ハロッドの,経済成長と外国貿易との関連につい℃の学説を検 (1)
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(2) OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ ‑176‑. 巻 第 2号 第5 4. 518. ていると考えられる。(1)伝統的経済学における国際収支の自動的均衡論への批判, (2) 経済成長と輸入, (3)経済成長 ζ輸出, (4)経済成長と経常収支,である。以下,この順 序に従って検討するととにする。 ハロッドは,まず伝統的経済学における国際収支の自動的均衡論の二つの問題点につい. e y n e s i a nc d t i c i s m "と呼んでい て論ずる。そのーつは,ハロァドが「クインズの批判」 K るものであれもう一つは,需要の価格弾力性に関するものである。 初期の伝統的な経済学によれば,対外収支は自動的に均衡すると考えられた。ま ず,金 l. e t a l l i cs t a n d a r dが作用しており,また紙幣が妥換可能である場合には,金ま 属本位制 m たは銀が流出入して,国際的支払いのプラス・マイナスの差が埋め合わされるのである。 ζ のととは,園内における貨幣供給量を変化させるが,対外収支が赤字で金や銀が流出す. る場合には,国内の物価を抑え,輸出を刺戟し℃輸入を妨げる。とのようにしむ対外的 なギャップがなくなる。次に紙幣が妥換不可能な場合に対外的不均衡があると,外国為替. h eo f f i c i a lp a r i t yから布離する。対外収支が赤字の場合には為替 νー レートは公的平価 t トが下り,国内生産物を外国生産物に対して相対的に安くする。とのことは,輸出を刺戟 し輸入を抑えて対外収支を均衡させる。 しかし,時が経過するうちに,妥換可能性の維持のためには,当局による干渉が必要と 考えられるようになった。銀行組織が発展し,銀行預金が増大すると,各国の総貨幣供給 涯に占める黄金属の割合が累進的に小さくなる。このようにして,金属の流出による総貨 幣供給の減少は不均衡を救うのには不十分となれ金や銀の準備が減少しても不均衡は続 くととになるかもしれない。 そと。で,当局は,いろいろな形の銀行貨幣を減少させて,調整過程のスピードを増す行 動をとることが義務であると感ずるよようになった。 しかし,との制度の作用に関して,ハロッドはこつの非常に重要な疑問を提出した。そ の一つが前記の「クインズの批判」である。対外的な赤字がある場合に,当局は銀行貨幣 の供給の減少によっ!て,調整過程のスピードを早め,対外均衡と両立する水準に,物価を 引下げると考えられる。しかし,その ζ とは,物価引下げとは別のことをも引起し,その 別の効果の方が重要であるとケイシズは考えた。すなわち,貨幣供給の減少は,産業によ る借入れを困難とし,. ζ のととは産業の注文〈投資)と新しい(生産〉活動を減じ,雇用. を減少させる傾向がある。金づまり政策は,物価を引下げるよりも,藤用を引下げること により大きな効果を持つと考えたのである。さらに,対外収支を改善する効果は,国内物.
(3) OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ 5 1 9. 経済成長と外国貿易一一ハロッド理論の検討一一. ‑177‑. 価の下落によるよりも,不況のための実質所得の減少,それゆえ市民の外国財に対する購 買力の減少によっての方が,より強く作用するのである。それゆえ,銀行貨幣の調節によ って補強された,金本位制度の体系よりも,為替レートの変化により調整を確保する制度 の方が,望ましいというのである。ハロッドはもちろんこの「ケイシズの批判」の考え方 (3). に;立っている。. 対外収支の古典派理論に関するハロッドの第二の疑問は,需要の価格弾力性に関するも のである。彼は次のように言う。「伝統的理論によれば,外国価格に対する国内価格の下 落は,対外収支を改善する。今日よく知られているように,. ζ の命題には,国内財に対す. る外国需要の価格弾力性と,外国財に対する国内需要の価格弾力性の和が 1より大きい ζ (4). とが暗黙に前挺されている。」 ハロァドは,. ζ れは,いはゆるマー. νャノレ=ラーナーの条件である。. これが充たされる先験的理由はないとし, 次のような見解を述べている。. 「緊明な経済学者たちによって採用されてきた見解は,その和は短期にはイ援すきrるかもし れないが,長期には 1 を十分超えるであろうといラものだが,問題は長期に~.る前に種々 (5). のめんどうな出来事が起ってしまうかもしれないということである。 J そして f 1 9世紀に おける千ギリス貿易について,イギリスが自由貿易を保持したのは,価格弾力性が,十分 大きいからではなく,イギリスが国際資本市場でより影響力ある立場にあったからであろ (7). (6). う」とし℃いる。とのようにしてハロッドは,以下でも触れるように,具体的な輸出や輸 入の問題を論ずる際,各品目毎に,その需要の価格5lli力性と所得開力性の問題を詳細に論 じているのである。. I I 経済成長と輸入. h e 以上はマクロ静学の範囲内の事柄であるが,以下では,ハロッドの外国貿易収支 t f o r e i g nt r a d eb a l a n c eに関する勤学理論に進む。彼はまず,経済成長との関連において (3) なお,ハロッドは『国際経済学』において,古典派の貿易差額理論について,次の ように批判している。「その主な欠陥は体系的に雇用水準を取り扱わない点にある。 J R .F . . Hanod,l n t e r n a t i o n a lE c o n o m i c s,1 9 5 9,p .1 3 8 .(藤井茂訳, r 国際経済学 〈会訂新版 ,実業之日本社, 2 4 8ページ〉 (4) H a r r o d,E c o n o m i cDynamics,p1 2 4 . (宮崎義一訳, r 経済動学J ,丸善株式会社, 192‑3ぺ ージ) (5) 0ρ.c i t .,p . .1 2 4(邦訳, 1 9 3ぺージ) (6) 0ρ.c i t .,p . .1 2 4(邦訳, 1 9 4ページ) (7) 古典派の理論すなわち伝統的理論の批判については,次のところも参照されたい。 Hanod,l n t e r n a t i o 向。1E c o n o m i c sp p . .1 1 1 ‑ 7 . (邦訳, 205‑215ぺージ〉. > J. l.
(4) OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ 520. 第5 4 巻 第 2号. ‑178ー. 輸入について論じ,つづいて輸出の問題に移り,最後にそれらを総合して,経済成長と経 常収支(とくに貿易収支)との関係の問題について論じている。 輸入につい℃は,食滋の輸入,原材料の輸入,完成工業品の輸入,および半製品の輸入 に分け t論じている。そしてまた,それぞれの種類の輸入の問題を,需要の所得隠力性と 需要の価格開力性の見地から論じており,さらにはイギリスの実例につい℃も説明してい るのである。 まず,食糧の輸入の問題が取り扱われる。ハロッドは,輸入の動学的考察について,次 のよラな二つの観点を示す。「輸入 v ; ) : .,所得の成長や相対価格の趨勢との関連で考えられね ばならない。所得の成長は,人口増加による部分と平均生産性増大による部分とに分けら れるコ輸入品が正常財であれば,輸入品の議は所得の増大関数であり,相対価格の減少関 数となろう。そして,所得の成長については,現実成長率が自然成長率に等しい場合を考 えると,人口成長と人口 1人あたり生産性の増大による部分とに分けて考えることが出来 るのである。これは,ハロッドがよく経済成長の分析に用いる方法であり,人口成長率と 人口 1人あたり生産性の上昇孫の和が,全体の所得の成長率となる。 そこでまず.生産 性が不変であるとした場合,人口増加と食糧輸入の増加との関係を考 4. え℃みる。通常,食糠輸入にかなり依存し tいる国においては,人口増加に基づく所得増 加の部分は 1より大きい!ltii力性を持つ。言いかえれば,食糧ー輸入(需要〉の所得弾力性は 1より大きいとするのである。食糧に対する需要還は人口に比例して増加するが,圏内の 供給量が比例以下にしか増加しないとすれば,限界における食糧需要の増大において,全 体とし℃の食糧需要の増加率よりも,食粧輸入の増加率の方が大きいという. ζ. とである。. 次に食糧の国内生産性の成長があり,しかもそれが人口成長率よりも大きい場合が考え られる。しかしとれは,食糧生産性の上昇であり,生産物全体の生産性上昇ではない点に 注意すべきである。そこで,所得と食糧需要盤は,ー応人口に比例して増大するが m 人口 成長を越える園内食組生産性の上昇のため,園内食糧供給髭の成長率が,需要量の成長率 (9). より大きいのである。. r そのような場合には,人口成長に伴う食糧輸入の増加率は下落す ( 1 0 ). るかもしれないし,実際,人口増加率よりも小さくなるかもしれない。」. このハロッドの. 考え方を一般化すれば次のようになる。(一般的な生産物の人口 1人あたり生産性の上昇. (8) Harrod,Economic Dynamic s .ppρ124‑5. (邦訳, 194ページ〉 (9) 原訳には食料品とあったのを,食糧に改めた。ただし原文では f o o d である。 ( 1 0 ) Harrod,Economic Dy 向。 m ics,p.125" (邦訳, 1 9 4ページ).
(5) OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ 5 2 1. ‑179ー. 経済成長と外国貿易一一ハロッド理論の検討一一. がない場合)園内における食糧生産性の上昇が人口の成長率惚等しい時には,食糧輸入の 成長率は,それらの成長率に等 Lい。閣内食糧生産性の成長率より大きければ,食糧輸入 の成長率は人口成長率より小さく,逆の場合には,逆となる。 次にハロ y ドは,国民所得の成長における,生産物全体の総合的な生産性上昇という要 因の,食糧需要最増大に対する効果を考察する。そしてそれは,貧しい国と豊かな国では 幸子しく異なるとして,両者を区別して論ずる。ハロ y ドは貧しい国については次のように 言う。. r 非常に貧しい国々の場合?とおいて,食糧に対する需要の 1人当り所得蝉力性は 1 ( 1 1 ). を越えさえするであろう。 J 通常は,食糧は生活必需品であるので,個人についての需要 の所得持力性は 1より小さいが,非常に貧しい国では,治加した所得のすべてが食糧に当 てられ,さらに所得隠力性が 1を越えるととさえあると言うのである。豊かな国の場合に は,当然ながら,食糧に対する需要の所得弾力性は,. 1以下である傾向にある。. とこでハロッドは,食粉輸入の 1人当り所得弾力性の決定要閣について,次のように述 べる。. r 食糧輸入に対する需要の所得勝力性における生産性要因は,(a)一般的な生産性. 成長に対する,農業における生産性成長の比率, (b)国内生産によって現在供給される食 ( 1 2 ). 糧消費の比率,に依存する。 J(a) において,一般的な生産性成長は. 1人当り所得の成. 長であり,食糧需要最の成長率は,それの増大関数であると考えられる。農業における生 産性成長はもちろん,食糧供給量の成長率を表わしている。 (b) の比率は,食糧需要の うち,国内生産によって賄われる率であり,食糧の国内自給率である。このようにして, このところの結論は次のとおりである。. r これらの比本が低いほど,食糧輸入に対する需 ( 1 3 ). 婆の〈生産性に依存するものとしての)所得!弾力性ばより高いであろう。」 次にハロッドは,食糧輸入の価格弾力性の問題を考察する。標準的な型の食糧は完全競 争の条件のもとで売られ,世界的な価格を持っているが,それらは,いろいろな国で同じ 価格を持つのではない。ところで前述のように,国際収支均衡の伝統的な見解によれば, 赤字の場合に,銀行貨幣の適当な収縮によって強められた金の流出は,外国価格に対して: 相対的に圏内価格を押し下げる。しかしハロッドは,世界価格を持つ財の場合には,地方 的なぐすなわち一国の)貨幣供給の収縮は,それらの園内価格に対し,何らの効果を持た ないだろうと言う。また,為替レートの変更による対外収支の調整は,そのままでは輸入 ( 1 1 ) o p .c i t . ,p.125. . ( 1 2 ) o p .c i t ., p 1 2 6, ( 1 3 ) 0ρ c i t ., p,1 2 6, リ.
(6) OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ 一180‑. 4 巻 第 2号 第5. 5 2 2. 価格と国内価格を同じ比率で上昇させる。 そこでハロ y ドは,食糧輸入の価格弾力性について,次のように結論する。. r このよう. にして,国内金融および財政政策における変更も,外国為替 ν ‑ }における変更も,需要 の価格弾力性を通しては,食糧輸入に対して何らの効果をも持たないだろラ。前者はもち ろん,所得弾力性を通し℃若干の効果をもつであろう。食糧輸入における重要な変更を得 ( 1 4 ). るための主要な手段は,直接の規制である。 J ハロッドが,食総輸入についてこのように詳しく論じているのは,現代のイギリコえにと ってとの問題が非常に重要であるからと恩われる。食糧輸入が重要であることは今後の日 本についても同様であるう。 次にハロァドは,経済成長と原材料の輸入との関係につい1:,まず,原材料輸入の成長 を支配する諸原理は食糧輸入の場合とあまり迷わないと言う。そし'(,原材料の需要函 と供給面とから,次のこつの原理を述べている。. r'・・(1)まず,原材料需要の増加率. ( 1 5 ). は総所得のそれより低いであろう。 j すなわち,原材料需要の所得勝力性は 1より小さい というこ とである。 I. r 他方において, (2)食糧の場合のように,規模に│却しての収獲逓減 ( 1 6 ). が存在するであろうが,国内生産の増大に対しては,より大きな拘束を加えるのである。」 (1)が需要函についてであったのに対し,この (2)は,供給面についてのことである。原 材料の圏内生産においては,食糧の場合より強く,収獲逓減が作用する。そこで,輸入へ の依存度が大をければ,原材料輸入需要の所得弾力投は上昇するだろうとする。 さらにハロッドは,イギリスの原材料輸入の動向について述べ,発展途上国が次第に原 材料を加工してから輸出するようになる傾向があるので,それだけは原材料そのものの輸 入数滋が少くなる点,注意すべさであるとしている。 また,原材料の需要の価格弾力性は低そうであるとしている。というのは,財の生産の ために必要とされる原材料の費用は,通常,貸用全体の中で僅かな割合しか占めないから である。 ハロッドは,次のようにまとめる。. r 要約すれば,輸入基礎材料穏要の所得弾力性は,. ふつラ 1より小さい。ただし国内経済の材料生産が限定されていて,かっその国内生産の 増加とともに著しく収獲逓減する場合には,その弾力性は若干増大するであるラ。価格弾. ( 1 4 ) 0T .c i t .,p.127 ( 1 5 ) 0ρ.c i t .,q,1 2 7 . (邦訳, 1 9 8ページ) ( 1 6 ) o t .c i t ., p . .1 2 7 . ゎ 守.
(7) OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ 5 2 3. 経済成長と外国貿易←ーハロッド理論の検討一一. ‑‑181ー. 力性はおそらく低いであろう。したがって為替レートの変更はこの種の材料輸入にこくわ ずかの効果しか発揮しないであろう。デフレ‑i/ョン的金融財政政策に関しては, もし,. (lithi‑‑li. 総需要が一国経済の潜在的供給力を超えたときにそれらの政策が行われるならば, この種 の材料輸入には何ら影響しないだろう。しかし,総需要が潜在的供給力以下に低下した後 もデフレ‑i/ョシ的金融財政政策を続けられるか,あるいはもしその政策がその時何らか の理由で導入されるならば, この種の材料輸入にかなりの効果が認められよラ。この種の ( 1 7 ). 材料輸入量は,主として一国経済の会活動澄の関数である。 J 原材料の輸入は,資源の乏 しいイギリスにとって重要な問題であり,ハロッドも重視している。 ハロッドは,第三番闘に,経済成長と「完成工業品 J .' f i n i s h e dm a n u f a c t u I e s 'の輸入 との関係について℃取り扱い, とくに完成工業品の輸入の所得弾力性と価務弾力性につい て論ずる。 まず所得隠力性については,人々が:豊かになるにつれて,所得のより大きな割合を仕上 げの細かな品物に紫し,. より選りこのみをするようになるとする。人々は自を世界に l 匂. け,所得の増大につれて, その増分のより大きな割合を外国製品に貸す。そこで,完成工 業品の輸入の所得弾力性は, 1よりも大きいのである。これに関速して,近年イギリスに おいし外国産であるが故Vc:,外国産の財貨を特別に選好する傾向があるが, これは一時 的の流行で,上に述べたこととは,少し違う事柄であるとしている。 また,完成工業品の輸入の価格弾力性は高そうであれ完成資本財の場合にも,高い価 格勝力性が期待されるだろうと言う。しかし,最近(当時〉のイギリスの経験では,完成 工業品の輸入については,価格弾力性よりも, {‑也の考慮すべき事柄の方が重要であると し,統計数字でそのことを示している。これは,外国産であるが故に,外国産の財貨を選 好するという前記の傾向を指しているものと恩われる。. e m i ‑ 第四に,ハロ y ドは,経済成長と半製品の輸入の関係、の問題を考察する。半製品 s f i n i s h e d s,すなわちさらに加工するための工業製品は,基礎的原材料と完成工業品との中 聞にある。この半製品も,基機的原材料に近いものから完成工業品に近いものまで,完成 度に迷いがあるが,ハロ y ドは,とれらの両極端の場合を取り上げて論じている。 まず,基礎原材料にもっとも近い場合については, これの需要の成長と実質国民所得の 成長との閲には,時のおくれを伴う強い相関があるが, 1よりも小さい需要の所得弾力性 が期待されるだろうと言う。また,そられの需要の郎力性は,基礎原材料ほど低くはない ( 1 7 ) ot, c i t ",pp.129‑30,(邦訳, 2 0 1ページ).
(8) OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ ‑182. 第5 4 巻 第 2号. 524. がやや低いと期待されるとも言う。 ところでハロッドは低開発国が以前には基礎原材料として輸出していたものを,初歩的 加工をして半製品として輸出する傾向を強めたことの効果についてふれている。この転換 は , イギリスへの基礎的原材料の輸入の増加!が非常に大きく増加lしたことを,音防7 的に説 明すものとしている。この転換は,おそらく凡ての先進国に不利な影響を与える。しかし ハロッドは,世界的な見地からは,次の二つの理由によって良い効果を持つと考える。. r (i)低開発国では所得の限界効用がより高いので,先進国から彼らへの所得の移転 が,彼らの原材料加工によってなされるならば,それは人類の福祉にとって結局は有益で. i i )かなり初歩的な水準の原材料加工は,低開発諸国におけるより高度 あることになる。 ( ( 1 8 ). な工業過程の発展に向かつての,欠〈、べからぎる一歩となるかもしれない。」. ここには,. ハロッドの全世界的な視野と発展途上国に対する暖い気持ちが現われている。 ととろで,半製品についてのスペクトルの他方の端には,完成工業品に非常に近いもの がある。ハロッドは,これらの財の場合には,需要の価格弾力性は 1を越えると期待され ると言う。そしてこのことを, イギリスの実際の数字を用いても説明している。この理由 とし ては,低開発国から輸出される若干の基礎的原材料が,半製品の範礁に 変ることは, l. I. ただ健かな説明にしかならない。重要なのは,外国製品であるが故に外国製品を選好する ということが,完i 成工業品に近い半製品についても作用するということなのである。との よろにして,当然のことながら,半製品のちち基礎的原材料に近いものは弾力性の倣もそ れに近く,完成工業品に近いものは郭力性の備もそれに近いということである。. I I I 経済成長と輸出 1 6 7 3 )の第 7主主「諸問題 輸出については,まず,輸出増大と,ハロッドが w経済動学 j( と諸矛盾」で述べた,経済成長の状態についての七つのケース(これらは貯蓄過剰国の場 合と貯訴不足国の場合「とに大別される〉との関係、について論じている。次に,経済成長と 食糧,原材料および完成工業品の輸出との関係について,それぞれ詳しく論じている。 ハロッドは,まず経済成長の七つのケースと輸出との関係について論じている。ところ で,彼は最初のところで,輸出の決定要因について次のよラに述べている。. r 外部世界は. 活況にあるか,それとも不況にあるか。この点が自国の輸出成長率(減少率〉を決定する ( 1 8 ) o T .c i t . .,p . .1 3 2 . (邦訳, 204‑5ページ).
(9) OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ ‑183‑. 経済成長と外国貿易一一ハロッド理論の検討ー一一. 525. 最も重要な要因である。」. 自国輸出は外国の輸入であり,外国の輸入はその闘の景ー気に支. 配されるからである。そして,輸出の上でより大きな関係を持つ悶々の景気の状態がとく に重要となる。. r. またインプレー νョンとの関係では, 圏内が完全雇用である時に,輸出成長率が増加ず ( 2 0 ). れば,対応策が取られない限りディマンドプノレ・インフレー νョンが起る」としている。 もちろん,輸出はその国の生産物に対する外国からの需要を意味するから,他の事情が等 しい限り,完全雇用時にこの成長率が増大すれば, インフレ圧力をもたらす。 自然成長率 Gn との関係では,次のように言う。. fしかしもし,高い輸出需要のある財. が経済全体の平均以よの技術進歩を実現 Lつつある財であるならば,自然成長率は高まる ( 2 1 ). であろう。これと逆の場合もあろう。 j 平均以上に技術進歩を実現している財の生産のク ( 2 2 ). z イトが高まればリ「人口の増加と技術進歩が許す発展の本 j である自然成長率は増大し,. 逆の場合には減少するというのである。さらに,保証成長率 Gu との関係では,問題とな こよって生産される場合に る(輸出)財が,平均以上の(または以下の)資本集約的方法 E のみ,影響を受けるとしている。「もしそれらがより資本集約的方法で生産されるならば, ( 2 3 ). 保証成長率は減少する。逆の場合も同様であろう。」 集約的であるということは, より大きい. ζ. 輸出される財の生産方法がより資本. その財についての必要資本産出比率(必要資本係数) Cr が. とを意味する。輸出財の必要資本産出比率が大きいだけ,全体の生産物の必. 要資本d !出比率 G は大きい。そこで ,Gu;=Sd/C,で表わされる保証成長率 Gwは,希望さ れる貯慈率 S dが同じである限れより小さい。 ところで,ハロァドの『経済動学J第 7主主「諸問題と諸矛盾」で取り扱った経済成長の ( 2 4 ). ‑1::;‑つのケースのちち,. 1~-. 3のケースは貯著過剥l 国の場合であった。ここでは,保証成長 〈部). 主 幹 Gu; が自然成長率 Gnを越えているのである。そして. ( 19 ) ( 2 0 ) ( 21 ) ( 2 2 ) ( 2 3 ) ( 2 4 ). Gを現実成長率とすると, 1の. ρ.c i t "p .,1 3 3 . (邦訳, 2 0 6ページ). 0. 0ρ .c i t . ,p .1 3 3 . (邦訳,. 2 0 6ページ) o t .c i t .,p .1 3 3 . (邦訳, 206'~ ージ〉 R. F . Harrod,Towardsa Dy 仰 m icEconomics,1 9 4 8,p.87, Hanod,Economic Dynamic , s . p .1 3 3 .(邦訳, 2 0 7ページ〉. その概要については,次のところを参照されたい。篠崎敏雄,ハロッド『経済動学』 の体系に関する一考察,研究年報18,香川大学経済学部, 1 9 7 8,100‑103ページ。 ( 2 5 ) G凹 > G π の場合には sa> s . oとなる。ただし ,S ( l は希望される貯蓄率 t h ed e s i r e d s a v i n gr a t i oである。.soは最適貯蓄率であり ,Gn=So/C γ で定義される。保証成長率 Gw=sa/Cr と比絞すると , G間 三 塁G η に応じて s a這50 であることが分る。 ここで貯 蓄過剰というのは均衡貯蓄率 S dが社会にとって最適な貯蓄率九より大きいという ことである。これは 貯蓄過剰の傾向をもたらす。 I.
(10) OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ ‑184ー. 5 2 6. 第 54 巻 第 2号. クースでは GくGn<G 叩であれ 3のケースでは Gn<G くG叩である。これらこつの場合 においては G η < Gwであるだけでなく,同時に Gく Gwである。これらは,長期的にも短 期的にも不況の条件にあるので,輸出が急増し,いわゆる輸出に導かれたブームが生ずれ ば,景気回復政策の必要性を減少するか除去してしまち。 ととるが,ケース 2においては事情が奥る。そこでは,まず不完全雇用状態があれま た Gnく Gwぐ Gである。それゆえ, 拡張主義的政策は, 完全雇用に対する効果とし℃は. o o dJで あ れ ま た Gn<Gwであるので長期的均衡に対する効果としても Gwを 「良好 g 引下げるため「良好」である。しかし は Gをさらに高め,. G叩く: Gというととから言えば,拡張主義的政策. インフレ圧力に対する効果としては「不良 b a dJなのであり,政策. 効果の聞に矛盾がある。輸出の急増も,拡張主義的政策と同じ効果があるので,その諸効 果の聞に矛盾がある。 すなわち,完全雇用を促進するが同時に Gを高め,. すでに進行し. ているディマシドプル・インフレー νヲシを激しくする。ハロッドにおいては,グィマシ ドプノレ・インプレー νョンは, Gw<Gということによって生ずるからである。 ところで,経済が完全雇用の天井に逮するか,または近づいた時,現実成長率G は,自 然成長率 Gn のところまで下って来ざるを得ない。 ところが, 2のクースにおいては C偽. <G 叩であるので,必然的に GくG叩となる。この結果,周知の不安定性原理から Gが下降 し,景気後退が続いて起るのである。この 2のケースの場合,輸出の成長率の増大(まちこ は輸出の水準の増大〉は,完全雇用への到達を早め,したがって危機への到達を早めるだ けであり,これを避けることにはならないだろう。そして,景気後退を避けるための適当 な減税の必要性が避けられない。 しかしハロッドは,輸出の増加との関連で. 2のケースにおいても危機をひき起す条件. を緩和する可能性があることについて,次のように述べている。. r もし輸出増加が,一国. 経済の平均を超える資本集約度をもっ部門に向けられるならば,保証成長率は減少しょ ( 2 6 ). ラ 。 」. 現実の輸出は,なかなかこのようにうまく行かないが,もしこの通りになったとす. れば, Gω>Gη の状態であっても, G叩=Gη に│句い,景気後退を阻止するために必要な減 税の額もそれぞだけ少くなるのである。そしてもし,. ちょうど. ( G = )G叩=Gη となれ. ば,経済は長期均衡となり,長期にわたりディマシドプノレ・イジプレー νョシも失業もな. ( 2 6 ) H a r [ ' o d,EconomicDynamics,p .1 3 4 . (邦訳, 208ページ〉この場合,資本集約 度は必要資本産出比率 Cr に現われておれ これが大きくなれば Gw は小さくなる。 ι= , sd/Cr のためである。 それは , G,.
(11) OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ 5 2 7. ‑185ー. 経済成長と外国貿易一一ハロ y ド理論の検討一一. いままで,進行することができる。 次~,. ( 2 7 ). G <G n であるような,貯蓄不足型の経済における,輸出増大の効果につい℃次 叩. のように言う。「もし輸出機会増加が自然成長率を高めるならば,それは福祇増大の潜在カ. r. を高めることを意味する以上 , 絶対的」意味で良いことであると言わねばならない。しか し,保証成長率が自然成長E容を下回るならば,後者の増加は両成長率の~離をさらに拡げ, ( 2 8 ). かくして雨成長率の需離から生ずる諸問題をより深刻にするのである。」この場合は G叩く. Gnであるので,長期間にわたりインフレ ‑i.ノョシの起り易い状態となる。 加 くG 次に,貯蓄不足国 (G n)にとって問題となる,もう一つの場合がある。それは,低. 開発閣が比較優位にある特殊な生産物の需要成長に直面し,またそれらの生産増大が,金 生産につい之の平均以上に投資を必要とする場合である。その時には,貯蓄の必要額を高 めるので,自然成長率によって必要とされる最適貯蓄と,希望される貯蓄とのギャップを 大きくする。このことを,ハロ y ドの基本方程式で考えてみよう。. so=Gn • Cr この方程式では,既知数は自然成長率 Gn と,必要資本産出比率 C,であり,末知数は最 適貯蓄率 So である。前記のように,比較優位の生産物需要が相対的に成長すれば,. それ. は平均的な労動の生室性を高めて Gn を大きくし,その生産物の増大が平均以上に投資を 必要とすれば, C,を高め,その結果最適貯蓄率5'0を高める。一般に貯蓄不足国である低 開発菌においては,. G叩 くGn であり, このことは, 希望される貯蓄率 Sdに対し Sdく .$0 で. あることを意味する。それゆえ,. $0. の上昇は,このギャ yプを拡大することになる。そ. こで,貯著書不足を補うため,黒字予算による一層大きな貯蓄の補助が必要となる。そうす ると国内消費需要が減るが,これは増加した輸出需要では十分に相殺されないので,民間 投資を補うための公共投資の必要性が高まることになる。 貯蓄不足の先進国の場合について,ハロッドは次のように言う。「より複雑な,しかし依 然貯蓄不足の諸国では,民間投資を補助することが,公共投資の代替政策として合理的で ( 2 9 ). あろうし,またもしをれが合理的であるならば,それは望ましいことであるう。」しかし, 市場需要がその経済の供給能力を下回る場合,投資に対する補助金を与えることが投資を 増加させるのに役立つかどうかについては疑わしく思っている。それは実業家逮は,彼ら. ( 2 7 ) G叩 くG η の場合は Sd<So となり,貯蓄不足の傾向を意味する。 ( 2 8 ) EconomicDynamics,p . 1 3 5 . (邦訳, 2 0 9ページ〉 ( 2 9 ) o t .c i t .,p .1 3 5 . (邦訳, 2 0 9ページ〉.
(12) OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ ‑186‑‑. 第5 4巻 第 2号. 5 2 8. の生産物に対する需要の増大が,追加の投資を正当化するのに十分であろラと予見出来る のでなければ,補助金を与え℃も,不必要な投資はしないだろうからと言うのである。 次に"貯蓄不足悶の場合,私的な貯蓄を政府貯蓄によって補足することが望ましいとも 述べている。ところが,政府貯蓄は,増税により市民の購買力を減らすことに上つてのみ 遥せられるので,このことは産業の生産物需要を減じ,ひいては投資の動機を失わせる。 そこでそのような場合には,これを補ラために,政府の投資が必婆であるとする。ハロツ ドは,ここに生じているジレンマについてさらに述べている。そのジ V Yマとは,市民の 購買力を減らす一方で,産業にその投資本を高めることを期待するということである。こ ( 3 0 ). れ?と対し彼は:,. r t 旨示的計閥」の考えに帰る。もし産業がその計画の遂行を確信するなら,. 五年間にわたる生産物需要の拡張計画に適切な投資をなずであろラ。しかし,その計画が 受けいれられず実施不可能であれば,政府自身が投資をしなければならないのである。 次に,経済成長といろいろな種類の輸出との関係の問題を取り扱うのであるが,最初に 食糠の輸出の問題が考察される。すなわち次のように言う。「食糧の世界需要は,人口増加 および人口一人当り所得の増加(生産性増加)によって成長する。食糧の世界需要増加の うち,人口による部分は,ちょうど 1の所得弾力性をもつであろう。またその}人当り所 得増加による部分は,すでに説明したように,所得弾力性が 1を超える部分と 1を下回る ( 3 1 ). 部分とに分けられるが,おモらくそのラち後者の方が支配的であろう。」また,供給につい. tは,農業雇用の流出がある一方で農業生産性の上昇もある。あわせて食艇に対する需要 の所得弾力性の小さいことも考慮し て,これらが釣り合えば,食粒の供給と需要はパラシ l. スを保ち続けるであろう。 しかし,もし世界的な需要が供給に対し相対的に上昇する傾向にあるならば,食糧価格 は上昇し.食糧の輸出の価額を増大させるであろう。また,食糧に対する国内需要が若干 置を減らして輸出を増やす の価格弾力性を持っているならば,食糧価格の上昇は国内需'要f であろう。また,食粧物価は収殺の変動によっても影響を受ける。 ところで,イギリスにとって食糧の輸出といろことはあまり問題にならない。そこでハ ロァドもこのように,世界的な見地からの問題を徳単に取り扱ったと思われる。. ( 3 0 ) ノ、ロァドの「指示的計画」 i n d i c a t i v ep l a n n i n g 'の考引え方につい十ては,次のところ t .c i t .,p . 1 2 0 . (邦訳, 1 8 7ページ), R. Harrod,Money,1969, を参照されたい。 o pp.228‑31 . (塩野谷九十九訳, r 貨幣,1,東洋経済新報社, 273‑6ページ〉 ( 3 1 ) o t .c i t .,p, 1 3 7 (邦訳, 212‑3ページ〉ただし,原訳では f ∞d ' に対し「食料 食糧」と改めた。 品」となっていたところを, r.
(13) OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ 5 2 9. 経済成長と外国貿易一←ハロ. y. ド理論の検討一. ー ‑187. 次に,経済成長と原材料の輸出との関係の問題が取り扱われる。 原材料 r a wm a t e r i a l sの輸出についても,需要の所得弾力性と価格弾力性の観点から検 討されている。そして所得増加は,人口増加による要因と,一人あたり所得の増加,した がって生産性の増大によるものとに,分解して考えている。このようにして,原材料の世 界的需要(輸出闘にとっての原材料輸出)の所得弾力性について,次のよろに言う。 口増加によっ t支配されるものとしての,原材料に対する需要の世界的所得弾力性は. 「 人 1. でありそうだ。そして,すべての財貨およびサービスについての生産性増加によっ℃支配 ( 3 2 ). されるものとしての,原材料に対する需要の世界的所得弾力性は 1以下でありそうだ。 J このようにして,総合された所得弾力性もやは り1以下ということである。 I. また,価格弾力性については次のように言う。[需要の価格弾力性はともに低いであるう ( 3 3 ). から,供給と需要の世界的不均衡はかなり大きな価格変動を引き起すと予想されよラ。 J このことは需要曲線と供給曲線が,ともに全体として非常に険しい状態として表わすこと が出来る。そして, このことの効果につい℃は次のように述べる。「原材料の供給と需要の 世界的不均衡は",輸出額に対して,そしてモれゆえ対外収支に対しL.,上向きあるい下向 ( 3 4 ). きの強い影響を及ぼすであろう。 Jこれは,原材料価格の大きな変動による,輸出および対 外収支の価額、への影響であるが,原材料輸出の量への影響ははるかに小さいと考えられる のである。しかしこの「価値効果Jv a l u ee f f e c tは,乗数を通じて,国内総需要の増加ま たは減少に導くのである。 原材料の輸出はイギリスにとってあまり問題にはならない。それが重要な役割を演ずる のは,主として低開発国においてである。そこでハロ y ドは,原材料の世界的価格の変動 が低開発国経済に与える影響と,それに対してとるべき政策の問題につい℃論じている。 もし a ある低開発国が重要な稜皮に依存している輸出品の世界的価格が下溶した場合に は,その国は減税をすべさである。その場合,価格の下落が短期的な上下の振動によるも のである場合には,その輸出商品についての国家的計画を切りつめるべきではなとも言 う。しかし,その原材料で造られる財が永続的に流行しなくなったり,代替品の重要な関 発があったりし‑C,構造的な変化がある場合は別であるとしている。 最後に,経済成長と完成工業品の輸出との関係が取り扱われている。完成工業品の輸出. p .c i t .,p .1 3 8 . ( 3 2 ) o ( 3 3 ) o P .c i t .,p"1 3 8 . (邦訳, 2 1 4ページ) p .c i t .,p.1 3 9 . (邦訳, 2 1 4ページ〉 ( 3 4 ) o.
(14) OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ 第5 4 巻 第 2号. ‑188ー. 530. に関しては,その需要の世界的な所得弾力性は 1を越えると考え,その結果について次の ように述べるィすなわち,これの取引を通じて,世界の繁栄が国際間に広められるが,世 界所得の増加とともにその中からますます多くの割合が支出されるような財の生産に比較 優位をもっ国は,有利な立場に立つ。また,総平均の技術進歩よりも速く進歩が進みつつ ある輸出分野に参加している国々も有利となろう。とのよろに,完成工業品について,輸 出に有利な条件を述べているのである。 ところで,以上述べ来たことでも分るように,ハロッドは,経済成長と各品目の輸入と の関係、に関する分析には多くの紙数をさいて論じている。ところが,経済成長と各品目の 輸出との関係、についてはあまり述べ℃いない。国際収支の赤字に悩むイギリスにとって, 輸出を伸ばすことは重姿である。食粧や原材料の輸出についてはともかく,完成工業品の 輸出については,もっと力を入れて論ずべきではなかったかと恩われる。とのあたりにも, 現代のイギリス経済の消極性がなんとなく現われ℃いるのかもしれない。. IV 経済成長と経常収支 ハロッドは,輸入の問題と輸出の問題とを論じた後,最後にそれらを総合して,経済成 長と経常収支,とくに貿易収支との関係について論じている。彼はまず,貿易収支の決定 諸要因について述べた後,貿易収支の改善のため,固定為替制度と変動為替制度とを比較 し,その聞の選択について論じている。 ハロッドは,まず輸入の成長率に影響を与える諸要因についてまとめ,続いて輸出の成 長率に影響を与える諸要因についてまとめている。輸入の成長率に影響を与える要因とし ては,輸入品に対する需要の所得隠力性と価格弾力性について述べている。所得弾力性に ついては次のように言う。「所得の成長率が重要であり,それは労働人口増加による部分 と,労働生産性増加による郎分とに分けられる。その上で輸入品目録の中のさまざまな品 ( 3 5 ). 自に対する需要の所得猟力性を考察する必要がある。」. もっぱら輸入に頼る財の品目の場. 合には,そのような輸入品に対する需要の所得弾力性は,その財全体に対する需要の所得 弾力性に等しい。しかし,若干の品目についてvは,その一部分が国内で生産される。した がって,そのよラな財については,輸入品の需要の所得弾力性は,その財全体についての 需要の所得弾力性とは,値が異なる。ハロ. y. ( 3 5 ) 0ρ c i人 p.14 1 . (邦訳, 2 1 7ページ〉 l. ドは・これら双方の{患の閣の関係について次.
(15) OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ 5 3 1. 経済成長と外国貿易ーハロッド理論の検討. ー. ‑189‑. のように言ラ。「その場合には,その品目の園内生産性増加率が国内生産性の総平均での増 加率よりも大きいか小さいかにすべてがかかっ℃くる。もし両方の増加率が等しいなら ば,この品目の輸入需要の所得弾力性はとの品目の需要の所得弾力性と等しいととになる。 もしある輸入品の園内生産性の増加率が圏内生産性の総平均の増加率より小さいならば. この財の輸入需要の所得弾力性はこの財の需要の所得弾力性よりも大きくなる。逆の場合 ( 3 6 ). も同様である。 Jここでハロッドが言う国内生産性の総平均の増加率は,所得の増加率と結 びついている。もし人口成長率がゼロであれば,国内生産性の総平均の増加率は亀そのま ま所得の増加率となる。そして,ある財の品目の生産性の増加率 ~ì., その品目の国内にお. ける供給量の増加率を意味する。もし,これら双方の増加率が等しく,またその財全体の 需要の所得弾力性が 1に等しければ,その財の輸入についての需要の所得弾力性も 1に等 しいであるう。そして,もしある品目の国内生産性の増加率が圏内生産性の総平均の増加 率より小さいならば,その財全体の需要の所得弾力性が 1に等しい限れその財の輸入に 頼る割合が大きくなれモの財の輸入についての需要の所得隠jJ性は 1より大きくなる。 すなわち,その財の輸入需要の所得弾力性は,この財の需要の所得弾力性より大きくなり, 逆の場合も同様となる。 しかし,このことはあらゆる場合に言えるのではないと思円。すなわち,その財全体の 需要の所得勝力性が 1より小さく,たとえば 0 . 8であるよラな場合を考える。その財の国 内生践性の増加率が,国内生産性の総平均の増加率(労働人口の成長がない場合,これは 所得の成長率に等しい)に対し 0 . 8の割合で小さければ,その財の輸入需要の所得弾力性. . 8となるであろう。また,その財の需要の所得弾力性〈たとえば0 . 6 )が,国内生産性 も0. . 8) の総平均の増加率に対するその財の園内における生産性の増加率の比率(たとえば 0 より小さい場合には,その財の輸入需要の所得弾力性は,その財会体の需要の所得弾力性 より小さいであろう。 このことを記号で表わすために,記号を次のように定める。また,説明を容易にするた め,労働人口の成長はないものとする。 国内生産性の総平均の増加率(労働人口の成長がない場合の所得成長率〉. m" n". わ. }ある財の国内生産性の増加率(労人働口の成長がない場合の圏内供給量 の増加率〉. ( 3 6 ) o t .c i t .,p .141 . (邦訳, 217‑8ぺージ〉.
(16) OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ ‑190ー. 第54巻 第 2号. e .. 532. ある財の需要の所得弾力性. 川. ε れれある財の輸入需要の所得弾力性 l. これら四つの数値の聞の関係は 次のようになるであろう。 l. e=~ι の場合. e ε. 6ミ. 問. n宮. ‑ ‑. ずの場合. これに対しハロッドが述べているのは,次のよラなことである。. n" 言m . .. け. の場合. e~ ε. このことが前の関係、と一致するのは,たとえば e=lの場合であり,その他の場合には必 ずしも一致しないと考えられる。 次にノ、ロッドは,鉱物のよラな,収穫逓減の法則に従う財の場合には,それらの輸入需 要の所得弾力性は,それらの財全体にわたる需要の所得弾力性よりも大まいであろうとし ている。それは,たとえそれらの財についての技術進歩が一般的な射の領域における技術 進歩と同じほど大きいとしても,そのような財の園内供給は,経済成長と比例し℃増大で まないからである。 さらに,輸入需要の価格弾力性については,食糧と基礎的な原材料 b a s i c sについては低 く,完成物については高いであるうとしている。 次に貿易収支を決定するもラーモ方の側である輸出の問題に転じている。ハロッドは,輸 出の趨勢に関しては,世界需要の増加に何が起っているかということが重要であると言い, さらに次のようにつけ加えている。. r 特別な注意が必要とされるのは,ある国がある地域. にその輸出の一定割合を向けていて,その割合が,世界総所得に占めるその地域の所得の 割合よりも大きい場合であれその場合にはその地域での人口増加および生産性増加がど ( 3 η. れだけあるかが重要となる。」すなわち,輸出の不均等な分布がある場合に,その国が重点 的に輸出している地域の所得の成長率が重要だといろことであり.とれは当然である。 ところで,ある}国の輸入と輸出の成長に与える諮影響は同じ割合ではないので,特定 の国の貿易収支の黒字または赤字のギャップは,拡大しがちである。そして,経常収支の 「目に見えない」品目,すなわち貿易外収支について同じような械が当てはまるのであ. 2 1. ( 3 のo T .cit.,p.141. (邦訳, 218ページ〉 ( 3 8 ) 国際収支の他の項目である資本収支の問題については,ハロッドは.,次の第 9章「国 際資本移動」のところで取り扱っている。.
(17) OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ 経済成長と外国貿易ーハロッド理論の検討一一. 5 3 3. ‑191‑‑. 以上のように,貿易収支に重点を置いて,経常収支の決定要因を分析した後,ハロッド は,この結果起る経常収支の不均衡への対策の問題を取り扱っている。もし,経常収支の 改善があると,固定為替 ν‑[の場合には,その国の貨幣当局の外資準備の増大を伴ラ。. . iートの変更によってそれを調整 経常収支の悪化の場合には逆となる。そして,外国為替 t するという政策の場合には,輸出の成長率が輸入の成長率を越えて増大する時,為替 νー トの上向まの調整が必要となり,逆の時には逆となる。しかし,このことは,為替レート に関する(輸入)需要の価絡弾力性の大きさが制約条件となっている。すなわち価格弾力 性が小さければ,調整の効巣は少ないのである。 ここでハロッドは,アカデミックな世界と異なり,実際の世界においては,この問題に 関し非対称性があることについて述べている。それは,通貨の切下げよりも切り上げに対 して,頑強な抵抗があるということである。それは各国の当局は,国民に通貨切上げによ る損害を,与える乙とを好まないからである。そして,通貨の切下げの場合には,国家の 威信にとって有害であるけれとも,自国の産業が国の内外で外国産業と行う競争にとって ( 3 9 ). 助けとなるのである。 次に,平価切り上げに央jし Cより大きな抵抗があるという事実を考慮した上で,調整可 能な為替 νートの制度(変動相場制)と回定レートの制度(固定相場制〉とを比較して,次 のように言う。「論理的には変動相場制 ana d j u s t a b l esystem の利点は,非対称性の不 利を相殺して余りあると言える。京!字基調の国には国際準備資産を吸収させ,赤字基調の ( 4 0 ). 国には平価切下げをさせる。 Jそしてこのと との非常に重要な帰結として,この制度の下 l. においては,黒字国に資源の累進的な蓄積があるだろうと述べる。 ここで,ある国々は経常収支が黒字で改善されつつある一方で,他の思々は赤字で慈化 しつつあるということと│苅述し1:,まず固定為替 νートというこ者択一物の功罪について. ( 3 9 ) ハロッドは,外国産業との競争を助ける政策として,所得政策さらには所得凍結も 考えている。 R Hanod, T owardsaNewEconomicP O l i c y,1 9 6 7, (舘龍一郎監 訳 , r 新しい経済政策.J.竹内香庖, 5 0ー5 1ページ〕 ( 4 0 ) EconomicDynamics,pp,142‑3仇(邦訳, 220ページ)ただし,とこの「変動相場 制」は ana d j u s t a b l es y s t e m 'の訳であるので,原訳には無かったが,とくに英語名 を入れた。 ( 4 1 ) 後にハロッドは, らせん状のインフレー νョンを防ぐ必要との関連で,黒字国が通 貨切り上げをする必要について述べている。 R Hanod, EconomicDynamicsand EconomicP o l i c y "i nE c o n o m i c si nt h eF u t u r e,e d i t e dbyK. Dopfer,1 9 7 6,p . 7 8 (K ドップァー編者,都留重人監訳, r これからの経済学J ,岩波現代選番, 154‑ 恥. 酌. ゎ. 5ページ).
(18) OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ ‑192‑‑. 5 3 4. 第5 4 巻 第 2号. 考察する。経常収支が黒字で国際収支の黒字が累積しつつある国においては圏内貨幣供給 は増大し,赤字が累積しつつある国においては国内貨幣供給は減少する。後者の場合には 大抵,貨幣供給の減少を容認し,公開市場操作によってこのととを強めさえする傾向があ る。その帰結については,古典学派経済学の考え方とクイシズ的な考え方とは異なってい るが,ハロッドはそれを次のように比較する。「普の古典派経済学によれば,この減少は国 内価格を低下させ,その国の国際収支を改善し,やがては均衡収支を回復せしゐることに なる。しかしケインズ的な考え方によれば,このような場合に当局によって採られるデプ レー νョシ的政策は,供給価格を押し下げるより失業を増大させる効果の方が強いと考え ( 4 2 ). られる。Jここに古典学派経済学と対称的なクイシズ的な考え方があり,デフレ政策によっ て国際収支が回復しても,失業が増えるというディレシマがある。そこでハロッドは,固 定為替レートの政策に対し次のように疑問を投げかける。. r それぞれ輸入と輸出の成長に. 影響を与えるものとして明細に述べられて来た諸要因が,均等な国際収支をひき起すであ るラということは,もっともありそうにないことであるので,それの正常な作用によって かなりの量の失業が時々っくり出され,またほとんど確かにそうであろうよラな国際貨幣 ( 4 3 ). 制度を,われわれが望むだろうか ?J そこで,国定為替 νートの制度が,国際収支の赤字 の国にとって均衡回復に向う効果があるとしても,失業を伴うと考えられるので,. ζ !の方. 法が国際収支均衡を得るための最善の方法であるとは考えていなし、。 次に,変動相場制について述べ,固定相場制のもとでのデフレ政策と比絞する。、すなわ ち,外国為替レートの下方への調節は,対外収支を矯正することができるが,とれは国内 の経済活動水準の減退や,失業の増大を必ずしも窓味しないといラ利点を持っている。し かしこれは,必要な結果を達成しないかもしれない。というのは,このことの成功のため には,その国の輸出と輸入に対する供給と需要の弾力性が十分大きいことが必要であるが, このことは疑わしいからである。これと対照的に,前述の園内のデフレ政策は,国際収支 の均衡回復にとって確実に頼りになる。しかしこの制度の成功の確かさは失業という大ぎ な惑をつくり出すカに依存しているので,好ましくないとしているが,この点はクインズ 派的である。 このようにし‑C,固定為替制度と変動為替制度との比較について次のような結論を下す。 「かくて,以上で考察したことの範囲内で,われわれが持つ選択肢はこつある。すなわち. ( 4 2 ) E c o n o m i cDynamic s .p"1 4 3 . (邦訳, 2 2 1ぺ ージ) ( 4 3 ) 0ム c i t ",p .1 4 3 . i.
(19) OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ 5 3 5. ‑193‑. 経済成長と外国貿易一一ハロッド理論の検討ー. 第一は,必要とされる効果を生じせしめる点では信頼され得るが,失業という大きな害惑 の犠性を伴い,その失業の大きさはその時の諸事'陪によって決定される,といった制度 (固定為替制度).そして第二は,必要とされる効果を生じせしめると信頼きれない制度 (変動為替制度〉である。もし変動為替レートを持つ国が,平価引き下げが対外収支均衡を もたらさないと判断するならば,その国は均衡回復の努力を,必ず閣内デプレー νョシ政 策で補充し,それによって圏内諸活動盤を減少せしめ,輸入を十分なだけ減少せしめと与で ) 4 4 ). あろう。」そして,その国がこのことを好まないならば,輸入制限のよラな他の方法で,国 際収支を回復しなければならないだろうとする。) さらにハロッドは,やがてそのうちに,政策目標の重要さの再評価が必要であるうとす る。彼自身の見解によれば,失業を避けることが最高の優先性を持っていると考える。そ してそれに比べれば,国際貿易の自由への若干の制限による利益の喪失はささいなととで ありそうだとする。この点には,ケインズ派的な特徴がよく現われ℃いる。 なおハロッドは. r 経済動学J第1 0 主主「総括 J' G e n e r a lS u r v e y ' においても,国際収支 ( 4 6 ). 均衡化の政策の問題を取り扱い,とくに為替制度のより詳しい検討をしている。ハロッド. l e x i b l eexchanger a t eを検討し,これをさらにこつに分け は伸縮的為替相場(制度) f る。ーつは平価の調節をよりしばしば適用すべきであるという「調整可能な釘付け」. a d j u s t a b l ep e g 'の 昔 話j 度である。もう一つは固定平価を持たない,変動為替相場 ' f l o a t i n g exchanger a t e 'の制度である。彼はこれら双方の制度とも問題がある. ζ. とについて述べ. ている。しかし,変動為替相場制度もさらに. r 管理された J' m a n a g e d '変動為替相場を 持つものと,自由に変動する為替相場を持つものとに分け,結局その前者を支持する。ハ ロ y ドは,後者 は振幅が大きく貿易業者にとってとくに不便であるとし,前者の制度が望 l. ましく,また現実の問題として避けることが出来ないとする。 V. むすび. r. 以上述べて来たよラに,ハロッドの『経済動学.1( 1 9 7 3 )の第 8 . 外国貿易」は,経済 成長と,経常収支とくに貿易収支との関係を取り扱っているのである。全体は四つの部分 ( 4 4 ) 0ム c i f " .p .1 4 4 . (邦訳. 2 2 2ページ) ( 4 5 ) ハロッドは後に,対外不均衡対策としての輸入制限を,より積極的に評価している。 H a r r o d . EconomicDynamics and Economic P o l i c y "p p .78‑9. (邦訳, 155‑6 ページ). ( 4 6 ) Economic Dynamics. pp.183‑8. (邦訳. 280‑6 ページ〉.
(20) OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ ‑‑194‑. 536. 第5 4巻 第 2号. から構成され,まず第一に,伝統的経済学における国際収支の自動的均衡論への批判を行 っている。これはマクロ静学の範聞に属することであるが,. r ケインズの批判」と彼が呼. んでいるものと,需要の弾力性の二つの観点から問題点を述べている。「ケインズの批判」 というのは,伝統的経済学が主張する銀行貨幣の調節によって補強された金本位制度の体 系は,国際収支が赤字の場合,物{涯を引き下げるよりも雇用を引き下げることにより大き な効果を持つということである。また,伝統的経済学は,外国価格に対する国内価格の下 再審は対外収支を改善すると主張するが,その暗黙の前援になっている,国内財に対する外 国需要の価格脚力性と外国財に対する国内需要の価格弾力性の和が 1より大きいというこ とは,必ずしもみたされないとする。 ノ、ロ y ド ~l ,. このようにして伝統的経済学の国際収支の自動的均衡論を斥けた後,貿易. 収支との関連での勤学理論に移る。そこで,次の問題として,経済成長との関連で輸入の 分析を行う。輸入は,食糧の輸入,鼠材料の輸入,完成工業品の輸入および半製品の輸入 に分けて論じ℃いる。それぞれの輸入の問題を,輸入需要の所得弾力性と輸入需要の価格 弾力性の見地から論じ,あわせてイギリスの実例について説明している。ハロッドは『経 済動学』において,経常収支とくに貿易収支の不均衡を重要視しているが, その;場合輸入 の函をとくに重視している。それは品目ごとに詳細に論じていることにも現われている。 第三の問題とし:(~;t,経済成長との関連で輸出の問題を分析している。まず,ハロッド が『経済動学』の第 7章「諮問題と諸矛腐」のところで取り扱った経済成長の状態の七つ のクースと,輸出の増大との関係について論じている。この七つのケースというのは, ま ず貯蓄過剰医1(Gu;> G 心の場合と貯蓄不足国 (G 凹くGn) の場合が分けられ,さらにそれ らが三つと四つの場合に分けられ,合計七つのケースに分類されているのである。次に, 食糧の輸出,原材料の輸出,および完成工業品の輸出について,需要の所得弾力性およひ 価格弾力性の観点等から分析がなされている。しかし,輸入の場合ほどには 詳しく扱って i. いないように思われる。 最後に,経常収支とくに貿易収支の決定要因について,経済成長との関速で分析を行な い,続い℃対外収支不均衡の対策について述べ,為替制度の比較について論じている。現 代為替制度については,第 1 0 章「総括」のところで詳しく論じている。ハロッドは,失業 を避けるといラ観点から固定相場制よりは調整可能な為替相場制を選ぶ。また,その中で でも「調整可能な釘付け j の制度よりは変動為替相場制を選ぶ。そして,さらにその中で も,自由に変動する為替相場制よりも,現実的な見地から,. r 管理された」変動為替相場.
(21) OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ 5 3 7. ‑1. 95ー. 経済成長と外国貿易一一ハロッド理論の検討一一. 制を選ぶのである。 ところで以上説明したハロッドの外国貿易論は,もちろん,. r 経済動学 Jの第 7宝ままで. の基本的な動学理論が基礎となっている。成長率や貯蓄率や資本産出比率の諸概念も用い られている。また,. r 経済動学』の中心部分をなす第 7章「諸問題と諸矛盾」の分析も,. 輸出の増大との関係、が取り扱われている。また,輸入需要の所得弾力性において,所得の 変化率に所得の成長率を用い, しかもそれを人口増加による部分と人口一人あたり生産性 の増加による部分とに分けて取り扱っていることは興味深い。しかし,基礎的動学理論の この分野への応用は"まだまだ可能性を含んでいるのではないかと恩われる。 ハロッドの『経済動学 Jにおける外国貿易の取り扱いの特徴としては,その他,経常収 支とくに貿易収支の不均衡の問題を重要視していることが挙げられよう。とくに,輸入の 面に分析の重点を霞き,また不均衡の対策に関連して,為替相場制j の比較について詳しく 論じている。これらのことは,第二次大戦後に,イギリスが国際収支の赤字に悩み続けた ことの反映でもあると思われる。 また,貿易収支に関連して,発展途上国への配慮が大きく現われていることも一つの特 徴であろう。また,これはこの『経済動学 Jにおける分析に限らないが,その基本的考え 方がケインズに対して忠実であり,また分析が現実的であることに感銘を受ける。 最後に問題点をあえて言えば,. r 経済成長と経常収支のところで指摘したように,ある. 財の需要の所得弾力性と輸入需要の所得弾力性の関係の叙述において,不正確な点がある と思われる。また,輸入の分析には力を入れているのに,輸出の'分析には消極的であるよ うに恩われるが,輪出振興が重要であるはずのイギリス経済であるので,この点疑問に思 われる。さらに,ハロッドの叙述はすべて文章で行われているが,これを数学を用いて精 ( 4 7 ). 級化することも望ましいことと恩われる。 参考文献. (1) Brown. H "P ., 唱i r RoyHaI'I'o d :A B i o g r a p h i c a lM e m o I I ' ヘ The Economic. J o u r ' n a l,March,1 9 8 0 . (2) Hal ' r o d,R. F ",Towardsal )y namicEconomics,1 9 4 8 .. r 3). r. Ha l '! ' o d,R. F I n f e r n a t i o n a lEconomics,1 9 5 9 " (藤井茂訳, 国際経済学〈全訂. 新版~.l,実業之日本社). ( 4 7 ) なお,ハロッドの功績を称える次のような追悼の論文がある。 H.p "BI ' own, S iI' RoyHanod: A B i o gI 'a p h i c a lMemoir",TheE c o n o m i cl o u r ' n a l,Ma I ' c h,1 9 8 0 ".
(22) OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ 第 54 巻 第 2号. ‑196‑. 538. C4J HarI ' od, R .,T owardsaNewE c o n o m i cP o! i c y, 1 9 6 7, (館龍一郎監訳, l'新し い経済政策I J,竹内警庖〉 (5) Harrod,R .,M oney,1 9 6 9 . (塩野谷九十九訳, r 貨幣I J,東洋経済新報社) C6J Hanod,R .,E c o n o m i c,y Dn a m i c s,1 9 7 3 . (宮崎義一訳, w 経済動学j,丸善株式会. 社) Hanod, R ., 官 conomicDynamicsandEconomicP o l i c y "i nE c o n o m i c si nt h e. r 7). d i t e dbyK. Dopfer,1 9 7 6 . (K. ドップァー編著,都留軍人監訳, F u t u r e,e. r これ. からの経済学I J,岩波現代選番). C8) Tohnson,H. G.,I n t e r n a t i o n a lT r a d ea n dE c o n o m i cG r o w t h,1 9 5 8 . (小島清監 修,柴田裕訳,. r 外国貿易と経済成長j,弘文堂〉. [9) 篠崎敏雄,ハロッド『経済動学』の体系に関する一考察,研究年数1 8,香川大学経 済学部, 1 9 7 8 ..
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