赤堀勝彦著 企業の法的リスクマネジ メント
⎜ 法律文化社,2010年7月,はしがき4頁,目次4頁,図解・初出 一覧2頁,本文310頁 ⎜
Ⅰ.
標記著書 企業の法的リスクマネジメント (以下=本著書)は,著者が 取り組んできた様々な社会的不確実性問題を基盤として,それら研究成果を 集成したものといえる。著者は,近年,法学部に籍を置き,目まぐるしく変 化する社会経済環境を背景として,リスクマネジメント(以下=RM)を社 会法的側面からも軽視できないとする視座を窺わせている。このことは,書 名からも判るが,環境変化を構造的特質とする情報化社会の不確実性問題が 進化的展開を辿るリスク社会の必然的経緯として注目されるところである。
産業資本主義的生産構造に立脚する現代市場経済にあっては,拡大再生産 過程の資本効率性追求と市場範囲の拡大的運営は不可欠な要素となる。資本 の回転率向上と展開範囲拡大が,改善されるべき課題として追求されるので ある。そこに,情報化・グローバル化の潮流が社会経済の諸局面に進行し,
環境変化の不確実性によるリスク認識の増幅を促している。近年の市場経済 社会は,情報処理技術の進展に即して広く規制を緩和し,再生産過程の迅速 なる展開と市場範囲の拡大的運営を進展させているのである。そこには,広 域的経済均質性のエネルギーが激しく作用し,価値認識関係,市場範囲形成 等々に,総合化あるいは統合化のごとき,環境変化の構造的特質が醸成され ているのである。
著者は,上記のごとき現代社会経済環境に提起される諸問題を考察し,当 代の特筆すべきテーマを選定し,RM実践過程の体系的・技術的問題から 257
【書 評】
RM成熟段階へと進む社会制度的問題に目を凝らし,本著書を上梓したと考 えられる。
本著書では,現代の注目すべきRM局面として,内部統制問題,個人情 報保護問題,製造物責任法問題,環境法規制問題,そして職場におけるメン タルヘルスケア問題を取り上げている。いずれもが現代の社会経済的考察ポ イントを勝れて代表しうるRM問題といえる。これらの問題を分析整理す るために,多くの関連資料・文献を渉猟し,RM実践の展開経緯を例示的に 提示し,引き続く変化に臨む基本的対策案を示唆するものとなっている。以 下,各問題研究の論点を概観していきたい。
Ⅱ.
著者の論点は,上記のごとき評者の推察を背景として構成されていると考 えられる。保険管理からRM展開の諸段階を踏まえ,RM実践が不可欠な 要素とされる重要問題を例示的に分析整理し,進展するRM問題の動向を 暗示している。各題材に関しては, はしがき で著者自身により簡潔に要 約されている。以下は,評者が本著書各章について捉える概要である。
第1章 内部統制とリスクマネジメンント では,米国SOX法の制定と 日本版SOX法(J-SOX法)制定への背景と経緯が纏められている。日米の 内部統制報告制度比較対照表を併せ示し,米国内部統制制度の展開に見る如 く,日本の内部統制制度の展開においてもRM体制の組織的向上を図るこ とが重視されている。第2章 個人情報保護法と企業のリスクマネジメン ト では,情報化社会における企業の情報漏洩問題や個人情報保護問題とこ れに対する法的整備状況の背景と経緯が詳述されている。そのリスク類型や リスク事例が広く整理され,保険を含めて各分野のリスク対応手法が収集・
提示されている。それは,企業経営の観点からも社会的責任を伴う重大リス クとして,今後,ビジネス社会で益々重要性を高め,企業理念に根ざす地道 な対策が必要であるとされている。第3章 製造物責任法と企業のリスクマ ネジメント では,現代消費経済生活における製品取引の安全性に関する問
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題が,英米法の法理に影響され,社会的権利責任関係を現代社会環境に順応 させる変化であるといえる。その先例は自動車損害賠償保障法にも見られる ところであるが,著者は,様々に提起される厳格責任化の局面を製造物責任 法に代表させて捉え,米国の法理,日本の法構成,その意義と課題,そして 製造物責任リスクとそのRMを豊富な資料に基づいて論述している。著者 は,製造物責任法や保険手法が必ずしも十分な解答ではないことを指摘し,
消費者重視・安全対策重視に基づいて,安全管理とコンプライアンス体制の 構築が肝要であるとしている。第4章 最近の環境法規制のもとにおけるリ スクマネジメント では,産業公害問題から地球環境問題等に至る一連の環 境問題経緯を辿り,最近の環境法規制の諸局面を捉え,環境リスクに対する 保険制度の現状と課題を整理している。いずれも詳細に資料を提示しながら 論を進め,最後に京都議定書目標達成計画(2008年改訂)に基づいて,企業 が果たすべき役割として①創意工夫を凝らした取り組み,②社会的存在であ ることを踏まえた取り組み,③製品・サービスの提供にあたってのライフサ イクルを通じた環境負荷の低減,に注目している。一層の強化が見込まれる 環境法規制に対応すべく,企業は自主的改善への取り組みに努めることが必 要であると結んでいる。最後の第5章 企業のメンタルヘルス・リスクマネ ジメント では,益々と複雑・錯綜・繊細化する産業社会環境において,労 働者の心身への負担の増加が懸念され,2000年8月には 事業場における労 働者の心の健康づくりのための指針 (労働省)が公表され,2006年3月には 新たに 労働者の心の健康の保持増進のための指針 (厚生労働省)が策定 されており,著者は,こうした労働事情・労働環境を背景とする企業リスク 問題に着目している。職場ストレスの状況とライフサイクルとの関係,職場 におけるメンタルヘルス・リスクの現状,心理的負荷による精神障害者等に 係る業務上外の判断指針,さらにはメンタルヘルス・リスクに対する企業の 賠償責任と保険に関する問題に対して豊富な資料に基づいて考察を進めてい る。現代的リスクの典型といえるメンタルヘルス・リスク問題に対して,① 企業・組織全体でストレス対策に取り組む風土,②啓蒙・予防・早期対応プ
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ログラム,③社会保障制度や社内制度など既存の様々な制度の活用,④適切 な専門的サービスへの誘導を促すシステム等を構築することが必要であると 結んでいる。
以上,本著書では,現代社会経済に潜む代表的リスク問題の動向とその対 応課題が探られている。RM研究を基礎的体系論から総合的社会論へと昇華 させようとする著者の意図・意欲が読み取れる。
Ⅲ.
著者の論稿は,本著書以外にも多様である。保険・RM研究以外にも,金 融,FP,貿易取引,カウンセリング,ライフプランニング,キャリアデザ イン等の分野に及んでいる。とりわけRMに関しては,1997年以降,6編 の著書[ 企業リスクマネジメント・損害保険 (ダイヤモンド社,1997)ほ か リスクと保険 (経済法令研究会,2001), リスクマネジメントと保険 の基礎 (経済法令研究会,2003), 最近のリスクマネジメントと保険の展 開 (ゆるり書房,2005), キャリアデザイン⎜充実した人生を送るための リスクマネジメント⎜ (三光,2007), 企業リスクマネジメントの理論と 実践 (三光,2008)]が手掛けられており,本著書は最新の成果である。
本著書は,上記のようなRM関連論稿を踏まえて編纂された労作といえ る。既述の通り,情報化とグローバル化を主たる背景とした現代環境変化の 目まぐるしい動向を把握・考察することを通して,経済的価値収斂と社会的 価値形成の善と正義に配慮して,不確実性問題に多分の法社会的視座を呼び 込もうとしている。リスクマネジメントの新境地を開こうとする研究書と見 ることができる。
(評者:岡山商科大学経営学部教授 大城裕二)
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赤堀勝彦著 企業の法的リスクマネジメント