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論文の内容の要旨
氏名:岸 本 誠 也
博士の専攻分野の名称:博士(工学)
論文題名:マルチスケールの電磁界解析における高速化および高精度化に関する研究
近年,電磁界解析の分野では,解析対象物のサイズが入射波長の 0.01 倍から 1,000 倍程度となるマル チスケールの解析に関する研究の必要性が増している.対象物のサイズが波長に対し 0.1 倍以下の問題 はナノサイズの近接場光発生素子,0.1 倍から 10 倍程度の問題は無線通信用アンテナ,10 倍以上の問題 は航空機のレーダ,などの設計に応用されている.
電磁界解析手法の中で,積分方程式に基づく数値解析法は従来よりモーメント法として知られ,対象 物のサイズが波長に対し 0.1 倍から 10 倍程度となるアンテナ設計などに広く用いられてきた.特に,境 界型の積分方程式法は対象物表面のモデリングにパッチを用いて離散化することで解析が可能なため,
任意形状の対象物をより詳細に表わすことができる利点を持つ.
また,モーメント法では対象物の表面電流や電荷などの未知量を求める際に,計算過程において連立 一次方程式を解く必要がある.その求解に反復法を用いる従来法では,求める未知数N に対し計算量が 二乗のオーダO(N 2)で増加する.しかし,入射波長に対し対象物が 10 倍以上となる問題では,パッチ数 が増加することにより未知数も増加する.このため,多くの計算機メモリと計算時間を必要とする,解 析困難な大規模問題になる.また,対象物のサイズが入射波長の 0.1 倍以下となるナノ領域の問題では,
対象物近傍の電磁界解析が重要になるが,物体形状の微小な差異が解析に大きな影響を与える.このた め,素子の微細構造を正確に表わす必要性から未知数N が増加し,解析困難な大規模問題となる.これ らの問題点を克服するため,高速かつ高精度な電磁界解析法の研究が近年盛んに行われている.
本研究では,マルチスケールの電磁界問題を高速および高精度に解析が可能となる手法の開発とその 実証を目的とし,以下の点から検討を行った.
(1) 入射波長に対し解析対象物のサイズが 10 倍以上となる問題について,多重レベル高速多重極法 (MLFMA:multilevel fast multipole algorithm)を用いた高速計算の高精度化手法を開発した.
また,解析対象物のモデリングによる計算量と計算誤差の関係を明らかにした.
(2) 入射波長に対し解析対象物のサイズが 0.1 倍以下となるナノ領域における電磁界解析について,
高速かつ高精度に解析が可能な電磁界時間応答解析手法を開発した.また,本手法の正当性と有 用性を明らかにし,ナノスケールデバイスの設計に応用した.
本論文は4章から構成されている.以下各章の概要を説明する.
「第 1 章 序論」においては,研究の目的,研究の背景と位置,本論文で用いる記号について述べた.
「第2章 MLFMA を用いた電磁波散乱解析の高精度化手法の開発」においては,入射波長に対し対象物 のサイズが 10 倍以上となる問題について,高速アルゴリズムである MLFMA を用いて解析を行い,高精度 化手法の開発を行った.
MLFMA は反復法を用いた連立一次方程式の求解に現れる行列-ベクトル積の計算時間および使用メモ リ量を,O(N 2)からO(N log N )まで低減が可能な手法である.最近では未知数が1億を超える解析例も 報告されている.
本章ではモデリングに用いるパッチについて,曲面パッチと三角パッチを比較した.曲面パッチは,
滑らかな面を詳細に表わせるため,形状のモデリングによる誤差を小さくすることができる.しかし,
パッチ数に対する計算誤差や三角パッチに対する優位性の検討などは十分行われていない.このため,
厳密解が知られる完全導体球の電磁波散乱問題について解析を行った.未知数の増加に対する数値結果 と厳密解の比較検討を行い,曲面パッチの優位性を明らかにした.
また,MLFMA は大規模問題の解析に有用であるが,その解析において計算誤差を生ずる.これまでの検 討から MLFMA における計算誤差は,多重極展開における打ち切り誤差が主な原因であることが示されて いる.更に,多重極展開における計算誤差の予測式が提案されている.しかし,実際の MLFMA を用いた
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電磁波散乱解析における RCS(:radar cross section)などの計算誤差に対する検討は十分に行われてい ない.このため,MLFMA より得られた RCS について,打ち切り項数に対する計算誤差を検討した.まず,
MLFMA を用いた電磁波散乱解析における,計算誤差を決定する相互作用の組(ワーストケース)の条件を明 らかにするため,簡易形状モデルに対する誤差解析を行った.これより,ワーストケースの判定法を開 発した.加えて,従来の予測式を拡張し,新たな計算誤差の予測および制御法を開発した.
更に,開発した計算誤差の制御法を適応することで,MLFMA を用いた大規模電磁波散乱解析においても 計算誤差を制御できることを明らかにした.
「第3章 ナノ領域における電磁界時間応答解析法の開発」においては,入射波長に対し対象物のサ イズが 0.1 倍以下となる問題について,新たな電磁界時間応答解析法の開発を行った.
近年,ナノスケールの電磁界解析は,超高密度記録や微細加工技術などの分野で重要性が増している.
ナノ領域における解析手法として,時間領域差分法(FDTD:finite-difference time-domain)や境界型積 分方程式法(BIEM:boundary integral equation method)が用いられる.
本章では,ナノスケールのデバイス設計のため,複素周波数領域に拡張した BIEM と数値逆ラプラス変 換法を併用する新たな電磁界時間応答解析手法を開発した.本手法は,境界面のみの離散化でモデリン グが可能で,形状の微小変化に対して有効である.また本手法の利点として,計算誤差が完全に制御で きる,任意の観測時間で独立に計算できる,高い並列化効率が得られる,ことなども挙げられ,従来法 に比べより信頼性の高い解析を可能とした.本手法を検証するため,厳密解が知られる微小金属球近傍 の電界について時間応答解析を行った.本手法で得られた解析結果と厳密解を比較し,本手法の信頼性 を明らかにした.
更に,ナノスケールデバイス設計などの大規模問題を解析するため,高速多重極法(FMM:fast multipole method)を適応し計算時間の削減を行った.FMM を用いて得られた解析結果と厳密解を比較検討し,相対 誤差が 1.0%以下となることを確認した上で,高速化が可能であることを明らかにした.
次に,並列計算を用いて計算時間の削減を行った.この際,並列計算に用いる負荷分散法について検 討し,効率の良い負荷分散法を提案した.FMM と並列計算を併用することで更なる高速化を実現した.
本手法を用いたナノスケールデバイスの解析例として,クロスアパチャー型のプラズモニックアンテ ナの設計を行った.ここでは,超高速高密度磁気記録用に,生成された円偏光が定常状態に達するまで に必要な時間と高強度の円偏光を生成しスポット径をナノサイズまで局所化できることを明らかにした.
「第4章 結言」においては,研究の成果を総括し,今後に残された課題について述べた.
第2章では,入射波長に対し対象物のサイズが 10 倍以上となる問題について,MLFMA を用いて解析を 行った.計算コストを削減できるメッシュ分割法と計算誤差の予測と制御法について検討を行い次の成 果が得られた.
(A-1) 厳密解との相対誤差を 0.1%以下とするために必要な未知数を,曲面パッチを用いることで三 角パッチに比べ半分以下に低減できることを明らかにした.
(A-2) ワーストケースは要素間の距離パラメータ,入射波ベクトル,および相互作用の強さから判定 できることを明らかにし,ワーストケースの判定法を開発した.
(A-3) 判定したワーストケースに対応する,要素間の距離パラメータと相互作用の強さを考慮し,新 たな打ち切り項数に対する計算誤差の予測式を提案した.これより MLFMA を用いた電磁波散乱 解析における計算誤差の予測および制御法を開発した.
(A-4) 未知数が 100 万を超える大規模問題について,計算誤差を制御可能であることを明らかにし,
大規模電磁波散乱解析の高速化および高精度化を実現した.
第3章では,入射波長に対し対象物のサイズが 0.1 倍以下となる問題について,新たな電磁界時間応 答解析法の開発を行った.本手法の有用性を検討し,ナノデバイスの設計を行うことで以下の成果が得 られた.
(B-1) 厳密解と本手法の相対誤差を 1%以下に制御できることを明らかにした.また,FDTD 法の 200 倍以上の時間刻み幅に対しても,全観測時間に対し計算誤差を 1%以下にできることを明らか にした.
(B-2) FMM を用いて,未知数 25,000 以上で 10 倍以上の高速化が可能となることを明らかにした.
(B-3) 効率のよい負荷分散法を提案し,ほぼ 100%の並列化効率が得られることを明らかにした.ま
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た,FMM を併用することで,未知数 25,000 程度の問題に対し約 100 倍の高速化を実現した.
(B-4) ナノアンテナ近傍における電界の時間応答解析により,生成した円偏光の強度が時間経過と共 に増強すること,50fs で定常応答に達することを明らかにした.ストークスパラメータを評 価し,高強度の円偏光を 10nm 以下のスポット径に局所化できることも明らかにした.
また,今後に残された課題として主に次の項目を示した.
(C-1) 入射波長に対し 10 倍以上となる物体と,0.1 倍以下となる物体が混在している場合の高速化 および高精度化の検討
(C-2) 提案法によるナノデバイスの最適化設計
(C-3) 静的近似が適応できない問題に対するナノ領域電磁界解析法の開発