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﹁皇室典 範 ﹂の問題点と改正への 試 論

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産大法学 45巻 3・4 号(2012. 1)

第 三回法 政 研究会

﹁皇室典 範 ﹂の問題点と改正への 試 論

報告 所 功

司会 須 賀 博 志

平 成二十三年七月六日︑第三回法 政 研究会が開催された︒参加者は︑法学部・法務研究科の教員︑法学研究科の院生

あ わせて二十五名近くにの ぼ り︑専門分野を超えて活発な意見交換がなされた︒

︻報 告要旨︼

昭 和二十二年︵一九四七︶ ︑﹁日本国憲法﹂と共に施行された﹁皇室典範﹂は︑明治以来の旧典範が旧憲法と並 び 立つ

根 本法であったのに対して︑憲法下の一法律である︒従って︑憲法原則の制約を受けるけれども︑問題があれ ば 法律改

正 の手続きを踏み︑どのような改正も増補もできる︒しかし︑未だ一 度 も行われていない︒

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第三回法政研究会 「皇室典範」の問題点と改正への試論

そ こで︑現行典範を見直すと︑皇室の現状にそぐわない問題点がいくつもある︒特に︑ⓐ第一条で︑皇 位 継承の有資

格 者を﹁皇統に 属 する男系の男子﹂に限定していること︑ⓑ第九条で︑天皇と皇族は﹁養子をすることができない﹂と

養 子 縁 組を禁止していること︑ⓒ第十二条で︑皇族女子は一般男子と婚姻すれば﹁皇族の身分を離れる﹂として︑皇族

男 子のような宮家の創立を否定していることである︒この三点は旧典範を踏襲したものながら︑これを今後も 維 持する

こ とは困難であり︑皇室の長い歴史と遠い未来を併せ考えれ ば ︑無理な制約だといわざるをえない︒

何 となれ ば ︑日本は中国と違って ︑縄文 ・弥生の昔から母性を尊重する社会である ︒約千三百年前の大宝 ・養老令

︵ 継嗣令 ︶も ︑唐令に見倣って父系の男子 ︵ 男帝 ︶を優先しながら ︑唐令にない女帝を 公 認し ﹁ 女帝の子 ﹂さえ容認し

て いる︒従って︑飛鳥・奈良時代に六名︑江戸時代に二名の女帝が出現し︑皇統の危機を 救 ってきた︒ただ︑女帝の子

︵ 母系 ︶まで及ばなかったのは ︑正式の后妃 ︵ 嫡妻 ︶以外に 側 室 ︵ 庶妻 ︶を容認し ︑庶出皇子らの継承を公認していた

こ とが 要 因とみられる︒

こ の点︑現行典範が︑旧典範と 異 なり庶子を否定したのは︑昭和天皇の意向でもあった︒しかし︑一夫一婦制のもと

で 確実に男子が生まれ育つとは限らない︒しかも︑皇位継承者の本質的な要件は﹁皇統に 属 する皇族﹂であることであ

る ︒だから︑皇室に生まれた方なら ば 男子でも女子でもよいが︑皇族という格別の身分に留まる方︵いわゆる臣籍降下

者 は対象外︶でなけれ ば ならない︒

そ れゆえ ︑皇位は千 数 百年以上に亘って大多 数 ﹁ 男系の男子 ﹂︵ 男帝 ︶により継承されてきたのであるから ︑それを

今 後も優先するにせよ︑それのみに 限 定せず︑万一に備えて父系の女子︵女帝︶も︑やがて女帝の子孫︵母系男女︶も

可 能とする道を開いておくよう︑ ⓐ を改正する必要があると考える︒

た だ︑現実的には︑ ⓐ のままでも︑今上陛下の次は皇太子徳仁親王 ︱ 秋篠 宮文仁親王 ︱ 悠仁 親王の順に﹁男系の

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男 子﹂で続けられる見通しが立っている︒従って︑ⓐの改正は︑暫く先 送 りしてもよいと思われる︒それより急ぐべき

は ︑ ⓑ と ⓒ の改正であろう︒

何 となれば ︑ⓑにより ︑皇族間の養子 縁 組すらできないため ︑御子のなかった秩父宮家と高松宮家は ︑ 既 に絶家と

な った ︒今のところ御子のない常陸宮家と未婚の桂宮も ︑早晩絶家となら ざ るをえないであろう ︒しかも ︑皇位と同

様 ︑宮家の相続も男子しかできないため︑男子のない三 笠 宮寛仁親王家も高円宮家も︑やがて皇太子家までもなくなっ

て しまう 恐 れがある︒

ま たⓒにより︑寛仁親王家に二名と高円宮家に三名︑合計五名おられる女王も︑秋篠宮家に二名およ び 皇太子家に一

名 おられる内親王すら︑一般男子と結婚なされ ば ︑皇族の身分を離れなけれ ば ならない︒その結果︑たとえ ば 悠仁親王

が 二十歳となられる十五年後ごろには︑周辺に若い皇族が 誰 もいないことになりかねない︒

し かし ︑旧典範の成立以前には ︑皇族間の養子 縁 組が頻繁に行われており ︵ だからこそ皇位も宮家も存続できた ︶︑

ま た皇女が宮家を継いだ 例 もないわけではない︒従って︑ⓒの改正により︑内親王・女王が一般男子と結婚しても宮家

を 創立して皇室に留まれるようにすること︑また ⓑ の改正により︑皇族として生まれた男女が御子のない宮家の養子と

な り相続もできるようにすること︑この 二 点を早急に実現する必要があろう︒

こ のような現行典範の改正を 発 議できるのは︑今のところ政府か国会議員しかない︵皇室会議にはその権 限 が規定さ

れ ていない︶ ︒憲法命題でもある象徴世襲天皇制度の永続に向 け て︑建設的な論議が進展することを念じてやまない︒

︵註︶ 報 告内容の詳細は ︑所功 ﹁﹃ 皇室典 範 ﹄改正問題の核心 ﹂①②③ ︵﹁

Will

﹂平成 二 十三年十月 ・十一月 ・十 二 月号連載 ︶に掲

載 されている︒関 連 して︑ 所 功﹃皇位継承のあり方 ︱ 女 帝・母系天皇の可能 性 ︱ ﹄︵PHP新書︶ ︑皇室事典 編 集 委 員会 編

著﹃皇室事典﹄ ︵角川 学 芸出 版 ︶も参照されたい ︒ ︵ 以上︑文責 所 ︶

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第三回法政研究会 「皇室典範」の問題点と改正への試論

︻ 討論 要 旨︼

皇 室典範改正問題については ︑周知のように ︑平成十七年に首相の諮問機関である ﹁ 皇室典範に関する有識 者 会議 ﹂

が 報告書をまとめ︑女性・女系皇族の皇位継承︵男女を問わず長子優先︶と女性宮家の創設を認めるべき旨の 提 言をし

た ︒その後︑悠仁親王の誕生によりこの問題は政治日程から消えたが︑論壇では︑男系男子継承の 維 持を主張する論者

と ︑女系容認論者との間で︑論争が白 熱 している︒

所教 授の主張は︑有識者会議報告書と基本的立場を共通にしつつ︑ただ長子優先ではなく兄弟姉妹間男子優先とする

点 で︑男系男子派の主張にも一部配慮したものと位置づ け ることができる︒

教 授の議論で特徴的な点は︑皇位継承の人的基盤となる皇族・宮家の存続を喫緊の 課 題とし︑そのための早急な制度

改 正︵ 報 告要旨のⓑとⓒ︶を ︱ 皇位 継承規定の改正を後回しにして ︱ 提 言する点である︒ 政 治的・社会的に実現可

能 性が高く︑関 連 制度にも配慮した︑穏当かつ周到な主張と思われる︒研究会でも︑基本的な立場に対する根本的な批

判 や疑問は登 場 しなかった︒

た だ︑男子優先か長子優先かという点について︑①一九八〇年代以降︑女子差別撤 廃 条約などの影響もあり︑世界的

に は長子優先にするのが大きな流れとなっているのではないか︑との意見があった︒また︑女性天皇に関連して︑ ② 女

帝 の 配 偶者の地位や役割をどうすべきか︑③女性を皇太子にする場合には︑早期に決定しないと養育のあり方に問題が

生 じるのではないか︑との 指 摘があった︒

報 告要旨では省 略 されているが︑当日の報告では︑日本の歴史的事実はもとより︑中国との比較︑明治皇室典 範 に対

す る欧米からの影響など︑多様な論拠が提示され︑これらに関する議論があった︒たとえ ば ︑④中国や欧州諸国では男

系 継承原則が強固なのに対し︑皇室以外の日本社会一般では両系主義が古来 採 られてきたのではないか︑⑤中国では女

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帝 そのものが忌まれるのに対して︑東アジア 社 会では唯一日本のみが多くの女帝を戴いてきたのは特 徴 というべきでは

な いか︑といった指 摘 がなされた︒

当 日の参加者に実定法研究者が多かったこともあり︑所教 授 の 提 言する具体的な制度設計が議論の中心となった︒報

告 要旨ⓑの養子容認については︑⑥養子をするのは︑養子が幼少の時期がよいのか成 人 してからがよいのか︑⑦仮に養

子 にしても当主にはなれないというのは︑いささか変わった制度ではないか︑⑧明治典 範 で養子禁止とされたのは︑養

子 の 政 治利用・ 政 治的野心などを警戒してのことと思われるが︑現在では天皇・皇族の役割が変わっており懸念は少な

い のではないか ︑ との意見が出された ︒

報 告要旨ⓒの女性宮家については︑⑨女性宮家に適当な 配 偶者が得られるか︑⑩戦後臣籍降下した旧宮家の方々︑と

り わけ明治天皇・昭和天皇と女系でつながっている方々が︑配偶 者 の候補となりうるのではないか︑⑪女性宮家を創設

す るとして︑内親王を当主とする三宮家でよいのか︑女王が当主の五宮家も創設するのか︑⑫総じて皇族の 適 正規模は

ど の程度が望ましく︑臣籍降下の制度をどう設計・ 運 用するのか︑といった点が議論の対象となった︒

な お︑所教授から︑⑬天皇陛下のご年齢を考慮して︑高齢を理由として国事行為の臨時代行および摂 政 の設置を認め

る ような制度改正も必要ではないかとの問題提起があった ︒それに関して ︑⑭現行の摂 政 や国事行為臨時代行の制度

は ︑いわ ば 法定代理のように全権限を委譲するという設計になっているのが問題であって︑任意代理のように天皇の意

思 で範囲を 限 って柔軟な委任を可能にする制度を導入するのが適当なのではないか︑との意見もあった︒

総 じて︑多様な観点から 議 論がなされ︑実りの多い研究会であった︒皇室法は︑日本法史や比較法史︑実定法学のみ

な らず︑文化史や社会史まで含む︑広くて深い学識を必要とする分野であることが︑あらためて 認 識できたように思わ

れ る︒ ︵ 以上︑文責 須 賀 ︶

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第三回法政研究会 「皇室典範」の問題点と改正への試論

︿追 記﹀天皇の公務分担と皇女らの宮家創立

先の 報 告後 ︑当該問題について関係方面の 発 言が急浮上してきた ︒その一つは ︑十月五日 ︑羽毛田宮内庁長官 ︵ 京大法卒 ︶が野 田 新 首相に対して﹁将来的に皇族の 数 が減少する見通し﹂と︑それが﹁皇室のご活動に影響する﹂との懸念を伝えたこと︒もう一つは︑ 十 一月二十二日 ︑天皇陛下の風邪 ︵ 気管支炎 ︶による御入院中 ︑秋篠宮殿下から ﹁ 皇族に一定の数が必要なこと ﹂と ︑および天皇 の 高 齢化に伴い﹁ご公務に定年制︵軽減策︶が必要﹂とのご意向を 示 されたことである︒これに対する管見を追記しておきたい︒ ま ず後者の ﹁ 定年制 ﹂というのは ︑質問した記者の表現であって ︑終身在位を前提としている現行憲法のもとでは ︑一般人のよう な 定年による退職はありえない ︒ただ ︑自ら ﹁ 国事行為 ﹂の不可能な状況では ﹁ 臨時代行 ﹂か ﹁ 摂政 ﹂を置くことができる ︒しか し な がら︑昭和天皇の最晩年︵八十七歳︶ ︑危篤状態でも摂 政 を置かれず︑皇太子︵五十五歳︶の臨時代行 で 凌

しの

がれたから︑高齢化だ け では両方とも適用し 難 い︒ ちなみに ︑昭和天皇は七十歳代からお仕事を徐々に抑制 ・軽減されている ︒一方 ︑今上陛下は八年前の前立腺 癌 手術後も公務に全 力 を注がれ︑その総量は先代の二倍以上といわれるが︑これを八十代・九十代まで現状のように続けられてよいとは思えない︒ ちなみに︑ 天皇のお務めを内容的に三分類すると︑ A憲法の定める国事行為 ︵首相の任 命 ︑ 法律の 公 布︑ 栄典の授与など十二 項 目︶ ︑ B皇室に伝わる祭祀行為︵宮中の大祭・小祭など年間二十回以上︶ ︑C象徴としての公的行為︵全国各地への行幸︑ 外 来要人の御引 見 な ど年間数百件︶から成る︒それを準備・実 践 される心身の御負担率は︑仮に申せばA一割︑B二割︑C七割ほどであろうか︒ こ れらの御負担を軽減する場合 ︑まずAは ︑憲法の明記する国事であるから ︑可能な 限 り終身お務めいただくほかない ︵ 状況に よ り皇太子などが臨時代行する︶ ︒しかしBは︑天皇親祭が原則の大祭でさえ︑掌典長に代行させうること︵皇族は 拝 礼︶が明治以降 の 慣例であるから ︑順次移譲されても差し支えない ︒さらにCは ︑今上陛下が極めて熱心に取り組まれ ︑内 外 多数の人々に絶大な感銘 を与えてこられたが︑内容を 精 査して︑皇太子や他の皇 族 たちに出来ることは︑次々移行されるほうがよいと思われる ︒ つ ぎに両 者 の指摘する﹁皇族の数﹂の減少を防ぎ﹁一定の数﹂を保持することは︑まさに﹁緊急の課題﹂といえよう︒その対策は︑ 報 告で 提 案したとおり ︑皇族女子が結婚しても皇室 ︵ 皇族身分 ︶に留まりうるよう 〝 女性宮家 〟創設の道を開くほかないと考える ︒ た だ ︑それは未婚の皇族女子 ︵ 内親王三名 ・女王五名 ︶のうち ︑誰が立てられるのか ︑またその子孫のうち ︑どこまで皇位 ・宮家 を 継 ぐ資格が認められるのか︑ 慎 重に 検 討する必要がある ︒ こ の点 ︑私の試案を申せば ︑改正典範には ︑内親王も女王も結婚のさい宮家を立てることができると定めておくと共に ︑運用内 規 で ︑長子以外は本人の意志や当代の事情により辞退することも妨げないと選択の余地を残しておくことが賢明であろう ︒また創設 宮 家 の当主は皇族女子である︵入夫は皇族になるが︑当主にはならない︶ ︒従って︑その間の子は男女とも母系の皇族であるが︑原則 と して皇位 ・宮家を継ぐ資格をもつのは内親王 ︵ 長女 ・次女⁝ ︶の男子 ・女子と女王 ︵ 長女 ︶の長子までと定め ︑順位は直系 ・長系 の 男子・長子を 優 先すると決めておくのがよいのではないかと思われる ︒ ︵平成二十三年十二月十二日 記 文責 所︶

参照

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