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「ウィー ン売買条約 」 ( CI SG) における 契約 目的の実現 と,契約か らの離脱 ( 1)

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(1)

「ウィー ン売買条約 」 ( CI SG) における 契約 目的の実現 と,契約か らの離脱 ( 1)

渡 辺 達 徳

目 次

は じめに〜本稿の目的〜

契約 目的の実現〜本来的履行の保障‑

1 契約違反の発生 と履行義務 (1)売主による契約違反の補完 (2)代替取引

2 重大な契約違反」概念の機能 3 小 括 (以上本号)

契約か らの離脱〜契約解除〜

Ⅳ むすびに代えて

は じめに〜本稿の目的〜

(1) 本稿 は,国際動産売買 に関す る 「ウィー ン売買条約」(UnitedNations Conventionon ContractsfortheInternationalSaleofGoods:以下

CISG」と称す る) において,債務者が 自己に課 された義務 を履行 しない と き,債権者 によ り意図 された契約 目的が どのよ うに実現 され,また,その反面 において,債権者 はどのよ うな場合 に 目的の実現を断念 して契約関係 か ら離脱 で きるか とい う角度 か ら,CISGにお ける契約 の法 的保障機構 を考察す る もの である。

(2) 筆者 は,前稿 において,英米法 と大陸法 における契約の法的保障機構 の 差異を念頭 に置 きっっ,CISG契約違反規定 の構造を概観 し,その特徴 を把握

177〕

(2)

178 商 学 討 究 第42巻 第1

す るよ う試 み た1)。 そ して, そ こか らは,概 ね次 の よ うな理解 が得 られ た と 考え られ る。

CISGによれば,売主 は契約 に適合 した商品を引 き渡 し,それ に関す る書類 を交付 し,かつ,その所有権 を買主 に移転す る義務 を負 い (30条), また,質 主 は, これを受領す るとともに代金 を支払 う義務 を負 う (53条)。 そ して,契 約当事者が 自己に課 された義務 を履行 しない とき,それ はすべて 「契約違反 であ り,その際,債権者 は,契約関係 を維持 しなが ら本来の履行を請求 し,又 は契約 を解除 して当該契約関係か ら離脱す る可能性を保有 し,かつ,そのいず れ と共 にであれ生 じた損害 の賠償 を求 め ることが認 め られていた2)

ここで,本来的な契約 目的である履行の実現 と契約関係か らの離脱 とが,両 立 不可 能 な法 的効 果 で あ る こ とに照 らす と3),契 約 違反 を被 った債権者 に とって,なお も契約関係 に とどま り目的の実現を図 るか,又 は,契約を解除 し て不誠実 な債務者 と訣別す るか は,重大 な選択 を迫 られ る問題 で あ る ととも に, この両者 の規律領域 を理解す ることが,CISG契約違反規定の構造 を解 明 す るうえで重要 と思われ る。

(3) そ こで, こうした角度 か らCISGの規定 を概観す る と,債務者が契約

1)拙稿『ウィーン売買条約』(CISG)における契約違反の構造」商学討究 (小樽商 科大学)414 (1991)109貢。なお,CISG,及び,その前身たる 「ハーグ売買 条約」(ConventionrelatingtoaUniform Law ontheinternationalSale ofGoods:以下, 「UL IS」と称する)を中心とした動産売買法の統一に関す

る日本の文献についても,さしあたり,同論稿(3)に掲げられたところに譲る。

また,CISGの条文の邦語訳 としては,NBL215 (1980)16頁 (南 敏文 ・仮 訳),ジュリス ト783 (1983)88貢 (曽野和明 ・試訳)が得 られる。

2)買主の権利について,45条,46条,49条及び74条以下,また,売主の権利について, 61条,62,64条及び74条以下を参照。ただ し,程痕ある目的物が供給された場合 の買主の救済について,追完 ・修補請求 (462項,3項)及び代金減額 (50条)

という特則が置かれている。

3)Huber,in:V.Caemmerer/Schlechtriem (hrsg・),Kommentarzum EinheitlichenUN‑Kaufrech卜 CISG‑,1990,Art.45.Rn.1[同書は,以下,''C ISG‑Kommentar"として引用する]は,CISGに定める契約違反規定にあっ て,履行請求と契約解除を最 も重要な法的救済と説 くが,それは実務上の利用頻度

といった側面か らの評価にとどまらず,む しろCISGにおける契約違反の体系を 決定付けているといった趣旨か らも理解されるのではなかろうか。

(3)

「ウィー ン売買条約」(CISG)における契約 目的の実現 と,契約か らの離脱 (1)179 違反 に陥 った際,債権者が契約 目的を実現 し,又 はそ こか ら離脱す るための機 構が,概ね次のよ うに予定 されていると理解 されよ う

まず,契約 目的の実現 に向け られた制度の中心を占めるのは,い うまで もな く債権者か ら債務者 に向けて行使 され る履行請求権であ る (46条,62条)。そ の概要及 び若干 の問題点 につ いて は,前稿 において一定 の考察が試 み られた (拙稿 ・前掲 (注 1)とくに130頁以下)。 しか し,それのみな らず,いったん 契約違反状態 に陥 った売主が,買主か らの請求を待っ ことな く, 自らの主導権 によ り違反状態を補完す る権限 (righttocure)を認 め られていることが注 目され る (履行期前 につ いて37条,履行期後 につ いて48条)。CISGは, これ を売主の権能 として規定す るものの,その本質 は,履行請求 と同 じく 「契約違 反 に対す る法的効果」であ るとの指摘 もあ る4) 。 こうした売主 の権能 を買主 の立場か ら見 ると, この補完の申 し出をいかなる程度 に期待 し,また, これを 得たねばな らないのか,そ してその反面,いかなる状況 に至れば, この関係か ら離脱 して第三者 との取 引 (代替取引)に向か うことを許 され るのか とい う問 題が提起 され ることになる。

一方,契約か らの離脱 は,契約の一方当事者 による解除の宣言 によ りこれを 認め るのがCISGの基本的な立場であ り (26条,49条,64条),法定解除に関 する規定 は置かれていない。そ して,解除は契約違反の事実 によ り直ちに認め られ るのでな く,当該違反が「重大」であること(25条,491項,64条 1項),又 は,事前 に付加期間が設定 され,その期間を徒過す ること (47条,63条)が要 件 とされている。

(4) こうしたCISGの契約違反規定の う/ち,前稿で は,契約違反 の基本的 な構造 と,履行請求,契約解除,損害賠償請求等の個 々の救済規定の概要を理 解す ることに,その主眼が置かれていた。

本稿では,そ こか ら得 られた一定の理解を踏まえて,まず,売主 による契約

4)Stumpf,in:Dolle(hrsg.),Kommentarzum EinheitlichenKaufrecht, 1976,Art.37,Rn.2,CISG37条 と同 旨を定めていたULIS37条 に即 して これを 説 く。

(4)

180 42 1

違反状態の補完権能 (Ⅱ1(1))と,債権者 による代替取引 (Ⅱ1(2))とい う制度 に着 目がなされ る。なぜな ら,前者 は,いったん契約違反を犯 した売主 側が主導権を握 って契約本来の 目的実現を図 るとい う意味で,前稿で考察 され た履行請求 と表裏の関係を形成 していると思われ るためである。また,後者の 代替取引は,債務者により補完が行われ る場合 と逆 に,契約違反を被 っている 債権者が原契約の維持 に見切 りをつけ,第三者 との新 たな取引関係 に向か うこ とを意味す る。 したが って,CISGにおける契約 目的の実現 と契約か らの離脱 の機構を理解す るためには, これ らが不可欠の考察対象 となるであろ う そ し て, この両者 は,債務者がい ったん契約違反の状態 に陥 った際,その履行義務 がいかなる程度 に継続 し,また,それがいかなる契機 によ り脱落 して他の義務

〜例えば損害賠償義務〜‑ と転化す るか とい う,いわば 「履行義務の帰趨」 と い う角度か ら把握 され得 る問題であると思われ る。

次いで, 「重大な契約違反」概念の意義及 びその機能 に目が向け られ る (Ⅱ 2)。なぜな ら,原則 と して 「重大 な」契約違反 を契機 と して解 除を認 めると い うCISGの構造 に照 らす と, この概念 は,契約本来 の履行 の保障か ら解除 への移行 を決定付 けてお り, いわば 「契約 の生死 を決す る」 5)機能 を有す る と思われ るためである さらに,契約関係か らの離脱 とい う効果 に向け られた 解除に関す る規定が,契約 目的の実現保障 との対比 という角度か ら考察の姐上

に乗せ られることになる (Ⅲ)

こうして本稿では,契約違反 における契約 目的の実現 と契約か らの離脱の機 能領域 に着 冒 して,CISGにおいて予定 された契約の法的保障機構が, さ らに 明 らかにされ るよう試み られ るものである。

5)Will,in:Bianca/Bonell(ed.),CommentaryonthelnternationalSales Law,1987,p.205:なお,同書は,以下,''Bianca/Bonell,Commentary"

と して引用す る。

(5)

「ウィー ン売買条約」(CISG)における契約 目的の実現 と,契約か らの離脱 (1)181

契約 目的の実現〜本来的履行の保障‑

1 契約違反の発生 と履行義務 (1)売主 による契約違反の補完

CISGによれば,売主 は,履行期の前後を問わず,量的不足を補 い,契約 に 適合 しない商品を取 り替え,又 はこれを修補す るといった方法 により, 自らの 契約違反 を補完す る可能性 を認 め られてい る6)7) 。 すなわち,売主 がい った ん契約違反の状態 に陥 って も, この権限が行使 され る限 り,買主 による契約解 除 は抑制 され る。 こうした規定の趣 旨として,契約上の権利関係の挫折 は当事 者 にとって苛酷な結果 と経済的浪費を伴 うことが指摘 され,その好例 として, 売主が買主か ら求め られた仕様 に応 じて複雑な機械を受注生産 したところ, こ

6)CISG37条〜すで に,ULIS37条 も同 旨を定 めていた〜 に相 当す る規定 は, ヨー ロ ッパの法典 に類 を見 ない といわれ る。その理 由と して,供給済 みの商品 はすで に売主の処分権限を離れているとの認識が挙 げ られている(Bianca,in:Bianca/

Bonell,Commentary,pp.290‑291)。む しろ,37条 (及 び48条) と同趣 旨を定 め るのは,アメ リカ統一商事法典 (UCC) §2‑508であ る。 同規定 は,その 1 で履行期到来前の補完を,そ して 2項で履行期到来後の補完を念頭 に置 き,次のよ

うに定め る。 この規定の趣 旨について,2項のオ フィシャル ・コメ ン トは,買主か らの不意打ち的な受領拒絶 とい う不正義を防止す ることだ と述べている。

§2‑508

(1) 売主 による提供又 は供給が契約 に適合 しないため拒絶 され,かつ,履行期が 末到来の とき,売主 は,適切 な時期 に補完の意図を買主 に通知 し,契約 に定 め

られた期 間内において契約 に適合 した供給を行 うことがで きる。

(2) 価格上 の尉酌 (moneyallowance)を必要 とす るにせよ,受領 され ること を売主が信ず る正当な理 由ある提供を,契約に適合 しない提供であるとして買 主が拒絶す るとき,売主 は,適切 な時期 に買主 に通知 していれば,契約 に適合 す る提供 に置 き換え る合理的期間をさ らに与え られ る。

7)なお,48条の文言上,「あ らゆ る不履行」(anyfailuretoperform)の補完が認 め られていることか ら,売主が履行期を徒過 している場合 には,供給を行 うこと自 体 による補完行為 も, いちお う可能 と考え られ る。 しか し,現実 には,売主が履行 を遅滞 している場合の 「補完」 とい う観念 に, さほどの実益 はないと指摘 され る。

なぜ な ら, 「重大 な契約違反」を構成す るほどの遅延の後 に,又 は,付加期間を徒 過 した後 に,売主が提供を行お うとして も,そ もそ も買主 は契約を解除で き (49 1項), また,それに至 らない程度 の遅滞であれば,逆 に買主 は受領義務 を負 うた めである(この指摘 につ き,Honnold,Uniform Law for∫nternationalSales, 1982,§§295,299を参照)0

(6)

182 第42 1

れ にわず か な, しか し修補可 能 な欠 陥が付着 して いた とい った場合 が挙 げ られ て い る8)。 こ う した場 合 ,解 除 に よ る契 約 関係 の挫 折 が 直 ち に もた らされ る べ きで な く,「買 主 に不 合 理 な不 都 合 又 は不 合理 な 出費 を生 じさせ な い こ とを 条 件 と して」(37条 )9),債 務 者 によ る補完 を待 つべ きで あ る との価値観 が成 り 立 っ ことにな る

その意 味 にお いて,売主 によ り行 われ る こう した契 約違反状 態 の補完 が , そ の義務 とい うよ り, む しろ 「補完 の 自由(1ibertytocure)で あ る と説 かれ る こ と も首 肯 され よ う10) 。 これ らの規 定 は, 国 内及 び国 際取 引 にお いて ます ます求 め られ る公 平 の要 請 に応 じた もの と理 解 され て い る11)。 また, 現 代 の 売 買取 引 に携 わ る当事 者 に求 め られ る協調 と妥 協 とい う思想 の反 映 と説 か れ る こ と もあ る12)。 しか し, この規 定 の解 釈 を め ぐって は, 次 に見 られ るよ うに 未 解 決 の問題 が少 な くない。

8)Honnold,op.°it.( 7),§244

9) ここでいう不合理な不都合 としては,売主による修理が買主の工場の組立ラインで 行われ るため,買主の組立作業 に著 しい支障を来す といった例が挙 げ られている

(Honnold,op.cit.( 7),§245)0

10)Treitel,RemediesforBreachofContract,1988, §276:また,い ったん契 約違反を犯 した売主 に第二の機会を与え,買主か らの金銭賠償の請求を回避する効 果 も指摘 されている (Huber,in:CISG‑Kommentar,Art.48,Rn.1) ll)CISG 37条 に即 して,Bianca,in:Bianca/Bonell,Commentary,p.291が こ

れ を説 く. なお, ア メ リカ法上,第‑ の段 階 にお け る重大 な違 反 (serious breach)は履行 の停止 (suspension)を正当化す るにとどま り,その違反が補 完 されない場合に初めて解除が認め られる。 このことは,違反状態の補完が履行期 後 も可能であることを意味す る。ただ し,履行期が契約の要素でないこと,及び, 補完に伴 う遅滞が重大な違反 とな らないことが条件 とされている。英国法 も原則 と してこの補完権限を認めるが,一般にはこれを履行期前に限定 している。ただ しそ れは,英国の文献上,この問題が論 じられてきたのは履行期が契約の要素を構成す る債務に即 してであることに由来す るためと考え られ,履行期後の補完がすべて否 定 される趣 旨ではない。 もっとも,場面を 「動産売買契約」に限ると,英米の思想 には明確な差異が現れる。すなわち,英国法上,動産売買契約における履行期の約 定 は,いちおうこの種の契約の本質に属す ると解 される故に,補完を履行期到来前 に限って認める結果 となる一方,アメ リカ法上はこうした制約がないということで ある (以上,Treitel,op.°it.(10),§276の指摘による)0

12)Honnold,op.°it.( 7),§ §292,297

(7)

「ウィーン売買条約」(CISG)における契約目的の実現 と,契約か らの離脱 (1)Jβ3

37条 :履行期到来前の補完】

CISG37条によると,売主 は,引渡期 日に先立 って商品を引き渡 したとき, その期 日までは,買主 に不合理な不都合又 は不合理な出費を生 じさせない限 り

13),欠 けている部分 を引 き渡 し,数量の不足を補 い,又 は,契約 に適合 しな い商品を交換 し,若 しくはこれを修補す ることがで きる。 この規定 は,売主が 自己の義務を果たす とい う利益に資す る一方で,履行 目的その ものの実現に対 す る買主の利害 に も合致す るといえよう14)。 ただ し,買主の立場か らこれを 見た場合,売主がいったん供給 した商品を引き揚げ, これを検査及び修理 し, 又は交換す るため,売主 に協力する負担を意味す るとの見方 も成 り立つ ことに なる15)。

ここで問題を生ず るのは,買主が商品を保持す る権利 との関係である。例え ば,交換又 は修補のためと称 して売主が買主の許か ら商品を引き揚げれば,買 主 は代金を支払 ったまま,担保 もな く商品を取 り上げ られ るとい う不安定な地 位に置かれる。 したが って,売主が直ちに代替商品を引き渡 し,又 は,相当の 担保を供与 しない限 り,売主 による補完の申 し出を拒絶す るといった措置が考 え られなければな らないであろう16)。 しか し,CISGの明文上 は こうした配 慮がなされてお らず,妥当な解決は解釈 に委ね られている。

その反面,正当な理 由な く,買主が売主 による補完の申 し出を拒絶すること が許 され るか も問題 とされる可能性をは らむ。ただ し, この拒絶により,商品 の契約不適合の補完が不可能 となるのだか ら, この契約不適合性 は買主の責に 帰せ られ,その結果, この買主 は契約違反を主張で きな くなると解 され る余地

13)買主 に不都合 と出費を生 じさせないという条件 は,37条 における唯一の制約である。

すなわち,商品に伴 う欠陥が 「重大な契約違反」を構成す る場合 において も,売主 の補完権限は排除 されない。その結果,売主が この権利を行使す るか否か明確でな い限 り,買主 としては供給時期の到来 まで,事実上,解 除はで きない ことにな る (Honnold,op.°it.( 7)246;Stumpf,in:CISG‑Kommentar,Art.37, Rn.5,7)0

14)Bianca,in:Bianca/Bonell,Commentary,p.292 15)Bianca,in:Bianca/Bonell,Commentary,p.292

16)Bianca,in:Bianca/Bonell,Commentary,pp.293‑294

(8)

184 42 1 を生ず ることが指摘 されてい る17)。

48条 :履行期到来後 の補完】

(1) 履行期到来後 の補完 は,37条 よ りさ らに限定 された要件の下でのみ認 め られ る。すなわち,補完権能 を行使す る要件 として,37条の趣 旨に似て,買主 に不合理 な不都合を生 じさせ ない ことが求 め られているほか,買主が前払 い し た費用の償還 (reim bursem ent)につ いての不安 を もた らさない こと,補完 が不合理 な遅延 とな らない こと,及 び,解除を定 め る49条 の規定 に服す ること,

とい う制約が加 わ って くる ここにおいて,48条 の適用上,売主 の補完権限 と 買主 の解除権 との関係が,微妙な問題を提起す る。

(2)同条 の起草過程 を‑暫す る と,UNCITRAL(国連国際商取 引法委員 会) によ り採択 された草案 (19786月 のUNCITRAL草案)44条 の段 階ま で は,文言上,買主 によ る解 除が売主 の補完権 限に優先 していた。「買主 によ る契約解 除が宣言 されない限 り (unless)」売主 による不履行の補完を認 め る とい う規定 の表現 は,明 らか に この ことを示 して いた と解 され る18)。 これを 承 けて,その後 の起草会議 において は,次のよ うな設例 に即 して この文言 の是 非が論 じられた といわれ る18)。す なわち,供給 された機械 の組立部品の一つ に欠陥が あ って機械が作動せず,部品の交換 は売主のみが可能であるとき,売 主か ら交換 の申 し出がな されたにかかわ らず,買主 は, この欠陥が重大な契約 違反であ ることを理 由に売主 の申 し出を拒絶 し,契約 を解除で きるのか とい う

ことで ある。外交会議 で は,多 くの代表か ら,草案 に置かれた"unless"条項 の解釈 としては,買主 による解除が売主か らの補完の申 し出を不 当に妨 げ るの で はないか との懸念 も表明されたが,結局,解除権 と補完権限 との関係 を適切

17)Bianca,in:Bianca/Bonell,Commentary,p.294:ただし,いったん補完を拒 絶 した買主が再考 して,売主に修補等を許すことは妨げられないであろう(Stumpf, in:D611e(hrsg.),op.°it.(4),Art.37,Rn.6,ULISに即 してこれを説 く).

18)Will,in:Bianca/Bonell,Commentary,p.348

19)この指摘は,以下の設例 も含めてHonnold,op.°it.( 7),§296の説 くところ による。

(9)

「ウィーン売買条約」(CISG)における契約目的の実現と,契約からの離脱 (1)185 に表現す る文言が兄 い出せず,解除権 との相互参照 (cross‑reference)を示 す現行CISG 48条の文言〜 49条 による制限の下で‑(S〕ubjecttoArticle 49)」に とどめ られた といわれ る20)。こうした起草の経緯 に照 らす と,売主 の補 完権限 と買主 による解除権 との関係 は,後の解釈 に委ね られた ことになる21)0

こうしたいきさつを踏 まえて,以下では, ここに示 された売主の補完権能 と 買主の解除権 との優劣,及び, これ と表裏の関係 にある,売主の補完権能 と重 大な契約違反概念 (25条) との抵触 とい う問題が考察 され ることになる。

(3) まず,前者の問題 につ いて, 48条 に基づ き売主 による第二の提供が行 わ れ,それによ り契約 に適合 した状態が回復 されれば,代金減額請求 (50条)が 行使 され る余地 は消滅す る22) 。 ただ し,遅滞 に基づ く損害賠償義務 は存続す る (481項 も明文で これを認める) ここで疑問を生ず るのは,買主が,供 給 された目的物 は契約 に適合 しないと判断 した後,契約解除の途を選ぶ ことに よ って,売主 の補完権能を封ず ることがで きるかである。換言すれば,買主が, 当該商品は自己の使用に耐え られない と思料す るとき,売主 による追完若 しく は修補を待たなければな らないのか,又は,直ちに契約を解除 して他の供給者

し に代替物を注文で きるかである23) 。

ここで,買主 にとって最 も有利な解釈 は,売主の補完の能力及び意向を考慮す ることな く直ちに解除を認 め ることであ り,逆 に,売主 に とって は,自 らが補完 を明示 的に拒絶 しない限 り,買主 か らの解除を封 じてお くことが望 ま しい24)0

しか し, こうした両極 に位置す る解決が売主及び買主の利益を十分 に衡量 した

20)Honnold,op.°it.( 7),§296:なお,Huber,in:CISG‑Kommentar,Art. 48,Rn.8,「最終的には‑UNCITRALの提案にかかる原文言の若干の修正に

とどめられた」ことを指摘する。

21)Will,in:Bianca/Bonell,Commentary,p.348

22) Hoffmann,Gewahrleistungsansprtiche im UN‑Kaufrechtverglichen mitdem ERG und BGB,in:Schlechtriem (hrsg.),EinheitlichesKaur rechtundnationalesObligationenrecht,1987,S.293(S.298)

23)Hoffmann,op.cit.(22),S.298f.;Will,in:Bianca/Bonell,Commentary, pp.348‑352

24)Will,in:Bianca/Bonell,Commentary,pp.349‑350

(10)

186 商 学 究 第42 1

もの とはいえない。恐 らく実務上 は,買主 か ら売主 に対 して補完 の能力 と意 向 を打診 し,補完の行 われ ない ことが確定 されて初 めて,買主 による解 除を認 め る とい った方 向が模索 され ると思 われ る25) 。 しか し, この ことは,履行 期 を 徒過 した売主が, それ に もかかわ らず 自 ら主導権 を握 り,一定 の延長期 間を示 して買主 に補完を 申 し出 ることがで き,一方 ,買主 が この通知 に対す る応答 を 怠れば,当該延長期 間内における解 除を制限 され る とい う結果 を もた らす (48

条 2項, 3項)26) 。 この とき,すで に契約 違反 を被 って い る買主 を, さ らに

売主 によ る補完 の有無が明 らか にな るまでの間,不安定 な地位 に置 き続 けると すれば, それ は妥 当か との疑 問を生 じないで あろ うか ㌘)。 む しろ,不履行 を 犯 した売主 に, 自己の補完が許 され るか否 か判 断す る危険を負担 させ る方 向で の解決が,公平 の見地 か らも好 ま しい と思われ る28) 。

(4) また,上の問題 との裏 は らにおいて,売主 の補完権能 と重大 な契約違反 概念 との関係, とりわ け,補完 の申 し出が契約違反 の重大性 を除去す るか とい

う問題 が提起 されて くる。

ULISの解釈 として,契約違反が重大か否 か はあ らゆ る状況 に照 らして判断 され るべ きで あ り, そ こには正 当な補完 の申 し出によ る効果 も含 まれ ることが

25)Will,in:Bianca/Bonell,Commentary,p.350 26)Treitel,op.°it.(10),§276

27)Will,in:Bianca/Bonell,Commentary,pp.350‑351:例えば,機械の供給を 受けた買主が,それが作動 しない旨を売主に通知 したところ,売主か ら 「1週間以 内に作業員を派遣 して修理させる」との連絡を受けたにかかわ らず,買主がこれに 対する応答を怠れば,この買主は当該期間内における売主側の修補を拒絶できな い。なぜなら,売主か らの通知に,買主が 「履行を受け入れるか否か」に関する明 示の問い合わせ (482項)が含まれていな くとも,履行を行 う」旨の通知は, この履行を受け入れるか否かについての問い合わせを含むと推定される(483項) ためである (この指摘につき,Honnold,op.°it.( 7),§298を参照)0

28)Will,in:BianTca/Bonell,Commentary,p.351:そ こで は,売主 との取 引経 験,特約の有無,売買の基礎を成す一般的条件等に基づいて,買主側が補完の期待 度を判断することを認め,これを期待できる場合に限 り,買主による解除を抑制す る方向が示唆されている。その際,補完が許容されるか否かの不確実性に関する危 険は,補完を申し出るべき売主が負 うことになり,また,補完の期待度を判断する 上記諸要素 も客観的であって,単なる売主の内心に左右されないという長所が得 ら れると説かれている。

(11)

「ウィーン売買条約」(CISG)における契約目的の実現と,契約からの離脱 (1)187 示 唆 されていた29) 。 これ は,その まま放 置すれば 「重大」 とな るで あろ う契 約違反 を,買主 が補完す る自由を持つ ことを意味す る30)。 しか し, その帰結 として,補完が可能であ り,かつ,その補完の 申 し出を期待で きる限 り契約違 反が重大 とはいえない とすれば,買主 に認 め られ る追完請求権 も無意味に帰す る恐れを生 じる31)。 なぜ な ら,追完請求権 につ いて定 め る462項 は, この 権利が重大な契約違反 の場合 に限 り行使可能であ る旨を明 らかに してい るため で あ る。 こうした解釈 を採 ると,買主 は,契約解 除 (491(a)) と追完 による履行請求 (46条 2項)のいずれを も妨 げ られ る結果 となる しか し, こ

うした限定的解釈が起草者の意図 に合致 した もの といえ るか,疑 問視す る向き も見 られ る㍊)0

そ こで,供給 された 目的物 に伴 う契約不適合性を,さ らに,代物 の再供給 によ らなければ買主 の利益が達成 されない欠陥 と,修補 によ り不適合性 の除去が可 能 なそれ とに分かつ見解が提唱 され る。 この立場 は,重大な畷庇 は代物供給請 求権,又 は契約 の即時解除権 を買主 に与え,それに至 らない小 さな畷痕 は,修補 請求権,又 は〜損害賠償若 しくは代金減額 を通 じた〜価値減額分 の填補 を求 め る権利 を買主 に付与す る ことが,CISGの基本構想 で あ るとの前提 に立っ㍊ ) 0 これ は,いわば462項 に定 める買主 の 「追完」請求権 と,同 3項 の 「修補」

請求権の行使要件 に対応 した理解である。その結果,修理可能 な畷庇 は 「重大 でない」のであ って,それ に対 して は48条 1項 に基づ き修補権が与 え られ るこ

とで足 りる。一方,売買 目的物の交換 によってのみ完全 な除去が可能な欠陥は

「重大」であ り, こうした澱庇 は,買主 に契約を即時解除す る権限を与 え るに ふ さわ しい と説かれ ることになる34) 。

29)Honnold,op.°it.( 7),§§184,296;Treitel,op.°it.(10),§276;Will,in:

Bianca/Bonell,Commentary,pp.356‑357 30)Treitel,op.°it.(10),§276

31)Will,in:Bianca/Bonell,Commentary,p.357;Honnold,op.°it.(7),§296 32)Will,in:Bianca/Bonell,Commentary,p.357

33)Huber,in:CISG‑Kommentar,Art.48,Rn.9 34)Huber,in:CISG‑Kommentar,Art.48,Rn.19

(12)

188 42 1

(5)上の二つの見解の差異 は,追完によってのみ除去可能な欠陥があるとき に現れるOすなわち,前説 によれば,追完 (代物供給)の申 し出によ り当該堀 痕がひとまず 「重大な契約違反」 とみなされることを免れるのに対 し,後説に おいては,かかる職症の存在 は直ちに 「重大な契約違反」を構成 し, したが っ て買主の解除権が売主の代物供給権に優先することになろう35)。

(2)代替取引

(1) 契約違反 における法的救済 としての履行請求に対 し,次のような批半梱i 向け られ ることがある。すなわち,履行を強制す る法律上の訴えは,ただでさ え時間を要することに加え,被告が原告の責を主張 し,又は自己の免責事 由を 持ち出す ことにより,訴訟 はますます遅延 し,買主が商品に対 して持つ取引上 の需要 は,結局,失われて しまうとい うことである。他方,売主が 目的物の受 領を買主 に強制す る際にも,買主が代金全額を支払 うまでの間,売主 は商品の 保管を続 けなければな らないという不都合が伴 う36)0

む しろ, こうして履行を強制す るよりも有効な手段 は,買主 にとっては第三 者か ら代替物を購入す ること (coverpurchase)であ り,また,売主 に とっ ては受領を拒絶 された商品を第三者 に転売す ること (resale)である こうし た 「代替取引」が可能かつ期待できるのであれば,あえて原契約の遂行を強制 す るよりも,挫折 した契約を清算す るほうが,当事者 にとってはるかに経済性

に適 っているとの評価 も成 り立っ37) 。

35)Huber,in:CISG‑Kommentar,Art.48,Rn,17:なお,売買 目的物が単 に契 約適合性を欠 くのみでは契約違反を重大 と解 さず,それが相当の期 間内に除去 され ない と確定 されて初 めて 「重大 な契約違反」を認 め る立場 (Honnold,op.°it. ( 7), §§184,296を参照)は,重大 な契約違反」概念を二様 に使 い分 ける〜環 症の重大性,及 び,それを除去す るための時間的遅延 とい う二つの関連 において〜

ことになるが, この ことに対 して も,同概念を弛緩 させ るので はないか との懸念が 表 明 され ることにな る(Huber,in:CISG‑Kommentar,Art.48,Rn.6,;

Hoffmann,op.°it.(22),S.299)0

36)Honnold,op.°it.( 7)199

37)Huber,in:CISG‑Kommentar,Art.28,Rn.5;Kastely,TheRighttoRequire PerformanceinInternationalSales,63Wash.L.Rev.(1988),607(629)

(13)

「ウィー ン売買条約」(CISG)における契約 目的の実現 と,契約か らの離脱 (1)189 (2) こうした代替取引の規律方法 は,英米法圏 と大陸法圏 とで必ず しも一致 を見ていない。そ して,その原因 は,契約違反 における債務者の履行義務の帰 趨 に対す る理解 とも無縁でないと思われ る。すなわち,契約違反 に対す る原則 的救済を損害賠償の給付 とす る英米 コモ ン ・ローの伝統 によれば,当該契約違 反 と同時に,債務者の履行義務 は損害賠償義務 に転化す るとも考え られ る。そ の結果,債権者 は,直ちに第三者 との問で代替取引を行 うことがで き,かつ, それを期待 され るとともに,それを蹟跨 した ことによ り自己の損害が拡大すれ ば,損害軽減義務違反 として賠償額を減額 され るとい う帰結 にも連なることに なろ う38) 。 この ことに対応 して,抽象的損害算定 の基準 は,原契約 の履行時 に置かれ ることになる39) 。

一方,大陸法圏一般 に見 られ るとお り,債権者 に特段の制約な く履行請求を 認める場合,そ こか ら契約解除〜及び損害賠償請求〜へ と,いっの時点で移行 す るかは,債権者 自身の判断に委ね られている。 ここで債権者が履行請求権を 維持す る限 り, この債権者が代替取引の義務を負わないことは自明である。ま た,履行請求権が存続 している問は,債権者〜 とりわけ買主〜によ り最終的に 取得 され るものが契約 目的物 なのか金銭賠償なのか も明 らかでな く, したが っ て損害額 も確定 しない40)。その結果,債権者 は代替取 引の時点 を〜 したが っ て,仮設的代替取引に基づ く抽象的損害算定の基準時点を も〜任意 に遅 らせ る

ことが可能 となる41)。

38)Huber,in:CISG‑Kommentar,Art.28,Rn.34;Treitel,op.°it.(症lo),§72:

なお,英米法を中心 とした損害軽減義務 に関す る研究 として,斎藤 彰 「契約不履 行 における損害軽減義務 損害賠償法の課題 と展望』(1990) 51頁を も参照。

39)Huber,in:CISG‑Kommentar,Art.28,Rn.34:1979年 の英 国動産売買法50 3項 [買主の義務違反の場合]及び51 3項 [売主の義務違反の場合] によれば, 損害 は,契約価格」 と 「商品が受領 (又 は供給) され るべ きであった時点の市場価 格若 しくは時価 (currentprice)」との差額 によ り算定 され る (Atiyah,TheSale

ofGoods,7thed.,1985,pp.372‑381,414‑421)。ただ し,アメ リカ統一商事法 典 は,抽象的損害算定 に加 え,現 に代替取引が行われた場合を も考慮 して,具体的損 害算定 に関す る規定 を置 いている。そ こで は,契約価格」 と 「代替取 引の費用」

又 は「転売利益」との差額が「損害」 とみなされ る(Treitel,op.°it・(10),§102)0 40)Rabel,DasRechtdesWarenkaufs,Bd.1,1936,Neudruck1957,S.377 41)Huber,in:CISG‑Kommentar,Art.28,Rn.34

(14)

190 42 第 1号

代替取引の強制及 び抽象的損害算定の基準時 に関す る立場を決定す るにあ たっては, このよ うに契約違反 における履行義務の帰趨を どのように捉え るか

とい う問題が,色濃 く影を落 として くると考え られ る。

(3)そ して,CISGは,大陸法の思想 に与す る立場を明 らかに し,契約違反 を被 った債権者 は代替取引の義務を負わない ことを原則 とした と解 され る42).

それを示す事実 として,代替取 引が 慣行 に適 い,かつ,それを期待可能な場合 における法定契約解除 (ipsofactoAvoidance)を定めていたULISの規定

(25,612項)が,CISGでは削除されてい る43)。その結果,債務者 は, 自己に対 してなされた損害賠償請求 に対抗 して,債権者 は直ちに代替取引を行 うことによ り損害を回避 し,又 はこれを軽減で き,かっ,そ うしなければな ら なか ったとの抗弁を,直ちに持 ち出す ことはで きない。なぜな ら,CISGは, 債権者 に代替取引を強制 しないためであ る44) 。 すなわち,債権者が履行請求 権を維持 し,それに伴 い契約解除〜及 び損害賠償〜の時期を遅 らせ ることが直 ちに不当とはいえず, したが って, この債権者が必ず しも損害軽減義務 に違反

した ことにはな らないとの理解 に馴染む と思われ る45) 0

また, この ことに対応 して,CISGの規定上,代替取引を行 うべ き合理的期 間を起算す る基準 日 (75条),及 び,市場価格 に基づ いて抽象的損害 を算定す る基準 日 (76条) は,いずれ も債務者が遅滞に陥 った 日ではな く,債権者が契 約解除を宣言 した 日と規定 され ることで,一貫性が保 たれ る46) 。

こうした規定 は,債務者が契約違反状態 に陥 って もその履行義務 は継続 し,

42)Huber,in:CISG‑Kommentar,Art.28,Rn.35

43)その理 由につ き,Huber,in :CISG‑Kommentar,Art.46,Rn .10の説 くと ころによれば, こうした趣 旨の規定 は契約上の信義 に合致 しない と同時に,法的安 定性 とい う側面か らも好 ま しくない と考 え られたためであ った (Treitel,op.°it.

(10)251も同 旨)。 さ らに,Will,in:Bianca/Bonell,Commentary,p.

334は, こうした規定を設 ければ,売主が 自己に課せ られた契約上 の義務 を軽視す るであろ うとの懸念を表明 していた。

44)Huber,in:CISG‑Kommentar,Art.28,Rn.4,35 45)Huber,in:CISG‑Kommentar,Art.28,Rn.35

46)Huber,in:CISG‑Kommentar,Art.28,Rn.31:CISG 75条は ,契約が解除さ れた場合 において ,合理的な方法 によ り ,かつ, 「解除後合理的な期間内に」代替

(15)

「ウィー ン売買条約」(CISG)における契約 目的の実現 と,契約か らの離脱 (1)191 したが って債権者か らは依然 として履行請求が可能である一方, この債権者が 代替取引の義務を負 うもので はない との大陸法的契約観か らは,理解が容易で あろ う しか し,英米法圏の思想か らすれば,債権者が契約解除 と代替取引を 蹟躍 し,それによ り自己の損害の拡大を招 けば,損害軽減義務違反 (CISG77 条)の適用 に傾 くので はないか 47) 。 現 に,不履行 を被 った当事者が,代替取 引契約を締結す るよ う合理的に期待 されていた ことのみを理 由として特定履行 が排除 されない点を とらえて, 「コモ ン ・ローの見地か らすれば‑驚 くべ きこ

と」 との表明が兄 い出せ るはか 48),国際取 引における信義則 の要請 (7条参 照)を根拠 として, こうした場合 の履行請求を制 限す ることも主張 されて い

49)。 この よ うに,債務者 の履行義務 の存続 に対す る理解 の差異 は,条約 7 5条か ら77条 までの解釈 に も影響 を及 ぼす と考 え られ る

(4)さ らに, こうした法的救済の構造 は,履行請求の制約を定める28条の解 釈 に も連な る可能性が ある。すなわち,同条 は,当事者が CISGの規定 に従 い相手方の義務の履行を請求で きる場合であって も,裁判所 は,条約が適用 さ れない類似の売買契約 において,国内法で同様の特定履行を命ず る判決をす る

取引が行われた とき,損害賠償請求権者 は,契約代金 と代替取引における代金 との 差額,及 び,74条以下 に定め る損害賠償を請求で きると定め る。 ここでは,代替取 引が 「解除」を基準 日とす る合理的な期間内に行われ るよ う予定 されている。

また,76 1項本文 によると,契約が解除 された場合であ って,商品に時価があ り,損害賠償請求権者が75条 に定 め る代替取 引を行 っていない ときは,契約代金 と解除時における時価 との差額」,及 び,74条以下 に基づ く損害賠償 を請求で きる。

ここで も,契約代金 との比較 における損害額算定 の基準 は,不履行 時」でな く 「 除時」に置かれている。

47)Huber,in:CISG‑Kommentar,Art.28,Rn.36:CISG77条 は,次 の とお り損 害軽減義務を定 めている。「契約違反 を主張す る当事者 は,得べか りし利益 の損失 を含 めて当該違反か ら生ず る損失を軽減す るため,その状況下で合理的な措置を採 らなければな らない。その措置を採 らない とき,契約 に違反 した当事者 は,軽減 さ れ るべ きであ った損失額を,損害賠償か ら減額す るよ う求め ることがで きる」0 48)Nicholas,TheViennaConventiononlnte̲rnationalSalesLaw,105L Q.

Rev.(1989),201(220)

49)Treitel,op.°it.(10),§72:そ こで は,代替 品の購入が 慣行 に適 い,かつ, こ れが合理的に可能であ るときの履行請求 を排除 して いたULISの規定 (25,42 1項 (C))CISGに承継 されなか った ことに対 して,遺憾 の意 が表 明されて

いる。

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