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論文審査の結果の要旨
氏名: 湯田 恵美
博士の専攻分野の名称:博士(総合社会文化)
論文題名:勤務中の行動管理システムが及ぼす生理的・心理的影響 審査委員:(主 査) 教授 泉 龍太郎
(副 査) 教授 田中 堅一郎 医学部教授 内山 真 論文審査要旨
1.本論文の構成
本論文の構成は、以下の通りである。
第1章 序論
1.1 本研究の背景と目的
1.2 生体信号処理と生体情報の活用
1.3 先行研究 1.4 本研究の構成
第2章 位置情報モニタリングがヒトに及ぼす影響
2.1 心拍変動指標を用いた生体評価:自律神経と心拍変動
2.2 位置情報のモニタリング
2.3 モニタリングによるヒトの心理的評価
2.4 モニタリングによるヒトの生理的評価
2.5 身体加速度と心拍変動 2.6 新しい解析手法の提案 2.7 まとめ
第3章 相互モニタリングと行動変容 3.1 IoT社会と情報共有
3.2 脈拍変動解析
3.3 相互モニタリングが活動度に及ぼす影響
3.4 まとめ
第4章 結論および今後の展開 結論
今後の展開 謝辞
研究業績 発表論文 特許
引用文献 2.本論文の概要
本論文の構成として、まず第1 章では序論として、本研究の背景と目的が述べられた。近年、生体信号 や位置情報を計測する機器・システムの技術の進展は著しいものがあるが、それらの現状を踏まえ、勤務 中のモニタリングに関し、労働衛生の観点も取り入れて、その功罪について論じた上で、本研究における 新たな視点と論文の構成を述べている。
第2章では、2つの実験より、勤務中の行動管理システムの影響について、検証された。第1の実験は、
実験協力者に対してGPSによる位置情報の取得と、STAIを用いた心理検査を実施し、第2の実験では位
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置情報と、3軸加速度、及び心電図データの計測を行い、生理的評価を試みた。本実験の結果では心理検査 の一項目を除いては有意差が見られず、行動管理システムは大きな影響は与えていないことが示唆された。
第3章では、身体活動の相互モニタリングが、運動活動の自己変容に及ぼすか否かの検証を目的として、
実験協力者に対し、身体活動度を計測するウェアラブルセンサーを装着し、相互モニタリングを行った。
本実験では予想に反し、身体活動レベルに有意な影響を及ぼさず、むしろ身体活動の減少が観察された。
第 4 章では、本研究の結論として、今回の研究成果を踏まえ、位置情報やウェアラブルデバイスによる 健康管理・勤務管理の将来像に関し、展望が述べられた。
3.本論文の成果と問題点
位置情報やウェアラブルセンサーに関しては、技術開発や様々な面での利活用が行われているところで あるが、その状況下で、本研究の意義と成果は、以下のように要約される。
(1)位置情報や生体信号による個人情報の取得と管理は、度々問題として取り上げられるが、特に労働 衛生の観点から、「管理される従業員の側」からの視点で、そのストレスの程度を科学的に検証した研 究はあまり見られない。実際には産業衛生の分野では重要な課題であることから、この点に注目して、
実験を行った点は評価できる。
(2)生活習慣病、またはその予備群に対して、生活習慣の改善を促すことは、医学的な観点からも、重 要な課題であるが、実際の行動変容に結び付けるのは、非常に難しい問題である。このような課題に対 し、身体活動の相互モニタリングに注目し、行動変容を試みた点は評価できる。
(3)今回の実験で用いた生体信号やデータは、身体加速度、心電図、脈波等、一般的なものが主体であ り、必ずしも特殊なデータ計測を行っている訳ではない。その中で、例えば心拍変動に関し、身体加速 度と合わせて逐次解析を行うことで、身体の状況について、新たな解釈を試みたことは評価できる。
一方で、本論文にはいくつかの問題点が認められる。
最も大きな問題として、今回の一連の実験で得られた結果が、ほぼネガティブ・データだったことが挙 げられる。もちろん、明確に定められた実験計画に基づくデータがネガティブであれば、それはそれで価 値があり、一つの科学的成果として認められるべきである。本論文では、各実験系における例数や実験期 間を含めた、実験デザインの問題もあるが、例えば実験(1)では、元々身体活動度の大きい介護職員を 対象としており、位置情報の精度や、また心理検査では主として不安尺度の指標として用いられている STAIを使用する等、実験細部の妥当性について、若干の疑問が残る。
もう一つは、「ストレス」の定義に関することで、本論文では2.1項でストレスを「交感神経と副交感神 経の緊張の程度」としており、その度合いから「ストレス指標を計算されうる」としている。本論文の中 では度々「ストレス」の言葉が用いられ、上記の心拍変動と身体加速度に基づくデータ解析手法から、新 たなストレスの指標となりうることを主張している。しかしながら、従来の心理・生理学的な観点の「ス トレス」に関し、そのストレスの程度を担う身体的な実態と、計測データとの関連性、及びそのストレス が身体面に及ぼす影響については、従来の学説の域を出ておらず、もう一歩踏み込んだ考察が望まれる。
これらの問題点の根底にあるのは、本研究者の背景は、元々工学系ということが挙げられる。人体生理 学に関する実験計画やデータの解釈に関しては、若干の詰めの甘さが見られるが、その一方で、生体信号 等のデータ取得やその解析法については、今後に期待されるところが認められる。研究者自身、その点を 踏まえた上で、今後の研究活動に取り組むことが望まれる。
さて、既述のように、本論文にはいくつかの問題点や不十分な点が残されてはいるものの、それらは本 論文の学術的成果の価値を損なうものではない。本論文での論文提出者の試みは十分に達成されているも のと思われる。
以上のことから、ここに審査員一同は、本論文が当該分野の研究に寄与するに十分な成果を挙げたもの と判断する。よって本論文は,博士(総合社会文化)の学位を授与されるに値するものと認められる。
以 上 平 成 31年 1月 24日