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ヒトサイトメガロウイルスの基礎研究

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Academic year: 2021

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ヒトサイトメガロウイルスの基礎研究

ヒトサイトメガロウイルス (HCMV) の基礎研究は, 米国では著者の留学先のボスである Stinskiらによって 1970年代から始められた. 当時はウイルス研究から 子 生物学の重要な知見が次々と明らかになっていた時代で あり, サイズの大きな DNA ウイルスとしてはアデノウ イルスがその主な研究対象であった. しかし, 移植医療 の発展や AIDSの広がりとともに, HCMV感染症を制 御することの重要性が認識されるようになり, アデノウ イルスからの転向組も含めて HCMVの基礎研究に多く の研究者が参画した. HCMVは 康なヒトの体内で生涯, 潜伏感染してお り, 造血幹細胞移植後に免疫不全状態になると再活性化 し, 肺炎, 骨髄抑制等の重篤な合併症を引き起こす. そこ で, 造血幹細胞移植後に HCMVの再活性化を防ぐこと は, 良い抗ウイルス剤が開発された現在でも移植の成功 率を向上させるために不可欠である. しかし, HCMVの 再活性化機構はその適切なモデル系がないこともあり, 全く解明されていない. そこで, 著者を含めた Stinskiグ ループでは HCMVの再活性化機構を解明するため, ま ず HCMVが増殖 (溶解感染) する細胞での基礎的な HCMVの転写機構の解明を, 組換えウイルスを作成し て in vivo で明らかにしようと えた. そして, そのこと は将来の HCMVの弱毒ワクチンの作成にもつながると 確信している. ヘルペスウイルスは細胞に感染すると, まず最初に主 として宿主の転写因子によってウイルスの前初期遺伝子 が活性化される. そして, その前初期遺伝子がウイルス 遺伝子の転写活性化因子としてウイルスの DNA 複製に 必要な初期遺伝子を活性化し, DNA 複製が開始される. そして, DNA 複製に依存してウイルスの構造蛋白の産 生に必要な後期遺伝子が活性化される. しかし, この厳 密なカスケードによってコーディネートされたウイルス の DNA の複製と後期遺伝子の転写の 子基盤は依然不 明である. 前初期遺伝子の転写制御機構 HCMVが再活性化する時には前初期遺伝子が最初に 発現し, その発現制御機構は潜伏感染から再活性化され るときの切り替え, ウイルス増殖の程度, ならびに細胞 へのトロピズムの決定に大きな役割をはたしていると えられる. そこで, われわれは前初期遺伝子 UL122のシ ス領域をさまざまに改変した組換えウイルスを大腸菌で 相同組換えに必要な蛋白を発現させることによる迅速な ジーンタッゲティング法を用いて作成し, 解析した. そ の結果,前初期遺伝子の TATA boxを含むプロモーター のみではウイルスが増殖できないが, そこに Sp1結合部 位を 1つ含めば, ウイルスが増殖できるようになるこ と, さらに前初期遺伝子エンハンサーの長さに比例して ウイルスの増殖が増大することを in vivo で初めて明ら かにした. サイトメガロウイルス (CMV) は種ごとに 別々のウイルスが存在し, 種を超えて感染することはで きない. そこで, ヒトウイルスのエンハンサーをマウス CMVのエンハンサーに置換したところ, エンハンサー を置換した組換えウイルスでは増殖能が低下し, HCMV 前初期遺伝子のエンハンサーがヒト細胞へのトロピズム に関与していると えられた. 429 Kitakanto Med J 2012;62:429∼430 1 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院医学系研究科生体防御機構学講座 子予防医学 平成24年8月29日 受付 論文別刷請求先 〒371-8511 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院医学系研究科生体防御機構学講座 子予防医学 磯村寛 樹

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後期遺伝子の転写制御機構 ヘルペスウイルスの DNA複製と後期遺伝子の転写は 厳密に共役しながら,ウイルスの増殖のために最適化さ れている.そして,ウイルスの DNA複製と転写はいわゆ る Replication Compartments(RCs) (下右図)と呼ば れる核内の特定の場所で行われる.ヘルペスウイルスの DNA複製はローリングサークル型であり,RCsの場の 形成はウイルスの爆発的な増加に必須であると えられ る.しかし,RCsを介してウイルス DNAの複製と後期 遺伝子の転写の共役がどのように制御されているのか, その 子基盤は不明である.著者らはどうして前初期遺 伝子は初期遺伝子のみを活性化し,後期遺伝子は前初期 遺伝子のみでは活性化されないのか,ヘルペスウイルス の後期遺伝子の転写がどうしてウイルス DNAの複製依 存的に起こるのか,その 子機構を明らかにすることを 目的に研究を進めてきた.その結果,これまでに HCMV がコードする UL79,87及び 95がウイルス DNAの複製 には影響を及ぼさないにもかかわらず,ウイルスの後期 遺伝子発現に必須な転写活性化因子であることを明らか にしてきた (下左図).さらにウイルス感染後,UL79,87 及び 95は pre-RCs,及び RCs(中央,及び右下図)にリク ルートされ,ウイルス DNAポリメラーゼ付随因子であ る UL44と共局在することを示した. 一方,私たちはこれまでにウイルス DNAポリメラー ゼ付随因子である UL44蛋白が,ウイルス DNA複製に 対する作用とは独立して,後期遺伝子の転写を促進して いることを報告してきた (下左図).UL44は PCNA相 同遺伝子であり,これまでにウイルス DNA複製に関連 する蛋白以外にも転写因子を含む多くの蛋白と相互作用 し,ウイルス DNA複製以外に様々な役割を果たしてい ることが,他のグループからも報告されてきている. 今後の研究 HCMV基礎研究は欧米を中心に進められ,これまで わが国では臨床診断法の開発や移植後の HCMVゲノム の検出等の臨床研究は行なわれてきたものの,基礎研究 はほとんど行なわれてこなかった.しかし,HCMV感染 症の克服には今後,弱毒ワクチンの作成等が必要になる と えられ,HCMVUL79,87,及び 95がどうしてウイル スの後期遺伝子発現に必須であるのか,UL44の後期遺 伝子発現に及ぼす影響は何なのか等その 子基盤を明ら かにしていくことで,HCMV感染症の克服に少しでも 貢献できればと えている. 参 文 献

1. Isomura H,Tsurumi T,Stinski MF. Role of the prox -imal enhancer of the major immediate-early promoter in human cytomegalovirus replication. J Virol 2004;78: 12788-12799.

2. Isomura H,Stinski MF,Kudoh A,et al. A cis element between the TATA Box and the transcription start site of the major immediate-early promoter of human cytomegalovirus determines efficiency of viral replication. J Virol 2008;82:849-858.

3. Isomura H,Stinski MF,Kudoh A,et al. Two Sp1/Sp3 binding sites in the major immediate-early proximal e n-hancer of human cytomegalovirus have a significant role in viral replication. J Virol 2005;79:9597-9607. 4. Isomura H,Stinski MF. The human cytomegalovirus

major immediate-early enhancer determines the efficiency of immediate-early gene transcription and viral replica -tion in permissive cells at low multiplicity of infection. J Virol 2003;77:3602-3614.

5. Isomura H,Stinski MF,Murata T,et al. The human cytomegalovirus gene products essential for late viral gene expression assemble into pre- replication complexes before viral DNA replication. J Virol 2011;85:6629 -6644.

6. Isomura H,Stinski MF,Kudoh A,et al. Noncanonical TATA sequence in the UL44 late promoter of human cytomegalovirus is required for the accumulation of late viral transcripts. J Virol 2008;82:1638-1646. 7. Isomura H,Stinski MF,Kudoh A,et al. The late

promoter of the human cytomegalovirus viral DNA polymerase processivity factor has an impact on delayed early and late viral gene products but not on viral DNA synthesis. J Virol 2007;81:6197-6206.

8. Appleton BA,Loregian A,Filman DJ,et al. The cytomegalovirus DNA polymerase subunit UL44 forms a C clamp-shaped dimer. Mol Cell 2004;15:233-244. 9. Strang BL,Sinigalia E,Silva LA,et al. Analysis of the

association of the human cytomegalovirus DNA polymer -ase subunit UL44 with the viral DNA replication factor UL84. J Virol 2009;83:7581-7589.

10. Strang BL,Boulant S,Coen DM. Nucleolin associates with the human cytomegalovirus DNA polymerase acces -sory subunit UL44 and is necessary for efficient viral replication. J Virol 2010;84:1771-1784.

ヒトサイトメガロウイルスの基礎研究 430

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