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藤 村 和 宏

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(1)

香 JI[ 大 学 経 済 論 叢

第81巻 第 1号 2008年 6月 1 ‑62 

便益遅延型専門サービスの消費における 顧客満足間題

〜医療サービスをケースとして考察〜

藤 村 和 宏

は じ め に

最近,多くの病院で息者満足調査が実施されるようになっている。また,筆 者が所属する大学でも授業評価が導人され,教員はその評価値に踊らされる

日々が続いている。

確かに,市場を通じて価値物の提供を行っている組織は,製造企業であって も,あるいはサービス組織であっても,その価値物を顧客のニーズに適合する ように継続的に改善していく必要がある。その改善の方向性と具体的な改善策 を検討する資料として,実際に価値物を消費した顧客の 声 の収集は必要不 可欠である。

しかしながら,顧客満足調査を実施する前提として「顧客は消費した価値物 を適切に評価できる」ということが必要とされる。顧客が適切に評価を行うに は三つの条件,すなわち「顧客のニーズや評価軸は適切である」,「提供される 便益(価値)を明確に知覚できる」および「提供された便益(価値)を適切に 評価するのに必要な知識・技能を保有している」が必要である。ホテル・サー ビスやレストラン・サービスのように日常的で,便益(価値)がデリバリー・

プロセスにおいて即座に発現し, しかもその評価に専門的な知識・ 技能を必要 としないサービスであれば,顧客は消費したものを適切に評価できるであろう。

したがって,調査は常にバイアスを伴うものであるが,このようなサービスに 関する顧客満足調査であれば,品質水準や顧客満足の歪みは小さいであろう。

(2)

‑2‑ 香川大学経済論叢 2  では,医療サービスや教育サービスではどうであろうか。顧客である患者や 学生は上記の 3条件を満たしているであろうか。このような問題意識から本稿 では,医療サービスや教育サービスを「便益遅廷型専門サービス」というカテ ゴリーにまとめることで,上記の評価の適切にかかわる条件の不備がもたら す,顧客の品質評価や顧客満足形成における歪みについて検討したい。なお,

「顧客のニーズや評価軸は適切である」という条件は特定の価値物の消費文化

(1) 

にかかわる大きな間題であるので,本稿では考察の対象とはせず,他の二つの 条件について考察を行いたい。具体的には,「提供される便益(価値)を明確 に知覚できる」という条件は「便益遅延性(便益としての変化の発現様式)」

という観点から,「提供された便益(価値)を適切に評価するのに必要な知識・

技能を保有している」という条件は[サービス・デリバリーに必要とされる知 識・技能の専門性」という観点から検討したい。

「便益遅廷型専門サービス」という概念は,「便益遅延型サービス」と「専門 サービス」という二つのサービス・カテゴリーが重なる部分に含まれるサービ スを意味している。つまり,サービスを異なる二つの視点,すなわち「便益と

しての変化の発現様式」と「サービス・デリバリーに必要とされる知識・技能 の専門性」で捉えることによって規定されるサービス概念である。本稿ではこ の二つの視点からサービスを捉えることで,「便益遅廷型専門サービス」の特 質とそれがもたらす品質評価や顧客満足の歪みを理論的・実証的に考察した

し゜

まず]節では,サービスを「便益としての変化の発現様式」の視点から捉え,

I

I節では,「サービス・デリバリーに必要とされる知識・技能の専門性」の視 点から捉えることで,「便益遅延型専門サービス」の特質とそれがもたらす品 (1)  紙幅の制約上,本稿では消費文化については検討しないが,消費文化の創造あるいは 改善は今後のマーケティングにおける重要課題であると考えられる。近年の環境問題,

製品事故や社会における非常識な行動の増加(たとえば,モンスター・ペアレンツの出 現,危険なドライバーの増加)などを考慮すると,製造企業もサービス企業も顧客の二 ーズに適合した価値物を提供するだけでなく,それらを適切且つ楽しく消費できるよう な文化も創造していく必要があると考えられる。したがって,この問題については,機 会を改めて詳細に検討したい。

(3)

3  便益遅廷型専門サービスの消費における顧客満足問題 ‑3‑

質評価や顧客満足の歪みを理論的に考察する。 m節でぱ,過去に実施した二つ の患者満足調査の結呆を用いることで,医療サービスをケースとして,「便益遅 廷型専門サービス」の消費における顧客満足の歪みについて実証的に検討する。

I . 「 便 益 遅 延 型 サ ー ビ ス 」 の 特 質 と 品 質 評 価 ・ 顧 客 満 足 の 歪 み 本節では,サービスを「便益としての変化の発現様式」の視点から捉えるこ とで,「便益遅延塵サービス」の概念とその消費における品質評価や顧客満足 の歪みについて考察を行いたい。

しかし,「便益遅延型サービス」もサービスの一つのカテゴリーであるので,

まずサービス概念を明らかにしておく必要がある。そこで最初に,モノ消費と の比較で,サービス概念とその消費の特徴を明らかにしたい。

(1)  サービス消費とモノ消費における「便益としての変化の実現」の違い サービス概念については,以下のように研究者の関心や視点によって様々な かたちで定義されている。

「サービスとは,特定の時間と場所において,顧客のために価値を創造 し,便益を提供する経済的活動であり,その結果として,サービスの受け 手に(あるいは受け手に代わって)望まれている変化がもたらされるJ

(Lovelock and Wright, 2002, p. 6) 

「サービス:他者の便益のために個人または集団が行う活動」

(Albrecht and Zemke, 2002,  p. 50,  邦訳, 68頁)

「顧客にとってサービスとは,『時間の価値』である」

(McKenna, 1997,  p.  149,  邦訳, 206頁)

「サービスとは,利用可能な諸資源が有用な機能を果たすその働き」

(野村, 1983, 38頁)

このようにサービスの定義は研究者によって異なるが,本稿では,サービス

(4)

‑4‑ 香川大学経済論叢 4  を「消費によって享受することが期待されている便益としての変化を導く,生 産活動の集合体」と定義したい。また,これと対比するかたちで,モノを「生 産活動の結果として産出される客体物であり,消費によって享受することが期 待されている便益としての変化を導く活動が物的特性として内蔵されているも

の」と定義したい。

このようにサービスとモノを定義すると,両者は「変化」という便益を提供 するという点では共通しており,違いはその便益の実現の仕方にある。サービ ス消費では,便益としての変化を導く活動自体が提供されるのに対して,モノ 消 費 で は , 便 益 と し て の 変 化 を 導 く 活 動 が 物 理 的 特 性 に 内 蔵 さ れ て 提 供 さ れ る,という点に違いがある。この結果,サービス消費では,デリバリー(生産・

(2) 

提供)と消費が同時に行われ,変化という便益はサービス組織と顧客と協働に よって生み出されるが,モノ消費では,両者は明確に分離しており,便益は顧 客自身の活動によって引き出される。つまり,サービス消費とは,顧客自身の 保有する消費資源を糾み合わせて用いることで,サービス・デリバリー・プロ セスに参加し,サービス組織の従業員あるいは/および設備・機器と協働を行 う過程で,望む便益を引き出しながら,同時に消費することである。一方,モ (2)  この協働は,デリバリー(生産・提供)時問の共有による協働という方がより正確で あろう。なぜならば,モノ消費においても,時間の共有は行われていないが,製造企業 と顧客との間で協働が行われていると考えることができるからである。このことは,エ ルメスの商標の中に象徴的に示されている。この商標には,「デュック」と呼ばれる四 輪馬車と「タイガー」と呼ばれる従者しか描かれておらず,馬車を御すべき主人の姿は 見あたらない。 3代目社長のエミール・エルメスのエルメスの哲学によると,この主人 とはエルメス製品を手にする顧客であり,エルメスは最高の品質の製品を用意するが,

それに生命を吹き込み,完璧なものとして仕上げるのは顧客自身である,ということを 語っている(山田・グラムコ ブランドマーク研究室, 1999, 74頁)。

このエルメスの哲学が示すように,製追企業がどんなに優れた便益を生み出す能力を 内在した客体物を開発• 生産したとしても,顧客がその便益を引ぎ出す能力(消費資源)

を保有していなければ(つまり使いこなせなければ),潜在的に可能であっても,実際 に便益を享受することはできない。同様なことは,顧客が高い能力を保持していたとし ても,その高い能力を十分に発揮して便益を享受でぎるようなモノを製造企業が開発・

生産できない場合にも起こる。つまり,製造企業と顧客は便益を生み出すことにおいて 協働しており,製造企業と顧客がそれぞれに必要となされる能力を蓄積するだけでな く,それらを十分に発揮した場合に,顧客それぞれの能力に応じた便益を最大に享受で きることになる。

(5)

5  便益遅延型専門サービスの消費における顧客満足問題 ‑5‑

ノ消費とは,顧客自身の保有する消費資源を組み合わせて用いることで,モノ から便益を引き出し,それを消費することである。このサービス消費とモノ消 費における変化としての便益の実現と消費の違いを図示すると,医 1のように 描くことができる。

なお,「消費資源」とは,顧客がモノやサービスを消費するために投入しな ければならない資源であり,金銭,時間,肉体的および精神的エネルギー,知 識,技能,補完物,空間などが含まれる。「金銭」とは,モノやサービスの購 入に必要な費用,買回りのための費用,その消費に間連して必要される補完製 品(モノあるいはサービス)の購入費用などである。

「時間」とは,望む便益の生み出す潜在的能力を備えたモノやサービスを消 費するのに要する時間である。モノやサービスの消費を「選択過程」と使用/

利用による「便益の生成・享受過程」の二段階に分けて考えるならば,選択過

(3) 

程については他者が代理で参加することも可能である。しかし,便益の生成・

顧 客 製 造 企 業

時 間 →

【サービス消贄の便益実現プロセス】

時 間 →

【モノ消費の便益実現プロセス】

図 1 : サービス消費とモノ消費における便益実現・消費の違い

(3)  サ ー ビ ス 組 織 が そ の 選 択 を 希 望 す る 顧 客 の 中 か ら , 特 定 の 顧 客 だ け を 保 有 す る 消 費 資 源 の 観 点 か ら 選 抜 で き る よ う な サ ー ビ ス に つ い て は , 便 益 を 享 受 し よ う と す る 本 人 が 選 択過程に参加しなければならないものもある。高校や大学などの高等教育サービスはそ の典型である。学校が便益を享受しようとする本人の保有する消費資源としての知識や 技能を評価する必要があるために,選択過程には本人の参加が必要不可欠である。

(6)

‑6‑ 香川大学経済論叢 6  享受過程については,モノ消費や,便益としての変化の実現の対象が人間であ

るサービス消費では本人の参加が必要不可欠であり,便益の生成・享受に必要 とされる時間を確保で苔ない人は消費という行為を行うことができない。時間 という消費資源はすべての顧客が平等に保有しているという点で,他の消費資 源とば性格が大きく異なっている。 1日は 24時間で固定されており,それ以

(5) 

上の時間を消費に費やすことはできないからである。

「肉体的エネルギー」とは,望む便益を生み出す潜在的能力を内蔵している モノやサービス組織を選択し,望む便益を引き出すために顧客が提供しなけれ ばならない活動を遂行するための体力である。

また,「精神的エネルギー」とは,それらの活動を遂行しようとする意欲で ある。精神的エネルギーについては,他の消費資源を増大あるいは厠上させる ことに関係しているだけでなく,モノやサービスの選択過程および使用/利用 による便益の生成・享受過程において消費資源を積極的且つ適切に組み合わせ て活用することにも関係している。さらに,他の消費資源による代替が困難で あるために,特に重要な消費資源であると考えられる。

「知識と技能Jは,望む便益を生み出す潜在的能力を内蔵しているモノやサ ービス糾織を選択し,それらから望む便益を引ぎ出すために顧客が提供しなけ ればならない活動の方向性とその水準を決定するものである。これらの消費資

(6) 

源の欠如は,モノ消費においては「階級杜会を基盤に生まれたブランド」の消

(4)  便益としての変化を実現する対象が人間以外のサービスについては,必ずしも便益を 享受しようとする顧客自身が参加しなくても,消費は可能である。たとえば,修理サー ビス,清掃サービス,ペットの美容サービスなどは顧客自身の参加が必要とされない。

ただし,サービス・デリバリー・プロセスの開始時点では,本人あるいは代理人が参加 し,望む変化の内容を示す(サービスの仕様決定を行う)ことが必要とされる。

(5)  ただし,生産活動や睡眠などの活動に費やさなければならない時間は顧客によって異 なるために,消費に費やすことのできる時間は異なっている。また,消費に利用可能な 時間は,他の消費資源を代替的に用いることによって増やすことも可能である。たとえ ば,出張の交通手段を列車から飛行機に代えることによって,金銭の支出は増えるが移 動時間を節約することができ,その節約時間を消費に投入することが可能になる。さら に,人によって寿命が異なることから,すべての顧客は平等に 1日24時 間 を 保 有 し て いるが,消費に利用できる時間は他の消費資源の保有量やその質に依存していることに なる。

(7)

7  便益遅延型専門サービスの消費における顧客満足間題 ‑7‑

費を促し,サービス消費ではそれらの消費の同避を促すことになる(謄村,

2005)。

「補完物」とは,望む便益を生み出す潜在的能力を内蔵しているモノやサー ビス組織からそれらを引き出すことを支援するものである。高級レストランで の食事では,高価な料理やサービスの対価としての金銭や食事を楽しむ時間,

食事マナーやドレス・コードに関する知識や技能だけでなく,そのレストラン に 相 応 し い 衣 服 や 装 飾 品 と い っ た 補 完 物 が 必 要 と さ れ る 。 サ ー ビ ス 消 費 の 場 合,特に高価格あるいは高級ブランドのサービスの消費では,顧客の衣服や装 飾品といった補完物の品質や状況適合性が他の顧客のサービス品質やブランド に対する知覚に重大な影響を及ぼすことから,それらの不適切さによって選択 を拒否されることがある。

「空間」とは,選択したモノやサービス組織から望む便益を引き出すのに必 要な物理的空間の広さである。モノ消費の場合には,購入したものを保管ある いは配置する空間を保有していなければ,購入は抑制される。たとえ購入でき たとしても,望む便益を引き出すのに十分な空間を保有していなければ,モノ は 潜 在 的 能 力 を 十 分 に 発 揮 す る こ と が で き な い 。 サ ー ビ ス 消 費 で も , サ ー ビ ス・デリバリーが顧客の自宅で行われる場合(たとえば,家庭教師やケータリ

ング・サービスなど),あるいは顧客が所有あるいは占有するモノに対してサ ービス・デリバリーが行われる場合には,サービス・デリバリーに必要とされ る十分な物理的空間を確保できなければ,望む便益を得ることができないこと

(6)  「階級社会を基盤に生まれたブランド」とは,階級社会において,王室や貴族のため に注文生産されていた質の高いモノやサービスが,現在でもその高い品質を維持しなが ら熟練の識人によって生産(あるいはデリバリー)されているものである。この対極に あるのが「平等杜会を基盤に生まれたブランド」で,アメリカで生まれた大量生産のフォ ーデイズムに基づくものであり,標準化と大量生産を特徴とするものである(藤村,

2004)。

(7)  当然,他の消費資源の欠如も選択代替案の範囲を狭めることになるが,それは消費者 が自主的に選択を放棄した結果であり,モノやサービスの提供者側からの拒否によるも のではない。したがって,サービス消費では,この消費資源は望む便益の生成・享受過 程に影響を及ぼすだけでなく,その前段階の選択過程にも重大な影響を及ぽすことがあ

る。

(8)

‑8‑ 香川大学経済論叢 8  がある。

以上のことから,消費とは「これらの消費資源を用いて,モノやサービスの 選択を行い,そこから望む便益を引き出し,同時にそれらを享受する活動」と 捉えることがでぎる。

市場にはその提供する便益の観点から代替関係にあるモノとサービスが数多 く存在しており,同じ便益を得るためにモノが購入される場合もあれば,サー ビスが購入される場合もある。モノの代わりにサービスを購入するのは,モノ 消費において望む便益を得るには,順客はそれに必要とされる様々なモノを取 揃えるだけでなく,必要とされる活動のすべてを負担しなければならないが,

サービスはその負担の一部を引ぎ受け,さらにその専門化された知識・技能に よって便益をより効果的且つ効率的に提供してくれるからである。しかし,サ ービスは,モノ消費において顧客が負担しなければならない活動のすべてを代 行することはなく,あくまでもある部分を引き受けるにすぎない。サービス組 織(従槃員あるいは/および設備・機器)は顧客の遂行すべき活動の一部を引 受け,顧客と協働することで,顧客の望む便益としての変化を生み出すのであ る。つまりサービスとは,顧客が望む便益を生み出すための活動をアシストす る活動である。

サービスは顧客が便益を引き出そうとする活動をアシストする活動であると いうことは,活動の中心はあくまでも顧客であるということである。「活動の 中心は顧客である」と言う場合,それは二つのことを意味している。第 1は, 提供されるべきサービスやそのデリバリー・プロセスは顧客志向でなければな

らないということである。第2は,顧客自身による活動の遂行が必要不可欠で あるとともに,それらは便益を引き出すための活動の集合において中心的な役 割を果たすということである。高品質水準のサービスをデリバリーするにはど ちらの意味における顧客の中心性とも必要不可欠であるが,後者はより重要で ある。なぜならば,顧客がサービス消費によって享受できる便益の質は顧客自 身による活動遂行のあり方,すなわち顧客がデリバリー・プロセスに積極的且 つ適切に参加した程度に大きく依存しているからである。

(9)

︐ 

便益遅延型専門サービスの消費における顧客満足問題 ‑9‑

サービス消費では,まず顧客自身が望むサービスの仕様決定を行うという活 動を遂行しなければサービス・デリバリーは開始されないし,仕様決定活動や

(8) 

これ以後のデリバリー・プロセスにおいて必要とされる活動の遂行のあり方に よって,享受できる便益の質は異なったものとなる。サービス組織が構築した デリバリー・プロセス,そこに参加する従業員,その環境を形成する物理的環 境(設備・機器,消耗品など),それらによってデリバリーを予定しているサ ービス(変化という便益)のデザインが顧客志向的であったとしても,便益を 生み出す活動の中心である顧客の参加の仕方が積極性や適切性を欠いている場 合には,サービス組織は顧客に望む便益を提供できないということである。

要約すれば,モノ消費とサービス消費とでは,望む便益を生み出すために顧 客が遂行しなければならない活動の内容や程度は異なるが,サービス消費でも 顧客は活動の一部を遂行しなければならないし,それらはサービス・デリバリ ー・プロセスにおいて行われる様々な活動の中で中心的役割を果たすことに

よって,享受できる便益の決定に大ぎく関わっているということである。

(2)  サービスにおける「便益としての変化の発現様式」の違い

前述のようにサービスを定義すると,サービス・デリバリーにおいては「変 化」と「活動」が鍵概念となる。このことから両概念について考察を行う必要 があるが,ここでは,本稿の目的と直接的に関係のある「変化」についてのみ 考察を行い,「活動」については別の機会に行いたい。また,便益としての「変 化」についても,「変化の対象」,「変化の内容」,「変化の方向性」および「変 化の発現様式」という四つの観点から考察を行う必要があるが,紙幅の制約 上,本稿では「便益遅延型専門サービス」の定義づけと関連のある「変化の発 現様式」の観点からのみ考察を行いたい。

「変化の発現様式」とは,サービス・デリバリー・プロセスが開始されてか らの「変化の発現時点」と「変化の終了時点」によって規定されるものである。

(8)  顧客のデリバリー・プロセスヘの参加に関する詳細は,藤村 (1995a)を参照のこと。

(10)

‑JO‑ 香川大学経済論叢 10  図2は,サービスの便益としての変化(結果・効果)は,サービス・デリバリ ー ・ プ ロ セ ス が 開 始 し て か ら ど の 時 点 で 出 現 し 始 め , ど の 時 点 で 終 了 す る の か,によって様式を分類したものである。

なお,ここでのサービス・デリバリー・プロセスとは,サービスの消費動機 となった基本的ニーズを充足するためにサービス組織の従業貝,設備機器,お よ び 顧 客 自 身 が 関 与 し , そ れ ぞ れ が 必 要 な 活 動 を 提 供 し な が ら 協 働 す る こ と で,サービスが生産・提供され,同時に消費される過程である。そのため,サ ービス・デリバリー・プロセスは,顧客が特定サービスを選択し,協働のため の活動を遂行し始めた時点で開始し,サービス組織側あるいは顧客側のどちら かが,顧客のニーズは充足されたと判断し,協働のための活動遂行を終えた時 点で終了する。本稿では,このデリバリー・プロセスの開始から終了までを「 1 匝の消費サイクル」と定義し,この 1回の消費サイクルに対する品質評価や顧 客満足の考察を対象としている。

ところで,このように消費サイクルを定義すると,サービス・デリバリー・

プロセスが数分や数時間という短時間で終了するサービスもあれば,数日,数

変化の 終了後からある時間

変化の 終了時点 開始直後の時点 途中の時点 終了直前の時点

発現時点 経過後

( 

I  二 │乙二] I ~

闇始直後の時点 始開 終J   始開 終了 始開 終了 冒 」• 終., 

【様式 1~1 】 【様式1‑2】 【様式1‑3】 【様式1‑4] 

I  こ I  乙 I  二

途中の時点 開 終 間 終 開 終

始 了 始 了 始 了

【様式2‑2】 【様式 2~3 】 [様式2‑4】

I 

  i I

I  / 

終了直前の時点 謂 終 開 終

始 了 始 了

【様式3‑3】 [様式3‑4】

終了後からある時間 I  I / 

経過後 冒 終了

【様式4‑4】 図2 : 変化の発現時点と終了時点を基準に分類した「変化の実現様式」

(11)

11  便益遅延型専門サービスの消費における顧客満足間題 ‑J]‑

週 間 , 数 ヶ 月 , あ る い は 数 年 と い う 長 期 間 に わ た っ て 継 続 す る サ ー ビ ス も あ る。たとえば,飲食サービスでは飲食店に入ってから出るまで,デイズニーラ ンドや映画館などのエンターテイメント・サービスでは施設に入ってから出る までを意味し, 1回の消費サイクルとしてのサービス・デリバリー・プロセス は 短 時 間 で 終 了 す る 。 一 方 , 宿 泊 サ ー ビ ス で は チ ェ ッ ク イ ン の た め に 施 設 に 入ってからチェックアウトを済ませて出るまでというように, 1回の消費サイ

ク ル と し て の サ ー ビ ス ・ デ リ バ リ ー ・ プ ロ セ ス は 比 較 的 長 く 継 続 す る 。 さ ら に,医療サービスの場合には,特定の疾病治療のために病院の施設を訪れ,通 院あるいは/および入院し,医師が治療は終了したと判断して病院の施設を出 るまで,あるいは患者が治癒したと自ら判断して通院を止める時までと,消費 サイクルは長期間にわたって継続することになる。

大学教育サービスの場合には,個々の講義が相互に独立して行われるので,

一つの講義の履修開始から単位取得までを 1回の消費サイクルと考えることも できるし,入学してから卒業までの期間を 1回の消費サイクルと考えることも できる。前者の消費サイクルに対する品質評価や顧客満足は個々の講義に関す るものであり,後者は大学全体に関するものということになる。そして, 1回 の消費サイクルの時間が長くなるほど,品質評価や顧客澗足に影響を及ぽす要 囚は多様になり,サービス組織がコントロールすることは困難になる。

変化の発現様式に議論を戻すと,多くのサービス消費では,サービス・デリ バリーの開始直後の時点あるいは途中の時点において即時に便益としての変化

(結果・効果)が現れ,終了時点までにそれらは最大になるので,変化の発現 様式は〔様式 1‑ 1〕[椋式 1‑2〕〔様式 1‑3〕〔様式2‑2〕〔様式 2‑3〕

〔様式3‑3〕のようになる。たとえば,修理サービスでは,デリバリー開始 直後から製品は機能的あるいは形状的に変化し始め,デリバリー終了と同時に 変化は終わり,修理は完了する。また,レストラン・サービスでは,接客サー ビ ス に よ っ て デ リ バ リ ー が 開 始 さ れ る こ と で , ポ ジ テ ィ ブ な 情 動 が 喚 起 さ れ

(感情的な変化が起こり),続いて料理や飲料が提供されることで,さらにポジ ティブな情動が喚起されるとともに空腹感が満たされるという変化が起こり,

(12)

‑12‑ 香川大学経済論叢 12  会計を済ませてレストランを出ることでその変化は終了する。変化が終了する

とは,便益として享受された変化が消滅するということではなく,デリバリー されたサービスがそれ以上の変化を引き起こすことはないということである。

修理サービスの場合には,修理によってもたらされた機能的あるいは形状的に 変化した状態はデリバリー終了後も継続するが,それ以上に改善されることは ない。レストラン・サービスの場合には,接客や飲食物によってもたらされた ポジティブな情動や身体的満足感はデリバリー終了後もしばらくは維持される

(9) 

かもしれないが,サービス自体が直接的にそれ以上の情動や身体的満足感をも たらすことはないということである。

一方,〔様式 1‑4〕〔様式2‑4〕〔様式3‑4 J 〔様式 4‑4〕のように,

サービス・デリバリー・プロセスが展開される時間とサービスの便益としての 変化(結果・効果)の終了時点との間に時間的ズレが生じるサービスもある。

時間的ズレが生じるサービス,すなわちデリバリー・プロセスが終了してから もデリバリーされたサービスが作用し,変化が継続して続くようなサービス が,本稿で考察の対象とする「便益遅延型サービス」である。医療サービスや 教育サービスはこの典型であり,サービスの便益としての変化(結果・効果)

の対象が顧客の身体や能力である場合に生じやすい様式である。

(3)  便益遅延性がもたらす品質評価と顧客満足の歪み

(10) 

サービスを構成する属性に占める経験属性や信頼属性の割合とは関係なく,

サービスの便益としての変化(結果・効果)がデリバリー・プロセスにおいて,

あるいはその終了後から徐々に現れ始め,長期的に継続あるいは向上していく のに要する時間, もしくはデリバリー・プロセスが終了してから出現するのに (9)  サービス・デリバリー・プロセスにおける経験が非常に印象的あるいは感動的なもの であった場合には,それが記憶に残り,後日にそれが思い出としで清動を喚起すること もある。すなわち,デリバリー終了後にも,思い出としで情動的変化をもたらすことが ある。しかし,その情動的変化はサービス自体がもたらしたものでなく,「経験の記憶」

がもたらしたものである,と本稿では考えたい。なお,この「経験の記憶」は再利用意 向やロイヤルティの形成には重大な影響を及ばすと考えられることから(藤村, 2006), 顧客の将来の行動変化を導く要因としては重要である。

(13)

13  便益遅延型専門サービスの消費における顧客満足間題 ‑13‑

要する時間が長くなるほど,顧客はサービス組織やその従業員の潜在的な品質 形成能力を正当に評価することが困難になる。それは,消費終了後,つまり 1

回の消費サイクルとしてのデリバリー・プロセスが終了した時点では,デリバ リー・プロセスに従事した従業員の行動や態度は評価できたとしても,それを 通じて提供されたサービスの便益としての変化(結果・効果)はまだその段階 では顧客にとって明確に知覚可能な形で現れていないためである。また,デリ バリー・プロセスの終了後から便益としての変化(結果・ 効果)が出現するま での時間的ズレの間に,それらの出現を促進あるいは抑制する様々な要因が作 用し,それらが錯乱される可能性も高いからである。この結果,「便益遅延型 サービス」に対する評価は時間経過とともに変化する可能性が高いが,そこに は様々な攪乱要因による偶然性が入り込む余地が大きいことから,サービス組 織や従業員の潜在的な品質形成能力を正当に評価することは困難である。

医療サービスは,このような時間的ズレが生じるサービスの典型である。疾 病が重篤である場合,治療の効果は医師や医療サービス組織の医療能力,患者 の匝復のための努力に依存するだけでなく,それらが累積され複雑に結びつく

ことで,長期的に現れてくる。このことから,医療サービスの効果は,長期的 な時間経過後に振り返ることでしか評価できないということになる。したがっ て,サービスの便益としての変化(結果・効果)がまだ十分に現れていないデ

リバリー終了時点において,患者を対象とした品質評価や溝足評価の調査が実 施された場合,その評価は主にデリバリー・プロセスに基づいて行われること から,デリバリー・プロセスに参加した医師や看護師,その他の従業員の態度

(IO)  製品(モノやサービス)を経済学的に属性の束と考えるならば,モノやサービスは探 索属性,経験属性および信頼属性によって構成されている。「探索属性Jとは,購買前

に評価可能な属性であり,色,スタイル,価格,手触り,香りのようなものであるが,

「経験属性」とは,味や耐久性のように購入後あるいは消費中にのみ認識・評価できる 属性である (Nelson,1970,  1974)。また,「信頼属性」とは,評価に専門的知識・技能を 必要とするために,購人後あるいは消費後においてさえ評価に困難を感じる属性である

(Darby and Kami,  1973)。

モノやサービスを構成する属性に占める経験属性や信頼属性の割合が高くなるほど,

願 客 は そ の 選 択 過 程 に お い て 品 質 を 直 接 的 に 示 す 本 質 的 属 性 を 評 価 で さ な く な る た め に,品質評価は困難になる。

(14)

‑]4‑ 香川大学経済論叢 14  や行動,物理的環境などによって大きく影響されることになる。この影響によ

り,品質評価や顧客満足は医師や医療サービス組織の潜在的な品質形成能力を 適切に反映していないものとなる危険性がある。

受験のための予備校を除いた教育サービスも「便益遅延型サービス」の典型 であり,教育の結呆・効果は学校の教育システムや教師の能力,学生の参加の 仕方などに依存するだけでなく,それらが累積され複雑に結びつくことで,長 期的に無形な形で現れてくる。したがって,教育サービスも長期間後に振り返 ることでしか評価ができないが,その時間経過の過程で様々な攪乱要囚が作用 してしまうという間題がある。さらに,教育サービスの生み出す効果には,明 確な形となって現れるもの(一流企業に就職,資格試験に合格,「優Jを獲得 など)とそうでないもの(現象の見方や分析能力,統合能力などが身に付く)

があるが,前者に対する評価の方が容易であるために,その評価が支配的に作 用して教育サービスに対する品質評価や顧客満足が形成される, ということも 起こりやすいであろう。

「便益遅廷型サービス」に対する顧客の品質評価や顧客満足をデリバリー・

プロセスの終了時点で聴取する場合,顧客は容易に知覚・評価できる表面的な デリバリー・プロセスの方を知覚・評価が困難である本質的な便益としての変 化(結果・効果)よりも重視しやすくなるために,品質評価と顧客満足は歪め られる危険性がある。また,一定の時間経過後に評価を行うとしても,個々の 顧客によって結果・効果の現れる時間的長さに差異が存在するために,測定時 点によって評価は異なったものとなる。さらに,その時間経過の過程で様々な 攪乱要囚が作用してしまうために,当該サービスの結果・効果だけを抽出して 評価することは不可能である。

(4)  顧客の参加抑制がもたらす品質評価と顧客満足の歪み

ところで,サービス・デリバリー・プロセスにおいて便益としての変化(結 果・効果)が現れにくい,あるいは知覚しにくいということは,顧客のサービ ス・デリバリー・プロセスヘの参加の仕方に影響を及ぼすことを通じて,間接

(15)

15  便益遅延型専門サービスの消費における顧客満足間題 ‑]5‑

的に品質評価や顧客満足を歪めるという危除性もある。

サービス・デリバリーには顧客の参加が必要不可欠であり,サービス品質は サービス組織,従業員および顧客の協働によって形成される。したがって,サ ービス組織やその従業員が高いサービス品質形成能力を保持し,サービス・デ リバリー・プロセスにおいてそれらを発揮したとしても,顧客が積極的且つ適 切に参加しなかったり,あるいはそのような参加に必要とされる消費資源を保 有していないならば,顧客は低水準のサービス品質しか享受できないし,顧客 満足も低水準に留まることになる。逆に言えば,顧客がデリバリー・プロセス

に積極的且つ適切に参加するならば,高水準のサービス品質を享受でき,高い 満足を得られる可能性は高まるということである。

(11) 

Youngdahl and Kellogg (1994)はCIT(Critical Incident Technique) を用いて,

顧客の負担する品質コストの観点から顧客の参加にかかわる活動を以下のよう に分類し,顧客満足との関係を分析している。

(a)肯定的表現 (positiveexpression) 

微笑んだり,優しい言葉をかけたり,良いフィードバックを提供したり するような活動を通じての肯定的表現

(b)否定的表現 (negativeexpression) 

苦l青をいったり,批判をしたりするような行動を通じての否定的表現 (C)準備 (preparation)

紹介者を探したり,競争者を調べたり,早く到着したりするような行動 による,サービスのための準備

(d)情報提供 (informationproviding) 

望む結果を記述したり,問題点を説咀したりするような情報の提供

(11)  サービス・マーケティング研究において,サービス・エンカウンター(フロント・ス テージにおける顧客と従業員との直接的な人的相互作用)の調査・分析でしばしば用い られる質的調査法の一つである。被験者(顧客)に,サービスに対する満足/不満足を 決定づけた「重要な出来事 (CriticalIncident)」を想起してもらい,「いつ起こったのか」,

「なぜその状況に至ったのか」,[その時,あなたや他の当事者はどのように行動したの か」,「その行動の結果はどうなったのか」[結果について,どのように感じているか」な

どの質問を行うことで,その原因や発生プロセスを明らかにする方法である。

(16)

‑16‑ 香川大学経済論叢 16  (e)情報探索 (informationseeking) 

サービスの状態やサービス要素を明確にするための情報探索 (f)関与 (involvement)

診断補助,問題解決,点検活動によって,サービス・デリバリーに関与 (9)関係構築 (relationshipbuilding) 

サービス・デリバリーにかかわる従業員を理解しようとしたり,従業員 を名前で呼んだりするような活動を通じてのサービス提供者との関係構 築

顧客によるこれらの活動遂行と顧客満足との関係についての分析では,肯定 的表現,準備,情報提供,関係構築などの活動の遂行とサービス経験に対する 満足との間に強い関連性が見いだされている。すなわち,よく準備し,情報を 提供し,サービス・デリバリーにかかわる従業員との関係構築に取り組み,従 業員に肯定的に自分の考えを話した顧客は,そのような行動をあまりとらな かった顧客よりも満足する傾向が見られている。

このようなことから顧客のデリバリー・プロセスヘの参加の仕方や程度はサ ービス品質や彼自身の満足の形成に重大な影響を及ぼすと言えるであろう。さ らに,顧客のデリバリー・プロセスヘの積極的且つ適切な参加は,サービス組 織の経営効率にも決定的に重大な影響を及ぽす。このことをサービス組織の側 から見れば,サービス品質や顧客満足を向上させ,同時に経営効率も高めるこ とができるかどうかは,顧客のデリバリー・プロセスにおける役割を明確に し,顧客がそれらを積極的且つ適切に遂行でぎるようなサービス・デリバリ ー・プロセスをデザインできるかどうか,に依存していると言える。

しかしながら,[便益遅延型サービス」の消費においては,デリバリー・プ ロセスにおいて顧客がサービスの便益としての変化(結呆・効果)を知覚・評 価しにくいために,積極的且つ適切な参加(消費資源を投入)を促すモチベー ションは形成されにくいであろう。この結果,顧客はデリバリー・プロセスに おいて彼らに期待されている役割を十分に果たさないことにより,そこで形成

(17)

17  便益遅延型専門サービスの消費における顧客満足問題 ‑]7‑

されるサービス品質も低水準に留まる可能性がある。 この場合,顧客はその原 因を彼ら自身にではなく, サービス組織やその従業員に帰属させる傾向がある ために, サービス組織や消費経険に対して不満足を形成することになる。 しか

しながら, この評価はサービス組織やその従業員の潜在的な品質形成能力を反 映したものではないと言える。 この顧客の参加(消費資源投入)の不十分さが

もたらすサービス組織あるいはその従業員の潜在的な品質形成能力の隠蔽は,

当該顧客の不満足形成やそれによる離脱を招くだけでなく,不満足がネガティ ブなロコミとして発信されることで,顧客側の原因によってサービス組織のブ ランドや従業員の評判が傷つけられてしまうという危険性まで革んでいる。

ところで,顧客の亨受する便益の観点からサービス品質を捉えると,図 3の ような 3次元によって構成されていると考えることができる。すなわち,結果 品質は「問題解決力Jの次元として,過程品質は「消費資源の節約力」の次元 と 「情動の創出力/低減力」 の次元から構成される平面として捉えることがで きる。

問題解決力

(結果品質)

大

消費資源投入の節約力

大

過程品質平面

情動の創出力/低減力

図3 : 顧客の享受する便益の観点からみた品質の構成次元

(18)

‑]8‑ 香川大学経済論叢 18 

「間題解決力」とは,サービスの利用動機となった基本的ニーズを満たす便 益の提供力である。顧客がサービスを選択・消費しようとするのは解決を必要 とするなんらかの間題を抱えており,それを解決するためである。したがっ て,この次元はそのような基本的ニーズの充足度でもある。医療サービスの場 合には,疾病を治療する能力,あるいはその治癒度である。

「消費資源投入の節約力」とは,サービス・デリバリー・プロセスのデザイ ンによって,サービス消費から望む便益を享受するために顧客が投入しなけれ ばならない消費資源が節約される程度である。たとえば,セルフサービス化に よる金銭や時間の節約,施設のレイアウトや設備・機器のデザインによる肉体 的・精神的エネルギーの節約,あるいはデリバリー・プロセスの標準化と単純 化による知識や技能の節約などが図られる程度である。デリバリー・プロセス のデザインが導く消費資源の節約が大ぎくなるほど,顧客は他の消費や活動に より多くの消費資源を振り向けることができるようになるために,顧客はその ようなデリバリー・プロセスを高く評価するであろう。

また,「情動の創出力/低減力」とは,デリバリー・プロセスにかかわる物理 的環境や参加者(サービス組織の経営者,従業員および顧客)が顧客にポジティ ブな情動を喚起させる,あるいは顧客の喚起したネガティブな情動を低減させ

(12) 

る程度である。テーマパークやリゾートホテルのような常態向上型サービスで

(12)  「常態向上型サービス」と「常態回復サービス]は,便益としての変化の方向性で分 類したサービス類型である(藤村, 2006)。「変化の方向性」とは,便益としての変化を 受ける対象の,サービス・デリバリー前の状態とデリバリー後の状態によって規定され るものである。サービス・デリバリー前の状態としては「常態Jと[常態を下回るネガ ティブな状態Jが,サービス・デリバリー後の状態としては「常態」と「常態を上回る ポジティブ状態Jが考えられる。そして,正常な状況でサービス消費が発生する場合,

サービス・デリバリーは,「常態Jか ら 「 常 態 を 上 回 る ポ ジ テ ィ ブ 状 態Jへの方向,あ るいは「常態」から「常態」への方向,「常態を下回るネガテイプな状態」から「常態」

への方向,「常態を下匝るネガティブな状態」から[常態を上回るポジティブ状態」へ の方向,のいずれかを達成するために行われる。「常態」から「常態を上回るポジティ ブ状態」への方向と「常態を下回るネガティブな状態」から「常態を上回るポジテイプ 状態」への方向のサービスを,「常態向上坦サービス」と定義している。また,「常態J

から「常態Jへの方向のサービスを[常態の維持型サービス」,「常態を下回るネガティ ブな状態」から「常態Jへの方向のサービスを「常態の回復型サービス」と定義している。

(19)

19  便益遅延型専門サービスの消費における顧客満足間題 ‑19‑

は,デリバリー・プロセスにおいてポジティブな情動(驚ぎ,喜び,わくわく 感,リラックス感など)を喚起させることが消費経験の質を決定するのに対し

て,医療サービスや修理サービスのような常態回復型サービスでは,デリバリ ー・プロセスにおいて顧客が喚起しているネガティブな情動(不安,あきら め,失望など)を低減することが消費経験の質を決定すると考えられる。

そして,過程品質は「消費資源投入の節約力」と「情動の創出力/低減力」

という二つの次元から構成される面積として定義・測定することができる。こ のことから,サービスのデリバリー・プロセスに関して両次元の評価が高いほ ど,過程品質平面の面積は大きくなり,過程品質は高く評価されていると考え られる。これに結果品質の「問題解決力」を加えるならば,サービス品質は 3 次元によって構成される直方体の体積として定義・測定されることになる。た

だし,休積として表現されるサービス品質は同じであっても,その形状によっ て品質評価や顧客満足の水準,さらに顧客ロイヤルティに及ぼす影轡は異なっ ていると考えられる。たとえば,高さ(問題解決力)の低い直方体は利用動機

となった基本的ニーズを満たす便益の提供が不十分であるために,底辺の面積 が広くても,高い品質評価や顧客満足,顧客ロイヤルティを導くことはないで あろう。また,間題解決力と消費資源の節約力は十分に高いとしても,ポジ ティブな情動の創出あるいはネガティブな情動の低減力が十分でない場合も,

高い顧客満足や顧客ロイヤルティは期待できないであろう(藤村, 2002, 2006)。 したがって,直方体の休積と形状が,顧客の享受する便益の観点から捉えた品 質評価,顧客満足およびロイヤルティの病さを決定することになる。

なお,「消費資源投人の節約力」は,一般的には顧客の知覚する過程品質の 伺上を導くと考えられるが,肉体的および精神的エネルギーという消費資源投 入の節約については,短期的な視点では顧客にとって恩恵をもたらすように見 えるかもしれないが,長期的な視点では弊害をもたらす危険性を芋んでいる。

このような問題は,顧客のデリバリー・プロセスヘの参加の積極性と適切性が サービス品質の形成において重要なサービス,たとえば教育サービスや医療サ ービスなどにおいて起こりやすいであろう。教育サービスの場合には,顧客で

(20)

‑20‑ 香川大学経済論叢 20  ある学生が積極的且つ適切に講義に参加しても,予習と復習を積極的且つ適切 に行わなければ,高い教育成果を期待することはできない。つまり,講義への 参加や予習・復習に投入すべき消費資源の節約を促すということ,たとえば講 義への出席や予習・復習が行われなくても単位修得ができるような評価システ ムや簡単な試険の採用は,講義に投入すべき消費資源を削減し,他の活動(ア ルバイトやサークル活動)に投入できるようにすることから,短期的には学生 にとって恩恵があるように映るであろう。しかし,長期的な観点(あるいは教 育の本質を評価できる専門的知識・技能を保有している人の視点)では,その ような消費資源の節約は知識や思考能力の向上を妨げるために,結果品質(問 題解決力の習得)は低い水準にとどまるであろう。さらに,デリバリー・プロ セスでポジティブな情動(興味・興奮,喜び,驚き,誇りなど)が喚起される 機会も少ないために,過程品質空間も小さくなり,そのような教育サービスは 低品質のもの(高さが低く,底面の面積も小さいことにより,休積は小さいも の)として知覚されるであろう。

同 様 に 医 療 サ ー ビ ス の 場 合 で も , 手 術 後 の 苦 痛 を 患 者 に 感 じ さ せ な い た め に,病院側が息者自身が身体を動かさなくても(活動しなくても)済むように デリバリー・プロセスをデザインするならば,患者は肉体的および精神的エネ ル ギ ー の 投 入 を 節 約 で き こ と か ら , 手 厚 い 看 護 の 病 院 と し て 評 価 す る で あ ろ う。しかし,手術後における患者の活動開始時期と量が患者の回復速度に影響 を及ぽすと言われているので,このように患者の肉体的および精神的エネルギ ーの節約を促すならば,回復に時間がかかることになる。手術後のどの時点か ら患者が身体を動かし始めるのか(自分で歩いてトイレに行ったり,食事を取 り に 行 っ た り す る ) , そ し て ど の 程 度 そ の よ う な 活 動 を 積 極 的 に 行 う の か に

(13) 

よって回復速度が異なるために,患者の消費資源節約を促すようなデリバリ ー・プロセスのデザインは医療サービスの便益としての変化(結果・効果)を 低水準に留めてしまう危陰性がある。ただし,この医療サービスの過程品質に ついては,先の教育サービスの場合とは異なっている。患者が動かなくても済 むように看護師などがやさしく対応することはネガティブな情動(苦痛)を低

参照

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