• 検索結果がありません。

「新直轄道路が周辺地域に与える影響ついて ~秋田県を事例として~」

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "「新直轄道路が周辺地域に与える影響ついて ~秋田県を事例として~」"

Copied!
21
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

新直轄道路が周辺地域に与える影響について

~秋田県を事例として~

<要旨> 2005 年 10 月の道路関係四公団の民営化と併せて、国が直轄事業として高速道路を整備・管 理する新直轄方式が採用された。それによって、国が整備・管理する無料高速道路である新直 轄道路ができることになった。新直轄道路は、国及び都道府県が費用負担することとなってい るが、費用負担する都道府県に便益が帰着しているのか、また、費用負担していない都道府県 に便益がスピルオーバーしているか否かについては十分な検証がなされていない。 本研究では、秋田県を事例として、新直轄道路が供用されたことによって、費用負担してい る都道府県に便益が帰着しているのか、また、発生する便益が新直轄道路と接続した既存高速 道路の周辺地域にスピルオーバーしているのではないか、という問題意識のもと、新直轄道路 が周辺地域に及ぼす影響について、地価及び交通量を用いて実証分析を行った。その結果、新 直轄道路が供用されたことによって、新直轄道路の IC の周辺地域に便益が帰着していること、 新直轄道路と接続した既存高速道路の IC の周辺地域に便益がスピルオーバーしていることを 実証的に示した。そして、新直轄道路が供用されたことによる便益がスピルオーバーしている ことから、スピルオーバーの評価を導入すること、また、新直轄道路の供用後に、都市計画外 など用途指定を受けていない地域の地価が上昇していることから、土地利用規制の検討を行う よう政策提言した。

2015 年(平成 27 年)2 月

政策研究大学院大学 まちづくりプログラム

MJU14617 村上 恭平

(2)

目次

1 はじめに ... 1 1.1 問題意識... 1 1.2 論文構成... 2 2 新直轄道路の概要 ... 2 2.1 新直轄方式導入の背景 ... 2 2.2 新直轄道路の特徴 ... 2 2.3 新直轄道路供用によって生じる事象 ... 4 3 仮説の設定 ... 4 3.1 仮説... 4 3.2 先行研究... 4 4 新直轄道路が周辺地域に与える影響についての実証分析 ... 5 4.1 実証分析対象の新直轄道路 ... 5 4.2 実証分析の対象(交通量と地価を分析する理由) ... 5 4.3 実証分析 1(仮説 1 の分析) ... 6 4.3.1 分析の方法 ... 6 4.3.2 推計モデル ... 7 4.3.3 基本統計量 ... 8 4.3.4 推計結果 ... 9 4.3.5 考察 ... 10 4.4 実証分析 2(仮説 2 の分析) ... 11 4.4.1 分析の方法 ... 11 4.4.2 推計モデル(交通量) ... 11 4.4.3 基本統計量(交通量) ... 12 4.4.4 推計結果(交通量) ... 12 4.4.5 考察(交通量) ... 13 4.4.6 推計モデル(地価) ... 13 4.4.7 基本統計量(地価) ... 14 4.4.8 推計結果(地価) ... 15 4.4.9 考察(地価) ... 16 5 政策提言 ... 16 6 終わりに ... 17 参考文献 ... 19

(3)

1

1 はじめに

1.1 問題意識 2005 年 10 月の道路関係四公団1の民営化と併せて、国が直轄事業として高速道路2を整備・管 理する新直轄方式が採用された。新直轄方式が採用されたのは、旧日本道路公団が整備するこ ととされていた高速道路の中で、有料高速道路では採算が取れない(料金収入で管理費が賄え ない、あるいは、有料道路の場合の B/C が 1 未満となる)が、無料高速道路として開放した場 合には、無料高速道路供用による社会的総余剰が固定費用を上回る区間である。それによって、 高速道路は、高速道路会社が管理する有料高速道路と、国が管理する無料高速道路(以下、「新 直轄道路」という。)の 2 種類ができることとなった。 新直轄道路の建設費については、高速自動車国道法第 20 条第 1 項によって、建設費の多くと も 4 分の 1 は建設される地域の都道府県が負担することとなっている。そのため、応益負担の 観点からは、費用負担する都道府県に、新直轄道路が建設され、供用されたことによって発生 する便益が帰着していることが望ましい。また、費用負担する都道府県は、便益が帰着するも のと予想し、新直轄道路を建設したと推察される。 しかし、新直轄道路が整備される際には、費用便益分析マニュアル3に基づき、走行時間短縮 便益、走行経費減少便益、交通事故減少便益の 3 便益と費用を比較し、新直轄方式にすべきか 否かが検討されているが、発生する便益がどの地域に帰着するかまでは分析されてはいない。 また、国土交通省の『国土交通省所管公共事業の完了後の事後評価実施要領4』によると、原則 として、公共事業の事後評価を実施するとなってはいるものの、事前同様に、どの地域に帰着 しているかまでは分析されてはいない5 また、新直轄道路が供用されることで、高速道路ネットワーク網が拡大し、費用負担してい ない他の都道府県においても、住民の活動範囲の拡大や、人の流入の増加による商業施設の活 性化、輸送コスト削減による商業・工業施設の立地環境の魅力向上など、便益がスピルオーバ ーしている可能性が考えられる。 本研究では、秋田県を事例として、新直轄道路が供用されたことによって、費用負担してい る都道府県に便益が帰着しているのか、また、発生する便益が新直轄道路と接続した既存高速 道路の周辺地域にスピルオーバーしているのではないか、という問題意識のもと、新直轄道路 が周辺地域に及ぼす影響について分析する。 1 日本道路公団、首都高速道路公団、阪神高速道路公団、本州四国連絡橋公団を指す。 2 高速自動車国道法第 4 条第 1 項で定義される高速自動車国道を指す。 3 国土交通省道路局都市・地域整備局(2008)(http://www.mlit.go.jp/road/ir/hyouka/plcy/kijun/bin-ekiH20_11.pdf)参照(2015 年 2 月 4 日アクセス)。 4 国土交通省(2010)(http://www.mlit.go.jp/tec/hyouka/public/5jigo.pdf)参照(2015 年 2 月 4 日アクセス)。 5 国土交通省東北地方整備局 平成 24 年度事業評価監視委員会(第 6 回) 配布資料 6-2『道路事業事後評価 日本海沿岸 東北自動車道号 本荘~岩城』(http://www.thr.mlit.go.jp/bumon/b00097/k00360/h13jhyouka/2406hpsiryou/siryou240606.pdf)参照 (2015 年 2 月 4 日アクセス)。

(4)

2 1.2 論文構成 本稿の構成については、以下の通りである。 第 2 章では、新直轄道路の概要及び新直轄道路供用によって発生するメリット、デメリット について整理する。第 3 章では、新直轄道路が周辺地域に与える影響についての仮説を提示し、 第 4 章で、仮説検証のための実証分析を行う。第 5 章では、第 4 章の実証分析の結果及びそれ に基づいた考察を踏まえた政策提言を行う。第 6 章では、今後の課題を提示する。

2 新直轄道路の概要

2.1 新直轄方式導入の背景 日本では、全国の高速道路を一体と見なし、道路ネットワーク全体の収支に基づいて料金を 決定する料金プール制によって高速道路建設が進められている。単独採算だと、建設費の高騰 などで料金が高額になってしまう道路がでてしまうところを、この制度を採用することでばら つきを無くし、全国一律基本料金を実現することが可能となっている6 一方で、道路関係四公団が民営化される以前では、料金プール制によって、各路線の費用、 収入が合算されることにより、採算が取れる良い路線の収入が、採算が取れない悪い路線の債 務返済の不足分に回されることになり、安易な不採算路線の建設に繋がっていた7 そのため、道路関係四公団が民営化される際には、採算性を重視した事業経営の実施が求め られ、新会社の採算が超える部分について、その財源は国及び地方公共団体が負担することと なった8。そして、政府与党申し合せにより、料金収入により管理費が賄えないなど、新会社に よる整備・管理が難しいと見込まれる区間については、国と地方の負担(国:地方=3:1)に よる新たな直轄事業として、新直轄方式が導入された9 2.2 新直轄道路の特徴 国土開発幹線自動車道建設会議において、整備計画 の変更がなされ、全国 34 区間(総延長 822km)10(表 1 参照)が新直轄道路の指定を受け、国が整備・管理 することとなった。新直轄道路は、国が管理するため、 無料で開放されることになる。 また、新直轄道路は、高速道路会社が開放している 有料高速道路と異なり、有料開放した場合には、採算 が取れない高速道路である(図 1 参照)。しかし、無料 6

NEXCO 東日本 HP『NEXCO 東日本の歩み』(http://www.recruit.e-nexco.co.jp/company/history/index.html)参照(2015 年 2 月 5 日アクセス)。 7 福田(2004) 8 道路関係四公団民営化推進委員会(2002) 9 全国高速道路建設協議会(2007)p.56 10 同上 p.57 料金 通行者数 0 D2 D1 MR2 MR1 PMC AC X2 X1 P1 P2 図1 新直轄道路の特徴① 新直轄道路は、D1 のよう に、赤字が発生し、採算が 取れない高速道路である。 D2 のような場合には、利 潤が発生するため、有料で 開放することができる。 なお、私的限界費用を 0 として、考えている。

(5)

3 で開放したとしても、混雑せず、社会的総余剰が固定費用を上回る(図 2 参照)ため、建設す ることによって、社会全体の効率性を高めることができ、国が整備・管理することが正当化さ れる。 表1 新直轄方式に切り替わった区間11 路線名 区間 延長 (km) 北海道縦貫自動車道 七飯~大沼 10 〃 士別剣淵~名寄 24 北海道横断自動車道 足寄~北見 79 〃 本別~釧路 65 東北横断自動車道 遠野~宮守 9 〃 宮守~東和 24 日本海沿岸東北自動車道 荒川~朝日 20 〃 温海~鶴岡 JCT 26 〃 本荘~岩城 21 〃 大館北~小坂 JCT 14 東北中央自動車道 福島 JCT~米沢 28 〃 米沢~米沢北 9 〃 東根~尾花沢 23 中部横断自動車道 富沢~六郷 28 〃 八千穂~佐久南 15 〃 佐久南~佐久 JCT 8 近畿自動車道 田辺~白浜 14 〃 白浜~すさみ 24 〃 尾鷲北~紀伊長島 21 中国横断自動車道 佐用 JCT~大原 19 〃 智頭~鳥取 24 〃 米子~米子北 5 〃 尾道 JCT~三次 JCT 50 〃 三次 JCT~三刀屋木次 61 四国横断自動車道 阿南~小松島 10 〃 小松島~徳島東 8 〃 須崎新荘~窪川 22 〃 宇和島北~西予宇和 16 九州横断自動車道 嘉島 JCT~矢部 23 東九州自動車道 佐伯~蒲江 20 〃 蒲江~北川 26 〃 清武 JCT~北郷 19 〃 北郷~日南 9 〃 志布志~末吉財部 48 合計 34 区間 822 11 全国高速道路建設協議会(2007)p.57 を基に、筆者作成。 通行者数 0 需要曲線 社会的総余剰 社会的限界費用曲線 固定費用 ①無料で開放しても混雑しない ②社会的総余剰が固定費用を上回っている 料金 図2 新直轄道路の特徴②

(6)

4 2.3 新直轄道路供用によって生じる事象 新直轄道路が供用されることによって、周辺地域に生じるメリット、デメリットについて述 べる。 新直轄道路が建設される周辺地域では、一般道に比べて新直轄道路を利用した方が、走行時 間が短縮されるため、その分だけ住民の活動範囲が拡大されるメリットがある。また、周辺の 一般道から利用者が新直轄道路に流れるため、一般道の渋滞緩和に寄与するという効果も期待 できる。さらに、必要な原材料の調達、製品の輸送等を容易にすることから、IC 周辺に商業・ 工業施設が立地することも期待できる。しかし、住民の活動範囲が拡大することによって、消 費行動の範囲も拡大し、商業施設が衰退する恐れがある。また、工業施設が立地することで、 大型車の往来が多くなり、事故の危険性が増す可能性も否定できない。 新直轄道路と接続した既存高速道路の周辺地域においても、高速道路で繋がっていることで、 新直轄道路が整備された地域の住民の活動範囲拡大によって、人が流入し、それによって商業 施設が賑わう効果が出ると予想される。また、今まで一般道を使っていた区間が新直轄道路に 変わることで、商品を早く、安く仕入れることができるため、商業・工業施設の立地環境が向 上すると考えられる。その他にも、住民の活動範囲が拡大することで、住むことの価値が上が ると考えられる。しかし、新直轄道路の周辺地域同様に、住民の消費行動の範囲拡大によって、 商業施設が衰退する恐れもある。

3 仮説の設定

3.1 仮説 第 2 章で説明した新直轄道路について、第 1 章で述べた問題意識に基づき、以下の 2 つの仮 説を提示する。 仮説 1:新直轄道路の IC の周辺地域には、新直轄道路供用による便益が帰着しているのか。 仮説 2:新直轄道路供用による便益が、新直轄道路と接続した既存高速道路の IC の周辺地域 にスピルオーバーしているのではないか。 3.2 先行研究 要藤(2010)は、道路整備は自地域の総生産を増加させる生産力効果があり、自地域よりも 経済力の弱い地域における道路整備は、自地域の総生産を増加させるスピルオーバー効果があ るものの、自地域よりも経済力の強い地域における道路整備は、自地域の総生産に対してマイ ナスの影響を与える可能性があると述べている。他の先行研究においても、一般道や高速道路 の整備効果の分析が多く見受けられたが、新直轄道路に関する先行研究については、筆者の知 る限り存在しない。

(7)

5

4 新直轄道路が周辺地域に与える影響についての実証分析

4.1 実証分析対象の新直轄道路 本稿では、秋田県内の日本海岸沿岸南部地域を通過する「本荘 IC~岩城 IC 間」の新直轄道 路を分析の対象とする。有料高速道路として整備が予定されていた高速道路の路線のうち、全 国 34 区間(総延長 822km)が計画変更され、新直轄道路として整備されることになった。その 中で、本荘 IC~岩城 IC 間が、全国で最初に供用が開始(2007 年 9 月 17 日)され、供用から十 分な時間が経過している。一般的に道路が供用されたからといって、すぐに人の行動や交通量 が増加するわけではなく、徐々に変化し、周辺地域に影響が出るには、時間がかかると予想さ れる。そのため、新直轄道路が周辺地域に与える影響を観察するには、供用から時間が経過し ている新直轄道路を分析する必要があり、本荘 IC~岩城 IC 間を分析することとした。 なお、分析にあたっては、本荘 IC から山形県側に伸びた金浦 IC までを含めた、「岩城 IC~ 金浦 IC 間」を分析の対象とする。本荘 IC~金浦 IC 間は、新直轄道路ではなく高速自動車国道 に並行する一般国道の自動車専用道路12であり、法定最高速度などの違いがある。しかし、岩 城 IC~金浦 IC 間の利用者にヒアリングしたところ、種類が異なる道路であっても途中で途絶 することなく断続的に繋がっているため、違いがあることが認識されていなかった。そのため、 本稿で分析する期間内に、本荘 IC から金浦 IC まで道路が延伸(表 2 参照)されているが、そ の延伸による効果は、本稿で分析する新直轄道路と同様の効果を与えていると考え、分析から 取り除かないことにした。 表2 道路の計画概要13

区間 本荘 IC~岩城 IC (本荘 IC~仁賀保 IC) 仁賀保本荘道路 (仁賀保 IC~金浦 IC) 象潟仁賀保道路 整備計画(都市計画)決定 1996 年 12 月 1999 年 6 月 2005 年 1 月 供用開始 2007 年 9 月 2012 年 10 月 2012 年 10 月 4.2 実証分析の対象(交通量と地価を分析する理由) 高速道路を利用する理由としては、「走行時間の短縮」、「移動経路の簡易化」、「運転者 の疲労軽減」等が挙げられる14。他の道路を利用する場合よりも高速道路を利用した場合の便 益が高ければ高速道路が利用され、その結果、高速道路の交通量は増加する。したがって、利 用者の便益の高まりを交通量の増加で説明することができる。しかし、交通量は、ある地点の 断面交通量であるため、その地点を通過した利用者が、どのような目的を持って行動している かまでは把握することはできない。例えば、観測地点のある地域への流入数なのか、他の地域 への流出数を表しているのかは数字だけでは分からない。また、交通量が増加することで、道 12 「高速自動車国道に並行する一般国道の自動車専用道路」とは、渋滞解消や防災対策など国道が有する課題に緊急に対 応する観点から、一般国道のバイパスを、高速自動車国道との二重投資を避けるために自動車専用道路として整備し、高速 自動車国道の機能を当面代替することが可能な路線のことを言う。 13 国土交通省東北地方整備局秋田河川国道事務所 HP『象潟仁賀保道路・仁賀保本荘道路・本荘~岩城』 (http://www.thr.mlit.go.jp/akita/jimusyo/06-koujiinfo/u-const/ro-01_joltcr/00.html)を基に、筆者作成(2015 年 2 月 2 日アクセス)。 14 中国電力株式会社 HP『高速道路の有効活用に関する個人向けアンケート調査について』 (http://www.energia.co.jp/eneso/keizai/research/pdf/MR1305-2.pdf)参照(2015 年 2 月 2 日アクセス)。

(8)

6 路沿いに商業施設ができるなど、地域経済に与える影響も考えられるが、それも交通量だけで は分からない。そのため、交通量は、地域にとってどの程度の便益があったのかを正確に反映 したものとはいえない。 一方、高速道路が建設されたことによって、「活動範囲の拡大」、「取引費用の削減」等が 発生した場合、その便益の高まりが地価に帰着すると考えられ、地価を用いて便益がその地域 に帰着しているかを観測することができる。しかし、ヘドニック・アプローチが正確であるた めには、地域間の移動が自由で費用がかからない、消費者が同質等の条件を満たす必要があり、 正確性は一般的には保障されないという指摘がある15。また、地価は様々な要因によって決定 されており、新直轄道路供用以外の効果と他の道路の整備効果等の影響を十分に識別すること ができない可能性が考えられる。したがって、地価だけを分析したとしても正確に便益を計測 しているとは言い難い。 つまり、交通量、地価それぞれのみの分析では不十分と考えられるため、本研究では、交通 量と地価の二つの側面から分析する。なお、交通量については、IC の日平均出入交通量を使用 するが、新直轄道路の供用前の交通量はないため、仮説 1 については、地価のみを分析する。 4.3 実証分析 1(仮説 1 の分析) 4.3.1 分析の方法 新直轄道路の IC の周辺地域に、新直轄道路の供 用による便益が帰着しているのかを計測するため に、ヘドニック・アプローチを用いた実証分析を 行う。分析にあたっては、岩城 IC~金浦 IC 間の 各 IC から半径 5km 圏内の都道府県地価調査地点 における価格をトリートメントグループとし、ト リートメントグループと同様に秋田県内の海岸沿 いの地域で、最寄りの IC から 5km より離れた都 道府県地価調査地点における価格をコントロール グループとする(図 3 参照)。都道府県地価調査 価格をはじめとする土地に関する情報については、 国土交通省国土政策局国土情報課国土数値情報ダ ウンロードサービス(http://nlftp.mlit.go.jp/ksj/)か ら取得し、ArcGIS16を用いて、距離を計測した。 また、分析期間は、1996 年に本荘 IC~岩城 IC 間 の整備計画が決定したことから、それ以前で、バ ブル崩壊後の地価の影響を考慮し、1995 年から 15 中川(2008)p.217 16

Esri 社の GIS(Geographic Information System:地理情報システム)ソフトウェアファミリーの総称。 トリートメントグループ コントロールグループ

(9)

7 2014 年までとした。 なお、本分析において、対象とする地価として都道府県地価調査価格を利用した理由は、分 析する地域のほとんどが都市計画外であるため、公示地価と比較して都道府県地価調査価格が 多かったからである。また、各 IC から半径 5km 圏内をトリートメントグループとしたのは、 日本の高速道路の IC 間の間隔が平均で約 10km17であることから、その半分の 5km とした。 4.3.2 推計モデル 1995 年から 2014 年までのパネルデータを用いて、固定効果モデルによる DID 分析を行う。 固定効果モデルでは、地価のポイントが有する特性が分析期間において変化しないと考えられ る場合は、推計の中では固定効果として除去される。よって、時間を通じて不変の地積・容積 率・建ぺい率・駅までの距離等の要因については変数に加えない。また、供用前後の比較だけ ではなく、供用年数、IC からの距離、用途地域によって、地価への影響が異なると考え、4 つ の推計モデルを設定し、分析を行う。 ①推計モデル 1(新直轄道路供用後の影響を分析) :都道府県地価調査価格の対数値 :トリートメントグループダミー 供用後ダミー :年次ダミー :固定効果 :誤差項 :都道府県地価調査地点 :年次 ②推計モデル 2(供用年数による影響を分析) :都道府県地価調査価格の対数値 :トリートメントグループダミー 供用開始年ダミー :トリートメントグループダミー 供用 年目ダミー( ) :年次ダミー :固定効果 :誤差項 :都道府県地価調査地点 :年次 ③推計モデル 3(IC からの距離の影響を分析) :都道府県地価調査価格の対数値 :トリートメントグループダミー 供用後ダミー 近距離ダミー :トリートメントグループダミー 供用後ダミー 遠距離ダミー :年次ダミー :固定効果 :誤差項 :都道府県地価調査地点 :年次 17 国土交通省(2007)社会資本整備審議会道路分科会第 5 回有料道路部会 配布資料 3『高速道路ストックの機能強化の課 題』(http://www.mlit.go.jp/road/ir/yuryou/5pdf/3.pdf)p.3 参照(2015 年 2 月 5 日アクセス)。

(10)

8 ④推計モデル 4(用途地域による影響を分析) :都道府県地価調査価格の対数値 :トリートメントグループダミー 供用後ダミー 住居系地域ダミー :トリートメントグループダミー 供用後ダミー 商業系地域ダミー :トリートメントグループダミー 供用後ダミー 工業系地域ダミー :トリートメントグループダミー 供用後ダミー その他地域ダミー :年次ダミー :固定効果 :誤差項 :都道府県地価調査地点 :年次 表3 変数の説明18 変数 説明 出典 ln 都道府県地価調査価格 都道府県地価調査価格の対数値を用いた。 A トリートメントグループダミー トリートメントグループであれば 1、それ以外の場合は 0 をとるダミー変 数。 A 供用後ダミー 最寄り IC が供用された以降は 1、以前は 0 をとるダミー変数。 B 供用開始年ダミー 最寄り IC が供用された年の場合に 1、それ以外の年の場合に 0 をとるダミ ー変数。 B 供用 k 年目ダミー (k=1,2,…6) 最寄り IC が供用された年を基準とし、該当する供用年数の場合に 1、それ 以外の場合は 0 をとるダミー変数。 B 近距離ダミー 最寄り IC からの距離が 2.5km 以内であれば 1、それ以外の場合は 0 をとる ダミー変数。 A 遠距離ダミー 最寄り IC からの距離が 2.5km 以上 5km 以内であれば 1、それ以外の場合は 0 をとるダミー変数。 A 住居系地域ダミー 都道府県地価調査地点が、準住居地域、第一種住居地域等住居系地域に属 する場合に 1、それ以外の場合は 0 をとるダミー変数。 A 商業系地域ダミー 都道府県地価調査地点が、近隣商業地域・商業地域に属する場合に 1、そ れ以外の場合は 0 をとるダミー変数。 A 工業系地域ダミー 都道府県地価調査地点が、準工業地域・工業地域・工業専用地域に属する 場合に 1、それ以外の場合は 0 をとるダミー変数。 A その他地域ダミー 都道府県地価調査地点が、住居系・商業系・工業系地域以外の地域(主に 都市計画外)に属する場合に 1、それ以外の場合は 0 をとるダミー変数。 A A:国土数値情報都道府県地価調査データ及び ArcGIS を用いて作成。 B:国土交通省東北地方整備局秋田河川国道事務所 HP より作成。 4.3.3 基本統計量 被説明変数、説明変数についての基本統計量は、表 4 の通りである。 18 年次ダミーについては省略する。

(11)

9 表4 基本統計量19 変数 平均値 標準偏差 最小値 最大値 ln都道府県地価調査価格 9.760 0.663 8.216 11.55 トリートメントグループダミー×供用後ダミー 0.149 0.356 0 1 トリートメントグループダミー×供用開始年ダミー 0.0295 0.169 0 1 トリートメントグループダミー×供用1年目ダミー 0.0295 0.169 0 1 トリートメントグループダミー×供用2年目ダミー 0.0179 0.133 0 1 トリートメントグループダミー×供用3年目ダミー 0.0179 0.133 0 1 トリートメントグループダミー×供用4年目ダミー 0.0179 0.133 0 1 トリートメントグループダミー×供用5年目ダミー 0.0179 0.133 0 1 トリートメントグループダミー×供用6年目ダミー 0.0179 0.133 0 1 トリートメントグループダミー×供用後ダミー×近距離ダミー 0.101 0.302 0 1 トリートメントグループダミー×供用後ダミー×遠距離ダミー 0.0474 0.213 0 1 トリートメントグループダミー×供用後ダミー×住居系地域ダミー 0.0551 0.228 0 1 トリートメントグループダミー×供用後ダミー×商業系地域ダミー 0.0205 0.142 0 1 トリートメントグループダミー×供用後ダミー×工業系地域ダミー 0.00513 0.0715 0 1 トリートメントグループダミー×供用後ダミー×その他地域ダミー 0.0679 0.252 0 1 4.3.4 推計結果 推計結果については、表 5、表 6 の通りである。 表5 仮説1の推計結果① 被説明変数:ln都道府県地価調査価格 推計モデル1 推計モデル2 変数名 係数 標準誤差 係数 標準誤差 トリートメントグループダミー×供用後ダミー 0.00912 0.0146 トリートメントグループダミー×供用開始年ダミー -0.0218 0.0250 トリートメントグループダミー×供用1年目ダミー -0.0254 0.0250 トリートメントグループダミー×供用2年目ダミー 0.0296 0.0320 トリートメントグループダミー×供用3年目ダミー 0.0335 0.0318 トリートメントグループダミー×供用4年目ダミー 0.0418 0.0318 トリートメントグループダミー×供用5年目ダミー 0.0450 0.0337 トリートメントグループダミー×供用6年目ダミー 0.0639 0.0337 * 年次ダミー Yes Yes 定数項 9.952 0.0176 *** 9.951 0.0175 *** 観測数 672 672 決定係数 0.818 0.822 ユニット数 39 39 ***、**、*はそれぞれ1%、5%、10%水準で統計的に有意であることを示す。 19 年次ダミーについては省略する。

(12)

10 表6 仮説1の推計結果② 被説明変数:ln都道府県地価調査価格 推計モデル3 推計モデル4 変数名 係数 標準誤差 係数 標準誤差 トリートメントグループダミー×供用後ダミー×近距離ダミー 0.0561 0.0151 *** トリートメントグループダミー×供用後ダミー×遠距離ダミー -0.137 0.0231 *** トリートメントグループダミー×供用後ダミー×住居系地域ダミー 0.0458 0.0179 ** トリートメントグループダミー×供用後ダミー×商業系地域ダミー -0.294 0.0262 *** トリートメントグループダミー×供用後ダミー×工業系地域ダミー -0.310 0.0417 *** トリートメントグループダミー×供用後ダミー×その他地域ダミー 0.0985 0.0155 *** 年次ダミー Yes Yes 定数項 9.958 0.0168 *** 9.957 0.0148 *** 観測数 672 672 決定係数 0.835 0.872 ユニット数 39 39 ***、**、*はそれぞれ1%、5%、10%水準で統計的に有意であることを示す。 4.3.5 考察 地価は、供用後に上昇傾向であるが、統計的に有意な結果とはならなかった。これは IC から の距離や用途地域別の正と負の影響が混在していることが原因と考えられる。しかし、供用 6 年目には、有意水準 10%で地価が上昇していることから、新直轄道路の IC の周辺地域には、時 間はかかるものの便益が帰着していると考えられる。 用途地域別に観察すると、住居系地域で供用後に地価が上昇しており、住民の活動範囲の拡 大、利便性が向上しているものと考えられる。また、その他地域の地価が上昇しており、周辺 地域の開発の需要が高まり、利用価値が上がっているのではないかと考えられる。実際に、分 析地域の都市計画外では、県内 3 地区の家畜市場が、IC 周辺に統合移転した事例20や、当該自 治体職員へのヒアリングで IC 周辺に道の駅があることとの相乗効果で住宅の建築が進んでい るとの話があった。 商業系地域の地価の下落の要因として、新直轄道路に並行する国道沿いのドライブインなど の商業施設が、交通量の減少によって衰退したこと、住民の消費活動の広域化によって他の地 域に流出していることや、供用前後に建設された大型商業施設との競争によって商業施設が衰 退したことが原因として考えられる。また、分析地域は、電気部品・デバイス産業が盛んで、 TDK 社の工場が多くある地区であるため、工業系地域の地価は TDK 社の業績等に強い影響受 けている。そのため、コントロールグループだけではコントロールできていない部分がある。 分析期間の間に、リーマンショック等の影響で、TDK 社は、生産拠点再編のために複数の工場 の閉鎖を表明しており、その影響で地価が大きく下落しているものと考えられる。さらに、商 業系、工業系地域については、サンプル数が少ないことによる影響で、係数の絶対値の値が大 きくなっている可能性がある。また、IC からの距離を観察すると、近距離では地価が上昇して 20 国土交通省東北地方整備局 平成 24 年度事業評価監視委員会(第 6 回) 配布資料 6-1『道路事業事後評価 日本海沿岸 東北自動車道 本荘~岩城』(http://www.thr.mlit.go.jp/bumon/b00097/k00360/h13jhyouka/2406hpsiryou/siryou240606.pdf)p.7、 (2015 年 2 月 4 日アクセス)。

(13)

11 おり、近いほど利便性が高く、便益を高める効果があると考えられる。 4.4 実証分析 2(仮説 2 の分析) 4.4.1 分析の方法 実証分析 1 で分析した新直轄道路は、現時点で、秋 田県の南に位置する山形県まで繋がっていないため、 他県に対してスピルオーバーが発生しているかについ て分析することができない。そのため、新直轄道路に 接続した同一県内の既存有料高速道路の IC の周辺地域 に、新直轄道路供用による便益がスピルオーバーして いるかについて分析を行う。分析にあたっては、秋田 北 IC~横手 IC 間をトリートメントグループとし、トリ ートメントグループと同様に東北地方で、県庁所在地 周辺から東北自動車道に伸びている山形北 IC~宮城川 崎 IC 間をコントロールグループとする(図 4 参照)。 そして、新直轄道路が供用されたことによって、整備 されていない秋田北 IC~横手 IC 間の IC の周辺地域に 便益がスピルオーバーしているかを分析する。 なお、分析にあたっては、交通量と地価、それぞれを被説明変数として分析する。交通量に ついては、各 IC の日平均出入交通量21を用いて、新直轄道路供用後の影響及び供用年数による 影響を分析する。また、地価については、各 IC の半径 5km 圏内の都道府県地価調査地点にお ける価格を使用し、実証分析 1 と同様にして、データを入手、作成した。 分析期間については、高速道路の延長や、高速道路の無料化実験の影響を考慮し、2003 年か ら 2009 年までとした。 4.4.2 推計モデル(交通量) 2003 年から 2009 年までのパネルデータを用いて、固定効果モデルによる DID 分析を行う。 また、供用前後の交通量の比較だけではなく、供用年数によっても交通量の変化は異なると考 え、2 つのモデルを設定し、分析を行う。 ①推計モデル 1(新直轄道路供用後の影響を分析) :日平均出入交通量の対数値 :トリートメントグループダミー 供用後ダミー 21 公益財団法人高速道路調査会機関誌『高速道路と自動車』の「高速道路統計月報」を基に、各年の日平均出入交通量を筆 者算出。 トリートメントグループ コントロールグループ 秋田県 山形県 図4 仮説2分析地域

(14)

12 :年次ダミー :固定効果 :誤差項 : :年次 ②推計モデル 2(供用年数による影響を分析) :日平均出入交通量の対数値 :トリートメントグループダミー 供用開始年ダミー :トリートメントグループダミー 供用 年目ダミー :年次ダミー :固定効果 :誤差項 : :年次 表7 変数の説明22 変数 説明 出典 ln 日平均出入交通量 IC の日平均出入交通量の対数値を用いた。当該年前年の 9 月から当該年の 8 月までの平均としている。 C トリートメントグループダミー トリートメントグループであれば 1、それ以外の場合は 0 をとるダミー変 数。 C 供用後ダミー 新直轄道路が供用された以降は 1、以前は 0 をとるダミー変数。 B 供用開始年ダミー 新直轄道路が供用された年の場合に 1、それ以外の年の場合に 0 をとるダ ミー変数。 B 供用 1 年目ダミー 新直轄道路が供用された年を基準とし、供用 1 年目の場合に 1、それ以外 の場合は 0 をとるダミー変数。 B B:国土交通省東北地方整備局秋田河川国道事務所 HP より作成。 C:公益財団法人高速道路調査会機関誌『高速道路と自動車』の「高速道路統計月報」より作成。 4.4.3 基本統計量(交通量) 被説明変数、説明変数についての基本統計量は、表 8 の通りである。 表8 基本統計量23 変数 平均値 標準偏差 最小値 最大値 ln日平均出入交通量 8.015 0.797 5.989 9.039 トリートメントグループダミー×供用後ダミー 0.167 0.375 0 1 トリートメントグループダミー×供用開始年ダミー 0.0833 0.278 0 1 トリートメントグループダミー×供用1年目ダミー 0.0833 0.278 0 1 4.4.4 推計結果(交通量) 推計結果については、表 9 の通りである。 22 年次ダミーについては省略する。 23 同上。

(15)

13 表9 仮説2の推計結果(交通量) 被説明変数:ln日平均出入交通量 推計モデル1 推計モデル2 変数名 係数 標準誤差 係数 標準誤差 トリートメントグループダミー×供用後ダミー 0.0876 0.0406 ** トリートメントグループダミー×供用開始年ダミー 0.0739 0.0535 トリートメントグループダミー×供用1年目ダミー 0.101 0.0535 * 年次ダミー Yes Yes 定数項 8.014 0.0239 *** 8.014 0.0241 *** 観測数 84 84 決定係数 0.071 0.073 ユニット数 12 12 ***、**、*はそれぞれ1%、5%、10%水準で統計的に有意であることを示す。 4.4.5 考察(交通量) 供用後に交通量が、有意水準 5%で、増加していることから、新直轄道路を利用して仮説 2 の分析地域に流入する人数、もしくは新直轄道路を利用して仮説 1 の分析地域方面に移動する 人数が増加したと考えられる。また、供用 1 年後から統計的に有意に交通量が増加しているこ とから、交通量には早い段階から影響が出ていると考えられる。 4.4.6 推計モデル(地価) 2003 年から 2009 年までのパネルデータを用いて、固定効果モデルによる DID 分析を行う。 また、供用前後の比較だけではなく、供用年数、IC からの距離、用途地域によって、地価への 影響が異なると考え、4 つの推計モデルを設定し、分析を行う。 ①推計モデル 1(新直轄道路供用後の影響を分析) :都道府県地価調査価格の対数値 :トリートメントグループダミー 供用後ダミー :年次ダミー :固定効果 :誤差項 :都道府県地価調査地点 :年次 ②推計モデル 2(供用年数による影響を分析) :都道府県地価調査価格の対数値 :トリートメントグループダミー 供用開始年ダミー :トリートメントグループダミー 供用 年目ダミー :年次ダミー :固定効果 :誤差項 :都道府県地価調査地点 :年次 ③推計モデル 3(IC からの距離の影響を分析)

(16)

14 :都道府県地価調査価格の対数値 :トリートメントグループダミー 供用後ダミー 近距離ダミー :トリートメントグループダミー 供用後ダミー 遠距離ダミー :年次ダミー :固定効果 :誤差項 :都道府県地価調査地点 :年次 ④推計モデル 4(用途地域による影響を分析) :都道府県地価調査価格の対数値 :トリートメントグループダミー 供用後ダミー 住居系地域ダミー :トリートメントグループダミー 供用後ダミー 商業系地域ダミー :トリートメントグループダミー 供用後ダミー 工業系地域ダミー :トリートメントグループダミー 供用後ダミー その他地域ダミー :年次ダミー :固定効果 :誤差項 :都道府県地価調査地点 :年次 表10 変数の説明24 変数 説明 出典 ln 都道府県地価調査価格 都道府県地価調査価格の対数値を用いた。 A トリートメントグループダミー トリートメントグループであれば 1、それ以外の場合は 0 をとるダミー変 数。 A 供用後ダミー 新直轄道路が供用された以降は 1、以前は 0 をとるダミー変数。 B 供用開始年ダミー 新直轄道路が供用された年の場合に 1、それ以外の年の場合に 0 をとるダ ミー変数。 B 供用 1 年目ダミー 新直轄道路が供用された年を基準とし、該当する供用年数の場合に 1、そ れ以外の場合は 0 をとるダミー変数。 B 近距離ダミー 最寄り IC からの距離が 2.5km 以内であれば 1、それ以外の場合は 0 をとる ダミー変数。 A 遠距離ダミー 最寄り IC からの距離が 2.5km 以上 5km 以内であれば 1、それ以外の場合は 0 をとるダミー変数。 A 住居系地域ダミー 都道府県地価調査地点が、準住居地域、第一種住居地域等住居系地域に属 する場合に 1、それ以外の場合は 0 をとるダミー変数。 A 商業系地域ダミー 都道府県地価調査地価調査地点が、近隣商業地域・商業地域に属する場合 に 1、それ以外の場合は 0 をとるダミー変数。 A 工業系地域ダミー 都道府県地価調査地点が、準工業地域・工業地域・工業専用地域に属する 場合に 1、それ以外の場合は 0 をとるダミー変数。 A その他地域ダミー 都道府県地価調査地点が、住居系・商業系・工業系地域以外の地域(主に 都市計画外)に属する場合に 1、それ以外の場合は 0 をとるダミー変数。 A A:国土数値情報都道府県地価調査データ及び ArcGIS を用いて作成。 B:国土交通省東北地方整備局秋田河川国道事務所 HP より作成。 4.4.7 基本統計量(地価) 被説明変数、説明変数についての基本統計量は、表 11 の通りである。 24 年次ダミーについては省略する。

(17)

15 表11 基本統計量25 変数 平均値 標準偏差 最小値 最大値 ln都道府県地価調査価格 10.83 0.864 8.666 12.79 トリートメントグループダミー×供用後ダミー 0.185 0.389 0 1 トリートメントグループダミー×供用開始年ダミー 0.0927 0.290 0 1 トリートメントグループダミー×供用1年目ダミー 0.0927 0.290 0 1 トリートメントグループダミー×供用後ダミー×近距離ダミー 0.0251 0.157 0 1 トリートメントグループダミー×供用後ダミー×遠距離ダミー 0.160 0.367 0 1 トリートメントグループダミー×供用後ダミー×住居系地域ダミー 0.0852 0.280 0 1 トリートメントグループダミー×供用後ダミー×商業系地域ダミー 0.0451 0.208 0 1 トリートメントグループダミー×供用後ダミー×工業系地域ダミー 0.0201 0.140 0 1 トリートメントグループダミー×供用後ダミー×その他地域ダミー 0.0351 0.184 0 1 4.4.8 推計結果(地価) 推計結果については、表 12、表 13 の通りである。 表12 仮説2の推計結果(地価)① 被説明変数:ln都道府県地価調査価格 推計モデル1 推計モデル2 変数名 係数 標準誤差 係数 標準誤差 トリートメントグループダミー×供用後ダミー 0.00928 0.0118 トリートメントグループダミー×供用開始年ダミー 0.0119 0.0154 トリートメントグループダミー×供用1年目ダミー 0.00664 0.0154 年次ダミー Yes Yes 定数項 11.02 0.00703 *** 11.02 0.00704 *** 観測数 379 379 決定係数 0.864 0.864 ユニット数 57 57 ***、**、*はそれぞれ1%、5%、10%水準で統計的に有意であることを示す。 25 年次ダミーについては省略する。

(18)

16 表13 仮説2の推計結果(地価)② 被説明変数:ln都道府県地価調査価格 推計モデル3 推計モデル4 変数名 係数 標準誤差 係数 標準誤差 トリートメントグループダミー×供用後ダミー×近距離ダミー 0.0525 0.0207 ** トリートメントグループダミー×供用後ダミー×遠距離ダミー 0.00193 0.0120 トリートメントグループダミー×供用後ダミー×住居系地域ダミー 0.0199 0.0131 トリートメントグループダミー×供用後ダミー×商業系地域ダミー -0.0547 0.0170 *** トリートメントグループダミー×供用後ダミー×工業系地域ダミー -0.0267 0.0245 トリートメントグループダミー×供用後ダミー×その他地域ダミー 0.0679 0.0174 *** 年次ダミー 省略 省略 定数項 11.02 0.00697 *** 11.03 0.00666 *** 観測数 379 379 決定係数 0.867 0.879 ユニット数 57 57 ***、**、*はそれぞれ1%、5%、10%水準で統計的に有意であることを示す。 4.4.9 考察(地価) IC から近距離では有意に地価が上昇し、遠距離では効果が見られないことから、新直轄道路 供用による便益のスピルオーバーは、IC から近い地域にしか及ばないと考えられる。そして、 スピルオーバーの範囲が小さいために、広域での分析では有意な結果になっていないと考えら れる。一方で、仮説 1 では効果が現れるまでに時間がかかっていたため、より長い期間を分析 対象とすることで、広域の分析であっても効果が現れてくる可能性がある。しかし、本分析か ら、限定的ではあるが、新直轄道路と接続した既存高速道路の IC の周辺地域に便益がスピルオ ーバーしていることが明らかとなった。 用途地域別に観察すると、商業系地域で地価が下落しているが、商業系地域に属する都道府 県地価調査地点は全て IC から 2.5km 以上 5km 以内に位置している。新直轄道路の効果が IC か ら近距離にしか効果がないと考えると、別の要因の影響を受けていると考えられる。また、そ の他地域の地価の上昇については、新直轄道路の供用後に、IC の日平均出入交通量が増加して いることから、例えば、交通量が増加したことで、商業施設を建設しても採算が取れるように なるなど、土地の魅力が上がった可能性が考えられる。

5 政策提言

実証分析の結果から、新直轄道路供用によって発生した便益が高速道路の周辺地域に帰着し ていることが明らかとなった。また、供用年数が経つほど地価は上昇傾向にあることから、今 後さらに便益が高まることが予想される。 また、本研究から、新直轄道路の供用後に、新直轄道路と接続した同一県内の既存高速道路 の IC の周辺地域に対してスピルオーバーが発生していること、都市計画外等の地域の地価が上 昇していることが明らかとなったことから、その点に関連した政策提言を行う。 第一に、スピルオーバーの評価を提案したい。本研究から新直轄道路と接続した同一県内の

(19)

17 既存高速道路の IC の周辺地域に対してスピルオーバーが発生していることが明らかとなった。 しかし、現行の道路整備の費用便益分析においては、道路整備による直接効果として、走行時 間短縮便益、走行経費減少便益、交通事故減少便益の 3 便益のみが便益の分析対象となってお り、間接的に発生するスピルオーバーについては、評価されていない。しかし、スピルオーバ ーを評価しない場合、便益を過小評価することになり、本来建設されるべき新直轄道路が建設 されない可能性や、高速道路会社が有料で開放できたものを新直轄道路として無料開放してし まう可能性もある。したがって、現行の費用便益分析を改め、スピルオーバーも評価対象とす べきと考える。また、本研究の結果から、便益の帰着には時間がかかるものと考えられ、一度 の評価だけでは、正確な評価ができないと考えられる。したがって、一定期間、時間をおいて から再評価することを推奨したい。 第二に、土地利用規制の検討を提案したい。本研究から都市計画外等の住居・商業・工業系 以外の地域の地価が、新直轄道路の供用後に上昇しており、その地域の開発需要、利用価値が 上昇していると考えられる。都市計画外等の地域では用途指定などの土地利用規制が不十分で あるため、無秩序な開発が進む恐れがある。無秩序な開発が進むことで、市街地が分散され、 新たなインフラ整備費や維持管理費がかかるなど、行政コストが肥大化する可能性がある。ま た、住宅、工業施設などが混在する市街地が形成される可能性もある。複数の用途が混在した 場合、例えば、住宅と工場の混在が進んだ地域では、新たに入居する住民と既存工場の間で騒 音、公害問題が発生する可能性があり26、適切な規制が必要であると考えられる。そのため、 既に新直轄道路が供用されている地域においては、新直轄道路が供用されたことによる影響と 自治体の都市計画の方針を照らし合わせて、必要な土地利用規制について検討すべきと考える。 また、今後、新直轄道路を整備する地域にあっては、将来的な予測を立て、土地利用規制の見 直しを含めた都市計画の変更や事業展開をすべきと考える。

6 終わりに

本稿では、新直轄道路が供用されたことによって、新直轄道路の IC の周辺地域に便益が帰着 していること、新直轄道路と接続した既存高速道路の IC の周辺地域に便益がスピルオーバーし ていることを実証的に示した。そして、新直轄道路が供用されたことによる便益がスピルオー バーしていることから、スピルオーバーの評価を導入すること、また、新直轄道路の供用後に、 都市計画外など用途指定を受けていない地域の地価が上昇していることから、土地利用規制の 検討を政策提言した。 一方、本研究においては、他の道路の整備・延長、地域の再開発等の環境の変化について、 十分にコントロールすることができなかった。また、供用後から時間が経過した秋田県を事例 に分析を行ったが、他の地域と比較することで、新直轄道路による便益がどのような条件なら ば、より高い効果が出るのかが分析できると考えられる。今後、分析を精緻化することで、よ り正確な新直轄道路の便益の計測を期待したい。 また、本稿執筆時点では、秋田県の新直轄道路が他県と繋がっていなかったため、他県に対 26 大阪都市経済調査会(2006)(http://www.sansokan.jp/tyousa/study/jisyu_pdf/H17.pdf)参照(2015 年 2 月 5 日アクセス)。

(20)

18 してスピルオーバーしているかについては分析することができなった。本研究の結果から新直 轄道路が他県に繋がった場合には、その便益がスピルオーバーする可能性が示唆される。その 場合には、費用負担していない都道府県も便益を受けるため、応益負担の観点からは望ましく ない状況となる。そのため、今後、他県に対して、どの程度スピルオーバーしているかの分析 についての研究が進められることを期待したい。 謝辞 本稿の執筆にあたり、小川博雅助教授(主査)、沓澤隆司教授(副査)、手代木学教授(副査)、 鶴田大輔客員准教授(副査)から丁寧かつ熱心なご指導をいただいたほか、福井秀夫教授(ま ちづくりプログラムディレクター)、加藤一誠客員教授、安藤至大客員准教授をはじめとする教 員の皆様から示唆に富んだ大変な貴重なご意見をいただきました。ここに記して、感謝申し上 げます。 また、政策研究大学院大学での研究の機会を与え、ご支援をいただいた派遣元の皆様、一年 間共に学び支えあったまちづくりプログラム、知財プログラムの同期の学生の皆様に心より感 謝申し上げます。 なお、本稿における見解及び内容に関する誤り等については、全て筆者に帰属します。また、 本稿における考察や提言は筆者の個人的な見解を示したものであり、所属機関の見解を示すも のではないことを申し添えます。

(21)

19

参考文献

・髙橋達(2011)「高速道路制度の再検討」『早稲田大学商学研究科紀要』2011 年 11 月号、pp.249-259、 早稲田大学商学研究科 ・中川雅之(2008)『公共経済学と都市政策』p.217、日本評論社 ・八田達夫(2012)『ミクロ経済学Ⅰ-市場の失敗と政府の失敗への対策』pp.349-383、東洋経 済 ・八田達夫(2011)『ミクロ経済学Ⅱ-効率化と格差是正』pp.165-218、東洋経済 ・福田理(2004)「道路公団民営化のゆくえ-民営化法案の論点-」『調査と情報-Issue Brief -』2004 年 3 月 29 日号、国立国会図書館 ・要藤正任(2010)「道路整備は周辺地域に何をもたらすのか?」『季刊政策分析』第 1・2 合併 号、pp.5-15、政策分析ネットワーク ・大阪都市経済調査会(2006)『工場流出防止方策検討調査Ⅱ報告書』 ・国土交通省(2008)『国土交通省所管公共事業の完了後の事後評価実施要領』 ・国土交通省道路局都市・地域整備局(2008)『費用便益分析マニュアル』 ・全国高速道路建設協議会(2007)『高速道路便覧 2007(平成 19 年度)』 ・道路関係四公団民営化推進委員会(2002)『意見書』 ・「高速道路統計月報」『高速道路と自動車』27公益財団法人高速道路調査会 27 2002 年 12 月号から 2009 年 11 月号までの「高速道路統計月報」を参考にした。

参照

関連したドキュメント

我が国では近年,坂下 2) がホームページ上に公表さ れる各航空会社の発着実績データを収集し分析すること

 処分の違法を主張したとしても、処分の効力あるいは法効果を争うことに

名の下に、アプリオリとアポステリオリの対を分析性と綜合性の対に解消しようとする論理実証主義の  

例えば,立証責任分配問題については,配分的正義の概念説明,立証責任分配が原・被告 間での手続負担公正配分の問題であること,配分的正義に関する

例えば,立証責任分配問題については,配分的正義の概念説明,立証責任分配が原・被告 間での手続負担公正配分の問題であること,配分的正義に関する

FSIS が実施する HACCP の検証には、基本的検証と HACCP 運用に関する検証から構 成されている。基本的検証では、危害分析などの

しかし , 特性関数 を使った証明には複素解析や Fourier 解析の知識が多少必要となってくるため , ここではより初等的な道 具のみで証明を実行できる Stein の方法

今回、新たな制度ができることをきっかけに、ステークホルダー別に寄せられている声を分析