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仕事の要求度-資源モデル─研究蓄積の把握と今後の発展に向けて(PDF:561KB)

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Academic year: 2021

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No. 710/September 2019 81 1 はじめに 労働現場における従業員のモチベーションやストレ スは労働研究にとって重要なトピックである。本稿で はワーク・エンゲイジメントやバーンアウトの研究で 用いられる仕事の要求度─資源モデル(以下,JD-R モデル)についてのレビュー論文を紹介する。 2 JD-R モデルの概要 本題に入る前にこのモデルの概要を確認すること で当該研究内容の理解を促したい。JD-R モデルは職 務特性と労働者の心理状態の関係を理論化したモデ ルである。基本的には独立変数に仕事の要求度(Job demands),仕事の資源(Job resources),個人の資 源(Personal resources)の 3 つを,従属変数にスト レス(疲労や健康障害など)とモチベーション(ワー ク・エンゲイジメントやコミットメントなど)の 2 つ を置く。仕事の要求度とは継続的に身体的・心理的努 力を要求する仕事の,身体的,心理的,社会的,ある いは組織的側面と定義される。仕事の資源とは目標を 達成する上で機能する仕事の身体的,心理的,社会的 あるいは組織的側面であり,仕事の要求度を低減し, 個人の成長や学び,発達を刺激するものを指す。個人 の資源とは自分を取り巻く環境を上手にコントロール できる能力やレジリエンスと関連した肯定的な自己評 価と定義される(島津・江口 2012)。基本的な命題は 次の 3 つである。①仕事の要求度はストレスに対して ポジティブな影響を与える,②仕事の資源はモチベー ションに対してポジティブな影響を与える,③個人の 資源はモチベーションに対してポジティブな影響を与 える。 3 研究概要  命題と理論的課題 当該研究は 2001 年から 2016 年までの 15 年間に及 ぶ JD-R モデルに関する研究のレビューから,このモ デルが示す命題と理論的課題を整理している。命題は 次の 8 つである。 命題 1: すべての仕事の特徴は仕事の要求度と仕事の資 源の 2 つに分類される。 命題 2: JD-R モデルは健康障害プロセス1)と動機づけ プロセス2)と名づけられる全く異なる 2 つのプ ロセスから構成される。 命題 3: 仕事の資源は仕事の要求度がストレスに与える 影響を緩和する。 命題 4: 仕事の要求度が高いとき,仕事の資源は特にモ チベーションに影響を与える。 命題 5: 個人の資源は仕事の資源と同じ役割を果たす。 命題 6: モチベーションは仕事のパフォーマンスにポ ジティブな影響を与え,ストレスは仕事のパ フォーマンスにネガティブな影響を与える。 命題 7: 仕事によって動機づけられている労働者は,仕 事の資源や個人の資源を高いレベルへと昇華す るジョブ・クラフティングという行動を行使し ており,そのことでさらにモチベーションを高 くしている。 命題 8: ストレスを感じている労働者は,仕事の要求度 を高めるセルフ・アンダーマイニングという行 動を示しており,そのことでさらにストレスを 大きくしている。 JD-R モデルの理論的課題については 6 つ挙げられ る。一つ目は仕事の要求度と仕事の資源の関係が曖昧 ということ。双方の関係は職業分野等で変化する。二 つ目は健康障害プロセスと動機づけプロセスの 2 つが 全く異なるプロセスとは限らないこと。健康障害とさ れる燃え尽き症候群にはモチベーションの要素も含ま れることから,これら 2 つのプロセスの独立性には疑 問が残る。三つ目は各変数の関係を決定づける基礎的 な説明メカニズムが欠如していること。JD-R モデル は様々な理論モデルの影響を受けて構築されているが, そのことが基礎的な説明メカニズムの欠如をもたらし ている。四つ目は仕事の要求度には 2 つの種類が存在 する可能性があること。仕事の要求度にはストレスに 影響を与える妨害的な仕事の要求度(Hindrance job demands)と,モチベーションに影響を与える刺激

仕事の要求度-資源モデル─研究蓄積の把握と今後の発展に向けて

Bakker, A. B. and Demerouti, E. (2017) “Job Demands-Resources Theory: Taking Stock and Looking Forward,” Journal of Occupational Health Psychology, Vol.22, No.3, pp.273-285.

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日本労働研究雑誌 82

的な仕事の要求度(Challenge job demands)の 2 つ の種類があるとされる。五つ目は JD-R モデルの柔軟 な適用が問題を引き起こしている可能性があること。 JD-R モデルを適用する際には実際の各職務特性の機 能・役割を明確にしておく必要がある。六つ目は組織 やチームといったマルチレベルでの分析が必要という ことである。  今後の JD-R モデルと実施的適用方法 当該研究では JD-R モデルの発展に向けて今後分析 すべき観点を 8 つ,実施における適用方法を 3 つ提示 している。今後分析すべき観点について,一つ目は各 変数間の関係についての分析である。例えば仕事の要 求度,仕事の資源それぞれの中での具体的な職務特 性間の関係についての分析が求められる。二つ目は 因果関係の厳密な検証である。三つ目は個人の要求度 (Personal demands)の考慮。四つ目は仕事の要求度, 資源に対する労働者の知覚に基づく評価と既存評価指 標との統合。五つ目はリーダーシップとの関係も考 慮した分析。六つ目は労働者の行動(ジョブ・クラフ ティングやセルフ・アンダーマイニングなど)のさら なる探索。七つ目は仕事の状況を考慮したミクロな場 面での分析。八つ目はマルチレベルでの分析の必要性 である。 次に JD-R モデルの実施的適用方法について,一つ 目は電子機器を通じて従業員に仕事の要求度や資源お よび幸福感やパフォーマンスを評価してもらい,その 結果を通知するというものである。二つ目は企業や部 門,職場ごとで JD-R モデルの各変数のスコアの平均 を比較するというもの。三つ目はトレーニングやワー クショップを通じて仕事の要求度や資源を適切なもの へと修正していく方法を学ぶことである。 4 当該研究の含意 筆者が当該研究のなかで着目するのは,基礎的な説 明メカニズムが欠如しているという指摘である。とい うのも,元々 JD-R モデルは仕事の特徴と個人の心理 状態との関係を理論化した中範囲の理論であった。し かし近年では仕事の要求度や資源等,個人の特徴もモ デルに包摂されはじめている。これではこのモデルが 対象とする現象が曖昧となりかねない。基本的な説明 メカニズムを明確にした上でモデルに包摂すべき概念 を検討していくことが望ましいのではないだろうか。 その意味で,基本的な説明メカニズムが欠如している という指摘は重要である。 1)健康障害プロセスとは仕事の要求度が健康問題の先行要因 であることを示している。先に確認した基本的な命題の①は これに当たる。 2)動機づけプロセスは仕事の資源がモチベーションの先行要 因となることを示している。先の基本的な命題の②がこれに 当たる。 参考文献 島津明人・江口尚(2012)「ワーク・エンゲイジメントに関す る研究の現状と今後の展望」『産業医学レビュー』第 25 巻, 第 2 号(2012 年 8 月),pp. 79-97. まるこ・たかひと 神戸大学大学院経営学研究科博士課程 後期課程。最近の主な論文に「日本企業における働きすぎの 一考察─ワーカホリズムとワーク・エンゲイジメントに着 目して」神戸大学大学院経営学研究科修士論文。 図 1 JD-R モデル

出所:Bakker and Demerouti(2017)を基に筆者作成 ジョブ・ クラフティング + + + + - + + + + + + - 仕事の資源 個人の資源 仕事の要求度 仕事の成果 セルフ・アンダー マイニング モチベーション ストレス

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