• 検索結果がありません。

( Memoirs of the Faculty of Education and Human Studies )

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "( Memoirs of the Faculty of Education and Human Studies )"

Copied!
10
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

( Memoirs of the Faculty of Education and Human Studies )

Akita University(Natural Science)

62,19−28(2007)

1.緒 言

戦後,日本では急激な生活様式の欧米化に伴って,食 生活が大きく変化した。摂取熱量は 2000kcal/day 前後 と大きな変化はないが,三大栄養素の摂取構成比が顕著 に変化した(1) 。最も大きく変化したのは脂質で,1955 年と比較して 2000 年では摂取量が 3 倍以上に増加した。

この間,炭水化物(糖質)は約25%減少し,タンパク質 は約20%増加している。このように,食生活の欧米化は,

脂質摂取量の顕著な増大に特徴がある。

脂質はエネルギー産生及び蓄積に関与する主要な栄養

素であるが,同時に細胞膜の構成成分や生理活性物質の 生合成材料として,生理機能の調節にも関与している。

脂質の主要構成成分は脂肪酸であるが,多価不飽和脂肪 酸であるリノール酸(18:2n-6)とα-リノレン酸(18:3n- 3)は,動物体内では生合成できない必須脂肪酸である。

両系列(n-6 ,n-3 系列)は,生体内では相互変換されず,

その代謝は互いに競合的である(2)。n-6 系列のリノー ル酸から生合成されるアラキドン酸(20:4n-6)は,プロ スタグランジンやロイコトリエン,トロンボキサンなど 強い生理活性をもつエイコサノイドの前駆体であり,炎

精白米の脂質含量及び脂肪酸組成の品種による相違と 食事脂質バランスに及ぼす影響

池 本   敦・長 沼 誠 子

Varietal Differences in Lipid Content and Fatty Acid Composition of Milled Rice and Their Influence on Dietary Balance of Lipid Nutrition

Atsushi IKEMOTO and Seiko NAGANUMA 

Department of Family and Consumer Studies, Faculty of Education and Human Studies, Akita University

Abstract

Several rice varieties produced in Akita and other prefectures in Japan were analyzed for lipid content and fatty acid composition. Total fatty acid content in milled rice was significantly changed in the varieties;

Kirara 397 (Hokkaido) has the highest fatty acid content, 1126.8 mg per 100 g of milled rice. Tugaru Roman (Aomori)  has  the  lowest  fatty  acid  content,  551  mg.  Akita  Komachi  produced  in  the  two  region  of  Akita prefecture has relatively lower fatty acid content within the analyzed varieties. The ratio of saturated/mo- nounsaturated/polyunsaturated fatty acid was relatively constant although the n-6/n-3 ratio of polyunsatu- rated fatty acid showed higher diversity in the rice varieties; Hinohikari (Saga) has the highest n-6/n-3 ra- tio, 36.12. Hitomebore (Iwate) has the lowest n-6/n-3 ratio, 23.62. We estimated the impacts of these differ- ences on dietary balance of lipid nutrition in the Japanese. The fatty acid intake from each food category was calculated by using the data from the National Nutrition Survey in Japan (2004) and the statistical in- formation  about  food  production  and  import  provided  by  government  of  Japan.  The  estimation  revealed the Japanese intakes relatively higher amount of fatty acid from grain (6.326 g/day, 11.92% of the total fat- ty acid intake in diet). The n-6/n-3 ratio of the Japanese standard diet was 4.585. We replaced grain data by the value of milled rice analyzed in this study. Total fatty acid intake changed from 49.235 g to 51.823 and n-6/n-3 ratio also changed from 4.131 to 4.450 within the rice varieties. Thus, these results indicate differ- ences in rice varieties have considerable influence on dietary balance of lipid nutrition.

Keyword: Rice, Grain, Variety, Fatty acid, Linoleic acid, α-Linolenic acid, N-6/n-3 balance

(2)

症や血栓形成,細胞増殖などを促進するオータコイド

(ホルモン様物質)として作用する。一方で,n-3 系列の α-リノレン酸から生合成されるエイコサペンタエン酸

(EPA,20:5n-3)は,アラキドン酸と比較してエイコサ ノイド生合成の基質となりにくく,生理活性もアラキド ン酸由来のエイコサノイドの数十〜数百分の一であるこ とが知られている(3)。以上のことから,n-6 系列脂肪 酸由来のエイコサノイドの過剰産生が関与する各種慢性 疾患の予防・抑制に,n-3 系列脂肪酸は重要な栄養学的 意義を持っている(4) 。

また,α-リノレン酸から生合成されるドコサヘキサ エン酸(DHA,22:6n-3)は,生体内では脳に濃縮され ている。n-3 系列脂肪酸欠乏食を長期間与えたラットで は,脳内 DHA 含量が半分以下に低下し,それに伴って 学習能試験の成績が低下する。この際,欠乏ラットに n- 3 系列脂肪酸を補給しても,リノール酸を過剰に摂取す ると,学習能の回復が阻害されることが示されている

(5)。このように,食事脂質の必須脂肪酸バランス(n- 6/n-3比)は,生活習慣病予防や脳機能維持の観点から,

健康増進に重要な食生活指標であるといえる。

脂質の摂取量が顕著に増大した期間,肉類や植物油の 消費量が増大したため,リノール酸の n-6 系列の摂取量 は増加していった。しかし,水質汚染や食嗜好の変化等 の理由により魚介類の消費量があまり増大しなかったた め,α-リノレン酸や EPA・DHA など n-3 系列の摂取量 は相対的にはそれ程増加しなかった。そのために,n- 6/n-3 比は食生活の変化に伴って増大していった(6)。

このように脂質は,摂取量の増大と合わせて質的にも変 化し,それに付随して欧米型ガン(肺ガン,大腸ガン,

乳ガン)や炎症性疾患が増加するなど,疾病構造も欧米 型に変化してきたことが指摘されている。

厚生労働省による日本人の食事摂取基準 2005 年度版 では,男性・女性のいずれも脂質の適正摂取量は,総エ ネルギーに占める割合(脂肪エネルギー比率)として,

1〜29歳は20〜30%,30〜69歳は20〜25%,70歳以上 は 15 〜 25%としている(7)。必須脂肪酸であるリノー ル酸の必要量はヒトでは厳密には決定されていないが,

動物実験などのデータからエネルギー比率で1〜2%程 度と考えられている。この量は穀物や肉類などから十分 に摂取されており,必要以上に油脂類からリノール酸を 摂取していることが n-6/n-3 比の増大につながっている ことが示唆されている(6)。また,n-3 系列脂肪酸の供 給源の大部分を占める魚介類は,肉類と比較して摂取量 がそれ程増加していないので,このことも n-6/n-3 比の 増大に一因となっている。

以上のような背景から,食事脂質の必須脂肪酸バラン スを評価する場合,サラダ油などの油脂類だけでなく,

穀物や肉,魚介類などの食品群全体を考慮するのが妥当 である。特に穀物は消費量が大きい主食であることから,

その影響を考える必要がある。しかし,穀物は脂質含量 が他の食品群と比較して少ないために,脂質成分の評価 が十分に行われていないのが現状である。

米は日本人の主要な主食穀物であるため,品種改良や 栽培条件に関する研究の報告は多く存在する。その際に,

主要成分であるアミロースやアミロペクチンなどの炭水 化物(糖質)やグロブリンなどのタンパク質は調理特性 やテクスチャーに及ぼす影響が大きいことから,詳細に 分析されている。一方で,脂質含量の変化を解析した報 告は少ないが,米糠や精白米の脂質含量や脂肪酸組成が 栽培時期や過熟期間の影響を受けることや(8, 9) ,北 海道米やその他のイネ科作物の脂質成分の詳細な分析例 などが報告されている(10, 11) 。しかし,多価不飽和脂 肪酸の詳細な分析やそれに基づいた必須脂肪酸バランス n-6/n-3 比の測定は行われていない。また,現在日本人 が摂取している主要な品種についての脂質含量や脂肪酸 組成のデータは乏しいのが現状である。

このような背景から,本研究では,秋田県産の代表的 品種を中心に全国の主要な品種の精白米の脂質含量及び 脂肪酸組成を測定し,品種及び栽培地での相違について 検討を行った。また,日本人の食生活を考える場合,穀 物及びその代表である米がどの程度の食事脂質バランス に影響するのかを解析し,米の品種選択がそれらに及ぼ す影響を検討したので報告する。

2.実験材料及び研究方法 2-1 実験材料

各種品種及び産地の精白米は一般に市販されているも のを利用した。脂質分析に使用した溶媒は全て和光純薬

(株)の特級試薬を使用した。脂肪酸のメチルエステル 化に用いた塩酸メタノール試薬は東京化成(株),ガス クロマトグラフィーの標準物質はフナコシ(株)から購 入したものを使用した。

2-2 脂質の抽出及び分析

精白米を粉末化したもの 0.1 g に内部標準物質として ヘプタデカン酸(17: 0)を添加した後,BlighとDyerら の方法によりクロロホルム-メタノールで脂質を抽出し た(12) 。抽出した脂質は,溶媒を窒素乾固後,1  ml の 塩酸メタノール(10%,  w/v)を加えて100℃で1時間加 熱することにより,構成脂肪酸をメチルエステル誘導体 化した。脂肪酸メチルエステルを石油エーテルで抽出後,

ガスクロマトグラフィー GC-14A(島津製作所,キャピ

ラリーカラム;DB225,  J&W  SCIENTIFIC)で分析し

た(5) 。

(3)

2-3 食事脂質バランスの評価

厚生労働省による平成16年度国民健康・栄養調査の結 果から,性・年齢階級別の食品群別摂取量(1日当たり 平均)のデータを利用した(13)。食品群のデータは,

穀類,いも類,豆類,種実類,野菜類,果実類,きのこ 類,海草類,魚介類,肉類,卵類,乳類,油脂類,菓子 類,調味料・香辛料類の総摂取量を脂質摂取量の計算に 用いたが,砂糖・甘味料類,嗜好飲料類は脂質を含まな いため計算には用いなかった。また,補助栄養素・特定 保健用食品については製品を特定できないため除外した。

各食品群の個別食品の内訳は,農林水産省統計部 に よる食品統計平成 17 年版から個別食品の国内生産量を 利用し(14),財務省資料に基づいた食料品貿易統計年 報2006年版より輸入食品量を用いて試算した(15) 。両 資料より,国民一人当たりの各食品の消費量を算出し,

その割合によって平成16年度国民健康・栄養調査による 食品群別摂取量を分解することにより,各食品群の個別 食品の摂取量を算出した。以上のような算出法による穀 類の国民一人当たりの消費量の内訳は,米 64.53%,小 麦 33.89%,大麦 0.21%,裸麦 0.11%,とうもろこし 0.53

%,その他の雑穀0.7%であった。

算出した各食品群の個別食品摂取量の値を用いて,文 部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会による五 訂増補日本食品標準成分表及び同脂肪酸成分表を利用し て,各食品群の総脂質量及び脂肪酸組成を求めた(16, 17)。成分表に記載のない魚介類については,財団法人 日本水産油脂協会の魚介類の脂肪酸組成表のデータを使 用した(18)。このような算出法で用いた穀物のデータ を今回実験で求めた主要品種の精白米の脂質含量及び脂 肪酸組成に値に置き換えることにより,米の品種選択の 及ぼす影響を解析した。

3.結果と考察

3-1 各種品種の精白米の総脂肪酸量

五訂増補日本食品標準成分表では,精白米(水稲穀粒)

の脂質量は可食部 100 g 当たり 900 mg,総脂肪酸量は 810 mg とされている(16,  17)。今回分析した精白米の 品種はいずれもこの値と同等であり ,総脂質量の約 90 %が総脂肪酸量の値であった。以上のことから,脂 肪酸以外の脂質成分の寄与は約1割程度であり,これら に品種による大きな差は見られないことが分かった(デ ータ省略) 。

図1は今回分析した精白米の総脂肪酸量を表している が,品種により顕著な相違が見られた。最も含量が低か った品種はつがるロマン(青森県)で,551.0 mgであっ た。一方で,最も含量が高かったのはきらら397(北海 道)であり,1126.8 mgとつがるロマンの2倍以上の値で

あった。あきたこまちは秋田市産と秋田県仙北郡産でそ れぞれ625.0 mg,671.2 mg であり,産地による差異は小 さく,つがるロマンとひのひかり(佐賀県)に続いて低 脂質含量であった。国内消費量の最も多いこしひかりは 北陸産と京都産で若干の相違が見られたが,全体的には 産地よりも品種による総脂肪酸量の違いの方が大きかっ た。

精白米の水分率及び脂質含量は,30 ヶ月の保存期間 においてほとんど変化がないことが報告されている

(19) 。今回分析した値の中央値は,五訂増補日本食品標 準成分表のデータとほぼ一致した。以上のことから,本 研究で得られた精白米の総脂肪酸量に関するデータは信 頼性が高いものであると考えられる。

3-2 各種品種の精白米の脂肪酸組成

秋田県産の品種の精白米 100 g 当たりの脂肪酸の含量

(mg)及びその組成(%)を表1に示した。同様に,産 地が秋田県以外の品種のデータを表2に示した。あきた こまちは,産地間で脂肪酸組成が若干異なっていた。秋 田市産と比較して,仙北郡産ではパルミチン酸(16:0)

とリノール酸(18:2n-6)の含量が低く,オレイン酸

(18:1)の含量が高かった。総脂肪酸含量はほぼ同等で あったので,栽培条件により脂肪酸の鎖長延長反応や不 飽和化反応に変動が見られた可能性が考えられる。ささ にしきは秋田産では最も脂質含量が高かったが,他の品 種と比較して個々の脂肪酸含量が全体的に高いため,脂 肪酸組成に大きな相違は見られなかった。このように,

品種間による脂肪酸組成の差はそれ程大きなものではな 図1.各種品種の精白米の総脂肪酸量

値は精白米 100 g 当たりの総脂肪酸量(mg)であり、

4回の実験による平均値±標準偏差を表す。品種の括弧

内は産地を表す。

(4)

かった。

秋田産以外の品種も含めて今回分析した脂肪酸組成の データを見ると,リノール酸(18:2n-6)の割合が最も低 かったのはこしひかり(京都府)の 39.96%であり,最 も高かったきらら 397 は 45.92%と約 6 %の幅があった。

きらら397は総脂肪酸量が最も高かったので,リノール 酸(18:2n-6)含量は 517.4 mg と最も低いひのひかり 251.8 mg の2倍以上であった。α-リノレン酸(18:3n-3)

の割合が最も低かったのはひのひかりの 1.16%であり,

最も高かったきらら 397 は 1.78%と 0.62%の幅があった。

表2.秋田県産以外の各種品種の精白米の脂肪酸量と組成

値は上段は精白米100g当たりの総脂肪酸量(mg) ,下段は総脂肪酸に占める各脂肪酸の割合(%)で あり,4回の実験による平均値±標準偏差を表す。品種の括弧内は産地を表す。

表1.秋田県産の各種品種の精白米の脂肪酸量と組成

値は上段は精白米100g当たりの総脂肪酸量(mg) ,下段は総脂肪酸に占める各脂肪酸の割合(%)で

あり,4回の実験による平均値±標準偏差を表す。品種の括弧内は産地を表す。

(5)

図2. 各種品種の精白米の飽和、一価不飽和、多価不飽和脂肪酸の含量

値は精白米100g 当たりの脂肪酸量(mg)であり,4回の実験による平均値±標準偏差を表す。品種 の括弧内は産地を表す。

きらら397とつがるロマンは総脂肪酸量は対照的であっ たが,脂肪酸組成ではいずれも必須脂肪酸のリノール酸

(18:2n-6)とα-リノレン酸(18:3n-3)の割合が高く,オ レイン酸(18:1)の割合が低かった。

3-3 飽和,一価不飽和,多価不飽和脂肪酸の組成 飽和,一価不飽和,多価不飽和脂肪酸の含量を図2に,

脂肪酸組成を図3に表した。あきたこまちは秋田市産の ものと比較して仙北郡産のものは一価不飽和脂肪酸の含 量及び組成が高かった。こしひかりは,京都府産と比較 して,北陸二県のものは飽和脂肪酸の組成が高く,一価 不飽和脂肪酸の組成は低かった。このように,品種が同 じでも,栽培地により脂肪酸組成は変動していた。栽培 条件が脂肪酸組成に影響を与えている可能性が考えられ る。きらら397は全体に脂質含量が高かったが,飽和・

一価不飽和・多価の組成には大きな違いは見られなかっ た。

全体的に,図 1 の総脂肪酸量の値を反映して,図 2 に 示された飽和,一価不飽和,多価不飽和脂肪酸の含量は 品種間により大きな相違が見られたが,図3に示された ように組成に換算すると品種間の差は小さくなった。以 上より,品種間の相違は,飽和・一価不飽和・多価の組

成よりも総脂肪酸量で大きいことが分かった。

3-4 各種品種の必須脂肪酸バランスn-6/n-3比 n-6/n-3 比として表される必須脂肪酸バランスの値を 図4に示した。最もn-6/n-3 比が低かったのはひとめぼ れで23.62であり,最も高かったのはひのひかりで36.12 であった。このように n-6/n-3 比には品種間で比較的大 きな差が観察された。同じ品種における産地間の相違は,

あきたこまちでは観察されなかったが,こしひかりでは 観察された。北陸の石川県産と富山県産の n-6/n-3 比は それぞれ 28.03,27.23 と同等であったが,京都府産は 30.25 と高い値を示した。脂肪酸含量の最も多かったき らら397と最も少なかったつがるロマンの値はそれぞれ 25.80,27.88 と分析した品種の中では中間的な値を示し た。このことより,脂質含量の変化と必須脂肪酸バラン スの n-6/n-3 比は相関していないことが明らかとなった。

日本人の食生活において最適な必須脂肪酸バランス n-

6/n-3 比については学界においても議論の対象となって

いる。1999 年に策定された第六次改訂日本人の栄養所

要量では,この比を4程度を目安とすることが記載され

ている(20) 。これは現状の日本人の平均的な n-6/n-3 比

が4.2前後であること(21) ,日本人の平均寿命が男女と

(6)

も世界上位であり,特に現状で健康状態に支障がないと の考えから,1994 年の第五次改定時に目安量として設

定された値である(22) 。その値が1999年の第六次改定 でも踏襲されたために,n-6/n-3比を4程度とする目安値 は,1994年から2004年までの10年間利用された。

第七次改定となる日本人の食事摂取基準 2005 年度版 は,大規模なコホート研究等の信頼できるヒトでのデー タに基づいて作製されており,エビデンスが重視されて いる。そこでは第五次・第六次改定の n-6/n-3 比の値は 削除され,新たに表3のような目安量及び目標量が設定 された(7)。この表の n-6 系列脂肪酸の目安量と n-3 系 列脂肪酸の目標量から n-6/n-3 比を算出すると,成人男 性では3.45〜 4.61以下,成人女性では3.50〜 4.55以下が 指標値と計算される。これは実質的に第五次・第六次改 定の値と同程度となっている 。しかし,リノール酸

(18:2n-6)を過剰に摂取すると炎症惹起物質を生成する ことから目標量が 10%エネルギー比率以下に定められ た。一方で,n-3 系列脂肪酸は心疾患予防に有効なこと から目標量を現在の日本人の中央値である2.0〜2.9g/日 以上とするよう定めている(23,  24)。このように,n- 6/n-3 比は明示されていないものの,これまでの基準と 比較して n-6 系列脂肪酸を少なめに,n-3 系列脂肪酸を 多めに摂取することが強調されている。

図3.各種品種の精白米の飽和、一価不飽和、多価不飽和脂肪酸の組成

値は精白米の総脂肪酸に占める各脂肪酸の割合(%)であり、4回の実験による平均値±標準偏差を 表す。品種の括弧内は産地を表す。

図4.各種品種の精白米の多価不飽和脂肪酸のn-6/n-3比 値は精白米のリノール酸(18:2n-6)/α-リノレン酸

(18:3n-3)の比であり,4回の実験による平均値±標準偏

差を表す。品種の括弧内は産地を表す。

(7)

上記の指標はあくまでも健康なヒトを対象としたもの であるが,日本脂質栄養学会ではガン・成人病などの予 防(一次,二次,三次)の目的には n-6/n-3 比 = 2を推 奨している(25) 。また,リノール酸(18:2n-6)摂取量 も1日のエネルギー比率3%以下(8 g)に制限するこ とも提案されている(26)。脂質栄養の基礎研究者から は,生活習慣病の予防のためには,さらに積極的に n- 6/n-3 比を低下させることが必要であるとの意見が多い。

一方で,実験動物を用いたデータは蓄積しているものの,

ヒトによるコホート研究などのエビデンスに乏しいのが 現状であり,適正食事摂取基準を科学的に設定するため には限界がある。

精白米の n-6/n-3 比は,今回測定した品種では25.80〜

36.12 と食事摂取基準と比較して非常に高値であった

(図4) 。一方で,精白米は他の食品群と比較して脂質含 量が低いので,食事脂質バランスに及ぼす影響はこれま ではあまり考慮されていない。そこで次に,精白米の脂 質レベルが食生活全体にどのような影響を及ぼすのかを 解析した。

3-5 日本人の食事脂質バランスの算定

平成16年度国民健康・栄養調査及び食品統計平成17年 版と食料品貿易統計年報 2006 年版のデータを利用し,

各食品群からの国民一人当たりの脂肪酸摂取量の値を算 出した(表4)。一日に摂取する総脂肪酸量は 53.084g

(総脂肪酸の総量の合計)と試算さたが,これは一日当 たりの総脂質摂取量 66.4g の約8割に当たる。最も脂肪 酸摂取量の多い食品群は肉類であり,13.275g(25.01%)

を摂取していた。次いで,油脂類9.428(17.76%) ,豆類

9.811g(18.48%)の順に脂肪酸摂取量が多かった。穀物 はこれらに続いて4番目に脂肪酸摂取量が多く,6.326g と全体の 11.92%を占めていた。このように穀物自身は 低脂質含量の食品であるが,摂取量自体が多いために,

食事脂質バランスに及ぼす寄与も比較的大きいことが分 かった。

各食品群を合計した食事脂質全体の必須脂肪酸バラン ス n-6/n-3 比は4.585であった(表4) 。1971年から1990 年の20年間の国民栄養調査成績から試算した n-6/n-3 比 は 4.22 ± 0.07 と報告されている(21)。この値と本研究 の試算値を比較すると,今回用いた調査結果は平成 16 年(2004 年)のデータであるので,それまでの 14 年間 に n-6/n-3 比が着実に増加しきたことが示唆される。

各食品群の n-6/n-3 比は,種実類で最も高く 23.345,

次いできのこ類の19.247であった。ただし,これらの食 品群から摂取する脂肪酸量は低いので,食生活全体に及 ぼす影響は小さいと考えられる。穀物はこれらに次いで 3番目に n-6/n-3 比が高く16.317であったが,摂取する 脂肪酸量も多いことから食事脂質バランスの n-6/n-3 比 に与えるインパクトは大きいと考えられる。特に,穀物 からの n-6 系列脂肪酸の摂取量は 3.219gと豆類に次いで 多く,油脂類よりも多かった。必須脂肪酸であるリノー ル酸(18:2n-6)の最小必要量は動物実験から1〜2%程 度と考えられているが,この値をヒトに当てはめると標 準的な日本人では 2.2 〜 4.4g 程度であるので,穀物から かなり摂取できることになる。

3-6 精白米が食事脂質バランスに及ぼす影響 表4の穀物の値を今回分析した各種品種の精白米に置 表3.日本人の食事摂取基準2005年度版による多価不飽和脂肪酸の摂取基準(7)

厚生労働省によって策定された値で,2005年3月から2010年3月までの5年間の日本人の食事摂取基

準であり,国の健康増進施策や栄養改善指導等を策定する際の基本となる。

(8)

き換えた時の国民一人当たりの1日の食生活全体の脂肪 酸摂取量(g)を試算したデータを表5に表した。米の 消費は穀物の 64.53%を占めるが,小麦,大麦,裸麦,

とうもろこしなどそれ以外の穀物は米と比較して脂質含 量が高く,リノール酸(18:2n-6)の割合も高いので,穀 物を全て精白米のデータに置き換えると,摂取する総脂 肪酸量が 1.26 〜 3.85g 程度低下し,n-6/n-3 比は 0.135 〜 0.466 程度低下した。穀物を摂取する場合には,米の消 費割合を増やすことが食事脂質バランスの改善に有効で あると考えられる。

食事全体の中で,穀物のデータを今回分析した精白米 の各種品種で置換を行い,脂肪酸摂取総量を比較した場

合, つがるロマンを導入した場合で最も低く49.235gで あり,きらら 397 で最も高く 51.823g であった。このよ うに摂取する精白米の品種による相違で最大2.589gの脂 肪酸摂取量の差が食生活の中で生じてくることが分かっ た。また,n-6/n-3 比はひのひかりを食生活に導入した 場合が最も低く 4.131,きらら 397 で最も高く 4.450 であ った。食生活に導入する米の品種の選択で,n-6/n-3 比 に最大 0.319 の差が生じることが示された。この値は,

前述の過去14年間に増加した値(4.22→4.585で0.365の 増加)と同等なものである。以上のように,本研究で明 らかにした各種品種による精白米の脂質含量及び脂肪酸 組成の相違は,食生活に適用した場合にも,食事脂質バ 表4.日本人の食事脂質バランス

平成16年度国民健康・栄養調査及び食品統計平成17年版と食料品貿易統計年報2006年版のデータを利 用し,各食品群からの国民一人当たりの脂肪酸摂取量の値を五訂増補日本食品成分表及び同脂肪酸組成 表の値を用いて算出した。

表5.精白米の品種選択が食生活全体の脂質バランスに及ぼす影響

表4の穀物の値を今回分析した各種品種の精白米の値に置き換えた時の国民一人当たりの1日の食生活全体の脂肪

酸摂取量(g)及び n-6/n-3 比を算出した。

(9)

ランスに少なからず影響を及ぼすことが明らかとなった。

4.結 言

脱脂した米に食用油などの脂質を再添加する実験か ら,米飯の硬さの上昇や凝集性・付着性の低下に脂質が 働いていることが報告されている(27)。米の老化防止 に脂質が寄与していることも示されており,米の品質や テクスチャー特性にも脂質は重要な役割を果たしている と考えられる。また,食塩や酢を使用した米飯の調理方 法は多いが,これらの添加はアミロース・脂質複合体に 影響することで,テクスチャーに影響していることが示 されている(28)。このように調理科学的な面では,米 の脂質成分は一定の役割を果たしている。

一方で,米をはじめとした穀物は,食物学的には炭水 化物(糖質)と分類されており,他の食品群と比較して 脂質含量が低いことから,脂質栄養の分野では十分にそ の影響が考慮されていなかった。本研究の解析により,

穀物からの脂肪酸摂取量は食事全体の約12%を占め,そ の n-6/n-3 比も約 16.3 と高値であったことから,脂質栄 養学の側面においても穀物は重要な構成要素であること が明らかとなった。さらに,精白米の品種間では総脂肪 酸量に比較的大きな相違があることが分かり,n-6/n-3 比にも一定の多様性があることが分かった。日本人の食 生活の解析から,これらの結果は食事脂質バランスに少 なからず影響することが示された。こうしたデータは,

消費者が米の銘柄・品種や産地を選択する場合に一定の 判断材料となる。

近年,生活者の健康志向の高まりを反映して,機能性 を持った米の新品種や加工品が開発されるようになっ た。例えば,アレルギー予防を目指し低アレルゲン化を 指向した,タンパク質組成に特徴を有する新品種や(29) , 高血圧に有効な γ-アミノ酪酸(GABA)含量を高める ために加工処理した発芽玄米などがある(30)。脂質摂 取量の増大や必須脂肪酸バランス n-6/n-3 比の上昇が生 活習慣病の増大の一因となっていることから,今後,こ れらの予防を目指した新たな水稲品種や加工法が開発さ れれば,健康増進にもたらすインパクトは大きい。今回 分析した精白米の品種には脂質含量や脂肪酸組成に多様 性が観察されたことから,スクリーニング法に脂質栄養 の価値観を導入すれば,こうした視点からの脂質成分に 特徴を持った品種の開発も可能であると考えられる。こ の際,低リノール酸・高α-リノレン酸の新品種の開発 が期待される。

謝 辞

本研究を行うにあたり,脂肪酸組成の分析実験にご協力いただ きました秋田大学大学院教育学研究科家政教育専修学生の加藤

千晴氏及び平成 16 年度秋田県産業教育内地留学生・太田町立太 田中学校家庭科教諭0の武村亜樹子氏に深く感謝いたします。ま た,食事脂質バランスの評価にあたり,データ入力にご協力い ただきました秋田大学教育文化学部学校教育課程教科教育実践 選修家庭科所属学生で生活者科学研究室の卒業研究生である千 葉聖未氏に深く感謝いたします。本研究の一部は,筆頭著者が 受領した平成16〜18文部科学省科学研究費補助金若手研究(B)

「食事の必須脂肪酸バランスによる食欲・肥満の制御に関する研 究」による研究助成によって行われたものであり,感謝の意を 表します。

参考文献

1)渡辺毅(2004)食と病̲生活習慣病を例として., 日本栄養・

食糧学会誌, 57, 15-19.

2)Lands, W. E. M., Inoue, M., Sugiura, Y., and Okuyama, H. (1982) Selective incorporation of polyunsaturated fatty acids into phos- phatidylcholine by rat liver microsomes., J. Biol. Chem., 257, 14968-14972.

3)Lands, W. E. M. (2005) Fish, Omega-3 and Human Health (2nd edition) , AOCS Press, Champaign, IL, USA.

4)Okuyama, H., Kobayashi, T., and Watanabe, S. (1997) Dietary fat- ty acids −the n-6/n-3 balance and chronic elderly diseases. Ex- cess linoleic acid and relative n-3 deficiency syndrome seen in Japan., Prog. Lipid Res., 35, 409-457.

5)Ikemoto, A., Ohishi, M., Sato, Y., Hata, N., Misawa, Y., Fujii, Y., and Okuyama, H. (2001) Reversibility of n-3 fatty acid deficiency- induced alterations of learning behavior in the rat: the level of n-6 fatty acids as another critical factor., J. Lipid Res., 42, 1655-1663.

6)奥山治美(1995)脂質栄養指針は従来のままでよいか., 脂質 栄養学, 4, 16-25.

7)厚生労働省策定(2005)「日本人の食事摂取基準[2005 年度 版]」, 第一出版.

8)平宏和,  平春枝,  前重道雄(1980)米粒の糊熟より過熟期間 における脂質含量および脂肪酸組成の変化., 日本作物学会紀 事, 49, 75-80.

9)平宏和,  平春枝,  藤井啓史(1980)米糠および精白米の脂質 含量および脂肪酸組成におよぼす栽培時期の影響., 日本作物 学会紀事, 49, 559-568.

10)間野康男,  山下昭(1970)北海道米に関する研究 第5報 脂質組成ならびに脂肪酸組成について., 帯広大谷短期大学紀 要, 7, 11-17.

11)間野康男(2000)イネ科作物の子実におけるグリセロ脂質 の分子種に関する研究 その5., 帯広大谷短期大学紀要, 37, 1-13.

12)Bligh, E. G., and Dyer, W. J. (1959) A rapid method of total lipid extraction and purification., Can. J. Biochem. Physiol., 37, 911- 917.

(10)

13)厚生労働省健康局総務課生活習慣病対策室(2004)「平成16 年度国民健康・栄養調査結果の概要」, 厚生労働省.

14)農林水産省統計部(2006)「食品統計−平成 17年版−」,  農 林水産省.

15)オムニ情報開発株式会社(2006)「食料品貿易統計年報

(2006年版)」, オムニ情報開発株式会社

16)文 部 科 学 省 科 学 技 術 ・ 学 術 審 議 会 資 源 調 査 分 科 会 報 告

(2005)「五訂増補日本食品標準成分表」, 国立印刷局.

17)文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会報告 (2005)

「五訂増補日本食品標準成分表 脂肪酸成分表編」,  国立印 刷局.

18)財団法人日本水産油脂協会(1989)「魚介類の脂肪酸組成 表」, 光琳.

19)市川朝子,  小川宣子,  神戸恵,  杉山静代,  下村道子(2003)無 洗もち米の調理特性−貯蔵期間による影響−., 日本調理科学 会誌, 36, 123-129.

20)厚生省策定,健康・栄養情報研究会編集(1999)「第六次改 定 日本人の栄養所要量 食事摂取基準」, 第一出版.

21)平原文子(1995)日本人の食事脂質の質と量の年次変化.,  質栄養学, 4, 73-82.

22)菅野道廣(1995)多価不飽和脂肪酸の適正摂取バランス.,  質栄養学, 4, 26-33.

23)江崎治,  佐藤眞一,  窄野昌信,  三宅吉博,  三戸夏子,  梅澤光政

(2006)n-3 系列多価不飽和脂肪酸の摂取基準の考え方, 日本 栄養・食糧学会誌, 59, 123-158.

24)江崎治(2006)脂質の食事摂取基準とそのevidence, 脂質栄 養学, 15, 7-14.

25)奥山治美(1997)脂質摂取量の推奨値−会長要約1997, 脂質 栄養学, 6, 5-42.

26)奥山治美,  高田秀穂(2002)リノール酸摂取量の削減を勧め る提言(案)について, 脂質栄養学, 11, 17-24.

27)日比喜子(1993)食用油添加による米飯の老化防止効果,  本家政学会誌, 44, 471-476.

28)日比喜子(2002)米澱粉のアミロース・脂質複合体の融解 に対する食塩,砂糖および酢の影響, 日本家政学会誌, 53, 805-810.

29)門間美千子(2005)低アレルゲン米品種ゆきひかりにおけ るタンパク質組成の特徴, 食品総合研究所研究報告, 69, 7-12.

30)後藤明俊(2005)GABA(γ-アミノ酪酸)が多い発芽玄米 用糖質米新品種あゆのひかり, 食品工業, 48, 34-40

参照

関連したドキュメント

 国によると、日本で1年間に発生し た食品ロスは約 643 万トン(平成 28 年度)と推計されており、この量は 国連世界食糧計画( WFP )による食 糧援助量(約

「2008 年 4 月から 1

z 平成20年度経営計画では、平成20-22年度の3年 間平均で投資額6,300億円を見込んでおり、これ は、ピーク時 (平成5年度) と比べ、約3分の1の

群発地震が白山直下 で発生しました。10 月の地震の最大マグ ニチュードは 4 クラ スで、ここ25年間で は最大規模のもので

 2018年度の実利用者92名 (昨年比+ 7 名) ,男性46%,女 性54%の比率で,年齢は40歳代から100歳代までで,中央 値は79.9歳 (昨年比-2.1歳)

鳥類調査では 3 地点年 6 回の合計で 48 種、付着動物調査では 2 地点年1回で 62 種、底生生物調査で は 5 地点年 2 回の合計で