走幅跳の未習熟者の踏切動作
佐藤恭子*・赤津隆稔*・高野祐一*・加治屋純隆**
西嶋尚彦***・服部恒明***・野田洋平*
(1991年9月13日受理)
Take−off Movement of Unexperienced Long Jumper
Kyoko SAToH, Takatoshi AKATsu, Yuichi TAKANo, Sumitaka KAJlYA
Takahiko NlsHIJlMA, Komei HA㎜RI and Yohei NoDA(Received September 13,1991)
は じ め に
走幅跳の成就に関連する主要因は,助走で得られた水平速度と踏切で得られた垂直速度であると 考えられる。水平速度と垂直速度とを結合させるのは踏切技術である。走幅跳の踏切は,水平速度 を大きく損なうことなくスムーズに行われることが大切であり,有効なタイミングの技術によって 適切な跳躍角度を得ることが重要であるとされている。深代1)は,跳躍では,助走スピードに加え てそれを効果的に跳躍距離に結び付ける技術が必要であると述べている。走幅跳のパフォーマンス をあげるには,このような踏切技術の習得が主要な課題となる。しかし,一般的に言われている技 術がそのまますべての発育発達段階において指導されている場合が多いと考えられる。
岡野2)は,走幅跳の指導や学習の過程が発展的な形で示されるべきであり,学習者の発育発達段 階を考慮しながら,一貫した継続性のある指導や学習が行われるべきであるとと示唆している。
未習熟者から一流選手まで同じ技術を指導をするのではなく,発育発達段階に合った指導方法が 明かにされるべきである。中川3)は,跳躍距離に関与している技術要因から,小学生を対象に指導 方法を検討している。さらに,発育発達段階ごとにどのような動作が見られるのか,特に,未習熟 者の走幅跳において,どのような動作がパフォーマンスに大きく関連しているかについて検討する ことが必要であるといえる。この観点から,佐藤ら4)の研究では,未習熟者(女子)を対象に,走
幅跳の跳躍距離と大きく関連している踏切動作を明かにしている。未習熟者の場合,これらの特徴的な動作を考慮した踏切技術の指導が必要となる。さらに,個人
によって体格,体力,年齢,性別などが異なると,身につけている技術(技能)にも違いがあり5),*茨城大学教育学部保健体育講座(〒310 茨城県水戸市文京2丁目1−1).
**ェ前小学校(〒891 鹿児島県大島郡天城町岡前1502).
***?髑蜉w教養部(〒310 茨城県水戸市文京2丁目1−1).
特に,性差による体力の違いが大きいのではないかと思われる。
そこで,本研究では佐藤らの研究と同様の観点から,未習熟者の男子に対する走幅跳の踏切技術 の指導方法を検討するために,相関分析を用いて,未習熟者の男子の走幅跳のパフォーマンスに大
きく関連している踏切動作を明らかにすることを目的とした。方 法
表1 被験者の特性
1.被験者
項目 平均 S.D,被験者は,健康な男子学生65名であり,学校体育の授業以外では走幅跳の経験のない者であった。 身長(cm) 170.50 8.10
表1に示されるように被験者の身長の平均値は 体重(kg) 63フ0 8.63170.50cm,体重は63.70kg,座高は92.60cm,50 m走 座高(cm) 9Z60 2.95
タイムは7.05秒であった。 50m走(秒) 7.05 041 2.測定方法
@ N=65 踏切動作の撮影には,VTRカメラ3台(National
MS−100,M−15)を用いた。砂場の踏切側の枠の中心から左右方向に21mの距離で高さが1.2mの地
点にVTRカメラを設置し,前後3mの範囲を撮影した。さらに,助走の方向に対して右側のVTRカメラから4m手前にVTRカメラをもう1台設置し,前後3mの範囲を撮影した。被験者の肩(肩峰
点),肘関節(上腕外側上穎点),手関節(尺骨頭点),腸稜点(腸骨点結節点),大転子,膝関
節(下腿骨外側穎点)の左右,合計12箇所にマークをつけた。砂場の手前1mのところに1m×2mの枠を設置し,被験者はその枠内で踏み切った。助走距離は被験者が自由にとれるようにした。
2回試技を行い,その記録を測定した。合わせて,50m走,身長,体重,座高を測定した。
3.測定項目
図1に示されるような,走幅跳の踏切準備局面,踏切局面,空地局面の6つの時点を測定の対象 とした。2歩前垂直瞬間は,2歩前接地足外果点の真上を腸稜点が通過する瞬間であった。1歩前 垂直瞬間は,1歩前接地足外果点の真上を腸稜点が通過する瞬間であった。踏切足接地時は,踏切 足が地面に接地した瞬間であった。踏切局面の垂直瞬間は,接地足の真上を腸稜点が通過する瞬間 であった。踏切足離地時は,踏切足が地面を離れる瞬間であった。空中局面の最高点は,腸稜点が
最も高くなった瞬間であった。踏切動作測定項目は,表2に示されるような,踏切準備局面,踏切局面および空中局面における
踏切動作を測定する47項目であった。「上体の傾き」は,上体が鉛直方向に対して前傾しているか後傾しているかどうかであった。「腰
の沈み込み」は,踏切2歩前と踏切1歩前に腰が下がっているかどうかであった。腰の位置は腸稜
点の軌跡によって評価した。「前腕の状態」 「後腕の状態」は,肘がのびているかまがっているかであった。肘関節角度が90度より大きい場合をのびているとした。「後腕の肘の状態」は,肘が後
うに引かれているかどうかであった。肘が体幹より後ろにあれば引いているとした。「前腕の肘の
高さ」 「後腕の肘の高さ」は,肘が肩峰点より上にあるか下にあるかであった。「肘の前後関係」は,両肘が開かれているかどうかであった。肘が体幹の前後に片方ずつあれば開いているとした。
「膝の状態」は,膝がのびているかまがっているかであった。膝関節角度がほぼ180度に近い場合を
「のびている」とした。「膝の位置」は,膝が腸稜点の鉛直下方にあるかどうかであった。「振り
上げ脚の膝の高さ」は,膝が腸稜点より高いか低いかであった。「大腿角」(a)は,両大腿のなす角 であり,120度より大きいか小さいかで評価した。「膝角度」(b)は,大腿と下腿のなす角度であり,接地脚は135度より大きいか小さいか,振り上げ脚は90度より大きいか小さいかで評価した。「足首」
(c)は,足首の屈曲角度であり,90度より大きいか小さいかで評価した。 「接地角」(d)は,踏切脚 の足先と大転子を結んだ線と接地面との角度であり,60度より大きいか小さいかで評価した。 「踏 切角」(e)は,踏切脚の足先と大転子を結んだ線と地面との角度であり,70度より大きいか小さいか で評価した。「跳躍角」(f)は,腸稜点において地面の水平面と踏切方向の腸稜点の軌跡とのなす角
度であり,20度より大きいか小さいかで評価した。「あごの状態」は,あごがでているか引いてい
るかであり,首が後屈なら「出している」とした。 「踏切脚の軌跡」は,外果点の移動軌跡が,弧 を描くなら上からたたくように入る,まっすぐなら地面と水平にはいるとした。 「膝の前後関係」は,両膝が揃っているかずれているかであった。膝関節の一部が少しでも重なっていれば揃ってい るとした。「ストライド」は,踏切1歩前と2歩前のストライドでどちらが大きいかであった。
4.統計解析の方法
測定された踏切動作項目のうち出現率が0.0パーセントのカテゴリーを有する項目を削除した。そ
の結果,得られた41項目84カテゴリーに,走幅跳の跳躍距離を外的基準とする数量化理論1類を適
用した。次に,跳躍距離に関連の高い踏切動作に絞り込むために,重相関係数が0.80を下回らないことを
条件として,偏相関係数の小さい独立変量を削除して解析を行った。.一..・・・… °°°らb
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@ a
@ b
@ c
d e
踏切2歩前 踏切1歩前 踏切足接地時 垂直瞬聞 踏切足離地時 最高点垂直瞬間 垂直瞬聞
踏切準備局面 踏切局面 空中局面
a:大腿角 b:膝角度c:足首の屈曲角度 d:接地角 e:踏切角 £跳躍角
図1 測定の対象とした運動局面と身体部位表2 測定項目の構成
身体離位 踏切準備局面 ・踏切局面 空中局面 全局面
1歩前垂直瞬閥 2歩前垂直瞬間 踏切足接地時 垂直瞬岡 踏切足離地時 最高点
上体 上体の傾き 上体の傾き 上体の傾き 上体の傾き 上体の傾き 上体の傾き
腰 腰の沈み込み 腰の沈み込み腕 嗣腕の状態 前腕の状態
後腕の状態 後腕の状態
後腕の肘の状態 前撹の肘の高さ 前腕の肘の高さ 後腕の肘の高さ 後腕の肘の高さ 肘の前後閲係 肘の前後関係 脚(蕨) 接地脚の膝角度 接地脚の膝角度 聴切脚の糠の状態 踏切脚の膝角度 断切脚の膝の状態 膝の前後閲係
振り上げ脚の膝の位置掘り上げ胸の蕨の位置 掘り上げ脚の膝の位琶 振り上げ脚の膝の位置 大腿角 振り上げ足の膝角度 掘り上げ足の膝角度 搬り上げ脚の膝の高さ
操り上げ脚の膝負度 足 振りLげ脚の足首 振り1二げ脚の足酋 擾り上げ脚の足首 振り上げ脚の足酋
その他 接地角 跡切角 接地角と跡切角 踏切足の軌跡 跳躍角 ストライド
あごの状態 あごの状態
結 果
47項目,129カテゴリーで測定された踏切動作項目において,出現率が0,0パーセントであった項 目は,踏切準備局面の2歩前垂直瞬間と1歩前垂直瞬間で「上体の傾き」が後傾している,2歩前垂 直瞬間で「振り上げ脚の膝の位置」が腰より後方にある,踏切足接地時,垂直瞬間,踏切足離地時 で「振り上げ脚の膝の位置」が腰より前方にある,踏切足離地時で「後腕の肘の高さ」が肩より上
にある,踏切足離地時で「大腿角」が120度より大きいであった。これらの項目を取り除いた41項目84カテゴリーに数量化理論1類を適用し,表3のような結果が
得られた。このとき,重相関係数は0.88であった。重相関係数が0.80を下回らないように項目を削除した結果,14項目30カテゴリーで重相関係数は
0.80であった。14項目のうち,大きいレンジを示した項目は,表4に示されるように,踏切足接地時で「踏切脚
の軌跡」が34.14,踏切足離地時で「踏切脚の膝の状態」が30.56,空中局面で「肘の前後関係」が40.15,全局面で「接地角と踏切角」が32.15であった。レンジが15以上の項目は,1歩前垂直瞬間
で「上体の傾き」が29.79,踏切足接地時で「後腕の肘の状態」が17.24,踏切足離地時で「振り上 げ脚の膝角度」が19.72,空中局面の最高点で「膝の前後関係」が25.14であった。考 察
1.踏切動作パターンと跳躍距離との関係
41項目で測定される踏切動作パターンと跳躍距離との問には,重相関係数0.88の高い関連があっ た。この結果から,未習熟者では,跳躍距離に踏切動作パターンが大きく寄与しているといえる。
踏切動作パターンは,走幅跳に基礎的に要求される踏切技能の発揮によって成就されると考えられ
る。走幅跳の成就は,跳躍距離によって評価される。動作パターンと跳躍距離の間に高い関連があ
表3−1 数量化理論1類による跳躍距離に対する動作項目の貢献の程度(41項目)
運動局面 動作項目 カテゴリー 基準化カテレンジ偏相関係数 ゴリー数量
2歩前垂直瞬間 上体の傾き ほぼ90度 一7.53 1749 α22 前傾している 9.96
腰の沈み込み ある 4!写0 493 α05
なし 一〇.53
振り上げ脚の膝の位置 腰より前 6.92 1285 a18 腰より後ろ 一5.93
接地脚の膝角度 135度以上 1.35 3.65 0.31 135度未満 .之30
振り上げ脚の足首の屈曲角度 90度以下 α56 1.01 0.02 90度より大きい 一α45
振り上げ脚の膝角度 90度未満 弓.56 1542 0.16 90度より大きい 11.86
1歩前垂直瞬間 上体の傾き ほぼ90度 1α00 2499 α31 前傾している 一1499
腰の沈み込み ある 1.63 9.64 0.11 なし 一8』1
振り上げ脚の膝の位置 腰より前 420 13石4 0.16 腰より後ろ 9漸
接地脚の膝角度 135度以上 一7.31 9.50 0.m 135度未満 2.19
振り上げ脚の足首の屈曲角度 90度以下 一3.32 4.07 α05 90度より大きい 0.75
振り上げ脚の膝角度 90度未満 Z62 11.36 0.14 90度より大きい 一8.74
踏切足接地時 踏切脚の膝の状態 のびている 5.67 8.19 α10 まがっている 一2.52
接地角 60度より大きい 一7石3 20.66 0.30 60度以下 13JD3
上体の傾き ほぼ90度 一1.85 7.06 0ρ8 前傾している 5.21
振り上げ脚の膝の位置 腰より前 (M5 0.24 0.01 腰より後ろ ・α09
踏切足の軌跡 地面と平行に入る 一1842 31.51 α46 上からたたくように入る 13」09
後腕の肘の状態 引かれている 4.88 13.79 0.20 引かれていない 一8.91
垂直瞬間 上体の傾き ほぼ90度 一3.7蓋 14,18 0.葺4 前傾している 10.47
接地脚の膝角度 蓋35度以上 0.48 Z41 0.03 135度未満 一1.93
振り上げ脚の膝の位置 腰より前 0。40 1a87 0.07 腰より後ろ 一肱47
振り上げ脚の足首の屈曲角度 90度以下 L24 L65 0.02 90度より大きい .0.41
表3−2 数量化理論1類による跳躍距離に対する動作項目の貢献の程度(41項目)
運動局面 動作項目 カテゴリー 基準化カテレンジ偏相関係数 ゴリー数量
踏切足離地時 上体の傾き ほぼ90度 359 6.31 0.07
前傾している 一2.72あごの状態 引いている 9あ1 1437 022
出している 一5。26肘の前後関係 前後にある 一266 γ20 α10 両方前にある 4.54
前腕の肘の高さ 肩より上にある 一〇.85 Z90 α03 肩より下にある 2、05
後腕の肘の高さ 肩より上にある 一11.83 26.51 0.31 肩より下にある 14石8,
振り上げ脚の膝の高さ 大転子より上 2356 2890 0,27 大転子より下 一5、34
振り上げ脚の膝角度 90度より小さい 似27 23.18 α30 90度以上 一13.91
振り上げ脚の膝の状態 のびている 3.76 2λ23 0.24 まがっている 一18.47
振り上げ足の足首の屈曲角度 90度以下 3.92 9.81 α13 90度より大きい 一5、89
大腿角 120度以上 1534 17.16 0.14 120度より小さい 一1.32
接地角 70度以上 一16.26 1854 〔M9 70度未満 2.28
空中局面 肘の前後関係 前後にある 一17.50 43.21 α34 両方前にある 11.66
体の脇にある 44加
膝の前後関係 揃っている 1534 1831 α22
ずれている 一3.47上体の傾き ほぼ90度 1鉱53 15.66 α15 前傾している 菰13
あごの状態 引いている 1.19 19.31 0.13 出している 一18.12
全局面 ストライド 2歩前が大きい 5.35 2485 0.29
1歩前が大きい 一19.50跳躍角 20度以上 6。45 10.48 0.15 20度未満 一4.03
大腿最大時の位置 1歩前側 3.28 1123 α15 踏切側 峨g5
接地角と踏切角 踏切角が大きい 一1!14 37.49 α30 ほぼ同じ 23.31
接地角が大きい 一12.74 重相関係数:0.88
表4 数量化理論1類による跳躍距離に対する動作項目の貢献の程度(14項目)
運動局面 動作項目 カテゴリー 基準化カテレンジ偏相関係数 ゴリー数量 一 2歩前垂直瞬間 上体の傾き 前傾している 一5!各9 12.75 α21
ほぼ90度 7.26
1歩前垂直瞬間 上体の傾き 前傾している 一17.88 29.79 α43 ほぼ90度 1191
踏切足接地時 接地角 60度より大きい 五〇4 13.10 0.22 60度以下 8.06
踏切足の軌跡 地面と平行に入る 一19.96 34.14 0.49 上からたたくように入る 14.18
後腕の肘の状態 引かれている ω0 17.24 0.27 引かれていない 一1L童4
踏切足離地時 あごの状態 引いている 一217 6.14 0.11 出している 3.97
後腕の肘の高さ 肩より上にある 一661 14β1 0.24 肩より下にある 8.20
振り上げ脚の膝の高さ 大転子より上 21.33 26.16 α35 大転子より下 一4.83
振り上げ脚の膝角度 90度より小さい 7Bg lgJ2 0.30
90度以上 一11.83振り上げ脚の膝の状態 のびている 5.17 3α56 0,37
まがっている 。25.39
空中局面 肘の前後関係 前後にある 4754 40.15 0.40 両方前にある 10」印
体の脇にある 一1L92
膝の前後関係 揃っている 20.50 25.14 α33 ずれている 一4.64
全局面 ストライド 2歩前が大きい 2.67 12.38 (M8
1歩前が大きい 一9.71接地角ζ踏切角 踏切角が大きい 。1LO9 32.15 0.33
同じ 1993
接地角が大きい 一1.13 重相関係数:0.80
ったことより,踏切動作パターンによって測定される踏切技能は,走幅跳の跳躍距離に大きく関連 しているといえる。すなわち,走幅跳を成就するために発揮される技能には,走幅跳に要求される 基礎的な運動技能の1つであると考えられる踏切技能が大きく関与していることが考えられる。
2.未習熟者の動作の特徴
14項目30カテゴリーを用いた数量化理論1類によって得られた重相関係数は,0.80であった。こ
れらの踏切動作は跳躍距離と特に関連があるといえる。踏切局面の踏切足離地時において,膝に関する動作が多くみられ,レンジが大きいことより,こ
の時点での膝の動作が跳躍距離に関連が高いと考えられる。踏切足離地時における踏切脚はしっかり地面を押すために伸ばされているのが一般的である。岡
田6)らの研究結果で,膝関節伸展角度は,習熟者と未習熟者ともほぼ同一であったと述べられてい
る。本研究において未習熟者も踏切離地時に踏切脚の膝は伸ばされているという結果から,習熟者
と同様にのびている動作が有効であると考えられる。
振り上げ脚の膝角度は,未習熟者では,90度より小さい動作が跳躍距離と高い関連を示した。振
り上げ脚は,踏切の中盤で角度を小さくして前方に引きだし,後半で膝を曲げたまま引き上げる7)のが一般的な動きである。しかし,振り上げ脚の膝角度は,競技者の伸展度が大きいとの報告8)も
されている。これは,踏切中にみられる競技者の振り上げ膝関節運動は,非競技者の関節運動と比 較し,極めて積極的な下腿部の振りだしを行っているためと考えられる。しかし,本研究の被験者 の技能を考えると,下腿部の振り出しをしなくても90度より小さい角度で十分有効と思われる。
T.Tellezは,下腿部がTake−off前に垂直を通り越すべきではない9)と述べている。
振り上げ脚の膝の高さは,ほぼ水平まで引き上げられるのが一般的な動作である。未習熟者でも 大転子より高く引き上げるのが跳躍距離との関連が高かった。女子の未習熟者で跳躍距離と関連が 高くなかったことから,男子では,脚力が十分にあり,膝の引き上げが可能であると推測できる。
表5は,本研究で得られた未習熟者に特徴的な踏切動作を競技者の標準的な動作と比較したもの である。未習熟者には,競技レベルで一般的に良いとされる動作にあてはまらない動作がみられた。
1歩前垂直瞬間に上体が後傾している,踏切足接地時に踏切足が上からたたくように踏切に入って
いるというような動作は,跳躍距離に対して正の相関があった。一般的に競技者の踏切動作では,踏切足は助走スピードをより利用するため,滑り込むように前方に運ばれ接地する。女子の未習熟 者においても,踏切足は地面と平行に踏切に入るのが,有効な動作であった。踏切足がたたきつけ るように接地するのは男子の未習熟者に特有の動きと思われる。これは,男子の未習熟者では,助
走スピードを利用するより,脚力を利用しているためと推測される。表5 未習塾者の踏切動作の特徴
運動局面 動作項目 未習熟者 競技者*
踏切1歩前垂直瞬間上体の傾き ほぼ90度 ほぼ90度
踏切足接地時 踏切脚の軌跡 たたくように 地面と平行に入る 後腕の肘の状態 引かれていない 引かれている 踏切足離地時 振り上げ脚の高さ 大転子より上 大転子より上
振り上げ脚の膝角度 90度より小さい 90度より小さい 踏切脚の膝の状態 のびている のびている
空中局面 肘の前後関係 両肘が前 前後に開かれている 膝の前後関係 揃っている 揃っている
全局面 接地角と踏切角 ほぼ同じ
*:走幅跳の競技者の標準的な踏切動作
踏切1歩前垂直瞬間で上体の傾きがほぼ90度,接地角と踏切角がほぼ同じであり,接地角が60度
より小さい,踏切接地時に後腕の肘が引かれてい動作が,跳躍距離と関連を示していることから,未習熟者において,踏切の入り方が重要な動作であると考えられる。踏切1歩前で上体をおこして,
適切な接地角が得られるように準備をし,肘を引いて踏切に入ることが,未習熟者には有効な動作
であると推測される。また,空中局面の最高点で両肘が前にある,膝が揃っているという動作は,競技者の動作にあて はまらない所があるが,どのような空中動作をするかによって動作は大きく異なってくるので,消 失するのが望ましい動作とは一概にいえないであろう。技術が未熟であり,そり跳びやはさみ跳び にはならないこの段階においては,両肘を前に出し,膝を揃えるという動作が,むしろ有効な動作
であると推測される。走幅跳の跳躍距離を決定する要因として多くの文献で跳躍角がとり上げられている。一般的に跳
躍角は,20度前後とされている1°)11)12)が,未習熟者においては跳躍距離と高い関連はみられなかった。未習熟者では,助走スピードや踏切技術が不十分であり,競技者にみられる跳躍角があてはま
らなかったと思われる。
このように,いくつか未習熟者に特有の動作がみられた。しかし,跳躍距離と高い関連を示して
も,競技レベルで考えれば無駄が多いと思われる動作がみられた。1.Terovanesyanは,水平スピー ドのロスする要因をなくしたのがよい踏切技術13)であると述べている。パフォーマンスをあげると いう課題を追及するために,良い動きの技術的追及が十分必要と思われる14)。本研究で得られた特徴的な動作で,競技レベルにあてはまらない動作は,消失するのが望ましいと考えられる。未習熟 者の技術指導では,動作をできるようにすることに加えて無駄な動作をなくしていくことが重要と
考察される。ま と め
本研究は,未習熟者に対する走幅跳の踏切技術の指導方法を検討するために,跳躍距離に大きく 関連している踏切動作を明らかにすることを目的とした。被験者は,走幅跳の競技経験のない,健 康な男子学生65名であった。踏切動作パターンは,踏切準備および踏切局面における動作を測定し た。跳躍距離に対する踏切動作パターンの関連の程度を解析するために,数量化理論1類を適用し
た。その結果,以下のような結論が得られた。(1)41項目で測定される踏切動作パターンと跳躍距離との問に,重相関係数0.88の高い関連があっ
た。
(2)未習熟者の走幅跳における踏切動作の特徴は,
・1歩前垂直瞬間に上体の傾きがほぼ90度である
・踏切足接地時に後腕の肘が引かれている
・踏切足離地時に振り上げ脚の膝が大転子より高い
・踏切足離地時に踏切脚の膝がのびている
・空中局面の最高点で両肘が前にある
・空中局面の最高点で膝が揃っている などであった。
(3)跳躍距離への関連の程度が高く,消失するのが望ましい,未習熟者に特徴的な動作は,
・踏切足接地時に地面をたたくように接地する などであった。
注
1)深代千之「走幅跳と三段跳のBiomecanics」『J. J. S. S.』2−8(1983), pp.600−613.
2)岡野進「跳運動の展開1一走幅跳一」『新体育』48(1978),p.914.
3)中川宏「走り幅跳の指導内容の差異からみた技術要因と跳躍距離との関係」『第9回バイオメカニス学会 大会論集』 (1988),pp.126−131.
4)佐藤恭子・野田洋平・服部匝明・赤津隆稔「女子の走幅跳の踏切動作パターンと跳躍距離の関係」『茨城
大学教育学部教育研究所紀要』23(1991),pp.83−92.
5)栗原崇志「跳の技術」 『新体育』48(1978),p.810.
6)岡田泰士・村田直樹・山神真一「走幅跳の基礎的研究一筋電図からみた踏切時の脚伸展運動について一」
『香川大学教育学部研究報告第1部』69(1986),pp.1−17.
7)佐々木秀幸『ジュニア入門シリーズ<10>陸上競技』 (ベースボール・マガジン社,1988),pp.113−126.
8)岡田泰士・村田直樹・山神真一「走幅跳の踏切脚関節運動に関する筋電図的研究」『香川大学教育学部研
究報告第1部』70(1987),pp.35−61.
9)T.Tellez, Long Jump , Trαcκ、F7θ 4 C澱π84y Rεvjθw,80−4(1980), pp.8−10.
10)J。Walker, Long Jump Ideas , Tノπcん1臨 49罵απε7 y Rεγごεw,87−4(1987), pp.4−5.
11)B.Tee1, Long Jump ,τrαc」k、F78149㍑αr e7 y Rεy εw,87−4(1987), pp.11−14.
12)M.Woicik, Tbe Long Jump , Trαc丸肋14(〜郡απε7 y Rθv 8w,86−4(1986), pp.6−10.
13)1.Terovanesyan, Long Jump Fundamentals ,τrαcん1冠8 49照πε4y、Rεγ∫θw,85−3(1985), pp.4−5.
14)片峯隆・梶山彦三郎・金森勝也・鬼塚純一「陸上競技の跳躍技術指導に関する研究」『福岡大学体育学研 究』19(1989),pp.195−202,