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(1)

論 文

荒川上流域の水質変動とその予測

中村文雄 オン.イー.リム

(平成7年8月25日受理)

Water Quality Variation in Upper Reaches

of Ara River and Forecasting of It

FumioNAKAMURA YeeLimONG       Abstract   Although the water quality in upper reaches of Ara river have to be maintained in the range of AA category of Environmentanl Quality Standard for river, latest average value of BOD and MPN are exceeding this Standard.   From this point of view, the status of water quality variation in recent years and the methods for forecasting of water quality variation were investigated in this research.   It was found that water quality(mg/1)was in inverse proportion to river flow(m3/s), on the contrary, pollution load(kg/day)was strongly proportional to river flow. The variation of water quality was estimated successfully by the empirical formula based upon above mentioned relationships. 1.はじめに  荒川上流域は,水道水源域としての役割を持つと共 に観光資源としての機能を持っているが故に,生活環 境に係わる環境基準(河川)のAA類型水域に指定さ れ,清浄度の高い水質を目標としている流域である. しかしながら,この流域の居住世帯および観光客のた めの廃水処理施設の設置不全により,近年,水質汚染 が顕在化している状況にある.したがって,この水域 の水質を保全するためには,排出されるし尿及び生活 雑排水への対策が策定されなければならないし,その 効果の程度を予め予測・評価しておかなければならな い.  このような観点から,荒川の環境基準点(桜橋)に *土木環境工学科,Department of Civil and Environmen−  tal Engineering **linolta Malaysia Sdn. Bhd., Malaysia おける水質変動状況および水質変動予測方法に関する 検討を行った. 2.荒川上流域の概要  本稿では,桜橋(環境基準点)より上流部を荒川上 流域と定義しているが,1990年に実施した荒川上流域 調査の結果を要約すると以下の通りである1・2・3). ①流域面積等;流域面積は約107km2であるが4),その  大部分は森林である.荒川ダムから桜橋(環境基準  点)の間には御岳川,高成川,日向川,塔岩川など  の小河川が流入している(図1参照). ②流域居住人口5);桜橋より上流域には上・下黒平町,  御岳町,高町,猪狩町,高成町,竹日向町,川窪町,  塔岩町などの町村が存在するが,1965年に1,137人で  あった人口が1990年には305人に減少している.な  お,その大部分はダム下流部に居住している. ③昇仙峡への観光客数の推移;甲府市統計書8)による

(2)

    心 )  .へ/  r ’ .ノ .へ i御岳川 \     荒川ダム(        /      高成川  日向川   ノ 塔岩川, \、 図1 荒川上流域の概要 ’へ  ‘  s / ノ  と,昇仙峡への観光客数は年々増加しており,平成  2年度には年間400万人を越えている.また,月別変  動について見ると,4∼6月,8∼11月にかけて観  光客数が急増する傾向がある. ④し尿および雑排水処理状況6・7);し尿は自家処理=  約70%,バキューム車による流域外処理=20∼25%,  浄化槽処理=4∼8%であり,し尿の大部分は処理  されないで,農地などに還元されていた.一方,定  住人口96%の雑排水は無処理で水域に放流されてい  たものと推定された. ⑤耕地等;流域の耕地は約1.3km2,牛馬は約40頭と  言われている(山梨県からの聞き取り). 3.本川および各支川の水質とその変動 (1)本川および各支川の平均水質とBOD負荷量  本稿では,環境基準点(桜橋地点)およびその近傍 の流入支川の水質を対象とすることとし,さらに,人 為的汚染程度の小さい荒川ダムより上流部を支川と位 置ずけてデータ解析を行った.なお,塔岩川は,流量 が小さいこと及び流量や水質のデータが存在しないこ とから,解析対象から除外した.  表1は,本川(桜橋地点)および各支川における平 均水質とAA類型環境基準値との対応関係を示して いる.なお,本川の水質は1986年∼1990年にかけての 測定データ(12回/年)9・1°)の平均値であり,各支川の水 質は1983年∼1990年にかけての測定データ(2回/ 年)11)の平均値である.  表1より,pH, DOの平均値は本川および各支川と も基準値を満たしていることが認められる.しかしな がら,各支川のBOD, COD平均値は基準値の範囲内に あるにしても,本川(桜橋地点)の平均値はそれを超 過している.またMPNは,支川および本川とも基準 値を満たしていないことが示されている.  一方,表2は本川及び支川の推定BOD負荷量(kg/ 日)を示している.ここでは,荒川の定点流量デー タ12・13)を用いた.また,各支川流量は,水質測定日にお ける御岳川合流点上流の流量と万年橋地点流量との差 分を,各支川流域面積に比例配分する方法で推定した. また,荒川本川の水質は,支川水質測定日にほぼ対応 する時点での桜橋地点のデータを用いた.

 表2より,ダム上流部を含めた各支川からのBOD

負荷推定値の総量が0.67(g/s)であるのに反し,ダム より約6km下流の万年橋(桜橋より約800 m上流)で の負荷量は,3.49(g/s)と約5倍に増加していること が認められる.この増量分にはダムでの有機物生産等 が関与している可能性も考えられるが,ダムにおける 表1 本川および各支川の平均水質 本川 i     支      川 河川環境基準 項   目   1橋 iダム上流  御岳川  高成川  日向川 (AA類型) BOD(mg/1)

1・1iO・5  0・5  0・6  0・6

1≧ COD(mg/1) (湖沼;1≧) pH  − lPN(/100 ml) cO(mg/1) bl−(mg/1) 7.5   1   7.6       7,8        7.9       7.7

X918i 69  886 1787  692

P0.2  i   9.7       9.5       9.6       9.6 R.o  i   7.3       2.9       3.4       3.6 6.5∼8.5 @50≧ V.5≧

@一

(3)

表2 本川および支川の平均BOD負荷量 本川 1 支 川* 項   目 万年橋i ダム上流 御岳川 高成川 日向川 平均BOD(mg/1) L12 i 0.61 0.60 0.67 0.68 平均流量(m3/s) 3.12 1 0.40 0.36 0.21 0.10 一一一一一一一一一一一●一≡一■一一一一一一一 1 ’ 一 一 一 一 ’ 一 一 一 一 一 一 一 一 一 ’ 一 一   一 一 一 一 一 一 一 r − 一 一 一 一 一 一 . − r − 一 一 ≡ 一 一 一 工 ← 一 BOD負荷量(9/s) 3.4gi 0.24 0.22 0.14 0.07

i

合計; 0.67  、 *1986∼1990年の測定データ(2回/年)平均値 3,B   2.5 ミ 2.日 ぎ § 1・5   1.0 0,5 e.o 1979  ’80   ,81  ,82   ,83  ,84   ,85   ,86   ,87  ,88   ,89         (年 度 )

   図2 BODの経月変動

1986年4月以降4年間のBOD平均値rbxO .85 mg/1で あったことを考慮すると1),BOD負荷増量分の殆ど大 部分は,ダム下流部の定住人口及び年間400万人と公表 されている観光客由来の有機物負荷によるものと推定 される.  以上のように,調査期間中における各支川の水質は, 大腸菌群数を除く他の基準項目がAA類型基準をほ ぼ満たしており,比較的清浄に維持されてきたと言え る.しかし,本川の環境基準点(桜橋地点)において は,BOD, CODおよび大腸菌群数等がAA類型基準を 満たしておらず,ダム下流部での人為的有機性汚濁負 荷の大きいことを示唆している. (2)桜橋地点における水質変動  上記のように,ダム下流部での人為的汚濁負荷量が 大きいと推定されるので,代表的汚濁指標であるBOD およびCl一の水質変動に関して検討した.

 図2は,1979年4月∼1990年3月にかけてのBOD

濃度(mg/1)の経月変化を示している.濃度変動幅は 0.4∼2.8mg/1の範囲内にあるが,巨視的にみると,ほ ぼ年単位の周期的変動が認められ,夏期に濃度が低く 冬季に高い傾向が認められる.  このような周期的変動は,河川流量変動と逆相関関 係にあると想定される.そこで,流量との相関性を検 討した.図3は,BODおよびCl一濃度(mg/1)の対数 値と流量(m3/s)の対数値との関係を示している.こ こでは,上流部の汚濁負荷量がぽぽ等しい1)と考えら   o,60   m らe   l:ll ミ;:il 旦 臥。日 §s:;1 §::ll  s:ll   i.臼   eコ  ミ ・・8 旦 ・・7   e   日 日.5 営 …   田.3   日.2   目.t   日.臼 El 、

5

8

G

5

目闘 き 単位・千 e,9 日.8 0,7 0.6 e.5 e.4 2.3 8,2 e.1 10g流量(m3/日) 図3 流量とBOD, Cl濃度との関係 単位千 2.5 1.5 e,5

流量(血3/s)

図4 流量とBOD, Cl一負荷量との関係

(4)

れる1985年4月∼1990年4月にかけての月1回頻度の 測定結果を用いている.図に示されるように,流量の 対数値とBODおよびC1一濃度の対数値との関係は反 比例関係にあるが,回帰直線の相関係数はBODvs流 量=0.535,Cl−vs流量=0.656であり,相関性はさほど 高くない.しかし,自由度58における危険率1%での 有意水準は0.325であることから,統計的には充分な有 意レベルにあると考えられる.  一方,図4はBODおよびCl一負荷量(kg/日)と流 量(Q;m3/s)との関係を示している.  求められた回帰式および相関係数は下記の通りであ る. BOD(kg/日)=58.25Q+56.11(r=0.833) ………(1) Cl−(kg/日)=144.76Q+209.17(r=O.954)………(2)  このように,負荷量と流量の関係は極めて相関性が 高く,流量に比例して負荷量が増大すると言う関係に ある.従って,荒川の水質変動を考える場合,上流部 における汚濁負荷量の経時変動に関する検討はもちろ ん必要であるが,河川流量の変動も併せ考慮すること の重要性を示唆していると思われる. 4.基準点における水質変動の予測  前述のように近年においては,桜橋地点での平均

BODは環境基準値BOD≦1.Omg/1を満たさない状

況にある.そこで,今後の定住人口や観光客増大また は廃水処理施設設置の本川水質に及ぼす効果を推定す るために,廃水処理状況,観光客数などを考慮に入れ た水質予測式を作り,これを過去のデータにあてはめ てその予測精度の検討を行なうことにした. (1)使用原単位と仮定  この解析で使用した主な原単位は,以下の通りであ る. ①BOD;42.7g/人・日(し尿;15.4,雑排水;27.3), ただし,日帰り観光客による発生量は各原単位の25% とする15),②NaCl=13.1g/人・日14).なお,田畑や 山林等からの流出汚濁負荷は,後述の自然負荷及び降 雨等による河川水量変化で代替した.  また,基準点(桜橋)より上流域の発生汚濁負荷の 流出率の算出に際して,以下を仮定した. ①食堂等の雑排水は観光客由来と見なす.②定住人口 及び観光客の雑排水は無処理で100%河川に流入する. ③観光客のし尿はすべて浄化槽で処理され,BOD排出 率を30%とする.④定住人口のし尿は,「自己処理」で は農地へ100%還元され,降雨時に降水量に応じて流出 する.「くみ取り」ではバキューム車で系外へ搬出され, 河川への汚濁負荷を与えない.⑤流出率(f)は次式で求 める. f={(P+0.25T)Uz+0.3Pj Uc+0.25×0.3T Uc}/   {(P十〇.25T)Um} …………・・……・…………(3)  ここで,f;流出率, P=定住人口(人/日), T= 観光客数(人/日),Pj=浄化槽人口(人/日), Uz=雑 排水の原単位(g/人・日),UC;し尿の原単位(g/人・ 日),Um=1人当りの汚濁負荷原単位(g/人・日). (2)水質予測式  対象としている荒川上流域においては流出・流達時 間が短い上に,前述のように汚濁負荷量と流量との相 関性が高いことなどから,代表的汚濁指標であるBOD およびCl一に関して,式(1),(2)に汚濁発生量の項を加え た下記の予測式を作成した.なお,この予測式では, 晴天時および雨天時の流入負荷量を分けて考え,雨天 時には降雨量(流量)に比例した人為的汚濁負荷の一 部および自然汚濁負荷分と,晴天時負荷量の合量が流 入するものと考えた.   BOD(mg/1)={(P+0.25T)U2 f+Cn Q K3+    (58.25Q+56.11)K、}/(QK3) ………(4)   Cl−(mg/1);{(P+o.25T)U、K、+CnQK3+    (144.76Q+209.17)K、}/(QK3) ・…・・…・…・・(5) ここで,P=定住人口(人/日), T=観光客(人/日), U、:C1一の原単位(g/人・日), U2=BODの原単位(g/ 人・日),f=流出率, Cn=自然水の濃度(mg/1)【Cn (Cl)={(144.96Q+209.17)K4−(P+TK1)U、K2}/ (QK3), Cn(BOD)=0.Ol】, Q=流量(m3/s), K、= 観光客汚濁負荷の割合=O.25,K2=NaCl中の塩素イ オン=O.607,K3=i換算係数・=8.64×IO4, K、;i換算係 数=1,000 (3)水質予測式の適用とその精度  1986年10月∼1990年3月までの流量(水質調査日に 対応する万年橋での流量),定住人口,日平均観光客数 を,(4)および(5)式に代入して求めたBODおよびCl一濃 度計算値と水質測定結果との対応関係は,図5に示す とおりである.  ①BOD変動との対応:  図5の上段は,1986年∼1991年度のBOD実測値と 式(4)による推定値との対応関係を示している.BOD物 質は流出過程及び河川中で質変化を起こすためか,両 者の関係はCl一ほどには合致していないが,その相関 係数(0.570)は危険率1%の有意水準を充分に満足し ているものである.  また図2において,1988年度および1989年度のBOD 濃度の経月変動は1979∼1987年度にかけての変動と明 らかに異なる挙動を示しているが,図5に示すBOD 計算値はこの異常な変動をほぼ反映していると言え

(5)

5

§ ミ 三 i; る. 2.5 1.5 e,5       1987      1988        (年) 図5 BOD, Cl−ue度の実測値(+)と計算値([])    との関係  このように,BOD濃度の計算値は実測値と完全な対 応関係に有るとは言い難いが,巨視的な水質変動をほ ぼ反映しているといえる.  ②Cl一濃度変動との対応:  Cl一濃度計算値と水質測定結果との対応を図5の下 段に示す.図にみるように,計算値は水質測定結果と ほぼ合致している(相関係数=0.821).すなわち,(5) 式によるCl一濃度計算値は,桜橋における過去のCl一濃 度変動をほぼ正確に反映していると考えられる.  過去に提案され利用されている水質予測数理モデル には,生物量・BOD濃度その他の状態量,移動・拡散 量,物理化学的・生物学的変化速度,その他が考慮さ れてきたが,作成した予測式には状態量の一部を除い て,これらを考慮していない.そのためか,計算値と 実測値との対応関係は必ずしも充分なものとは言え ず,特に,BOD予測式には改善すべき点が多々残され ているといえる.  しかしながら上述のように,作成したBODおよび Cl−ue度予測式による計算値は巨視的な水質変動をほ ぼ反映していると見ることもできるので,今後の定住 人口や観光客増大または廃水処理施設設置等に由来す る汚濁負荷量の増減の本川水質に及ぼす効果は,本予 測式の手法により大約推定できるものと考えられる. 5.結果の要約  荒川上流域の水質とその変動および作成した水質予 測式の予測精度に関して検討した.結果を要約すると 以下の通りとなる. 1)調査期間中における各支川の水質は,大腸菌群数  を除く他の基準項目がAA類型基準をほぼ満たし  ている.しかし,本川の環境基準点(桜橋地点)に  おいては,BOD, CODおよび大腸菌群数等がAA類  型基準を満たしておらず,ダム下流部での人為的有  機性汚濁負荷の寄与率が大きいと考えられた. 2)環境基準点(桜橋)で認められる年単位の周期的  水質変動は,流量変動との相関性が認められる.殊  に,負荷量と流量の関係は極めて相関性が高いこと  が認められた. 3)汚濁発生・負荷量および河川流量を考慮した水質  予測式の適合性を検討したところ,計算値は巨視的  な水質変動をほぼ反映しているものと考えられれ  た. 参考文献 1)中村文雄,荒川水系における水質の現状と問題点,  甲府市北部振興対策研究協議会,ワーキンググルー  プ調査報告書,pp.50−70(1991,3) 2)中村文雄i,荒川上流域および帯那川流域の水質予  測と受け入れ可能観光客数の推定,甲府市北部振興  開発調査業務報告書,pp.70−93(1992,3) 3)中村文雄,荒川上流域の水質とその背景,山間部  都市の洪水防御・環境保全のための適正技術(文部  省科学研究費一大学間協力研究一〇4045027一研究成果  報告書),pp.93−105(1994.12) 4)地図(甲府市北部,御岳昇仙峡,茅ガ岳,金峰山,  その他),国土地理院 5)住民基本台帳登録人口別集計(昭和40年度∼平成  2年度),甲府市 6)浄化槽設置届出書(昭和59年度∼平成2年度),甲  府保険所 7)直営し尿汲み取り実績表,甲府市環境センター,  東日本環境整備センター 8)甲府市統計書(昭和61年度∼平成2年度),甲府市 9)公共用水域水質測定結果(昭和54年度∼昭和63年  度),山梨県 10)公共用水域・地下水水質測定結果(平成元年度∼平  成2年度),山梨県 11)荒川水質測定結果(昭和55年11月∼平成2年12  月),甲府市水道局

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12)荒川ダム管理月報(1986年12月∼1990年12月),山  梨県 13)日平均取水量報告書(1986年∼1991年),東京電力 14)國民栄養の現状(平成3年度),厚生省保険医療局  健康増進栄養課監修 15)流域別下水道整備総合計画調査指針と解説,日本  下水道協会,1990

参照

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