労働者の二重組合在籍 ・活動 についての覚書
島 田 陽 一
目 次
Ⅰ は じめに
Ⅱ 労働者の二重組合在籍 ・活動の背景
(1) 労働組合内少数派 と二重組合在籍 ・活動
(2)非正規従業員 の増加 と労働者の二重組合在籍 ・活動
Ⅲ 二重組合荏籍 ・活動の法理構築へ向けて (1) 東京税 関労組事件 をめ ぐって
(2)労働者 の二重組合在籍 ・活動 の法理 についての試論
Ⅳ むすびにかえて
Ⅰ は じ め に
(1)本稿 は,労働組合 に対する労働者 の権利 の研究の一環 と して,労働者の 二重組合在籍 ・活動 をめ ぐる法律問題 を整廃 し, これにつ いての試論 を提示す
ることを目的 とす る。
(2) 労働者 は, 自らの生活の維持改善 を目的 と して団結権 を行使 するために は,労働組合 を結成するか,もしくはこれに加入 しなければな らない。そ して, 労働組合 は,団体一般がそうであるように,一度結成 されるとその構成員 たる 組合員 とは独立 した意思主体 となる。 ここに,労働組合 とその組合員 たる労働 者 との意思 が一致せず,利害対立の発生する一般的根拠があるといえる. しか し, この労働組合 と組合員 との対立 という問題 は,すでに多 くの指摘のあるよ うに,わが国の集 団優位 の労働法理論 においては必ず しも十分 な考慮がなされ て こなか ったので ある。(1)ところが,たとえばユニオ ン ・シ ョップ協定の発動 1)たとえば,西谷敏 「現代労働法学 の理論的課題」法 の科学8号42頁 (1980年 ), と くに49頁 以下参 照,座談会 「労働組合 の変容 と団結権法理 の再検討」 (本多淳亮, 中山和久,横井芳弘,粗井常喜 )上 ・下,労働法律旬報1039号28貢以下,1040号4 頁以下 (1982年 )とくに,(上 )28頁以下の粗井発言参照。
〔399〕
400 商 学 討 究 第 37巻 第1 ・2 ・3号
にかかわる裁判例 にみ られるように,労働組合の組織強制機能 は,む しろ,多 数派 による少数派抑圧 の手段 と して濫用 される事例が少 な くないといえる。(2) そこで,今 日においては,労働組合 と組合員 との対立 を所与の事実 と してと ら え,労働者の団結権行使が労働組合 の組織強制 により不当な制約 を課 されない ように,労働組合内における組合員 の権利 にかんする法理 を構築 する必要があ るのである。そ して,本稿 でと りあげる労働者の二重組合在籍 ・活動 をめぐる 問題 もまた,そのために,検討 してお くべ き課題 のひとつ なのである。それは,
この労働者の二重組合荏籍 ・活動 は,後述するように,所属す る労働組合の活 動 に満足することのできない労働者 による団結活動 と してあらわれる現象 には かな らないか らである。
(3) もっとも,本稿 において労働者の二重組合在籍 ・活動 をとりあげる意義 は,上述するところにとどまるわけではない。今 日において,正規従業員以外 の 労 働 者 層 (パ ー トタイム労働者,派遣労働者 ,下請負労働者 ,出向労働者 ) が増 加 しているが, これ らの労働者層 において労働者の二重組合在籍 ・活動が登場す る可能性 が高 いと思われるのである。それは,後述するように,既存の企業別 組合が これ ら労働者 を組織化 しようとする動 きがあるが, この ことにより,当 該組合の内部 における利害調整が, より困難 になると予想 され るか らである。
また,出向労働者 の ように,「雇用 と使用」 の分離 しているとみ られる労働者 層 においては,その労働条件決定の仕組 その もののなかに,二重組合在籍 ・活
‑動が問題化す る可能性 を秘 めていると考 え られるのである。それは, たとえば 出向労働者では,出向元企業 および出向先企業の双方が,労働条件決定 に直接 関与 しているという事実 に留意 しているか らである。(3)
(4) ところで,労働者の二重組合在籍 ・活動 という用語 を定義することな し
2)これ らの裁判例 につ いては,西谷 「ユニオ ン ・シ ョップ協定 の再検討」久保敬治教 授還暦記念 『労働組合法 の理論的課題』世界思想社 (1980年 )52頁以下参照。また, 労働組合 の統制処分 をめ ぐる最近 の裁判例 につ いて は,本多 「団結権 と統制権 の再 検討 (上)」労働法律旬報1033号16頁以下 (1981年 )参照。
3)出向労働者 をめ ぐる集 団的労使関係 につ いては,渡辺章 「企業間人事移動 と団体的 労働 関係 の法的問題」 日本労働法学会誌63号82頁以下 (1984年 )参照。
労働者の二重組合在籍 ・活動 についての覚書 401
に使用 してきたが,労働法学 において共通の理解のある用語 とはいえないので あ り, ここで, この用語の本稿 における意味内容を明確 に しておきたい。(4)
まず明 らかに してお くべ きことは,本稿 では,便宜上,「労働者 の二重組合 活動 ・在籍」 とい う用語 を使用 しているが, この用語 には
,
「二重組合在籍」と 「二重組合活動」 との区別 される二つの問題が含 まれているのである。
第‑ に,二重組合在籍 とは,労働者が並行 して二つ以上の労働組合に在籍す ることを意味する。第二 に,二重組合活動 とは,ある労働組合 に所属する労働 者が,二重組合在籍状態 にあるか否かにかかわ らず,「他の組合」と組合活動 上関係 を有することである。
(3) なお,労働者の二重組合在籍 ・活動 という現象 が必 ず しもよく知 れわ たったものということはできないので, この現象の発生する,また発生 しうる であろう背景 について, より詳細 に示 したうえで,法的側面の検討 をおこなう という順序で考察 をすすめてい くことに したい。
丑 労働者の二重組合在籍 ・活動の背景
さて, ここでの課題 は,労働者の二重組合在籍 ・活動 という現象が,どのよ うな脈絡 において生 じ,かつ今後問題化するかを解明することである。 Ⅰで示 したように,本稿 では,労働者の二重組合在籍 ・活動 という問題 を二つの側面 か ら注 目 している。すなわち,第 1は,労働組合内の少数派の活動の一環 とし ての問題 という側面であ り,第 2は,正規従業員以外の労働者層の増加 にとも なう問題 と しての側面である。そこで,そのそれぞれについて, より詳細 に検 討することによって,労働者の二重組合在籍 ・活動 をめぐる背景 をあきらかに
しておきたい。
4)わが国では,アメリカの "dualunionism"の訳語 として,「二 また組合」,「二重組合」,
「二重組合主義」等の用語があて られている。(後掲5)のシンポジウム参照)。 し か し, この問題 には,同 シンポジウムにおいて宮島尚史教授が適確 に指摘 している ように,組合員 の 「二重組合主義」 には,在籍次元の問題 と活動次元の問題 とがあ り,両者 は区別 されるべきである (同 シンポジウム240‑241頁 )。そこで,本稿 では, 二重組合在籍 ・活動 という用語 を使用することとしたのである。
402 商 学 討 究 第 37巻 第1 ・2 ・3号
(1)労働組合 内少数派 と二重組合在籍 ・活動
1 労働組合内少数派 と二重組合在籍 ・活動 という問題 は, これまで労働法 学 において本格的な検討 こそなされていないが,まった く議論 されていなかっ たわけではない。そこで, ここではそれ らの議論 を紹介 しなが ら,労働組合内 少数派 にとっての二重組合活動 ・在籍 の意義 ・背景 をあき らか に していきた
い 。
2 さて,労働組合内少数派 と二重組合活動 ・在籍の問題が,わが国の労働 法学 において最初 に議論 されたのは,1970年の日本労働法学会第40回大会の シ
ンポ ジウム(5)であったと思 われ る。 この大会 の テ‑マ は 「70年代 の労働法学 と労働運動の課題」 ということであったが,二重組合活動 ・在籍 の問題 がと り あげられたのは,近藤昭雄教授の 「労働組合 の統制機能 と少数組合員 の権利」(6)
という報告 をめぐる議論のなかでの園部秀信判事 の発言 が発端 であった。そこ では,少数派組合員 の活動 に対する労働組合の統制 にかん してのボーダ‑ライ ン ・ケースと して,二重組合在籍 ・活動の問題 に触れ られている。園部判事 は,
「組合 に対す る忠誠の問題 と して,組合員各人 は,所属組合 に敵対する組合 (ラ イバル ・ユニオン)の活動 を助長 しないことはもとよ り, 自 らこれに加入 しな い義務 を負 う」(7)とす る立場 か ら,そのいかなる場合 に,組合員 に対 して統制 処分が可能 といえるのかという問題 を提起 している。そ して, この問題提起 を 受 けて,若干 の討論がおこなわれているのである。(8)
3 さらに,その後 「労働組合の変容 と団結権法理の再検討」というテーマ での労働法律旬報誌上の座談会 (1982年 )に率いて,(9)労働者の二重組合在籍 ・ 活動 について多少 と りあげられている。 この座談会の意図は,民間大企業労組
を中心 として組合体質が変容 してきているとの認識 を前提 と して,従来の団結 権理論 を洗 い直そうとするところにあった。そ して,現代の労働組合 をめ ぐる
5)日本労働法学会誌37号217頁以下 (1971年)0
6)同報告については,同上113貫以下に掲載されている。
7)同上シンポジウム235頁。
8)この議論には,角田邦重教授,宮島尚史教授が参加されている。
9)労働法律旬報1039号,1040号
労働者の二重組合在籍 ・活動についての覚書 403
否定的現状 を打破 するための労働法学 の課題 の ひとつ と して,座談会 出席者 の 一人 である中山和久教授が二重組合在籍 ・活動の問題 を提起 している。中山教 授 は,二重組合在籍 ・活動 の意義 につ いてつ ぎの ように端的 に述べている。
「二重組合主義 が可能 であ り,現在 しぼ りつ けられている労働組合の ほか に, それか ら排除 され ることな しにもう一つの自主的 ・民主的 な労働組合 に加入 す る ことができるんだという法理 を確立 す ることを通 じて,現在未組織 で ある人 たちにす ら現在 の組合 に対 して は全然魅力 をもってないけれど,新 しい 自由な 労働組合 に魅力 をもってそっちへ加入 してい く道 をひ らく可能性 が あるだろう
という気 がす る。」(10)
4 さ らに,本稿 の いう労働者 の二重組合活動 が問題 とされた稀有 な裁判例 で ある東京税 関労組事件東京地裁判決 (昭和55年5月7日,労民集31巻3号575頁。
なお,同判決は,同事件の東京高裁判決 ・昭和59年4月17日,労民集35巻2号155頁と あわせて,後に詳 しく検討することとなる。)をめ ぐって,近藤教授 が複数組合併 存下 にお ける少数組合員 による組織改革闘争 と他組合 との共 闘 という問題意識 か ら議論 を提起 されている。 この議論 は,労働者 の二重組合在籍 ・活動 という ことを直接的 にと りあ げているわけで はないが,本稿 の検討 にとって示唆 に富 む以下 の ような論点 を提起 している。
「わが国にお ける組合併存 ‑組織競合関係 の もとにおいては,職場 を基礎 と した自己利益追求 の運動,そ して,組織改革 闘争 は,相手方組合 ない し組合員 との共闘 とい う方 向へ進 む ことを内包 しているので あって, したが って,組合 員 の 自己利益追求の運動 や組織 改革 闘争がそれ と して保障 されるべ きであると す るな らば,その ような 『共闘』 と しての運動 もひと しく保障 され るものでな
ければなるまい。」(ll)
5 以上 みた ように,労働者 の二重組合在籍 ・活動 につ いて,わが国の労働
10)同1040号23頁。
ll)近藤昭雄 「労働組合の内部関係と司法救済の法理 (中)」労働法律旬報1023号36頁 (1981年)。なお,東京税関労組事件東京地裁判決についての判例批評として,逮 藤隆久 「併存組合下における組合員の組合活動」労働判例359号10頁以下 (1981年), 中窪裕也 ・ジュリス ト744号162頁以下 (1981年)がある。
404 商 学 討 究 第 37巻 第1・2・3号
法学 においては,労働組合内少数派 に対する組合の統制処分をめ ぐる問題の‑
局面 として議論がなされてきたが,本格的な分析 はなお今後の課題であること が確認 されよう。
ところで,従来の議論が念頭 においていた多 くの労働組合の協調的姿勢 をと るという傾向は,今後 とも大 きな変化があるとは思われない。また,組合内で の利害対立 は,不況のなかでは,より顕在化 しやすいといえよう。したがって, 労働組合内少数派が二重組合在籍 ・活動 にかかわる可能性 は今後 とも大 きいと 考 え られ冬のである。
(2) 非正規従業員の増加 と労働者の二重組合在籍 ・活動
1 つ ぎに,第二の側面 について検討 しよう。近年,サービス経済化 ・情報 化 といわれる産業構造の変化 にともない,雇用形態が多様化するなど就業構造 に変化が生 じてきている。 製造業の間接部門等 にみ られる企業外部への業務委 託の進行 は,下請負労働者および派遣労働者の需要 を増加 させている。 また, 商業 ・サ‑ビス業 において労働需要が増大 しているが, ここで求め られている のは主 としてパー トタイム労働者なのである。 そ して, これ らいわゆる縁辺労 働者 は,従来,企業別組合の組織対象外 におかれているか,もしくは,企業別 組合による組織化が困難であったため,ほとんど末組織労働者 にとどまってい
るのである。(12)
したがって, 1975年 (昭和50年 )には34.4%であった組織率が1985年 (昭和 60年 )には28.9%にまで低下 している(13)ゎが国において, これ ら縁辺労働者
12)花見忠 「産業調整 と雇用」日本労働協会編 『80年代 の労使関係』日本労働協会 (1983 年 )54ち頁以下,桑原靖夫 「サー ビス化 ・情報化 と新 たな展開 と労働 問題」 日本労 働協会雑誌318号 (1985年 )2頁以下,座談会 「サー ビス化 。情報化 の進展 と労働 問題」(石原毒夫 ・武藤誠 ・林丘 。達見直人 ・松島静雄 )同上56頁以下,座談会 「パ ー トタイム労働 の実情 と問題点」 (舟橋尚道 ・矢野弘典 ・柴田守 ・山口浩一郎 )日本 労働協会雑誌284号24頁以下 (1982年 )等参照。
13)労働大臣官房政策調査部編 『昭和61年度版 日本の労働組合の現状』(1986年 )13頁 。 なお, 日本 における組織率の低下の要因については,亀山直幸 「組合組織率の低下 の背景 と問題点」労働 レーダー 8巻5号12頁以下 (1984年 )参照.
労働者の二重組合在籍 ・活動 についての覚書 405
の組織化 は,極 めて重要な課題 となってきているといえよう。(14)
2 そ して, この縁辺労働者の組織化 という課題 は,労働運動 においても次 第 に意識 されるようになってきているのである。(15)これは,正規従業員のみで 組織 されている企業別組合 にとって,パー トタイム労働者等の非正規従業員 の 増加 は,企業 内における組合 の規制 力の低下 につ ながると意識 されるように
なったためであるといえよう。
たとえば,パー トタイム労働者の多い流通部門を組織対象 としているゼ ンセ ン同盟では,比較的早 くか らパ ‑ トタイム労働者の組織化 を開始 してお り,(16)
また,近年発表 されている600万総評推進委員会報告 においても,縁辺労働者 の組織化 が重要 な課題 と して提起 されている。(17)このような労働運動 における 縁辺労働者の組織化が成功 していくか否かについてここで予測することは不可 能であろう。ただ,本稿の課題 との関連で注 目すべ きは, これ ら縁辺労働者の 組織化 において,後 にみるように多様 な組織方法が登場 してきていることであ る。というのは, これ らの組織方法のなかには,労働者の二重組合在籍 ・活動 が問題 となる可能性が高いと考 え られるものがあるか らである。そこで, この
ことにつ いてより詳 しくみてい くことに しよう。
3 まず,パー トタイム労働者 についてみてみよう。ゼ ンセ ン同盟では,既 存の企業別組合が,組合員の範囲を拡大することによりパ ー トタイム労働者 を 組織化 しようと している。 これ は,「職場の一体感 をそのまま組合 まで持 って
14)たとえば,パー トタイム労働者の労働組合への加入割合 は10.7%であるとされていi る。労働大臣官房政策調査部編 『昭和61年版 日本の労働組合、の現状 2』(1986年 ) 参照。 また,稲上毅 「こうすれば労働組合 は生 き残 れる」 中央公論1986年10月号 236貢以下参照。
15)労働運動側での対応 を知 りうるものとして,座談会 「環境変動 と労働組合の活性化」
(大川昭雄,柴田守,石垣辰男,逢見 直人,早川征一郎,佐藤博樹 )大原社会問題 研究所雑誌329号2貢以下 (1986年 )がある。
16)芦田甚之助 「パー トタイマーの組織化の現状 ‑ ゼ ンセ ン同盟の取 り組みについ て ‑ 」 日本労働協会雑誌284号4頁以下 (1982年 ),「労働市場の構造変化 と労働 組合の組織戦略」同325号23貢以下 (1986年 )参照。また,橋詰洋三 「流通産業のパー
ト組合 と雇用」季刊労働法136号81貢以下 (1985年 )参照。
17)総評調査時報1985年10‑12月号,とくに,12月号48頁以下参照。
406 商 学 討 究 第 37巻 第1 ・2 ・3号
い って,組合員 範 囲 をパ ー トにまで拡大 す る ことが可能 で ある し, またその ほ うが組織 運営 か らいって も望 ま しい」(18)との判断 に もとづ くもので ある。 しか し,パ ー トタイム労働者 とフル タイム労働者 とい う利害状況 お よび勤務形態 の 異 なる労働者 が同一組 合内 に存在 す ることは,組 合運営上 困難 な問題 を生 じや す いので ある. そ こで, この困難 を回避 す るため に,パ ー トタイム労働 者 の権 利 ・義務 を制 限 し, 「特別組 合員」 ない し 「準組 合員」とす る例 やパ ー トタイ
ム労働者 だ けの 「協議会」を結成 させ,交渉等 はその企業 の正規従業員組合 が お とな うとい うような例 が登場 して きている。(19)また,他方 で従来 の企業別組 合 の延長線上 にはない,新 たな組織形態 が登場 してきていることもまた注 目す べ きことといえ よう。 それ は,労働組合 の地域組織 の相談活動 か ら生 まれたい わ ゆ る地 域ユ ニ オ ンで ある。 この地域ユ ニ オ ンは,共済制度 を土台 に (ユニオ ン年金等),「生 活相談 ,健康相談 ,法律相談 ,情報 サ ー ビスな どの活動 を ドッ キ ングさせ,団結 を発展 させ ようと してい るところに特徴 が ある」(20)と されて いる。 そ̲して, 「その め ざす と ころ は企業 内労働 条件 交渉機 能 を中心 にすえ た 労働組合 だ けで な く,相互扶助 をス ローガ ンに した 『生活対応重視型労働組合 の創造』で ある」とか 「門戸 開放型労働 組合 の建設」で あるとか いわれてい る。(21)
もちろん, この よ うな組織形 態 は, いまだ萌芽的 な ものであ り,今後 いかなる 展 開 をみてい くか は予 断の許 す ところで はない。 ただ し,重要 な ことは, この 新 しい労働組合 の誕生 の背景 には,パ ー トタイム労働者 の既存 の労働組 合 に対 18)前掲 ・芦田 「労働市場の構造変化と労働組合の組織戦略」30頁。また,このような 立場に賛同 してパー トタイム労働者をめぐる集団的労使関係法について独 自の理論 を展開するものとして,小鳥典明 「パー トタイム労働者と集団的労使関係」 日本労 働法学会誌64号77頁以下 (1984年)がある。
19)橋詰 ・前掲論文参照。
また,パー トだけの協議会を組織 し,その運営を正社員が司るという方式 も存在 している。前掲座談会 「パー トタイム労働の実情と問題点」34貢以下参照。なお, 近年結成される労働組合においては,当初から正社員とパー トタイム労働者とを一 緒に組織する事例もあるようであるo前掲 ・芦田 「パー トタイマー組織化の現状」
12貢参照。
20),21)前掲600万総評推進委員会報告 (中)80頁。このようなユニオンの一例である 江戸川ユニオンについて,
「
『パー ト春闘』 ・立ち上がる女たち」朝 日ジャーナル 1986年3月7日号26頁参照。労働者の二重組合在籍 ・活動 につ いての覚書 407
する否定的評価のあることである。つま り,パー トタイム労働者 は,勤続年数 が長 くなるにつれて,労働組合への加入志向が高 くなるが,それにもかかわ ら ず職場に存在する企業別組合 には,必ず しも魅力を感 じていないのである。(22)
4 以上,パー トタイム労働者の組織化の動向を簡単に紹介 したが, ここか ら,パー トタイム労働者の二重組合在籍 ・活動 につ いて,つぎのような可能性 を兄 い出すことができよう。
それは,企業別組合がパー トタイム労働者 をも組織範囲にくわえていったと きに,パ ー トタイム労働者の層 としての要求 を満 た しえない可能性がある。つ ま り,フルタイム労働者 たる組合員 とパー トタイム労働者 たる組合員 との間の 利害調整 に企業別組合が失敗 した場合 に,二重組合在籍 ・活動が問題 となる余 地があると思われるのである。 また,パー トタイム労働者が,組合員 と しての 権利 を制限 されている場合 には,その可能性 はより高 くなるといえよう。さら に,共済年金等,企業別組合では必ず しも実現 しえない課題 をめぐっても二重 組合活動 ・在籍が問題 とな りうるのではないだろうか。
5 つ ぎに,派遣労働者および下請負労働者についての二重組合在籍 ・活動 の可能性 を探 ってみよう。 これ らの労働者層が組織化が遅れてお り,かつ困難 であることについては多言 を要 しないといぇよう。(23)しか し, ここで注 目した いのは,派遣労働者および下請負労働者 は,厳密な法的意味においてではな く, 広 い意味で 「雇用 と使用」が分離 しているという点である。 この点では,必ず
22)チェー ンス トアーに働 くパー トタイマーの労働組合への加入意志 を勤続年数別 にみ た調査 によれ ば,「勤続 3‑ 4年 で4割,7年以上 で は5割 が労働組合 に加入 した いと答 えている」 との ことである。前掲 ・芦 田 「労働市場の構造変化 と労働組合の 組織戦略」21頁。ところが,他方で 「ゼ ンセ ン同盟調査 によれば,非組合員パー ト
で組合加入意思 のある者1,315人の うち,正社員 の組合の入 りたいは18.3%,パ ー トだ けの組合 な ら入 りたいが81.7%である。」 との指摘 が されているのである。中 村圭介 「第三次産業 における労働組合 の結成 とその効果」 日本労働協会雑誌325号 29頁 (1986年 )。
23)たとえば,前掲座談会 「サー ビス化 ・情報化 の進展 と労働問題」63頁以下参照。ま た,前掲600万総評推進委員会報告 で は,派遣労働者 につ いては,労働者供給労組 の組織化 を展望 しているようである。((下 )51頁。)
408 商 学 討 究 第 37巻 第 1 ・2 ・3号
Lも縁辺労働者 とはいえないが,すでにふれた出向労働者(2畑 こついて も同様 である。
これ らの労働者層 は,自己の労働条件 につ き従来のような単一の使用者 と労 働組合 という交渉関係 だけで は処理 し得 ない部分 があ り, この ことが彼 らに とっての二重組合在籍 ・活動の可能性 につながってい くのである。 また,派遣 労働者や下請負労働者 については,パー トタイム労働者 と同様,「生活対応」
的な組合機能 (相互扶助 ・共済機能)を求める可能性 も高いと思われ, このこと か らも二重組合在籍 ・活動の可能性 があるといえそうである。
6 このように考えるな らば,従来の議論で想定 されていたことは異 なる局 面 において,今後,労働者の二重組合在籍 ・活動が問題 となる余地 は決 して少 ないといえる。そこで,労働者の二重組合在籍 ・活動の法理 を提唱 していくた めには, このような局面についても念頭 にいれてお くことが必要であろう。
それでは,労働者の二重組合在籍 ・活動 をめぐる以上のような問題状況 を前 提 として,つ ぎにその法理の検討へ移 ろう。
Ⅱ 二重組合在籍 ・活動の法理構築へ向けて
さて,二重組合在籍 ・活動 をめぐっては, どのような法的論点が存するであ ろうか。 ここでは,本稿で検討する二重組合活動が問題 となったと思われる裁 判例である東京税関労組事件東京地裁判決および同事件東京高裁判決 を手掛 り
として検討 してみたい。
(1) 東京税関労組事件 をめぐって
この事件 は,東京税関労組の組合員の二重組合活動 につ いて,同労組 が制裁 処分事 由に該当す ると して当該労働者 を除名 した事件 である (なお,制裁処分 事由は他にもある。)。同事件 の東京地裁判決 および東京高裁判決 ともに, この 除名処分 を有効 したが, この二判決 は,労働者の二重組合在籍 ・活動の法理 を 検討するうえで重要な論点 を提示 しているのである。 そこで,多少煩雑 ではあ
24)出向労働者の労働条件をめぐる問題については,渡辺琴 「出向時の労働条件」日本
労働法学会誌63号46頁以下に詳しい。
労働者の二重組合在籍 ・活動についての覚書 409
るが,同事件 の う.ち,労働者 の二重組合活動 にかかわ る部分 の事実 関係 の概要 と地裁判決 を中心 と しての判 旨 を紹介 してお こう。
除名処分 を受 けた組合員 ら (同事件原告)は,東京税 関労組 (被告組合)の青 年部役員 で あった。原告 らは,青年層 の独 自要求 で あった基礎科研修生 の超過 勤務手当 , 日額旅 費 の支給要求 にかん して,学習会 を開催 し, さ らに要求実現 の ための有志組織 (34万円とる会) を結成 す る等 の活動 を した。東京税 関労組 には,職場 に併存 す る全税 関労組 を強 く意識 して決定 され た,組織 の競合 関係 にあ る組 合 とは共 闘 しない旨の方針 (共闘原則)(24)が存在 して いた ところ,原 告 らは, その活動 の過程 で以下 の諸点 において全税 関労組 と関係 をもった とさ
れ る事実 が あった。
(∋学習会 の講師 と して全税 関労組書記長 が出席 した。
(∋学習会会場 が全税 関労組東京支部青年部長名義 で借 りられて いた。
③学習会 ,「34万 円 とる会」 に全税 関労組員 も含 まれていた。
④青年部大会 で全税 関労組青年部 との交流 につ き一切提案 を して はな らない 旨の執行委員会 の指示 にそむ く行為 が あった。
以上 み た ように,東京税 関労組事件 の特徴 は,活動 の内容 は, いわゆ る組合 員 の 自発 的組合活動 の‑ 類型 で あるが,複数組合併存下 にある他組 合 と活動上 かかわ りをもった とい う点 にあるといえ よう。 この ように,労働者 の二重組合 活動 は,組合 内 にお ける組合員 の 自発 的活動 にともなって問題化 す ることが多 い と考 え られ る。 したが って, その法的判断 にあたっては,組合員 の 自発 的活
24)この共闘原則とは,つぎのような内容であった。
(1) 組織の競合関係にない組合との共闘には必要に応 じて積極的にとり組む。
(2)競合関係にある髄合とは当面共闘 しない。但 し,組合員の大多数が賛成 し,組 織混乱が生 じることなく,共闘を行 うことによって,より多 くの要求が前進する見 通 しがある場合に,次の点についての保証がなされれば,その時点で検討を加える。
(イ) 相手組合の最高決議機関で組織間共闘について決議がなされていること。
(ロ) 共闘するに際してのモラル (例えば,相手方組合の運動に関して中傷,ひぼう しない事),及び基本原則 (例えば労組の目的を政治活動の手段に利用 していない か等)を守っており,将来も守る見通 しがある場合。
い) 要求が一致することはもちろん,具体的戦術等について一致する場合O
(I)相互の指導部及び組合員が信頼をいだいており,組織侵略がない場合。
(労民集31巻3号591頁以下)
410 商 学 討 究 第 37巻 第1 ・2 ・3号
動 につ いての評価 を前提 と して,その うえで二重組合活動 とい う側面 につ いて 検 討 す るとい うことになるので ある。しか し,組合員 の 自発的活動 につ いて は,
これ まで も多 くの議論 の されているところで あるので,\ (25)本稿 で は,二重組合 活動 とい う側面 につ いての法的判断 に焦点 をあて る こととす る。
それで は,二重組合活動 とい う側面 につ いて,地裁判決 は, いかなる判断枠 組 を設定 して い るであ ろ うか。地裁 判決 は
,
「同一企業 内 に対立 す る複 数 の組 合 が ある場合 に他組合又 は他組 合員 と通謀 して組合員 の脱退等組 合 の組織 の混 乱 をはか る行為 その他組合 の内部規律 ない し秩序 を乱 す一切 の行 為 が,組合 の 団結 力 を弱 め結局対使用者 との関係 において組合 の闘争力 を弱体化 させ る こと にな るもの と して当然 ,統制処分 の対象 とな るもの と解 すべ きで ある」(616頁 ) との前提 にたって いる。ここで,高裁判決 も同様 の見解 で あることを確認 してお こう。
高裁判決 によれ ば,労働組 合 の統制権 は 「労働者 が使用者 と対等 の立場 で交 渉 す ることを可能 にす るため に労働組合 にお ける強 固 な団結 を維持 す る ことに あ るか ら, この ような 目的 を達成 す るため,使用者 との関係 においてで な く, 当該労働組合 と対立 す る他 の労働組合 との関係 において当該労働組合 の団結 を 弱体化 ない し破壊 し,又 はその おそれのある行為 も排 除す ることが必要 で あ り, 労働組合 の統制権 の対象 とな る」 (160頁 )と されて いるのである。
組合員 が組合 の組織 混乱 を意 図 して, なん らかの行動 にで ることは,複数組 合併存下 であろ うがなか ろ うが, あるいは,二重組合活動 であろ うがなか ろ う
が,統制処分 の対 象 とな るであろ うことは異論 のないところであろ う。したが っ て,地裁 判決 の い う 「その他組合 の内部規律 ない し秩序 を乱 す一切 の行 為」お
よび高裁 判決 のい う 「当該労働組合 と対立 す る他 の労働組 合 との関係 において 当該労働組合 の団結 を弱体化 ない し破 壊 し,又 はそのおそれの ある行為」には,
\いか なる行為 が含 まれ るのかが問題 となろ う。
つ ぎに,東京税 関労組事件 で問題 とされた 「共 闘原則」につ いての評価 を示 25)たとえば,近藤 「統制権の限界」現代労働法講座2巻,総合労働研究所,(1980年 )
199頁以下,同 「統政権の根拠 と限界」法学新報87巻1 ・2号 (1980年 )111頁以下 一 参照。
労働者の二重組合在籍 ・活動についての覚書 4日
しておこう。東京税関労組 の共 闘原則 については,地裁判決 は,「この共 闘原 則 は直接 には組合 と組合 との関係 を定 めているものではあるが,組合 は組合員 により構成 されているものなのであるか ら,被告組合が他の組合 と共同闘争 を しないことを定めたということは被告組合員 が他組合の組合員 と組合活動 を共 に しないということを定 めたことにはかな らない」 (620‑621頁 )としている。
み られたように,地裁判決 は,東京税関労組の共闘原則なる方針等 を組合員 自身 をも拘束するものとみている。この点 もまた論点 として検討すべきであろ う。つま り,組合 は,その方針 において一般的に二重組合在籍 ・活動 を禁止す ることができるのかという問題 である。 さらにいえば,組合規約 により二重組 合在籍 ・活動 を禁止することが有効 といえるかという問題が検討 されるべきと
いえよう。
それでは以上の判断枠組 を前提 として,二重組合活動 にかかわる行為 につい て評価 をみていこう。まず,「学習会」 につ いては① ・② ・③の事実 および両 労組間の状況な らびに共闘原則の存在 を前提 として,つ ぎの ように判断 してい
る。
「学習会 を開催 して被告組合員が,全税関労組員 と組合活動 と同種の団体的 行動 を共 にすることは,被告組合の大会で決定 された共闘原則の趣 旨に反 し, 被告組合員 と しての基本的な倫理 に欠 ける行為であって,被告組合の組織 に動 揺 を与えかねない重大な内部規律 ない し秩序違反行為である」(621頁 )。そ して, 同学習会が 「客観的にみて,全税関労組幹部の指導 をうけ,同労組の影響のも
とにあ り,あるいはこれとなん らかのつなが りがあるのではないか との強 い疑 を多数の被告組合員 に抱かせるような集会であった」 (621頁 )とす る。また, 原告 は主観的には被告組合の組織の撹乱 を図ろうと したものとはいえないが, 客観的には組織の動揺 を招 きかねない行為であ り,「被告組合の青年部副部長 という要職 にある組合員 としてふさわ しくない客観的洞察 を欠いた.極めて軽率 な行動」 (622頁 )であるとされている。(26)
また,(むの青年部大会 に全税 関青年部 との交流 に関する件 は一切提案 しては な らないとの執行委員会決定 については,当時の両労組 の関係 (東京税関労組
412 商 学 討 究 第 37巻 第1 ・2 ・3号
を脱退 し,全税 関労組 に加入す る者がでていた。)から して不 当 で は な い と判 断 さ れ て い る (625頁 )0
こ こでは,「学 習 会 」そ れ 自体 の 評価 につ い ては立入らな い が ,留 意 す べ き は, 客 観 的 にみ て , 「学 習 会 」 を全 税 関労 組の影 響下 にあると み られ る と して い る
こ とで ある。 つ ま り, 複 数 組 合 併 存下 にお い ては,組合員 の 自発 的 活 動 に,他 組 合 も しくは他 組 合 員 と関 係 を有 して いれ ば,た だちに客 観 的 に は組 織 を混 乱 させ る行為 と して統 制 処 分 の対 象 とな ると い えるのが検討 す べ き論 点 と い え よ う。 よ り一 般 的 に い え ば, 通 常 で は許 容 され るべ き自発的 活 動 が二 重 組 合 活 動 な るが ゆえ に,統 制 処 分 該 当 行 為 とな るのは,いか なる場 合 な の か が検 討 され ね ば な らな い と い う こ と に な ろ う。
以 上 ,東 京 税 関 労 組 事 件 に提 起 した論 点をみて きたわ け だ が , つ ぎ に, これ らの論 点を意 識 して , 労 働 者 の二 重組 合 在籍 ・活 動 の法 理 につ い て の試 論 を提 示 する作 業 へ移 りた い と思 う。
(2) 労 働 者 の 二 重 組 合 在 籍 ・活 動 の 法 理 につ い て の試論
1 労 働 者 の二 重 組 合 在 籍 ・活 動 の法 理 の構 築 とは,と りあえ ず, 労 働 者 の 二 重組 合 在 籍 ・活 動 が組 合 の統 制 処 分 の対 象 と な るか否か の基準 を示 す と い う
こ とに な ろ う。 そ して , この基 準 を設 定 す る作 業 をつ うじて,労 働者 の 二 重 組 合 在籍 ・活 動 が 担 う法 的価 値 が あ き らか に な る と思わ れる 。
2 と ころ で ,労 働 者 の二 重 組 合 在 籍 ・活 動 の 法 理 を構 想 する に卒 た って は, これ ま で考 察 して き た こ とか ら して , まず ,前 提 として組 合員の自発 的 組 合 活 動と組 合 の統 制 権 との 関係 につ い て 考 察 し, そ の うえで , 二重組合 在 籍 ・活 動 に特 有 な論 点 を検 討 す る と い う順 序 が適 当 で あ ろ う。そ こで,まず ,労 働 組 合 の統 制 権 の範 囲 か ら論 じる こ と に しよ う。
3 労 働 組 合 の統 制 権 の範 囲 をめ ぐる問題 と は,労働 者 が組 合加 入 に よ りど
26)なお,高裁判決では,地裁判決の認定事実 に くわえて,「学習会」 「34万 円 とる会」
が, ともに全税関労組 による東京税 関労組切 り崩 しの一環であること,お よび控訴 人 ら (1審原告 )は,その意 図を知 っていたこと等 を認定 してお り,その結果,地 裁判決 よ りも直裁的 に除名処分 を有効 と しているのである。労民集35巻2号165‑
168頁参照。
労働者 の二重組合在籍 ・活動 についての覚書 413
の ような制約 を受 けることになるか という問題 を解明することともいうことが できよう。 この間題 は, これまでわが国の労働法学 において,労働組合の統制 権 の限界(27)ない し協約 自治の限界(28)として議論 されてきたことであろう。そ こで, ここではその議論 自体 には深 く立入 らず,二重組合在籍 ・活動の法理の 検討の前提 と して,私見 を述べてお くことにする。
労働組合 の果たす機能 は多様 であるが,そのすべての局面 において統制権 を 背景 とす る必要が あるわけではない し,またそうあるべ きではないといえよう。
もちろん,労働組合の団結 を意図的 に破壊 しようとする組合員 の行為が統制処 分 の対象 となることは当然である。 しか し,意図的な団結破壊行為 ではない組 合員 の自発的組合活動への評価 は慎重 でなければな らない。組合 は組合員 のす べての行動 について統制 しうるわけではな く,その団結 目的において必要 とさ れる範囲 において0)み統制力を有するということが留意 されねばな らない。
そ して,労働組合が組合員 に対 して統制 を課 しうるのは,つ ぎに述べる理由 か ら組合員 の基準的労働条件 をめ ぐる使用者 との交渉過程 にかかわることに限 定 されるのである。
さて,基準的労働条件 をめ ぐる使用者 との交渉 は,実質的には労働者 にとっ て組合 に加入することによって可能 となることであるといえよう。 ところで, 使用者が組合 を基準的労働条件 についての交渉相手 と しうるのは,組合の統制 力 を前提 としていることといえ よう。 これを欠 くとすれば,使用者 は,組合 と 交渉することが意味をなさないことになるか らである。 ここに組合の統制権が 法的に承認 されるべ き根拠があるといえよう。換言すれば,労働者 は,組合加 27)労働組合の統制権 の限界 につ いての文献 は多数 にのぼる。1970年代前半 までの文献
整理 と して,前田政宏 「組合 内部統制 の法理
」
『文献研究労働法学』総合労働研究 所 (1978年 )122貢以下がある。 また,25)の近藤論文 は, この点 につ いての比較的新 しい文献 であるO
28)萩沢清彦 「協約 自治 と組合 をめ ぐる諸問題」 日本労働法学会誌38号23頁以下 (1971 年 ),渡辺章 「協約 自治 と個別労働者 の法的地位」 同38頁以下,諏訪康雄 「労働協 約 の規範的効力 をめ ぐる一考察
」
『労働組合法の理論課題』179頁以下,近藤 「労働 協約 自治の限界」労働判例360号4頁以下 (1981年 ),片岡舜 「協約 自治論」 日本労 働法学会誌61号5頁以下,(1983年 ),西村健一郎 「協約 自治 とその限界」 同36頁以 下,等参照。(
414 商 学 討 究 第 37巻 第1 ・2 ・3号
入 により,基準的労働条件 について は組合 をつ う じて使用者 と交渉することを 組合 と約 していると考 え られ るのである。
これに対 し,既 に発生 している賃金債権 など労働者個人の権利 に属す る問題 については,労働組合 は処分権限を有 しないのである。 したがって この ような 問題 にかん しては基準的労働条件 をめぐってみたような意味での統制力の必要 性 を欠 くのであ り,労働組合 は組合員 に対 し統制権 を発動 しえないといえよう。
ところで, ここで注意 してお くべ きことは,基準的労働条件 に関 して も,組 合員 は労働組合 に,完全 に白紙委任 しているわけではないということで ある。
労働組合 は組合員 の要求 を公正 に代表する義務 を負 っているのであ り,その要 求決定過程では組合員 の意見 を吸収すべき努力義務 を負 っているのである。
この ように,組合員 は,すべての事項 について組合 をつ うじて使用者 と交渉 す ることを義務づ けられるわけではない し,また,組合 をつ う じて交渉す る事 項 につ いても,組合員 の意見 が公正 に反映 させる権利 を有 するのである。 これ は,労働組合の取引する 「労働力商品」の所有者 があ くまで組合員個人であっ て, したがって労働組合の運営 において組合員 は主体性 を喪失す ることはない という労働組合 の団体 と しての性質 に由来することである。(29)
さて, ここで,組合員の 自発的活動 と組合の統制権 につ いて, もう一度整理 しておこう。
労働者 は,組合加入 によって,基準的労働条件 の取引 については,労働組合 をとお して使用者 と交渉することを義務づ けられる。 しか し, この場合 におい て も,労働組合が単 なる受動的な受益者団体 ではないことか らして,使用者 と の交渉過程 には可能な限 り参加することが保障 されねばな らない。労働組合 は 組合員 の要求 を反映す るうえで組合員 に対 しいわば 「公正代表義務」 を負 って いるのである。 しか し,労働者個人の処分権限に属する問題 につ いては,労働 組合か ら制約 を受 けない。また,組合員 は,組合 の団結 を意図的 に破壊する行 為 は当然許 されないが,組合 の意思決定への参加 を意図す る行為 および自己利
29)この ような労働組合 の団体 と しての特質 につ き考察 した文献 と して,横井芳弘 「労 働組合の団体性」季刊労働法69号117頁以下 (1968年 )がある。
労働者の二重組合在籍 ・活動 についての覚書 415
益の追求のための行為 は,団結破壊行為 と区別 されなければならない。
4 以上 を前提 として,まず,労働者の二重組合在籍(30)か ら検討 してみよう。
組合員が他の組合の組合員であること自体が,その組合の使用者 との交渉関 係 を阻害 し,統制処分 に該当するというのは,いかなる場合であろうか。それ は,同一使用者 に対 して基準的労働条件 をめ ぐる交渉関係 を有 している組合, または,交渉関係 を形成 しようとする組合であると考 えられる。より具体的に いえば,企業内に併存する組合であ り,また,その企業 と基準的労働条件 につ いて交渉 しようとする地域一般組合であるといえよう。
この場合 においては,労働者の二重組合在籍 は,統制処分 に該当する行為 と いえよう。 というのは,基準的労働条件 についての組合 と使用者 との交渉 にお いて,当該労働者 については双方の組合が代表 していうことにな り,使用者が 組合の統制力を信用 しえない事態 となるか らである。組合 は, この ような組合 の交渉力の基盤である統制力の低下 を招 く組合の行為 については, これを禁止
しうるのである。
しか し,同一使用者 と交渉関係 になく,また交渉関係 を持つ意思のない組合 についてであれば,労働者の二重組合在籍が答め られることはないといえよう。
たとえば,企業別組合 に組織 されているパー トタイム労働者が,(31)年金等の共 済的機能 を期待 して地域労組 に加盟することは自由であり,また,出向先企業 に組織 されている企業別組合 (出向元組合)の組合員 である出向労働者が,出 向元組合が出向先企業 と交渉関係 を持 たず,また持 とうとしない場合に,出向 先企業 と集団的労使関係のある,または,形成 しようとする組合 に加入するこ
とも自由であるといえよう。
5 つ ぎに,二重組合活動 についての検討 に移 ろう。この二重組合活動 は,
30)労働者の二重組合荏籍の問題 は,労働者が複数企業で就労 していて,そのそれぞれ の企業 に組織 される労働組合 に加入するという場合 もあるが,この場合 については, ここではとくに念頭 におかずに議論 していく。
31)ユニオ ン ・ショップ協定 により,パー トタイム労働者が企業別労組への加入 を強制 されている場合 もあることに注意 を要する。そのような例 を紹介する文献 として, 前掲 ・芦田 「パ ー トタイマー組織化の現状」 9頁以下がある。