実
践
編
Ⅰ 国 語 科 今井 靖 藤本 裕一 春田 晋 様々な言葉と向き合いながら言語感覚を磨き、自らの思いを豊かに表現できる生徒の育成 1 研究の概要 (1) 生徒の実態 国語科では、生徒の現状を次のようにとらえている。 (2) 目指す生徒像 国語科では、生徒の実態をふまえ目指す生徒像を次のように設定した。 ① 多くの言葉に触れ、自らその意味や使い方について調べたり考えたりする生徒 ② 意見交流によって、言葉に対する見方や考え方を広げたり、深めたりできる生徒 ③ 身に付けた言語知識や言語能力を生かして、自分の思いを豊かに表現できる生徒 ①の生徒像は、言葉に着目しながら、その言葉のもっている意味や使われ方、成り立ち等について自 ら調べたり考えたりできる生徒の姿である。そのためには、言葉や表現に対して日常的に調べたり、考 えたりする機会を増やしていく必要がある。また、作品や資料等の中にある優れた言葉や表現の仕方に 着目しながら読むことも必要である。日常的に言葉について調べたり、考えたりすることで、「言葉に 対する探究心」を向上させることや、語彙を増やしながら言語感覚を磨くことができると考える。 ②の生徒像は、多くの仲間と意見交流をして、様々な言葉に対する見方や考え方を広げたり深めたりできる生徒の姿である。そのためには、自分以外の人と意見交流をすることで、自分の考えを客観的に 判断できるようになることが必要がある。個人の中だけで考えていては、思考が独善的になり、狭くな ってしまう傾向が強い。意見交流することで、自らの言語感覚を客観的に検証したり、仲間の意見に触 れたりすることとなり、言葉に対する見方や考え方を豊かにすることができると考える。 ③の生徒像は、社会生活において、相手や目的に応じた様々なバリエーションで表現できる生徒の姿 である。語句や語彙が豊かになったとしても、相手や目的に応じて使い分けられなければ、知識や能力 が生きた能力として発揮されとはいえない。様々なバリエーションで表現できる言語能力に高めること で、豊かに話したり・書いたりすることができると考える。 (3) 研究の構想 本校生徒の実態と、本校国語科が目指す生徒像をふまえて、以下のような構想で研究を進めていく。 (4) 重点的に取り組む手だてについて 本校生徒の実態と、本校国語科が目指す生徒像とをつなぐ手だてを次のように考えた。本年度は、① の「日常的な『言葉探究活動』」と②の「画像や図表、補助資料の積極的な利用」に重点を置き授業実 践を進めていく。 ① 語彙力を向上させる日常的な「言葉探究活動」の推進 ② 言語感覚を磨く画像や図表、補助資料の積極的な利用 ③ 言語感覚を豊かにする意見交流の仕方の工夫 ①語彙力等を向上させるために、通常の授業の中で国語辞典等の積極的な利用による「言葉探究活動」
を推進する。例えば、「言葉のイメージ力」を向上させるための類義語のニュアンス比べや漢字の成り 立ち調べ等を日々の実践の中で行う。また、今年度の研究では、文学的な文章にも着目する。文学的な 文章には優れた表現が多く存在し、言語の使い方の正誤・適否・美醜等について意図的に考えさせる機 会を設定することが可能である。さらに、古文に表われている優れた表現等にも積極的に触れさせるこ とで、語彙力等を向上させることができると考える。 ②言語感覚を磨くために、画像等の補助資料を利用し、写真を読み解く実践を行う。写真は、言葉で直 接書かれていないながらも、その画面が成り立つための様々な背景が存在し、画面の中に存在する物語 を豊かに想像させる作品であると考える。また、図表等の補助資料と文章との関係について考え、資料 の効果について理解させることで、言語感覚を向上させることができると考えた。さらに、画像や図表 といった補助資料を効果的に活用する仕方について更に指導を行ったり、補助教材として複数のテキス トを提示したりすることで、言語感覚を磨くことができると考える。 ③思考を整理し、言語感覚を豊かにするために、意見交流の仕方や指導方法を工夫する。意見交流の仕 方の工夫としては、付箋紙等を用いた発想法を効果的に導入し、発想した言葉を可視化することによっ て、まずは個人の言語感覚の広がりを意識付ける。その後、4~6人程度のグループになって意見交流 をすることによって、自分以外の人の発想や感覚に触れ、その中で正誤・適否・美醜等を吟味しながら、 仲間の意見に耳を傾けることによって自分自身の見方や考え方を広げたり、深めたりする。このことに より、生徒の言語感覚を豊かにすることができると考える。また、指導方法の工夫としては、意見交流 の視点を明示することによって、意見交流の場における焦点化が図られると考える。 2 実践例 「日常的な『言葉探究活動』」「画像や図表、補助資料の積極的な利用」を設定して実践した授業の 流れは、第3学年の題材名「修学旅行の記念に、写真と自作の俳句を入れて紀行文を書こう」を例にす ると、以下のようになる。
3 省察と展望 (1) 実践例について ①授業前の生徒の様子について 古文の学習に対する印象について、生徒に意識調査を行ったところ、次ような回答を得た。 ①(古文の言葉を理解するのが)面倒くさい ②(古文は)今の言葉と違うので、分からない ③(古典は)何となく苦手 といった感覚をもっている生徒が8割程である。このことから、日常的に触れられていない文章に対し ては、違和感を覚える傾向があるといえる。このような状態は、古文独有のリズム感や美しさについて、 十分に把握をしていない状態であると考えられる。 また、俳句に対する印象については、 ①俳句は、五・七・五なので簡単だ ②短いので、作りやすい といった感想をもっている生徒は半数以上いる。このことから、単純だと感じる文章には、親近感をい だいているといえる。言語感覚の視点から分析すると、俳句の奥深さについて認識をしていないために、 簡単だという楽観的な判断をしてしまうものと考えられる。 ②授業後の生徒の様子について 「おくのほそ道」を学習したことと「修学旅行」に行ったことで、生徒から以下のような反応を得た。 ①冒頭部分を声に出して読んでみると、流れるようなリズム感があって何となく心地よい気がする。 ②平泉の場面では、杜甫の詩の一部を引用していて、文章に歴史(奥行き)を感じる。 ③「おくのほそ道」の本文中には、対句表現や比喩表現、名文の引用等がたくさんあり、芭蕉の文章 は奥が深いと思った。 ④古文でも、(便覧や書籍等で)詳しく調べてみると、歴史的背景などが分かって「おくのほそ道」 の世界に親しむことができた。 ⑤奈良・京都の人の話し方を聞いたり、街の様子を見たりしたら、古文の言い方も悪くない気がした。 ⑥俳句は簡単だと思っていたけど、言葉を選ばなくてはならないので、実は難しいと感じた。 ①の反応からは、古文の学習の一つとして、音読を毎時間取り入れたことで、古文のもつリズム感や 表現の美しさ、表現の奥深さ等に生徒が気付くことができたといえる。 ②・③の反応からは、便覧や教科書の説明等の補助資料を用いて詳細に調べさせたことで、古文に対 する認識や古語のもつ響きのの美しさ等について気付いた生徒が増加したといえる。また、④の反応か ら、日常的な「言葉探究活動」をすることで、歴史的背景などに注意して文章を読み、その世界に関心 を示せるようになった成果と考えられる。 ⑤の反応からは、修学旅行という学校行事を積極的に利用することで、伝統的な言語文化に触れる意 欲を向上させたとともに、異なる言語文化に直接触れたことで、言語感覚の向上をさせることができた。 ⑥の反応からは、修学旅行に関する「俳句」を実際に作句することで、言語感覚を磨く必要があるこ とに気付いたといえる。俳句は、十七音という限られた言葉であるが故に、一語一語のもつ言葉が広が りをもっており、情景描写のように表現しつつも、情景描写から作者の思い推測するのに適した教材で あるため、言語感覚を磨くきっかけとなったといえる。また、画像等との関連を図った俳句を作ること
で、言葉探究活動による学習の成果を生かして、言葉のイメージと写真のイメージの一致を図らせ、自 分が実際に見た風景やその場での感動等を端的に 表現する機会となったといえる。修学旅行後の「紀 行文」(地の文)の執筆の際に、補助教材として、 右のようなパイロットシートを提示することで、 「おくのほそ道」を意識し、生徒が積極的に古語 (文語)を利用した文章を作成していた。 上記のように、学習内容と補助資料等が合わさ ることで、効果的な学習成果が表れることが分か った。生徒の反応の一部として、 「言葉のイメージと写真のイメージを合わせた俳 句を作るのは、最初は難しいと考えていた。しか (教師の提示した参考例シート) し、始めてみると言葉と写真の関係は意外と深い と感じるようになり、自分なりのこだわりが出て きて、情景にふさわしい言葉やイメージに合う写 真を探そうと努力するようになった。」 といった感想も見られるようになった。このよう に、修学旅行という場が、古文を受け入れる良い きっかけとなったことにより、様々なバリエーシ ョンで表現しようとする言語感覚を磨くことがで きたと考える。 (生徒の作成したワークシート) 自分の作品を批評してもらう 仲間から適切な言葉を助言してもらう (意見交流の様子①) (意見交流の様子②) (2) 今後の展望 研究主題「様々な言葉と向き合いながら言語感覚を磨き、自らの思いを豊かに表現できる生徒の育成」 に向けて、本年度から2年間の研究を進めている。全国学力・学習状況調査のB問題にも見られるよう に、国語科伝統の文章問題だけではなく、文章と図表等の身近な資料との関わりを理解させる指導にも 力を注ぐことがこれからの国語科の課題である。そのためには、メディアリテラシー等の分野にも視野 を広げて研究を進める必要があると考えている。 <参考文献> 1) 松山雅子 編著 (2005) 『自己認識としてのメディアリテラシー』 教育出版 2) 森山卓郎・達富洋二 編著 (2010) 『国語教育の新常識』 明治図書