論文審査の結果の要旨
氏名:林 晃 成
博士の専攻分野の名称:博士(歯学)
論文題名:咬合挙上と水平的な咬合位の変化が舌骨上筋群の筋活動に及ぼす影響 審査委員:(主査) 教授 飯 沼 利 光
(副査) 教授 植 田 耕一郎 教授 川 戸 貴 行 教授 本 田 和 也
ヒトの摂食・嚥下は,先行期,準備期,口腔期,咽頭期,食道期の5つに分けられ,摂食機能訓練 では障害のある時期に応じた対応が行われている。その中で誤嚥性肺炎の原因となる誤嚥が生じるの は咽頭期であり,その原因の1つが嚥下時の喉頭挙上不全である。そのため喉頭挙上不全に対しては,
舌骨上筋群の筋力強化を目的とする頭部挙上訓練が実施されるが,低栄養や長期間の禁食による嚥下 関連筋の廃用により,筋力が低下した患者や意志疎通が困難な患者では,実施が困難となる。一方,
他に咽頭期障害に対して行われる訓練としては,嚥下反射の誘発を目的とする冷圧刺激法がある。こ れは凍らせた綿棒などで口蓋弓や口腔咽頭境界付近を刺激し,嚥下反射を誘発させる訓練法であるが,
舌骨上筋群への負荷による筋力強化の効果は低い。
これまで,舌骨上筋群への負荷による筋力強化を検討する目的で,嚥下時の舌骨上筋群筋放電活動 を分析し,頸部伸展40度の姿勢での嚥下時の舌骨上筋群の筋電図積分値と嚥下持続時間が有意に増加 したとの報告がある。また,咬合挙上により,嚥下時の舌骨上筋群の筋電図積分値が有意に増加した との報告もある。しかし,嚥下時の舌骨上筋群筋活動に影響を及ぼす条件として,咬合位の影響を検 討した報告はほとんどない。そこで本研究は,咬合挙上に加え咬合位を水平的に変化させた場合の舌 骨上筋群の筋活動様相を表面筋電図にて検討した。
著者は,健常成人10名を対象とし,被験者には歯科用ユニット上で90度座位姿勢を取らせ,咬頭嵌 合位,切端咬合位および最前方位の3つの咬合位にてそれぞれ十分な間隔をあけ,3回ずつ空嚥下を行 わせた。なおこの際,各咬合位への誘導は事前に十分訓練を行わせた。さらに,厚さ1 mmのスプリン トシートを用い製作したシーネを上下顎に装着し,同様に3回ずつ空嚥下を行わせ,舌骨上筋群の筋放 電活動を測定した。その後,嚥下開始から終了までの筋電図波形の積分値,嚥下運動の持続時間およ び最大振幅を分析し,得られた筋電図をもとに咬頭嵌合位,切端咬合位および最前方位の各咬合位に おけるスプリントの非装着時と装着時の計6条件で比較し,嚥下時の舌骨上筋群に及ぼす影響について 検討を行い,以下の結論を得た。
1. 咬頭嵌合位,切端咬合位および最前方位におけるスプリント非装着時と装着時の比較では,積分 値,持続時間および最大振幅いずれも有意差は認められなかったが,スプリント装着時の最前方 位では,積分値が最も大きな値を示した。
2. 咬合挙上の有無にかかわらず,咬頭嵌合位から切端咬合位,最前方位と下顎が前方に移動するに 伴い,舌骨上筋群の積分値と持続時間は増加する傾向が認められ,最前方位では咬頭嵌合位に比 べて,積分値と持続時間が有意に増加した。
以上のように,本研究は,咬合挙上に加えて下顎の前方移動が,舌骨上筋群の筋活動に影響を及ぼ すことを明らかとし,筋力強化を目的とする嚥下時の舌骨上筋群への負荷に関し新たなる知見を加え たものであり,摂食機能療法学ならびに関連する歯科臨床の分野に寄与するところが大きいものと考 えられる。
よって本論文は,博士(歯学)の学位を授与されるに値するものと認められる。
以 上 平成30年3月7日