岡山理科大学紀要第42号App63-68(2006)
レイリーフェージングチヤネルにおける多値QAMのビット誤り率
小西憲一
岡山理科大学工学部情報工学科
(2006年9月27日受付、2006年11月6日受理)
2.AWGNチャネルにおけるM-QAMのBERについて グレイ符号マッピング格子型信号点配置のM-QAM 信号空間ダイヤグラムの一例として,64値QAMの場 合を図lに示す.
1.まえがき
普及が著しい最近の3G携帯電話でもわかるように,
ワイヤレスデイジタルモバイルシステムはかつての音 声主体の通信からマルチメディア通信へとその中心的 機能は移りつつある.限られた周波数資源においてそ のような機能を十分に発揮するためには更なる高速伝 送を可能にする,よりスペクトル利用効率の高いディ ジタル変調方式が要求される.伝送帯域幅を増加せず に高いスペクトル利用効率を実現する変調方式として 最も魅力ある方式が多値QAM(M-aryQuadraturc AmplitudeModulation,以下M-QAMと記す)方式であ る.通常,M-QAM方式のビット誤り率(BER)を閉 形式で正確に計算することは煩雑で困難なことが多く,
従来から種々の近似式の形式が提案されて用いられて きた.多値数Mが16値や64値の場合の正確なBER の計算式は得られていたものの,任意のMの値に対す る正確なBERの計算式は知られていなかった.ようや く近年になって,情報ビット列のM-QAMシンボルへ のマッピングをグレイ符号配置にしたときの正確な BERが任意のMの値に対し計算できる閉形式の計算 式が見出された.従来から知られていた多くの近似式 によるM-QAMのBERでは,SN比の高い領域では正 確な値に近いが,SN比の低い領域では正確さに欠け
ることが多い
この論文では,まず任意のMに対して正確なBER を与える計算式と代表的ないくつかの近似式をまとめ て記述し,AWGNチャネルにおいてSN比の低い領域 でのBERを計算して近似式の近似の度合いについて 検討する.次いで,モバイルマルチメディア通信を念 頭において,典型的な電波伝搬環境であるレイリーフ ェージングチャネルにおけるシングルチャネル受信の 場合とマルチチャネル受信の場合のM-QAMの厳密な BERの理論式を求め,いくつかの計算例を示す.特に,
文献に見当たらない多値数Mが非常に大きい場合の BERの計算結果例は有用な基礎資料となると思われ る.また,実用的な平均SN比の範囲では近似式が有 用なことを示す.
〕O101100nlIOOO111000101001101uu
DO100100100110IOOO11000010000110000
mo1010100010000010uoloIoooo1000000000100000101〔
]1011101001100001100011DOOOOllOOOOO1001001UUlU
JO1110001110011IUlUOllO100010110C
DIOlllUUUllUUOUllUUlUUOlUUlUO10UUOO1100001101m
]OllO100110110IO10110010100UlllUL
D10111nlllIo101110101c
図Lグレイ符号マッピング64値QAM の信号空間ダイヤグラム
‘情報ビット列のM-QAMシンボルへのマッピングを グレイ符号とした場合のAWGNチャネルにおける M-QAMのBERの厳密式はDYOonとK・Choらによっ て見出された[1],[2]それは次式で与えられる.
肺歳'響方しず'(日){帯’
壱Ⅱ姉('2川IIE語千三F}
(枇馬
(1) 上式において
航し)臺衾r〆“ (2)
|まガウスの誤差補関数である.また,Mは多値数,E6
は1ビット当りのエネルギー,ノVo/2は相加白色ガウ
64 小西憲一
ス雑音の両側電力スペクトル密度であるIjr」はガウ スの記号でXの整数部を表す.ただし,M-QAMの川 個のシンボルはどれも等確率で送信されるという仮定 がおかれている.
式(1)の厳密式が見出されるまではM-QAMのBER は近似式を使って評価されることが多かった.高SN 比の領域で比較的良好なBERを与える,これまでに知 られているM-QAMのBERの代表的な近似式をまとめ ると以下のようになる.
lOo
に四m
a)LKom[3],BSklar[4]の近似式
脈万ナI湯i夛耽lEiii三二二F] (3) 101
b)JLu,KBLetaiefJC、-1.Chuang,MLLiouの近似 式同
雌マサ=!{二f十万箸耽|(2H1霊二W〒三F1
-10-8-6-4-202468
SNRperbit[。B]
図2.256値QAMのBER(厳密値と近似値)
10
(4) ランダム変数であるから,それを76=Eb/jVoとおく.
レイリーフェージングの場合,γ6の確率密度関数は次 のような指数分布となる.
c)L-LYang,LHanzoの近似式[6]
鮎弱iナ!{三fナラ飾IE1il零F) ,叶豈抑(-肴) γbz0 (6) +▽;i鶚万蛾(,,E{雲三千丁壽子) (5) ここで,凡はγ6の平均値である.いま,フェージン グは十分に低速なフラットフェージングであるとし,
受信機においてフェージングチャネルの全パラメータ の完全な推定が可能で,任意の多値数のM-QAMに対
して同期検波が可能であるとする.そのような仮定の 下では,レイリーフェージングチャネルにおける
M-QAMの平均BERBJvはDYOonとKChoらの厳密 式をγ`の関数としてBJM(γ`)とおいて,それをγ`の確
率密度関数の式(6)で平均化して得られる.すなわち
nMK…)-1.M'上い', (7)
である.式(7)を計算した結果は 以上の式(1)及び式(3)から式(5)を1ビット当りのSN
比BWV・の低い領域で計算した結果の一例として,
256値QAMの場合のBERを図2に示す.横軸のE6/Ⅳ。
を-10dBから+10dBに取っている.図2からわかる
ように,L-LYangとL・Hanzoの近似式(5)が最も良好 な近似であると判断できる.また,LKomやBSklar の近似式(3)は全てのSN比の領域で常に低い値が出て
くる.JLuらの近似式(4)はE6/ハノ。<-5dBの領域で '1,Mが1/2を超えてそのような低SN比の領域ではこ
の近似式は使えないと理解できる.図には Eb/NC>10dBの結果は示されていないが,そのよう
な高SN比の領域ではどの近似式も良好な値を与える. PlJv(RayIeigh) 諒万'ご蒜'トツ{い)闇
壱|肝祷I
H帯
3.レイリーフェージングチャネルにおける M-QAMのBER
3.1シングルチャネル受信
DYOonとKChoらのM-QAMのBERの厳密式をも とにレイリーフェージングチャネルにおけるBERを 求める.フェージングチャネルにおいては,上記で Eb/ノV・と書いていたSN比は瞬時的な値でありこれは
(8)
となる.ここで,
31og2M
α=2(M-1)
とおいている.
(9)
U、■0
一
一 鵡謡剛識 prox1m tr3r4r5 詔xi…BER ‐亜》馳馳j ’馴輕》》
I
レイリーフェージングチャネルにおける多値QAMのビット誤り率 65
また,図4は一例としてM=1024値のQAMのBER をAWGNチャネル(フェージングなし)の場合とレ イリーフェージングチャネルの場合を比較のために併
記したものである.平均BERFljo24=10-3において 14dB以上,p1,024=10~4においては22dB以上のSN比
劣化(同一BERを与えるのに必要なシステムマージ ン)があるのでダイバーシチ受信,誤り訂正符号など なんらかのフェージング対策が必要である.
L-LYangとLHanzoの近似式をもとに求めたレイ リーフェージングチャネルの場合のM-QAMのBER を厳密値と比較して表1に示す.
式(8)の計算結果の一例として,M=16,64,256, 1024,4096の場合の平均BERを図3に示す.横軸は1 ビット当りの平均SN比尻である.
100
10~’
M=
M=4096 4096 M=16
M=64
噴浬
M=256-
M=1024 10毛
M=256
正山、 表L厳密値とYang,Hanzoの近似式に基づく
M-QAMのBERルイリーフェージングチャネル)
M=1024
10~③ Ave、SNR ExactBER ApproxBER
2.0339×10-1 2S105x10-l Z8412xlO-l Z9394xlO-1 Z8317x10-’
4299lx10-2 7.7158x10-z L2379xlO-l L7054xlO-I 2.0589x10-l 49479x10-3 LO668x10-2 2.4064x10-2 alO82xlO-2 90611x10-z aO259x10-4 L1127xlO-3 Z7090x10-3 6.9935x10-3 L7985x10-2 5.0338x10-5 L1175x10-4 2.7445×10-4 72833×10-4 2.0386×10-3 L9757xlO~l
24706x10~’
28903×10~l 31955x10-1 34119x10~’
16 64 256 1024 4096
10弓 0dB
42371xlO-z 76680x10-2 L2423x10-1 L7402x10-l 21784x10-1
10~。 16
64 256 1024 4096 0510152025303540
AverageSNRperbit[。B]
10dB
図3.レイリーフェージングチャネルにおける M-QAMのBERの計算例
4.8854x10-3 LO620x10-2 24107x10-z 51438x10-2 91965xlO-2 16
64 256 1024 4096
lOo 20dB
10ョ
Rayleigdlfadjng Rayleigdlfadjng
4.9634x10-4 L1078x10-3 27133x10~3 70292×10~3 L8122xlO-z 16
64 256 1024 4096 10屯
30dB 10旬
Hi1oヨ
ロロ 49713x10-5
L1126x10-4 2.7487xlO-4 73190x10-4 2D524xlO-3 16
64 256
1024 4096 Nofadjng
10毛
40dB
10-。
10可
M=1024 YangとHanzoの近似式に基づいて求めたBERは,厳
密値に比べて64値以下ではわずかに高めに,また256 値以上ではわずかに低めに出ている.相対誤差は平均 SN比や多値数Mによりばらつきがあるが,多くの場 合に相対誤差10-2以下で実用的なSN比の範囲(実用 上は所要回線品質を満足する必要があるが,たとえば
10-。 0510152025303540
AverageSNRperbit[。B]
図4AWGNチャネルとレイリーフェージング
チヤネルにおける1024値QAMのBER
66 小西憲一
平均BER10~2以下を想定してそのようなBERを与え るようなSN比の範囲という意味)においては+分に 良好なM-QAMのBER近似計算式として使うことがで きる.
M=256,1024,4096値に対して式(13)を計算した
結果の例を図5,6,7に示す.横軸はzである.ダイ バーシチブランチ数はL=2,4の場合を計算した.図 中には比較のためにL=1,すなわちダイバーシチなし
(シングルチャネル受信)の場合を併記している.
32マルチチャネル(ダイバーシチ)受信 この節ではレイリーフェージングチヤネルにおいて マルチチャネル(すなわちダイバーシチ)受信する場 合のM-QAMのBERを考える.ここでは合成後の受信 信号SN比が最大になる意味で最適なダイバーシチ合 成法である最大比合成(MaximalRatioCombining,
MRC)ダイバーシチ受信とする.いま,ダイバーシチ の各ブランチの受信信号は独立で同一統計に従うレイ
リーフェージングを受けるものとするMRC合成後の
トータルのピット当りのSN比をγ6,1と書くと,76Jは
各ブランチのSN比の和
乃,,=Z肱,('0)
で与えられる.ここで,76,'は各ブランチでの1ビッ
ト当りのSN比,Lはダイバーシチのブランチ数(チ ャネル数)である.各ブランチのフェージングが独立.
同一統計のレイリーフェージングであるとき,γ6,1の 確率密度関数は自由度2Lのr2(カイ2乗)分布となり,
,(川)て二論叩(÷)’Ⅱ)
と書ける.式(11)においてはえはブランチ当りでの1 ビット当りの平均SN比である.このとき,平均BER
はハ』の関数としての式(1)のM-QAMのBEWM化J
を式(11)で平均化して
PhM(MRC)=rPWb〃(ルル,“('2)
より計算される.式(12)は文献[7]の式(4-14-5)を参考に して計算すると閉形式で求めることができ,
豆…菫万歳ご蒜'y{Gリ'帯’
(批腺D響言什1(\)1
lOo
10剣
L=l(NoDiversity)
L=l(NoDiversity)
L 10毛
田,0. m L=2 L=2
10ョ
L=4 L=4 L=4
10-5
M=256 M=256 M=256 10~。
0510152025303540
AverageSNRperbit[。B]
図5.MRCダイバーシチ受信の場合のBER
(256値QAM)
lOo
10~’
L=1(NoDiversin/)
L=1(NC 10毛
L=2
85,0-, L=
m
10ョ
L=4 L=4
(13)
10-5
となる.ここで
1 i=0,L2,…,(1-2-k)、-1 k=1,2,…,log2〃
M=1024 M=1024
似= 1 10毛
'+(2.j+')2αえ 0510152025303540
AverageSNRperbit[。B]
図6.MRCダイバーシチ受信の場合のBER
(1024値QAM)
(14)
である.
レイリーフェージングチャネルにおける多値QAMのビット誤り率 67
の場合について求めた.M=1024値や4096値のよう に非常に大きな多値数の場合の計算結果は文献に見当 たらないので,有用な基礎資料になると思われる.フ ェージングチャネルにおいてはAWGNチャネルの場 合に比べてSN比劣化が大きいが,ダイバーシチを用 いることで改善でき,平均BERBノM(MRC)=10-3におい
てブランチ数2の場合で11dBから12dB,ブランチ数 4の場合で18dBのダイバーシチ利得が得られること がわかった.また,これまでM-QAMのBERを計算す るときに用いられた2,3の代表的な近似計算式につい て検討し,DYOonとKChoらの近似式に基づけば実 用的なSN比の範囲において良好なBERを与えること
もわかった.
lOo
10~I
10毛
剣
〈U
『1