<研究ノート> 注釈・フランス家族法(3)
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(2) 【研究ノート】 研 究. 注釈・フランス家族法(3). ノ ー ト. 田. 中. 通. 裕. 目次 Ⅰ. 序説. Ⅱ. 民法典第1編第5章 「婚姻」 第1節. 婚姻を締結しうるために要する資格と要件 (144条∼164条). 第2節. 婚姻の挙式に関する方式 (165条∼171条). 第3節. 婚姻に対する異議 (172条∼179条). (以上, 61巻3号). (以上, 61巻4号) 第4節. 第4節. 婚姻無効の請求 (180条∼202条). (本号). 婚姻無効の請求 (Des demandes en de mariage). [一] 婚姻の成立要件に関する規定に対する違反の多くは婚姻無効の原因と なるが, すべてがそうであるわけではない。 すなわち, いわゆる 「無効的婚姻 障害」 (.
(3) dirimants) に違反した婚姻は無効であるが, いわゆる 「禁止的婚姻障害」 ( .
(4) prohibitifs) に違反しても婚姻は無効とはな らない。 後者の禁止的婚姻障害は婚姻挙式の障害とはなるが, 身分吏がそれを 無視して挙式した場合に婚姻は無効とはされないのである。 公告の不存在, 解 除されていない異議の存在, 再婚の場合に必要な一定書類の提出がないことな ど, 比較的軽微な要件違反が禁止的婚姻障害の例である。 このような婚姻が無 効となる場合の制限は, 婚姻制度の安定性の保障という要請に基づくものであ る。 [二] 婚姻無効には, 「絶対的無効」 ( absolue) ―公序に反するため にすべての利害関係人および検察官によって主張されうるのが原則である―と 法と政治. 62 巻 2 号. ( 2011 年 7 月). 205( 1060 ).
(5) 「相対的無効」 ( relative) ―私的利益を侵害するのみであるために一定 の者によってしか主張されえない―の区別が設けられるとともに, 無効が宣言. ). 注 釈 ・ フ ラ ン ス 家 族 法 ︵ 3. されてもその遡及効を制限するための規定 (たとえば, 誤想婚の規定⇒201条, 202条) が置かれている。 絶対的無効の原因には, ①婚姻同意の不存在, ②不適齢婚, ③重婚, ④近親 婚, ⑤身分吏の無管轄, ⑥秘密婚などがある (⇒184条, 191条)。 相対的無効の原因は, ①婚姻同意の瑕疵 (錯誤または強迫によって婚姻同意 がなされた場合), ②未成年者 (または保佐制度・後見制度のもとに置かれた 成年者) の婚姻に要求される家族等の同意の不存在の2つである (⇒180条, 182条)。 [三] 学説の一部には, 婚姻無効のほかに 「婚姻の不存在」 という概念を認 め, たとえば, 同性カップルの婚姻, 身分吏によって挙式されなかった婚姻に ついて, それらが無効であるとする明文の規定が存在せず, 婚姻に関しては 「法文がなければ無効はない」 (pas de sans texte) という法諺があるこ とを根拠に, 無効ではなく婚姻が不存在であるとするものがあるが, 最近の学 説の多くは婚姻の不存在という概念を認めず, 上のいずれの場合も婚姻無効と して取り扱う。 [四] 本節には, 婚姻の存在の証明に関する規定が含まれる (194条∼200条)。. 第180条. ①夫婦の双方, 又はその一方の自由な同意なく締結された婚姻. は, その夫婦, 又はそのうちの同意が自由でなかった一方 (2006年4月4 日の法律第399号)《, 又は検察官》によってしか攻撃されえない。《尊属 に対する畏敬による場合を含めて, 夫婦又はその一方に対する強制の行使 は, 婚姻無効の原因の一つとなる。》 ② (1975年7月11日の法律第617号)《人における錯誤又は人の本質的資質 についての錯誤があった場合には, 夫婦の他方は婚姻無効を請求すること ができる。 Art. 180. Le mariage qui a . sans le consentement libre des. deux
(6) , ou de l’un d’eux, ne peut . . . que par les
(7) , ou par 206( 1059 ). 法と政治 62 巻 2 号 ( 2011 年 7 月).
(8) celui des deux dont le consentement n’a pas libre (L. 2006 399 du 4 avr. 2006) , ou par le .
(9) public. L’exercice d’une contrainte sur les. 研. ou l’un d’eux, y compris par crainte . envers un ascendant,. 究 ノ ー. constitue un cas de du mariage. (L. 75 617 du 11 juill. 1975) S’il y a eu erreur dans la personne, ou sur des essentielles de la personne, l’autre peut demander la du mariage. 本条は, 相対的無効 ( relative) の原因の1つである, 婚姻同意に瑕 疵がある場合, すなわち強迫・錯誤 (詐欺については無効原因とはされていな い⇒146条の注釈参照) によって婚姻同意がなされた場合について規定する (同意そのものがない場合は絶対的無効である⇒184条参照)。 この場合に無効 の訴えを提起しうるのは, 強迫・錯誤によって婚姻に同意した当事者自身のみ である (しかし, 2006年4月4日の法律は, 強制された婚姻に対応するために 検察官を追加した)。 相対的無効の訴えは厳格な個人的性質を有するため, 債 権者代位訴訟 (action oblique) によって債権者がこの訴えを提起することはで きない。 相続人が訴えを提起することもできない (Civ. 1re, 4 juill. 1995, D. 1996. 233)。 もっとも, 当事者が訴えを提起した後死亡したため, 相続人がそ の訴訟を受け継ぐことは可能である。 なお, 本条に関しては, 第146条の注釈も参照されたい。. 第181条. 前条の場合において, 無効の請求は, (2008年6月17日の法律. 第561号により削除) 《その夫婦が完全な自由を取得し若しくは錯誤がその者によっ て確認されてから, 又は, (2006年4月4日の法律第399号)《婚姻から5年の期 間の後には , もはや受理されえない。. Art. 181. Dans le cas de l’article , la demande en n’est plus. recevable (L. 2006399 du 4 avr. 2006) l’issue d’un de cinq ans compter du mariage( par L. 2008561 du 17 juin 2008) ou depuis que ! " #$a acquis sa pleine % & ' ou que l’erreur a ' par lui reconnue( . 法と政治. 62 巻 2 号. ( 2011 年 7 月). 207( 1058 ). ト.
(10) 本条は, 相対的無効 ( relative) の原因の1つである, 瑕疵ある婚姻 同意の場合 (強迫・錯誤によって婚姻同意がなされた場合) であっても, 婚姻 から5年が経過すれば無効の訴えを提起することができなくなることを規定す る (⇒2224条参照)。. 第182条. 父母, 直系尊属又は家族会の同意なしに締結された婚姻は, こ. の同意が必要な場合においては, その同意が要求される者又はこの同意を 必要とする夫婦の一方によってしか攻撃されえない。. ). 注 釈 ・ フ ラ ン ス 家 族 法 ︵ 3. Art. 182. Le mariage . sans le consentement des
(11). et
(12). , des. ascendants, ou du conseil de famille, dans les cas ce consentement . . . ne peut . . que par ceux dont le consentement . requis, ou par celui des deux qui avait besoin de ce consentement. 本条は, 相対的無効 ( relative) の原因の1つである, 家族の同意が 必要な婚姻につきその同意がなかった場合における婚姻無効の訴えを提起しう る者を規定する。 この場合に婚姻無効の訴えを提起しうるのは, 第1に家族の 同意を得なかった未成年者自身であり, 第2に同意権者である。 本条は, 保佐 制度・後見制度のもとに置かれた成年者 (一定の者の許可が求められる146 条の注釈参照) についても適用される。 なお, 1927年7月17日の法律によって, 父母間, 祖父母間に不一致がある場 合には意見の分裂は同意をもたらすことになったので (⇒148条, 150条), た とえば, 父母の一方の同意があれば他方の同意がなくとも婚姻は有効であり, 同意しなかった他方が無効の訴えを提起することはできない。. 第183条. 無効の訴えは, 婚姻がその同意が必要であった者によって明示. 的に若しくは黙示的に承認されたとき, 又はそれらの者が婚姻を知った時 より請求することなく (2006年4月4日の法律第399号)《5年》が経過し たときには, 夫婦によっても, その同意が要求される親族によってももは や提起されえない。 無効の訴えはまた, 夫婦 (の一方) が自ら婚姻に同意 208( 1057 ). 法と政治 62 巻 2 号 ( 2011 年 7 月).
(13) する能力のある年齢に達した時より請求することなく (2006年4月4日の 法律第399号)《5年》が経過したときも, その者によって提起されえない。 Art. 183. L’action en ne peut plus . ni par les .
(14) , ni. par les parents dont le consentement . requis, toutes les fois que le mariage a . .
(15). ou tacitement par ceux dont le consentement . . . . , ou lorsqu’il s’est . (L. 2006399 du 4 avr. 2006) cinq sans . . de leur part, depuis qu’ils ont eu connaissance du mariage. Elle ne peut non plus par .
(16) , lorsqu’il s’est . (L. 2006399 du 4 avr. 2006) cinq . sans . . de sa part, depuis qu’il a atteint . . pour consentir par lui- au mariage. 本条は, 前条に規定される無効の訴えを提起しうる期間, 無効行為の追認に ついて規定する。 前条に規定されるように, 家族の同意がない場合に同意権者 が無効の訴えを提起できるにしても, 同意権者は明示的または黙示的に婚姻を 追認しその訴権を放棄できるのである。 たとえば, 婚姻に同意しなかった父母 が夫婦を招待したり, 夫婦の子の洗礼の際に代父の役を務めたりすれば黙示の 追認があったことになる。 一般に数人が競合して訴えを提起できる場合に, 1 人が訴権を放棄しても他の者の訴権には影響が及ばないが, 同意権者が本条に よって追認した場合には, 夫婦自身によってももはや無効の訴えが提起されえ なくなるとされていることに注意が必要である。 また, 同意権者が婚姻を知っ た時から5年 (2006年の改正前は1年であった) が経過したときも, 同様に無 効の訴えを提起することができなくなる。 夫婦 (の一方) が成年に達した後5 年 (2006年の改正前は1年であった) が経過したときも, その者はもはや無効 の訴えを提起することができなくなる。. 第184条. (1933年2月19日の法律) 第144条, 第146条, (1993年8月24日. の法律第1027号)《第146条の1, 第147条, 第161条, 第162条及び第163 条に含まれる規定に違反して締結されたすべての婚姻は (2008年6月17日 法と政治. 62 巻 2 号. ( 2011 年 7 月). 209( 1056 ). 研 究 ノ ー ト.
(17) の法律第561号)《, その挙式から30年の期間内に,》あるいは夫婦自身に よって, あるいはそれに利害を有するすべての者によって, あるいは検察 官によって攻撃されうる。 Art. 184. (L. 19 .
(18) . 1933) Tout mariage . en contravention aux. dispositions contenues aux articles 144, 146, (L. 93 1027 du 24 1993) 146 1,147, 161, 162 et 163, peut (L. 2008 561 du 17 juin 2008) , dans un de trente ans compter de sa ,soit par les ! , soit par tous ceux qui y ont "soit par le # . ). 注 釈 ・ フ ラ ン ス 家 族 法 ︵ 3. public. [一] 本条は, 絶対的無効 ( absolue) について, その原因およびそ の訴えを提起できる者を規定する。 絶対的無効となるのは, 次の場合である。 (1) 婚姻同意の不存在―婚姻意思の欠缺― (146条の違反) 民法典原始規定においてはこの場合の婚姻の無効についての規定が存在しな かったため, 一部の学説はこの場合を無効ではなく婚姻の不存在 (本節の解説 [三] 参照) であると解したが, 判例は相対的無効であるとしていた。 1933年 2月19日の法律は, 本条の絶対的無効原因のリストに第146条違反を追加し, 明文をもってこの場合を絶対的無効原因の1つとするに至った。 したがって例 えば, 精神病者の婚姻は婚姻の挙式の時に婚姻意思がなかったことが証明され る限り絶対的無効となる。 いわゆる仮装婚姻 (mariage ―146条の注釈 [三] 参照) も, 絶対的無効である。 (2) 不適齢婚 (144条の違反) 不適齢婚を原因とする無効も, 第185条および第186条による制約があるが (185条および186条は2007年11月20日の法律によって削除された), 絶対的無効 である。 (3) 重婚 (147条の違反) 第一の婚姻が解消される前に締結された第二の婚姻は, 第一の婚姻が有効で ある限り絶対的無効である (この重婚を原因とする絶対的無効については⇒ 188条, 189条も参照)。 (4) 近親婚 (161・162・163条の違反) 210( 1055 ). 法と政治 62 巻 2 号 ( 2011 年 7 月).
(19) 近親婚に関する規定に違反する婚姻は, 絶対的無効である。 もっとも, 養子 縁組 (とりわけ単純養子縁組) によって生ずる近親婚については, それを禁止 する第366条を本条がリストに挙げていないこともあり学説は分かれる (絶対 的無効とするのが通説である)。 (5) その他 その他, 第146条の1違反も絶対的無効である (1993年8月24日の法律によ って本条に追加)。 また, 本条に規定はないが, 学説は性の同一性を絶対的無 効原因とする。 さらに, 絶対的無効原因は本条のみならず第191条によっても規定されてお り, 身分吏の無管轄, 秘密婚も絶対的無効原因となる。 [二] 絶対的無効の訴えを提起できる者は, 財産的利益 ( . . ), すなわち 「すでに生じかつ現在の利益」 ( et actuel) (⇒187条) の存 在を証明する必要がない者とそれを証明しなければ訴えを提起できない者とに 区別される。 前者には, 次のような者が該当する。 (1) 配偶者本人 配偶者本人はすべての場合に (本条および191条), たとえ自らがその無効原 因に責任があるとしても無効の訴えを提起できる。 (2) 重婚の場合の前配偶者 第188が規定するところである。 (3) 父母および直系尊属など 父母および直系尊属は, 競合的に (婚姻に対する同意の場合のような序列は ない) 無効の訴えを提起できる。 その他, 家族会, 保佐人, 後見裁判官も絶対 的無効の訴えを提起することができる (これらの者が婚姻の許可を求められて いる場合)。 後者には次のような者が該当する。 (1) 傍系血族および前婚の子 (⇒187条) (2) 債権者および第三者 たとえば, 夫婦の一方の債権者は他方の法定抵当権を否定するために婚姻無 効を主張する利益がある。 また, 夫婦の一方によって他方の許可なく売却され 法と政治 62 巻 2 号. ( 2011 年 7 月). 211( 1054 ). 研 究 ノ ー ト.
(20) た居住用不動産の取得者も同様である。 なお, 上に述べた者以外に, 検察官も絶対的無効の訴えを提起できる (本条. ). 注 釈 ・ フ ラ ン ス 家 族 法 ︵ 3. および190条, 191条)。 検察官による訴えは, 絶対的無効原因が公序に関わる ものであることを根拠とする。 この訴えは, 夫婦が生存中にしか提起されえな い (⇒190条)。 当事者が死亡すれば, 公序に対する侵害が止んだことになるか らである (離婚の場合も同様である)。 [三] 2008年6月17日の法律は, 婚姻の挙式から30年が経過すれば, もはや 絶対的無効の訴えを提起することができなくなることを明記した (⇒191条参 照)。. 第185条及び第186条. 2007年11月20日の法律第1631号により削除. [一] 第185条は, 2007年11月20日の法律によって削除された。 それまでは, 以下のような規定が置かれ, 不適齢婚を原因とする婚姻の絶対的無効の訴権が 時の経過または女子の懐胎によって消滅することが規定されていた。 「ただし, 要求される年齢にまだ達していなかった夫婦, 又はその一方がこ の年齢に達していなかった夫婦によって締結された婚姻は, 以下の場合にはも はや攻撃されえない。 一 この夫婦の一方又は双方がその年齢に達した時より6月が経過したとき。 二 この年齢に達していなかった妻が6月の期間経過の前に懐胎したとき。」 [二] 第186条も, 2007年11月20日の法律によって削除された。 それまでは, 以下のような規定が置かれ, 不適齢の婚姻に同意を与えた直系尊属または家族 会は婚姻無効の訴えを提起できないことが規定されていた。 「前条の場合に締結された婚姻に同意した父, 母, 直系尊属及び家族 (会) は, その婚姻無効を請求しても受理されえない。」. 第187条. 第184条に従って無効の訴えがそれに利害を有するすべての者. によって提起されうるすべての場合において, 無効の訴えは, 夫婦双方の 生存中は, 傍系血族又は他の婚姻から生まれた子によっては提起されえな 212( 1053 ). 法と政治 62 巻 2 号 ( 2011 年 7 月).
(21) い。 しかし, それらの者がそれについて (すでに) 生じかつ現在の利益を 有するときのみには提起されうる。 Art. 187. 研. Dans tous les cas , .
(22) l’article 184, l’action en. peut
(23)
(24)
(25) par tous ceux qui y ont un , elle ne peut
(26) par les parents , ou par les enfants d’un autre mariage, du vivant des deux , mais seulement lorsqu’ils y ont un et actuel. 本条は, 傍系血族または他の婚姻から生まれた子 (前婚から生まれた子) が 婚姻の絶対的無効の訴えを提起するための条件を規定する。 これらの者が訴え を提起するためには, 「すでに生じかつ現在の利益」 ( et actuel), 換 言すれば財産的利益を有しなければならない。 原則的には, この財産的利益は 夫婦の一方が死亡したときにしか生じない (たとえば, 夫婦の一方が死亡した 場合にその相続に関して, 相続人たる傍系血族が婚姻無効を主張して生存配偶 者を相続から排除する場合である)。 しかし, 例外的に夫婦双方が生存中でも 財産的利益を有する場合には, 訴えを提起できるのである。 もっとも, このよ うな訴えも, 1972年1月3日の法律による第201条, 第202条の登場によりその 意義を大きく減じることになった。. 第188条. 第二の婚姻が締結されたため利益を害された夫婦の一方は, そ. の者と結ばれていた他方が生存中でも, その (第二の婚姻の) 無効を請求 することができる。 Art. 188. au .
(27) duquel a . un second mariage,. peut en demander la , du vivant
(28) de qui
(29) avec lui. 本条は, 重婚の場合に, 第一の婚姻の配偶者が, その者と婚姻していた相手 方が生存中であっても, いかなる利益をも証明する必要なく (精神的利益が推 定される), 第二の婚姻の無効の訴えを提起できることを規定する。. 法と政治. 62 巻 2 号. ( 2011 年 7 月). 213( 1052 ). 究 ノ ー ト.
(30) 第189条. ). 注 釈 ・ フ ラ ン ス 家 族 法 ︵ 3. 新しい夫婦が第一の婚姻の無効を対抗する場合には, この婚姻. が有効か無効かが前もって判断されなければならない。 Art. 189. Si les nouveaux opposent la . du premier mariage, la.
(31) . ou la . de ce mariage doit . . . 本条は, 重婚を理由とする婚姻無効の訴えにおいて, 第一の婚姻が無効であ るとの主張がなされた場合には, 第二の婚姻の有効性を判断する前にその主張 について判断しなければならないことを規定する。 第一の婚姻が無効であれば, 第二の婚姻は有効であり重婚はないということになるからである。 この (第一 の婚姻の) 無効の証明責任は, 第二の婚姻の有効性を主張する者が負う。. 第190条. 共和国検事は, (2007年11月20日の法律第1631号により削除). 第185条に規定される制限のもとに,》第184条が適用されるすべての場合にお. いて, 夫婦双方が生存中には, 婚姻無効を請求しかつ離別を命じさせるこ とができ, またそうしなければならない。 Art. 190. Le procureur du Roi [ le procureur de la ], dans tous les. cas auxquels s’applique l’article 184, ( par L. !"2007 1631 du 20 nov. 2007) # et sous les modifications $ %en l’article 185,&peut et doit demander la . du mariage, du vivant des deux , et les faire condamner 'se ( . 本条は, 第184条に規定される無効原因に基づき検察官が無効の訴えを提起 するには, 夫婦双方の生存中に限ることを規定する。 検察官の介入は公序ない しは公の道徳の観点から (重婚・近親婚などの) 非難されるべき結合を解消す ることにあるので, 夫婦の一方が死亡すればその理由がなくなるからである (離婚の場合も同様である)。 なお, 本条は 「離別を命じさせる」 と規定するが, 当事者が婚姻の解消後, 内縁関係で生活することまでを妨げることはできないのはもちろんのことであ り, この文言における離別とは, 法的な意味において理解されるべきである。. 214( 1051 ). 法と政治 62 巻 2 号 ( 2011 年 7 月).
(32) 第190条の1. 2003年11月26日の法律第1119号により削除 研 究. 公に締結されることがなかった婚姻及び管轄を有する公の吏員. ノ. の面前で挙式されることがなかった婚姻はすべて, 夫婦自身, 父母, 直系. ー ト. 第191条. 尊属, 並びにそれについて (すでに) 生じかつ現在の利益を有するすべて の者及び検察官によって, (2008年6月17日の法律第561号)《その挙式か ら30年の期間内に,》攻撃されうる。 Art. 191. Tout mariage qui n’a point publiquement et qui n’a. point devant l’officier public .
(33) , peut
(34) (L. 2008 561 du 17 juin 2008) , dans un de trente ans compter de sa . ,par les
(35) .
(36) , par les
(37) et
(38) , par les ascendants, et par tous ceux qui y ont un et actuel, ainsi que par le.
(39) public. [一] 本条は, いわゆる 「秘密婚」 (mariage clandestin) および身分吏の無 管轄が, 婚姻の絶対的無効の原因となることを規定する。 すなわち, 形式の瑕 疵を理由とする無効原因についての規定である。 [二] 秘密婚とは, 公開性を欠く婚姻である。 婚姻の公開性は, 挙式前の公 告 (これの不存在が 「禁止的婚姻障害」 にすぎないことは⇒本節の解説 [一] 参照), 挙式の際の身分吏の関与, 証人の立会い, 市町村役場での挙式, 式場 の扉の開放などによって確保されているが, これらの要件の1つでも遵守され なかったときには当然に婚姻が無効になるわけではなく, その婚姻が無効かど うかについては裁判官が自由裁量権をもつ。 このことは, 第193条によって, 婚姻挙式に関する規定の違反が 「婚姻無効を言い渡させるに十分であると判断 されない場合」 でも一定の刑罰が科せられる, と規定されているところから導 かれる。 裁判官は, 当事者が不法に (強行法を回避する目的で) 公開性につい ての要件を無視したのかどうかを判断することになる。 すなわち, 婚姻が無効 になるためには, 公開性の欠缺による形式の瑕疵と不法な (強行法を回避する) 目的で公開性の要件を免れようとする当事者の意図との結合が要求されるので 法と政治. 62 巻 2 号. ( 2011 年 7 月). 215( 1050 ).
(40) ある。 [三] 身分吏の無管轄としては, 第1に, 夫婦のいずれもが挙式地の市町村. ). 注 釈 ・ フ ラ ン ス 家 族 法 ︵ 3. に住所または居所を有していなかった場合 (74条, 165条参照), 第2に, 身分 吏がその職務を行使する市町村以外で挙式の手続を行った場合, 第3に, 挙式 の手続を行った者が身分吏の資格を有しなかった場合が考えられる。 これらの いずれの場合においても, それだけで婚姻が無効になるわけではなく, 秘密婚 の場合と同様に, 裁判官は自由裁量権を有する。 判例は, このような身分吏の 無管轄を理由に婚姻を無効とすることに慎重な態度を示している。 すなわち, 判例は, 身分吏の無管轄を秘密婚の一要素とみて, そこに不法的・詐欺的性質 (強行法回避の目的) がない限り婚姻を無効とはしない。. 第192条. (1907年6月21日の法律) 婚姻に先だって要求される公告がな. されなかった場合, 法律によって認められる免除が得られなかった場合, 又は公告と挙式との間の定められた期間が遵守されなかった場合には, 共 和国検事は, 公の吏員に対しては (1946年10月7日の法律第2154号, 2000 年9月19日のオルドナンス第916号)《 4, 5 ユーロ》を超えない罰金を, 締結当事者又はそれらの者がその親権のもとで行為した者に対してはその 資産に応じた罰金を言い渡させる。 Art. 192. (L. 21 juin 1907) Si le mariage n’a point de la publica-. tion requise ou s’il n’a pas obtenu des dispenses permises par la loi ou si les intervalles prescrits entre les publications et . .
(41) n’ont point . . , le procureur de la . fera prononcer contre l’officier public une amende qui ne pourra (L. 46 2154 du 7 oct. 1946 ; Ord. 2000 916 du 19 sept. 2000) 4, 5 et contre les parties contractantes, ou ceux sous la puissance desquela elles ont agi, une amende . .
(42)
(43) leur fortune.. 第193条 216( 1049 ). 前条によって言い渡される刑罰は, 第165条によって定められ 法と政治 62 巻 2 号 ( 2011 年 7 月).
(44) る規定のすべての違反について, これらの違反が婚姻無効を言い渡させる に十分であると判断されない場合でも, (前条に) 指定される者に科せら. 研. れる。. 究 ノ. Art. 193. Les peines par l’article . seront encourues. par les personnes qui y sont .
(45) pour toute contravention aux
(46) prescrites par l’artile 165, lors que ces contraventions ne seraient pas
(47) suffisantes pour faire prononcer la . du mariage.. 第194条. 何人も, 身分登録簿に登録された挙式証書を提出しない場合に. は, 夫婦の名義及び婚姻の民事上の効果を主張することができない。 ただ し, 「身分証書」 の章第46条に規定される場合は, この限りでない。 Art. 194. Nul ne peut le titre et les effets civils du. mariage, s’il ne . un acte de . inscrit sur le registre de . . civil ; sauf les cas par l’article 46, au titre Des actes de civil. [一] 本条から第200条までは, 婚姻の証明に関して規定する。 本条は, 婚 姻は婚姻証書 (acte de mariage) の提出によってのみ証明される, という原則 を宣言する。 婚姻の証明は, 夫婦自身にとって, 他方配偶者に対して (たとえ ば, 配偶者の一方が他方に扶養定期金を請求する場合) または第三者に対して 夫婦である資格を主張するために重要であるのみならず, その夫婦から生まれ た子にとっても, さらには, 第三者にとっても (たとえば, 第三者と一方配偶 者の契約によって生じた日常家事債務につき第三者が他方配偶者に請求する場 合) 重要である。 [二] 婚姻証書によってのみ婚姻の証明を認めるという制度は, 歴史的には, 婚姻の挙式の必要性を宣言したトリエント公会議の決定を踏まえたブロワの勅 令 (ordonnance de Blois, 1579) に遡る。 それまで, 婚姻は純粋な諾成契約と とらえられ挙式は必要とされず, 婚姻の証明は一般には身分占有によってなさ れていたが, 本勅令は証人や身分占有による証明を排除し, 婚姻証書のみが許 される証明方法であるとした。 そして, これが民法典に受け継がれていったの 法と政治. 62 巻 2 号. ( 2011 年 7 月). 217( 1048 ). ー ト.
(48) である。 [三] 婚姻の証明は, 身分登録簿 (registre de civil) 上に記載された. ). 注 釈 ・ フ ラ ン ス 家 族 法 ︵ 3. 婚姻証書の謄本の提出によってなされるのが原則であり (もっとも, 本条ただ し書, 197条などの例外がある), 他のいかなる文書や証人によってもなされえ ない。 このことは, 夫婦自身のみならず, すべての利害関係人に適用される。 [四] 上のような原則に対し, 本条ただし書はその例外の1つを規定する。 すなわち, 夫婦の意思とは無関係の事実によって婚姻証書の謄本の提出が不可 能な場合, たとえば登録簿が存在しない場合や登録簿が滅失・毀損された場合 には, あらゆる方法によって婚姻の証明が可能になるのである (⇒46条参照)。. 第195条. 身分占有は, それを援用して相互に夫婦であると主張する者に. 身分吏の面前での婚姻の挙式の証書を提出することを免除しない。 Art. 195. La possession ne pourra dispenser les .
(49) qui. l’invoqueront respectivement, de .
(50). l’acte de . du mariage devant l’officier de civil. [一] 婚姻の証明は婚姻証書によってのみなしうるという前条の原則に続い て, 本条は 「身分占有」 (possession ) も婚姻の証明方法ではないことを 明記し, 前条の原則を強調する。 身分占有を婚姻の証明方法として認めると, 内縁夫婦が容易に彼らが婚姻していると証明しうることになってしまうからで ある。 [二] 教会法では婚姻の挙式が必要でなかったために身分占有による婚姻の 証明が一般に認められていたが, 挙式の必要性を宣言したトリエント公会議の 決定を踏まえたブロワの勅令 (ordonnance de Blois, 1579) が, 身分占有の婚 姻の証明方法としての役割を否定するに至った。 そして, これが民法典に受け 継がれていったのである (もっとも, 身分占有が例外的に一定の役割を果たす ことがあることについては⇒196条, 197条)。. 第196条 218( 1047 ). 身分占有があり, かつ身分吏の面前での婚姻の挙式の証書が提 法と政治 62 巻 2 号 ( 2011 年 7 月).
(51) 出されている場合には, 夫婦は相互にこの証書の無効を請求しても受理さ れえない。 Art. 196. Lorsqu’il y a possession , et que l’acte de .
(52) du mariage. devant l’officier de civil est .
(53) les sont respectivement non recevables demander la
(54) . de cet acte.. 書の無効を主張することを禁止する (本条により無効を主張できない者は配偶 者自身に限定され, 第三者には及ばない)。 すなわち, たとえば婚姻証書が身 分吏の署名がない, あるいは綴じられていない紙片に記載されたため無効であ っても, 身分占有が存在すれば婚姻無効を主張できないのである。 ここでは, 身分占有が婚姻証書を補強する役割を果たしているのである。 [二] 判例は, 本条を, 婚姻証書の形式的要件違反の場合のみならず, 婚姻 そのものの形式的要件違反の場合 (すなわち, 公開性の欠缺, 身分吏の無管轄 の場合⇒191条参照) にも拡張的に適用する。. ただし, 第194条及び第195条の場合において, 公然と夫及び妻. として生活しかつ双方とも死亡した二人の者から生まれた子が存在してい る場合に, 子の嫡出性は, この嫡出性が出生証書によって否定されること のない身分占有によって証明されるときには, 挙式の証書の提出がないこ とだけを理由にしては争われえない。 Art. 197. Si
(55)
(56) .
(57) , dans le cas des articles 194 et 195, il existe des. enfants issus de deux individus qui ont publiquement comme mari et femme, et qui soient tous deux la . . . des enfants ne peut . .
(58) sous le seul . du de .
(59) .
(60) de l’acte de . .
(61) , toutes les fois que cette . . . est . par une possession qui n’est point contredite par l’acte de naissance. [一] 本条は, 子が挙式証書を提出しなくとも, 「身分占有」 (possession ) によってその両親の婚姻の証明をなしうることを規定する。 第194条, 法と政治. 62 巻 2 号. ノ ー ト. [一] 本条は, 「身分占有」 (possession ) がある場合に夫婦に婚姻証. 第197条. 研 究. ( 2011 年 7 月). 219( 1046 ).
(62) 第195条の例外である。 夫婦自身はいつでも婚姻証書の謄本を取得できるが, 夫婦双方が死亡した場合に, 子には両親の婚姻挙式地やその日付がわからない. ). 注 釈 ・ フ ラ ン ス 家 族 法 ︵ 3. ことがありうるため, 婚姻証書による婚姻の証明原則を緩和し, 一定の条件の もとに子の嫡出性を認めることにしたのである。 本条は子の利益のために認め られたものであるから, 夫婦自身および第三者が婚姻を証明しなければならな いときには婚姻証書の提出を要求されるのが原則である。 [二] 本条によって子の嫡出性が認められるのは, 次の4つの要件のもとに おいてである。 ①父母双方がすでに死亡していること [死亡の場合だけでなく, 不在 (absent) の場合, 婚姻についての情報を提供することができない場合も 同様である], ②父母が夫婦の身分占有を有したこと, ③子自身が嫡出子の身 分占有を有すること, ④この嫡出子の身分占有が出生証書によって否定されな いこと (すなわち, その子が自然子であるとか, 他の者の子であることを示す 出生証書が存在してはならない)。. 第198条. 婚姻の適法な挙式の証明が刑事訴訟手続の結果として得られる. ときは, 身分登録簿への判決の登録は, その挙式の日からその婚姻に対し て, 夫婦に関しても, この婚姻から生まれた子に関しても, すべての民事 上の効果を保障する。 Art. 198. Lorsque la preuve d’une . .
(63) du mariage se trouve. acquise par le . d’une .
(64) criminelle, l’inscription du jugement sur les registres de civil assure au mariage, compter du jour de sa . , tous les effets civils, tant des . des enfants issus de ce mariage. 婚姻証書の毀損・不存在などが, 刑法典によって罰せられる犯罪行為の結果 として生じることがある。 たとえば, 婚姻証書が偽造・変造または毀損された 場合, 身分吏が綴じられていない紙片に婚姻証書を記載した場合などである。 本条は, これらの場合に, その犯罪を確認する判決が身分登録簿に登録された ときには, その判決が婚姻証書に代わることを規定する。. 220( 1045 ). 法と政治 62 巻 2 号 ( 2011 年 7 月).
(65) 第199条. 夫婦の双方又は一方が不正行為を発見することなく死亡した場. 合には, 刑事上の訴えが, その婚姻を有効であると宣言させることに利害 を有するすべての者及び共和国検事によって提起されうる。. 研 究. Si les ou l’un d’eux sont sans avoir .
(66) la. ノ. fraude, l’action criminelle peut
(67).
(68).
(69) par tous ceux qui ont
(70) .
(71) de. ー ト. Art. 199. faire . le mariage valable, et par le procureur du Roi [ le procureur de la ]. 本条は, 婚姻証書が偽造・変造または毀損された場合に, 夫婦双方または一 方がそのことを知らずに死亡したときには, すべての利害関係人または検察官 が証明の回復を目的として訴えを提起しうることを規定した。 本条および次条 については, これらに関するいかなる判例も存在せず, 現在では死文化してい るといわれている。. 第200条. 公の吏員が不正行為発見の時に死亡している場合には, 訴えは,. 民事において, その者の相続人に対して, 関係当事者の立会いのもとにか つそれらの者の告発に基づいて, 共和国検事によって提起される。 Art. 200. Si l’officier public est lors de la .
(72). de la fraude,. l’action sera . au civil contre ses
(73) . , par le procureur du Roi [ le procureur de la ], en . . des parties
(74) . . et sur leur
(75) .. 第201条. (1972年1月3日の法律第3号) ①ただし, 無効と宣言された. 婚姻も, それが善意で締結されたときには夫婦に関してその効果を生じる。 ② 善意が夫婦の一方の側についてのみ存在する場合には, 婚姻はその夫 婦の一方のためにしか効果を生じない。 Art. 201. (L. 723 du 3 janv. 1972) Le mariage qui a
(76) . nul. produit, ses effets ! " . des , lorsqu’il a
(77)
(78).
(79) de 法と政治. 62 巻 2 号. ( 2011 年 7 月). 221( 1044 ).
(80) bonne foi.. ). 注 釈 ・ フ ラ ン ス 家 族 法 ︵ 3. Si la bonne foi n’existe que de la part de l’un des , le mariage ne produit ses effets qu’en faveur de cet . [一] 本条は, いわゆる 「誤想婚」 (mariage putatif) について規定する。 [二] 婚姻無効は, (絶対的無効か相対的無効かを問わず) 原則として遡及 効を有するから, 離婚のように将来に向かって婚姻を解消するだけではなく, 最初から婚姻が存在しなかったように取り扱われる (内縁関係として生活した とみなされる)。 したがって, 次のように, 婚姻の身分的・財産的効果は発生 しなかったことになる。 ①未成年の夫または妻は未成年解放 ( . ) の効果を失う, ②妻は夫の氏の使用についての権利を失う, ③フランス人との 婚姻によってフランス国籍を取得した外国人または無国籍者は, フランス国籍 を失う, ④配偶者の一方の血族と他方の間の姻族関係は存在しない, ⑤生存配 偶者は, 死亡配偶者の相続権をもたない (婚姻無効が配偶者の一方の死亡後に 宣言されても, 死亡配偶者の相続財産を取得した生存配偶者はそれを返還しな ければならない), ⑥夫婦財産制 (.
(81) matrimonial) は機能しなかったとみ なされ, 夫婦間の財産関係の清算は, 内縁の解消の場合のように事実上の組合 (. de fait) の理論に基づいてなされる, など。 無効な婚姻から生まれた 子が嫡出子ではなく, 自然子 (enfant naturel) となることはいうまでもない (もっとも, 2005年7月4日のオルドナンスは嫡出子・自然子の表現を撤廃す るに至った)。 このように, 婚姻無効の遡及効は, 婚姻の当事者およびその間の子にとって 過酷な結果をもたらすことになる。 そこで, 民法典は, 教会法の伝統に従い, 遡及効の原則を制限することを試みた。 すなわち, 民法典は, 配偶者の双方あ るいは一方が婚姻無効の原因を知らず, 挙式の際に婚姻の有効性を信じていた ときには, 婚姻は将来に向かって解消するが, 無効の宣言までに生じていた効 果は消滅せず存続するという, いわゆる 「誤想婚」 の制度を導入したのである。 [三] 無効である婚姻が誤想婚と宣言されるためには, 少なくとも当事者の 一方が善意 (bonne foi) であったこと, すなわち無効原因を知らず婚姻が有効 であると信じたことが必要である (当事者双方が善意であることまでは要求さ 222( 1043 ). 法と政治 62 巻 2 号 ( 2011 年 7 月).
(82) れない)。 その他, 種々の要件が問題となるが, 次のように解されている。 ① 誤信が事実について生じた場合 (たとえば, 配偶者の一方がすでに婚姻してい る事実, 当事者が姻族関係にあるという事実などを知らなかった場合) のみな. 研 究. らず, 誤信が法律について生じた場合 (たとえば, 164条の免除が必要である. ノ にもかかわらずそれを知らなかった場合) でも誤想婚は成立しうる。 ここでは, ー 「何人も法律を知らなかったとはみなされない」 (Nul n’est ignorer la loi) との法諺は例外的に排除されるのである。 ②教会法は誤信が正当な理由に基づ いていることを必要としていた (許されない間違いの場合は誤想婚の成立を認 めない) が, 現在の判例はそのことを要件としない。 ③婚姻の際に善意であれ ば十分であり, その後無効原因を知ったとしても, 誤想婚の成立を妨げない。 ④善意は推定されるので, 悪意であると主張する者がそれを証明する責任を負 う (Paris, 14 juin 1995, D. 1996. 156)。 ⑤無効原因の重大性は問われないので, 絶対的無効であれ相対的無効であれ誤想婚は成立しうる。 婚姻の不存在 (⇒本 節の解説 [三] 参照) を承認する学説には, 婚姻の不存在の場合には誤想婚は 成立しないとするものがあるが, 判例および多数の学説はこのような制約を否 定する。 もっとも, いかなる挙式もなかったような場合には, 単なる内縁とし て誤想婚は成立しないといわざるをえない (この場合には善意の要件を充たさ ないことにもなろう)。 [四] 誤想婚が成立しても無効判決以降は婚姻の効果は発生しないが, それ までにすでに発生している効果は維持される。 しかしながら, 配偶者に関する 効果については, 双方が善意の場合とその一方のみが善意の場合とを区別しな ければならない。 (1) 配偶者の双方が善意の場合. この場合には, 配偶者双方が無効判決. 前に発生した婚姻の効果を主張することができる。 ①婚姻によって未成年解放 された未成年者はその効果を維持できる。 ②フランス人と外国人または無国籍 者との間に締結された婚姻の無効はフランス国籍を取得するためになされた届 出を失効させない (⇒21条の5参照)。 ③配偶者の一方が無効判決の前に死亡 していた場合には, 生存配偶者が相続によって取得した財産は維持される。 ④ 夫が死亡した場合に, 妻は夫の氏を保持し続けることができる (Bordeaux, 16 juill. 1937, D. 1937. 539)。 ⑤夫婦財産制は無効判決までは有効に機能していた 法と政治. 62 巻 2 号. ( 2011 年 7 月). 223( 1042 ). ト.
(83) ことになり, 夫婦の財産関係はそれに従って清算される。 無効判決後は婚姻の効果は発生せず, 配偶者は相互に相続の権利, 救護・扶. ). 注 釈 ・ フ ラ ン ス 家 族 法 ︵ 3. 助の義務 (devoir de secours et d’assistance) を失うこともちろんである。 (2) 配偶者の一方のみが善意の場合. この場合には, 善意の配偶者のた. めにのみ婚姻の効果が発生する (本条2項)。 すなわち, 善意の配偶者につい ては婚姻の無効に遡及効はなく, 無効の判決前に発生した婚姻の効果を主張し うるのに対し, 悪意の配偶者については婚姻は遡及的に無効とされる。 悪意の 配偶者は, 民法典第1382条の規定に基づき, 婚姻無効によって惹起された他方 配偶者の損害の賠償を課せられることがある。 [五] 破毀院は, 1990年10月23日の判決において, 一方配偶者による他方へ の補償給付 (pension compensatoire) [⇒第6章 「離婚」 270条以下] の支払義 務を認めるに至っている (Civ. 1re, 23 oct. 1990, D. 1991. 214. ―Paris, 14 juin 1995, D. 1996. 156. も同旨)。 婚姻無効と離婚が, ますます接近しているとい えよう。 なお, このような効果が上の破毀院判決の事例のように (パリ控訴院 判決の事例も同じ) 配偶者双方が善意の場合に限定されるのかどうかは, 必ず しも明確ではない。. 第202条. (1972年1月3日の法律第3号) ①無効と宣言された婚姻はま. た, 夫婦のいずれもが善意でなかったときでも, 子に対してはその効果を 生じる。 ② (1993年1月8日の法律第22号)《裁判官は, 離婚の場合と同様に, 親 権の行使の態様について裁判する。》 Art. 202. (L. 723 du 3 janv. 1972) Il produit aussi ses effets . des enfants, quand bien
(84) aucun des n’aurait de bonne foi. (L. 93 22 du 8 janv. 1993) Le juge statue sur les . de l’exercice de . parentale comme en de divorce. 婚姻無効の遡及効は, とりわけ子の地位に厳しい結果を招いた (無効な婚姻 から生まれた子は嫡出子ではなく自然子となる)。 そこで民法典は, 婚姻当事 者の双方または一方が善意の場合に, 誤想婚の効果として無効な婚姻から生ま 224( 1041 ). 法と政治 62 巻 2 号 ( 2011 年 7 月).
(85) れた子を嫡出子として取り扱うべきものとした (旧201・202条)。 しかしなが ら, 配偶者双方が悪意であった場合には, その間の子は自然子と取り扱われた。 さらにこの点を改め, たとえ配偶者双方が悪意であったとしても, 無効な婚姻. 研. 律による本条改正である (本条1項)。 厳格な意味での 「誤想婚」 の枠にとど. 究 ノ ー. まらず, それを超えて子の地位の改善を図ろうとしたものである。 しかし本条. ト. から生まれた子は常に嫡出子となるとするに至ったのが, 1972年1月3日の法. も, 嫡出子・自然子の平等化の流れのなかで, その存在意義を大きく減少させ ることになっている。 婚姻が無効である場合において, 子が未成年者であるときには, その子に対 する親権は, 離婚の場合と同様に行使される (本条2項参照)。. 法と政治. 62 巻 2 号. ( 2011 年 7 月). 225( 1040 ).
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