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金融機関の新たな破綻処理制度と 保険会社の課題

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金融機関の新たな破綻処理制度と 保険会社の課題

松 澤 登

■アブストラクト

預金保険法が2013年に改正され, 金融機関の秩序ある処理の枠組み が 導入された。この枠組みは,経営危機に陥ったシステム上重要な金融機関に 対し,市場型システミックリスクを有する取引を継続させつつ,株主や債権 者の負担で損失を処理する(ベイルイン)という措置を定めたものであり,

保険会社も制度の対象にされている。しかし,保険会社が引き受けるリスク は相互に連動しないため保険事業はシステム上重要とは考えにくく,この枠 組みが適用される可能性は高くない。仮に適用される場合にも,典型的にシ ステミックリスクを有するデリバティブ取引を特定承継金融取引業者に承継 させられる制度になってないこと,保険契約者保護機構が管財人となること が利益相反となりかねないこと及び衡平資金援助により保険契約が全額保証 されベイルインとはならない懸念があることといった課題があり,創造的対 応が必要となる。

■キーワード

市場型システミックリスク,預金保険法,保険契約者保護機構

1.はじめに

サブプライムローン問題に端を発し,2008年9月15日に発生したリーマン

会関東部会報告による。

*平成26年6月27日の日本保険学 26年7月22日原稿受

/平成 領。

(2)

ブラザーズの倒産等が引き起こした国際的金融危機,いわゆるリーマンショ ックにおいては,市場型システミックリスクが生じ,その影響が世界的に波 及した。またその救済のための資金援助によっていくつもの国の財政がひど く悪化したことにより,新たな型の金融危機への対応の必要性が広く認識さ れた。

このような情勢を踏まえ,リーマンショック発生の2ヵ月後の同年11月に 開催されたG20ワシントンサミットでは 大きすぎてつぶせない 問題への 対応が重要なテーマとされた。続いて2009年のG20ピッツバーグサミットで は個社ごとの危機対応計画および破綻処理計画の策定をすべきことが合意さ れ た。2010年 G20ソ ウ ル サ ミ ッ ト で は

FSB(Financial Stability Board,

金融安定化理事会) が示したシステム上重要な金融機関の破綻処理の原則 と作業スケジュールが承認された。その後,2011年G20カンヌサミットでは 金融機関の実効的な破綻処理の枠組みの主要な特性(

Key Attributes of Effective Resolution Regimes for Financial Institutions  

以下, 主要な

特性 という。)が承認された 。そして2012年6月のG20ロスカボスサミ ットでは各国の国内法制度を主要な特性と整合的なものとすべきことが合意 されている 。日本でも後述の通り,2013年の通常国会において預金保険法 が改正された。

ところで日本では既にバブル崩壊以降金融危機を体験しており,少なくと

金融機関の新たな破綻処理制度と保険会社の課題

1) 金融安定化理事会は金融安定化フォーラム(FSF)の後継組織として2008年 に創立された国際的組織である。金融の安定化のための基準等の策定を責務と する。

2) 各国ベースの対応では既に英国が2009年2月に銀行法を改正し,また米国が 2010年7月にドット・フランク法を成立させ,システム上重要な金融機関につ いて特別な破綻処理制度が設けられた。

3) なお,FSBは2013年8月に Application of the Key Attributes of Ef- fective Resolution Regimes to Non-Bank Financial Institutions (実効的 な破綻処理制度の非銀行金融機関への適用)という試案(Consultative Docu- ment)を公表した。この試案の付表2に保険会社の破綻処理について記載が ある。

(3)

も銀行業に関してはシステミックリスク回避のための破綻処理制度が整備さ れている。本稿では,このような日本の既存の制度から今回の改正の位置づ けを明らかにし,さらに保険業界にかかる課題を考察するものであるが,ま ずはシステミックリスクとはどのようなものか,という点から議論を始めた い。

2.システミックリスク

そもそもシステミックリスクとは,一般にシステム全体が崩壊する可能性

(リスク)といわれる。金融業界におけるシステミックリスクは,ひとつの 金融機関の経営悪化や金融市場の混乱が他の金融機関や金融市場にも波及し,

金融システム全体に致命的な打撃を与えること,さらには実体経済にも悪影 響を及ぼしうることとされる 。

⑴ 伝統的システミックリスク

システミックリスクは伝統的には銀行についてその存在が認識されてきた。

銀行業の機能としては,一般に満期変換機能,信用変換機能,流動性変換機 能とされている。システミックリスクのメカニズムとしては,まずひとつの 銀行の経営悪化が預金者の間に不安を呼び起こし,その銀行に預金の取り付 けが発生する。しかし銀行は満期の変換等を行っているため,殺到する要求 払い預金払い戻しに対応する資金を十分に用意できず支払不能に陥る。この ような信用不安が他の銀行の預金者においても連想されることにより取り付 けが他の銀行についても波及し,また銀行間のインターバンク市場の与信の 焦げ付きや,決済システムを通じ破綻銀行と決済尻を有する銀行へ支払不能 が伝播することにより多数の銀行に影響が及ぶことというものである 。

4) 永田裕司 システミックリスクと金融の脆弱性 福岡大学商学論叢57号254 頁乃至256頁。

5) 白川方明 現代の金融政策 299頁(日本経済新聞社,2008年),永田前掲注 4)265頁。

(4)

⑵ 市場型システミックリスク

一方,今回のサブプライムローン危機をきっかけとして発生した市場型シ ステミックリスクについては,個別の金融機関の信用不安の伝播とは異なり,

その本質として,証券化商品に関して 適正価格が見出せない という問題 であるという指摘がある 。

証券化商品はリスク度合いの優劣によりエクイティ,メザニン,シニアと 分けられ販売されることが多い。ここで中間的なリスクであるメザニンファ ンドをいくつか集めてきてさらに第二次証券化商品(CDO, Collateralized

Debt Obligation

)が作られる。このような

  CDO

をMMF (

Money Market Fund

)や金融機関がスポンサーである

  SIV

(Structured Investment Vehi-

cle

)等が購入していた。そして

SIV

では

CDO

購入資金を,CDOを担保と したレポ取引や同じく

CDOを担保とした CP

(

ABCP, Asset Backed Com- mercial Paper

)で調達していた 。

このような状況下でサブプライムローン問題が顕在化し,格付会社がいっ せいに証券化商品の格付を引き下げた。その結果,金融市場における証券化 商品の価格が軒並み下落することとなった。時価会計システムの下で金融機 関が自己資本規制をクリアするために,証券化商品を金融市場において投げ 売りし,そのことがまた証券化商品の価格を下落させるといった負のスパイ ラルが生じた。それだけではなく仮に名目的な価格がついても実際にその価 格では取引が行われなくなり,適正価格が見出せなくなった。これが金融市 場における価格決定機能の麻痺である。また,証券化商品を保有する金融機 関の健全性に疑問が生じ,投資家がいっせいに資金を引き揚げ,あるいはレ ポ取引における担保の掛け目を高めることが行われた。すなわち取り付けの 発生および伝播であり,金融市場における資金調達機能が麻痺した。このよ

6) 池尾和人・池田信夫 なぜ世界は不況に陥ったのか 29頁(日経BP社,

2009年)。

7) 池尾・池田・前掲注6)28頁。

機関の新たな破綻処理制度と保険会社の課題

ます 本文のところの上付きが入るため強制送りし

(5)

うな金融市場機能の麻痺が市場型システミックリスクと分析されている 。 市場型システミックリスクと伝統的なシステミックリスクとの相違は主に,

市場型システミックリスクは①個別の金融機関の信用リスクに起因するので はなく,証券化商品の価格暴落など何らかの事情により引き起こされた金融 市場機能の変調がトリガーとなること,②そしてこの変調が銀行のみならず,

MMF

などの投資商品や

SIV

などの投資の仕組み(シャドーバンキング)

を通じ金融業界全般に伝播していくものであることである。

それでは,次に我が国で整備されてきた銀行に関する伝統的システミック リスクを防止する仕組みを概観する。

3.銀行破綻処理規定の概要

⑴ 原則的な破綻処理制度

預金保険法における破綻処理の基本形としては,金融整理管財人制度があ る。まず金融機関が債務超過の場合や預金等払い戻しを停止し,またはその おそれがある場合において,ⅰ)業務の運営が著しく不適切であること,ま たはⅱ)業務の全部の廃止または解散が特定の地域又は分野における円滑な 資金供給および利用者の利便に大きな支障が生ずるおそれがあること,のい ずれかの要件に該当する場合に,金融庁長官は金融整理管財人による業務お よび財産の管理を命ずる処分をすることができる(預金保険法第74条1項)。

金融整理管財人は破綻金融機関を代表し,業務の執行や財産の管理・処分 を行う(預金保険法第77条)。金融整理管財人の主要な業務としては破綻金 融機関から不良資産を整理回収機構に譲渡し,破綻金融機関本体から受け皿 となる健全な金融機関へ営業譲渡を行い,管理を終了させることである。こ の点,即座に受け皿銀行が出現するとは限らない。その場合は,承継銀行

8) 池尾・池田・前掲注6)34頁,白川・前掲注5)300頁,岩原紳作 世界金融危 機と金融法制 金融法務事情No.1903(2010.8.10)31頁,淵田康之 市場型 システミックリスクとセイフティ・ネット 野村資本市場クオータリー2010秋 号19頁乃至21頁。

(6)

(ブリッジバンク)に一旦営業譲渡を行うこととなる。

預金債権は一部例外を除き,元本1000万円とその利息のみが承継銀行に移 された上で預金保険により保護される(預金保険法第54条第2項,預金保険 法施行令第6条の3)。保護の範囲を超える預金部分,および一般債権は破 綻金融機関に残され,同順位で残余財産の範囲内まで削減されて支払われる

(ペイオフ)。一般債権等の削減支払のために民事再生法などの倒産手続を同 時に行う必要がある。このように行政手続と裁判所における倒産手続を並行 させることが,金融整理管財人制度の大きな特徴となっている。

これまでペイオフが行われた事例は日本振興銀行だけである。日本振興銀 行は日銀ネットに接続せず,また決済性預金を受け入れていなかったため特 殊な事例と考えられる。当該処理が破綻処理の基本形とされているが,実際 には今後もごく小規模な金融機関が破綻する場合などの例外的な取扱として 利用されるにとどまるものではないかと思われる。

⑵ 金融危機対応措置

次に,全国あるいは地域でシステミックリスクの発生懸念がある場合の例 外的な制度として位置づけられる金融危機対応措置がある。金融危機対応措 置が行われる要件としては 我が国又は当該金融機関が業務を行っている地 域の信用秩序の維持に極めて重大な支障が生ずるおそれがある こととされ ている(預金保険法第102条)。当該措置には3つの仕組みがある。

第1号措置はいわゆる資本増強措置である。債務超過ではないが,当該金 融機関の自己資本比率が基準を相当程度下回るときに,預金保険機構が株式 等の引受による資本注入を行う。これは破綻前の経営再建であり,大規模な 事例としては,りそな銀行に対して2003年に行った資本増強などがある。

第2号措置は特別資金援助と呼ばれ,ペイオフコストを越える資金援助を 行い,すべての預金者を保護する。預金債権には優先権が認められていない ため,この措置の結果として,預金者のみならず,一般債権者も保護される。

第3号措置は特別危機管理銀行制度である。これは預金保険機構が債務超

金融機関の新たな破綻処理制度と保険会社の課題

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過となっている破綻金融機関の全株式を無条件で取得,一時国有化して,不 良債権の整理回収機構への譲渡,受け皿金融機関への株式譲渡等を行うもの である。これも預金者,一般債権者は全額保護される。すなわち,金融危機 対応措置においては預金者を含む銀行の債権者を丸ごと保護することで他の 銀行へのリスク伝播を防止するものになっている。

議論の前提が若干長くなったが,次項以降で主要な特性および今回の預金 保険法改正の概要を概観する。

4.システム上重要な金融機関の破綻処理原則

上述の通り,今回の預金保険法の改正は

FSB

が定めた主要な特性に準拠 している。主要な特性は金融機関の経営悪化に対して二つの処理方法を提示 している。すなわち,安定化オプションと清算オプションである。前者は金 融機関を経営破綻させずに資本再構成により自力更生させるオプションであ り,後者は金融システム上重要な取引を継続させつつ金融機関を清算処理す るオプションである。

主要な特性の主なポイントを挙げると,まず安定化オプション,清算オプ ションともに,措置の対象はシステム上重要な金融機関等(Systemically

Important Financial Institutions, SIFIs  

)すべてであり,銀行等に限定さ

れていない。どのようなものがここに含まれるかは明示されていないが,保 険会社が金融機関等に含まれることは明らかにされている。

金融機関等の処理は司法機関ではなく行政当局が行政権限で行うものとさ れている。行政当局には広範な権限が付与される。経営者の解任・選任,管 理機関の選任,事業経営,株主の権利制限,債権の削減,債権者等の利害関 係人の同意なしに事業譲渡を行うなどの権限である。

清算オプションにおける処理の枠組みとしては,原則としてベイルアウト,

すなわち公的資金投入による金融機関救済を否定し,ベイルイン,すなわち 株主や無担保債権者等の権利縮減により損失をカバーすることで金融システ ム上重要な取引を継続させるというものである。ただし債権者は清算時価格

(8)

を下回らないように権利が保全される。行政当局はシステム上の混乱が拡散 しないよう,相殺や期限前解約の権利行使を停止させる権限を有する。ただ し2営業日を越えないという期間制限がある。

また,行政当局は外国のカウンターパートと協力,情報の共有化を行うも のとする。さらにグローバルにシステム上重要な金融機関等(Global Sys-

temically Important Financial Institutions, G-SIFIs

)の場合は各国行政 当局の間で危機管理グループを設置する,というものである。

主要な特性の清算オプションと我が国の従来の銀行破綻処理制度,特に日 本の金融危機対応措置とを比較してみると,①主要な特性は行政機関に対し て債権の削減等の強力な権限を付与し,裁判所の関与を想定していないこと,

②主要な特性の措置の対象となる金融機関等は銀行等に限らず幅広いこと,

③金融危機対応措置は銀行等の全業務を維持することを基本としているのに 対し,主要な特性はシステム上重要な業務とそれ以外を分け,後者について は清算を基本としていること,に相違点が見られる。

5.改正預金保険法の概要

⑴ 総 論

主要な特性を受けて日本では2013年の第183回通常国会で預金保険法の一 部が改正され, 金融機関の秩序ある処理の枠組み (以下, 秩序ある処理 という。)が法定化された 。以下,その中の主要な点のみを述べる。

秩序ある処理を管掌するのは内閣総理大臣であり,実際に処理を遂行する のは預金保険機構である。まず内閣総理大臣が,以下の措置が講ぜられなけ れば,わが国の金融市場その他の金融システムの著しい混乱が生ずるおそれ があると認めるとき は,金融危機対応会議の議を経て,当該措置を講ずる

9) 2014年3月6日に施行されている。

10) 立案者によれば わが国の金融市場その他の金融システムの著しい混乱が生 ずるおそれ とはいわゆる 市場型の金融危機 であり,金融市場の急変によ り,取引相手への信任が急速に低下し,金融市場における流動性の確保が著し く困難になる事態や,金融商品等の急激な売却により価格の著しい暴落が生ず

度と保険会社の課題 金融機関の新たな破綻処理制

-

(9)

必要のある旨の認定(以下, 特定認定 という。)を行うことができる(預 金保険法第126条の2第1項)。特定認定による措置は,主要な特性における 安定化オプションと清算オプションの区分にあわせ,債務超過ではないが経 営悪化している金融機関等に対する特定第一号措置と,債務超過(支払い停 止の恐れのあるものなどを含む)である金融機関等に対する特定第二号措置 が定められている。

これらの措置の対象となる金融機関等とは銀行,保険会社,一定の金融商 品取引業者等(証券会社など)である(預金保険法第126条の2第2項)。保 険会社についていえば,保険持株会社や,保険会社あるいは保険持株会社が 支配する子会社その他の実質的支配力基準による子法人等も対象となる(同 項第2号)。また金融機関以外でも政令指定により措置の対象となりうる

(同項第4号)。このように主要な特性に沿って,従来の預金保険の制度より も措置の対象範囲が拡大されている。

内閣総理大臣は特定認定が行われたときは,直ちに,当該特定認定にかか る金融機関を,その業務の遂行ならびに財産の管理および処分が預金保険機 構により監視される者として指定する(預金保険法第126条の3第1項)。

⑵ 特定第一号措置

特定第一号措置では債務超過ではないが流動性や健全性に問題を抱えてい る金融機関が対象となる(預金保険法第126条の2第1項第1号)。流動性の 懸念の解消や資本増強等により経営破綻を回避するため,預金保険機構は資 金の貸付や債務の保証を行う(預金保険法第126条の19第1項)。この資金貸 し付け等により債務不履行を回避しつつ,市場取引の規模縮小あるいは解消 させることが想定されている 。

るなど,市場取引が連鎖的に停止し,金融市場等が機能不全となるような事態 が想定されている(梅村元史 金融機関の秩序ある処理の枠組み(預金保険法 等の一部改正) 金融法務事情No1978(2013.9.25)15頁)。

11) 金融庁 金融商品取引法の一部を改正する法律(平成25年法律第45号)に係 る説明資料 。

(10)

一方,資本増強に関しては,自力で資本を調達する自己資本充実計画を策 定する(預金保険法第126条の21),あるいは必要に応じて預金保険機構が特 定株式等の引受を行う(預金保険法第126条の22)。

また事業再編が必要な場合に備え,組織再編等の代替許可の制度が設けら れている(預金保険法第126条の13)。支払停止やそのおそれがある場合等に は,株主総会の決議を経ずに裁判所の許可による組織再編を可能とした。組 織再編には資本減少,事業譲渡,会社分割などが含まれるとともに,保険会 社における包括移転も規定されている(預金保険法第126条の13第1項,相 互会社につき同条第3項)。

特定第一号措置には,銀行以外の金融機関等についても,システム上重要 と認定される場合には,預金保険機構からの資金の貸し付けや資本投入がで きるようにしたところに重要な意義が認められる。

⑶ 特定第二号措置

特定第二号措置の認定を受けた金融機関等に対しては,内閣総理大臣は預 金保険機構による業務及び財産の管理(以下, 特定管理 という。)を命ず る処分をすることができる(預金保険法第126条の5第1項)。この処分によ り金融機関の代表権,業務執行権,財産管理処分権は預金保険機構に専属す ることになる(同条第2項)。これは上述した金融整理管財人に相当するも のである 。

特定第二号措置にかかる金融機関は債務超過であるため,金融システム上 重要な債務にかかる業務を分離して他の金融機関等に承継させ,預金を含む その他の業務については破綻金融機関に残され,既存の破綻処理制度で処理 されることが想定されている(預金保険法第126条の28乃至第126条の32) 。

12) 山 本 和 彦 金 融 機 関 の 秩 序 あ る 処 理 の 枠 組 み (金 融 法 務 事 情No.1975 2013.8.10)32頁。

13) 金融庁・前掲注11)。

の新たな破綻処理制度と保険会社の課題 融機関

りしま 本文のところの上付きが入るため強制送

(11)

具体的にいうと,まず金融システムの安定を図るために不可欠な債務等 およびその裏づけ資産については特定合併等を活用し特定承継金融機関等に 引き継ぎ,その際に特定資金援助を行うことが想定されている 。ここで特 定合併等とは事業譲渡,合併,債務引受,株式取得,会社分割が含まれる。

本来,事業譲渡等の組織再編は破産処理手続において裁判所の許可および債 権者等の意見聴取が求められるが,特定合併等はこれら許可等の適用除外と なっている(預金保険法第126条の33) 。なお,特定合併等に保険契約の包 括移転は含まれておらず,法律は金融システムの安定を図るために不可欠な 債務に保険契約は含まれないと考えているといえる。

また,主要な特性に沿って,我が国の金融システムの著しい混乱が生ずる おそれを回避するために必要な範囲において,一定の期間は,契約の特定解 除等はその効力を有しないこととする決定を行うことができるとされた(預 金保険法第137条の3第1項)。この決定により,破産法第58条等の,市場の 相場があり,一定期日に清算される取引契約が破産手続開始により解除され たものとみなす規定は適用されず,また金融機関等が行う特定金融取引の一 括清算に関する法律2条4項が規定する一括清算事由は生じなかったものと される(預金保険法第137条の3第5項,第6項)。この決定によりシステム 上重要な取引が一斉解約されることが回避され,継続している契約を特定承 継金融機関等が承継することによって履行が確保されることとなる。

一方,破綻金融機関の破綻処理手続においては,破綻金融機関に残された 一般債権や株式の削減や償却などのベイルインが行われる。このようにベイ 14) ここで 金融システムの安定を図るために不可欠な債務等 の具体的な範囲 は第三者に与える影響,金融機関相互の資金関係,金融商品の市場性や商品構 造,国内外の金融市場や経済情勢の動向等を踏まえて金融システムの著しい混 乱を回避するために履行させることが必要かどうかその時点で判断される(梅 村・前掲注10)57頁)。

15) 梅村・前掲注10)61頁。

16) 金融システムの安定を図るために不可欠な債務等の引き当てとなる財産は,

破綻・再生手続から分離するわけであるが,これらの財産については差押をす ることができない(預金保険法第126条の16)。

(12)

ルインは民事再生手続などの破綻処理手続等で行われることとされており,

この点が主要な特性と比べた秩序ある処理の大きな特色となっている 。そ して注目すべきは立案者が,預金や保険契約を破綻金融機関に残し,ベイル インの対象とすることを想定している ことであるが,この点は後述する。

また,両手続の整合性については,預金保険機構が特定管理を行うととも に更生管財人等にもなる(預金保険法第34条13号)ことで調整が図られる。

保険会社に関しては保険契約者保護機構(以下,保護機構)が特定管理の代 理を行い,更生管財人等の業務を行うことが想定されている(預金保険法第 126条の6,保険業法第265条の28第1項第9号,第11号)が,この点につい ても後述する。

秩序ある処理に要した費用については,預金保険機構が一旦支出したもの を原則として金融機関等の事後的負担処理で賄うこととされている(預金保 険法第126条の39第1項) 。負担金の額は 金融機関等の事業年度末の負債 額から内閣府令・財務省令で定めるものを除いた額 を基準として算定され ることになる(預金保険法第126条の39第3項)。保険会社についても基本は 同じであるが,この点についても後述する。

特定第二号措置は,システム上重要な業務のみを切り出して履行を確保す る一方で,それ以外の預金を含む業務に関しては清算することで救済費用の 極小化を図ろうとするものである。この点が預金も一般債権も全部保護する 仕組みの金融危機対応措置と大きく異なるところである。しかし秩序ある処 理で預金もベイルインの対象とすることは伝統的システミックリスクを招く 懸念もある。したがって銀行等については一時国有化して預金の全面保護を 図る従来の金融危機対応措置のほうが,特定第二号措置よりも有効な場合も

17) このように行政手続と裁判上の手続を並行させることとなった点については 山本・前掲注12)33頁。

18) 金融庁・前掲注11)。

19) 破綻金融機関に残された預金や保険の保護に要する各業態のセーフティネッ トのコスト負担とは別途のものである。

会社の課題 融機関の新たな破綻処理制度と保険

ろの上付きが入るため強制送りしま 本文のとこ

(13)

あると思われる 。そのため特定第二号措置の意義としては従来の預金保険 法の対象ではなかった証券会社や投資ビークルなど伝統的システミックリス クを有さない金融主体に対して新たな措置を可能にしたところに特に認めら れる。

次項以降では保険会社について検討を加えるが,まず保険会社がこのよう な措置の対象となることがあるのか,あるとすればどのような場合かについ て触れることとしたい。その後,保険会社が改正預金保険法のもとで処理さ れる場合の課題点について検討したい。

6.保険会社に対する秩序ある処理の適用

保険会社にはシステミックリスクは生じないと考えられてきた。生命保険 会社に限ってみてもバブル崩壊以降,日産生命の破綻から実に8社の破綻を 経てきたが,その都度,保険契約者のために積み立ててきた責任準備金の削 減 ,予定利率の引き下げといった,大まかにいえば銀行におけるペイオフ に該当することが実際に行われてきた。しかし現実にはシステミックリスク は生じていない。これは保険事業における後述のような特性によるものであ る。このことは伝統的なシステミックリスクもそうであるし,市場型システ ミックリスクについても同様に言えると考えるが,この点に関する議論を以 下で見てみたい。

保険会社はシステム上重要な機能を有するかどうか,いいかえればシステ ム上重要な機能を有する金融機関となるかについて,主要な特性など

FSB

の報告書では保険会社は当然にシステム上重要な金融機関になりうるものと されている 。確かに,保険会社グループである

AIG

もリーマンショック 時に経営危機に陥り,金融システムに重大な影響を及ぼしうるものとして認

20) 市場型システミックリスク防止策が有効となるのは日本振興銀行のような銀 行が大規模なデリバティブ取引を行っていたケースなどであろう。

21) 日産生命のみは責任準備金の削減は行われなかった。

22) 主要な特性3.7参照。

(14)

識されていた。ただ,

AIG

の場合は,デリバティブの一種である

CDS( Credit Default Swap

)を大量に発行しており,CDS

 

業務で大きな損失を被ったこ

とが経営危機の原因であった 。

そこで,この問題について検討した

IAIS(International Association of Insurance Supervisors

)の報告書のスタンスを見ることとする。まず,

 

IAIS

Insurance and Financial Stability

(2011.11)では,伝統的な保 険事業は金融システムとほとんど関係がないとしている。伝統的な保険事業 モデルでは保険会社はリスクを引き受ける事業であるが,それぞれの個別リ スクは相互に独立しており,連動しないものであり,また保険会社の流動性 リスクは戦略的なものではなく,運営的なものに限定されるとする 。さら に保険市場は十分競争的であり,特定の保険会社の破綻が市場の混乱を招く ことは考えにくいとしている。一方,非伝統的または非保険的業務のうち,

一定のものは金融システムと関係があるとしている。

次に同じく

IAIS

Global Systemically Important Insurers:Proposed Policy Measures

(2012.10)およびこの報告書をアップデートした

  Global Systemically Important Insurers; Initial Assessment M ethodology  

(2013.7)では,直近の金融危機も含め過去の経験からは伝統的保険事業が システミックリスクをもたらし,あるいはシステミックリスクを増幅させる 証拠は見つからないとする。一方,少数の保険会社が行っている非伝統的ま たは非保険業務がシステム上の重要性を有する可能性があり,保険会社がシ ステミックリスクを発生・助長させないという経験則は将来も当てはまるこ とが保障されるものではないとしている。

そして,これらの報告書では国際的にシステム上重要な保険会社 (

Global Systemically Important Insurers, G-SIIs  

)を判定するために二つのアプ

23) 池尾・池田・前掲注6)46頁,吉田光碩 クレジット・デフォルト・スワッ プ (NBLNo1010, 2013.10.1)65頁。

24) この点に関し,報告書では損保において,ワールドトレードセンターの事故 の保険金支払が80%に達するまで24四半期かかった事例が挙げられている。

金融機関の新たな破綻処理制度と保険会社の課題

(15)

ローチを採用することを明らかにしている。ひとつは国際的にシステム上重 要な銀行(G-SIBs)を判定する際に用いられる方式をベースに保険会社の 特性を反映させた 指標ベースの評価アプローチ である。これは各種指標 毎のウェイトをそれぞれ数値化してシステム上の重要度を判定するものであ り,具体的には,規模(ウェイトは5%。以下カッコ内同じ),グローバル 業務(5%),相互連関性(40%),非伝統的・非保険業務(45%) ,代替 性(5%)となっている。

もうひとつは

IFS

評価アプローチ であり,IAIS独自の手法である。

これは各種業務にそれぞれリスクウェイトを掛け合わせてシステム上の重要 性を判定するもので,具体的には伝統的保険(リスクウェイトは2.5%。以 下カッコ内同じ),準伝統的保険(12.5%),非伝統的保険(22.5%),非保 険金融業務(100%),非保険非金融業務(0%)となっている

これらの報告書に従えば,非保険金融業務,典型的には

CDS

のようなデ リバティブ業務を行うようなことがなければ,あるいは銀行や証券会社など と大規模な相互取引(資本持合など)をしていない限り,システム上重要な 保険会社とは言い難いものと考えられる。この点,システム上重要な業務と して把握されると思われるデリバティブ取引についていえば,日本の大手社 ではヘッジ目的での活用がほとんどである 。そうすると一般には現状の日 25) 非伝統的保険業務としては金融保障業務,保険リンク証券の発行業務,非保 険ビジネスとしてはCDSCDOの発行業務,投資銀行業務などが含まれる としている。

26) なお,2013年7月報告書のIFS評価アプローチでは伝統的保険を20%,準 伝統的保険を50%,非伝統的保険を75%とするマトリックスも同時に示されて いる。

27) 2013年7月に保険会社9社がFSBによりG-SIIsに指定された。米国のAIG,

メットライフ,プルデンシャル,欧州のアリアンツ,アビバ,プルデンシャル,

アクサ,ジェネラリ,中国の平安である。日本には指定された保険会社はない。

28) たとえば大手社では,日本生命の情報開示冊子に 主として現物資産運用の リスクをコントロールする目的でデリバティブを活用しています との記載が ある。同様に第一生命では 当社では,有価証券投資に係る市場リスクのヘッ ジを目的とした有価証券関連のデリバティブ取引,外貨建資産等に係る為替リ

(16)

本の保険会社について秩序ある処理による措置がなされることは可能性とし ては高くないものと思われる。

7.保険会社の若干の課題

それでは仮に日本にシステム上重要な業務を行っている保険会社が存在す るとして,そのような保険会社は今回の改正,特に特定第二号措置のもとで どのように処理されていくであろうか。これまで実際に利用されてきた破綻 処理手続は,保険業法上の破綻手続処理 と更生特例法に基づく更生手続 による処理の二つがある。最近の保険会社の破綻処理は更生手続きによって 処理することが一般的であることから,以下は更生手続を前提として議論を 進める。結論を先に言えば,制度としてきちんとワークするにはいくつかの 工夫をすべき点があるものと思われる。

保険会社が特定第二号措置の認定を受けた場合,保険会社は預金保険機構 の特定管理を受けることとなるが,前述のとおり保護機構が特定管理業務の 代理人となることができる。そうすると一般には保護機構の管理のもと,保 険会社におけるシステム上重要な取引は特定合併等により承継会社に移転・

履行されることになると考えられ,即座に受け皿が見つからないケースで考 えると,まずは預金保険機構の特定承継会社等に事業譲渡されることになる スクのヘッジを目的とした通貨関連のデリバティブ取引,貸付金の収益及び借 入金の費用の安定を目的とした金利スワップ関連取引等を行っております。

との記載が,住友生命では 当社では,主に保有する資産または負債の価値が 変動するリスクを回避する目的で,デリバティブ取引を活用しています。また,

運用する資金特性にそぐわないデリバティブ取引(例えば,原資産の価格変動 に対する当該取引時価の変動率が大きいレバレッジの高い取引等)は行わない こととしています。 との記載,また明治安田生命では, 当社が利用している デリバティブ取引は,原則として,運用資産または保険負債のリスクのヘッジ を目的としているため,デリバティブ取引のもつ市場関連リスクは減殺され,

限定的なものになっています。 との記載がある。

29) この手続は行政上の措置であるため,劣後債ですら法的に削減できないとい うデメリットがあり,更生特例法が改正されて保険会社が更生手続を利用でき るようになってからは,専ら更生手続により処理が行われている。

金融機関の新たな破綻処理制度と保険会社の課題

(17)

(預金保険法第126条の34第3項第2号)。

ところで上記で見たとおり,そもそも法律上,保険契約の包括移転は特定 合併等に含まれていない。前述のように

AIG

で見られたようなデリバティ ブ業務が典型的にはシステム上重要な債務であり,通常はデリバティブ業務 のみ移転を行うこととなるものと思われる。このような業務のみを行う会社 は保険会社ではなく金融商品取引業者となるはずである。ところが,預金保 険法の条文上,保険会社から事業譲渡する先は特定承継保険会社あるいは特 定承継会社に限定されている(預金保険法第126条の34第3項第2号,第4 号)。しかしそもそもこのような処理においては直接的に特定承継金融商品 取引業者(同項第3号)に承継できるとすべきではなかったのではないだろ うか。

一方で,保険契約については破綻保険会社に残り,更生手続のもと保護機 構の支援(預金保険法第126条の2第10項,保険業法第260条第2項,第270 条の6の6第1項)により一定の範囲で保護されることになる。ところで秩 序ある処理においては破綻保険会社に対して預金保険機構から衡平資金援助 が実施されることとなっている(預金保険法第126条の31,第59条の2)。こ れはもともと承継銀行に移転した預金債権と破綻銀行に残った一般債権の衡 平を図るための制度であるが,言い換えると承継銀行に健全な財産が移転さ れる穴埋めとして破綻銀行に一定の資金援助を行うものである。

これを保険会社に係る秩序ある処理に当てはめてみる。秩序ある処理では,

承継会社にシステム上重要な債務とそれを履行するだけの財産を移転し,一 方で破綻保険会社には保険契約と移転されなかった財産が残ることになる。

そして破綻保険会社に穴埋めのため一定の衡平資金援助が行われることとな る。ところで,保険料積立金には先取特権が付与され,承継先に移転した債 務より保険会社に残る保険契約者への債務のほうが優先する(保険業法第 117条の2)。否認権(会社更生法第86条)との関係で考えると,承継先に移 転した債務が破綻保険会社の資産で全額保護されるのであれば,破綻保険会

文のと

ろの上付きが入るため強制送りします

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社に残った保険契約も全額保護されるべきものとされそうである 。そうな るとベイルインが実際にはできないことになると思われるが,この点につい ては更なる検討が求められる。

また保護機構の業務に,更生特例法における管財人が追加され(保険業法 第265条の28第1項第9号),保護機構が特定業務の代理人と更生手続におけ る管財人を兼ねることができる。しかし一方,保護機構は保険契約者を代理 して更生手続に参加する(金融機関等の更生手続の特例等に関する法律第 432条)。管財人と権利者が同一主体に帰属することとなるため利益相反懸念 があり,保護機構が管財人に就任することは慎重に考える必要がある。

最後に秩序ある処理の負担金について検討する。この負担金は銀行や証券 会社が破たん処理された場合にも保険会社は負担しなければならないもので ある。そして,秩序ある処理にかかる保険会社の負担金については,負債の 額のうち,保護機構が保証を行っている部分を超えた部分について所定の割 合をかけたものとされている(預金保険法施行規則第35条の13第8号)。す くなくとも制度の想定としては,保護機構の保護の範囲を超える部分の責任 準備金を預金保険制度でカバーするものではない 。また,上述のとおり保 険契約がシステミックリスクを発生させることは想定されず,したがってそ の積立金を負担金の計算基礎に持ってくることは理屈に合わないようにも思 われる。

8.おわりに

今回導入された秩序ある処理は市場型システミックリスクに対処するもの であり,伝統的なシステミックリスクを内在する銀行等の金融機関に関する 既存の処理方法に加えて,保険会社や証券会社,あるいはその他のシャドー バンキングをも視野に収めた制度と考えられ,秩序ある処理が立法化された

30) 杉山智子 金融機関の秩序ある処理の枠組み と我が国生命保険会社につ いて 生命保険論集第185号256頁(2013年)。

31) 金融庁・前掲注11)。

金融機関の新たな破綻処理制度と保険会社の課題

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意義は大きい。しかしながら,以上見てきたように,日本の保険会社につい ていえば,秩序ある処理で破綻処理される可能性は低い。また実際に適用さ れる場合に制度として検討を要する部分もある。金融機関等に限らず破綻処 理は実際にやってみないとわからないといった面が強く,実際の処理場面で の創造性が求められるものと思われる。

(筆者はニッセイ基礎研究所勤務)

参照

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