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諷刺の姿勢 -Aldous Huxley の Brave New World について-

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諷刺の姿勢

‑Aldous Huxley の Brave New World について‑

清田幾生

Aldous Huxleyは科学に関して豊富な知識と大きな関心をもっている作家 であるが,それが科学の進歩に対する強い不信の念に裏打ちされていることは 興味深い.彼の作品に於て科学についての言及がなされる場合,初期の小説に 於ては主として科学と個人の関係という観点から取扱われている.それは,第 一次大戦後の,過去の伝統的な秩序と価値基準が崩壊した,あの「絶望と不安の 時代」を背景に,科学が個人にとって一つの価値基準となりうるか,という問 い方でなされている.中期以後になると,科学と社会という観点から考えを進 めてゆく場合が多い.それは, 1920年代のヨ‑ロッパに見られる新しい政治体 制に対する彼の鋭敏な反応に始まるものであるが,その社会意識の中にも,常

に個としての人間に対する思索が中心になっていることは言うまでもない.

中期の初めに書かれたBrave New Worldは, Huxleyの思想の転換期 を示す訊刺小説である.この小説を作るにあたっての作者の第‑の意図は,料 学文明のもたらす安易な生活を盲信する楽天家に対する警告であろう. 20世紀 に入って科学は高度の発達を見せたが,科学が人類の平和目的の為に応用され

ても,そこには必然的に人間性を剥奪するものが潜んでいることを,作者は何 よりも指摘したかったに違いない. Brave New Worldに於てHuxleyは現 代の自然科学の発達の様々な傾向を,その極限にまでおしすゝめてゆき,それ

を未来に投射することによって一見理想的な架空国を設定する.こうして完全 な合理主義にもとづくユートピアが出来上るが,作者はこの「新世界」が実は 人間の機械化と奴隷化によって実現していることを指揺する.そうすることに よってこの「新世界」に通じる現代社会に於ける文明を訊刺するのである.

Huxleyは,物事にとらわれない態度で辛洙な訊刺をする作家である.

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Brave New Worl(自こ於ける訊刺が,彼にどうして可能であったか,そして ま'た彼の内部に於てそれは如何なる意味をもつのか,それをみてみたい.

Brave New Worldに於て作者は現代より約600年後に世界を設定してい る.そこでは世界国家が出現しており,その標語は, ̀Community, Identity, Stability'である.ユートピアに於ける幸福がまず第一に社会の安定にあると すれば,それは整備され統一された組織が生み出すものでなければならない.

この新世界の第一の特徴は,人間は最早母体から生れる胎生動物ではないとい うことである.人間はすべて切除された卵巣の卵子を人口受精させることによ って,科学的に卵字化培養されて作られる.従ってこの新世界では,現代に於て 大問題である天然資源と人口の不調和による危険は全くない.社会に必要な数 だけの人間を製造すればよいわけである.

こうして作られた人間の社会は,整然としたカースト制度によって成立って いる.指導者的地位にある最高の知識階級であるalphaから,人間的知性を 必要としない労働に従事するepsilonまでの五階級に分れている.しかしこ の五つの階級の間には,社会の不安定をまねくような摩擦,闘争は何ら起らな い.人間が卵字化器の中の受精卵である時より成人するまで,様々な生物学的心 理学的な処置がほどこされるからである.人間を製造する工場には,階級予定 室というものがあって,そこではそれぞれの階級に属するよう予定された受精 卵に,様々な化学的物理的影響を与えることによって将来出来上る人間の頭脂 と肉体に階級的な相違が出来るようにする.こうして,階級が下るにつれて精 神的にも肉体的にも劣性の素質をもった人間を作り出すのである.また人間を 製造する工場には,下層階級用のポカノフスキー法という製造方法が行われて いる.これによって,一つの卵子から最高96人の人間が作られる.彼らは精神 的にも肉体的にもidenticalな条件をそなえているので,一つの工場内での

同じ仕事にきわめて好都合だというわけである.

製造された人間は嬰児期,幼児期に,将来の社会生活に適合するように(つ まり指導者にとって都合がよいように)心理学的なconditioning (条件づけ) が行われる. 「新パヴロフ式条件づけ」には色々あるが,たとえば赤ん坊に花

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と絵本を見せ,それと同時に電気ショックと激しい騒音を与える.これを何度

も繰返すと以後彼らは自然美と書物に対して本能的に恐怖を抱くようになる.

自然美愛好と読書は,非消費的な行為であり,また生産に必要な貴重な時間を 浪費させるものでもあるので,この条件づけは組済政策上必要なものなのであ る.また鮭眠教育法というものがあって,これによって幼児期に社会生活に必 然な道徳をたゝきこむ.隆眠教育法とは,心理的な抵抗が弱くなった睡眠時 に,ある事柄を反復して語りかけ,以後暗示した通りのことを行わせる方法で ある.この新世界ではこれが幼児鄭こ性教育や階級意識の徹底の為に行われて おり,暗示された事柄が成長した人間の思索や行動の基準となっている.従っ て各個人は自分の属する階級に疑問を抱いたり,他の階級を羨望したりするこ とはなく,自分の属する階級とこのカースト制度に満足している.こうしてそ れぞれの階級にふさわしい遺伝と環境が与えられるのである.

この社会では,人間が婚化器の中で製造されるので,母親と父親の存在はな くなっており,従って家族制度は見られず,物は共有することになっている.

個人的に必要な物以外私有物は認められず,生活に必要な物資は一つの階級間 では凡て均等に分配支給される.大多数の女性は人間製造の過程で不妊症にし てあり,また避妊薬が完備しているので,母親となる危険はなく性は完全に開 放されている. ̀Everyone belongs to every one else'という格言通り promiscuityがこの社会の道徳となっている.こうしてこの世界の標語の一 つ̀Communityは実現する.

社会の安定は個人の安定なくしては不可能なので,個人の凡ゆる欲望はたゞ ちに満たされるようにしてある.それを満足させる様々な科学的な娯楽施設が 完備している.個人の内部に彰穣した欲望は,激しい感情をもたらし,ひいて はそれが社会に対する反抗となる危険がある.そこに, promiscuityや完備 した娯楽施設の意味がある.加うるに心理学と生理学を駆使して考案された宗 教もある.概械文明の象徴であるFordが神であり,この宗教は社会に対す

る信念や連帯感情の強化のために利用される.

それにもかゝわらずこの世界の人間には個人的な感情が起りうる.やがては 社会制度に対する疑問となる可紹性のある不快感,懐疑,激しい感情などが個

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人の心に起った場合, somaという薬品が用意されている.この妙薬を一口服 むと,様々な個人的感情は直ちに消散し,爽快な気分になることが出来る.多 量に服用すると法悦的な至福感が得られるようになっている・①この為に人 々は老齢(と言っても生物学的処置により精神肉体とも青年と同じなのである が)による死をも恐れない.

こうして・この新世界の標語̀Community, Identity, Stabilityは殆ど完全 に実現している.そしてその住民連は自分の置かれた状態にすっかり満足しき っている.彼らは,自分の欲望は凡て叶えることが出来,また叶えることの出 来ないような欲望は最初から感じないように条件づけられているからである.

一見理想国とも見え,またその住民が至上の幸福を享楽しているかに見える この新世界の指導者の一人Mustapha Mondは,幸福は犠牲なくしては得ら れない,と言うが,この新世界の幸福は一体何を犠牲にして成立っているか.

言うまでもなくそれは,個人が犠牲となっていることを感じとる力,人間らし い感受性, ‑個性,個人のもつ自由意志であろう.人間らしい感情が許されない 以上,この世界には精神文化はあり得ない.真の意味での芸術,宗教は最早不 要のものとなっており,科学的研究もすでに社会の安定に必要な知識と技術が 得られている為必要とされない.新しい原理が発見されて現在の社会制度を揺

るがす危険が起るので,この社会に関係のない学問的探究はむしろ禁止されて いる.新世界の人類はその「幸福」を得た代償として人間性と自由を失ってい

る.

この訊刺小説が書かれてから26年後に作者はBrave New World Revisited という論文を発表しているが,これによってBrave New Worldに於ける現 代の社会制度に対する批判は一層明らかとなる.この小説の書かれた頃の背景 に, 1920年から30年代にかけてのヨーロッパに見られる全体主義的政治体制の 激しい動きがあり,全体主義を目指す独裁者が進歩した科学の成果を利用する なら,恐るべき世界が実現する可能性があることを作者は想定したのである.

Brave New Worldに描かれている架空国の社会は,それが実現した社会で あるが,こゝには独裁政治の直接的な恐怖に描かれていない.それが完成した 後の,もっと根本的な人間性喪失に作者の意図があったのである.

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この新世界の非人間性を指絶する手段として,作者はJohnという人物を対 置する.新世界のNew Mexicoの一郭に未開人の部落が,博牡飴的存在とし て旧来の生活様式そのまゝ保存されている. Johnは新世界の住人と違って,

° ° ° ° ° °

このPueblo IndianのReservation (未開人保護区域)で母親から生れ,

「条件づけ」も受けず,他の野蛮人と同様に育てられた現実世界の人間であ る.彼はふとしたことからShakespeareを読んでおり, Shakespeare風の 振幅の大きい人間観が彼の人間解釈の尺度の凡てである.彼は神を信じ,自由 とheroismを尊び,愛憎の度合の激しい人物である.この「高貴なる野蛮人」

はたまたま彼の育った部落から新世界へつれて来られる.文明の毒をあびてい ないJohnは,科学文明の極致を示す新世界に対して激しい反応を示す.以前 は話にきいた新世界に対して慣れを抱いていたが,彼はこゝへ来てその実際の 姿を見て失望する.新世界の住人達は最早人間としての尊厳性を失っている.

彼らは凡て規格化され,画一化され,その奴隷状態に満足しきっている.精 神の独自性が許されないため, Johnの心を昂揚してくれるものは何もない.

愛は性にとって代られ,住民はpromiscuityを享楽している.新世界に対し て抱いていたJohnの憧憶はたちまち嫌悪に変った.

最初の長篇小説Crome Yellow ('21)からPoint Counter Point ( 28) までに於てHuxleyが描いてきたことは,現代人の方角喪失であったと言え るであろう.彼はPoint Counter Pointの序文代りに, Fulk Grevilleの 詩を引用しているOh, wearisome condition of humanity,/Born under one law, to another bound,/Vainly begot and yet forbidden vanity,/

Created sick, commanded to be sound./What meaneth nature by these diverse laws,/Passion and reason, self‑division's cause?この詩 の最後の行がHuxley小説の主題を説明している.彼の小説に於て,現代人 の頚廃や破局が描かれる時には,それは̀passionと̀reasonの離反,そし てそれが必然的に斎らした自我の分裂,という形で捉えられているのである.

この図式は,たとえば霊と肉,精神と肉体,理想と現実,という風に様々な角 度からあてはめられるが, Huxleyがこういう図式で人間を捉える態度が,ち

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ともと彼自身の内部の分析を通した結果によるものであることが注目されよ う.彼は自分自身についてこう語っている.

Congenitally an intellectual, with a taste for ideas and aversion from practical activities, I was always quite at home among the academic shades.ゥ

Huxleyにとっての根本問題は,その前期にあっては結局知識人としての生 活態度にあったと思われるが,彼はすでにCrome Yellowに於て,この問題 を上の図式で説明しながら,軽い形で提出している.この小説の主人公Denis 青巨丈,多くの知識を身につけて世間へ出てきたが,それは実生活に於ては 何の役にも立たず,彼は事あるごとにつまずきを見せる.もともと性格的にあ まり自信を持っておらず,他人との情緒的な人間関係をうまく作ることが出来 ず,いつも人間づきあいから幾分隔離された状態にいる.

One entered the world, Denis pursued, having ready‑made ideas about everything. One had a philosophy and tried to make life fit into it. One should have lived first and then made one's philosophy to fit life Life, facts, things were horribly compli‑

cated; ideas, even the most difficult of them, deceptively simple. In the world of ideas everything was clear; in life all was obscure, embroiled.㊥

こんな風に述懐する自意識過剰のDenisはこの小説では作者によって軽く 梯掩されているが,このDenis青年には多分に作者の投影が感じられ,従っ てDenisを抑旅する作者には,半ば自喝的な姿勢すら感じられる. Huxley の長篇小説には殆ど常に作者自身の投影を強く受けた人物がいて,彼らの共通 点をあげると,知性人であること,行動力がないこと,人間関係から幾らか疎 外されていること,などである. Crome Yellowに於てほ軽い程度であった

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が, Point Counter Pointに於てHuxleyは.自画像的人物Philip Quarles を通して知識人として自己の態度の問題をもっと深く,真剣に考えている.

Philipの知性と分析力は彼に人並みすぐれて大きな理解力を蘭らしてい る.しかし彼の理解の仕方は冷たい理知だけによるもので,それには温かな sympathyを伴なわない.彼は様々の事柄を分析し,整理し,理解するが, その過程には共感や直感の力が欠けている.従って彼の知性は彼の生活に何も 蘭らさない.彼は人間同士が接触する日常生活ではいっも気持が落ちつかず, 感情的に異邦人となっている.自己の内部で̀reasonが不当に̀passionを 抹殺していることを慨くPhilipは,知性の行きづまりを切実に感じて脱出を はかる作者の姿であろう. Philipは,懐疑的で知的な傍観者にすぎない自己 の生活の姿勢の弱きを痛感する時,ノートにこう書きとめる.

Living's much more difficult than Sanskrit or chemistry or economics. The intellectual life is child's play.④

Philipは自分の理想とする生活態度を友人のRampionのうちに見出す.

生の互に矛盾する様々な現実を, Philipはその一部分しか生きていないのに, Rampionはそのまゝ受入れ,そのまゝ生きている. Philipの目から見れば, Rampionは,知識や思想に毒されず, ̀reasonと̀passionを調和させて, 激しいが全的な生活態度を示している.

RampionはHuxleyが友人のD. H. Lawrenceをモデルとして描いた 人物だと言われている.この二人の親密な交友は,それぞれの生れた環境,莱 質から言っても非常に対照的であっただけに興味深い. Huxleyは知的で冷 静な懐疑家であったが, Lawrenceは内に激しい天才をひめた,本能的な直観 力の持主であった. Lawrenceの死後Huxleyは「Lawrence論」を書き,

この友人の天才を分析しているが,これでもわかる通り,二人の交友で強い影 響を受けたのはHuxleyの方である.もとより彼の極度に分析的な知性から 見れば, Lawrenceの熱情は時には滑稽に見えることもあったと思われる.

Huxleyの初期の小説には, Lawrence像とおぼしき人物が描かれているが,

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それはnegativeな本物像であり,作者の辛錬な訊刺の対象となっている・① しかしHuxleyがPoint Counter Pointで彼を初めてpositiveな人物と して描かなければならなかったことは,たとえRampionの描き方に失敗は あるとしても, Huxleyの自己の姿勢の行きづまりを自覚する度合の強さを物 語っていよう.

Philipが自己の姿勢の限界を̀passion'の無視の上に成立っている̀reason に見たように, Rampionはこの図式を彼の外部,つまり現代の社会や文明に

あてはめる. Rampionは(つまり作者のHuxleyは) ,現代の混乱と破綻 の第一の原因を複雑で多様な生を理性で割りきろうとした所に見る.合理主義 にもとづく科学文明,それを助長する産業主義,精神の重要性のみを強調する 宗教,これらが人間の肉体と本能を無視していることが,現代人の衰弱,卑茶 化,機械化を招いていると言うのである. Rampionの現代文明弾劾は激烈 で,彼はこれに対抗するのに,生の̀wholeness'(全体性)を取りもどすこと

から始めるべきだと主張する.

HuxleyはDo What You Will ('29)の中で現代文明の傾向の分析を行 っているが,その中でこう言っている.

The real trouble with the present social and industrial system

is‥‥ that it makes life fundamentally unlivable for all. Now

that not only work, but also leisure has been completely mecha‑

nized; now that, with every fresh elaboration of the social organization, the individual finds himself yet further degraded from man food towards the mere embodiment of a social function;

now that ready‑made, creation‑saving amusements are spreading an ever intenser boredom through ever wider spheres,‑‑existence has become pointless and intolerable.㊨

現代社会に対するHuxleyのこういう不安感が彼にBTa乙e New World を書かせることになったのであるが,引用した部分は,そのまゝ新世界の状態

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でもある.たゞ新世界の住民は人間的な感情を失っている為, boredomにお ちいらずに済むのである. Do What You Willの中で, Huxleyは,こう いう現状に於て生の̀wholeness'をとりもどす生き方の指針として̀life‑

worshipper'(生の讃美者)説を展開している.現代人の人間性喪失,方角喪 失が̀self‑division'にあるとすれば, ̀passionと̀reasonを調和させ,充 分に発揮して,十全な生を志ざさねばならないと説くのである.彼が, ̀If one

・サ..

would live well, one must live completely, with′the whole being‑

with the body and instincts as well as with the conscious mind.'⑦と 述べる時,こういうことがHuxley自身にとって実行にうつすことが可能で あるかどうかほ別として,こゝには,肉体のもつ原始的なもの,本能的なもの

‑悼‑を通し生の充実を主張したLawrenceの影響が強く見られるので ある.

Brave New WorldのJohn, the Savageは明らかにPoiナit Counter PointのRampionの後継者であると見なすことが出来よう. Rampionが

̀the unwholesome tameness of our world'㊥に我慢がならなかったよう に, Johnは新世界の住人の飼い馴らされたような奴隷状態に耐えられない.

真の幸福は, Johnにとっては,苦悩を通してしか得られないものである.彼 は魂の激しい動きの中に生の意味を見出している.新世界の住人の「幸福」

は,科学的教育,娯楽設備, promiscuity.個人の激情をなくするsomaなど によって容易に得られている.新世界に対する彼の嫌悪は怒りに変り,彼は反 抗を試みるが,それは殆ど無意味であった.この世界の指導者の一人とJohn が次のような問答を交わす場面がある.

̀But I like the inconveniences,

̀We don t,'said the Controller. ̀We prefer to do things

comfortably.

̀But I don't want comfort. I want God, I want poetry, I want

real danger, I want freedom, I want goodness. I want sin.'

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̀In fact,'said Mustapha Mond, ̀you re claiming the right to

be unhappy.

̀All right, then,'said the Savage defiantly, ̀I'm claiming the right to be unhappy.'

̀Not to mention the right to grow old and ugly and impotent;

the right to have syphilis and cancer; the right to have too little to eat; the right to be lousy; the right to live in constant appre‑

hensiori of what may happen to‑morrow; the right to catch typhoid; the right to be tortured by unspeakable pains of every kind.'

There was a long silence. ̀I claim them all,'said the Savage at last. (P. 197)

Johnは新世界の非人間的な状態から逃れ,淋しい場所で孤独の生活を送ろ うとする.しかし物見高い新世界の住人達は彼の「奇妙な」生活を見物におし よせてくる.この迫害に耐えきれず彼は狂気のうちに自ら猛れて死ぬ.

Johnの自殺によって作者の現代文明に対する否定的態度は一層鮮明になっ てくる.しかしJohnの世界に対する作者の態度はどうであろうか.新世界に 対して激しい嫌悪を抱いたJohnはReservationという原始的世界からの人 物である.原始的世界には,新世界に於て失われている個人的な感情はあって も,それ特有な迷妄,醜悪もある.作者はJohnの世界を描く時には,人間 の個性的な感情の崇高なものを描くと同時に,原始的世界にまつわるいまわし い面も描いている. Johnのheroismと表裏一体をなす奇妙なmasochism, Reservationに於ける生活の不潔, Johnの母親のむかつくような病気,など がそれである.これに対する作者の反応は,原始的世界の人間に対するものだ

けでなく,現実の人間の醜悪に対する反応と殆ど同じである.

Brave New Worldに於ても作者の投影を感じさせる人物をHuxleyは登 場させている.それは,新世界の住人で最高階級alphaに属するBernardで ある.彼はPoint Counter PointのPhilipがそうであったように,新世界

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に於ては感情の面で異邦人となっている.この世界の最高階級の者にふさわし くすぐれた知性をもっているが,肉体的には下層階級に属する人間と同じよう に背がひくゝ,色も黒い.これについては,彼がまだ胎児として醇化器の中に

いる時,係員がalpha階級の者となるべき彼をdelta階級のものと間違え て,その血液代用液にアルコールを注入した為だと噂されている.㊥彼はその 為に劣等感を抱いているが,個人的な悩みがあるのにそれを解決してくれる妙 薬somaを服もうとしない時がある.また彼は新世界のあり方に疑問を抱き, 皆から変人扱いを受け,軽蔑と噸笑の対象となっている.このBernardが New MexicoのReservation ‑行ってJohn, the Savageを新世界につれ てくるのである.

Bernard looked, and then quickly, with a little shudder, averted his eyes. His conditioning had made him not so much pitiful as profoundly squeamish. The mere suggestion of illness or wounds was to him not only horrifying, but even repulsive and rather

disgusting. Like dirt, or deformity, or old age. (P. 114)近+

原始的社会に育ったJohnの頭の傷あとを見てBernardがおのゝくのは, あながち彼が受けた「条件づけ」だけのせいではないと思われる.こゝには多 分に作者の感情が込められていて,人間の醜悪さに対して異常な関心を抱き,

それと同時にそれに嫌悪を示すHuxleyの態度がうかゞわれるのである.従 って,科学文明の全くない原始的社会から来たJohnほ,科学文明に対する 批判という点に於ては作者の肯定を担った人物であるが, Johnだけの世界に ついては,むしろそれが逆である度合が強いと言わねばならないPoint Counter PointのLawrenceを思わせるRampionの後継者が, John, the Savageであることは前にも述べたが, Rampionの人物描写には極めて軽度 の訊刺はあっても,作者側からの全幅の賛意がこめられていた.しかしJohn に於て, Rampionの主張した生の̀wholeness'は多分にその意味を失ったの である.現代に於ける精神文化と,原始的社会に於ける肉体や本能を通しての

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生の充実感を調和させ,共存させようとねがったHuxleyの意図は,その結 末がこゝに暗示されているように思われる.

HuxleyはBrave New World刊行の二年後に, Mexicoに旅行し,樵 々な地方をまわっているが,その旅行の記中でこう述べている.

The advance from primitivism to civilization, from mere blood to.mind and spirit, is a progress whose price is fixed; there are no discounts even for the most highly talented purchasers. I thought once that the payment could be evaded, or at least very greatly reduced; that it was possible to make very nearly the best of both world. But this, I believe, was a delusion. The price that has to be paid for intellect and spririt is never reduced to any significant extent.⑩

Johnの自殺は,従って,ある意味ではLawrence的世界‑の訣別を意味 し, Huxleyの思想の転換を物語ることにもなるのである.そしてJohnの 世界の描写に見られるように, Huxleyにあっては,思想的な否定に,生理的 な否定が先立つのも興味深い事実である.

Brave New Worldは決して重苦しい作品ではなく,I.む・しろこの作者に特 有な軽妙な機智が随所に見られる小説なのであるが,それ正もかゝ̲わらず,こ れを書いた当時の作者の内部は極めて暗くpessimisticなものだと言わね ばならない.こゝには新世界に見られる人間性喪失を選ぶか,またはJohnの ように狂気を選ぶかの二つの道しかないのである.作者はこの二者択一の問題 にもとより解答を下していないが,これは作者に於てこれに対する第三の世界 が,この小説が書かれた時期にまだ確立していなかったからである. Huxley がこの第三の世界への足がかりを得たことを示すのは,次の作品Eyeless in Gazaに於てゞある.

Point Counter PointのPhilipは,自己の内部̀reason'が̀passionを sterileなものにしてしまっていることを欺いたが, Brave New Worldの

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新世界も, ̀reasonが1̀passionを消滅させL,まセわずかながら残っている

̀passion'は'Reservationの中に閉じこめてしまっている. Alexander Hendersonが指摘する‑ように,新世界の恐るべき状態は! ̀a reflection ofa phase of emotional coldness in 〔Huxley〕 himself, a sense of emotion‑

al inadequacy, of sterility'⑪なのであろう. Brave New Worldの訊刺

I

を可能にしているものは,この内部と丸部のこらの世界の同質性にあると思わ

・Jy・ 1

れるが,それと同痔に, pessimisticではあlっても自己の姿勢の行きずまりを 打開しようとするHuxley:の誠実な内省にもよるのである. S. Ghoseは Huxleyの小説にあらわれる自画像的人物の性格的特微を̀conscience‑

stricken'⑲と言っているが,これは作者の,自己を見つめる良心的な姿勢を表 わしたものであろう.もとよりそれは単なる誠実さを通り越して,多分に病的 なpuritanismの域に達していることも否めない.そういう意味では,新世 界には疑問を抱き,原始的世界には嫌悪を感じたBernardが結局流刑の運命 にあうことは象徴的である.しかし,ともかくもHuxleyの訊刺を行なう態 度の裏には,自己の内部の歪みをあえてしてまでも,一つのvalueをその論 理の極端までおしすゝめ,追求する真筆な姿勢がよみとれるのである.

①後年Huxleyが服用してその幻覚を記録したmescalinを連想させる.彼はす でにMnsic at Nightでもsomaに類する薬を想像している.

㊨ Proper Studies (Chatto & Windus) p. 129 ゥCrome Yellow (Chatto & Windus) p. 24

@ Point Counter Point (Chatto & Windus) p. 443

㊥ Two or Three GracesのKinghamがその代表的な例である. Antic Hayの Lypiattもそう見てよいであろう.

ゥDo What You Will (Chatto & Windus) pp. 224‑225

∈) Ibid.

ョPoint Counter Point

④作者がBernardを劣った身体をもった人間としていることは理由なきことで

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ほないと思われる. Huxleyは16才の時ひどい眼病をわずらい,約3ケ月間は盲目 同然だったという.片方の目が,眼鏡を使えばかろうじて本がよめる程度にまでな ったのほ,彼が20才の時である.後年彼は,この眼病が自分に疎外感を抱かせる第 一の原且であったと言っている.因みにPoint Counter PointのPhilip Quarles は披足の人間として描かれている.

㊨ Beyond the Mexique Bay (Penguin Books) p. 219

㊨ Alexander Henderson; Aldous Huxley (Russell & Russell) p‑ 108

㊨ S. Ghose; Aldous Huxley, A Cynical Salvationist, p. 108

(昭和41年9月30日受理)

参照

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