中国社会における地域格差
著者 竹内 啓
雑誌名 明治学院大学国際学部付属研究所研究所年報 =
Annual report of the Institute for International Studies
号 6
ページ 131
発行年 2003‑12
URL http://hdl.handle.net/10723/463
131
中国社会における地域格差
竹 内 啓
2002年8月20日午前10時30分―午後4時
中国寧夏自治区社会科学院副院長 林 燕平氏を白金校舎国際学部共同研究室に招き、国際学部 司 馬 純詩教授・経済学部 宋 立水助教授とともに研究討論会を行った。
林氏より中国社会における格差問題について報告があった。
林女史は、かつて東京大学に留学し、その博士学位論文『中国の地域所得格差』は単行書として出 版されている。そこでは中国の公式統計にもとづき、主として経済面での地域格差が、一人当り総生 産を中心にいろいろな角度から分析されており、貴重な研究として日本の研究者の注目を集めた。
今回の研究報告では、必ずしも統計に出ない地域格差、とくに農村と都市との社会的格差について、
いろいろな事実がのべられた。中国では現在でも都市住民と農村住民とは別種のパスポートを持ち、
農村から都市への自由な移動は禁じられている。それに応じて大部分の統計は、都市住民分と農村住 民分とが、小地域レベルにまでそれぞれ別個に集計されている。それによって所得、消費支出その他 多くの項目について、都市と農村の間に依然大きな格差があるのみならず平均寿命にも全国平均と 5 年近い差があることが知られている。
しかしこのような数字に現れない格差や表面的な数字(例えば医師一人当り人口、学校在籍率等)
によっては、実質的な格差が見えない場合も少なくない。林氏は、農村における農民の生活水準とく に教育・医療などの公共サービス面の水準が、市場経済化の進展とともに、地方財政の悪化によって、
絶対的に低下しつつあることを具体的に述べた。その一つの結果として一部の地方では、村の財政が 困難になったために学校が閉鎖されたり、先生の給料が支払われなくなって、先生が都会へ出稼ぎに 行かざるを得なくなって事実上休校に陥ったりして、義務教育さえ受けられない子供が増え、若い年 代とくに女性の文盲率が上昇しているとのことであった。
林氏はこれまで主としてマクロな統計指標を用いて地域格差の研究を進めてきたが、今後は各地方 の現場に立ち入って、農民の生活に即したミクロな調査をすることが必要であることを強調した。そ の後同氏は上記の社会科学院副院長として銀川に赴任し、それから更に同自治区の農村の実地調査を 行っている。
この報告に対し、出席者から日本の過去の状況とも比較していろいろなコメントが出されたが、中 国での都市と農村の格差には、日本と比べてより根深いものがあることが指摘された。中国での格差 の研究において、マクロな統計指標には現れない社会的な格差、例えば所属する「単位」によって与 えられる社会的サービスの違いなどの面を、ミクロな調査を通じて明らかにすることの重要性につい ては意見が一致した。
8月21日に林氏は再度白金校舎を訪問し、今後の研究連絡・協力について打ち合わせを行った。