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論文の内容の要旨
氏名:横 井 元 治
博士の専攻分野の名称:博士(工学)
論文題名:自動二輪車の低速走行におけるライダーの挙動に関する研究
~熟練度による差異の分析~
【背景】
自動車や歩行者等との混合交通における自動二輪車(以下,二輪車)の運転は,高速巡回走行だけ ではなく,低速での走行も多く発生する.また,二輪車の低速バランス走行は,操作を安全かつ的確 におこなえているかどうかを判断する材料として適切であり,二輪車免許取得のための実技講習とし て狭路極低速走行(以下,一本橋走行)が必須項目となっている.
一方,この一本橋走行の自動車教習所等における指導に関しては,限られた教習時間の中で受講生 に伝えなくてはならない環境もあり,免許取得に必要となる基準を満たすためのテクニックを各イン ストラクターの経験から伝える指導が中心となっている.したがって,ライダーと二輪車がどのよう な形でバランス状態を作り上げているのかについては,ライダー自身が理解できていないのが現状で ある.
二輪車の低速走行についての動作研究としては,車両のメカニズムに関しての研究は多くあるが,
ライダーの挙動について言及しているものは尐ない.また,ライダーの挙動に関しての研究において も,ライダーが乱れたバランスの修正をおこなう現象についての研究に限られており,安定したバラ ンス状態を作り,維持するためのライダー挙動について言及しているものはない.
【目的】
二輪車の基礎運転能力向上のために必須である一本橋走行に対して,正しい動作メカニズムに基づ いた指導を実施可能としていく必要がある.そこで本研究では,熟練度の異なるライダーにおける二 輪車を用いた比較実験を,走行制限の高い狭路(一本橋)を使用し実施した.その中で初級者と熟練 者における走行中のライダーの動作と車体の挙動の特徴を明確化する測定方法を確立することと,そ の確立した測定方法を基に初級者と熟練者におけるライダーの動作と車体の挙動を明確にし,一本橋 走行の指導向上につなげていくことを目的としてそれぞれの実験をおこなった.
【論文の構成】
本論文は6章で構成される.以下にそれぞれの章の要旨を示す.
第 I 章 序論
研究の背景として二輪車運転時の交通事故の現状と二輪車運転能力向上における低速バランス走行 の重要性ついて述べた.また,二輪車の低速バランス走行の指導に関しての現状と問題点を挙げた.
また,先行研究から低速走行における評価方法の課題を明確化し,本研究の目的について述べた.
第Ⅱ章 二輪車の一本橋走行における上体挙動測定方法の検討
二輪車における一本橋走行中のライダーの動作と車体の挙動を明確にするために,熟練度の異なる ライダーによる比較走行実験をおこなった.測定項目はパフォーマンスとして各ライダーの一本橋走 行タイム,ライダーの動作と車体の挙動としてジャイロセンサを用いた角速度と加速度の測定をおこ なった.
結果として,パフォーマンスの違いによりライダーおよび車体のロール挙動に差異が発生すること を確認することができ,角速度を用いた測定方法の有効性を確認することができた.また,長時間の 一本橋走行をおこなえていた熟練者の特徴として,ライダーおよび車体の急激なロール挙動が尐ない ことが確認できた.
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第Ⅲ章 位相差評価によるライダーの動作特性比較法の検討
第Ⅱ章で測定されたデータのうち,ライダー頭部のロール角速度と車体のロール角速度の関係性に 着目し,初級者がライダー頭部のロールに伴う位相遅れの車体のロール挙動が発生していることを確 認した.また,この特徴的な挙動が低速走行をするために必要なライダー-車体系のバランス状態を 乱す原因となっていることを考察した.
第Ⅳ章 走行熟練度による走行比較実験 ~角速度成分比較~
第Ⅱ章,第Ⅲ章の実験結果より明らかになった課題を解決するために,訓練経験の異なる14名の 一本橋走行時のライダーと車体の角速度成分について挙動測定をおこなった.
パフォーマンスの結果から下位、上位各4名を初級者群,熟練者群と分類したところ,それぞれの 走行タイムは初級者群が 15.5±2.0s,熟練者群が 61.5±22.0sであり,検定の結 果,両群に有意な差を確認できた(P < .05).
また,一本橋走行中のライダーおよび車体の動作について,角速度成分の解析をおこなったところ,
初級者と熟練者に共通した特徴として,車体のロールを発生させずに走行していることが確認できた.
一方,熟練者は,ライダー頭部のロール角速度が初級者に比べ有意に小さいということが確認できた
(P < .05).
第Ⅴ章 熟練度違いによる動作特性比較実験 ~ハンドル操作成分比較~
第Ⅳ章の実験におけるロール角速度成分以外の特性を明確にするため,ハンドルの転舵角および ハンドルとリアブレーキに発生する荷重についてのデータ解析をおこなった.
結果として,パフォーマンスの高い熟練者は,初級者に比べ走行中のハンドルの転舵動作が有意に 大きいこと,およびハンドルの上下方向にかかる荷重も有意に大きくなっているということが明らか となった.このことから熟練者がハンドルに関する2つの特徴的な操作および動作を実施しているこ とを確認することができた(いずれも,P < .05).
ここまでに得られた実験の結果より総合的な検討をおこない,一本橋走行におけるバランスの維持 および乱れの発生に対するライダーの操作および動作について考察をおこなった.
初級者,熟練者ともに大きな車体のロールを発生させていない走行を実施していることから,車体 のロールを発生させないことは,一本橋走行において安定して走行をおこなうために必要な条件であ ると判断できた.初級者はこの車体ロールの抑制のために,速度を落とさず走行することにより慣性 力および運動エネルギーの効果を活用しているため,低速で走行することが困難となっていることが 考えられた.一方,継続した低速での走行を可能としていた熟練者は,一本橋走行中に,① 頭部の ロール動作を尐なくしている.② 大きなハンドル転舵角領域を活用し走行する.③ ハンドルの上 下方向の荷重を活用し走行する.という3つの特徴的な操作および動作をおこなっていることが確認 できた.
以上より,熟練者は速度を落としながら頭部のロールを抑制するために,身体の前方にあるハンド ル部分に荷重をかけることで支持をおこなっていることが明確になった.このことから従来,自動車 教習所等で提唱されている膝で車体を挟み込むニーグリップ動作のみの2点支持では,一本橋走行に 必要となる頭部ロールの抑制をおこなうことは困難であり,ハンドル部分も活用した4点支持が有効 であるという,新たな知見を得ることが出来た.
第Ⅵ章 結論
本研究の内容を結論として成果のまとめをおこない,今後の展開について示した.
一本橋走行のパフォーマンスの違いを挙動として測定可能とする方法を確立させるとともに,低速 かつ安定した一本橋走行をおこなうためにライダーがおこなっている,ハンドルの上下方向の荷重を 活用した頭部ロールを抑制させる挙動を見出した.以上から,一本橋走行指導の向上につながる新た な方向性を示すことができた.
本研究の成果によって,今後一本橋走行指導の内容が充実し,ライダーと車体のバランス状態を把 握しながら安定した低速走行ができるような,ライダーが増加していくことが期待される.