脱灰による軟骨組織の染色性への影響
- Safranine0-First Green
染色、Truidine Blue
染色を用いての検討-小岸久美子、 松下隆寿
京都大学再生医科学研究所技術部
目的
再生医科学研究所技術部では、骨組織や細胞 、種々の基質上での軟骨の再生実験をおこなったものの標本作製が依頼 される。
軟骨の染色にはSafranine0-First Green染色、Truidine Blue染色、alcian blue染色がある。
これまで酢酸浸漬時間、脱灰操作によってSafranine0-First Green染色で染色すると、染色態度が異なることがわかった。
今回、脱灰液の種類、脱灰条件の違いによる軟骨染色への影響を、Safranine0-First Green染色、Truidine Blue染色を用い て検討をおこなった。
材料と方法
1、7週齢Balb/c♀マウスの膝関節部を含む長骨の皮膚、筋肉を取り除く 2、10%緩衝ホルマリンで2週間常温固定
3、水洗後、脱灰操作をおこなう 4、定法にてパラフィン切片作製
5、safranine0-First Green染色、Truidine Blue染色を行ない、脱灰液及び脱灰条件の違いによる 影響を検討する
検討条件
以下の異なった脱灰条件で検討する。
①Plank-Rychlo法(酸脱灰):室温 18時間
②10%EDTA:室温 2、3、6週間
③10%EDTA:37℃(恒温器) 1、2、3、6週間
④10%EDTA:4℃(冷蔵庫) 2、3、6、8週間、3カ月
検討方法
Safranine0-First Green染色とTruidine Blue(大野法)染色とを用いて脱灰の影響を検討する。
<Safranine0-First Green染色>
以下の方法でSafranine0-First Green染色をおこなった。
1、脱パラ
2、水 洗: 流水 10分 3、核 染: Hematoxylin(Mayer)染色 5分 4、水 洗: 流水 10分
5、Fast Green染色: 5分 6、1%酢酸水浸漬: 1分
7、Safranine 0染色: 10分
8、脱 水 100%エタノールで手早く3回洗い、100%エタノールで30秒、1分、3分と3回脱水 9、透徹、封入
<Truidine Blue染色:大野法>
酸性ムコ多糖は赤紫に染まりメタクロマジ-陽性をしめす。核やその他の組織成分は青色を示す。
メタクロマジ-においてpHは重要な因子であり、pHを変化させることにより酸性ムコ多糖の識別にも 利用される。今回、この大野法を用いて染色性の検討をおこなった。
表1 大野法による酸性ムコ多糖の染色結果
ヒアルロン酸 コンドロイチン硫酸 ムコイチン硫酸
pH2.5
-
+
pH4.1、7.0
+
+
表2 大野法における緩衝液の調整方法
pH
A液(ml) B液(ml)2.5 19.0 1.0
4.1 12.0 8.0
7.0 3.5 16.5
A液:1/10M クエン酸
クエン酸(C6H8O7・H2O=210.14) 2.1gを蒸留水にて全量100mlにする B液:1/5M リン酸水素二ナトリウム
リン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4・12H2O) 7.16gを蒸留水にて全量100mlにする
以下の方法でTruidine Blue染色を行った。
1、脱バラ
2、D.W. 30秒x3
3、0.05%トルイジンブルー(大野法pH7.0 or pH2.5) 30分 4、D.W. x5 さっと
5、100%EtOH x3 さっと脱水後、透徹、封入
結果
再生医科学研究所技術部では、通常Plank-Rychlo法での酸脱灰をおこなっており、今回の実験でも室温で18時間と短 時間で脱灰効果があり使いやすい方法である。しかし、パラフィンブロックの薄切後、免疫染色等に使用する場合、酸脱 灰では困ることもあり、EDTAを用いた中性脱灰の必要性がある。
Plank-Rychlo法(酸脱灰)の染色結果は、Safranine0-First Green染色は骨端軟骨板部分(a)の赤色は濃く、骨端部分(b) はそれよりは薄い赤色です。pH7でのTruidine Blue染色は(a)メタクロマジーが強く出ている。それに比べると(b)はメタ
クロマジーがやや弱い。pH2.5では(a)部分の色調がやや薄い。(b)は染まっていない。この染色性の差は各部位の成分の 量の差なのだろうか。
室温での10%EDTA脱灰では、2週間ではSafranine0-First Green染色では、(a)は濃く染まっている。(b)はやや薄い赤。
pH7のTruidine Blue染色では、(a)はメタクロマジーが強く(b)はメタクロマジーそれよりやや弱い。pH2.5では(a)部分 の色調が薄くなってきている。(b)は染まっていない。3週間でもSafranine0-First Green染色ではまだ(a) (b)ともに染まっ ているが、pH7のTruidine Blue染色では、(a)はメタクロマジーが強く(b)は濃紺に染まってきている。pH2.5では(a)部 分の色調がかなり薄くなり (b)は染まっていない。6週間になるとSafranine0-First Green染色でも赤色がかなり薄い。
pH7のTruidine Blue染色では、(a)はほとんど色が抜け細胞だけが見えている。 (b)は濃紺に染まっている。pH2.5では
(a) (b)ともに全く染まっていない。
37℃の恒温器での10%EDTA脱灰は、1週間ではSafranine0-First Green染色では、(a)は室温脱灰の1/4程に赤色が薄く なっている。(b)も薄くなっている。pH7のTruidine Blue染色では、(a)はメタクロマジーが出ているが、色がかなり薄く なっている。 (b)は色調もメタクロマジーもかなり薄い。pH2.5では(a) (b)ともに染まっていない。2週間になると Safranine0-First Green染色では、(a)はわずかに赤色が感じられるほどで、(b)はまったく染まっていない。pH7のTruidine Blue染色では、(a)はわずかに薄紫で (b)はそれより弱い薄紫。pH2.5では(a) (b)ともに染まっていない。3週間なると Safranine0-First Green染色では、(a) (b)ともにほとんど染まっていない。pH7のTruidine Blue染色では、(a)は染まってい ず (b)はほんのわずかメタクロマジーが感じられる程度。pH2.5では(a) (b)ともに染まっていない。6週目Safranine0-First
Green染色、Truidine Blue染色(pH7、pH2.5)いずれでも染まっていない。しかし、骨端軟骨内二次骨化中心部(c)が、
薄い赤紫に染まっていた。
4℃(冷蔵庫)での10%EDTA脱灰は、脱灰に時間がかかり2週目では少し薄切しにくかった。Safranine0-First Green 染色では、(a) (b)ともに鮮やかに染まっている。pH7のTruidine Blue染色でも、(a) (b)ともに非常に濃く染まっている。
pH2.5では(a)は室温の2週目より濃く染まっている。 (b)もうっすら染まっている。3週目でもSafranine0-First Green染 色では(a)は2週目とほぼ同じくらい染まっており (b)はわずかに薄くなっているようだ。pH7のTruidine Blue染色では、
(a) (b)ともに2週目よりはやや薄くなっているが、はっきりしている。pH2.5は2週目と同じ。6週目になると
Safranine0-First Green染色では(a)の端の方がはっきりと薄くなってきており、中心部もわずかに薄くなっている。pH7
のTruidine Blue染色では、3週目より薄くなってきているが、室温の2週目よりは濃く染まっている。pH2.5では(a) は
やや薄くなっており、端はかなり薄くなっている。(b)は3週目と同じ。8週目ではSafranine0-First Green染色、pH7、 pH2.5 Truidine Blue染色は6週目とほぼ同じくらい。3ヶ月目ではSafranine0-First Green染色は8週目とほとんど同じく
らい。pH7、pH2.5 Truidine Blue染色は(a) (b)ともに8週目より薄くなってきているが、室温の2週目よりは濃く染まっ
ている。
考察
今回の実験の結果、染色性のことを考えると、4℃(冷蔵庫)での脱灰が好ましいが、組織が大きくなった場合、所要 時間がかなり長くなるという難がある。最初に組織を薄く切るか、脱灰しながら薄くしていく等の工夫がいる。また、37℃ の恒温器での10%EDTA脱灰は、脱灰作用は速いが染色性が急激に落ちることがわかった。このことより軟骨の再生実 験を行なった試料の染色の場合、事前に試料の大きさ、種類に合せた脱灰条件の検討が必要となる。
大野法によるpHを変えたTruidine Blue染色での染め分けで、EDTA脱灰の場合、特に37℃や室温での長期の脱灰操 作では染色性の消失が見られるので、酸性ムコ多糖部分の流出など何らかの変化が考えられる。今後、免疫染色等を用い て変化の内容を確認する実験をおこなう必要がある。
当研究所技術部では、さまざまな条件で実験された軟骨組織や細胞の標本作製依頼があり、今回の結果をもとに、依頼 される研究者と検討しながら染色条件を決めていく。