のアルキルハライドでは選択 性が著しく低下してしまう。 こういった状況で,我々の研究室では最も効率の良い光学活性α ,α -ジアルキルアミノ 酸の触媒的不斉合成プロセスの確立に取り組んだ。すなわち,グリシンから出発して,グリ シン tert- ブチルエステルのアルデヒドイミンに変換し,それをキラル相間移動触媒を用い た相間移動条件下,二種の異なるアルキルハライドを用いて同一容器内で連続的に不斉二 重アルキル化反応を行なおうというものである。得られたジアルキル化体は酸処理によっ て,容易に望みの光学活性α , α - ジアルキルアミノ酸へと導ける。 そこで,3,3' 位にβ - ナフチル基を導入したキラル相間移動触媒16 c を1モル%用い, アルキル化剤としてアリルブロミド,続いてベンジルブロミドを加えることによって,グリ シン tert- ブチルエステルの p- クロロベンズアルデヒドイミンの不斉ジアルキル化反応を トルエン/ 50%水酸化カリウム水溶液中という相間移動条件下で行い,その後,生成物を 10%くえん酸で加水分解すると相当する光学活性α,α- ジアルキルアミノ酸エステル20 (R1 = アリル;R2 = ベンジル)が低収率ながらも良いエナンチオ選択性で得られた。アル キル化の反応速度を上げるため,C o r e y らが使用した水酸化セシウムの水和物を用いる固 /液反応系を適用したところ,収率は 61%にまで向上し,またその際の光学収率も幾分良 くなった。そこで,さらにキラル相間移動触媒16の 3,3'位のアリール置換基の電子吸引, あるいは電子供与効果を調べたところ,フルオロ置換基が反応性,選択性の点で顕著な効果 を発現することが認められ,特に 3,4,5- トリフルオロフェニル置換基を有するキラル相間 移動触媒21を用いると,光学収率が 98%まで向上することを見いだした。24) H2N O OBut Me R N O OBut p-Cl-Ph N O OBut p-Cl-Ph 12 (10 mol%) Me Me 30 min R K2CO3/KOH, R-X AcOH THF-H2O : 87% ee (95%) R-X = PhCH2Br p-Cl-PhCH2Br n-Bu-I ICH2CO2But : 36% ee (low yield) : 19% ee (58%) : 77% ee (72%) 19 N O OBut p-Cl-Ph N O OBut p-Cl-Ph R1 R2 H2N O OH R1 R2 H+ H2NCH2CO2H 1) R1X, 2) R2X キラル相間移動触媒 室温, (式21) (式22) グリシン α,α-ジアルキルアミノ酸 キラル相間移動触媒 トルエン
その他の例を表2に示した。通常,反応性の高いアルキル化剤を使うと最初のアルキル化 は− 1 0 ℃,3時間半で終えることができ,続いて2番目のアルキル化剤を加えると0℃, 1時間以内でアルキル化がほぼ終り,加水分解後,相当する光学活性α ,α -ジアルキルア ミノ酸20が良い収率で取れてくる。その際のエナンチオ選択性は∼98% ee にも達する。 この同一容器内での不斉ジアルキル化反応は中間体にキラルアンモニウムエノラート22 が生成し,エノラート自体は完全な平面構造を有するため,最初のアルキル化で得られた不 斉中心は続くエノラート22の生成で完全に消失してしまう。従って,このジアルキル化反 応で得られるエナンチオ選択性は,2番目の不斉アルキル化によってのみ決まることがわ かる。 表2.スピロ型キラル相間移動触媒 21 を用いるグリシンエステル p- クロロベンズアルデ ヒドイミンの不斉ジアルキル化反応による光学活性α,α-ジアルキルアミノ酸 20 の合成 アルキルハライド 最初の アルキルハライド 2番目の ( R1-X ) アルキル化条件 ( R2-X ) アルキル化条件 光学収率/収率 CH2=CHCH2Br -10 ℃, 3.5 h PhCH2Br 0 ℃, 0.5 h 98% ee 80% CH2=CHCH2Br -10 ℃, 3.5 h CH2=C(Me)CH2Br 0 ℃, 0.7 h 97% ee 60% CH2=CHCH2Br -10 ℃, 3.5 h HC≡ CCH2Br 0 ℃, 0.5 h 96% ee 58% PhCH2Br -10 ℃, 3.5 h CH2=CHCH2Br 0 ℃, 0.3 h 92% ee 74% (注) 不斉ジアルキル化反応はスピロ型キラル相間移動触媒 21を1モル%の存在下,グリシン エステル(1当 量)にトルエン/水酸化セシウム水和物中,異なる2種のアルキルハライド(1∼1.2当量)を順次,加えることに よって行なった。 R1X = N O OBut p-Cl-Ph N O OBut p-Cl-Ph R1 R2 CsOH•H2O (5 eq) / -10~0 °C : 80%, 98% ee THF 21 CsOH•H2O (5 eq) / -10~0 °C : 28%, 83% ee 10% : 61%, 87% ee F F F F F F N Br 50% KOH / 0 °C~r.t. H2N O OBut R1 R2 21 20 , R2X = PhCH2Br (1 mol%) Br 1) R1X, 2) R2X 16c キラル相間移動触媒 (式23) トルエン溶媒/塩基 キラル相間移動触媒, くえん酸 N O OBut p-Cl-Ph R1 NR*4 22 キラル相間移動触媒,
このため,光学活性α ,α -ジアルキルアミノ酸合成において,出発物質をグリシンでなく α -アルキルアミノ酸にすると,中間体のエノラートはアキラルになるため,出発物質であ るα -アルキルアミノ酸は光学活性であるなしにかかわらず,不斉アルキル化によって,望 みの光学活性α ,α -ジアルキルアミノ酸が得られることになる。例えば,アラニン,フェ ニルアラニンやバリンのエステルの p- クロロベンズアルデヒドイミンの不斉アルキル化を キラル相間移動触媒21(1モル%)の存在下で行なうと,高エナンチオ選択的に相当する 光学活性α , α - ジアルキルアミノ酸エステル23, 24が得られる。24) N O OBut p-Cl-Ph H2N O OBut Me R Me N Br Boc 10% R-X PhCH2Br EtI CH2=CHCH2Br BrCH2CO2But 21 (1 mol%) 21 (1 mol%) N O OBut p-Cl-Ph H2N O OBut R1 R2 R1 10% THF : 73%, 98% ee : 78%, 91% ee R : 60%, 93% ee : 85%, 98% ee : 71%, 99% ee CsOH•H2O (5 eq) , -20~0 °C , -20~0 °C R1 = PhCH2; R2 = CH2=CHCH2 R1 = i-Bu; R2 = PhCH2 R1 = i-Bu; R2 = CH2=CHCH2 : 71%, 97% ee : 64%, 92% ee : 70%, 93% ee R2-X THF CsOH•H2O (5 eq) (R1 = PhCH2 or i-Bu) 23 24 RX = キラル相間移動触媒 くえん酸 キラル相間移動触媒 くえん酸 (式24) 5.パーキンソン病の治療薬,L- ドーパの化学合成 我々が本研究で編み出したスピロ型のキラル相間移動触媒16や21は,C2対称軸を 有しているため,出発となる光学活性ビナフトールを使い分けることによって,( S , S ) 型, (R,R)型いずれのキラル相間移動触媒をも合成できるため,天然型,非天然型アミノ酸も含 め,各種のアミノ酸誘導体やそれらの関連体(アミノアルデヒド,アミノケトンやアミノア ルコールなど)の不斉合成に極めて有効であることがわかる。そういった合成的応用の一例 として,L- ドーパエステルの不斉合成プロセスを次に示す。L- ドーパはパーキンソン病 の治療に使われ,また,そのL- ドーパエステルはアルコール残基を変えることによって, いろんな薬理活性を示すことが知られている。25) 従来,こういったL-ドーパエステルは, 酵素法によって合成されていた。すなわち,比較的高価なアミノ酸である光学活性チロシン から出発して,チロシナーゼを用いた酵素酸化によって L- ドーパのメチルエステルへと 変換し,続いて各種のアルコール存在下,α - キモトリプシンを用いてエステル交換を引 き起こすことにより,各種のL- ドーパエステルへと導かれている。こういった L- ドー パエステルもスピロ型のキラル相間移動触媒を使う化学合成によって,容易に得られるよ うになる。26 ) トルエン トルエン
例えば,(R)- ビナフトールから合成した (R,R)- 型のキラル相間移動触媒25を1モル%存 在下,アルキル化剤として 3,4- ビス(ベンジルオキシ)ベンジルブロミドを用い,グリシ ン tert- ブチルエステルのベンゾフェノンイミンの不斉アルキル化反応を相間移動条件下 で行ない,得られたモノアルキル化体のイミン部をくえん酸水溶液で加水分解することに より,β -ナフチル置換型のキラル相間移動触媒25 aの場合には,望ましいアルキル化体 が 90% ee で得られるのに対し,トリフルオロフェニル型のキラル相間移動触媒25 b では 98% ee という高い光学収率が得られた。アルキル化剤として 4-(ベンジルオキシ)ベン ジルブロミドを用いても同様の高い光学収率が得られた。これらのモノアルキル化体は通 常の接触水素添加反応を用いる脱ベンジル化によって光学収率を損なうことなく,L -ドーパエステルやチロシンエステルへと変換された。 H2N O OR H OH OH H2N O OH H OH OH H2N O OMe H OH H2N O OMe H OH OH ROH 0 °C, 1 h + (1.2 eq) 25 (1 mol%) 1 M THF : 80%, 90% ee with 25a : 81%, 98% ee with 25b N Ph Ph O OBut OBn Br R H2N O OBut H OBn R r.t., 10 h 50% KOH 25 H2N O OBut H OH R : 93%, 98% ee R = H : 83%, 98% ee with 25b 10% Pd/C, H2 THF, r.t., 5 h R = OH R = H : 94%, 98% ee [α]D29 = +19.7° (c 1.06, MeOH) [α]D29 = +26.1° (c 0.5, MeOH) R = OBn N Ar Ar 25a : Ar = 25b : Ar = 3,4,5-F3-Ph Br (式25) (式26) キラル相間移動触媒, キラル相間移動触媒 くえん酸 α- キモトリプシン [ エステル交換] チロシナーゼ [ 酸化] L-ドーパ L-ドーパエステル 酵素法による合成 水溶液 トルエン β-Naph
6.おわりに 以上,私どもが現在取り組んでいるキラル相間移動触媒を用いる触媒的アミノ酸合成に 関する最近の進捗状況を紹介した。従来,汎用されてきたシンコナアルカロイド由来のキラ ルアンモニウム塩に較べ,我々の光学活性ビナフトール由来のスピロ型キラル相間移動触 媒は,わずか1モル%で充分,アミノ酸の不斉アルキル化反応が行なえるという点は特筆す べきであろう。このキラル触媒を用いて天然および非天然型の光学活性アミノ酸,あるいは その類縁体の不斉合成研究をすすめていくにつれて,相間移動反応の化学に関していろい ろな新しい知見が得られ,キラル触媒のさらなる改良に迫られている。特に,キラル相間移 動触媒の単純化に関する研究が興味深い局面を迎えており,そういった成果をこの紙上で 紹介できないのが残念である。 触媒的不斉合成の分野では,近年,不斉炭素中心構築のための方法論は著しい進歩を遂げ ている。その中でも繁雑な操作を必要としない相間移動条件下での触媒反応は,実用化が極 めて容易であり,工業的な面からも大いに注目されている。今後,相間移動条件下での高い 一般性と実用性を兼ね備えた不斉合成反応が次々と開発され,それらが医薬品に代表され る有用化合物の大量合成プロセスの確立に大きく寄与することが期待される。 最後に,本稿で述べられた研究成果は大井貴史助教授をはじめとする研究室の学生諸君 の献身的な努力の賜物であり,ここに心より感謝致します。 引用文献
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執筆者紹介 丸岡啓二(まるおか けいじ) 京都大学大学院 理学研究科 化学専攻 教授 [ご経歴] 1976 年 京都大学工学部工業化学科卒業,1980 年 ハワイ大学大学院化学科博士 課程修了,Ph. D. 取得。名古屋大学工学部応用化学科助手(1980∼1985),講師(1985∼ 1990),助教授(1990∼1995)を経て,1995年 北海道大学大学院理学研究科化学専攻教授, 2000年より現職。この間(2000∼2001)北海道大学大学院理学研究科化学専攻教授を併任。 昭和60年度,日本化学会進歩賞,及び平成12年度,井上学術賞受賞。 [ご専門] 有機合成化学,有機金属化学,分子認識化学,不斉合成化学,特に新しい概念に 基づく精密酸塩基触媒の創製と活用。