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(1)

傷害保険の外来性要件について

飲酒後の吐物誤嚥事故に関する2つの裁判例をめぐって

植 草 桂 子

■アブストラクト

本稿は,飲酒後の吐物誤嚥による窒息が傷害保険の外来性要件を満たすか という問題について,異なった解釈をとった大阪高判平成23年2月23日判時 2121号134頁(上告審判決:最判平成25年4月16日裁判所時報1578号1頁),

東京地判平成24年11月5日判例集未登載を素材として,英米,ドイツにおけ る解釈や裁判例を参考とした上で検討するものである。

被保険者が飲酒した後に,吐物誤嚥により窒息したというケースについて は,まず原因事故の範囲が問題となるが,この点については,窒息(身体傷 害)を直接引き起こす原因事故に相当するのは吐物誤嚥のみであって,被保 険者の飲酒,飲酒後に生じた嘔吐や意識障害等の症状は原因事故に含まれな いと解する。そして,吐物が,既に飲み下され消化されたものであること,

誤嚥もアルコールが身体に吸収された後に生じていることからすれば,飲酒 後の吐物誤嚥は,基本的に内因性の事故であって外来の事故にあたらないと みるべきである。

■キーワード

傷害保険,外来性,吐物誤嚥

*平成24年9月7日の日本保険学会関東部会報告による。

/平成25年3月25日原稿受領。

(2)

一,問題の所在

保険法は,傷害疾病定額保険契約について, 保険契約のうち,保険者が 人の傷害疾病に基づき一定の保険給付を行うことを約するものをいう (2 条9号)と定める。傷害疾病定額保険契約のうち,被保険者の傷害による治 療,死亡等について一定の保険給付を行うものが傷害定額保険契約であり,

損害保険会社の販売する普通傷害保険や,生命保険会社が扱う生命保険契約 等に付帯された災害関係特約が該当する。

保険法では 傷害 の定義は定められていないが,損害保険会社の販売す る普通傷害保険の普通保険約款 は,被保険者が 急激かつ偶然な外来の事 故によってその身体に被った傷害に対して ,約款に従い保険金を支払う旨 定めており,傷害保険における 傷害 とは急激かつ偶然な外来の事故(以 下 原因事故 )によってその身体に被った傷害をいうものとされ,傷害保 険の保険事故は,被保険者がこのような身体傷害を被ったことを指す。

この 傷害 概念に関して,近時,被保険者が飲酒(アルコ ー ル の 摂 取 )後に,嘔吐し気道反射の低下等により吐物を誤嚥 したため窒息し,

傷害保険の外来性要件について

1) 傷害保険普通保険約款(損害保険料率機構作成の標準約款(平成24年5月改 定))は, 第2章補償条項 の第2条において,

当会社は,被保険者が日本国内または国外において急激かつ偶然な外来の 事故によってその身体に被った傷害に対して,この約款に従い保険金を支払い ます。 と定める。また,第3条以下で, 保険契約者または被保険者の故意ま たは重大な過失 , 被保険者の脳疾患,疾病または心神喪失 等を免責事由と して定める。

2) アルコールの血中濃度と臨床症状の関係については,血中濃度0.16〜0.30%

の 酩酊極期 では 運動障害が出現する。まともに歩けない(千鳥足)。呼 吸促拍,嘔気,嘔吐。,血中濃度0.31〜0.40%の 泥酔期 には 歩行困難。

転倒するとおき上がれない。意識混濁,言語支離滅裂。,血中濃度0.41〜0.50

% 昏睡期 は 昏睡状態。屎尿失禁。呼吸麻痺を来たし死亡する危険大。

とされる( 岳文 急性アルコール中毒 河野裕明編・我が国のアルコール関 連問題の現状113頁(厚健出版,1993))。

3) 口腔内に摂取された固形物や液体を口腔から胃へ送る一連の運動を 嚥下

(3)

死亡したという事案で,被保険者が 傷害 の直接の結果として死亡したと いえるかが争点となった訴訟において,二つの判決(大阪高判平成23年2月 23日判時2121号134頁(以下 大阪高判 という),東京地判平成24年11月5 日判例集未登載(以下 東京地判 という)が示された。

傷害保険の 傷害 概念における 外来の事故 の意義(外来性要件)に ついては,最判平成19年7月6日民集61巻5号1955頁(以下 平成19年最 判 という) が, その文言上,被共済者の身体の外部からの作用による事 故をいう と判示している 。平成19年最判は,原因事故(餅を喉に詰めた こと)の存在や,原因事故それ自体の外来性はそれほど問題とならない事案

という。嚥下のプログラムは延髄網様体に存在する嚥下中枢を中心とした反射 運動である。嚥下運動はその時期から口腔期,咽頭期,そして食道期に分けら れるが,咽頭期における嚥下障害が誤嚥をきたす。誤嚥とは,本来,嚥下運動 により消化器系へ送られるべき物質が,誤って気道系へ入ることである。誤嚥 をきたしやすい状態として,アルコール多飲,脳血管障害,頭部外傷,全身麻 酔,薬物過剰服用による意識障害,嘔吐,長時間の臥位がある(平泰彦・山田 明生 誤飲・誤嚥 救急医学28巻3号357頁以下(2004))。

4) 中小企業を対象とした災害補償共済事業を行うYの会員であるXが,Yに対 し,被共済者A(事故時82歳,パーキンソン病と診断され服薬と日常生活指導 を受けていた)が,昼食のもちをのどに詰まらせて窒息し,低酸素脳症による 後遺障害が残ったことについて,補償費の支払を請求した事案である。主に問 題となったのは,疾病(パーキンソン病)を間接原因とする事故は 外来の事 故 といえるか,という点と,外部からの作用が,疾病を間接原因とする可能 性がある場合に,請求者側が負うべき立証責任(疾病が間接原因ではないこと まで立証する責任を負うか)であった。判決は,共済金請求者の立証責任につ いて, 請求者は,外部からの作用による事故と被共済者の傷害との間に相当 因果関係があることを主張,立証すれば足り,被共済者の傷害が被共済者の疾 病を原因として生じたものではないことまで主張,立証すべき責任を負うもの ではない と判示した。他方,大阪高判の被保険者は48歳,東京地判の被保険 者は34歳で,パーキンソン病のような,誤嚥の間接原因となりうる既存疾病は 有していなかった。

5) 平成19年には外来性要件に関し他に2つの最高裁判決がだされている(最判 平 成19年 7 月19日

LEX

/

DB

文 献 番 号28132475,最 判 平 成19年10月19日 判 時 1255号179頁)。

(4)

であったが,飲酒 後の吐物誤嚥による窒息の場合,被保険者のアルコール 摂取後一定の時間を置いて誤嚥や窒息が生じ,かつその間意識障害や嘔吐等 の因果の流れを経るため,⑴原因事故の対象となるのは因果の流れのうちど の範囲か,さらに,原因事故の範囲が確定したとして,⑵当該原因事故の外 来性をどのように評価するかが問題となる。本稿では,二つの判決を紹介し た上で,英米,ドイツにおける解釈や裁判例も参考に,上記の2点について 検討する 。なお,文中の意見に関する部分は個人の見解である。

二,大阪高判平成23年2月23日判時2121号134頁

1.事案の概要

A(普通傷害保険契約の被保険者,48歳)は,帰宅途中飲食(飲酒を含 む)の上,午後10時頃帰宅し,1階リビングでうたた寝をしていたところ,

翌日未明に妻に起こされ,その起きざまに,飲み残しの梅酒ロックを手に取 り口につけた途端, うっ と言って倒れ意識不明に陥り,救急車で病院に 搬入されたが,到着時の同日午前3時には既に心肺停止状態で,午前3時18

6) 普通傷害保険の普通保険約款においては,免責事由とされていた 脳疾患,

疾病,心神喪失,眩暈又は泥酔 から昭和47年の改定時に 眩暈 が,昭和50 年の改定時に 泥酔 が削除された経緯がある。 泥酔 を削除した理由とし ては, 泥酔 は保険保護に値しないという公序策上の問題があるが,その反 面,実務面においては,明確な基準がなく認定上困難を伴うケースも多く,大 衆約款としてできるだけ簡素化することが望ましいと判断されたようである。

7) 大阪高判の事案は被保険者の服用したうつ病の薬とアルコールの相乗効果が 問題となったが,本稿では主として,被保険者が,食事し飲酒した一定時間後 に,嘔吐と気道反射の低下等により吐物(消化された食物)を誤嚥したため窒 息し,窒息の直接の結果として死亡したケースとしてとりあげたい。

8) 判例評釈および同じテーマに関する研究として, 岐孝宏 判批 法学セミ ナー678号127頁(2012),山野嘉朗 吐物誤嚥事故と傷害保険における外来性 の法的評価 損害保険研究74巻1号63頁(2012),白井正和 判批 損害保険 研 究74巻 1 号263頁(2012),竹 濵 修 判 批 私 法 判 例 リ マ ー ク ス45号90頁

(2012),井上亨 判批 金融商事判例1386号106頁(2012), 阿憲 傷害保険 における外来性要件の判断基準―吐物誤嚥事故の場合― 損害保険研究74巻3 号1頁(2013)等がある。

傷害保険の外来性要件について

←モノール画 像あり訂正時注意。

(5)

分死亡が確認された。Aの死体検案書には, 死亡の原因 として, 直接死 因 は 窒息 , 窒息 の原因は 食吐物誤嚥 と記載された。Aは,抑う つ症等のため入通院をしており,約6種類の薬 の投与を受けていた。原審 判決は,Aは 急激かつ偶然な外来の事故 により死亡したものとし,原告 であるAの遺族の請求を認めたため ,被告のY保険会社が控訴した。

2.判 旨

外来の事故 とは,… 被保険者の身体の外部からの作用による事故 をいうと解されるが,これは,外部からの作用が直接の原因となって生じた 事故をいうのであって,薬物,アルコール,ウィルス,細菌等が外部から体 内に摂取され,あるいは侵入し,これによって生じた身体の異変や不調によ って生じた事故は含まないものと解するのが相当である。なぜなら,後者も 含むと解すると,社会通念上 疾病 と理解されている事例も含まれること となって, 傷害 に対して保険金を支払うという傷害保険の趣旨を逸脱す る結果になるし, 外来の事故 によって,保険金支払の原因となる事故と そうでない事故を明確に区別しようとした約款の趣旨に合致しないからであ る 。 Aに起こった窒息は,嘔吐により,食道ないし胃の中の食物残渣が吐 物となって口腔内に逆流し,折から,Aの気道反射が著しく低下していたた め,これが気道内に流入して生じたものであって,気道反射の著しい低下は,

数時間前から一,二時間前の間に体内に摂取したアルコールや服用していた 向精神薬の影響による中枢神経の抑制,知覚,運動機能の低下等が原因であ 9) うち5種類はうつ病の治療薬で,副作用として悪心・嘔吐が生じること,ア

ルコールによって増強されることがあるとされていた。

10) 原審判決の神戸地判平成22年9月14日判時2016号141頁は,Aは,うたた寝 前に身体の外部から摂取していたアルコールの影響と向精神薬の副作用が相ま って,予期しない嘔吐,誤嚥,気道閉塞となり窒息死するに至ったことになる から,Aは 急激かつ偶然な外来の事故 により死亡したものと認めるのが相 当とした。

11) 本判決は上告されており,本稿執筆中に上告審判決に接したことから,文末 にて若干の検討を行った。

(6)

るから,上記窒息は,外部からの作用が直接の原因となって生じたものとは いえ ず, 窒息が 外来の事故 であると認めることができない 。

三,東京地判平成24年11月5日判例集未登載

1.事案の概要

Xe,Xhは放送番組の企画,制作等を目的とする株式会社であるが,Xe が,放送事業者甲から委託を受けた放送番組制作の業務をXhに再委託した ことから,Xhに勤務するAは,番組制作のため,4月1日から10日程度の 予定で,甲のスタッフとともに,取材先の中国に出張した。

出張中の4月8日,日本側と中国側の両スタッフで宴席を設けることとな った。宴席は午後7時ころから行われ,6名で大瓶5,6本のビールを飲む 程度で午後8時に終わったが,中国側スタッフから提案がありもう1軒行く こととなった。宴席は午後8時30分ころから開始し,Aら日本側スタッフは 多数回乾杯を求められ,アルコール度数が50度を超える白酒を一気に飲み干 し,途中から床にこぼすなどしていたが,結局,合計で10杯程度飲んだ。A らは,午後10時半から11時頃ホテルに戻ったが,その時点でAは泥酔し自力 で歩行することができず,他のスタッフが部屋まで連れて行き,トイレで吐 かせた後,ベッドに寝かせた。この時点ではAは生存していた。翌9日午後 8時頃,スタッフが心肺停止状態のAを発見し,蘇生措置が行われたものの,

午前9時頃死亡が確認された。死亡原因は,高濃度のアルコールの大量摂取 によって嘔吐中枢が刺激され,嘔吐したところ,急性アルコール中毒により 意識低下ないし気道反射の低下が生じていたため,吐瀉物を気道に誤嚥し,

その結果窒息したことによるものであった。XeはY1保険会社との間でA を被保険者とする海外旅行保険契約,XhはY2保険会社との間で,Aを被 保険者とするグループ傷害保険契約を締結していた。Xe,XhとAの相続 人が原告となり,Y1,Y2を被告として保険金請求訴訟を提起した。

傷害保険の外来性要件について

見出し及び脚注が入らないため,アキを作成しています。

(7)

2.判 旨

本件では,保険事故をどのように捉えるかについて争いがあるが,故Aが 吐瀉物を誤嚥したのは,高濃度のアルコールの大量摂取の影響で故Aが嘔吐 したところ,同じく高濃度のアルコールの大量摂取によって,急性アルコー ル中毒に陥り意識低下ないし気道反射の低下が生じていたことが原因であり,

これらの事態は客観的に見れば,時間的に連続して発生した一連一体のも のであり,かつ,意識低下ないし気道反射の低下が生じていたことを前提と すれば,嘔吐した際に吐瀉物を誤嚥するという事態が生じることは社会通念 に照らして合理的に発生しうるものといえる。そうすると,本件では,上記 事態を全体として1つの事故と評価するのが社会通念上相当である 。

外来の事故とは,その文言上,被保険者の身体の外部からの作用による 事故をいうものと解される。そして,当該事故が被保険者の身体の外部から の作用によるものであるか否かについては,当該外部からの作用と当該事故 との間に条件関係があることに加えて,当該外部からの作用により当該事故 が生じることが客観的に見て,社会通念上相当であるか否かという基準によ って判断するのが相当である 。故Aの 高濃度アルコールの大量摂取とい う身体外部からの作用と,本件事故との間には条件関係が認められる。そし て,アルコール度数が50度を超えるような酒をストレートでコップ10杯近く 飲むという故Aの行為から,…吐瀉物を誤嚥してしまうという本件事故が生 じることは,客観的に見て,社会通念上相当なものと評価できる 。被告ら は,アルコールの摂取自体は日常生活において普通に行われるものであり,

外来性は認められない旨主張するが,外来性の要件は疾病を原因とする傷害 について傷害保険の対象から除外することを目的とするために設けられた要 件であり, 身体の外部からの作用が日常生活において普通に行われるもの であるか否か,あるいは,当該作用が一般的に危険性や有害性を有するもの であるか否かは外来性の要件とは関連性を有せず,同要件を判断するに当た って考慮する必要はな く, 故Aの飲酒行為は日常生活で行われる飲酒行

12) 本判決については控訴審で係争中である。

(8)

為とは全く異なる危険な行為であることは明らかであるから,…外来性の要 件を満たすことを否定することはできない 。 したがって,本件事故は,故 Aの高濃度のアルコールを大量に摂取するという身体の外部からの作用によ って生じたものといえるから,本件事故は外来性の要件を満たす 。

四.検 討

1.傷害保険における 傷害 概念

傷害保険普通保険約款が第2章第2条で定めるように,傷害保険の保険事 故としての 傷害 は, 急激かつ偶然な外来の事故による身体傷害 であ る。このような約款の文言から,我が国の傷害保険においては,急激性,偶 然性,外来性が基本的3要件とされ,その充足が保険事故の構成要素とされ る 。急激性とは,原因となった事故から結果として傷害が発生するまでの プロセスが直接的で,時間的間隔のないことを意味するとされる 。偶然性 については,被保険者にとって予知できない原因から傷害の結果が発生する ことをいい,現在では被保険者の故意によらないことと同意義である,とす る説 が有力である。ただし,実務解説書 においては,傷害保険におい て偶然な事故とは,①原因の発生が偶然であるか,②結果が偶然であるか,

③原因ならびに結果がともに偶然であるかのいずれかであることを要し,偶 然でない原因,承知している原因から来る当然な結果は,原則的に傷害保険 では担保されないとされ,必ずしも非故意と同義とはされていない。そして,

13) 山下友信・保険法450頁(有斐閣,2005),西嶋梅治・保険法〔第三版〕380頁

(悠々社,1998)等。

14) 山下・前掲注13)450頁。急激性に予見可能性,回避可能性が含まれるかどう かについては議論があるが,山下典孝 保険事故―急激性 傷害保険の法理23 頁(損害保険事業総合研究所,2000)は,否定的である。

15) 山下・前掲注13)450頁,山本哲生 保険事故の偶然性について 生命保険論 集160号1頁以下(2007)等。

16) 東京海上火災保険株式会社・新損害保険実務講座第9巻22頁(有斐閣,

1973),安田火災海上保険株式会社編・傷害保険の理論と実務142頁(海文堂,

1980)。

傷害保険の外来性要件について

(9)

外来性とは,傷害の原因が被保険者の身体の外からの作用であることをいい,

身体の内部に原因するものを除外することに意義があるとされる 。平成19 年最判は,いわゆる疾病先行型の事案について,外来性要件に非疾病起因性 を含めないことを判示したものと理解されている が,疾病が間接原因と して先行しないケースにおいて,外来性要件が,傷害と身体内部の経過とを 区別する意義は失われていない 。

他方, 事故 は,急激,偶然,外来によって規定される一方, 事故 そ れ自体については,学説・判例において,独自の意味付けはなされていない。

傷害保険の事故の外来性は傷害の原因または媒介(means)を意味するの みであるから,…傷害の原因が外来的なものであれば事故の外来性は認めら れる という解説からすれば,概ね,身体傷害の 原因 となる出来事が,

事故 として捉えられてきたといえる。

被保険者が飲酒後の吐物誤嚥により窒息したケースについて,外来性が争 われた裁判例として,札幌地判平成12年12月27日生命保険判例集12巻661頁,

名古屋地一宮支判生命保険判例集14巻35頁があるが,いずれも外来性要件に

17) 山下丈 傷害保険における傷害概念(二・完) 民商法雑誌75巻6号910頁

(1977)。同論文では, 外来性によってまず目されているのは傷害と疾病との 区別 であり, 疾病とは,このような傷害にあたらない被保険者の身体内部 の病理的経過を意味する。…外来性においてはこのような意味での疾病を中心 にその身体的状態による内部的な原因の排除が目されている。 とする。

18) 白井正和 判批 法協125巻11号2630頁(2008),竹濵修 判批 私法判例リ マークス2008 111頁,山野嘉朗 判批 ジュリ1354号120頁, 阿憲・別冊ジ ュリ202号 保険法判例百選 84頁(2010)等。

19) 西嶋梅治 外来性要件の再検討 損害保険研究70巻2号12頁(2008)。平成 19年最判の調査官解説(法曹時報62巻3号187頁)も, 本件は,身体の外部か らの作用があったことを前提に,当該外部からの作用を生じさせた原因が被保 険者の疾病であることが疑われる事案に関するもの で, そもそも身体の外 部からの作用が存在したか否かが問題になっている類型の事案は,本判決の射 程に含まれないことが明らか とする。

20) 林輝栄 傷害保険の法的構造 新損害保険双書3新種保険357頁(文眞堂,

1985)。

(10)

非疾病起因性を含めて理解する立場から外来性を否定しており,平成19年最 判における外来性要件の判断枠組み(外来性に非疾病起因性を含めない)の もとで,外来性の有無が争われた裁判例は,公表等されている範囲では,現 段階では今回の2つの裁判例のみと考えられる。

2.比較法

我が国の傷害保険約款は,ドイツ,英米等の傷害保険約款を参考に作られ た 。そこで,ドイツ,英米の傷害保険約款の解釈や,食吐物誤嚥・窒息に 関する裁判例について概観する。

この点,2010年のドイツ普通傷害保険約款(AUB 2010)1条3項は,被 保険者が身体に対し外部から(von au  en),急激に作用(wirkendes)し た事故(Unfallereignis)により,自分の意思によらず健康障害を被った場 合に 保険事故 (Unfall)があったものとする旨定める 。日本の傷

21) 粟津清亮博士は,奇災保険(傷害保険)の紹介にあたり,ドイツの保険会社 の約款の和訳を行っている(保険論集第二巻439頁(粟津博士論集刊行会,

1927))。他方,傷害保険の統一約款の作成が検討された折(実際に統一約款が 作成されたのは昭和22年)の解説(北澤宥勝 傷害普通保険約款の改正につい て 損害保険研究3巻第4号269頁(1937))では, 偶然ナル外来ノ事故(Ex-

ternal accident) という説明がなされている。

2 )

Allgemeine Unfall-Versicherungs Bedingungen

(

AUB

2010)

.

23) 原 文 は,

Ein Unfall liegt vor, wenn die versicherte Person durch ein plotzlich von au  en auf ihren Korper wirkendes Ereignis  

(

Unfaller-

eignis) unfreiwillig eine Gesundheitsschadigung erleidet.

である。和訳は 西嶋梅治 凍死 と急激・偶然の要件 生命保険論集151号5頁(2005),新 井修司・金岡京子共訳・ドイツ保険契約法497頁(㈳日本損害保険協会・㈳生 命保険協会,2008)を参考にした。

24) 昭和56年7月に公表された傷害保険契約法(新設)試案では,第683条の2 の第二項で 本節において傷害とは,外部から急激に作用する偶然の出来事に より,被保険者がその身体に損傷をうけることをいう とするが, 外部から 急激に作用した という文言や, 出来事 (

ereignis

は出来事とも訳される)

という文言は,ドイツの傷害保険約款を意識したものと捉えられる。また,平 成19年最判における 外部からの作用 という文言は,体系書等における説明

性要件について 傷害保険の外来

送られてしため まう

していい ます

,イ レジュラー処 理を

←欧文が次行

(11)

害保険約款における偶然性に該当する,自分の意思によらずという要件が,

事故ではなく健康障害を規定する点は異なるものの,事故について,急激性

( 徐々に の逆で,時間的に短いことのみならず,そのような経過が被保険 者にとって予期できないことをいう ),外来性が要求される点は概ね共通 である。外来性は,日本と同様に,疾病または疾病になりつつある状態によ る健康障害と区別するための要件であり,身体の外から作用するものでなけ ればならない とされ,例えば,人工の心臓弁の機能不全は外来の事故に あたらないとされる 。

事故(Unfallereignis)については,広い意味では,目で確認できる因果 の流れを意味し,健康障害を直接引き起こすものでなければならない される。ドイツでは,事故の解釈について議論が展開されており,単なる自 己運動(Eigenbewegungen)による健康障害 は外来の事故ではないとい を参考にしたものと考えられるが,このように説明された由来は,ドイツの傷 害保険約款における

wirkendes

という文言にあるものとも考えられる。

25) 現行のドイツ保険契約法178条2項は,傷害保険の保険事故について 被保 険者が,急激に外来から被保険者の身体に作用した事故(ereignis)により,

自分の意思によらずに健康障害を被ったときに,傷害(unfall)が発生する。

非自発性は,その反証がなされるまで推定される と定め,傷害の定義規定を 含む(和訳は,新井・金岡・前掲注23)による)。

26)

Grimm, Allgemeine Unfallversicherung :AUB-Kommentar,5. Aufl., C.H.Beck,

2013

, Anm.22 zum

1;Bruck/

M oller, Gro β kommentar zum Versicherungsvertragsgesetz, 9. Aufl., De gruyter,  

2010

, Anm.82 zum

178;Ruffer in Ruffer/

Halbach

/

Schimikowski, Versicherungsvertrags- gesetz, Nomos,

2010

, Anm.

8

zum

178

.

27)

Grimm, a.a.O.

(

Fn.26)Anm.29 zum

1;Bruck/

M oller, a.a.O.

(

Fn.

26)

, Anm.

38

zum

178;Knappman in Prolss/

M artin, Versicherungs ver- tragsgesetz, 28. Aufl., C.H.Beck,

2008

, Anm.3 zum

178;Ruffer, a.a.O.

(

Fn.26) Anm.4 zum

178

.

28)

OLG  Stuttgart vom

22

.

1

.

1987

, VersR

1987

,

355

.

29)

Grimm, a.a.O.

(

Fn.26) , Anm.20 zum

1;Bruck/

M oller, a.a.O.

(

Fn.

26)

, Anm.

25

zum

178

.

30) 被保険者が意図して行った動作を自己運動といい,自己運動については,当 該自己運動の持つ意味や危険性を認識できず,このため被保険者の意思によっ

←泣き分れを 防ぐために, レジュラー処 理をしていま す。訂正時注 意。

(12)

う考え方が確立されている。また,被保険者が,複数の出来事(Mehra-

ktige)を経て健康障害に至った場合の事故の範囲について,被保険者が山

登り中に登山用ザイルの結び目が打ち込んだハーケンの中で絡まったため行 動の自由を失い,何の救助も受けられず寒冷のため凍死したという事案につ いて,ザイルの絡まりという外来の事故によって行動の自由が奪われ,その 直接の結果として温度,天候による不利な作用を回避することができず健康 障害を被ったことから,全体が事故にあたるとした判例 があり,複数の 出来事のうち,どの範囲を事故と捉えるかについて判断枠組みを示したもの として注釈書等で紹介されている 。

食物を誤嚥し窒息した場合については外来性が認められている 。他方,

被保険者が吐物を誤嚥し窒息した場合については, 摂取された食物が通常 通りに胃に到達し,そこで初めて身体の反応を起こして,健康障害をもたら した場合には,もはや外部から身体に作用する事故として評価することはで きない として,外来性を否定した裁判例 がある。アルコールも胃で吸 収された後に身体の反応を起こすことからすると,上記判示は飲酒(アルコ ール摂取)後の吐物誤嚥のケースについてもあてはまると考えられる 。ま た,食物摂取後の健康障害につき,複数の出来事を一つの事故と捉えた裁判 例として,被保険者が楊枝を牛肉の薄切り巻きとともに飲み込んでしまい,

てコントロールできなかった場合のみ事故にあたるとされる。Bruck/

Moller, a.a.O.

(

Fn.26) , Anm.30 zum

178;Knappman in Prolss/

M artin, a.a.O.

(

Fn.27) , Anm.4 zum

178;Grimm, a.a.O(

Fn.26) , Anm.32 zum

1

.

31)

BGH  vom

15

.2 .1962 NJW

1962

,

914

.

32)

Grimm, a.a.O.

(

Fn.26) , Anm.20 zum

1;Ruffer, a.a.O.(

Fn.26) , Anm.4 zum

178

.

33)

Grimm, a.a.O.( Fn.26) , Anm.35zum

1;Bruck/

Moller, a.a.O.( Fn.26) , Anm.72 zum

178

.

34)

LG  Flensburg

8

.4 .2005 VersR

2005

,

1418

.

この裁判例については, 前掲注8)にて,詳細な紹介がなされている。

35)

AUB2010は,5条1項1号で飲酒等による意識障害,5条2項5号で固形

物または流動物を飲み込むことによる中毒を免責としており,飲酒後の吐物窒 息事案については,免責事由の該当可否も問題となると考えられる。

傷害保険の外来性要件について

←泣き分れを 防ぐために, レジュラー処 理をしていま す。訂正時注 意。

(13)

楊枝により小腸穿孔が生じ,11日後に痛みを訴え手術したケースがある 。 判決は,楊枝を飲み込んだことと小腸に穴があいたことの双方が合致して事 故をなすとし,小腸に穴があいたことは身体内部の経過であるが,楊枝を飲 み込んだことに外来の作用が認められ,かつ(楊枝により)身体に対する危 険な状態が続き,11日後に現実化したことを指摘し一つの事故と評価してい る。

次に,イギリス の傷害保険について概観する。イギリスの傷害保険約 款は,保険事故について,例えば,bodily injury occuring during the pe- riod of insurance, which is the direct result of accidental, external, violent and visible means…と規定する 。我が国の傷害保険約款におけ る偶然にaccidental,急激にviolent,外来にexternalがそれぞれ対応す る 。externalについては,internalの反対の意味であり,原因が体の外に あることを意味する 。ただし,イギリスでは,保険会社の支払責任の有無 の判断にあたり,身体傷害(injury)または結果がaccidentalであること,

および,その原因がaccidentalであることが要求される 一方,external, 36)

OLG  Munchen, vom

7

.7 .1999 , VersR

2000

,

93

.

37) 和訳については,古瀬政敏 生保の傷害特約における保険事故概念をめぐる 一考察 保険学雑誌496号182頁(1982)を参考とした。

38)

Aviva社がイギリスで販売している Family Personal Accident Policyを

参考とした。約款の中には

externalという文言を用いないものもある(注45)

参照)。

39) 草刈久太郎 傷害保険 損害保険実務講座第6巻114頁(有斐閣,1956年)

40)

E. R. Hardy Ivamy, Personal Accident, Life and  Other  Insurance, Butterworths,

1973

, at28 .M arcolm  A. Clerke, The Law  of Insurance Contracts 5th ed., Informa,

2006

, at536で は,Iowa  

州 の 裁 判 例

Century Companies of America v. Krahling,  

484

N.W.

2

d

197

,

198‑99(体 内 に 埋

め込まれたペースメーカーの機能不全)が紹介されている。

41)

John Birds, BirdsʼModern Insurance Law  8th. ed., Sweet

Maxwell,

2010

, at249 .

独立かつ直接の,外部からの急激かつ可視的な原因による偶然 な 身 体 の 損 傷(Accidental bodily injury caused solely and directly by

outward violent and visible means

)を担保範囲とする傷害保険の約款につ

 

いて,偶然な身体の損傷の存在が,その他の(caused solely以下の)文言に

← M ayw e l l を泣き別れに しないため,

イレジュラー 処理をしてい ます

(14)

violentは補充的な要件という位置づけであり,日本の傷害保険のように,

並立する3要件とはされていない。accidentという語は,偶然かつ予期さ れない(fortuitous and unexpected)という意味のほか ,疾病や身体の 自然的衰弱によるものを除くという意味も含み,日本語の偶然よりも広い意 味を持つ 。近時判決がだされた飲酒後の吐物誤嚥,窒息に関する裁判例

(看護師であった被保険者が,背中の痛みを軽減しようとして過度に飲酒し た後就寝し,朝,吐物の窒息により死亡しているのが発見されたもの )に おいても,支払責任の有無は吐物の窒息が被保険者にとってaccidentalか どうかによって判断され,判決は,被保険者は看護婦で医学的知識があった ことから飲酒を継続した場合の身体損傷のリスクや飲酒が死をもたらすこと を推測することができたとして,accidentalではないと判断し,請求を退け た 。

アメリカの傷害保険は,単独の商品と,生命保険のdouble indemnity条 項により付加(rider)されるものがある 。主として,被保険者の身体傷 害がaccidentalかどうかにより判断され,external, violentは付随的な要 先んじ,その他の文言は単に説明的なもので,さらなる必要条件を意味するも の で は な い と い う 判 例(De souza v. Home and Overseas Insurance Co.

ltd

[1995]

L.R.L.R.453)が出されて以降,by violent, external and visible meansの要件の意義は相対的に弱くなっているとされる(Robert Merkin,  

Colinvauxʼ s Law  of Insurance 9 th  ed., Sweet

M axwell,

2010

, at

793)。

42)

Clerke, Supra note

40

,

515‑516

. accidentalとされるのは,第一に,身体

傷害が偶然かつ予期しない,外部からの出来事の自然な結果である場合であり,

第二に,身体損傷が,自然な出来事の偶然かつ予期されぬ結果である場合

(Hamlyn v. Crown Accident Ins. Co. ltd.〔1893〕1

Q.B.750)とされる。

43) 古瀬・前掲注37)128頁。

44)

Dhak v.Ins.co.of NorthAmerica.

〔1996〕1

W.L.R.936 .

45) この事案で問題となった約款では,

bodily injury resulting in death or injury within

12

months of the accident  

と定められており,externalと

いう文言は含まれていない。

46)

Lee R. Russ & Thomas F. Segalla, Couch  on  insurance 3d. ed ., Sweet

Maxwell,

2002

,

139:1

.

傷害保険の外来性要件について

(15)

件である点,externalについては原因の外在が求められる点 は,イギリ スと共通である。accidentalの解釈 もイギリスと同様であり,身体傷害 の結果が被保険者の予期したところではなく,異常で,予想できないことで あり,純然たる自然の過程(老化,先天的疾患等)とは対照的な,外来の出 来事や力を含むとする 。

食物・吐物の誤嚥・窒息については,多数の裁判例があり,保険会社の支 払責任の有無を誤嚥・窒息がaccidentalかどうかで判断したものと,誤 嚥・窒息の原因がexternal(外在のもの)かどうかで判断したものがあ る 。前者について,裁判所の判断はわかれている 。後者については,未 消化の食物は外在のもの(an external substance),消化後の吐物は内在の もの(an internal substance)という判断がなされている 。飲酒後の

47)

Supra note46 ,

139:18;Robert H. JerryⅡ

, Douglas R. Richmond Understanding Insurance Law  5th ed., LexisNexis,  

2012

, at459‑460 .

48) 担保範囲について,injury from  an accidentとする約款,injury caused

by accident

とする約款,accidental injury, injury by accidental meansと

 

する約款があり,約款の文言によって,担保範囲が異なるかという点について 議論があったが,現在では約款の文言によって結論はそれほど異ならないと理 解されている(Kenneth S. Abraham,

Insurance Law  and  Regulation 5th.

ed., Foundation Press,

2010

, at

354‑355)。詳しくは,大塚英明 傷害 保 険 事故要件としての

accidentalityの再考 損害保険研究75巻2号掲載予定参照。

49)

Supra note46 ,

139:13

,

139:14

.

身体損傷の原因が人的作用を介したも のであっても,その結果が,結果を受けた人にとって異常で予期されなかった

場合は

accidentalとされる。この点も,イギリスにおける解釈(注42)の第

二のケース)と同様である。

50) 29

American. Law. Reports.

4

th,

1230では,食物・吐物の誤嚥による窒息 に対する傷害保険の支払可否が争われた裁判例が整理,分析されている。

51)

Supra note47 , at459 .

52)

Spaid v. Cal-Western States Life Ins. Co.,

130

Cal. App.

3

d

803

,

182

Cal. Rptr.3 (1982) は未消化の肉片が吐物の中に認められたことから exter- nalとした。消化後の吐物の誤嚥による窒息であるとして,externalでないと

し た も の と し て,Jones v. Liberty Nat. Life Ins. Co.,357

So.2 d

976(1978)

, M cCallum  v. M utual Life Ins. Co. of N. Y.

175

F. Supp.

3(1959)

, Radcliffe v. National Life

Acc. Ins. Co.,

298

S. W .

2

d  

← atの 後 ろ のアキがつま ってしまうの でイレジュラ ー処理をして います。訂正 時注意。

(16)

吐物誤嚥・窒息についても,支払責任の有無をaccidentalかどうかで判断 したものと,原因がexternalかで判断したものがあり,前者の裁判例とし て,アルコール依存症の被保険者が,飲酒後嘔吐し,吐物を誤嚥して窒息死 したケースについて,被保険者は過去に飲酒した際に気道反射の低下を経験 したことがなく,被保険者が飲酒時に気道反射の低下を予測しえたかについ て,専門家である医師の証言も分かれたこと等を理由にaccidentalとして 支払責任を認めたものがある 。他方,後者の裁判例 では,被保険者が 未消化の食物によって窒息したことの証拠はないこと,消化後の吐物は,一 定期間被保険者の消化管内にあったもので,食物との同一性を失っているこ と,消化吸収が進んだ後には肉や骨に変化するところの内部的なものである こと,被保険者がアルコールとその影響について十分な知識を有していたこ とを理由に,externalではないとして支払責任を否定している 。

213(1957)がある。

53) 43

American Jurisprudence,

2

d., West, Insurance

599

.

54)

Commercial Ins. Co. of Newark. N. J. v. Orr,

379

F.

2

d

865(1967)

.

ただし,この事案では,約款では

loss resulting directly and independently of all other causes from  accidental bodily injury… と 定 め ら れ て い た が  

externalという文言はなく,判旨においても,外部の手段かどうかは問題に

していないという記述がみられる。他に

accidentalかどうかで判断した裁判

例 と し て,Jones v. Aetna Life Ins.,439

S.W.

2

d

721(1969)

, Weaver v.

Home sec. Life Ins. Co.,

20

N.C.App.135 ,

201

S.E.

2

d

63(1973)等 が あ る。な お,Roger C. Henderson & Robert H. JerryⅡ

, Insurance Law : Cases and  Materials 3d. ed., at352は,被保険者が任意に過度に飲酒後,吐

物により窒息したケースを支払責任が問題となる場面として指摘するが,どの ように判断するかにつき明確な見解は示していない。

55)

Spott v. Equitable Life Ins. co. of Iowa,

209

Cal. App,

2

d,

229

,

25

Cal. Rptr.

782(1962)

.

この事案に適用される約款では

as a result of the insuredʼ s death from  bodily injuries effected solely through external,  

violent, and accidental means

と定められていた。

56) 飲酒後の吐物誤嚥について,external(外在のもの)でないとして支払責任 を否定した他の裁判例として,Hatcher v. Southern Life and Health Ins.

co.,

207

So.

2

d

316(1968)

, Wommack v. Shenandoah Life Ins. Co.473 F. Supp.757(1979) 等がある。

傷害保険の外来性要件について

・が半角処 理 さ れ る の を防ぐため,

イ レ ジ ュ ラ ー 処 理 を し ています。

訂正時注意

(17)

3.飲酒後の吐物誤嚥について

⑴ 飲酒後の吐物誤嚥における原因事故の範囲について

飲酒後の吐物誤嚥における原因事故の範囲としては,①死亡の直前の吐物 誤嚥(による窒息)を原因事故とみる考え方,②飲酒から吐物誤嚥(による 窒息)までを事故とみる考え方がありうる。大阪高判は, 外来の事故 は 薬物,アルコール,ウィルス,細菌等が外部から体内に摂取され,…これ によって生じた身体の異変や不調によって生じた事故は含まない と判示し ており,原因事故を①と捉えた上で,アルコール等に起因する身体の不調に よって生じた事故を外来の事故から除外する構成をとっていると考えられる。

他方,東京地判は,高濃度のアルコールの大量摂取の影響で被保険者が嘔吐 したところ,同じく高濃度のアルコールの大量摂取によって,急性アルコー ル中毒に陥り意識低下ないし気道反射の低下が生じていたという事態から,

嘔吐した際に吐瀉物を誤嚥するという事態が生じることは社会通念に照らし て合理的であるとして,上記事態を全体として1つの事故と評価するとして おり,原因事故を②と捉えているものと考えられる。

この点,傷害保険の保険事故は身体傷害であり,身体傷害の 原因 とな った出来事であるという点に原因事故の意義があること,原因事故の範囲を 広く捉えた場合,外来性,急激性,偶然性の判断が曖昧なものになりかねな ことからすれば,身体傷害に至る因果の流れのうち,身体傷害を直接 引き起こしたところの,明確で具体的な出来事が原因事故であり,飲酒後の 吐物誤嚥事故においては,窒息による死亡を直接引き起こした吐物誤嚥を原 因事故とみるべきである。東京地判は,一連の事態を全体として1つの事故 と評価する,という判断枠組みを示しているが,ドイツの解釈や裁判例を参 考にすれば,原因事故として評価できる出来事の範囲は,身体傷害を不可避

57) 因果の流れの中に,a,b,cのそれぞれ異なる出来事が含まれる場合におい て,a,b,cを全て一つの事故と捉えた場合,急激性を

cについて,偶然性を a

について,外来性を

bについて判断することも可能となるが,この結果,

傷害 の範囲が拡大する可能性が考えられる。

(18)

的に引き起こしうる出来事の範囲 であると解すべきである。例えば,食 物とともに誤って飲み込んだ異物(楊枝)が消化管にある場合は,楊枝は消 化されずそのままの先が尖った形状のまま存在し続けるため,手術によって 除去されない限りは,小腸の穿孔という身体傷害を起こすことは不可避であ り,このような場合は,誤って楊枝を飲み込んでから小腸穿孔が生じるまで の全体を 事故 とみることも可能であろう 。これに対し,被保険者が飲 酒した後の吐物誤嚥については,アルコールは楊枝と異なり,摂取後胃に吸 収され,肝臓で分解される過程をたどること,酩酊極期あるいは泥酔期 の意識障害や嘔吐が,誤嚥を不可避的に引き起こすものとまではいえないこ とからすれば,アルコールの摂取が吐物誤嚥を不可避的に引き起こしたとは 評価できず,アルコール摂取以降吐物誤嚥までの経過を 一つの事故 と捉 えることはできないと考える

58) 前掲注31),32)参照。

59) 前掲注36)参照。

60) 前掲注2)参照。

61) 例えば,被保険者が,激しい殴打を受け,救助もされないまま(不可避的 に),殴打によって引き起こされた吐物誤嚥により窒息死した場合には,ドイ ツの 複数の出来事 の判断枠組みによっても,激しい殴打という外的作用と,

吐物誤嚥という身体内部の経過を一つの事故とみて,外来の事故と評価するこ とが可能と考える。

62) 東京地判は,外来性要件の判断枠組みに関し,平成19年最判の判示を引用の 上, 外来の事故 を 外部からの作用 と 事故 に区分し, 外部からの作 用 (アルコールの摂取)と原因事故(意識障害から誤嚥まで)の間に社会通 念上相当な関係が認められれば足りる,とする。しかし, 作用 という文言 が,ドイツの傷害保険約款の 身体に対し外部から,急激に作用した事故 と いう文言に由来する(注24)参照)とすれば, 作用 と 事故 は一体のも のであり,平成19年最判の判示やその基礎となった解釈が,原因事故を, 作 用 と 事故 とに区分することを前提としているとは捉えられず,東京地判 の上記判示は,外来性の判断枠組みとして一般化しうるものではないと考える。

傷害保険の外来性要件について

見出し及び脚注が入らないため,アキを作成しています。

(19)

⑵ 吐物誤嚥の外来性評価 について

原因事故を吐物誤嚥とした場合,吐物誤嚥が外来の事故と評価できるかが 問題となる。吐物が,口から摂取した食物が消化された後の物であり,誤嚥 をもたらした嘔吐や気道反射の低下は,同様に口から摂取したアルコールが 分解される過程で生じた身体症状であることからすれば,吐物誤嚥の外来性 の評価の問題とは,口から食物やアルコールを摂取し,身体内部で消化吸収 後に生じた原因事故についてどのように外来性を評価するか,という問題 であり,外来性の評価という観点では,いずれも経口摂取である食物とアル コールと結論は異ならないと考える 。そして,食事し,飲酒した一定時間 後の吐物誤嚥は,①飲食物(以下Aという)の正常な嚥下(口,咽頭および 食道を経由して胃に送ること ),②Aの胃での消化吸収・滞留,③アルコ ールや内因性の疾患等の影響による嘔吐反射に基づくAの吐物としての排出,

④排出した吐物(A)の口腔への充満,⑤充満した吐物(A)の口腔外へ の排出の不能,または再嚥下の失敗による気道の閉塞,⑥気道閉塞による窒 息死という経過を辿るところ,身体の内部に原因するものを除外するという

63) 大阪高判の判例評釈,関連論文(前掲注8)参照)は,吐物の誤嚥も食物と同 様に外来性ありと評価するもの(竹濵教授),消極的に評価するもの(山野教 授, 教授)に分かれている。

64) 白井・前掲注8)274頁は,大阪高判の事案は,平成19年最判の事案と違って 摂食中の誤嚥ではなく,食事後一定時間を経過した後の身体の不調に基づく 嘔吐および気道反射の低下によるものという特殊性 があり, 身体の不調を 引き起こした原因として挙げられる事実の中には身体の外部からの作用と評価 できるものが含まれている場合に,どの範囲の事実を基礎として外来性の有無 を判断することが適切か という問題を扱う必要が生じる,とする。

65) 食物とアルコールとでは消化吸収後の身体反応は異なるが,東京地判も判示 するように,外来性要件においては,文言上,外来物の作用の一般的な危険性 に応じた評価は予定していない。

66) 口における運動は随意運動であるが,他の部分のものは延髄にある嚥下中枢 による反射運動である(広川ほか・図説医学大辞典〔28版〕2710頁(広川書店,

2010)。

脚注が入らないため,アキを作成しています。

(20)

外来性要件の意義,さらにドイツの裁判例や,アメリカの裁判例 を参考 とすれば,摂取した食物やアルコールの外来性は,①Aの正常な嚥下,②A の胃での消化吸収・滞留によりクリアされ,③以降に生じた事故は,基本的 に内因性のものと評価するべきである 。

本稿執筆中,大阪高判の上告審判決(最判平成25年4月16日,破棄差戻)

に接した。最高裁判決は, 保険金の支払事由である事故は,これにより被 保険者の身体に傷害を被ることのあるものとされているのであるから,…窒 息をもたらした吐物の誤嚥がこれに当たるというべき と判示し,原因事故 を吐物誤嚥とした上で,外来性評価に関しては 誤嚥は,嚥下した物が食道 にではなく気管に入ることをいうのであり,身体の外部からの作用を当然に 伴っているのであって,その作用によるものというべきであるから,本件約 款にいう外来の事故に該当すると解することが相当である。この理は,誤嚥 による気道閉塞を生じさせた物がもともと被保険者の胃の内容物であった吐 物であるとしても,同様である とした。

しかし, 誤嚥は,嚥下した物が食道にではなく気管に入ることをいう ということから, 身体の外部からの作用を当然に伴っているのであって,

…外来の事故に該当すると解するのが相当である という結論が,論理必然 的に導かれるものとは解しがたい。さらに, この理は,気道閉塞を生じさ せた物がもともと被保険者の胃の内容物であった吐物であるとしても,同様 である。 と断じている点も賛成しがたい。また,仮に,最高裁判決の論理 を肯定する場合でも,飲酒後の吐物誤嚥,窒息事故については,偶然性 ,

67) 前掲注55),56)参照。

68) このように解さなければ,体内から排出されるまで,食物やアルコールは外 来の物であり続けることになると考えられる。他方,吐物誤嚥について,英米 の傷害保険約款における

accidentalにより判断する場合には,被保険者の属

性や飲酒量等に基づき,予期されない結果であったか個別に判断されることと なり,事案によっては支払責任が肯定される余地もあると考えられる。

69) 実務解説書では 大学のクラブのコンパで酒を飲みすぎ,急性アルコール中 毒で死亡したような場合は,急激性あるいは偶然性の要件を満たさず担保され ないことになろう としている(新種保険の査定実務―傷害保険編―16頁(保 傷害保険の外来性要件について

(21)

および,約款の疾病免責規定との関連性(吐物誤嚥を引き起こしたアルコー ルと薬物による中毒症状が疾病免責規定に定める 疾病 に該当するか ) について慎重な検討を行う必要性は不可欠と考える。

(筆者は損害保険料率算出機構勤務)

険毎日新聞社,1984))。吐物誤嚥による死亡の例ではないが,実務においては,

飲酒が過度であった場合等には,注16)のような偶然性の理解のもと,承知し ている原因から来る当然な結果であり,外来性以前に偶然性がないと判断する 可能性も考えられる。

70) 吐物誤嚥が外来の事故であるとすれば,吐物誤嚥が,先行する疾病に起因す ることを保険会社が立証できれば,疾病免責の適用があることとなる。

参照

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