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課題番号: 145PT904/榊-ヲ年度科学研究費補助タ`基盤研究`C)め
研究成果讐声書
平成16年3431日研究代表者:目黒野
(東北大学大学院医学系研究科高次機青野青学卵)
はしがき
研究組織
研究代表者:目黒謙一(東北大学大学院医学系研究科 高次機能障害学)
研究分担者:石崎 淳一(東北大学医学部附属病院)
研究分担者:山口 智 (東北大学医学部附属病院) 研究協力者:石井 洋 (田尻町スキップセンター・国保診療所)交付決定額
平成14年度 直接経費1400(千円) 間接経費 o 合計1400(千円) 平成15年度 直接経費1300(千円) 間接経費 o 合計1300(千円) 総計 直接経費 2700(千円) 間接経費 0 合計 2700(千円) 研究発表 (1)学会誌等① 目黒謙一.地域在住高齢者におけるMCIの問題点:神経心理学的基盤と
認知リハビリテーションの可能性. Geriatric Medicine (老年医学) 2002; 40: 333-342. ② 目黒謙一、石崎淳一.地域における痴呆性高齢者の早期発見と心理社会 的介入:田尻プロジェクト. GERONTOLOGYNEW HORIZON 2003; 15: 49・58.(2)口頭発表 ①第27回日本高次脳機能障害学会ランチョンセミナー、 2003.12、東京 目黒謙一.痴呆性高齢者-の包括的介入:認知リハビリテーションの可能性.第 27回日本高次脳機能障害学会プログラム・講演抄録p60. ②第45回日本神経病理学会総会学術研究会ワークショップ1:アルツハイマ ー病変のダイナミズム:軽度認知機能障害から終末期まで、 2004.5、前橋 目黒謙一.最軽度痴呆(CDRO.5)の疫学的神経心理学:田尻プロジェクト.
要約
【背景】
近年、正常加齢と痴呆の境界域(Mild Cognitive lmpairment; MCI)の高齢者に対 する関心が高まっている。超早期の痴呆性疾患の鑑別は超早期の治療的介入を可 能とする。本報告書は、臨床的にごく軽度の一貫した記憶障害がありながらも明らか な痴呆とは診断できないMCI状態の地域在住高齢者に対する、認知リハビリテーショ ンとしての構造化された心理社会的介入の効果を検討したものである0 【対象と方法】 対象は宮城県田尻町の脳卒中・痴呆・寝たきり予防のための有病率調査で、本人に
対する医師の面接、各種の神経心理学的検査および保健師と家族・介護者からの情
報から臨床的痴呆尺度(Clinical Dementia Rating; CDR)の0.5 (痴呆疑いまたは
最軽度痴呆)と判定された高齢者である。対象者のレベルにあわせて認知的刺激と 社会的交流に焦点をあてた少人数のグループ・ワーク形式のプログラムを構成し、毎 週1回約2時間、およそ6カ月間の実験的デイケアを施行した。分析には、精神科疾
患、脳腫癌、 MRIにより認知機能に対する血管障害の影響が強いと疑われる者等を
除外し、最軽度アルツハイマー病(AIzheimer's disease; AD)と思われる者のみを
■■` 対象とした。介入群および対照群はそれぞれ14人と11人で、両者のデモグラフィック や介入前の各種の神経心理学的検査の成績に差はなかった。認知機能に対する介 入の効果を5種の神経心理学的検査によって判定した。また認知機能検査の他に情 動尺度、観察式行動評価スケール、全般的臨床評価尺度、人格検査の介入前後の 変化も評価した。
【結果】
介入後の複数の認知機能検査の成績で、対照群と比較して介入群の成績の維持ま
たは向上を認めた。また観察式行動評価スケール、全般的臨床評価尺度、人格検査における介入群の改善を認めた。最軽度のADと考えられる対象者でもスモール・グ ループによる構造化された心理社会的アプローチに対する積極的な反応を認め、約 半年間の介入後における認知機能および社会的機能の維持・改善傾向を認めた。
【考察】
このことは最軽度ADに対する今回の心理社会的介入が、対象者の残存機能を賦活 した可能性を示唆しており、今後さらに統制されたデザインに基づき検討する必要が あると思われた。今回の結果から地域においてADの超早期鑑別を行うとともに、最軽 度ADの高齢者に対するある程度の機能回復と社会的活動性の低下防止を焦点とす るより効果的なプログラムを開発し実施することが必要であると思われた。Ⅰ.背景
1.社会的背景
高齢社会白書(内閣府,平成15年版)によると、我が国の65歳以上の高齢者人口 は2300万人を超え、人口の高齢化が急速に進展している。高齢社会における課題の ひとつに痴呆性高齢者-の対応が挙げられ、医学のみならず経済学・社会学など学 際的な取り組みが行われている。なかでも早期介入は重要な柱の1つである。なぜな ら、早期介入により患者-は残存機能の賦活が認められ(Ishizakiら, 2002) 、家族や 介護者には精神症状や異常行動-の対処行動・将来の見通しについての情報を提 供し、介護負担を低減できるからである。これは医療機関-来るのを待つという受動的な対応から、啓発活動を通して積極的に地域に働きかけ早期から痴呆患者に関わ
ろうという世界的な変化を反映している。 痴呆-の早期介入のために、早期発見-の関心が世界的に高まっている。 特に臨床家や研究者の多くがADの早期発見に挑戦している。しかし、痴呆の重症 度が最軽度である場合には対象者の変化が加齢によるものなのか(age-related) 、 それとも病的なものか(diseaseTelated)を判断するのは困難である。 2.田尻プロジェクト 高齢社会に対応すべく宮城県田尻町と東北大学は共同で保健・医療・福祉を統合し、 脳卒中・痴呆・寝たきり予防を初めとした「田尻プロジェクト」を1988年より開始した。 現在、プロジェクトでは地域住民に向けた啓発活動と共に地域調査を行い、その結果 を地域における予防活動に反映する形で進められている。また評価を通じて疾患が 見つかった対象者には、保健・医療・福祉の統合型施設スキップセンターにおいて 様々な対処が行われている。 これまで国際的に多くの疫学調査が痴呆の有病率を報告してきた(Roccaら,1990; Fratiglioniら, 1991; Prencipeら, 1996)。我々は田尻町における地域在住高齢
者の全数調査におけるMini Mental State Examination (MMSE)(Folsteinら, 1975) の成績の分布を調べたが(Ishizakiら, 1998)、 MMSEをスクリーニング・テストとしてカッ
トオフ値を23/24、すなわち23 点以下を認知障害があるものとみなした場合
(Folsteinら, 1985)の認知障害の割合は約20%程度であった。この数字は各国の
地域調査の結果と大きな差はなく(Folsteinら, 1985; Kayら1985; Katzmanら1988)、
この結果から地域高齢者における認知障害の割合において比較的文化差が小さい こと、また田尻町が特殊な地域ではないことが推測された。年齢階層別では認知障害 のある割合は年齢が高くなるほど増していくが、最軽度の痴呆を考える際には絶対数 としてそれほど多くない、高齢者の中でもとくに若い層におけるこの群の鑑別が重要な ものとなってくると思われる。 3.健常加齢と痴呆の境界領域の問題
加齢に伴う認知機能低下-の関心は古くから存在し、 benign senescent forgetfulness (Kralら, 1962)、 associated memory impairment (Crook ら, 1986) 、
age-associated cognitive decline (Levyら, 1994)等の用語が提唱されてきた。これらに共
通するのは高齢者における認知機能低下を病的なものではなく、健常加齢の延長線 上の問題(aging-related)として取り扱ってきた点である('Ritchieら, 2000; Petersenら, 2001)。しかし1990年前後から認知機能低下の背景に病的な問題を仮 定し、健常と痴呆の境界領域を表す新たな概念が提出されはじめた。例えばMCIで ある。 健常と痴呆の境界領域に対してMCIという用語を初めに使用したのはNew York大学のグループであり(Flickerら, 1991)、本来はGlobal Deterioration Scale
(Reisbergら, 1988)という臨床観察尺度に基づいた重症度が3と評価された状態を意
味していた。彼ら(1991)は,臨床診断と神経心理学的検査によって痴呆ではない
を区別しうると報告した。
それに対して対象者の記憶障害の訴えを中心とした独自のMCI基準を
Petersenらは提示している(Petersenら, 1997, 1999)。即ち、①主観的記憶障害の訴え
②客観的な記憶障害(年齢対照正常値の1.5 SD低下)③全般的認知機能は正常
④ 日常生活に問題なし⑤痴呆ではない
の項目を満たす状態である。彼らは加齢の影響が強く出ている群と、病変が潜んでい る群の2つを区別している。両者はoverlapしているが、前者は加齢に伴う変化である のに対して後者は病変が進行していく。 MCI群は年間10-15%の割合で痴呆-移行 していくが、必ずしも初期ADではない。進行しないMCIもあれば、血管性や他の原 因によるMCIもあるとしている。この基準は極めてGDS stage 3に近い。 しかし対象者自身の記憶障害の訴えが当てにならないことや(Carrら, 2000) 、 Petersen基準で分類したMCIは独立した集団として安定せず流動的であるこ と(Ritchieら, 2001)が指摘されてきた。その結果、 Petersen基準はあまり使用されず、 MCIという用語だけが現在広く利用されているのが実情である(Palmerら, 2003)。こ の場合のMCIには、 「健常と痴呆の境界状態」という一般的な意味しか有していない が、本報告書でもその意味で用いる.具体的には、以下の述べるrCDR 0.5である. 4. CDRO.5状態 1980年代から既にWashington大学のMorrisらは、臨床的痴呆尺度cDRに基づき 健常と痴呆の境界領域について述べている(Morrisら, 1988)0 CDRは臨床的に痴 呆の重症度とその経過を評定することを目的とした尺度で、本人の面接に加え家族や介護者の情報に基づき判定する。記憶、見当識、判断力と問題解決、地域生活、
家庭生活および趣味・関心、、介護状況の6項目を5段階で評価する尺度で各項目の重症度を判断し、健常(CDR 0)・痴呆疑い(CDR 0.5)・軽度痴呆(CDR 1)・中等 度痴呆(CDR 2) ・重度痴呆(CDR 3)のいずれかに判定される。 CDRは三度の改訂
(Berg, 1984, 1988; Morris, 1993)を経て現在の形式となり、その妥当性(Hughesら, 1982)と信頼性(Burkeら, 1988; Morrisら, 1997)は十分に確認されている。この利 点は,観察項目の多くが社会生活上の問題を反映したものであり、対象者の社会生 活上での変化を鋭敏に捉えられることである。これは痴呆性高齢者が初期から問題解 決場面や社会的活動の場面で困難を示し、社会的知能の低下を示すことと対応して いる(目黒ら,2000)0 図1にCDR評価表を示す。 図1. CDR評価表 petersen基準のMCIをCDR評価表に準じて言えば、主観的記憶障害の訴 えと記憶のみの認知機能障害が認められるものの他の認知機能は正常であるCDR 0.5の状態、即ち記憶のみが0.5で他が全て0である状態に相当する。因みに彼らの
言うVery mild ADとは記憶以外の項目も0.5に低下している状態である。図2にそれ
を示す。
図2. CDR評価表におけるMCI (Petersen)
MCIはCDRにおけるCDR 0.5に相当するが、 Morrisら(2001)は以下の研
究結果からCDR 0.5状態を最軽度ADとして積極的に位置づけている。まず彼らは Memory and Aging Project (MAP) (Bergら, 1982)に参加した高齢者を13カ月と30
カ月後に面接し、 1人の対象者(登録時はCDR 0)がCDR 0.5 -と移行する過程を観
察した。そして最後の面接から4カ月後に亡くなったその対象者を剖検した結果、 AD
特有の病理学的変化(老人班と神経原線維変化)を確認し、病理学的にはADを
にMAPに参加したCDR 0.5高齢者16名を追跡調査した結果、約3年後には16名 中10名がCDR l以上に進行し、また1名はCDR 0.5の段階のままで亡くなったが剖 検にてADの確定診断が下された(Rubinら, 1989)。これらの結果から彼らはCDR
o.5高齢者がADによる軽度の認知機能障害があるものの臨床的には痴呆の診断を
下すには不十分な状態にある最軽度ADの状態であるという結論に至った。さらに
Morrisは、図 3 のように予後予測のためCDR 0.5を0.5/uncertain dementia、0.5/incipient dementia、 0.5/DATに分類している(Morrisら, 2001)0
図3. CDR0.5の下位分類(Morris) CDR 0.5の追跡調査では約3年間で66% (10/15)がADに移行したと報告 されている(Rubinら, 1989)。その後、同グループは正常高齢者を15年間にわたって 追跡して、正常者は加齢に抵抗して神経心理学的検査の成績を維持しCDR 0.5に 移行する時に急激な認知低下を示すという縦断的研究の結果を報告している(Rubin ら, 1998)。筆者らの田尻町における調査でも, MRI画像上CDR 0.5の集団では正常 高齢者(CDR 0)集団と異なる海馬の萎縮度の分布状態が兄いだされ、 CDR 0.5が 集団としてCDR Oとは質的に異なることが示唆された(Ishiiら, 1999)0 5.認知リハビリテーション:心理社会的アプローチ 痴呆を標的とした認知リハビリテーションとしての心理社会的アプローチには、 1960年 代におもに見当識障害をもつ入院患者に対する刺激法として開発されたreality
orientation (RO)がある。 ROはセッティングの違いにより24時間ROとclass ROに 分けられるが、いずれも見当識を中心とするさまざまな認知的刺激を与えようとするも
のである。その効果については賛否両論が見られたが(たとえばMillerとHoldenの
討論, 1987)、そのように評価が分かれたおもな理由は、研究対象や方法の統制が不 十分であったことによる。しかしROを組織的に外的な認知的刺激を提供する方法とし
て広くとらえるならば、より統制された条件下での研究は、比較的軽度のADに対する 肯定的な結果を報告している(Gerberら, 1991; Breuilら, 1994; Zanettiら, 1995)。そ の背景には1980年代の後半以降ADに対する実験心理学的アプローチが進展し、
ADの認知障害が進む中でなお比較的残存する能力があることを明らかにしてきたと いう事実がある。例えばADにおいて最も障害される記憶においても、潜在的な記憶
であるプライミングや運動技能的な記憶である手続き記憶などは重度にいたるまでは
比較的保持される(Eslinger & Damasio, 1986; Keanら, 1991; Hironoら, 1996)。また
Spectorら(2000)は、近年の認知リ-ビリテ-ションという視点から過去のROの報 告をメタ分析し、その有効性を確認している。 これらの報告はおもに軽度痴呆を対象としたものであるが、我々は以前、重 度の認知障害をもつ中等度ADを対象に構造化されたROの効果を調べた(Ishizaki ら,2000)。対象は6人の中等度AD (CDR 2)で、週3回3カ月間の介入の結果、 認知機能検査(MMSE)や観察式行動評価スケール(N式スケール)(小林ら, 1988)の成績が維持される傾向を認めた。しかしその効果は介入終了後1カ月後には 維持されなかった。一方グループ内の対人的交流においてはセッションの回を追うご とに活発化し、重度の記憶障害をもつAD患者においても何らかの経験の蓄積がおこ なわれている可能性が示唆された。これらの結果は全般的な認知障害をきたすAD患 者においてもその潜在的な能力を探りつつ、残存機能を積極的に援助することの意 味を支持するものである.特にADのような多様な認知障害をb''つ対象においては (目黒&山鳥, 2000)、リハビリテーション的な観点から個々の患者の日常生活-の影
響を中心に専門的な神経心理学的評価をおこない、その評価にもとづいた管理
(cognitive management)をおこなうことの重要性が指摘されており(Adamら, 2000)、 今後このような観点から心理社会的アプローチを構成していくことが求められている。Ⅱ.目的 以上述べてきたように、 ADに対する構造化された心理社会的介入には一定の効果 が期待される。ところで仮に何らかの治療的介入が痴呆疾患に対して有効であるなら ば、その介入はより早期においてより効果的であると期待されるであろう(Masurら, 1994; Sliwinskiら, 1996)。そこで最軽度ADである可能性の高い地域在住のCDR 0.5 高齢者を選び、約6カ月間にわたって心理社会的アプローチによって介入しその効果 を検討することとした。その介入のコンセプトとしては、 CDR 0.5は正常高齢者(CDR 0)と臨床的に明らかな痴呆患者(CDR l以上)との中間状態にあるため、両者との 関係からCDR 0.5に対する介入について考えることが求められる。一般に正常高齢 者(CDR 0)に対する心理社会的アプローチの目的は精神的健康の維持・向上、ま た認知機能の維持などとされ、参加者の自主的な参加によってプログラムがおこなわ れる(例,老人大学など)(杉浦, 1998)。この目的はCDR 0.5においても変わらないが、 CDR 0.5の対象者では自主性が低下していると考えられる。そこで自主的な参加の形 式をとりつつも内容的には正常高齢者向けのプログラムをより単純なものに再構成す る必要がある。一方、痴呆患者(CDR l以上)に対する心理社会的アプローチは中 核症状および周辺症状をターゲットにしているが、 CDR 0.5に対してはプログラムをや や高度な内容に修正する必要がある。 また, CDR 0.5の対象者はその臨床的な痴呆の重症度痢定の基準にしたが ってごく軽度の記憶・見当識障害などの認知機能障害と、社会的な活動性の低下に よって特徴づけられる。従って介入プログラムはこの2つの側面、即ち認知機能障害と 社会的な活動性の低下に焦点を持つ様に構成されるべきである。 CDR 0.5において
はごく軽度の認知機能低下と社会的活動性の低下の相互作用が機能低下を促進し
ている可能性があり、プログラムはこの両面に介入しつつその相互連鎖を変化させる ことを目的とするべきである。なお今回ターゲットにしたような対象は通常の診断基準 では「正常」の範囲内と見なされる集団であり、一般的にはとくに本人から医療機関 を受診しないかぎり医学的な痴呆の治療の対象とはならない。 MMSEも多くが24点以上を保ち、通常の痴呆スクリーニングでは認知障害のない集団の側(田尻町の結果 では約80%)に分けられることになる。しかし全般的認知障害の程度はきわめて軽い ものの、エピソード記憶障害を中心にその臨床的な特徴を探ると痴呆の最初期である 可能性が強く疑われる高齢者である。 従って本研究はとくに高齢者の痴呆性疾患に対する予防的な可能性を探る ものとして実施された。即ち通常の医学的診断においては正常範囲に含まれるが専 門的には痴呆の超早期である可能性の高い集団(CDR 0.5-最軽度AD)に対して、
医学の領域で試みられている痴呆性疾患-の心理社会的アプローチ(飯田ら,
1991; Beck, 1998)を用いて介入を試み、その効果を検討したものである。 Ⅲ.対象 1.有病率調査 田尻プロジェクトの一環として、 1998年11月から2001年3月にかけて痴呆の有病率 調査が実施された(Meguroら, 2002)。65歳以上の全住民(3207名: 1998年)を 対象に協力を求め、 1654名から同意が得られた(参加率51%)。参加者全例に対し E) て、以下の手続きに従ってCDRの判定が行われた。 ①まず参加者の日常生活の状況を、保健師が訪問調査により観察・評価した。②同時に家族の視点から対象者を観察した場合の評価を、半構造化された質問に
従って聞き取り調査した。対象者が独居の場合には、保健師が対象者宅を数回 訪問して評価を行った。③次に医師により神経学的・精神医学的な評価および半構造化された面接が施行
された。 ④最後に上記の保健師の観察・家族の観察・医師による面接の情報に従い、医師・ 保健師らスタッフによる協議を経てCDRが評価されたが、判定は神経心理学的検査の情報を用いずに行われた。なお判定医はMAPの研修を受けCDR raterとし ての認定を受けている。また臨床的な痴呆の診断は DSM」V (American psychiatric Association, 1994)の基準に従って行われた。
その結果、痴呆は65歳以上全体の8.5%、 CDR 0.5は31.1%を占めることが
明らかになった。痴呆の原因として図4に示すように血管性痴呆は多くなく、脳血管
障害を伴うAD (possible AD with CVD)が多い傾向を認めた。この状態とADを合わ
せると全体の60%以上であった。
図4.痴呆の原因疾患
2.分析対象
次いで除外基準として、対象者の臨床経過に基づき脳梗塞・頭部外傷・硬膜下血腫
の既往を持つ者を除外した。さらにMRIによって発見された脳腫癌,米国TIA診断基
準(The Study Group on TIA Criteria and Detection, 1974)に基づいた一過性脳虚
血発作、意識障害や薬物中毒の既往があるものを除外し、加えてうつ病等のために 精神科医受診中もしくはその既往のある者も除外した。そして、半盲・構音障害・一側 性の運動障害あるいは感覚障害・バビンスキー徴候・パーキンソニズム等の神経症候 のある対象者を除外した。また、歩行障害や尿失禁などの皮質下症状のある対象者 も除外した。除外基準をまとめると ①脳梗塞・頭部外傷・硬膜下血腫・脳腫癌・一過性脳虚血発作などの既往 ②意識障害・薬物中毒・抑うつ及び他の精神障害の現症及び既往 ③半盲・構音障害・-側性の運動障害あるいは感覚障害・バビンスキー徴候・パー キンソニズム・皮質下症状などの神経症候のある対象者である。 これらの除外基準を課すことで認知機能低下の原因としてAD以外の可能性を最 大限排除した。それゆえ本研究の痴呆疑い(CDR 0.5)高齢者は最軽度ADと考え てよいと思われる。なおこの除外方法によってCDR 0.5を最軽度ADと称することは
Washington 大学によって行われている方法である。因みに、 NINCDS-ADRDA
(McKhannら, 1984)においてprobable ADと診断された場合、結果的にCDR 0.5と 重症度判定される場合も存在するが、今回はあくまで前者の方法に基づいた分類で ある。 36人の対象者を上記のCDR 0.5と判定された高齢者の中から無作為に選 び、 21人の介入群と15人の性・年齢・教育年数・神経心理学的検査などに差のない 対照群を決定した。介入群のうち2人が身体的な不調などの理由で脱落した。また分
析に際し、上記の除外項目に加えてさらに血管病変の影響を除外するためにTl強
調(TR/TE, 400/14)及びT2強調(TR/TE, 3000/90)の頭部MRI (1.5T,
GE-YMS, Japan)の水平断画像を用いて、最大径5 mmを越える梗塞巣をもつ9人を 分析対象から除いた。最終的に分析対象となったのは介入群14人、対照群11人で あった。その中の4人(介入群・対照群各2人)にはMRI画像上での小梗塞を認め
たが、麻埠や感覚障害、歩行障害や尿失禁などの神経学的な徴候はなく認知機能
に対する影響はないものと判断した。また視覚症状やパーキンソニズムなどの神経症 候も認めなかった。 表1に対象者の臨床的特徴を示す。 表1.対象者の臨床的特徴なお、本研究は田尻町スキップセンター運営検討委員会(倫理委員会)に
おいて承認を得ており、全ての参加者(必要な場合は家族)から文書による同意を
得て行った。Ⅳ.方法 1.介入プログラム 介入プログラムはいくつかの臨床心理学的技法を組合せて構成した。即ち①RO、 ② 回想法、③グループ・ワーク、 ④解決志向型アプローチ(Solution Focused Approach)である。 ROは認知障害をもつ高齢者に対する構造的な認知刺激を与える技法で、 初めは脳損傷者の見当式訓練のようなかたちで開発されたが、現在は広く認知的な 刺激を組織的に与える方法として実施されている。 HoldenとWoods (1995)のRO の形式をもとにCDR 0.5の対象者用にプログラムを改良した。 回想法は過去の社会的出来事や事物をなど用いて、自伝的あるいは社会的 記憶を個人またはグループで組織的に想起させる心理学的な技法である。はじめ一 般の高齢者を対象にした心理的な援助技法として提唱されたが(Butler, 1974)、これ までに痴呆患者に対する適用も試みられている(黒川ら, 1994)。またROと回想法は 両者を組合せて用いることが可能であり、その有効性も報告されている(Molinari &
Reichlin, 1984-5; Bainesら, 1987; Holden & Woods, 1995)0
少人数でのグループ・ワークが個々人の対人交流を促す固有の心理的な作 ■■ 用をもつことはグループ療法として利用されてきた。血管性痴呆患者におけるその効 果については川室ら(1994)が報告し、リ-ビリテ-ションの観点から論じている。 全てのセッションは臨床心理士と3人の保健師によって実施され、毎週金曜 日の午前中約2時間半、4月から10月まで計24回のセッションを実施した。場所は 毎回田尻町スキップセンター内の同一の部屋(研修室)を使い、前半は常に3グル ープに分かれてのセッションで、後半は時に合同でのセッションも実施した。セッション 場面では、参加者の相互交流が促進されるように意図した。 1回のプログラムの例を 表2に示す.参加者にはセッション-の参加とともに提出課題が与えられた。
表2.介入プログラムの例 2.評価項目 介入の効果を多面的に判定するために評価項目として以下の5種類を実施した。神 経心理学的検査、情動尺度、全般的臨床評価尺度、セッション中の行動評価スケー ル、人格検査である。
1)神経心理学的検査
まず神経心理学的検査であるが、前述したようにCDR 0.5においては記憶と精神運 動、言語など複数の認知機能が低下していると考えられる。そのような領域における 介入の効果を評価するために、以下の複数の認知機能検査を実施した0①全般的な認知機能
全般的認知機能の水準を評価するものとしてMMSEをおこなった。 MMSE自体がAD の超早期に敏感である(Fabrigouleら, 1998; Smallら, 2000)0②数唱(順唱と逆唱)
課題と採点にはWechsler Adult Intelligence Scale-Revised (WAIS-R) (Wechsler, 1981)の下位検査を用いた。これはおもに注意機能を評価する検査である。
③語流暢性(動物名)
制限時間内にあるカテゴリーに属す単語を産生する能力をはかる課題である。カテゴ
リーは動物名とし、時間を1分間とした。この方法はConsort主um fわr the Establishment
ora Registry fb∫ AIzheimer's Disease (CERAD) (Morrisら, 1989)の検査で用いられた
のと考えられている。 ④ Trail Making-A 被験者は鉛筆を使って紙の上に1から25までの数字の書かれた丸を順番になるべく 早く線で結ぶことを求められる。もし被検者が誤った順番で数字を結んだ場合には、 直ちに検査者はそれを訂正する。検査者は課題開始から終了までの時間を計測し、 誤りを訂正した場合にも時計は止めずに計測は継続して行う。制限時間は180秒とし、 それを上回った場合には課題を中止した。課題を達成した時間がすなわち成績となる。 精神運動機能をはかるこの検査には前頭葉機能も影響すると考えられているOaⅣis & Barth, 1994)0 ⑤ Reyの複雑図形(直後再生)
被験者は無意味な複雑幾何図形の模写と直後の自由再生を求められる。非言語性
の記憶課題として再生の成績を評価した。採点は標準化された36点満点の方法に 従った(Lezak, 1983)。 2)情動尺度① Geriatric Dementia Scale (GDS) (Brinkら, 1982)
患者は主観的な抑うつ状態に関する10の質問に「はい」か「いいえ」で答えること
が求められる。 1つの項目に1点が与えられ,最高10点までより高い数値がより抑う
つ的であることを示している。
@ state-Trait Anxiety Inventory (STAI) (Spielberger, 1970)
患者は主観的な不安感に関する20の質問に答えることを求められる。各項目は不安 症状の頻度にしたがって1から4までの4段階で評定される4件法尺度である。より
では45点を超えると臨床的に高不安状態にあると考えられている(Nakazato &
shimonaka, 1989)。
3)全般的臨床評価尺度
痴呆の全般的な重症度を評価するためにCDRのSum or Box (CDR-SB) (Bergら,
1992; Morrisら, 1993)を用いた。 CDR-SBはCDRの6つの下位項目の各評定を加 算したもので, 0から30までの値をとり、全般的臨床評価尺度として痴呆の継時的な 重症度の変化を評定するのに適しているとされる(Bergら, 1992)0 4)観察式行動スケール セッション場面での参加者の社会的交流の状態を「会話」 「自発的にする」 「他者を 助ける」などの10の項目について評価した。これらの項目は、中里ら(1991)の開
発した「高齢者行動評価尺度」の「対人交流」の部分からデイケアでの評価項目
として使用可能なものを選んだものである。各項目は頻度にもとづく0から3点までの 4段階評定である。 5)人格検査 参加者のセッション時の心理的活動性の変化を評価するために人格検査として知ら れる樹木画検査(Koch, 1952)を施行した。患者は実のなる1本の木を描くように求 められる。心理的活動性は280の領域に分割された紙面に占める措かれた木(とそ の付属物)の面積の大きさにより評価した.すなわち同一個人において表現されたも のの占める紙面空間の拡大は心理的活動性の活性化を反映しているとみなした。3.分析 介入群と対照群に対して介入前と介入後の2回,約9カ月間の間隔で上記の5種類
の神経心理学的検査を実施した。両群の介入前後の神経心理学的検査の成績を
paired t検定で比較し、介入後の2群の成績の差をt検定で比較した。また介入群の 介入前後における情動尺度、 CDR-SB、観察式行動スケール、人格検査の変化を paired t検定で比較した。 Ⅴ.結呆 1.参加率 参加者のプログラムに対する参加率は高く平均参加率は85.3%であり、 14人の患者 が80%以上のセッションに参加した。これは今回のデイケアがとくに強制的な要素のない自主的な参加形式であり、日常的な行事(たとえば冠婚葬祭)で休む可能性な
ども少なくないことを考えると、参加者の参加意欲は十分に高かったと思われた。 2.認知機能の変化 ー 表3に介入群と対照群の介入前後における5種の神経心理学的検査の成績(平均 点)を示す。介入群でセッション終了後のMMSEの成績が維持された(+0.1点)の に対し、対照群では成績の低下が認められた(-2.3点)0 表3.介入前後における神経心理学的検査の成績 初期評価と比較して介入群では、語流暢性[t - -2.46, p - 0.02]に統計的に有意な改善が認められた。他の神経心理学的検査には改善も悪化も有意な変
化が認められなかった。一方対照群は、初回評価と再評価でMMSE [t 2・81, p0.019]、WAISRの数唱[t 2.75, p 0.020]、Trail MakingA [tニー2・94, p -0.015]の3つの検査で有意な低下を認めた。 2群比較では、初期評価では両群の すべての神経心理学的検査の成績が等しかったのに対し、介入群はセッション終了 後の評価ではMMSE [t- 2.44, p - 0.027]とWAIS-Rの数唱[t - 2・07, p -0・038] で統計的に有意に高い成績を示した。
図5は介入前後で統計的な差を認めた4つの神経心理学的検査の変化を
示したものである。即ち介入群における語流暢性の改善と対照群におけるMMSE、 WAIS-Rの数唱及びTrail Making-Aの成績の低下を示している。 図5.介入前後で統計的な差を認めた4つの神経心理学的検査の変化 3.藩知機能以外の変化 介入群の非認知的な評価では、 CDR-SB [t-2.51, p - 0・026]と観察式行動スケー ル[tニー3.57, p - 0.003]において介入の前後で有意な改善を認めた。樹木画検 査においても1人を除く参加者全員に使用面積の拡張を認め、使用された領域(平 均値)の介入前後に有意差を認めた[tニー5.14, pく0.001]。介入群において主観 的な抑うつ尺度と不安尺度では点数の改善傾向は認めたものの統計的に有意な水 準にはいたらず、情動面での明らかな改善を認めることはできなかった。以上の非認 知面の介入静のセッション前後の徳栗を表4に示す。 表4.介入群における非認知面のセッション前後の結果 また、樹木画の変化の典型的なケースを図6に示すo樹木の描かれ方は変 わっていないものの、明らかに描かれた樹木像の大きさは拡大している。図6.樹木画の変化の典型的な例 4.重回帰分析の結果 さらにMMSEの変化に対する介入時の年齢、教育年数、認知機能および抑うつのレ ベルの影響を調べるために重回帰分析を施行した。重相関係数は0.49で、偏相関 係数は年齢が-0.081、教育年数が0.029、介入時のMMSEが-0.913、介入時のGDS が0.139であった。年齢、教育年数、抑うつ度の有意な影響は認められなかった。 MMSEは結果と負の相関を示したが、これは今回の対象者のMMSEの成績が全般的 に高く天井効果のためと考えられた。また介入群を対象にCDR-SBに対する同様の 影響を調べたが重相関係数はきわめて低く(R2 = 0.020)、いずれの変数においても 有意な影響は認められなかった。従って本研究の対象群における介入後のMMSEや CDR-SBの変化には、特に年齢や教育年数のようなデモグラフィックな要因や介入時 の全般的な認知機能や抑うつの程度の影響はないものと考えられた。 なお分析対象から除いた脳血管障害をもつ対象者を含めて同様の分析を行 った。全般的に統計的な介入効果がやや強まり、介入後のTrail Making-Aの結果が 有意となったが、これはサンプル数が増えたためと考えられ全体の傾向に大きな変化 は認められなかった。 5.自由記述の例 参加者の積極的な反応が得られた結果の質的なデータとして、 「黒字日記」の記述 例の一部をいくつか示す。これらの記述内容はグループ・ワークの「黒字報告会」で 語られた。 「仙台に行った時、ダブダブのずぽんをはいた男の子の高校性が席をゆずってくれて
大変うれしかった。人はみかけではないと思った。 」 (81歳,女性) 「二三年来なかったフクロウが、二・三日前から裏山で鳴き始めたo奥山に餌でもなく なったのか、なっかしい一時である。 」 (86歳,男性) 「此の頃お天気が毎日良くて梅干しの干した梅も見事にかわいたので、しそと塩に、も み合わせて漬けました。色も良く出来上がったようです。お天気が良いのは暑いけど、 その仕事によっていい事もあるんですね。 」 (83歳,女性) このような自由記述課題によって参加者の日常の状態などがモニターされ、 また宿題という形式によって間接的に日常の認知的・社会的活動に対する介入が可 能になったと思われる。 6.痴呆の初期不安の症例 痴呆の初期不安が強かったもののプログラム参加によって改善したケースについて、 その黒字日記の記載を中心に報告する。なおこのケースはデイケア終了後もスキップ センターの診療所で継続してフォロー(2週に1回の受診および心理面接)しており、 E) その後の経過についても簡単に報告する。 症例はデイケア参加の時点で76歳の女性。既往歴として高血圧が指摘され ていた。頭部MRIでは前頭葉および頭頂菓皮質の軽度の萎縮を認めたo CDR判定 のための医師の問診で、数年前からの物忘れ、被害妄想、社会性の低下が指摘され た。認知機能検査ではMMSEが25点だったo情動尺度ではGDSは4点と高くなか ったがSTAIは51点と高い不安感を示していた。 初回のセッションでは参加中は他のメンバーに自ら話しかけ、笑顔も見られ 楽しそうにしているが、少し落ち着きはなくそのつど説明しないと理解できないという状 態だった。自己記入式の「健康チェック表」では常に物忘れすると答え、 「おさいふ
を忘れる」と自ら記載していた。食欲や睡眠には自覚的な問題はなかった。参加当 初の「黒字日記」には強い抑うつ感、不安感が表されていた。その一部を示す。 「近頃病気のせいか気持ちがおもくて死にたくなる様だ。神様たすけてください。かん がえてもどうしてこんな体になったのかわからない。前の私はにぎやかなことがすきだ ったのに。」 このころは在宅介護支援センターに身体の不調を訴えてたびたび電話をか けるなど不穏な状態が目立っていたが、プログラムに参加後しだいに行動の落ち着き が増していった。翌月には保健婦が家庭を訪問し、家族からの「セミナーに参加して 明るくなってきた、ぐちることが少なくなった。しかし家族が言っていないことや事実と違 うことを近所(お茶のみ先)に言って歩くのが困る。最近写経を始めた。 」といった 話を聴取した。 プログラム参加から約3カ月後の「黒字日記」の一部を示す。 「△月の生け花はとても珍しく面白く思いました。まだ家でいけております。毎日水を 取りかえてつくえの上にかざり毎日見るのがたのしみです。毎日あつくて外出もいやに なり朝早くおき一時間あるきます。朝ごはんをたべ部屋に入り昔読んだ本をみつけて 毎日読んでいるので一日が楽しくなりました。頭のたいそうになります。時々は午后三 時頃お友達の所に行きお茶をごちそうになり、おはなしなどしてかえる。とても気持ち よく晴ればれします。近頃たのしくなるのが沢山出来たような気がします。 」 約半年のプログラム終了後のSTAIは39点と通常のレベルに低下した。プロ グラム参加の時点から約2年を経過したが、その後は不穏な状態は見られていない。 本人が整理された形でこの間の経緯を述べることは難しいが、かつて「頭がおかしく なり」そのため「強い不安感や頭重感・頭痛など」があったが、グループ・ワークに
参加しさらに受診と心理面接を継続することによって、現在は安定していることを自覚 している。このケースは記憶障害を中心とする軽度の認知機能障害のこの間の増悪 は明らかでなく見当識も比較的良好で、 CDRは0.5の状態を維持している。また MMSEは25点以上を維持している。社会的交流はあまり活発ではないが、機会があ れば地域の集まりに自主的に参加することもある。 Ⅵ.考察 1.結果のまとめ 構造化されたデイケア形式の約半年にわたる心理社会的介入の結果、最軽度のAD 患者に対する肯定的な効果を認めた。参加者は認知機能や社会的活動性において 維持または改善傾向を示し、介入によって個々人の潜在的に保たれていた能力が活 性化された可能性が示唆された。これらの結果にはまた対象群のプロフィールや初期 の認知機能や抑うつなどによる対象選択時の偏りはないことが確認された。 2.方法論上の問題 しかし、本研究にはいくつかの方法論的な問題がある。まずcDR 0.5集団の多様性 の問題である。 Morrisら(1995)はCDR 0.5のカテゴリーをさらに3つのサブカテゴリ
ーに分けることができるとしている。すなわち,最軽度very mild痴呆, incipient痴呆,
不確かなuncertain痴呆であるが、本研究ではこの下位分類は行っていないCDR 0.5
集団の多様性の問題は継時的な追跡調査や何らかの介入による効果を調べるような
研究においてはとくに問題となるであろう(Bergら, 1992)0 CDR 0.5をさらに分けて考
えるべきか、分けるとすればどのように分けられるのかは今後の重要なテーマの1つと 思われる。しかしCDR 0.5集団の多様性があるのは確かとしても、とくに本研究の分析
対象は脳血管障害をもつ者を除外した最軽度のADと思われる集団であり、さらに介 入群と対照群の介入前のMMSEをふくむ5種の神経心理学的検査の成績に差はな かった。このことは臨床的に多様なCDR 0.5ではあるが、本研究の対象とした2群はよ り均質な集団を構成していたことを支持するものである。 第2に治療的な介入の効果は、より大きな集団を対象としより長期間の介入 を施行することによってさらに確実な結果を得られたと思われる。しかしそのようなデザ インで実施しなかったのは、介入のプログラムの構成上の問題と実際的な困難さとに よる。とくに参加者の送迎の問題はスタッフと参加者双方にとって実際面で調整しなけ ればならい最も大きな困難であった。またスモール・グループに分けたのは会話を主 体としたプログラムを実施し、グループ・ワークの特性を利用するため、 1グループは7, 8人が限度であった。 6カ月という期間については実際面で冬場を避けかつ効果を判 定するのに必要な期間として設定された。 第3にどのような評価尺度を用いるべきかという問題がある。 CDR 0.5は臨床 的にADの最初期の症状を示す(Rubinら, 1989)としても、全体的な認知障害の程 度はきわめて軽度であり、各種の神経心理学的検査の成績分布は正常高齢者と重
なっている部分が大きい(Storandt & Hill, 1989)。本研究の介入群においてもMMSE
をふくむ認知機能検査の成績には天井効果があると思われた。介入の効果判定とし ては大規模かつ長期に認知障害の進行を対照群と比較できればこの点は問題となら PJ ないと思われるが、そのような報告はCDR l以上の明らかなADを対象としたものをふ くめてもまだ例がない。また介入群の主観的な抑うつと不安の尺度では有意な改善を 兄いだせなかった。 Zannettiら(1995)はデイケアのROによる軽度ADに対する介 入において、 MMSEの維持・改善を認めながらもGDSの改善を認めなかったと報告し ている。一般高齢者において広く用いられている尺度でも、患者自身による主観的な 評定による情動尺度自体は痴呆疾患を対象とする研究においては妥当でない可能 性がある。その点もふくめてCDR 0.5のレベルでの情緒障害に対する評価と介入につ いては、さらに検討する必要があると思われた。 第4に、非特異的介入群を設定していない点である。即ち、 ROおよび回想
法を施行せずに、単なる茶話会その他のグループ会を行う群である。厳密には、対照
群、非特異的介入群、そして特異的介入群の3群を設定し、対象者をその3群に無
作為に割り付けるデザインが必要である。 3.認知機能に対する介入効果 CDR 0.5状態では記憶の他にいくつかの認知機能が低下傾向を示す。 storandtと Robert (1989)は軽度ADと同様に最軽度ADにおいても、記憶、精神運動、言語の 3種の認知機能が障害されていると報告した。その後のADのpreclinical stageにつ いて調べた縦断的な研究(Masurら, 1994; Linnら, 1995; Fabrigouleら, 1998)も記憶とそれ以外の認知機能の低下を報告した。本研究の心理社会的介入の結果では 記憶検査(Reyの複雑図形)には統計的に有意な改善は兄いだせなかった。しかし 介入の前後比較で、介入群の語流暢性が改善した。また対照群のMMSE、 WAIS-R 数唱、 Trail Making-Aが低下し、介入後のMMSEと数唱においては2群に差が認めら れた。これらの結果は今回の介入プログラムがCDR 0.5で低下する複数の認知機能 に肯定的な影響を与えた可能性を示唆する。 ADの認知障害が記憶障害から始まる ことは、その病理的変化が側頭葉内側面から始まることと対応していると考えられる
(Braak & Braak, 1991)。しかしそれに続くごく早い時期での複数の認知機能低下の神
■■
経基盤については、まだ明確な理解は得られていない。
近年、このような最軽度ADの前頭葉性実行機能の障害や注意機能の障害
に関して議論(Fabrigouleら, 1998;Perry & Hodges, 1999)されており注目される。
とくにFabrigouleら(1998)は、痴呆の最軽度ステージにおいて低下する複数の神
経心理学的検査の主成分分析の結果、複数の神経心理学的検査の成績の低下に
大きく寄与する1つの要因(general cognitive factor)を兄いだし,この「g因子」が
痴呆の予測に有効であったと報告している。それは課題遂行にあたっで情報処理の
統制に関わるような機能であり、作業記憶のモデル(Baddery, 1992)における中枢
る議論は痴呆における本質的な知能障害を説明しようとする試みとして注目される。
即ちADが単に複数の局在的な認知機能障害の組み合わせに還元されるものではな
く、神経ネットワークの統合的な働きが障害されるというモデル(Parasuraman &
Haxby, 1993;島田, 1998;目黒&山鳥, 2000)に対応する議論であるo今後、最 軽度のADにおいて記憶障害とともにどのように全般的な認知機能障害が生じるのか を理解し、さらに認知リ-ビリテ-ションの可能性を探るうえでこの問題は重要である。 4.行動全般に対する介入効果 行動面では、 CDR 0.5状態は基本的な日常生活動作(ADL)はもちろん、道具的な ADLにおいてもほぼ障害がないのに関わらず、社会参加や知的関心・趣味活動など の社会的な活動性の低下を示し活動範囲が狭くなる。このような症状はごく軽度では あるが全般的に生じる認知機能障害に由来するものと思われる。このような患者の行 動上の変化に対し介護者である家族は敏感であり(Morrisら, 1991; Kossら, 1993)、 本研究でも家族-のインタビューをおこなっている。とくに在宅ケア支援の目的をもつ デイケアにおいては、対象者の家族との連携も重要な問題の一つである。本研究に おけるCDR 0.5の対象者には社会的な活動から遠ざかっていく、いわゆる「引き寵 り」の傾向があると思われたが、この社会的不活発が認知機能の低下を促進する要 因となる可能性がある。本研究の参加者は、プログラム-の参加を楽しみ、参加者間 の交流も活発化した。さらにそのような対人交流の活性化はセッション参加者間だけ ではなく、地域-も拡大した。ただし地域においてどのように0.5高齢者の社会参加を サポートするかという点は今後の課題である。 このように認知的刺激と社会的交流から構成された構造化された最軽度AD (CDR 0.5) -のデイケア形式の心理社会的介入プログラムは、有効な介入方法であ ると思われた。もしより長期間にわたってCDR 0.5の対象者に恒常的に介入できたな らば、対象者は認知機能や社会的活動性を維持することができるかもしれない。この ような非薬物的介入の有効性をさらに検討することが必要であると思われる。
Ⅶ.結論 最軽度ADに対する認知リハビリテーションとしての、心理社会的介入の肯定的な結 果について報告した。即ち、デイケア形式の約半年にわたる介入の結果、対照群に 較べて介入群の最軽度ADの複数の認知機能や社会的行動における状態の維持・ 改善を認めた。本研究は対象者をスモール・グループ単位にしてアプローチしたもの であり、今後の最軽度AD -の心理社会的な対応をおこなう場合の形式として適応す るものと考えられた。今後ADをできるかぎり早期に鑑別し、ごく軽度の認知機能障害 に介入することが治療的な介入としては有効な方策となる可能性がある0本研究は最 軽度ADに対する構造化された心理社会的介入の効果を調べたものであるが、現在 可能な薬物療法と平行して、最軽度ADに対する心理社会的アプローチを積極的に 開発していくことは有用であると思われた。但し、その活動によって痴呆の発症遅延効
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