日本労働研究雑誌 1 グローバル人材に焦点をあてるのは,それが今 後日本のくらしと雇用を支える重要な人材であ り,かつ近い将来猛烈に不足するはずの人材だか らである。 いま流行の議論は,すぐさま外国人の採用や外 国語に流暢な日本人の養成を考える。だが,外国 語は真にその仕事に必須な技能のほんの一部で あって,むしろもっとも枢要な基盤の欠けている 人たちにすぎない。なぜか。 その理由はたんに抽象的にグローバル人材と いっただけでははっきりしまい。もうすこし具体 的な仕事内容を考える必要がある。わたくしのみ るところ,今後の日本のくらしを支え,しかも極 度に不足する重要な職種は,たとえば海外日本企 業のインストラクター,教え手である。海外日本 企業の職場で働く人の 99%余はその地の庶民で, その数百人にひとりで仕事を教え,仕事をともに こなしていく職種である。 教え手の働きは大きい。実際,おなじ機械設備 で生産性がときに数十%,いや数倍も異なること もある。早い話が日本の自動車企業の機械設備が 西欧や米の自動車企業にくらべはるかによいはず がない。しかし,ここ 4 分の 1 世紀,日本自動車 企業の効率は概してかなり高かった。それは職場 の中堅人材の技能による,としか考えようがない。 ところが,効率をになうその中堅人材の大半 は,いまや日本人ではない。日本の自動車を製造 する人は多く海外日本企業のその地の庶民なの だ。トヨタの生産の大半は海外であり,日産,ホ ンダもかわるところはない。その地の庶民をよい 中堅人材に育てるには,すぐれた教え手が欠かせ ない。その働きが海外日本企業の業績を左右し, そこからの所得の還流が日本のくらしに貢献する。 そのすぐれたインストラクターの技能とはなん であろうか。まずは「仕事をよく知る」ことであ ろう。「よく知る」とは「人に教えることができ る」,それには,「やってみせる」ことだ,といわ れてきた。だが,いまやそれではたりない。なぜ なら現代の職場で肝要な技能は,案外にひんぱん に起こるさまざまなトラブルをこなすことだ。そ れには相当の知的推理を要する。それゆえ有効に 教えるとは,その技を筋道たてて説明できる,論 理的に説明できること,といいかえねばなるま い。自分がうまくできることより一段と高度で, 相当な知的分析力,そして再構成する力を要する。 ひとにわかるように説明できるには,たんに狭 い専門内の仕事経験ではすまない。仕事のしくみ を把握することが欠かせない。経理から例をとれ ば,原価管理だけでなく,予算管理さらに資金管 理,ときに他の領域の一部を経験し,そこから経 理を見直すことも効果的である。こうした技能形 成は日本国内の職場で 10 年ほどはかけねばなる まい。外国語よりもこの基盤こそが肝要なのだ。 肝心なのは実務経験 OJT であって,それも関連 深い分野での,やや幅広い経験となる。それは意 識的に移動するよう仕向けないととうていできな い。だれしもそうそう動きたくはないのだから。 それでは研修 OffJT はまったくいらないのか。 もちろんそうではない。その内容につき,ふたつ のことを指摘したい。ひとつは事例研究である。 海外日本企業,その当該企業の,その地あるいは 他の国での,前任者たちが当面し困った問題,そ れにいかにとりくみ,いかになんとかこなした か,そしてどのような問題がのこったか,などと いう事例集を,参加者が大いに議論するセミナー 方式である。 他は関連する分野の理論の勉強である。どの分 野かはそれぞれのメンバー個人の選択にまかせる ほかあるまい。たとえば最近の経理の理論展開を 知ることなどである。企業外へ出むいて,という 方式も考えられよう。 こうした人材の必要性,したがって不足度は, 海外日本企業の伸びいかんによる。その点を展開 する紙幅はない。わたくしの考えは,『Business Labor Trend』2010 年 12 月号などを参照いただ きたい。 (こいけ・かずお 法政大学名誉教授)
グローバル人材の能力開発(PDF:93KB)
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