腎細胞癌術後16年目に膵転移し切除し得た1例
福沢 淳也 ,山本 祐二 ,齋藤
保 ,山田 圭一 ,文
由美 ,竹島
徹
1 茨城県牛久市柏田町1589-3 つくばセントラル病院外科 要 旨 症例は 73歳,女性.16年前に左腎細胞癌に対して左腎摘出術の既往がある.亜腸閉塞による腹部膨満で受診した際の腹部 CT で膵尾部腫瘍を指摘された.画像所見上腫瘍は血流豊富であり,既往歴とあわせて腎細胞癌の膵転移を最も疑った.その 他の臓器に転移を認めないことから膵尾部, 脾合併切除術を施行した. 術後病理検査で腫瘍は淡明細胞にて構成されており 腎細胞癌の膵転移と診断した. 本症例のような腎細胞癌の遅発性膵転移は稀であるが, 長期的な経過観察が重要であると えられた. また腎細胞癌の膵転移に対しては積極的な外科的治療を行うべきと思われた.はじめに
左腎細胞癌術後に他疾患精査にて診断された膵転移. 腎 細胞癌の膵転移は稀であり, また原発巣切除術から膵転移 の診断までに 16年も経過していた. 膵尾部, 脾合併切除を 行い約 3年間再発なく経過した 1例を経験したので文献的 察を加えて報告する.症例
症 例:73歳, 女性. 既往歴:32歳時 卵巣破裂にて手術 33歳時 卵巣囊腫にて手術 57歳時 左腎細胞癌にて左腎摘出術 58歳時 上行結腸癌にて結腸右半切除術 家族歴:特記すべきことなし 現病歴:亜腸閉塞を発症し入院した際に撮影した腹部 CT で膵尾部に腫瘤を指摘された. 入院時現症:身長 154 cm, 体重 42 kg, 体温 36.1℃, 血圧 114/72 mmHg,脈拍 62/ .上腹部正中と下腹部正中に手術 痕を認めたが, その他に特に異常を認めなかった. 入院時血液検査所見:血液生化学検査では肝胆道系酵素や 膵 酵 素 を 含 め て 異 常 を 認 め な かった. 腫 瘍 マーカーも CEA 0.9 ng/ml, CA19-9 14.3 U/mlといずれも正常範囲内 であった. 腹部CT検査:膵尾部に 13 mmの脾臓実質よりも造影効 果の高い境界明瞭な腫瘍が認められた. 内部は 一で, 遠 隔転移を疑わせる所見はなかった (図 1). 腹部MRI検査:膵尾部に 12 mmの境界明瞭な腫瘤を認 めた. 腫瘤は T1強調画像で低信号, T2強調画像で高信号 であり, 動脈優位相で非常に強く増強され, 門脈相から遅 相にかけて内部の信号の低下が認められた (図 2). 文献情報 キーワード: 腎細胞癌, 転移性膵腫瘍, 膵体尾部切除術 投稿履歴: 受付 平成28年11月21日 修正 平成28年12月1日 採択 平成28年12月8日 論文別刷請求先: 福沢淳也 〒270-0034 千葉県 戸市新 戸1-380 新 戸中央 合病院 電話:047-345-1111 E-mail:fukujun2852@nifty.com症例報告
以上の所見から①腎細胞癌の膵転移, ②膵神経内 泌腫 瘍を鑑別診断として手術を施行した. 手術所見: 左季肋下切開で開腹. 腹水や腹膜播種を認めな かった. 膵尾部切除術および脾摘出術を行った. 切除標本所見:膵尾部に 13×8 mm大の灰白色で弾性 な 腫瘍を認めた. 腫瘍は皮膜を有し正常膵組織との境界は明 瞭であった (図 3). 病理組織学的所見:腫瘍は 11×9 mm大で, 組織学的には 淡明な胞体を有する腫瘍細胞の密な増殖と腫瘍の周囲には 線維性の菲薄な被膜の形成がみられ, 膵組織への浸潤性増 殖や脈管侵襲像は認めなかった (図 4). 以上より腎細胞癌 の膵転移と診断した. リンパ節転移は認められなかった. 腎細胞癌術後 16年目に膵転移を切除し得た 図2 腹部造影 MRI 検査 (a:早期相,b:後期相,矢印:腫瘍部):膵尾部に造影早期相で強く造影される 12 mmの腫瘍を認める.後期 相ではほぼ等信号である.
a
b
図3 標本割面 (矢印 : 腫瘍部): 腫瘍は薄い繊維性の被膜を有 している. 図1 腹部造影 CT 検査 (矢印 :腫瘍部):膵尾部に 13 mm大の 強く造影される腫瘍を認める.a
b
図4 病理組織検査所見 :増殖する個々の腫瘍細胞は淡明な胞体を呈し,核の大小不同および核形不整も中等度に伴っている.腫瘍 細胞の集塊と集塊の間には類状洞の細い血管が介在している. (a:H.E. 染色×20 b:H.E. 染色×400)察
腎細胞癌の遠隔転移臓器としてはおもに, 肺, 骨, 皮膚, 肝などがあげられる. 膵は比較的まれな転移臓器であり, 臨床例で約 2.8%, 剖検例で約 6%との報告がある. また転 移性膵腫瘍の頻度は少なく膵悪性腫瘍全体の約 2%以下 で, その原発臓器としては肺,大腸,乳腺,甲状腺,食道,胃, 腎などが報告されている. 今回医学中央雑誌で 2006年か ら 2015年について, 腎細胞癌」, 膵転移」をキーワードに して異時性膵転移までの期間が 15年以上のものを検索し たところ自験例を含めて 16例 であった (表 1). 腎細胞 癌から膵への転移は長期間を経て定期検査や他の症状等で 偶然見つかることが多く, 原発巣手術から膵転移までの平 期間は 9.8年で, 腎摘後 30年を経過し膵転移を来たし たという報告もある. 腎細胞癌の膵転移は特異的な症状 を欠くことが多い. 膵転移の発見契機として消化管出血な ど膵転移巣による症状も認めたが, 腎細胞癌術後の定期経 過観察を除くとそのほとんどが偶発的なものであった. 本 症例においても他疾患の精査目的の画像で偶然発見されて いる. 腎細胞癌の既往を有する場合, 長期の経過観察が必 要であると えられた. 一般的に転移性腫瘍は原発巣の性格を反映しており, 画 像診断において腎細胞癌の膵転移は,原発巣同様 hypervas-cularな腫瘍であることが特徴的である.膵腫瘍においては hypovascular な原発性膵癌との鑑別は容易であるが, 同じ ように hypervascular な膵内 泌腫瘍や非機能性膵島腫瘍 との鑑別は困難であることが多い. 本症例においては 腎細胞癌の既往があったことと, 画像診断上血流に富む腫 腎癌診療ガイドライン 2011年版によると, 腎細胞癌転 移巣の治療としては, その成績の良さから積極的な外科的 切除が推奨されている. 腎細胞癌膵転移もその例外でな く, 切除後 5年生存率が 80%前後と良好である反面, 切除 不能例では 0∼50%とされていること, また化学療法や放 射線治療が期待できないことが挙げられている. した がって切除された場合の予後は良好であり治療としては外 科的切除が第一選択であると思われる. また転移経路は血 行性転移であることから系統的リンパ節郭清の必要はなく 可及的に膵機能を温存する術式を選択すべきであるとされ ている. しかし, 膵内に転移巣が多発している報告例 や, 切除後残膵再発の報告例 が散見されることより術前の膵 転移巣の 布の診断や術式の選択には慎重を要すると思わ れる. また近年スニチニブなどの 子標的薬の高い奏効率 が報告されており, 今後それらの有効性も期待される.結語
今回我々は原発巣の切除から 16年の期間を経過した腎 細胞癌膵転移の希少な一例を経験し, 切除により良好な成 績を得ることができた. 腎細胞癌の膵転移再発に対しては 積極的切除を第一選択とすべきである. 一方膵腫瘍の診断 には既往歴もきちんと聴取し, 腎腫瘍の既往があればその 転移も念頭に置く必要がある. なお, 本論文の要旨は第 75 回日本臨床外科学会 会 (2013年 11月, 名古屋) において 発表した. 表1 腎細胞癌膵転移の報告例 (2006年∼2015年) 刊行年 年齢 性別 原発巣 腎摘から再発までの期間 (年) 膵転移診断以 前の転移巣 症状 術式 予後 1 2006 69 男 右 26 なし 他疾患精査 DP 15ヶ月, 生存 2 2007 74 男 右 19 なし 腹痛 DP 11ヶ月, 生存 3 2008 55 男 左 15 肺 急性膵炎 PD 記載なし 4 2009 68 男 右 23 肺 定期観察中 DP 記載なし 5 2009 62 男 左 17 肺 定期観察中 DP 11ヶ月, 生存 6 2010 63 男 左 16 なし 腹痛 PD 記載なし 7 2012 76 女 左 15 なし 消化管出血 PD 41ヶ月, 生存 8 2012 73 男 左 15 肺 定期観察中 DP 6ヶ月, 生存 9 2013 78 男 右 27 なし 尿閉 TP 記載なし 10 2013 74 男 右 21 膵 定期観察中 部 切除 2ヶ月, 生存 11 2014 64 女 右 18 なし 背部痛 DP 8ヶ月, 生存 12 2014 42 女 右 18 なし 腹痛 DP 記載なし 13 2014 82 男 左 25 なし 他疾患経過観察中 DP 10ヶ月, 生存 14 2015 79 女 左 30 なし 腰痛 DP 記載なし 15 2015 63 女 右 15 なし 血 (消化管出血) PD 32ヶ月, 生存 自験例 73 女 左 16 なし 他疾患精査 DP 36ヶ月, 生存 PD:膵頭十二指腸切除術 DP:膵体尾部切除術 TP:膵全摘術 *病理はいずれも淡明細胞癌であった.文献
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Pancreatectomy 16 Years after Renal Cell Carcinoma
Resection
Junya Fukuzawa , Yuji Yamamoto , Tamotsu Saito , Keiichi Yamada , Yumi Moon
and Toru Takeshima
1 Department of Surgery, Tsukuba Central Hospital, 1589-3 Kashiwada-machi, Ushiku, Ibaraki 300-1211, Japan
Abstract
We report a case of a 73-year-old woman who had undergone left nephrectomy for renal cell carcinoma 16
years prior and was found to have a pancreatic tumor by computed tomography when she suffered from subileus.
Computed tomography and magnetic resonance imaging revealed a pancreatic tumor showing early enhancement
in the arterial phase. We suspected the tumor to be a metastasis from the renal cell carcinoma. Therefore, we
performed distal pancreatectomy and splenectomy. The postoperative course was uneventful, and the
histopath-ological diagnosis was a metastatic pancreatic tumor from clear-cell type renal cell carcinoma. Patients with a
history of renal cell carcinoma should therefore undergo long-term follow-up.
Key words:
renal cell carcinoma, metastatic pancreas tumor, distal pancreatectomy