東京方言アクセントの習得と 中間方言の形成
一茨城方言話者の場合を中心に一
山 田 伸 子
[要旨]
本稿は,茨城方言話者によるアクセントの共通語化,つまり東京アクセント 習得のプロセスをとらえる試みである。8人の茨城大学生の談話をデータとし,
(1)東京アクセントの習得,および,(2)その過程で形成されると予想され る,母語とも目標言語とも異なる中間のアクセント体系である中間方言につい て,アクセント核の位置を中心に分析し,次の結果を得た。①共通語の単語ア クセント及びルールは,各被験者ともある程度習得している。②中間方言とし ては10の型があらわれ,これは外国人の日本語学習者がアクセント習得の過程 で使う中間言語と全く同じ体系をなしている。③それは,共通語の過剰一般化,
またはそのバリエーションとして形成されると思われる。
[キーワード] 無型アクセント,共通語化,中間方言ストラテジー,可変性,
習得,発達段階
1 はじめに
最近,日本の各地で若年層による,無型アクセントの共通語化が進行中であ るという報告がなされている(馬瀬1981,大西1992,他)。また,山口(1975)
は,無型アクセントそのものを,共通語化の変化の過程の状態であるととらえ ている。しかし,どの様に共通語化が進行しているのか,その実態はまだ解明 されていない。
山田(1994a, c)によると,外国人は日本語のアクセント,つまり東京ア クセントを習得する過程で中間言語(Corder l981)というシステムを形成す るようである。一方,東京アクセント習得過程にあると思われる,茨城方言話 者のアクセントを観察すると,外国人による中間言語と全く同じアクセントが 使われているようであり,また,かなりの頻度で東京アクセントも聞かれる。
本稿では,東京方言アクセント習得という観点から,無型アクセントに属す る茨城方言話者のアクセントをデータとして,①東京アクセントの習得,②習 得の過程で形成されると予想される,中間のアクセント体系である中間方言:
interdialect(Trudgill l986)の2点について,主にアクセント核の位置を中 心に分析する。調査方法は,山田(1994a)による第二言語習得の調査と同様 で,談話分析とする。
2 調査方法
被験者は8人の男女茨城大学生(19〜23才)で,それぞれ東京アクセントの 習得段階が異なると思われる茨城方言話者であり,全員茨城県で生れ,育ち,
現在も住んでいる。また,両親もこれと同じ条件をそなえている。8人の被験 者をここではJ1〜J8とする。データは筆者(東京方言話者)によるそれぞ れ15分程度のインタビューの談話で,これを録音し,文字化したものである。
この最初のインタビューの後で,もう一度8人にフォローアップ・インタビュー
(Neustup醇1990)をし,方言意識初めのインタビューでのアクセントの意 識,日常の言語生活等について尋ね,これも録音した。なお,本稿では,下線 は東京アクセントのアクセント核の位置をあらわし,「「」印は被験者による 核の位置をあらわす。
3 東京アクセントの習得
東京アクセントの体系としては,個別ルール,普通ルール,ストラテジーの 三つの基本概念(ネウストプニー 1987,Neustupnシ1989)をアクセントのと
らえ方に応用して(山田1994c),データを分析する。
無型アクセント及び中間方言の特徴としては,第二言語習得の場合と同様に,
アクセントが単語やアクセント句ごとに定まっていないで,一回ごとに変わり 得ることが予想され,「習得」を認定するのは非常に困難である。そこで本研 究での「習得」の意味は「ほぼ完全な習得」という程度である。東京アクセン
山田:東京方言アクセントの習得と中間方言の形成 59
トを目標言語として,次の3つの基準が原則としてすべて満たされている状態 を習得とした。①使用頻度がある程度高い。②アクセントが一貫して正しい。
③中間方言の影響を受けていない。これは,中間方言のなかには二つ以上のア クセント句からなるもの(OA〜OP)があり,部分的に正しいアクセントで あっても,中間方言の一部になることがあるためである。
3−1 個別ルール(単語アクセント)
これは,普通ルールに支配されないで,一語一語のアクセントが個別的に決 まるものである。一つのモルフェームからなる語や,要素間の密着度が高い語,
普通ルールの例外等がある。また,普通ルールによって核の位置が決まるべき ものでも,ルールが習得されていない段階では,一語一語,個別ルールとして 習得されることも多いようである。
8人の被験者全員がある程度個別ルールを習得していると思われる(表1)。
習得しやすいものは,①独立性の強い語/やっぱり/,/けっこう/,/なん 『_ 一
か/等,②基本的な語彙/わたし/,/ない/,/おもう/等である。 一 『
表1 東京アクセントの習得
正しいアクセント 習得 被験者 総文節数 の文節数 習得単語数 普通ルール数 J1女 877 850(96.9%) 21(2.4%) 8(0.9%)
J2女 545 523(96.0%) 11(2.0%) 8(1.5%)
J3 男 816 731(89.6%) 23(2.8%) 5(0.6%)
J4女 662 563(85.0%) 12(1.8%) 3(0.5%)
J5女 736 590(80.2%) 10(1.4%) 1(0.1%)
J6 男 859 670(78.0%) 13(1.5%) 1(0.1%)
J7 男 557 434(77.9%) 7(1.3%) 1(0.2%)
J8女 562 412(72.4%) 3(0.5%) 2(0.4%)
3−2 普通ルール
これは一般にアクセント規則といわれているものである。被験者は全員いく つかの普通ルールを習得していると思われ(表1),使用頻度の高いものが習 得されやすいようである。例えば,〈平板式/起伏式要素+です〉のルールと
〈動詞+ます〉のルールを比べると,〈一です〉の方がより複雑なルールであ るにもかかわらず,〈一ます〉より使用頻度が高く,より多くの被験者に習得
されているようである。
3−3 ストラテジー
これは,最も大きくてゆるやかなカテゴリーで,普通ルールは,次の4つの いずれかのストラテジーの下位に属する。また,個々の場合のアクセント核の 位置は,これらのストラテジーによっては規定されない。また,動詞,形容詞 等の活用する要素は連用形中止法のアクセントを基本の型とする。
表2 東京アクセントのストラテジー ●:ピッチが高いモーラ
○:ピッチが低いモーラ ストラテジー 型(代表例) 例(ルール)
ストラテジー1 要素の型・○○ /にほん・で/ /たべ・た/ _一
ストラテジー2 0●●●・○○ /ちば・けん/ /たべ・る/ _一
ストラテジー3 0●●●・●○ /しごと・なかま/ /たべ・圭す/ 一
ストラテジー4 0●●●・●● /にほん・ご/ /でんとう・てき/
[ストラテジー1] ある要素のアクセントをそのまま残す。
例えば,〈名詞+助詞〉/にほん・で/〈動詞+活用語尾〉/左べ・た/。
[ストラテジー2] 要素のさかいめの前のモーラを含む音節に核が置かれる。一
例えば,〈平板式名詞+2つの助詞〉/がくせいに・は/ 〈名詞+接辞〉 一
[ストラテジー3] 要素のさかいめの後のモーラを含む音節に核が置かれる。
例えば,〈名詞+くらい〉/いちねん・ぐらい/ 〈複合語〉/しごと・生 一
かま/ 〈動詞+ます〉/たべ・ます/等。
[ストラテジー4] アクセント核が置かれない場合である。例えば,『
〈名詞+接辞〉/でんとう・てき/,〈複合語〉/ふり・そで/等。
以上がストラテジーとそれに支配される普通ルールの例である。ストラテジー
山田:東京方言アクセントの習得と中間方言の形成 61
には東京方言のアクセント句の型が集約されているが,正じいアクセントはス トラテジーのみによっては,生成されず,普通ルール,個別ルール,個々の単 語アクセントの習得等によって初めて可能になる。
東京方言話者は.個別ルール,普通ルール,ストラテジーをはっきりと意識 しているわけではなく,潜在意識的に使っているものと思われる。また,これ までは,アクセントは主に個別ルール,および普通ルールのみによって論じら れており,ネイディブ・スピーカーが使うと思われるストラテジーという概念 は,新しいものである。そして,ストラテジー1〜4は,被験者が作り出す独 自のストラテジーである中間方言の形成に,大きな影響を及ぼすようである。
上記,3−1 および 3−2により,8人の被験者はすでに東京アクセン トをある程度,習得し始めていることがわかる。また,東京アクセントとは異 なる型に習得(定着)したと思われるものは1例もなかった。
4 中間方言の形成
データのなかの東京アクセントとは異なるアクセントすべてを分析した結果,
次の10種類の型があらわれた。
(1)中間方言ストラテジー
●:アクセント核のあるモーラ
○:アクセント核のないモーラ
[A]〈 ●○○○・○○ 〉
アクセント句の最初のモーラにアクセント核が置かれる。例えば,
/刃いしょは/,/期んせいは/,/飼はり/,/万兀1な/,/Dんり てきな/,/ぞの/等。
*第一音節が長音節の場合は,第一音節のすべてのモーラのピッチが高い 場合も含む。注ユ
[B]〈 ○○○●・○○ 〉
アクセント句の要素のさかいめの前のモーラに核を置く。例えば,
い習・は/,/ボルトガ刃・ごは/,/だ甲・んですけど/,/むかつき1・一_
ますね/,/ふつ「引・の/等。
[C]〈 ○○●○・○○ 〉一
要素の終りから2番目のモーラに核が置かれる。例えば,
/どれ・くち1い/,/デパコト・の/,/ときFき/,/しゅう冠〕う・
一 『
は/ ,/れい研い・の/等。
[D]〈 ○●○○・○○ 〉
要素の終りから3番目のモーラに核が置かれる。例えば,
/い刃んな/,/ある・刃たい・で/,/りっちじょ一、コけん・とか/,
/ウエイ下1レス/等がある。
[0]〈 ○○○○・○○ 〉一
アクセント核がない1平板の場合である。例えば,
/そのひとの…/,/つもりでも/,/しょうがっこうと/,/くるんです けど/等がある。
*データには,句の最後の音節が,その前より高いピッチで発音されてい る例がかなりあった。
[OA]〈 ○○○○・○○ ●○○○・○○ 〉
初めのアクセント句にはアクセント核を置かないで,最後の句の最初のモー ラに核を置く。初めの句に核があった場合は,このストラテジーによって核
を失う。
*最後の句の第一音節が長音節の場合は,第一音節のすべてのモーラのピッ チが高い場合も含む。注1例えば,
/コースの 習あいは/,/いろんな 羽んせいが/,/ビッグサイズっ て いう コとだとは/,/おなじ ぎ疋うコじゅって/等がある。
[OB] 〈 ○○○○・○○ ○○○●・○○ 〉
初めのアクセント句には核が置かれないで,最後の句の要素のさかいめの 前のモーラにアクセント核が置かれる。例えば,
/そつろん かきなが可・も/,/アメリカン・タイプって いう刀・は
/,/いや と函〕・ます/等。
[OC]〈 ○○○○・○○ ○○●○・○○ 〉
核は初めのアクセント句には置かれず,最後の句の要素の終りから2番目 のモーラに置かれる。例えば,
/クラブが けっ羽い・されてる/,/くるまが いっ習い/,/だいが く いち刀ん・の/,/じっかに か刀っ・てとか/等である。}
[OD]〈 ○○○○・○○ ○●○○・○○ 〉
核は初めのアクセント句には置かれず,最後の句の要素の終りから3番目 のモーラに置かれる。データには次の1例があった。
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一
/うちの いも1うと・も/
[OP]〈 ○○○○・○○ 正しいアクセント核 〉一
初めのアクセント句には核は置かれず,最後の句の正しい位置に核がおか れている場合がOPである。例えば,
/至ミの せん羽いでは/,/せっぱ っま1っても/,/たんいを 習れ 一一_ }_
ば/,/せんせいに か「罫って/等である。
一一
これらは,東京アクセントを習得しつつある被験者によって作り出されたと 思われ,目標言語とは異なる独自の体系をなしている。そこでこの体系を中間 方言と呼ぶことができるであろう。中間方言は,Trudgill(1986)によって第 二言語習得の研究における中間言語の概念にならって提案されたものである。
また,この10種類の型(中間方言ストラテジー)は,目標言語,つまり東京ア クセントの強い影響のもとに形成されたと思われる。
(2)中間方言ストラテジーの形成
A〜0の5つは,次のように各目標言語ストラテジー(ストラテジー1〜4)
の下位の,個別ルール,普通ルールの過剰一般化(overgeneralization)であ ると考えられる。つまり,誤りではあるが,すべて目標言語にある型が使われ
ている。
・ ストラテジー1 A,B, C, D,0
・ ストラテジー2 B
・ ストラテジー3 C,D
・ ストラテジー4 0
OA〜OPは,長いアクセント句の場合,アクセント核は句の終りに近い位置 にあるという知覚が加わってできた,A〜0のバリエーションであると言える。
つまり,正しいか正しくないかは別として,被験者全員が目標言語ストラテジー の型にあてはまるA〜0を使うということは,被験者は全員ある程度,目標言 語のアクセントを知覚することができると思われる。しかし,前述のように,
個別ルール,普通ルール,個々の単語アクセント,等が必ずしも習得されてい ないので,過剰一般化,その他による目標言語とは異なるアクセントを生成す るのであろう。認知科学,認知言語学等で使われることば(池上1993)を使って 言い換えると,被験者は,ある程度のアクセントの知覚はできるが,必ずしも 認知はできないとも言えよう。
この中間方言の体系は,外国人が東京アクセントを習得する過程で形成する
中間言語の体系と,一致している(山田1994a, c)。それぞれの母語(母方 言)がまったく異なるところから,この一致は,目標言語が同一の東京アクセ ントであるためと考えられる。この事実は中間方言の場合も,中間言語の場合 も目標言語の影響によって形成されるという仮説の裏付けとなるであう。
5 中間方言の使用
データの分析から,東京アクセント習得過程にあると思われる8人の被験者 の中間方言使用におけるアクセントの特徴を次にまとめる。
(1)可変性
中間方言の使用は可変的である。同一の被験者による同一の単語でも,使わ れる中間方言ストラテジーは必ずしも一定ではないようである。例えばJ7は
天〕い・で/,OBが2回,例えば/ところが あ刃・んで/, OPが2回,
一}
例えば/あると お可うんですけど/のように使われている。
一一
表3 中間方言ストラテジーの使用 1グループ Hグループ
A B C D O 計 OAOBOCODOP 計 1/H
Jl 1 4 5 0 1 11 1 1 2 0 4 8 J2 0 1 10 0 0 11 2 2 1 1 0 6
J3 2 12 9 1 2 26 1 11 4 0 13 29 0.90 J4 3 12 10 0 5 30 4 8 4 0 16 32 0.94 J5 3 23 22 1 6 55 10 12 9 0 13 44 1.25 J6 18 48 32 3 4 105 7 13 4 0 17 41 2.56 J7 5 32 9 1 5 52 5 13 5 0 12 35 1.49 J8 8 31 25 0 14 78 11 5 5 0 16 37 2.ll
(2)発達段階
中間方言ストラテジーの形成には発達段階があると思われる。まず,表1,
に示したように,J1,J2は96%を越えるアクセントの正確さを示しており,
必然的に中間方言の使用頻度は低くなる。これを最終の段階とする。次に残り の6人をみてみると,正しいアクセントの文節数,習得単語数,習得ルール数 は,ほぼ平行している。中間方言A〜0を1グループ,OA〜OPをHグルー プとして,それぞれの使用回数をくらべてみると(表3>,J3, J 4はHグ
山田:東京方言アクセントの習得と中間方言の形成 65
ループの中間方言の方が使用頻度が高く,J5〜J8は1グループの方が頻度 が高い。J3, J 4はJ5〜J8より習得単語数,習得ルール数,正しいアク セントの文節数が多いところから(表1),1グループは比較的,低次の中間 方言であり,Hグループは高次なものであると考えられる。そこで,習得の第 一段階は1,H両グループのD, OD以外のすべての中間方言ストラテジーを 使うが,低次のものが多く,J5, J 6, J 7, J 8がこの段階にいる。第二 段階は,やはり1,H両グループのD, OD以外のすべての中間方言ストラテ
ジーを使うが高次なものの使用が多い。この段階にはJ3, J 4が該当する。
そして,第三段階は使用される中間方言ストラテジーの種類も頻度も減少して,
反対に正確さを増している。これには前述のようにJ1, J 2が該当する。こ れは、山田(1994a)の外国人の場合には、現われていない段階である。この ように中間方言は1が消えて次にHが現れるというものではなく,重なりあい ながら少しずつ連続的に発達するものと思われる。
(3)個人差
中間方言の使用には個人差が見られる。例えば,第一段階の4人をくらべる と,J6は習得単語数は13語(1.5%)で,4人のなかでは一番多いのだが,
中間方言の高度なHグループの使用率が4人のなかで最も低い。おそらくJ6 は他の被験者にくらべて,中間方言を発達させるより,むしろ一語一語習得し ていく方が得意なタイプなのであろうと思われる。
6 東京アクセント習得のプロセス
東京アクセント習得のプロセスは,主に3種類の能力の習得,つまり一語一 語による単語(個別ルール)の習得,普通ルールの習得,そして,中問方言の 発達,による総合的な連続体であると考えられる。以上のことを継時的に図式 化すると,図1のようになる。
まず,(1)インプットに含まれる東京アクセントを知覚することにより,
ストラテジーを形成する。次に,(2)東京アクセントを認知すれば,個別・
普通ルールを形成でき,正しいアクセントの発音が可能になる。しかし,この 認知が誤っている場合は,(3)ルールの過剰一般化である中問方言を形成し,
そのまま発音すれば,誤った発音となり,(4)中間方言の発達により東京ア クセントを認知すればルールを形成し,正しい発音となる。そして,次第に個 別ルール,普通ルールを認知,習得して,正しい発音がふえ,中間方言による
誤った発音が減っていくものと考えられる。
図1
個別ルール
£ハルール → 発 音i正)
②認知
(1)知覚 形成
形成 ステラテジー (4)認知
@形成
(3)※認知
形 成
@ (過剰一般化)※:不完全
中間方言 → 発 音i誤)
一方,ルール習得を困難にさせる要因は, ルールそのものの複雑さ以外にも あると考えられる。しかし,どのような要因であっても,本稿の調査では被験 者の生成した目標言語以外のアクセントには,ほとんど10種類の中間方言スト
ラテジーのどれかが使われていて,それ以外は全体で4例あったのみである。
また,最近の共通語化,つまり東京アクセント習得の原因はテレビ等のマス メディアの発達(馬瀬 1981),及び人の交流による東京アクセントとの接触 の増大等が考えられ,いずれにしても目標言語のインプットの量が多くなった と解釈できる。つまり,目標言語の十分な量のインプットは,東京アクセント 習得に欠くことのできない条件であるといえる。
フォローアップ・インタビューの結果からは,どの被験者も,ていねいな話 し方や共通語を使うことをこころがけている時でも,アクセントを意識するこ とはほとんど無いらしいということがわかった。そこで,東京アクセント習得 のプロセスは潜在意識的であると考えられる。
以上の茨城方言話者による中間方言使用の特徴,および東京アクセント習得 のプロセスは,そのまま外国人による東京アクセント習得のプロセス,中間言 語使用の特徴と一致している。
7 茨城方言(無型)アクセントと中間方言,そして外国人による中間言語 前述の,中間方言の可変性は,これまで無型アクセントの特徴とされてきた もの(平山1986)に非常によく似ているし,中間方言の体系は,山口(1989)
による茨城方言の音調パターンの一部に類似点が見られる。これらの類似性の
山田:東京方言アクセントの習得と中間方言の形成 67
可能性は次のように,ある程度の推測ができる。平山によると,無型アクセン トは崩壊アクセントとも呼ばれ,京都方言や東京方言等の明瞭アクセントが曖 昧アクセントになった結果生まれたものとされている。これは要するに崩壊に
より,ストラテジーは保持しているが,ルールや単語アクセントを失った状態 と解することができる。つまり,アクセント句や単語のアクセントを知覚はで きるが,認知はできないとも言えよう。これは筆者が前に述べた中間方言,そ して外国人による中間言語の特徴とぴったり一致している。ただし,中間方言 や中間言語は東京アクセントを目標言語として発達する連続体であるのに対し て,無型アクセントは変化が停止した(化石化した)状態に近いのではないか と推測できる。今回のデータはすべて,既に東京アクセントの習得途上にある と思われるものであり,ルールや単語アクセントをある程度習得し始めている と思われ,当然,茨城方言アクセント(無型アクセント)とは、異なるであろ う。また,この類似性の原因に関しては,筆者の個人的な推測であるので,無 型アクセントがどこまで中間方言と一致するのか,また,東京方言アクセント 習得の観点による,母方言としての特性等は,共通語化以前の典型的な無型ア クセントのきちんとしたデータによる分析結果を待たなければならない。
次に,東京アクセントの習得について考えてみると,目標言語が共通である 限り,どんな母語をもつ外国人でも,同じ中間言語を形成すると考えられるの と同じように,日本人による東京アクセント習得,すなわち,共通語化の途中 にある方言には多くの場合,共通の中間方言が使われることが予測できる。筆 者は,関西方言話者,鹿児島方言話者が,同じ中間方言ストラテジーを使って いるのを観察している。
8 おわりに
本研究では,無型アクセント話者がある程度東京アクセントを習得している 実態と,習得途上において形成される中間方言の体系,特徴等をデータから分 析し,考察した。
中間方言の体系,特徴が第二言語習得における中間言語のものと共通するこ とを確認し,どちらの場合も目標言語の影響によって形成されるという仮説
(Yamada1992,山田1994 a, c, Yamada l994)の裏付けとなったと言える であろう。このことから,日本各地の方言話者による共通語化の過程で同じ中 間方言が形成されることが予測されるが,これについての研究は今後の課題と
したい。
(付記)
本稿は1994年度 日本音声学会全国大会で,口頭発表した際の発表論文に,
加筆,修正をし,発展させて書き改めたものである。その折りに貴重なコメン トをくださった方々に感謝申し上げたい。また,被験者として,調査に快く協 力してくださった8人の茨城大生のみなさん,及びデータ整理を手伝ってくだ
さった安藤真希子さんに,感謝の意を表したい。
注
1 東京方言話者も,長音節で始まる頭高アクセントの場合,この型をバリエーショ ンとして,使うと思われる。
「参考文献」
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一