田 中 誠 人
― は じめに
給付請求において:訴 求債権を原告が任意に分割 し,そ の一部を裁判 上請求することを一部請求 という。このような一部請求は,逸 失利益や 慰謝料額の予測が困難な場合に,訴 訟費用や弁護士費用を節約 し, また できるだけ争点を縮小することで,早 期の賠償を確保 し被害者を保護す る目的を持つことから,主 に損害賠償事件におけるテス ト訴訟の重要性 の議論 と合わせて,原 告を保護する視点か ら,認 められるべ きものと言 われている。 しかし,そ の一方で,こ のように分割された請求に対 し, いちいち対応を迫 られる被告の応訴の煩や,訴 訟経済,そ して,当 該請 求が全部請求であると考え,そ れ相応の訴訟追行を行った被告の手続保 障についても十分な配慮が必要な問題である。このため, これを認める か否かについては,従 来か ら議論が重ねられてきた。
二 一 部請 求 の可 否 ・その既 判 力の範 囲
一般にこの問題は 「一部請求の可否」と言われるが,こ の用語は多少, この問題の捉え方 としてはミスリーデイングであるとも言われる°。原 告が数量的に可分な債権の一部のみを請求できることについては,極 端
(125)
な場合が濫用 として不適法であるのは別 として ②
,処 分権主義 (246条) を根拠 として争いは無い。問題は, この,提 起 された一部のみの請求に ついて判断する判決の後に提起 される残部についての別訴を遮断するベ きか否か,で ある。ただし, この問題において,仮 に,残 部請求を既判 力によって遮断するとの立場を採る場合には,原 告において残額部の権 利を放棄するという不利益を覚悟 しない限 りこれをなし得ず ③
, この意 味では,い わゆる一部請求は認められないと言 うこととなる。
1 判 例 (いわゆる明示説)
[一]最 高裁昭和 37年 8月 10日判決 (民集 16巻 8号 1720頁)
【 事案の概要】
譲渡担保権者 X(原 告 ・控訴人 。被上告人)は ,Aよ り譲渡担保 とし て取得 した床板 を倉庫業者であるY(被 告 ・被控訴人 ・上告人)に 寄託
していたところ,Yは Aの 右床板の引渡要求に対 しAに Xの 代理権が あるかを確かめることなくAに 引渡 し,Aは これを他に売却 してしまっ たので,Xは 寄託物の返還 を受けられな くなって しまった。そこで X は,Yに 対 し30万円の損害を受けたとしてその一部である 10万円を訴 求 したところ 8万 円の認容判決を受けてこの判決は確定 した。その後 Xは 改めて残額 20万 円を訴求 した。これが本訴である。
第一審は Xの 訴えを却下 したが,控 訴審は一部請求についての前訴 判決の既判力は残額請求に及ばないとして,第 一審判決を取消 し差戻 し た。Y上 告。
【 判旨】上告棄却
一個の債権の数量的な一部についてのみ判決を求める旨を明示 して訴 が提起 された場合は,訴 訟物 となるのは右債権の一部の存否のみであっ て,全 部の存否ではなく,従 って右一部の請求についての確定判決の既 判力は残部の請求には及ばないと解するのが相当である。
( 1 2 6 )
[二]最 高裁昭和 32年 6月 7日 半J決 (民集 11巻 6号 948頁 )
【 事業の概要】
X(原 告 ・控訴人 ・被上告人)は ,昭 和 23年 9月 26日 ,Yl(被 告 ・ 被控訴人 。上告人)及 び Y2(被 告 ・被控訴人)に 対 してダイヤモ ン ド入
りの帯留一個 を引渡 し,売 却 を委託 したが,そ れが実行 されないので, 同年 10月 5日 右委託は合意解除 され,改 めて,Yl・ Y2は 右帯留 を Xに 返還す るか又 は損害金 45万 円を支払 う旨の契約が成立 した。右義務が 履行 されないため,Xは Yl・ Y2を 被告 とし損害金の支払いを求め訴 え (以下前訴)を 提起 した。その際 Xは ,訴 状 においては 「 右契約 に基づ く損害金 45万 円の うち 40万 円の支払いを請求」 していたが,そ の後,
「 右契約 に基づ く損害金 45万 円全部 を請求す る」 旨に請求の趣 旨を拡 張 し,Xの 勝訴,即 ち 「 Yl・Y2は Xに 対 し45万 円を支払 え」とす る判 決が確 定 した。その後 Ylは 金 22万 5千 円 を支払 ったが Y2が 支払 わ ないため,Xは 改めて,前 記契約当時 Yl・ Y2は 商人であったか ら前記 45万 円の支払債務 は連帯債務であ り,前 訴 はその内の半額である 22万
5千 円のみ訴求 した ものである,と 主張 して,Yl・ Y2に 対 し残金 22万 5千 円につ き連帯 して支払いを求める訴え (以下本訴)を 提起 した。
策一審 は,本訴は前訴判決の既判力 に反す るとして請求棄却。原審 は, 金 45万 円の連帯債務の半額 につ き下 された前訴判決の既判力 は残額 に 及 ばない とし,第 一審判決 を取 り消 し請求 を認容 した。 これに対 しYl のみが上告。
【 判旨】原判決破棄 ・控訴棄却
本来可分給付の性質を有する金銭債務の債務者が数人ある場合,そ の 債務が分割債務かまたは連帯債務かは, もとより二者択一の関係にある が,債 権者が数人の債務者に対 して金銭債務の履行を訴求する場合,連 帯債務たる事実関係を何 ら主張 しないときは, これを分割債務の主張 と 解すべ きである。そして,債 権者が分割債務 を主張 して一旦確定判決を
(127)
えた ときは,更 に別訴 をもって同一債権関係 につ きこれを連帯債務であ る旨主張することは,前 訴判決の既判力 に抵触 し,許 されない…。
これを本件 についてみるに,Xは ,前 訴において,Yl等 に対 し45万 円の債権 を有す る旨を主張 しその履行 を求めたが,そ の連帯債務 なるこ とについては何 ら主張 しなかったので,裁 判所 はこれを分割債務の主張 と解 し,こ の請求 どお り,Ylに おいて 45万 円 (すなわち各 自 22万 5千 円)の 支払 をなすべ き旨の判決 をし,右 判決は確定するに至 ったこと…
明瞭であ る。…Yl等 が 45万 円の連帯債務 を負担 した事実 は原判決 の 確定す る ところであるか ら,前 訴判決が確定 した各 自 22万 5千 円の債 務 は,そ の金額のみに着 目すれば,あ たか も45万 円の債務の一部 にす ぎ ないかの観 もないではない。 しかしなが ら,Xは ,前 訴において,分 割 債務たる45万 円の債権 を主張 し,Yl等 に対 し各 自22万 5千 円の支払 を求めたのであって,連 帯債務たる45万 円の債権 を主張 してその内の 22万 5千 円の部分 (連帯債務)に つ き履行を求めたものでないことは疑 がないから,前 訴請求をもって本訴の訴訟物たる 45万 円の連帯債務の 一部請求と解することはできない。のみならず,記 録中の乙三号証 (請 求の趣旨拡張の申立 と題する書面)に よれば,Xは ,前 訴において,Yl 等に対する前記 45万 円の請求を訴訟物の全部 として訴求 したものであ ることをうかがうに難 くないから,そ の請求の全部につ き勝訴の確定判 決をえた後において,今 さら右請求が訴訟物の一部の請求にすぎなかっ た旨を主張することは, とうてい許されないものと解すべ きである。
[三]最 高裁平成 10年 6月 12日判決 (判夕980号 90頁)
【 事案の概要】
Y(被 告 ・被控訴人 ・上告人)は ,大 規模な宅地開発 を計画 し,土 地買 収等の業務をX(原 告 ・控訴人 ・被上告人)に 委託 した。Xと Yは ,右 業務委託の報酬に関し,報 酬の一部 として,買 収 した土地をYが 宅地造
(128)
成 して販売す る際 にその一割 を Xに 販売又 は斡旋 させ る旨の合意 (本 件合意)を した。
しか し,Yは ,そ の後宅地開発 を断念 したため,Xと の間で業務委託 の報酬 に関す る紛争が生 じた。
XY間 の前訴において,Xは ,主 位的請求 として商法 512条 に基づ く 報酬請求権 を,予備的請求 として本件合意 に基づ く報酬希求権 を主張 し, それぞれ,12億 円の報酬請求権のうち 1億 円の支払を求めた。前訴判決 は,Xの 請求をいずれも棄却 し,右 判決が確定 した。
Xは ,前 訴判決確定の直後に本件訴訟を提起 し,(1)主 位的請求 として, 本件合意に基づ く報酬請求権のうち前訴で請求 した 1億 円を除 く残額 2 億 9830万円,(2)予 備的請求の一として,商 法 512条に基づ く報酬請求権 のうち前訴で請求 した 1億 円を除 く残額 2億 9830万円,(3)予備的請求 の二 として,不 当利得返還請求権に基づいて 2億 6730万円の支払 をそ れぞれ求めた。
第一審判決は,Xの 各訴えを却下 したが,・ 原判決は,右 各訴えが前訴 の蒸 し返 しであるとはいえないとして,第 一審判決を取 り消 し,第 一審 に差戻す旨の判決をした。Y上 告。
【 判旨】原判決破棄,第 一審判決に対するXの 控訴を棄却
数量的一部請求 を全部又 は一部棄却す る旨の判決 は,債 権の全部につ
いて行われた審理の結果に基づいて,当 該債権が全 く現存 しないか又は
一部 として請求された額に満たない額 しか現存 しないとの判断を示す も
のであって,言 い換 えれば,後 に残部 として請求 し得 る部分が存在 しな
い との判断を示す ものにほかな らない。 したがって,右 判決が確定 した
後 に原告が残部請求の訴 えを提起す ることは,実 質的には前訴で認め ら
れなかった請求及 び主張 を蒸 し返す ものであ り,前 訴の確定判決によっ
て当該債権の全部について紛争が解決 された との被告の合理的期待 に反
し,被 告に二重の応訴の負担 を強いるもの とい うべ きである。以上の点
( 1 2 9 )に照 らす と,金 残債権の数量的一部請求訴訟で敗訴 した原告が残部請求 の訴 えを提起す ることは,特 段 の事情がない限 り,信 義則 に反 して許 さ れない と解す るのが相 当である。
これを本件 についてみると,被 上告人の主位的請求及び予備的請求の 一 は,… 訴訟上の信義別に反 し…不適法 として却下すべ きである。
予備 的請求の二 は,不 当利得返還請求であ り,前 訴の各請求及び本訴 の主位的請求 ・予備的請求の一 とは,訴 訟物 を異 にす るものの,… 報酬 請求権の発生原因 として主張す る事実関係 はほぼ同一であって,前 訴及 び本訴の訴訟経過 に照 らす と,… ,実 質的には敗訴 に終わった前訴の請 求及 び主張の蒸 し返 しに当たることが明 らかである。 したがって,予 備 的請求の二 に係 る訴 えの提起 も信義則 に反 し…右訴 えを不適法 として却 下すべ きである。
2 理 論
[一]一 部請求全面的肯定説
この立場 は,原 告が債権の一部 を請求 しているのに対 し,こ れを否定 説の ように全部請求 として取扱 うのは原告の意思,ひ いては処分権主義
に反す る, と考 える。
この ことか らこの立場 は,実 体法上,権 利の一部行使が認め られるこ とを根拠 として,原告が一部請求であることを必ず しも明示 しな くとも, 後訴で残部請求であることを明 らかにすれば足 る, とす る ° 。一部請求
につ き,無 条件で,残 部に既判力 は及ばない と解す る立場 である。
[二]一 部請求限定肯定説
上記肯定説 をその基礎 として,冒 頭 に挙 げたような被告の不利益 を回 避す る方法 を模索 した結果,限 定的に肯定する立場がある。
[1]明 示説一一半1例の立場――
(130)
被告の手続保障を考慮 した結果,請 求が債権 の一部であることを明示 することによって,手 続保障 を充実 しようとす るのが,判 例 の採 るいわ ゆる明示説の立場 である。
また,判 例 は明示の一部請求全部又 は一部棄却 について,立 場 を明 ら かに していなかったが,前 述の平成 10年 6月 12日 判決 において判示 し た通 り,一 部請求の全部又 は一部棄却 の場合 には,残 部請求 を否定す る 立場 を採 り, これによ り被告の応訴の煩,訴 訟経済 を考慮する もの と思 われる。
[2]い わゆる実体 関係的手続保障説
上記判例の立場 に対 して,明 示 は被告の手続保障充足の典型であると して, さらに明示が無い場合 にも,個 別的に当該一部請求について実体 法上の分害J請求の可否 を評価検討するとともに,信 義則 ・権利濫用の法 理 を考慮 して残部請求の可否 を判断す る立場 ⑤ である。
[3]場 合分 け説
その他,裁 判所 はその債権のあ らゆる一部 も存在 しないことを審理 し ない とこれを棄却 し得 ないことを理由に,原 告敗訴の場合 には残部請求 について もこれを否定 し,原 告勝訴の場合 に限 り,明 示の有無 に関わ ら ず,残 部請求 について も許容する立場 ③
もある。応訴の煩,訴 訟経済 を 考慮 した結果であると思われる。
[三]一 部請求否定説
以上の肯定説 に対 し,現 在有力 な立場 は,実 体法上の権利 の一部行使 と訴訟上の権利の一部行使 を切 り離 し, どの説において も,多 少の語弊 はあるが,一 部請求についての判決の既判力 は原則 として残部にも及ぶ とす る立場 であろうと思われる。ただ し,こ のような立場 において も, 当該請求が二定の基準 を満た した場合 には,当 該判決の既判力 は残部 に は及ばず,改 めて残部 を請求で きることとなる。
(131)
[1]兼 子説
この立場 は,明 示 を求める点 においては判例の立場 と同一の ものの よ うに も思われるが,そ の本質において,判 例 とは全 く異質の ものである と言 うことがで きる。
つ ま り,判 例の立場 は,原 則 としては一部請求についての判決の既判 力が,残 部 には及ばないことをその基礎 として,相 手方の手続保障の観 点か ら明示 を求めるのに対 し,上 述の通 り,一 部請求 についての判決の 既判力 は原則 として残部 にも及ぶ とする立場 を採 り,例 外 的な場合 とし て,当 該一部につ き,全 体の中で特定 し得 るだけの標準がなければな ら ない とす る ° 。
論者 は,原 則 として一部請求 を否定す る立場 を,以 下の様 に場合 に分 けて解説す る ③ 。
まず,「明示がなされなかった場合」には,原 告は不特定の一部 を択一 的に主張 しているのであ り,常 に債権全部が訴訟物 とな り,訴 訟物の価 額 もその全額 を標準 に して決せ られ,既 判力 も債権全体 に及ぶ もの と解 す る。
次 に,「一部請求敗訴後の残部請求」については,明 示 された当該一部 請求が,当 該債権の どの部分 にあたるのか特定が難 しく,ま た,裁 判所 はその債権のあ らゆる一部 も存在 しないことを審理 しない とこれを棄却 し得 ないのであるか ら,一 部請求棄却の判決は,論 理上必然的に残部 を 否定 した もの と考 え,残 部請求 を否定す る。
最後 に,「一部請求勝訴後の残部請求」にういて,敗 訴 と勝訴で既判力 の範囲に差異 を認める事 は矛盾であることか ら, この場合 にも残額請求 は否定 される。
なお,こ の立場の債権 の特定 とい う観点か ら,額 の不確実な損害賠償 請求 を除 き,契 約 に基づ く確定額の金銭債権では残部請求 を否定する立 場 ⑨
もある。
( 1 3 2 )
[2]新 堂説一― いわゆ る抽象 的手続保 障説一一
この立場は,原 告の一部請求の利益,特 にテス ト訴訟の場合などには, 一部請求の残部請求を許容する利点は認めるものの,原 告にとっての利 点は,全 額請求においても認めることができる点, また,被 告の応訴の 煩,及 び訴訟経済に加え,上 記兼子説が挙げる当該一部の特定の困難を 主な理由として,原 則 として一部請求についての判決の効力が,債 権の 残部にも及ぶものと考え,残 部請求を否定する。
ただし,こ の説においても,前 訴で原告が,当 事者たる主体的地位に つき平等の立場で攻撃防御方法を展開できる機会が保障されていなかっ た場合,つ まり前訴当時通常の注意を払っても予見 し得ず 「 提出しよう にも提出できなかった」請求については,後 訴を認め,残 部請求を許容 すべ きであると考える ° °
。 [3]そ の他の学説
上記,新 堂説に対 し,こ の 「 提出しようにも提出できなかった」 とい う基準を採ると,提 出できれば手続が保障されたこととなり手続保障が 抽象化ないし空洞化 してしまう, との批判に立ち,む しろ 「 提出すべ き であったか」及び可能性の観点か ら考慮する立場 ° Dが
ある。
また,不 法行為による被害者保護の観点か ら,訴 訟を 「契約型訴訟」
と 「 不法行為型訴訟」に分類 し,後 者に限 り,保 護の必要性か ら残部請 求を許容する立場 l121も
ある。
3 分 析
かなりおおまかな分類ではあるが,以上のように学説が対立する中で, まず,全 面的肯定説については,従 来から挙げられている,相 手方に対 する不意討ちの可能性を考慮すれば,採 り得ないものと思われる。この ような視点は,他 の見解か ら,重 ねて批判されている点であ り,改 めて 書 くまでもないが,当 該一部についての請求を,全 部請求であると誤信
( 1 3 3 )
して,そ れ相応 の訴訟追行 を行 った相 手方 に とって,前 の訴訟 は 一部で あ った とす る原告 の残 部 請 求 を認 め る こ とは, あ ま りに も酷 で あ ろ う と 思 う。
特に,不 法行為に基づ く損害賠償請求などのように,損 害額の算定が 難 しい場合や,慰 藉料等 も含めた請求がなされることが通常である場合 において,請 求額 とは,つ まりは原告が,損 害の対価 として満足を得 ら れる金額を設定するものであろうと推測できる。このような場合,相 手 方 となる被告 としては,当 該 一部をもって,全 請求であり,つ まりは原 告はその金額で満足を得て くれるのだと誤信 し,あ るいは請求をそのま ま争わずに認諾 してしまう可能性 まである。そのような場合において, 後にそれを一部であると主張することは,応 訴の煩 もさることなが ら, 不意討ちの可能性 を考慮すれば,信 義則に反するものとして, これを認 めるべきではない。逆に,残 部については少なくとも訴訟は放棄したも のと解すべきところであろう。この点については後述する。
次に,明 示, もしくは明示 を含め,手 続保障の有無 を基準 とす る限定 肯定説 について,特 に明示がある場合 においては,そ の後の残部請求 を 認める余地 も大 きいようにも思 う。そもそも,民 事訴訟においては,処 分権主義により当事者が訴訟の範囲を設定で きることが大原則であっ て,被 告にとって不意討ちとなる場合を除いては,こ の処分権主義を第 一義とし,分 害J請求を許容すべきであろうかとも思う。しかしながら, ここで,「明示」について,疑 間が生ずる。
例えば 1000万円を,極 端に,1円 ずつに分割 して請求するごとき訴訟 は,権 利の濫用あるいは信義則にもとる行為であって,こ れを認める必 要がないのは所論の通 りである。 しかしなが らその基準はどこにあるの か。一部請求 とする額,お よび回数はどのように判断すればよいのか。
つまりは,明 示説等が分割請求を認めるのは,テ ス ト訴訟が必要な場合 とされる,裁 判所がどのように判断するか趨勢が不明な訴訟の場合や,
(134)
あるいは原告の手元が不如意であって,巨 額な請求を行 う前提 として訴 訟費用などを前 もって入手する必要がある場合であるが, このようなテ ス ト訴訟を認めるのは,一 回,つ まりは一分割を認めれば必要十分であ るように思 う。また,処分権主義を考慮 しても,1つ の債権 を 10分割 し て 10回訴訟を行 うことがその趣 旨であるとは,到 底思えない l131。 これ は,残 部請求を認める立場の多 くが,や はり数回にわたって債権を分割 して訴求する行為 を,信 義則等により遮断することからも明らかなこと である。
また,こ のテス ト訴訟の必要性についても疑間がある。不法行為に基 づ く損害賠償請求などにおいて,一 部,損 害額の算定が困難な場合を除 き,そ れを分割 して請求するテス ト訴訟などを認める必要が本当にある のだろうか。
確かに,上 記のように趨勢が不明な訴訟や,訴 訟費用の前納のための 費用の確保が必要であるという,従 来からの主張は,も っともではある。
しか しなが ら,前者において原告が敗訴するのは原告の訴訟追行の不備, あるいは見通 しの甘さからくるものであ り,原 告が甘受すべ きものであ るようにも思う。また,後 者は,訴 訟制度,あ るいは弁護士が手付金な どと称 して前 もって原告か ら金員を受ける弁護士制度の不備であって, 法律扶助制度などの充実 もみられ, これらにおいて原告の便宜を図 り, 被告の負担 として,つ まりは何度 も訴訟に応ずる被告の応訴の煩をもっ て処理するのは,バ ランスを失するものといわざるを得ない。
さらに言えば,訴 訟費用や弁護士費用の節約については,最 早,考 慮 する必要があるのかさえ疑間である。このように書 くのは,近 時の,安 価な訴訟の実現 。訴訟の経済性を重視する視点か らは遠 く離れるように
も思われるが,あ くまで,安 価な訴訟,訴 訟経済は制度的な問題であっ て,大 いに賛成するところである。 しか しながら,制 度 としてある一定 の金額について請求を行 うためには幾 ら, と定められているところ, こ
( 1 3 5 )
れを,債 権を分割することにより,例 えば,勝 訴を得 られれば残部につ いては訴訟外で弁済を受けられるか もしれないなどとする原告の期待 は,保 護するべ き必要はないと考える ° の
。
また,手 続保障の有無を基準 として債権の分割を認める見解は,既 判 力の側面から,手 続保障がなかった,つ まりは既判力が及ばないものと して,残 部請求が可能 と解するものと思われるが,こ の場合は,手 続保 障の機会が与えられたが,原 告がこれを行使 しないことを選択 した, と いう処分権主義の逆の側面に注 目すべ きように思われる。
一方で,特 に,不 法行為に基づ く損害賠償請求の場合に,損 害額の算 定が困難であることか ら,一 部請求後の残部請求を認める必要が大 きい
ことは,全 面否定説 も認めるところである l151。
確かに,原 告にとっての 利点は,残 部請求を否定 したうえで,全 額請求においても認めることが できる,つまりは全額請求により被告の対応の仕方が定まり,場合によっ ては和解の機会 も生まれやすい等の利点がある ° の としても,そ のよう な利点は,損 害額を明示 しない損害賠償請求の可否につ き争いがあると ころ,こ れが認められれば ° つ
,意 味を失うのではないか。また逆に, こ れを認めないとすれば ° め
,原 告は最大限の要求額を記載することとなる が, このような場合において,裁 半J所が 248条に基づ き原告の要求額を 超えて損害を認定する場合 もあ り,こ の認定額 と要求額の差額について は,残 部請求を認めざるを得ないように思う。この危険を回避するため には,原 告は,損 害額の算定が困難であるにもかかわらず,過 大な金額 をあ らか じめ要求 しなけれ ばな らない こ ととな り,か えって訴訟 の混乱 を招 くこ とに もな りかねず, また, さ らには, この過大 な額 に従 って訴 訟 費用 も相 応 に増 額 す る こ と となるが,そ の よ うな負担 は, も とよ り原 告 が負担 すべ く予 定 され た もので は ないか らで あ る。
以上 の こ とか ら,筆 者 は,原 貝1と して,一 部請求 の際 の残 部請求 につ い て は これ を否定 しつつ,例 外 的 に,不 法行為 に基づ く損 害賠償請求訴
(136)
訟 な どにお いて,損 害額 の認定が 困難 であ る こ とを理 由 として請求額 が 定 ま らない場合 に限 り,一 部 であ る (テス ト訴訟 であ る)こ とを明示 し たうえで,一 部請求を行った場合に限 り,残 部についての別訴 も認める べ きであると考える。
この問題を検討するにあた り,い ずれの立場 も苦慮するのが,い かに して残部の請求を遮断するか,そ の根拠であろう。残部請求を否定する 立場か らは,債 権の一部のみが訴求されたとしても,審 判の対象 となる のは債権の全体であって,判 決の効力は債権の全体に及ぶと主張されて いるところ,残 部請求を認める立場からは,そ もそも債権は実体法上分 割請求が認められてお り,こ の一部について訴求 したことをもって残部 にも判決の効力が及ぶのは,処 分権主義の後退 l191で あるとして批判を 受ける。 しかしなが ら,∵ 方で,民 事訴訟 とは私人間紛争の公権的解決 であるところ,一 部について勝訴判決を得た原告は,残 部について被告 が訴訟外で弁済等をするかもしれないという訴訟費用および弁護士費用 の節約の期待のみならず,実 質的には,残 部についてもおそらくは認容 判決が得 られるだろうという期待を持ちうるのであって,逆 に被告から みれば,こ れは裁判所が後ろ盾 となった,い わば圧力に他ならず,実 体 法上の債権の分割行使 とは,結 果として異なった力関係を生むこととな る。思 うに,処 分権主義 とは,あ くまで自己の権利のどの部分について 訴訟によって争うかという紛争の範囲を,当 事者の意思に委ねることで あ り,訴 訟をほしいままにすることを許容するものではない。実体法上 の処分権がそのまま処分権主義に直結する,言 い換えれば実体法上なし うる行為は全て訴訟上 もなしうるとするのではなく,一 部請求 とは,訴 訟によって解決を得 られる機会が与えられているにもかかわらず,当 該 債権を分害Jし,一 部についてのみ訴訟において請求するものであるとこ ろ,こ れを変更せずに判決まで一部請求のまま維持する原告の態度は, いわゆる残部については少なくとも訴訟では争わないとの意思表示であ
(137)
り, 処 分権 主義 に基 づ い た訴訟 上 の禁反 言 ない し失権 効 を考慮 すべ きで あ る と考 える C ° 。
三 後 発 損 害 の賠償 請 求
上記,一 部請求に類似の問題 として,後 発損害の賠償請求の問題があ る。同様の理論が展開されるが, この場合には同 一事故の後遺症による 後発損害の賠償を求める後訴を提起 しうるという結論については争いが 無い ° D。 しかし,こ の場合にも元 となる債権は 1つ のものであって,可 能であるならば,一 部請求の場合における理論 との統 一が望まれるので はないだろうか。
なお,新 法において,定 期金賠償を命 じた確定判決の変更を求める訴 えが認められた (117条1項 )こ とは,記 憶に新 しい。
1 判 例
[一]最 高裁昭和 42年 7月 18日判決 (民集 21巻 6号 1559頁)
【 事案の概要】
Y(原 告 。控訴人 ・被上告人)は 昭和 28年 12月 4日 ,X(被 告 ・被控 訴人 ・上告人)の 子 と遊ぶうちに喧嘩になり,自 宅に逃げ帰ろうとして Xの 子に押 され,被 告の所持保管する硫酸の入った甕に突 き当た り, こ れが割れて硫酸を足部その他 に浴びて火傷 を負った。Yは 親権者が治 療費 として支出した 20万 円:慰 藉料 30万 円,将 来の得べか りし利益の 喪失金50万円,計 100万円の賠償につき,不 法行為を理由として昭和 31年12月3日,請求する訴えを提起した (以下,前訴)。第一審,慰著
料 の み 20万 円 を認容 。双 方 の控 訴 に よる第二審 ,慰 藉 料 のみ さ らに 10 万 円認容 ,確 定 。
Yは その後 ,右 足 関節 部が次第 に火傷 に よ り内反足 を生 じ運動機 能障
(138)
害 をきた したため,昭 和 3 6 年 7 月 頃 よ り某病院に入院 ・加療 し, そ の治 療費 として計 42 万 8千 2 1 0円 を親権者が支払 い, これ によ り同額 の損 害 を被 った として, 損 害賠償請求訴訟 を提起 した (本訴)。第一審,請 求 棄却。原審,一 部認容,X上 告。
【 判旨】上告棄却
「 一個の債権の一部についてのみ判決を求める旨を明示 して訴が提起 された場合には,訴 訟物は,右 債権の一部の存否のみであって全部の存 否ではなく,従 って,至 部の請求についての確定判決の既判力は残部の 請求に及ばないと解するのが相当… (当裁判所昭和 35年 〈 オ〉第 359号, 同 37年 8月 10日言渡第二小法廷判決)。
ところで,記録によれば,所論の前訴 (東京地方裁判所昭和 31年 (ワ〉
第 9504号,東 京高等裁判所同 33年 〈 ネ〉第 2559号,第 2623号)に お ける被上告人の請求は,被 上告人主張の本件不法行為により惹起 された 損害のうち,右 前訴の最終日頭弁論期 日たる同 35年 5月 25日 までに支 出された治療費を損害 として主張 しその賠償 を求めるものであるとこ ろ,本 件訴訟における被上告人の請求は,前 記の口頭弁論期 日後にその 主張のような経緯で再手術を受けることを余儀なくされるにいたったと 主張 し,右 治療に要 した費用を翌 日としてその賠償 を請求するものであ ることが明らかである。右の事実によれば,所 論の前訴 と本件訴訟 とは それぞれ訴訟物を異にするか ら,前 訴の確定判決の既判力は本件訴訟に 及ばない…。 」
[二]最 高裁昭和 43年 4月 11日判決 (民集 22巻 4号 862頁)
【 事案の概要】
X(原 告 ◆控訴人 。上告人)の 実母 Aは ,昭 和 34年 3月 24日 ,道 路 を横断中,Y(被 告 ・被控訴人 ・被上告人)の 使用人 Bの 運転す るオー ト バ イに衝突 され,負 傷 した。Xの 主張 によれば,Aは 当時人事不省 に陥
( 1 3 9 )
るほど身体を道路上で強打 し,開 業医の治療 をうけたが,そ の後同年 6 月 17日某病院で診察をうけた結果,同 月 22日 か ら7月 13日 まで同病 院で入院治療をうけ,退院後同年 8月 10日 には医療をいったん打ち切っ た。Xは ,A,弟 C,弟 Dと ともに,昭 和 36年 5月 15日,Yを 相手に, 慰籍料および損害賠償請求の民事調停 を申し立て,翌 37年 2月 8日 に 調停が成立 した。その条項の要点は,(1)相手方 Yは 申立人 らに対 し金 5万 円を昭和 37年 2月 28日 限 りX宅 に送金 して支払 うこと,(2)申立 人 らはその余の請求を放棄すること, というものであった。
ところが,右調停成立後昭和 37年 12月 3日 ,Aは 死亡 した。そこで, Xは ,Yに 対 し,Aの 受傷および死亡によりうけた損害 3万 1千 円と精 神的損害 30万 円の賠償を求めて本訴を提起 し,そ の根拠 として,右 調停 におけるXの 意思は,Yが Aに 対 し5万 円を支払い,Aが その余の請 求を放棄するが,Xや その弟の請求については別途に処理することに あったから,Xの 意思表示は錯誤により無効である, と主張 した。
第一審は,「X主 張の如 き意思表示の錯誤があったとは認め られず」
として,請 求を棄却 した。第二審は,「本訴当事者間において既に調停が 有効に成立 しているので,当事者は右調停の趣旨に反する主張ができず, 裁半J所もこれに反する判断ができない。そこで本訴請求中右調停におい て認容された部分はもはや訴の利益を欠 くものというべ く,又 その余の 部分は請求の理由がないことに帰する」 として,控 訴を棄却 した。X上 告。
【 判旨】原判決中慰籍料請求に関する部分を破棄,右 部分につ き差戻 し
「 右調停は,Aの 受傷による損害賠償については有効に成立 したもの と認められ,従 って,本 訴において Xの 請求する3万 1千 円の財産上の 損害賠償請求は,右 調停において,既 に解決済であ り,Xの 右財産上の 揖害賠償請求権を,本 訴において主張することはできない…。
しかし,精 神上の損害賠償請求の点については,Aお よび Xら はまず
( 1 4 0 )
調停 において A の 受傷 による慰藉料請求 を し, そ の後 Aが 死亡 したた め,本 訴において,同 人の死亡 を原因 として慰藉料 を請求するものであ ることは前記の とお りであ り,か つ,右 調停 当時 Aの 死亡することは全 く予想 されなかった もの とすれば,身 体侵害 を理由 とす る慰籍料請求権 と生命侵害 を理由 とす る慰藉料請求権 とは,被侵害権利 を異 にするか ら, 右のような関係にある場合においては,同 一の原因事実に基づ く場合で あっても,受 傷に基づ く慰藉料請求 と生命侵害を理由とする慰藉料請求 とは同一性を有 しないと解するを相当とする。…右調停が,原 判決のい うように,Aの 受傷による損害賠償のほか,そ の死亡による慰籍料 も含 めて,そ のすべてにつ き成立 したと解 し得るためには,原 判決の確定 し た事実関係のほか,な おこれを肯定 し得るに足る特別の事情が存 し,且 つその調停の内容が公序良俗 に反 しないものであることが必要である
…Aは 老齢とはいえ,調 停当時は生存中で…,右 調停はA本 人も申立人 の一人となってお り,調 停においては申立人全員に対 して賠償額が僅か 5万 円と合意された等の事情にあ り,こ れらの事情に徴すれば,右 調停 においては,す 般には Aの 死亡による慰籍料についても合意 したもの とは解 されない…Aの 死亡による慰籍料 について も合意されたものと 解するためには,Aの 受傷が致命的不可回復的であつて,死 亡は殆んど 必至であったため,当 事者において同人が死亡することあるべ きことを 予想 し,そ のため,死 亡による損害賠償をも含めて,合 意 したというよ うな前記のごとき特別の事情等が存 しなければならないのである。 しか るに,原 判決は,こ のような特別の事情等を何 ら認定せず して,Aの 死 亡による慰藉料の損害賠償をも含めて合意がなされたとし,本 訴請求を 排斥 したものである。 」
[三]最 高裁昭和 43年 3月 15日判決 (民集 22巻 3号 587頁)
【 事案の概要】
(141)
昭和 32年 4月 16日 に事故が発生 したが,事件直後の医師の診断では, 全治 15週 間の見込みであった。被害者 Aも ,傷 は比較的軽微 なもので あ り,治 療費 も自動車損害賠償保険金で賄 えると考 えていた。そこで事 故後 10日 も経たず,ま だ被害者の入院中に,被 害者 と加害者の使用会社 Y(被 告 ・控訴人 ・上告人)と の間に,被 告が 自動車損害賠僕保険金 (10 万 円)を 被害者 に払い,被 害者 は今後本件事故 による治療費その他慰藷 料等 の一切 の要求 を申 し立てない 旨の示談契約が成立 し,右 10万 円が 支払われた。
ところが,事 故後 lヶ 月以上経 ってか らその傷 は予期 に反する重傷で あることが判明 し:Aは 再手術 を余儀 な くされ,手 術後 も左前腕関節の 用 を廃する程度の機能障害が残 り,Aは 結局 77万 余 円の損害 を受けた。
そ こで,国 Xは ,労 災法 にもとづ き被害者 に 39万 余 円の保 険給付 を し, この金額の求償 を労災法 20条 によって Yに 求めた。 これが,本 件 である。第一審,第 二審 とも,Xの 請求 を認容。Y上 告。
【 判旨】上告棄却
最高裁は,ま ず一般論 として,「示談において,被 害者が一定額の支払 をうけることで満足 し,そ の余の賠償請求権を放棄 したときは,被 害者 は,示 談当時にそれ以上の損害が存在 したとしても,あ るいは,そ れ以 上の損害が事後に生 じたとしても,示 談額を上廻る揖害については,事 後に請求 しえない」としなが ら,本 件でほ,右 示談が,「全損害を正確に 把握 し難い状況のもとにおいて,早急に小額の賠償金をもつて満足する」
という趣旨で成立 した場合であ り, このような場合には,示 談によって 被害者が放棄 した損害賠債請求権は,示 談当時予想 していた損害につい てのもののみに限るべ きであ り,そ の当時予想できなかった不測の再手 術や後遺症がその後発生 した場合,そ の損害についてまで放棄 した趣旨
と解するのは,当 事者の合理的意思に反する, と判示 した。
(142)
2 理 論
[ 下] 判 例 の立場一一 明示 説 の展 開一 一
判例 は, 昭 和 4 2 年 7 月 1 8 日 判 決 にお いて 明示 説 の立場 か ら, こ の場 合 を債権 の下部が 明示 で請求 された場合 と考 え, 後 遺症 に よる損害 を残 部請 求 と見 て, 後 訴 を適法 だ とす る。 しか し, 後 発 損 害 の場合 には, 前 訴においては後発損害がいまだ具体化 してお らず,実 際には判例の言 う 明示が無い場合が典型であ り,判 例理論 は,多 少妥当す る場合 を限定す る もの と言わざるを得 ない。
また,昭 和 43年 4月 11日 判決,昭 和 43年 3月 15日 半J決は,調 停 も しくは示談の後の請求 についての判決であ り,多 少場合 を異 にするが, 特段 の事情が無 ければ後発損害 につ き否定す るものではない とす る立場 は,明 示説ではな く,以 下の手続保障説 に近い ものであると思われる。
[二]一 部請求論 における兼子説の展 開
この立場 は,一 部請求論 において明示 を要求す ることか ら,統 一的な 見解 を打 ち出す ことは難 しい もの と思われる。 しか し, この立場が求め る,当 該一部につ き,全 体の中で特定 し得 るだけの標準 はあるもの と考 え られるので,半J例における明示説の ように明示がなされた と解 しうる 事例 においては,理 論的には成立するだろう。
[三]手 続保障説
この立場 は,一 部請求後の残部請求 を原則 として認める実体 関係的手 続保障説 ② と,一 部請求後の残部請求 を否定す る抽象的手続保障説 の
, 及 び具体的手続保障説 い)に
分かれるが,後 発損害の場合 には,い ずれに 立 って も具体的な差異 は無い。
(143)
[ 四] 時 的 限界 説
また,一 部請求論 を放棄 し,前 訴判決の基準時 までに具体化 しなかっ た損害は,基 準事後の新 たな事 由に該当 し,既 判力の時的限界の問題 と して,後 訴提起 は許 されるとす る立場 CDも ある。
3 分 析
この場合 においては,一 部請求 と類似 の問題 とされなが ら,後 発損害 について後訴 を提起 しうるとい う結論 につ き争いは無い。争いがあるの は後訴 をな しうるとす るその根拠である。上述の通 り,明 示 をもって一 部請求の根拠 とする立場 は,判 例 も認めるとお り,明 示があった とは言 えない場合が典型的であるこの局面 において,統 一的な見解 を採 りえな い ことは,明 らかである。 この局面 においては,後 発損害 につ き,訴 訟 によって解決 を得 られる機会が与 えられていないことか ら,原 告は,処 分権主義 に基づいた訴訟上の禁反言 ない し失権効 を受 けることな く,後 訴において後発損害 につ き請求す ることがで きるもの と考 える。
四 お わ りに
その他,一 部請求 に関 しては,一 部請求 と過失相殺 あるいは弁済 。相 殺の抗弁,あ るいは一部請求 と時効 中断 といった問題がある。
一部請求 と過失相殺あるいは弁済 。相殺の抗弁について,判 例 (最高 裁昭和 48年 4月 5日 判決 ・民集 37巻 3号 419頁 )(最 高裁平成 6年 11 月 22日 判決 ・民集 48巻 7号 1355頁)は 外側説 を採 るのに対 し,学 説 に は,全 額 につ き算定 した上で,全 体の額か ら減額 した上で,そ の残額が 請求額 を超 えない ときはこの残額 を,超 える時は請求額 を認容す るべ き
とする外側説 ° ①
:常 に一部請求額 を基礎 として,過 失割合 によ り按分す べ きだ とす る接分説 り つ がある。理論 としては一部請求額 ないでで きう
(144)
る限 り処理 しようとする内側説 もあるようだが,論 者は見当たらない。
筆者は残部請求について否定する立場から,外 領1説を採るのが妥当であ るように思 う。また,現 行の判例理論 としても,前 掲平成 10年 6月 12 日判決 (判夕980号 90頁)の ように,信 義則をもって一部請求敗訴後の 残部請求を否定する立場を採るのであれば,按 分説によリー部請求が二 部認容 しかされなかった場合に,一 部敗訴 ということになるため,外 側 説が妥当であろうか。判決をみれば明 らかであることであ り,直 接の理 論的つなが りはないようにも思われるが,こ の点については,別 に考察
したい。
また,一 部請求 と時効中断につ き判例 (最高裁昭和 34年 2月 20日 ・ 民集 13巻 2号 209頁)は ,一 部につ き時効中断を認める。つまりは,明 示された一部のみが訴訟物になりうるのであって,時 効中断はそこに結 びつ き残部には及ばない,と する。
これに対 し,一 部請求の後の残部請求を認めない立場は,債 権全体を 訴訟物 と解することから,時 効中断についても残部に及ぶと解するもの と思われるが,筆 者の述べた処分権主義に基づいた禁反言ないし失権効 という見地からは,訴 訟物はあ くまで別であって,時 効中断については 残部には及ばないと解するべ きであろうと現時′ 点では考えているが,こ の′ 点の検討 も,別 の機会に譲ることとする。
筆者の時間的 ・能力的な不足から,本 稿は理論的な根拠を明確に定立 できず,あ くまで論点の整理に終始 した感がある。至 らなさをお詫びし つつ,本 稿が学生諸君の研究の一助 となることを願う。
江
(1)高橋宏志 『 重点講義民事訴訟法 〔 新版〕 』 (有斐閣)88頁 (2)東京地判平成7年 7月 14日 ・判夕891号260頁 (3)新堂幸司 F新民事訴訟法 〔 第3版〕 』(弘文堂)308頁
(145)
)木 川統一郎 「 一部請求メモ」判例タイムス 209号8頁 ,小 山昇 「金額請求につ いて」民事訴訟雑誌 6号 109頁,伊 東乾 『 民事訴訟法研究』 (酒井書店)521頁 (5)上 田徹一郎 『 民事訴訟法 〔 第 4版 〕 』(法学書院)192頁 ,斎 藤秀夫 『 民事訴訟法
概論 〔 新版〕 』 (有斐閣)378頁
(6)松 本 =上 野 『 民事訴訟法 〔 第 3版 〕 』 (弘文堂)464頁 (7)兼 子一 『 民事訴訟法体系』 (酒井書店)342頁
(8)兼 子― 「 確定判決後の残額請求」民事法研究 I(酒 井書店)393頁 以下 (9)小 室直人 「 一部請求と上訴」実体法と手続法の交錯 (山木戸還暦記念論集)下
269頁 l101 新 堂前掲
a⇒ 井 上治典 「 確定判決後の残額請求」民事訴訟法の争点 180頁 0⇒ 納 谷廣美 「 一部請求と残額請求」民事訴訟法の争点 [第3版 ]144頁 OЭ 伊 東乾前掲
l141 同 様の見解 として,兼 子― 「 確定判決後の残額請求」民事法研究 I(酒 井書店) 418頁,た だし,こ のような見解に対 して,伊 東乾 『 民事訴訟法研究』(酒井書店) 524頁は,「「 一部請求がどんな場合が多いかというと,(試験訴訟が主たるもので あって,)訴 訟をもてあそんでいるものは殆 どないようだ。 このようなものであ れば,訴 訟の濫用 と認めるのが相当であるから,却 下すればよいが,試 験訴訟を まで不法視 しなければならないか」というモット有力な政策論が優先する」と述 べる。さらに,山 本和彦 「一部請求」判例 タイムズ 974号 49頁以下は,訴 訟費用 制度 との関係につ き,「具体的な個別事件 における費用額の実質的当否の判断を 原告が一方的に行 うことを認めるシステムは,制 度 として到底容認 しがたい」と
して,そ の他緻密な検討の後に,残 部請求につ き否定する立場 を採る。
0う 新 堂前掲 00 新 堂前掲
α つ こ れを認める見解 として,五 十部豊久 「 損害賠償額算定における訴訟上の特殊 性」法学協会雑誌 79巻 6号 731頁,小 山昇 「 金額請求について」民事訴訟法雑誌
6号 120頁 。
l181 新 堂前掲,な お判例 として,最 判昭 27.12:25民集 6巻 12号 1282頁 ・百選 2版 43事件。
09 上 日前掲ほか
00 こ の点,人 事訴訟手続法 9条 による婚姻無効 ・取消 ・離婚訴訟の併合強制や民
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事執行法 34条 2項 ・35条 2項 の執行分付与異議 ・請求異議訴訟等 の併合 強制 な どの場合の 「請求失権効」を類推適用 して一部請求後の残部請求の却下 を主張す る もの として,山 本前掲
0⇒ 上 田前掲 221 上田前掲
031 新堂幸司 「紛争解決後 の損害 の増大 とその賠償 請求」 ジュ リス ト399号 62頁
② 井 上治典 「後遺症 と裁判上 の救済」 ジュ リス ト548号 314頁 20 上 田前掲
00 中 野貞一郎 「一部請求について」民事訴訟法の現代的構築 (染野古稀記念論集) 45頁 ,「金銭債権の一部請求 と相殺」民商法雑誌 113巻 6号 921頁 ,ま た,好 美清 光 「交通事故訴訟 にお ける過失相殺 の諸問題」実務民事訴訟講座 Ⅲ 227頁 2つ 並 木茂 「一部請求における過失相殺」新実務民事訴訟講座 Ⅳ 178頁
(147)