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野中俊彦野中俊彦

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− 3 3 −

現代立憲国家における違憲立法審査制度の本質を明らかにしようとする場合︑違憲立法審査を現実に行なう機関の

憲法上の地位・その権限・その機能等々の検討とならんで︑違憲立法審査機関の人的構成の検討を落すことはできな

︵1︶

い︒なぜならば︑機関の活動は結局のところその機関を構成する人間の活動に外ならず︑その意味において︑違憲立

法審査機関の構成方法の決定は︑制度の本質をすでに決定づけているともいえるからである︒

本稿においては︑西ドイツ連邦憲法裁判所の構成について︑その理論と現実およびそこに含まれる問題点の概略を 西ドイツ連邦憲法裁判所の人的構成

一︑連邦憲法裁判所の地位・権限と構成

二︑憲法裁判官の資格と身分保障

三︑憲法裁判官の選出方法

四︑憲法裁判官の選出状況 結び

序 目次

野中俊彦

(2)

− 3 4 −

らである︒ 追ってみたい︒それは大略次のような問題意識の下に行なわれる︒すなわち西ドイツ連邦憲法裁判所は違憲立法審査

︵2︶

制度の類型の中で︑憲法裁判所として典型的なものであるが︑その性格には多分にあいまいな点が含まれている︒そ

︵3︶

れは﹁司法機関﹂であって﹁政治機関﹂ではないというたてまえで違憲立法審査権を行使しているが︑それは通常の裁

判所とは切り離された憲法上の機関であり︑専ら憲法問題のみを判断し︑しかも抽象的判断も行ないうるという点

で︑普通裁判所の場合と著しく異なった性格をもつ︒しかもそういう︑政治と密着した法を専門に扱う機関としてそ

の構成には特別の政治的配慮がなされていることがうかがえるのである︒そもそも司法機関としての裁判所が違憲立

法審査権を行使することにはパラドックスがある︒司法機関は本来非政治的機関であり︑その判断はもっぱら法的判

断に終始するという立場を堅持しながら憲法問題を判断するといっても︑憲法問題は本質的に非政治的ではありえな

︵△4︶

いし︑政治と法を峻別するという判断もまた政治的判断たりうるからである︒そうだとすれば︑特別の憲法裁判所を

設け︑構成においても権限においても︑通常の裁判機関の枠を越えるものにしながら︑なおかつそれが﹁司法機関﹂

でありうるのか︑ありうるとしたらどのような意味においてであるのか︑﹁司法﹂と﹁政治﹂の限界をどのように画

定しうるかが︑興味ある問題として浮び上ってくる︒著者はこれらの問題を機能面において実証的に解明する意図を

もつが︑それに先立ち︑まず機関の構成面における問題の所在を一とおり概観することが必要と思われる︒けだし冒

頭に述べたような意味において︑連邦憲法裁判所の構成はその活動に︑決定的影響をすでに与えるものだからであ

なお本稿においては組織等の一般的叙述がかなり含まれる︒それは人的構成の問題と密接不可分であるためと︑も

う一つには︑概略しか紹介されていないこの分野について︑より詳しい紹介を行なうことにも意味があると考えるか

︵5︶

プ︵︾○

(3)

− 3 5 −

一︑連邦憲法裁判所の地位・権限と構成

㈲連邦憲法裁判所の地位と権限西ドイツ連邦憲法裁判所がボン基本法体制の中で占める地位とその有する権限

︵1︶

については︑すでに多くの紹介論稿があるので︑これらについてはここでは簡単に要点のみを述べる︒ ︵3︶連邦憲法裁判所が﹁司法機関﹂であることは連邦憲法裁判所自身がくり返し強調しており︑通説も支持している︒﹁裁判所

は立法府に対して自制を行なわなければならず︑立法的自由の限界侵犯のみを確認できる︑という連邦憲法裁判所の判例上

確立している原則︵がある︶︒﹂︵両ロ蕨︒言箆匡目開口号印国ロロ号のぐ①H菌朋巨凋侭①国︒三の届逸恩威.︹獣罠.︺︾三両﹇・鼠︑﹄倫臨.

ロ巴︺︾﹈P誤吟或.︹認蔑・︺旨の言・︶

︵4︶佐藤功﹁憲法の保障﹂日本国憲法体系一巻一三七ページ以下参照︒

︵5︶違憲立法審査制度に関する研究は従来その機能面に集中していた︒しかしわれわれはその機関の組織・構成面にも眼を向け

る必要がある︒なお日本の場合につき︑潮見俊隆・松井康浩﹁戦後の日本社会と法律家﹂岩波講座現代法六巻六一ページ以

下参照︒ ︵1︶違憲立法審査機関の構成員の憲法イデオロギーが統合されて機関の判断となる︒もとよりそれは個々の憲法イデオロギーの

総和とか平均といった単純なものとはならない︒他方︑違憲立法審査制度において保障される憲法とは︑違憲立法審査機関

がこれが憲法であると判断するもの以外のなにものでもなく︑﹁政治的機関による保障と裁判的機関による違憲審査との間

にその点でァ・プリオリな差異はない﹂︵樋口陽一﹁違憲立法審査制の近代型と現代型﹂法律時報一九六七年八月号九ペー

ジ︶︒このことをふまえれば︑およそ違憲立法審査機関が﹁司法機関﹂であるか否かを問わず︑どのような憲法イデオロギ

ーの持主をどのような方法で構成員たらしめているかを事実に即して見究めることがまず必要である︒

︵2︶現代憲法下における違憲立法審査制度は次のように類型化できる︒

一︑政治的機関によるもの︒ア︑国家最高機関︵ソ連邦最高会議︶︒イ︑特別の委員会︵フランス第五共和国憲法評議会︶︒

二︑裁判所によるもの︒ァ︑特別の憲法裁判所︵西ドイツ連邦憲法裁判所︑オーストリー︑イタリー︶︒イ︑通常裁判所内

の特別の組織︵スイス︑中華民国︶︒ハ︑通常裁判所︵日本︑アメリカ︶︒なお諸制度の概略については︑三両一・.ぐ閏昏協︲

巨冒胸の胸囚甘亘吾胃丙①詳言Q2の侭①口重巴〆国①津融函①職ロョ四宮の毎口9mg①ロ黛詩ロ三sのロ詞g茸宮口Qぐひ房①q8頁︾国昌

四つ︾﹈のつい

(4)

− 3 6 −

︵6︶

連邦憲法裁判所には広範かつ強大な権限が基本法および連邦憲法裁判所法により与えられているが︑それらの中で

違憲立法審査権は︑抽象的規範統制手続︵基本法九三条一二項︑法一三条六号︶︑広義の具体的規範統制手続︵基本法一○○

条︑法一三条二・一二・一三・一四号︶︑憲法訴願手続︵法九○・九一条︶において行使される︒違憲の疑いのあるあらゆ

る法律は︑これらの手続のいずれかにより連邦憲法裁判所の判断に委ねられるが︑その際連邦憲法裁判所は違憲立法

審査権を比較的容易に行使しうる︑というよりはむしろ積極的に行使するのがたてまえであること︑さらに場合によ

っては仮命令による執行停止手続︵法三二条︶がとられること︑違憲審査は連邦憲法裁判所の一回的判断として行なわ

れること︑抽象的な違憲審査権も認められていること等々を考慮すれば︑違憲立法審査の点だけに限っても連邦憲法

裁判所は憲法の実質的定立者であるといっても過言ではない︒連邦憲法裁判所は︑これらの場合常に﹁司法機関﹂と

して活動するが︑その性格がどのように規定されるにせよ︑それが必然的に憲法政治の渦中に︑すぐれて政治的なる

ものの中にはいりこまざるをえないことは自明である︒そこで連邦憲法裁判所の機能分析には政治過程の分析を欠か

すことはできないが︑その前にその構成自体が政治的所産であり︑構成過程︵裁判官選出過程︶もまた政治過程である

︵5︶

れる︒ 一般に憲法裁判所が国家機構の中で占める地位に関する見解は定説化しており︑﹁憲法裁判所は一方では︑独立の︑

法にのみ従う真正の裁判所であり︑他方また︑その権限およびそれに基づき行使される機能をみれば︑最高の憲法機

︵ワ︶

関と認められなければならない﹂ということにほぼ一致する︒﹁連邦憲法裁判所は他のあらゆる憲法機関に対して自

︵3︶

立かつ独立した連邦の裁判所である﹂︵連邦憲法裁判所法八以下単に法と略すV一条︶という規定の意味もそのように

理解される︒連邦憲法裁判所が︑他の憲法機関に対して﹁自立かつ独立﹂した機関であることから︑その組織面・予

算面においての独立性が保障されている︒すなわち連邦憲法裁判所の裁判官は通常の司法行政から独立した地位を与

︵4︶

えられ︑裁判所の行政官吏の任免権も裁判所自体に与えられ︑またその予算は独自の個別案として連邦議会に提出ざ

(5)

− 3 7 −

︵ア︶権限の配分まず第一に指摘しなければならないのは︑連邦憲法裁判所の﹁双生児裁判所﹂︵雪三萬樹の号三︶

的構造である︒﹁連邦憲法裁判所は二部から成る﹂︵法二条一項︶︒﹁各部には八人の裁判官が選出される﹂︵二条二項︶︒

そして二つの部はそれぞれ独立して﹁連邦憲法裁判所﹂の名前で︑憲法裁判を行なう︒各部の所管事項は法定されて

おり︑まず第一部は︑﹁もっぱら基本法三三・一○一・一○三・一○四条の基本権または法に︑ある法規が違反して

いるという主張がなされている規範統制手続︵法一三条六・二号︶ならびに九一条に基づく憲法訴願および選挙法に

関する憲法訴願を除く憲法訴願について管轄権を有する﹂︵法一四条一項︶︒第二部は︑.三条一五号・七九号・

一二号︒一四号の各手続ならびに第一部に指定されない規範統制手続および憲法訴願の場合について管轄権を有す

る﹂︵法一四条二項︶︒なお一三条一○・一三号の場合にも一・二項の配分原則に基づいて権限配分がなされる︵法一三

条三項︶︒一九五六年の改正以前には︑これらとは異なる権限配分がなされていたのであるが︑現実の裁判所の活動が 観する︒

︵ア︶ ことをまず押えておかなければならない︑そのことは逐次明らかにされるであろう︒

○連邦憲法裁判所の構成連邦憲法裁判所の構成の枠組は︑まず基本法によって次のように定められている︒

﹁連邦憲法裁判所は︑連邦裁判官およびその他の構成員によって構成される︒連邦憲法裁判所の構成員は︑各半数ず

つ︑連邦議会および連邦参議院によって選ばれる︒構成員は︑連邦議会にも︑連邦参議院にも︑連邦政府にも︑また︑

これらに相当するラントの諸機関にも所属してはならない﹂︵基本法九四条一項︶︒基本法では以上の大枠のみを定め︑

詳細な規律については連邦法律を予定している︵基本法九四条二項︶︒

︵J︶

基本法九四条に基づき︑一九五一年三月に連邦憲法裁判所法が制定された︒同法はその後一九五六年七月︑一九五

︵8︶

九年六月︑一九六三年八月にそれぞれ改正がなされ︑連邦憲法裁判所の構成にかなりの変革が行なわれた︒改正は今

後も行なわれることが予想されるが︑そのような改正における一連の方向をも考慮に入れて︑構成の問題を以下に概

(6)

− 3 8 −

なされてみると権限配分の極端なアンバランスが明らかとなった︒ために︑一九五六年改正法により現行のように改た

︵9︶

められたのである︒そればかりでなく︑現行法の権限配分においてもなお生じる可能性のあるアンバランスを避ける

︵幻︶

ために︑さらに次のような規定がおかれている︒﹁連邦憲法裁判所の大法廷は︑最寄りの業務年碕のの呂壁重画言︶の活

動開始とともに︑両部の管轄権を︑一項ないし三項の規定が一つの部に一時的以上の超過負担をかけるために︑やむ

をえない場合には︑変更することができる﹂︵法一四条四項一段︶︒﹁この規律は︑係属中の手続であっても︑口頭弁論

または判決の審理がまだ行なわれないものについても適用される﹂︵法一四条四項二段︶︒このようにして両部の負担均

衡がはかられているが︑これらの規定は管轄権の所属について︑いずれの部に属するか不明確な場合を残すので︑そ

の場合に処するために︑﹁六人委員会﹂が設けられる︒﹁ある手続について︑いずれの部が管轄権を有するか疑問のあ

る場合には︑長官・副長官および各部から業務年につき各二名選任された四名の裁判官から成る委員会が決定を下

す﹂︵法一四条五項一・二段︶︒こうして現在では両部の極端な負担のアンバランスは解消しつつあるし︑特に一四条四

項の規定によって両部の管轄の流動の可能性も開かれている︒しかしこのような量的均衡が実現しても︑今一つ︑両

部制にとって最大の問題点と思われるものが残る︒両部の質的アンバランスがそれである︒それは後でとりあげる︒

八大法廷Vなお両部の他に︑大法廷がある︒大法廷は両部の裁判官が合同して開くが︑両部と同様に︑そして両

部とならぶ︑憲法裁判所である︒それが開かれる場合とその権限は次のとおりである︒﹁一の部が法律問題につき︑

他の部の判決の中に示されている法解釈と異なる解釈をとろうとする場合には︑それに関しては連邦憲法裁判所の大

法廷が決定を下す﹂︵法一六条一項︶︒その他法一四条四項の管轄権変更の権限︵法一○五条︶を有し︑さらに裁判官選

︵u︶

出遅延の際の候補者推せん権︑裁判官罷免の権限を有する︒また職務規則制定の権限もここが持つ・

二つの部がそれぞれ異なる管轄事項をもち︑独立して裁判を行ない︑そして憲法裁判官もまた選出されると同時に

二つの部のいずれかに所属し︑その所属は固定して変更不可能である︵後述第三章参照︶︒そのことは︑つきつめていけ

(7)

− 3 9 −

ぱ二つの憲法裁判所があるということに外ならない︒ところで︑もし同じ連邦憲法裁判所を名乗る両部の憲法解釈の

間に矛盾があるとすれば︑憲法裁判所は自己分裂症状を起すことになる︒したがって両部の解釈を統一するために

大法廷が設けられるのであるが︑それにもかかわらず︑もし新たな憲法問題の分野において両部がそれぞれ異なった

手続において︑異なった憲法解釈を下すとすればどうであろうか︒その場合には︑最終的判断者である憲法裁判所が

﹁憲法問題﹂を﹁法的に﹂二通りに判断するという矛盾が生じる可能性がある︒このことに関連して︑いわゆるED

︵池︶

C条約をめぐる憲法裁判過程において︑非常に興味ある現象がみられるので︑それを簡単に紹介しておきたい︒

一九五一年法においては︑各部の権限の配分が現在と異なり次のようになっていた︒すなわち第一部は﹁法一三条

一三・六・二・一四号に規定される事項および憲法訴願につき﹂︑第二部は.三条四・五・七九・三一号に

︵咽︶

規定する事項につき﹂︑それぞれ管轄権を有する︵旧法一四条一項︶とされていた︒ところがこの管轄権の配分は両部

の負担に著しいアンバランスを生じさせた︒たとえば一九五一年九月から一九五五年五月までの間に第一部に係属し

た訴訟は二九七九件であったのに対し︑第二部に係属した訴訟は三二件に過ぎなかった︒そしてこのうち第一部は二

︵皿︶

二七六件を処理し︑第二部は二六件を処理したといわれる︒そこで一九五六年の改正法はこのような両部間の不均衡

を是正する目的で権限の配分の変更を行なったのであるが︑それまでの時点においてすでに次のような政治過程がみ

られる︒すなわち︑訴訟提起者は二つの部を構成する裁判官の政治的色彩ならびに現実に出される判決に見られる色

彩等々を資料にして︑二つの部の微妙な政治的傾向の違いを計算に入れ︑自己に有利な判決を下すだろうと推測され

る部へ訴訟が提起できるように工夫するというかなり露骨な傾向が見られたということである︒この両部の政治的色

彩の違いは︑裁判官選出の方法︵後述第三章︶と密接な関連をもつが︑連邦憲法裁判所発足当時︑第一部は﹁赤い裁判

所﹂︑第二部は﹁黒い裁判所﹂と呼ばれるほどであって︑前者は反政府的判断をよくし︑後者はむしろ政府側に有利

︵頂︶

な判決を下していると一般に考えられていたようである︒

(8)

− 4 0 −

一九五二年から一九五四年にかけて︑いわゆるEDC条約の批准をめぐっての政争において︑時の政府与党︵キリス

ト教民主同盟/キリスト教社会同盟︶︑野党︵社会民主党︶︑連邦大統領は︑連邦憲法裁判所を政治過程に否応なしにまき

こんだのであるが︑その際両部の政治的色彩の相違は︑その政治過程に微妙な影響を与えた︒一九五二年一月一三

日︑連邦議会の三分の一の議席を有する野党側は︑基本法の改正なしにEDC条約に参加することの違憲確認請求お

よびそれに伴なう仮命令請求を行なった︵その後一九五二年五月二六日︑政府がEDC条約を調印するにおよび︑一九五二年七

月七日に︑立法府による条約批准の禁止を求める請求に切り替えた︶が︑この請求は旧法一三条六号の手続であり︑旧法一

四条一項により第一部︑﹁赤い裁判所﹂に係属した︒それに対する判決は一九五一年七月三○日に下され︑結論は明

白であった︒すなわちEDC条約の問題はいまだ司法的判断には未成熟である︑司法審査は立法府により正式に公布

︵媚︶

・施行された制定法にのみ及ぶのである︑とされた︒ところでこの間に連邦大統領は一九五二年六月一○日︑旧法九

七条に基づき︑EDC条約の合憲性に関する勧告意見を求めていた︒連邦憲法裁判所の大法廷で問題となったのは︑

勧告意見を出す前に︑はたしてその勧告意見が各部を以後拘束するか否かの点であったが︑一九五二年一二月八日の

︵Ⅳ︶

大法廷決定は︑勧告意見は両部を拘束するとしたのであった︒この決定の政治的意味はきわめて重要であった︒なぜ

ならその直前の一九五二年一二月五日︑与党は単純多数でもってEDC条約批准案を連邦議会で通過させ︑翌六日﹁

連邦議会はEDC条約を単純多数で批准する権限がある﹂との宣言判決を第二部︑﹁黒い裁判所﹂に求めたからであ

る︒そこでもし大法廷の勧告意見が各部を拘束しないとするならば︑大法廷がEDC条約を違憲として大統領に署名

をさせないという結論を下し︑第二部がそれを否認するという事態をまねくおそれがあったのである︒もしそのよう

な事態になれば︑連邦憲法裁判所の構造上の質的矛盾が赤裸々に露出されることになり︑その権威は地に落ちたであ

ろう︒マッキーニーは︑大法廷が二○対二の多数で勧告意見が両部を拘束すると決定した点を﹁注目すべき司法連

帯﹂の例だとし︑連邦憲法裁判所がその創設初期の段階でその地位をかためるためにとった自己制限的政策の中に位

(9)

− 4 1 −

︵旭︶

置づけて高く評価しているが︑視点を変えれば︑それはすでに内包している憲法裁判制度自体の基本的矛盾をたくみ

に塗装する政策であったということもできよう︒ともかくそれに対する政治的反応は明確であった︒二日後の一九五

二年一二月一○日︑連邦大統領は︑大法廷の勧告意見が︑意見ではなく実質的判決となる恐れがあるとして勧告意見

︵四︶

請求を取下げた︒それにはおそらく政府の圧力があったであろうと見られている︒その後一九五三年三月七日に第二

︵︶

部は政府側の請求を手続的理由により却下した︒その後一九五三年五月二日に野党側は第一部に︑EDC条約の合

憲性についての審査請求を再び提起したが︑結局それに対する判決が下されないうちに︑一九五三年九月六日の総選

挙で与党側が改憲に必要な三分の二以上の議席を確保し︑また一九五四年八月三日に︑EDC条約自体がフランス議

会より拒否されたため︑一連の憲法裁判過程にも一応の終止符がうたれることとなった︒その後一九五六年の改正法

で勧告意見制度は廃止され︑各部の管轄事項の入れ替えも行なわれたのであるが︑われわれは以上の経過の中で︑と

もに連邦憲法裁判所の名前で憲法裁判を行なう第一部・第二部・大法廷が政治的に重要な憲法裁判において全く相反

する結論を出す可能性があったことをはっきり確認しておく必要がある︒そしてそれはそれぞれの部を構成する憲法

裁判官の憲法イデオロギーに相反するものがある以上︑予想しうることである︒この経過をみると連邦憲法裁判所は

一見﹁司法﹂的限界を守ったように思われる︒事実︑手続的判断に終始し︑実体判断はなんら行なわなかった︒政治

状況の変化がそのことを許したのであるが︑もし政治状況が違ったものとなっていたなら連邦憲法裁判所は内におい

ても外に対しても厳しいディレンマに立たされたことであろう︒この連邦憲法裁判所の内的矛盾は今日においても基

︵趣︶

本的には変ってはいない︒

︵イ︶人的構成連邦憲法裁判所の裁判官︵以下八憲法V裁判官と略す︶は︑各部について選出され︑選出された後

の部間の自由な出入は行ないえない︒創設当初は各部につき一二名の裁判官が選出されることになっていたが︵旧法

︵︶

二条二項︶︑漸次削減され︑現行法では各部につき八名の裁判官が選出される︵現行法二条二項︶︒これら八名の裁判官

(10)

− 4 2 −

が各部を構成する︒各部には長官か副長官のいずれかが所属し︵法九条一項︶︑各部会の議長をつとめる︵法一五条一

項︶︒長官が第一部に所属し︑副長官が第二部に所属するのが︑今までの慣行であるが︑法律上はその逆であってもか

まわないたてまえである︵法九条一項参照︶︒なお長官または副長官の欠員または欠席の場合には︑各部の列席裁判官

の中の最年長者がこれらを代理して議長をつとめる︵法一五条一項︶︒

各部は最低六名の裁判官が列席すれば定足数に達する︵法一五条二項一段︶︒法一三条一・二・四・九号による手続

において被告に不利益な判決を下すためには︑各場合につき部の構成員の三分の二の多数を必要とする︒その他の場

合には︑法律に別段の定めがない限り︑判決に参加した部の構成員の多数決で判決を下す︒しかし同数の場合には基

︵︶︵型︶

本法または他の連邦法違反を確定することはできない︵法一五条二項︶︒定数をこのように定めること︑それを各部に

つき一二名から八名に削減していったことの是否をめぐっては論議があるが︑三章以下で取扱う︒

八三人委員会制度V連邦憲法裁判所の扱う訴訟の中で憲法訴願手続はその数からみると圧倒的に多い︒しかしそ

れらの中には実体判決にまで至らず却下すべきもの︑明らかに理由のないもの︑がこれまたきわめて多いという経験

にかんがみ︑連邦憲法裁判所の負担軽減のため︑一九五六年の改正法は︑新たに三人の裁判官から成る委員会を設

け︑これに予備審査により却下する権限を与えた︒﹁権限ある部より一業務年の間任命される三名の裁判官から成る

委員会が憲法訴願を予備審査する︒各部は複数の委員会を任命することができる﹂︵法九三条a二項︶︒﹁委員会は全員

一致の決定で︑憲法訴願が手続違反︑不許容︑出訴期間外の場合︑または明らかに理由のない場合︑または明らかに

︵︶

適格のない者によって提起されている場合には︑これを却下することができる﹂︵法九三条a三項︶︒

八大法廷V法一六条の大法廷の場合には︑﹁各部からその三分の二の裁判官が出席すれば定足となる﹂︵法一六条二

項︶︒現行法では各部に八名の裁判官が在席するから︑三分の二の数字は半端で正確でないが︑結局各部から六名以

︵妬︶

上の裁判官が出席することが必要になる︒評決には一五条二項三段・四段が準用される︒

(11)

− 4 3 −

八六人委員会V管轄の不明な事項の配分を行なうための六人委員会については先に述べた︒この委員会について

︵︶

は一四条五項以外に規定がないが︑両部の均衡を保つ必要から全員出席が必要であると解される︒議決は単純多数に

より︑﹁同数の場合には議長の決定による﹂︵法一四条五項二段︶︒

以上の概観によって︑連邦憲法裁判所の基本的構造は明らかとなった︒われわれは次にそのような構造の場におい

て具体的に活動する憲法裁判官に眼を転じよう︒

︵5︶三宮.Fの︒言閂.国目号のぐ禺註ののg鴨蝿号三の蝿のの旨の.岳l乞・

︵6︶野中・前掲論文二二ページの附表参照︒憲法訴願が法律で創設されている外は︑すべて基本法に根拠を持つ︒

︵7︶霊⑳§弓の旬含の国目号のぐの園言の目鳴需号宣く.届.三野画忌日窟の四宮︾瞳巴・同法は全体で四章一○七条から成

り︑第一章︵一一六条︶連邦憲法裁判所の構成と権限︑第二章︵一七三五条︶一般手続規定︑第三章︵三六九七条︶

特別手続規定︑第四章︵九八一○七条︶︑附則︑となっている︒その全文邦訳として︑明治大学比較法研究室訳﹁連邦憲法

裁判所法︵西独︶﹂法律論叢二六巻二号七二ページ以下参照︒

︵8︶主として次の点が改正された︒︵ァ︶一九五六年七月二一日の改正l憲法訴願に関する三人委員会の設置︵改正法九一条

a︶︑大法廷の勧告意見制度の廃止︵旧法九七条削除︶︑両部の所管事項の再配分︵政正法一四条︶︑憲法裁判官定員の削減

︵改正法二条︶︑削減に伴なう選出方法の改正︵改正法五条︶等々︒

︵ィ︶一九五九年六月二六日の改正I両部の所管事項の再配分の原則︵改正法一四条︶︒ ︵2︶国.三三﹈関︾口箭 ︵3︶なお基本法九一麦 ︵4︶後述第二章参照︒ ︵1︶ 最近の文献として︑清水望﹁西ドイツの政治機構﹂四一五ページ以下︑ゲープハルト・ミュラー・村上淳一訳﹁ドイツ連 邦共和国における憲法裁判権﹂法曹時報二一巻三号︑山田晟﹁ドイツ連邦憲法裁判所の一七年﹂裁判法の諸問題上五五ペ ージ以下等がある︒その他に︑野中俊彦﹁憲法裁判における仮処分l西ドイツ連邦憲法裁判所の仮命令l﹂金沢法学一四巻 一号四ページ註︵5︶に掲げる文献等を参照︒ 国.三三関ゞ口箭諺易言号三円ぐ閂註閉目囑風︒三閂ゞONO弟国巳餌﹈凄﹃l乞印璽の.忌二 なお基本法九二条以下参照︒

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− 4 4 −

︵ウ︶一九六三年八月三日の改正l憲法訴願手続の改正︵改正法九三・九四条︶等々︒

︵9︶所管事項の再配分は︑具体的に示すと次のとおりである︒

︵ア︶一九五一年法における所管事項一部︵基本権剥奪・政党の違憲確認・選挙審査手続・抽象的規範統制・連邦法の

存続性審査・憲法訴願︶︒二部︵大統領訴追・機関訴訟・連邦ラント間訴訟・裁判官訴追・国際法規の審査︶︒

︵イ︶一九五六年改正法における所管事項一部︵規範統制手続のうち公民権・裁判を受ける権利・法律上の審問請求権

・人身の自由に関するもの︑ならびに︑個人の提起する憲法訴願で選挙法に関しないもの︶︒二部︵基本権剥奪・政党

の違憲確認・選挙審査手続・大統領訴追・機関訴訟・連邦ラント間訴訟・裁判官訴追・国際法規の審査・連邦法の存続

性審査︑ならびに︑一部に指定された以外の規範統制および憲法訴願︶︒

ラント内の憲法訴訟︵法一三条一○項︶およびラント憲法裁判所の請求する規範統制手続︵一三条一三項︶については

それぞれ同じ配分原則によって配分される点は両法とも同じである︒

︵蛆︶法一四条四項一段︑同条五項は一九五六年の改正で︑法一四条四項二段は一九五九年の改正で︑それぞれ創設された︒いず

れも各部の所管事項を法定して固定させつつ︑なお負担均衡の観点から例外的流動性を認めるための規定である︒

︵︑︶大法廷の権限としてはこれらの他に︑一九五一年法九七条に次のような規定があった︒﹁連邦参議院および連邦政府は︑共

同して連邦憲法裁判所に対し︑一定の憲法上の問題について勧告意見を求めることができる︒連邦大統領もまた︑同一の権

利を有する﹂︑そしてその﹁勧告意見は︑連邦憲法裁判所の大法廷でこれを表明する﹂︵旧法九七条︶︒いわゆるEDC条約

をめぐる憲法裁判過程において︑時の大統領ホイスにより︑この規定に基づく勧告意見が求められた︒政治的理由によりこ

の請求は後に取下げられたが︑その際連邦憲法裁判所においては︑実質審査に入る前に︑大法廷の勧告意見が各部を拘束す

るか否かについての議論がなされ︑結局︑勧告意見は各部を拘束するという結論に達した︒この結論は当時の憲法裁判所の

危機状況に鑑み大体妥当な結論であったと評価されるが︑理論的にはなお問題点を残すものであった︒一九五六年の改正に

よりこの制度は廃止された︒

︵狸︶いわゆるEDC条約をめぐる政治過程と憲法裁判過程の交錯は︑きわめて興味深い問題を多く含んでいる︒これについては

わが国でもすでにいくつかの紹介がなされている︒明治大学比較法研究室﹁ドイツの再軍備と憲法裁判日ロ﹂法律論叢二七

巻三号六四ページ以下・同二八巻一号六九ページ以下︑久野勝﹁西独再軍備と憲法裁判﹂公法研究一二号四六ページ以下

等参照︑外国語文献として︑F言g蔚旨冨弓富国︒ロ画Q旨三塁o目目︒苦の両日gの9号詩目の①8日目目ご貢8言の︾

(13)

− 4 5 −

CO匡算︾江四吋ぐ閂

の.い﹃の︸巨里弓.

︵過︶註︵9︶参照︒

︵型︶舅国辱の①荷の験

︵焔︶︾房曇

︵四︶昏箆.

︵釦︶国ぐの

︵虹︶二部 ︵型︶雲崖一の①碕閏.圃員詞の昏国ご号の国匡冒号のぐ①凰画ののロロ鴨ぬ①国︒三m.旨く○日国opp閂の昌冒・癌の①蔚目局胆①︑曽貝1号員の言口

ぐ①風四ゆの自国mご忠ゞの.恩?A霊︵︒濤冨o言三目ロの﹈詞の︶

︵晦︶具.三g皇宮ロg︾8.o詳詞の.ギュンター・ヴイルムス著最高裁判所事務総局仮訳﹁ドイツ連邦共和国憲法裁判所十年の

歩み﹂法曹時報一六巻五号三二︑く三三ページ参照︒

︵超︶両国蕨○房建屋ロ鳴冒号印画巨呂ののぐの風画の印ロロ甥囑風︒重のF$の域.︵以下画くの国と略す︶︒

︵釦︶国ぐの国い﹄お廟.

盆︶二部制を廃止して単一部制にせよとの議論も強い︒一九五九年の政府改正草案では二部制の廃止が提案されたが︑野党側の

反対にあって実現しなかったつ両﹈.F画罠の﹃︑四・四.○・︼の.邑巴︒

︵配︶現行法の規定は一九五六年七月の改正による︒なお経過措置として︑両部とも一九五六年八月末日までは各々一二名の裁判

官で構成し︑一九五六年九月から一九五九年八月末日までは一○名の裁判官で構成する旨定められた︵一九五六年法二条二

項︶︒この経過措置は一九五九年法により︑さらに一九六三年八月末日まで延長された︒

︵配︶一九五一年法においては定足数は各九名であった︒各部とも一二名定員であったから︑定員数は定員の四分の三である︒こ

の比率は現行法においても同じである︵八分の六I四分の三︶︑または一三条一・二・四・九号の手続において︑被告に不

一利な裁判をする場合はつねに八票以上の多数を要するとなっており︵旧法一五条二項︶︑これも定員との比率では三分の二

であって︑現行法の比率と同じである︒

︵型︶一九五六年法では定員削減の経過措置に対応して定員数についても次のような経過規定がおかれた︒一九五六年八月末日ま

では旧法の規定を適用し︑一九五六年九月から一九五九年八月末日までの間は︑各部の定足数は七名とする︒ただし憲法訴 ︵画︶国ぐの固い己常.

︵肥︶︾房言三口目①写︵巷.

昌塾の尉嬰ご﹈○日冒巴ぐ巳.震詞雪やく寸国嘗冨a富gご三国ロの雷﹈巨昌a巴吋①興国旨詩四目Q苦の君●①蜂の①国己四目8口降淳日ざ邑堅 8匡算.国閏ぐ画己伊画言罰の急の急ぐ巳.試弔.甲く一国の旨圃尉角具閂︾ぐ閏註闇屋ロm侭閂胃三吾胃穴の詳屋ロロロo毒肘呂閂勺8用服

○罫.己.澤切jl骨の

(14)

− 4 6 −

︵ァ︶憲法裁判官の資格要件憲法裁判官の一般的資格要件は︑﹁四○才以上で︑連邦議会の被選挙資格を有する

﹂者︵法三条一項︶であり︑さらに﹁ドイツ裁判官法による裁判官資格を有するものでなければならない﹂︵法二条二

︵1︶

項︶︒憲法裁判官は通常の裁判官と異なる法的地位を与えられる︒彼は憲法機関の担当者であるから︑一般の公務員

と同格ではない︒したがって彼は通常の裁判官が服する連邦公務員法︑裁判官法の一般規定には原則として服さず︑

︵2︶

特に勤務時間・居住所の義務・休暇・服務に関する規定の適用をうけない︒また連邦憲法裁判所が︑連邦議会・連邦 憲法裁判官は一章で述べた連邦憲法裁判所の各構成部分にはいりこんで現実に憲法裁判を行なう︒連邦憲法裁判所 の重要な地位と権限に鑑みるとき︑憲法裁判官が︑どのような資格者の中から︑どのような機関により︑どのような 方法で選ばれるかの問題がまず重要である︒それと同様に︑一定の方法で選任された憲法裁判官が︑その職務遂行の ために︑憲法裁判官個人としてどのような権利や義務を有し︑どのような身分保障をうけるかの点も重要である︒連 邦憲法裁判所が本質的に司法機関であるというたてまえから︑憲法裁判官の身分保障は連邦裁判官のそれに見合って 定められるが︑憲法問題プロパーを扱うという特殊な性格とその地位の重要性に鑑み︑資格要件は加重され︑また選 任の方法として特別の方法がとられることになる︒選出方法については︑第三章で扱うこととし︑ここではその他の 点を先に概観しておきたい︒ 願に関する裁判については︑六名の裁判官で定足数をみたすと︒

︵配︶法九三条a一五項参照︒なおこれらは一九六三年の改正によるもので︑一九五六年の改正では規定の仕方が若干違い︑同

改正法九一条aとして規定されていた︒

︵妬︶一九五一年法においては各部から九名の裁判官の出席が必要であった︵旧法一六条二項︶︒

︵︶夛両﹈.F①ぎぎ旨︑宛巨石胃の︒三﹀国巨口号のぐ閂註のの巨目鴨胸の国○三侭のの①厨の.四罠.

二︑憲法裁判官の資格と身分保障

(15)

− 4 7 −

参議院・連邦政府とならぶ独立の憲法機関であることから︑次のような規定がおかれる︒憲法裁判官は﹁連邦議会・

連邦参議院・連邦政府にも︑またそれぞれに対応するラントの諸機関にも所属しえない︒﹂﹁裁判官は任命とともにこ

れらの機関から退職する﹂︵法二条三項︶︒さらに憲法裁判官が独立性を保ち︑かつ職務に専念できるために︑﹁裁判官

活動と︑ドイツ大学での法律学教授以外の職業的活動とは両立しえない﹂し︑その許される唯一の兼職の場合でも︑

︵3︶︵4︶

﹁連邦憲法裁判所の裁判官としての活動は大学教授としての活動に優先する﹂︵法三条四項︶︒

︵イ︶任期各部の裁判官のうち三名は連邦上級裁判所裁判官の中から選出されることになっているが︑彼等は終

身裁判官︵皇︒三閂画具Fgのロの画妥︶とよばれ︑その任期は連邦上級裁判所における彼等の任命期間ということになっ

ている︵法四条一項︶︒連邦上級裁判所裁判官の停年は六八年であるから︑その年令に到達するまで憲法裁判官をつと

めることとなる︒その他の憲法裁判官の任期は八年である︵法四条二項一段︶︒しかし一九五一年の最初の選出にかか

る者のうち半数の者の任期は特に四年である︵法四条二項二段︶︒また再選が認められる︵法四条三項︶から︑再度任期

を勤める可能性がある︒再任希望の裁判官をそのまま再選する慣行が選出機関においては一九六三年まで認められた

が︑その後は必ずしも再任希望者を再選していない︵後述第三章︶︒なおまた憲法裁判官の辞職は任意である︒﹁連邦

憲法裁判所の裁判官はいつでも辞職願を出すことができる︒連邦大統領が辞職を宣告する﹂︵法一二条︶︒

︵ウ︶他の職業からの分離と経済的保障先に述べたように︑憲法裁判官はドイツ大学の法律学教授以外の兼職を

もちえない︒そこで憲法裁判官が連邦憲法裁判所に就任することによって︑身分的・経済的不利益をうけることのな

いよう︑また退職後の生活を不安定ならしめないように考慮が払われており︑それらは法九八条以下に詳細に規定さ

︵一⑥︶

れている︒それらの諸規定によると︑憲法裁判官は﹁連邦憲法裁判所の構成員の職務給に関する法律﹂に基づき︑在

職中所定の給与を支給されるほか︑退職後は一定基準による退職金・恩給︵または遺族扶助︶を受ける︵法九八条一○○

条︶︒また就任前の職業が裁判官または公務員であった者については原職復帰の途が開かれている︵法一○一条二項︶ほ

(16)

− 4 8 −

か︑裁判官・公務員としての一定の権利が留保されている︵法一○一条三項︶︒

︵エ︶退職憲法裁判官は︑任期の満了または連邦上級裁判所裁判官としての停年とともに退職するが︑﹁後任者

の任命までの間︑彼の職務を遂行する﹂︵法四条三項︶︒これら以外の場合の退職は︑本人自身の希望と死亡の場合︑

﹁継続的な職務不能﹂︵法一○五条一項︶の場合︑﹁不名誉な行為の故にまたは六カ月以上の自由刑を法的に有効に宣告

された場合︑または彼がその職務に留まることを排除されるべき重大な義務違反を犯した場合﹂︵法一○五条二項︶で

ある︒後二者の場合には連邦憲法裁判所の大法廷の決定により︑連邦大統領に罷免の権限が与えられる︒それにより

罷免された裁判官は職務上のあらゆる請求権を喪失する︵法一○五条六項︶とされる︒現在までに罷免の行なわれた例

このように見てくると︑憲法裁判官については︑任期についての特別の規定のほかは︑裁判官一般に保障される

﹁裁判官の独立﹂のための身分保障は大体十分になされているということができる︒また憲法裁判官の弾劾手続規定

についても特に問題はないと思われる︒資格要件については次章で再度問題とするが︑憲法裁判という重要な裁判の

任にあたる裁判官の資格要件としてみれば大体妥当な要件のように思われる︒ただ任期の点については若干問題があ

ろう︒それについても次章で扱いたい︒ はない︒

︵1︶

へ へ へ

4 3 2

、 ノ ン ン

一九五一年法では︑本項は次のような規定になっていた︒﹁裁判官は︑さらに裁判官となる資格を有するか︑または所定の

国家試験により高級行政公務員となる資格を有するとともに︑公法において特別の見識に秀いで︑かつ公務の経験があるも

のでなければならない﹂︵旧法三条二項︶︒この規定は一九六一年のドイツ裁判官法の改正により現行規定に改ためられた︒

つ両﹈.Fの呂口のH・国宮口号のぐ①風画の呂口甥鳴凰○宮の照の①蔚の.恩︶

昇同﹈.Fのぎぎ﹈具罰匡己冒月三︾四四○・・の.国.

法三条四項は連邦上級裁判所判事との兼職を否定するものではない︒P①︒言の﹃・画.画.○・・の喝︶

憲法裁判官のうち大学教授を兼ねるものは多い︒たとえば一九六○年の時点では連邦上級裁判所裁判官以外の憲法裁判官の

(17)

− 4 9 −

㈲法の規定憲法裁判官をどのような資格者の中からどのような方法でどのような機関が選出するかについて︑

基本法は九四条一項にその大枠を定めているo﹁連邦憲法裁判所は︑連邦裁判官およびその他の構成員によって構成

される﹂︵一段︶︒﹁連邦憲法裁判所の構成員は︑各半数ずつ︑連邦議会および連邦参議院によって選ばれる﹂︵二段︶︒

この規定をうけて連邦憲法裁判所法はその五条以下に詳細な選出方法を規定している︒それを整理すると次のように まえから見よう︒

︵ァ︶選出の対象各部八名の裁判官のうち三名は連邦上級裁判所の裁判官の中から選出される︵法四条一項一段︶︒

︵1︶

残りの各五名は他の︑資格要件を備えた者︵法三条一項参照︶の中から選出される︒前者の場合︑﹁少なくとも三年以

上連邦上級裁判所で活動している裁判官であることが必要であり︑その裁判所での彼の任命期間について選出される

︵法四条一項二・三段︶︒後者の任期は八年︵第一回の被選出者の半数のみは四年︶である︒

︵イ︶選出機関基本法は憲法裁判官の選出機関を連邦議会ならびに連邦参議院と明記している︒連邦憲法裁判所

法はそれをうけて︑選出方法の詳細を次のように規定している︒まず︑各部の裁判官は半数が連邦議会により︑半数

が連邦参議院により選出される︵法五条一項一段︶︒また選出対象となる二種の裁判官については︑各選出機関が︑連

︵2︶

邦上級裁判所裁判官については一対二︑他の資格者については三対二の比率で選出する︵法五条一項二段︶︒なおまた なる︒ 三︑憲法裁判官の選出方法

憲法裁判官の選出方法は特色があって︑理論的にも現象的にも興味ある問題が含まれている︒まず法の定めるたて 半数近くがそうであった︒

︵5︶の①の①蔚働言Hg儲雪国侭呂巴芹号吋盛昌信﹈耐邑の吋号印国巨口号のぐ①門註のの宮口甥胆の風︒三のぐ○日閏︺いご窪宙の巴自.邑巴なお

Fのぎぎ﹈具宛口弓蔚o三︾画.画.○・¥の.瞳︑に条文が掲げられている︒

(18)

− 5 0 −

両選出機関は交互に長官と副長官を選ぶ︵法九条一項︶︒

︵ウ︶選出の手続・方法︵a︶連邦議会連邦議会での選出は間接選挙による︵法六条一項︶︒すなわち﹁連邦議会

︵2︶︶

は議員の中から︑一二名を比例選挙の原則に従い︑選挙人として選出する﹂︵法六条二項一段︶︒選挙人が選ばれると︑

選挙人のうちの最年長者は直ちに選挙を行なうため︑一週間の召集期間をもって選挙人を召集し︑かつすべての裁判

官が選出されるまで引続き行なわれる選挙を指揮する︵法六条三項︶︒そしてこの選挙人会は︑連邦司法大臣の作成し

︵4︶︵5︶

た名簿の中から︑適当な裁判官を選挙する︒その場合八名以上の投票を得たものが裁判官に選出される︵法六条五項︶︒

︵b︶連邦参議院連邦参議院においては︑直接選挙によって裁判官を選出する︒その場合︑連邦参議院の三分の

二の投票をえたものが選出される︵法七条︶︒

ところでこれらの規定にもかかわらず︑憲法裁判官の改選に際して︑これらの機関内部における意思の統一が実現

せず︑後任裁判官の選出が遅延したり︑なされなかったりする事態が生じたため︑そのような場合に対処すべく一九

五六年の改正法において七条aの規定が設けられている︒これについては後で触れる︒

以上のようにして憲法裁判官が選出されると︑連邦大統領がこれらを任命する︵法一○条︶︒任命された裁判官は宣

︵︽︒︶

誓を行ない︑就任する︵法二条︶︒

○憲法裁判官の選出につき︑基本法および連邦憲法裁判所法の定めるところは以上のとおりである︒憲法裁判官

の選出については種々の異質の要請が認められるが︑まず基本的には憲法裁判所は﹁司法機関﹂であるから︑司法官

として適わしい者が選ばれるべきであるという要請がある︒しかしそれは同時に﹁最高機関﹂であるから︑民主的正

︵7︶

当性をもたなければならないという要請がある︒他方︑具体的な選出方法としては選挙か任命かまたはその混合形態

かのいずれかの方法しかない︒どのような方法をとるかは同じような憲法裁判所制度をとる諸国においてもまちまち

である︒さて︑連邦憲法裁判官の選出方法をみると︑そこには種々の要請の調和をはかろうとする努力がうかがえ

(19)

− 5 1 −

︵8︶

る︒それは前二者の基本的要請およびそこから派生する要請の調和である︒ラオファーによるとそれらは次の四つの

要請に要約される︒一︑憲法裁判官の民主的正当性︒二︑裁判官選出における一方的影響︵の言の①薑需固冒言ののの︶の排

除︒三︑高度の裁判官資格︒四︑連邦的代表の原理︒第一・第四の要請は︑連邦議会・連邦参議院を対等の選出機関

としていることに具現化されている︒第二の要請は︑裁判官選出に際して各選出機関の三分の二以上の意思の一致を

必要としていること︑また連邦議会での選挙人選出に際して比例方式を採用していることに具現化されている︒また

第三の要請は︑高度の資格要件を定めていること︑各部三名の裁判官は連邦上級裁判所裁判官の中から選出するとし

ていることなどにあらわされている︒ところでこのような選出方法はそれ自体理論的に多くの問題点を含んでいる

し︑また一八年以上の運用の過程で実践的にも多くの問題を生じさせた︒それらを以下に検討しよう︒

︵ア︶民主主義的正当性と一方的影響の排除裁判官の選出機関が両議会であることは︑基本法に明確に定められ︑

そのレベルで解決済みの問題であるが︑理論的には︑両議会による選出が最も妥当であることが次の点から根拠づけ

られる︒基本法二○条二項によれば﹁すべての国家権力は︑国民により︑選挙︑投票および立法・執行権および裁判

の特別の機関によって行使される︒﹂したがって﹁憲法機関﹂としての連邦憲法裁判所の裁判官の選出も国民の意思

に基礎をおかなければならない︒理論的にこの趣旨に最も適わしい方法としては国民による直接選挙が考えられる

が︑それは技術的要因その他により現実には実現が困難なので︑第二の方法として︑直接に国民の意思に基づく機関

︵議会︶︑または間接的に民主主義的正当性をもつ機関︵政府・大統領︶による間接的な選出方法が考えられる︒そして

これらの可能な機関のうち前者がより民主主義的であることはいうまでもない︒後者はいずれも政党民主主義の下で

は多数党と密接に癒着しており︑一方的な政治的影響が裁判官選出に与えられる危険性が大きい︒そして他方︑連邦

構造をとる国家として連邦民主主義をとり入れると︑結局現在のような基本法の規定が最も妥当なものとなると︒確

かに両議会による選出の方法は︑民主主義的正当性の観点から考えれば一番妥当な方法であろう︒しかし他方︑議会

(20)

− 5 2 −

による選出は憲法裁判を必然的に政治化するのではないかという疑問に対しては︑十分に納得のいく解答を与ええな

い︒民主主義的正当性をもつ議会はまさに政治的に憲法裁判官を選出するだろうし︑そのことは﹁憲法裁判の政治化

﹂をもたらすであろう︒しかし︑だからといって政府や大統領による任命制が﹁憲法裁判の政治化﹂を防ぐことには

︵︑︶

ならない︒否むしろ﹁執行府による任命制ほど裁判官の独立をおびやかすものはない︒﹂議会の多数党と癒着してい

る執行府は︑憲法政治と密接不可分の憲法裁判官の選出権を委ねられて︑けなげにも﹁中立的﹂にふるまうことは考

えられない︒多数党Ⅱ執行府にとって有利な人選が行なわれることは明らかである︒かくては連邦憲法裁判所は﹁政

府の憲法裁判所﹂となり︑御用機関になり下ってしまう可能性がある︒これこそ︑より悪しき﹁憲法裁判の政治化﹂

である︒いずれにせよ﹁憲法裁判の政治化﹂の可能性は避けられないことになる︒そうだとすれば︑より強い民主主

義的正当性をもつ議会の方に軍配が上がるであろう︒むしろ現実の憲法裁判は本質的に政治であり︑それをいかに司

法化するかの努力が連邦憲法裁判所の構成過程においても機能過程においても見られるように著者には思われる︒

︵イ︶一方的影響の可能性政党政治が行なわれている下で︑議会による選出は︑議会の多数党が自ら欲する資格

者のみを独占的に選出する可能性を含んでいる︒政党政治の下では結局議会における政党が裁判官選出を行なうこと

になるからである︒その危険を防止するために法六条・七条は選挙人選出における比例方式の採用と︑選挙人会およ

び連邦参議院における裁判官選出に必要な加重多数制︵前者では一二分の八Ⅱ三分の二︑後者では三分の二︶の採用を行な

っている︒このきびしい要件のもとでは︑三分の二多数を独占しない限り︑多数党による独裁的選出の可能性はなく

なり︑その代りになんらかの民主主義的妥協が行なわれざるをえない︒しかし他方この﹁民主主義的妥協﹂はその運

用如何によってはきわめて問題な事態を導びく可能性がある︒一つは﹁裁判官﹂として適格でない裁判官が選出され

る可能性であり︑今一つは︵ウ︶でとりあげるように︑妥協が困難な場合に裁判官選出が難行し︑選出が事実上なさ

れなかったり︑あるいは選出が著しく遅延される可能性である︒

(21)

− 5 3 −

前者の可能性は二つのあらわれ方をする・第一には裁判官が政党代表として選出される場合が考えられる︒たとえ

ば一時に三人の裁判官を選出するとき︑かりに勢力均衡のA・B︒Cの政党の妥協が行なわれるとする︒一人一人の

裁判官についてA・B︒C各党の意思が統一されないにもかかわらず︑各党の推す裁判官が一人ずつ選出されること

をもって妥協が成立する場合である︒この場合︑選出された裁判官は各党の代表として連邦憲法裁判所に送りこまれ

︵皿︶

ることになる︒その結果は連邦憲法裁判所が小議会的性格のものに堕することになる︒第二には︑たとえば一時に一

︵昭︶

人の裁判官を選出する場合︑政党の妥協が最も無難な裁判官を選出する場合である︒その結果は連邦憲法裁判官の質

の低下をきたすおそれがある︒

︵ウ︶選出の遅延と不能民主的妥協がそのように法の趣旨を逸脱して行なわれる可能性は常に存在するが︑同

時に︑民主的妥協が行ないえないまま︑裁判官選出が遅延したり︑事実上なされなかったりする可能性もまた存在

する︒理論的には連邦憲法裁判所の活動に必要な定足数が不足して機能停止になるまでに︑裁判官選出が行なわれな

い場合も想定できるが︑現実にそのような事態までいったことはない︒ただ連邦憲法裁判官選出の歴史をみると︑し

ばしばの選出遅延が見出され︑先の問題とからみ合って︑選出過程の政治的性格を雄弁に物語っているように思わ

一九五二年一月一八日にK・ロイサー裁判官︵二部・連邦参議院選出︶︑同年二月一四日にK・ツヴァイゲルト裁判官

︵一部・連邦議会選出︶がそれぞれ希望退職した︒法五条三項は︑裁判官が任期満了前に退職したときは︑残任期間に

ついて︑一カ月以内に後任裁判官を選出すべきことを定めているから︑両選出機関は二月一八日ないし三月一四日ま

でに後任裁判官を選出すべきであった︒しかしこれらの期間が経過しても後任裁判官の選出は行なわれなかった︒そ

.︵昭︶ れはもっぱら当時の政治状況の故であったことが指摘されている︒当時西ドイツにおいてはEDC条約加盟問題をめ

ぐって︑時の与党と野党との間に激しい政争が展開されており︑連邦憲法裁判所もまたその政治過程の中にまき込ま れる︒

(22)

− 5 4 −

︵皿︶

れているという事情があった︒その過程の中で一九五二年一月三一日に野党︵SPD︶は︑憲法改正によらない再軍

備は憲法違反であるとの予防確認訴訟を提起したことは先に触れたとおりであるが︑その際この事件がどちらの部の

管轄に属するかはっきりしなかったので︑一九五二年二月一三日に︑法一六条三項に基づく大法廷は︑この訴訟が一

︵喝︶

部に係属する旨の決定を行なった︒当時一部が﹁赤い裁判所﹂二部が﹁黒い裁判所﹂と呼ばれていたことは先に述べ

たとおりである︒そこで今一名の裁判官を一部に選出することは︑その判決に大きな影響を与えることが当然予想さ

れた︒判決が与野党の政争に与える影響は決定的なので︑その辺の政治的判断が後任選出を遅延させる一番大きな理

由であったと推測されている︒結局︑連邦参議院は半年以上も遅れて一九五二年九月一二日に後任裁判官を選出した

のに対して︑連邦議会では実に一九五四年三月一八日まで二年以上にわたって後任裁判官の選出を行なわなかったの

である︒この時点ではすでに再軍備をめぐる訴訟は実質的に解決されていた︒後任裁判官の選出遅延はこの場合決し

て連邦憲法裁判所の機能を阻害することにはならなかったし︑また連邦憲法裁判所は巧みに政治過程から脱れ︑自己

︵猫︶

の権威を確保した︒しかし連邦憲法裁判所の機能がいかに政治的たりうるか︑憲法裁判官の選出がいかに政治的たら

ざるをえないかをこの経過は明らかに示していると思われる︒また︑一九五四年一月から一九六四年二月までの間

に︑憲法裁判官の任期満了前の退職による後任裁判官の選出は七回行なわれたが︑それらのうち法五条三項の期間内

に行なわれた選出はわずかに一で︑他はいずれも二カ月ないし八カ月遅れて選出されている︒任期満了に伴なう後任

選出についても法五条二項の期間を過ぎてから選出される場合が︑しばしば生じている︒その場合には法四条三項に

より︑後任の決まるまで前任者がそのまま職務を行なうから︑連邦憲法裁判所の機能に直接影響を与えないが︑これ

らの事態は裁判官選出における政治妥協のむずかしさを物語っているといえよう︒

このような事態に対処するために︑一九五六年の法改正に際して︑連邦政府は次のような草案を提出した︒すなわ

ち第一回選挙で裁判官選出ができない場合には第二回目には加重多数を必要とせず単純多数でもって裁判官選出がで

(23)

− 5 5 −

きるという案である︒しかしこれに対しては︑それでは単純多数で最初からすべてを選出するのと結果的に相違がな

くなり︑それはまさに政府・与党側が裁判官選出権を独占し︑憲法裁判所の実質的支配を行なおうとする策動である

との非難が︑野党側および世論によってなされ︑連邦憲法裁判所自身も反対の意見であった︒そこで連邦議会法務委

員会においては妥協案として︑諮問委員会が第二回目には単純多数で選出候補者を推せんしうるという線を出した︒

︵Ⅳ︶

しかしこの案も採用されず︑結局まとまったのが現在の法七条aの規定であった︒この規定によれば︑裁判官選出の

遅延に際して︑連邦憲法裁判所は候補者の推せんができることになっている︒しかし選出機関はそれに拘束されない

︵肥︶

から︑この規定の実効性には疑問がある︒

以上に見たように︑現行規定の下では︑運用において︑好ましくない事態が生じる可能性があるし︑また現実に生

じてもいる︒しかしすべての不都合な事態をチェックできる規定はありえないし︑全体としてみると︑選出方法に関

する規定は︑先のいくつかの要請を調和的に具現化するものとして大体妥当なものであろう︒運用の実際において生

じる諸問題は︑法規範の定立によっても解決できないものであり︑結局は連邦議会と連邦参議院における健全な民主

へ四︶

主義的慣行に委ねられるというラオファーの見解は支持しうると思われる︒しかし重要なのは法規範そのものではな

く法規範の下の現実なのであって︑すでに瞥見した事例だけでもたてまえと現実の落差は示唆されているといえよ

う︒より﹁政治的﹂なるものが前面に出てくるのである︒

︵エ︶終身裁判官と期限つき裁判官すでに二章において述べたように憲法裁判官には終身裁判官と期限つき裁判

官の二つがある・現在では各部八名の裁判官のうち三名が終身裁判官︑五名が八年任期の裁判官である︒ここで問題と

なるのは期限つき裁判官の場合である︒任期を限ることは︑連邦憲法裁判所の構成に弾力性を与え︑憲法の発展に即

応した憲法裁判所の構成ができること︑あるいは︑将来の議会の裁判官選出権が保障されることから︑これを支持す

︵卯︶ る見解もある︒それに対して︑司法機関としての連邦憲法裁判所に二種類の裁判官がいることは不適当である︒終身

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制にしても︑最初の選出の際きちんと適格者を選べば憲法の発展に対応しえるし︑また将来の議会の選出権うんぬん

は選出の民主的正当性を過大視するものである︒それよりも任期の限定によって裁判官の独立性がそこなわれる危倶

の方が重大である︒特に任期満了後の再選が可能であるということは︑任期満了間近の裁判官の心理に微妙な影響を

与え︑それが判決にも影響を及ぼすのではないか︑また裁判の連続性に対する脅威とならないかとの反論がなされて

︵皿︶

いる・立法論的には一律終身制にせよとの論議が盛んなようにみえるが︑法規定の改正はいまだなされていない︒﹁裁

判官の独立﹂の見地からみると︑再選希望の裁判官の﹁独立性﹂と民主主義的正当性との調和点をどこに求めるか

が問題の核心であろう︒ところで現在までの状況をみると︑一九五一年から一九六三年までの間に任期満了して再選

を希望した裁判官について再選が拒否された例は存在せず︑再選希望裁判官の再選は政治的慣行となっていたといっ

てよかった︒ところが一九六三年八月三一日の任期満了に際して︑法律改正で裁判官定数が削減されることとなった

結果︑最終的に六人の再選希望裁判官に対して五人の再選可能性しかないことになった︒連邦議会は自己の選出権の

ある二人の裁判官を再選したが︑連邦参議院においては三人のうち一人を再選︑残り二人は再選を拒否して新たな選

出を行なった︒こうして三人の再選希望裁判官が再選されないこととなった︒それはその際与党系の三名の裁判官が

︵︶

退職したので︑政治的バランスをとるために︑再選希望の野党系裁判官の再選が拒否されたのだと推測されている︒

複雑な政治過程の内部まで解明することはできないが︑この事例は期限つき裁判官の制度が﹁司法機関﹂としての裁

判所にとって好ましからざる結果をもたらすことを示唆しているといえよう︒憲法裁判所の独立性の保障よりも︑そ

の政治的構成の方が優先されているのである︒

︵1︶一九五一年法においては各部につき一二名の裁判官が選出され︵旧法二条二項︶︑うち四名が連邦上級裁判所裁判官の中か

ら︑残り八名がその他の資格者から選出されることになっていた︵旧法四条一項︶︒一九五六年改正法での定員削減に伴な

い︑現行規定のようになったが︑一九六三年八月までは経過措置がとられていた︒

︵2︶各部の定数が一二名のときは完全に二分できたので特別の困難はなかった︒法改正で数が半端になったため特にこのような

参照

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