圃 慢性副 鼻 腔炎に 対する 鼻内副鼻 腔手術の治療成績
一 一アンケート 調査 に よ る 自覚症状の評価から一一
志富田由佳 金村 章 布 村 進 作 小松島赤十字病院耳鼻咽喉科
Endonasal Sinus Surgery Fo r The Treatment Of Chronic Paranasal Sinusitis
一一
Evaluat i ono f Nasal Symptoms
一一Yuka SHIB UTA
,Akira KANAMURA
,Sinsaku NUNOMU R A
,D i v i s i o n o f Otolaryngology
,Komatushima Red Cross Hosp i t a l
要 旨
平成
3
年1
月から平成5
年12
月までの聞に、 慢性副鼻腔炎の鼻内手術を施行しアンケート返送を得た91
症例に 対し、自覚症状の分類評価表を用いて改善度を検討した。自覚症状の評価として、鼻問、鼻漏、後鼻漏、鼻のか みやすさ、嘆覚障害、頭童、肩こりの7
項目を提示し、a)
高度、b )中等度、 c )
軽度、d)症状なしの 4
段 階に分類した。a)
あるいはb )
と記載された項目は症状が重症と判定した。2
段階以上改善したものを著明改 善、 l段階改善したものを軽度改善と して改善率を求めた。鼻閉の改善率は86%
と最も高く、鼻問、鼻のかみやすさ、頭重の重症例は 48~75% から1O~15% と減少した。鼻漏、 後鼻漏の改善率は 69% 、 70%で、 高度例も 15%、
9 %
と減少したが、中等度例が約40%
を占め今後の課題である。
l臭覚障害の改善率は52%
、著明改善率は10%
と 低率であり、暁裂部病変の難治性がうかがわれた。鼻外症状である肩こりは21
例の高度例が術後5
例に減少して おり興味深い結果であった。鼻漏、後鼻漏では各6
例の悪化がみられ、適切な術後治療が必要と考えられた。キーワード:慢性副鼻腔炎、鼻内手術、嘆覚障害
はじめに 今回、当科で鼻内副鼻腔手術を受けた症例を対 象に、アンケート調査を行い、自覚 症状の術後の 当科では、慢性副鼻腔炎に対する手術的療法と 改善度について検討したので報告する。
して、上顎洞の粘膜病変を徹底的に除去する経上
顎洞的副鼻腔手術が主流であった時期を経て、 鼻 対象と方法 腔形態異常を修復し、 鼻内経由にて副鼻腔を開放
し、副鼻腔病変の治癒を目ざす鼻内副鼻腔手術が 行われている。経上顎洞的副鼻腔手術は上顎洞の 機能、形態を障害し、長期的には術後性上顎謹胞 を発生させ、更に顔面形態にとっては非整容的な 一面を有している。一方、慢性副鼻腔炎の軽症化 が唱えられ、qu
a l i t yo f l i f e
の向上が求められる 今日、鼻内副鼻腔手術は副鼻腔の機能、形態を温 存させ、 病巣を治療に導く手術法として普及して いる。6 慢性高IJ鼻腔炎に対する鼻内副鼻腔手術の治療成績
平成
3
年1
月から平成5
年1 2
月まで、に小松島赤 十字病院耳鼻咽喉科において、慢性副鼻腔炎の手 術を行った2 3 1
名に図1に示すアンケ
ー卜用紙を 送付した。返送のあった190名のうち、 鼻内副鼻 腔手術をうけた9 1
症例、1 5 3
側を今回の対象とし た。内訳は男性52
例、女性39
名で、年齢は1 6
歳よ り8 4
歳であり、新鮮例は77
例であった。残りの9 9
例はー側もしくは両側の経上顎洞手術が施行され ており、今回の検討より除外した。Komatush im a Red C r o s s H o s p i t a l Med i c a l Jou r n a l
下 記 の 症 状 の 中 で 、 あ な た に 当 て は ま る 記 号 に 丸 印 を つ け て 下 さ
L ' o
誌 当 項 目 が な い よ う で し た ら 、 空 白 で も 結 構 で す 。1)手 術 前 の 鼻 漏 (鼻水 )
a
) よ く 鼻 を か むb
)時々重量をかむc
) ほ と ん ど か ま な い d ) ま っ た く か ま な い2
) 手 術 前 の 後 鼻 漏 (鼻か ら 口 ヘ 落 ち る 疲 ) a ) よ く あ り 不 快 で あ るb ) 時 に あ り 不 快 で あ る c ) ほ と ん ど な い
d
) ま っ た く な い3)手 術 前 の 鼻 閉 {鼻づ ま り )
a
) 通 常 つ ま っ て い る b ) よ く つ ま るc
) 時 々 つ ま るd
) つ ま ら な い4)手 術 前 の 鼻 の か み や す さ
a
) か ん で も な な な か 出 な い b)強 く か め ば 出 るc
) 普 通 に か め ば 出 る d ) ま っ た く か ま な い5)
手 術 前 の に お い の 障 害a
) ま っ た く に お わ な い b ) 少 し だ け や っ と に お うc
) だ い た い に お う d ) ょ く に お う6
) 手 術 前 の 頭 重 ( 頭 痛 )a
) 仕 事 が で き な い ほ ど ひ ど いb
) た び た び 起 こ るc
) 時 々 気 に な る 程 度 d ) ま っ た く な い7
) 手 術 前 の 肩 こ りa
) ひ ん ぱ ん に お こ るb
) 時 々 お こ り 気 に な るc
) ほ と ん ど な い d ) ま っ た く な い1
) 手 術 後 の 鼻 漏 a )よく 鼻を か む b ) 時 々 鼻 を か むc
) ほ と ん ど か ま な い d ) ま っ た く か ま な い2
) 手 術 後 の 後 鼻 漏 a ) よ く あ り 不 快 で あ る b)時 に あ り 不 快 で あ るc
) ほ と ん ど な いd
) ま っ た く な い3
) 手 術 後 の 鼻 閉a
) 通 常 つ ま っ て い る b)よ く つ ま る c ) 時 々 つ ま る d ) つ ま ら な い4
) 手 術 後 の 鼻 の か み や す さa
) か ん で も な な な か 出 な い b ) 強 く か め ば 出 るc
) 普 通 に か め ば 出 るd
) ま っ た く か ま な い5
) 手 術 後 の に お い の 障 害a
) ま っ た く に お わ な い b ) 少 し だ け や っ と に お うc
) だ い た い に お う d ) ょ く に お う6)手 術 後 の 頭 重 ( 頭 痛 )
a
) 仕 事 が で き な い ほ ど ひ ど いb
) た び た び 起 こ るc
) 時 々 気 に な る 程 度d
) ま っ た く な い7
) 手 術 後 の 肩 こ りa
) ひ ん ぱ ん に お こ る b ) 時 々 お こ り 気 に な る c ) ほ と ん ど な い d ) ま っ た く な い図
1
自覚症状の評価のために患者自身に記入させる用紙 (板倉康夫9)より改変)VOL.1 NO. 1 MARCH 1996 慢性副鼻腔炎に対する鼻内副鼻腔手術の治療成績 Y
術前
1 4
閉得iil:
. ,
::jJ立.殴麹1114J
. r t
持1前 陵思軒!立
l\~のかみやすさ 」 区ヨ ~E状なし
術後
術後
政重
~H長
20 40 &0 80 100
図2 自覚症状3項目の手術前後の比較
方法 として は自覚症状の分類評価表を作製、鼻 漏、 後鼻漏、 鼻問、鼻のかみやすさ、臭 いの障害、
頭重く 、肩 こりの 7 項目 を提示 し 、 各項目の重症 度を 4 段階に分類 した。重症度評価ではアルファ ベッ ト の a 、 b 、
C、 d 、はそれぞれ高度、中等 度、軽度、症状なしに相当する 。 a ある いは bと 記載された項目 は症状が重症 と判定 した。
結 果
1 . 手術前後の症状の分布
鼻問、鼻のかみやすさ 、頭重の 3 項目における 術前後の重症度の分布 を比較 した ( 図 2 )。鼻閉 では 8 0 % を占める重症例が術後約 1 0 % と激減 し て お り 、 鼻のかみやす さ、頭重にお いても重症例 は 1 5 % 未満であっ た。次に自覚症状の軽減が困難で あ った 4項目 について 検討 した ( 図 3 )。術後、
五l漏 術 前 術植
後五l
漏師
耐{主
l県覚障害師
伸H査
肩こり ;;
一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一必 閣制
‑ ー電!絡鴇騎禄紙混線湾義
1
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'0 '0 60 80 100
‑ 高度 ̲
' 1 l
等皮 区画 軽度 医盟症状なし図
3
自覚症状4
項目の手術前後の比較8 慢性副鼻腔炎に対する必内副鼻腔手術の治療成績
~:,\.IXJ 11足立川"(1'; h jこり
88問 83例 76同
‑ オ干名改j再 臨
m
改汽匪圏不安 仁コ 悪化
図
4
自覚症状の改善率鼻漏、後鼻
j席 、
l県覚障害 ともに 高度例は著明に減 少 し たものの 、中等度例が約 4 0 % を占める ため 、 約半数が重症例と残る結果 となっ た。肩 こりにつ いては 2 1 例の高度例が術後 5 例と減少した
。2
.症状の改善度自 覚症状の改善度を求めるため 、 2 段階以 仁改 善 した ものを著明改善、 1 段階改善 したも のを軽 度改善、一定のものを不変、その他を悪化 とし て 検討 し た(図 4 、 5 )
。鼻聞は改善率 86% 、著明改 善率 52% と 最 も高率であり 、唄覚障害 は改善率 5 2
%、著明改善 率 1 0 % と鼻内症状では最も低率で あった。鼻外症状である 肩 こりの著明改善率は 6
%、改善率は 5 2 % であっ た。鼻
j席 、後鼻漏、鼻の
ムi漏 後LItf漏
ぷぢ
・
E・ ・ . 者1りJ改普
圏 改一円
堕習不変
喜志E忌μ,
.
. 1
制 86時f回 恕化
必のかみやすさ 頭重
86例 73嗣
図
5
自覚症状の改善率かみやすさ、 頭重の著明改善率は 22%~36% であ り、 改善率は 69%~71% であった。肩こ りの改善
率は 52% であった
。鼻漏、後鼻漏の各6
{7IJに症状 の悪化がみられ た。
考 察
当科では ここ 数年慢性副鼻腔炎 に 対する根本手
Komatushima Red Cross Hospital Medical Journal
術は激減 しており、 高 j I 鼻腔の形態、機能を温存す る 鼻内副鼻腔手術が主流 になってきている
。上場i
洞経由の根本手術は治療効果及び術後性上顎嚢胞 の発生、術後顔面形態の変貌、頬部しびれ感の残 存等のいくつかの間題点が指摘されてきた。当利 での鼻内副鼻腔手術 は高橋の提唱 する
鼻腔整復術
1)に準じ、 鼻腔形態異常を修復、整復して鼻 内気流動態の改善を計り、副鼻腔における換気 と排池を正常化させ病変を治癒させるいう考え に基づくものである 。手術の手順は、 鼻 中隔 湾 曲症、中隔結節、下鼻甲介の病的肥厚等 の鼻腔 抵抗を増大さ せる 諸因子に対し 、それぞれ鼻 中 隔矯正術、結節切除、下鼻甲介粘膜切除および 下鼻甲介骨の外側方骨折 を施行し鼻内気流動態 の改善を計る
2) 3)。更に、副鼻腔の病変程度により 鼻内経由 で当該副鼻腔を開放し 交通路 を設 け、可能なかぎり病的粘膜のみにつき剥離除去 すること を基本にし てい る。
今回の検討結果で は 、 患者の主訴と して最も多 い鼻閉症状は改善率 86% と極めて良好であり、 鼻 のかみやすさ 、頭重におい ても重症例は 15%
未満と 減少し ている 。我々の鼻内手術が副鼻腔の開放 のみでなく 、鼻腔気流動態の改善を目ざした結果 であると理解される
。術前鼻漏、後鼻漏の高度例はそれぞれ 62% 、 53% を占めていたが術後 1 5 % 、 9 % と激減しており、改善率 も 鼻漏、後鼻漏はそ れぞれ 69% 、 70% と比較的良好である。鼻漏、後 鼻漏の重症度分類 にあたり
「時々鼻をかむ」 、「 後 鼻漏が時にあり不快である」を中等度と評価した ため、 重症例が約半数残される結果となった。当
科と同様な保存的鼻腔整復術を行った大櫛~)の報
告でも、鼻漏、後鼻漏(鼻漏、後鼻漏の改善率は それぞれ、 64% 、 7 6 . 5 ・ %)に関し ては術後頑固に 残る ことが指摘されている
。また、 鼻漏、後鼻漏 の各 6 例で、術後 自覚症状が悪化して おり 、大 前
5)は
「手術によって鼻内気流動態が急激に改善 され、外来の刺激が増加したことによる生理反 応」 と説明している
。いずれにせよ術後成績を向上さ せるに は鼻漏、後鼻漏の対処が問題となって
くる。
近年医療光学機械の開発、導入により内視鏡下 鼻内手術が注目されている。裸眼にては手術操作 上死角と なる前頭道人口部、上顎洞膜様部、後部 副鼻腔部、危険領域 に 対 して も明視下の処置が容
VOL . 1 NO. 1 MARCH 1 9 9 6
大前等 森山等 湯本等 当科
1 )
鼻 閉 ~% ~% ~.4% ~%2 )
鼻 漏8 1 % 92%
77.4 % 69%
3 )
後鼻溺7 7 % 9 1 % 6 5 . 9 % 7 0 % 4 )
嘆覚般害6 3 % 8 2 . 9 % 5 2 % 5 )
頭重9 5 %
77.4 % 7 1 %
図
6 他施設の鼻内視鏡による自覚症状の改善率
易に対処できた ため治療成績の向上が期待され る
。そこで他施設における内視鏡を用いた副鼻腔手術の自覚症状の改善率と裸眼で行った当科のも のと比較してみた(図 6 )
。湯本ら6)の術後評価 表は当科の ものと類似しており比較検討が容易で あるが、 │ 県覚障害(改善率 5 2 % 、 8 2 . 9 %) を除け はほぼ同等の成績 と 考 えられる。大前
5)の結果も 大差はなさそうである
。森山ら
7)の報告 は術前の 自覚症状の程度の記載がな いため単純比較 はでき ないが、
H臭覚障害の改善率を除けば、概ね当科の 成績を凌駕 しているようである
。慢性副鼻腔炎は その難治性の故に過去多くの術式が考案され、紺 子等の器具類の工夫もなさ れている
。鼻内副鼻腔手術では、内 視鏡使用の有無に関わらず洞内粘膜 病巣は残されたため、排出機能低下の原因 となる 洞粘膜の粘膜繊毛機能障害
8)は術後も続くものと 考えられる
。自然、孔の開大は良好で、洞内粘膜の 浮腫、膿粘性分泌物の貯留が高度な症例も術後外 来で経験されており、術後治療の重要性が協調さ れるところである
。今回の検討結果 より、術後成績に重要な影響を 及ぶす要因は術式 とともに、適切な術後治療であ
ると考えられる
。当科では術後最低1 年、定期的 に術後外来を行い、ファイノ〈ースコー プ下 に洞内 病巣の除去、癒着 ・ 狭窄の防止、上顎洞の沈浄、
必要によっては抗生剤の投与ーを行っ ている
。鼻内副鼻腔手術では局所解剖の熟知、術中、術後の丹 念、な愛護的操作、 処置が重要である と 考えられる
。おわりに
慢性副鼻腔炎の鼻内副鼻腔手術を施行し た 9 1 症 例に対し、自覚症状の分類評価表を用い て改善度 を検討した。
1
鼻聞の改善度は86% と 最 も高く、嘆覚障害 は 52% と 最 も低率であった。
慢 性 副 鼻 腔 炎に対するよ;'l内 副 鼻 腔 手 術 の 治 療 成 績 9
2 .
鼻漏、後鼻漏の高度例は激減するものの、中等度例が約
40%
残された。3 .
治療成績の向上には適切な術後治療が重要 と考えられた。文 献
1)高橋 良 ・慢性飾骨桐炎の鼻内手術法・手術
4 : 1 0 5 ‑ 1 1 6
,1 9 5 0
2
)金村章,布村進作,木原浩文 :鼻中隔・下鼻 甲介手術におけるフィブリン接着剤・キチン スポンジガーゼの使用経験.日鼻会3 2 : 2 3 2
,1 9 9 3
3
)金村 章,布村進作,志冨田 由佳 :鼻中隔 矯正術におけるフィプリン糊の使用経験. 日 鼻会3 4 : 2 1 3
,1 9 9 5
4
)大櫛弘篤 :慢性副鼻腔炎の術後管理と予後に10 慢性副鼻腔炎に対する品内副鼻腔手術の治療成績
関する臨床的研究 耳 展
1 9
補2 : 2 3 5 ‑ 3 0 0
,1 9 7 6
5
)大前隆 :最近の内視鏡下鼻副鼻腔手術治療成 績一鼻腔整復術の検討一.耳展3 5
補5 : 3 7 1 3 9 3
,1 9 9 2
6
)湯本英二,河北誠二,兵頭政光,他:副鼻腔 炎に対する鼻内視鏡 手術の成績 自覚症状の 評価から .耳鼻│臨床8 6
・1 2; 1 7 2 3 ‑ 1 7 3
,11 9 9 3
7)森山 寛,柳 清,春名真一,他:内視鏡 下 鼻内整復術の術後の評価.耳 展
3 5: 1 9 5 ‑ 2 0 3
,1 9 9 2
8
)間島 雄一,坂倉康夫 :慢性副鼻腔炎の粘膜 繊毛機能 .JOHNS 3 : 1 6 0
・1 6 6
,1 9 8 7 9
)板倉康夫:慢性副鼻腔炎保存的治療の適応と現状.
JOHNS 3 : 2 0 1 ‑ 2 0 7
,1 9 8 7
Komatushima Red Cross Hospital Medical Journal