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観光産業の持続的発展に向けて(PDF:512KB)

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提 言

No. 708/July 2019 1 2003 年の小泉首相(当時)による「観光立国宣言」 以来,わが国の観光産業はインバウンド旅客を中 心に大きな発展を遂げた。途中,リーマンショッ クや東日本大震災の影響を受けながらもトレンド としては拡大を続け,昨年は訪日旅客数 3000 万人 を突破した。日本経済にとって観光によるマクロ 需要拡大は必要欠くべからざるものとなっている。 令和元年版『観光白書』によれば,雇用,賃金, 生産性に対するインバウンド増加の影響が顕著で あるという。震災後の 2012 年から 2018 年の 6 年 間で,宿泊業の就業者数は 55 万人から 63 万人へ と 14.5 %の増加,全産業平均の 6.3 %を大幅に上回 る。男性より女性の増加が大きく,65 歳以上の就 業者数が 7 万人から 13 万人へと大幅な増加となっ ている。高齢化社会にとっての朗報と言えようか。 賃金は,同じ 6 年間で年平均 321 万円から 351 万円へと 9.5 %の上昇となっている(宿泊業,賞 与等特別給与額を含む)。その背景にあるのは, 宿泊業従業者 1 人当たりの売上高金額が,826 万 円/人から 940 万円/人へと 13.8 % 増加してい ること(2011 年から 2015 年の 4 年間のデータ), 新規求人数が 16.4 万人から 19.5 万人へと 18.9 % 増加していること(2014 年から 2018 年の 4 年間 のデータ)である。この産業の「人手不足感」は 強い。「過剰」から「不足」を差し引いた「雇用 人員判断 DI」は,2018 年にはマイナス 70 % 近く となっている(「宿泊・飲食サービス業」)。これ はマイナス 20 % 台の全産業平均を大幅に上回る。 順風満帆のように見える観光産業だが,将来に 向けて対策を講じるべき点も少なくない。しばし ば指摘されるように,オリパラ後のインバウンド 旅客を注視する必要がある。諸外国の事例では, オリパラ開催決定以降インバウンド旅客は長期的 な増加傾向を示すが,大会開催年には足踏み状態 となり,それ以降は伸び率が鈍化している。持続 的な発展のためには成長戦略が必要とされる。話 題になっている IR や大阪万博が具体策とされる が,経済全体からみれば観光分野の持続的な発展 が欠かせない。 インバウンド旅客の消費額の伸び悩みも懸念材 料ではある。2018 年の訪日外国人旅行消費額は 全体で 4.5 兆円。政府目標では 2020 年の消費額 は 8 兆円であり,現状では遠く及ばない。消費単 価の上昇は付加価値の上昇,さらには労働生産性 の向上を意味する。 オリパラ後も訪日旅客の数をさらに引き上げる には,IR,万博等のイベントに加えて各地域の魅 力度の再発見と磨き上げ,その戦略的情報発信が 基本である。全国津々浦々の地域が競って魅力度 を増し広くプロモーションを展開することによっ て,マクロレベルの効果が期待できる。本年 1 月 から導入された国際観光旅客税の 1 つの目的は, まさにこのような活動を支えることである。 外国旅客の消費額向上のためにはホスピタリ ティレベルの底上げが必要だが,その核となるべ き宿泊業は基本的には労働集約的であり労働者個 人のスキルに依存している。産業全体として離職 率がきわめて高く,人材とスキルが定着しないと いう根本的問題を抱えている。 3K 的な要素が強い宿泊業のレベルを底上げ するには,賃金,労働条件の改善という当然の施 策だけでなく働き方自体を根本的に変える必要が ある。筆者の印象では,宿泊業ではスキルが定型 化されておらず,組織としての一体性も希薄であ る。この実態を打破するためには,個社の努力に 期待するだけでなく,業界全体あるいは公的イニ シアティブによって改善を導くことが肝要であろ う。そのための施策は,観光産業の将来にとって も喫緊の課題である。 (やまうち・ひろたか 一橋大学大学院特任教授)

山内 弘隆

観光産業の持続的発展に向けて

参照

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