︹特別寄稿︺
商標法の構造と出所表示機能の保護︵上︶
ー実務的視点を中心としてー
工 藤 莞 司
はじめに 問題の所在
商標の本質的機能は出所表示機能であり︑保護の対象は出所表示機能を通じて獲得する信用・顧客吸引力︵ΩOo宇
頃巨︶である︵一条︶︒このため︑旧商標法︵大正十年法律第九九号︶時代は同法一条二項の特別顕著性︵出所表示
機能性︶が登録の対象であるとする理解もあった︒商標が無体財産に属するのは︑保護の対象︑商標権の客体が顧
客吸引力であるからであることを忘れてはならない︒最近では︑知的財産権が一般化して︑無体財産権との呼び方
は廃れてきた︒しかし︑商標や商標法を理解するためには︑その保護の対象が顧客吸引力という無体物であり︑そ
れは︑商標の使用により出所表示機能を通じて獲得するという理解は重要である︒
商標が獲得する顧客吸引力︑その前提として必要な出所表示機能の的確な保護に関して︑現行商標法︵昭和三四
商標法の構造と出所表示機能の保護︵上︶ ︵都法四十九ー一︶ 二三
二四
年法律第一二七号︶はどのように構成されているのか︑どのように運用されるべきか︑またそのような運用が確保
されているのか︒最近では︑顧客吸引力︑その前提とした出所表示機能の保護という基本的な理解やそのための運
用は︑大量出願︑審査・審判期間の短縮化︑多様な商標事件の中で埋没している感もある︒
ユーザーたる当事者側は累積登録商標一八〇万件の中で︑多くの場合登録を求めて過去の登録例等に拘泥し︑審
査.審判や裁判も多数の事件を抱えて右から左へと裁いている印象が否めない︒そこでは︑真に出所表示機能や顧
客吸引力に係る保護に向けた判断がなされているのであろうか︒実務家としては︑このような現状を是認すべきな
のであろうか︒
現行法施行後四〇年が経過して︑旧商標法の施行期間を追い越した現在︑本来的な姿を追求しその運用を改めて
概観することは︑今後に向けても必要と思われる︒
序説
一 商標の概念と機能
商標の概念については︑商品又は役務について使用する標章であって︑取引上他人に係る同種の商品等と識別す
るものであることには異論はない︒現行商標法上︑識別性については︑商標の定義規定においてはではなく︑登録
要件としている︵二条一項︑三条一項︶︒しかし︑解釈上︑商標法上の商標についても自他商品・役務識別機能乃
至は出所表示機能を本質的要件としていると解釈して︑社会通念上の商標と一致している︒現行法制定時にあった︑
商標法上の商標概念と社会通念上のそれとは異なるとの指摘は︑その後の裁判所の解釈の努力等によって解消した ︵1︶ と言って良い︵後述︶︒
︵2︶ そして︑商標の機能として︑出所表示機能︑品質保証機能及び広告宣伝機能が挙げられる︒商品や役務に関する
取引上のもので経済的機能である︒嘗ては︑前掲三機能は自他商品・役務識別機能を前提として又はその機能から
派生するとする説が有力であったが︑最近では︑特に裁判例では︑自他商品・役務識別機能に代わって︑出所表示
機能の用例が多い︒ ︵3︶ 商標の概念は兎も角として︑その機能について前掲のように整理して提示されたのは現行法制定前後で︑米国で ︵4︶ 唱えたコールマンの説に影響されたものと思われる︒
一一
サ行法の規定とその解釈
現行法の定義規定と商標概念との関係については︑裁判所は︑商標法二条一項の定義規定を認めつつも︑同法を
構造的に検証して︑侵害に関しては︑以下のように︑同法二五条や三七条一項の規定については︑標章を商品に関
して使用しても︑出所表示機能を有しないものやそのような態様でない使用は︑登録商標の出所表示機能を害しな
いのであるから︑商標権の侵害には当たらないとの解釈を導き出して︑最近では︑この解釈が定着し︑出所表示⁝機
能を有して侵害に当たる使用は︑﹁商標的使用﹂と呼ばれるに至っている︒
﹃商標法二五条本文は︑﹁商標権者は︑指定商品について登録商標の使用をする権利を専有する︒﹂旨規定してい
るから︑商標法三六条一項にいう商標権の侵害とは︑右の登録商標の使用権の侵害を意味するものと解されるとこ
ろ︑他方︑同法三条は︑自己の業務に係る商品について使用をする商標については︑︵1︶商品の普通名称︑商品
の産地︑販売地︑品質︑原材料︑効能︑用途︑数量︑形状︑価格又は生産︑加工若しくは使用の方法︑ありふれた
商標法の構造と出所表示⁝機能の保護︵上︶ ︵都法四十九ー一︶ 二五
二六
氏名又は名称などを普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標︑︵2︶慣用商標︑︵3︶きわめて簡単
でかつありふれた標章のみからなる商標︑︵4︶その他需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識するこ
とができない商標を除き︑商標登録を受けることができる旨規定しており︑右規定によれば︑登録商標とは︑この
ような要件に適合するものとして﹁商標登録を受けている商標﹂であって︑︵同法二条二項︶︑本来︑何人かの業務
に係る商品であることを認識することができる商標︑すなわち︑出所表示機能を有する商標であることは明らかで
あり︑したがって︑前記同法二五条本文にいう﹁登録商標の使用をする権利﹂とは︑出所表示機能を有する商標の
使用をする権利を意味するものであるから︑出所表示機能を有しない商標の使用若しくは出所表示機能を有しない
態様で表示されている商標の使用は︑﹁登録商標の使用をする権利﹂には含まれないものと解するのが相当であ
︵5︶
る︒﹄ そして︑みなし侵害を規定する三七条一号についても︑同様に解した︒
三 自他商品・役務識別機能と出所表示機能
従来商標は︑自他商品・役務識別機能を本質的機能として︑これより派生して出所表示機能︑品質保証機能及び ︵6︶ 広告宣伝機能を有するとしていた︒最近では︑多くの裁判例では︑自他商品・役務識別機能に代えて︑出所表示機
能乃至は出所識別⁝機能として捉えて︑そのような語が使用されている︒この場合でも三⁝機能は横並びであることに
は変わらない︒自他商品・役務識別機能と出所表示機能とは全く別の機能ではなく︑視点を違えて同じ機能を言い
表しているものと考えられる︒すなわち︑前者は競業者間の横並びでの水平的機能を︑後者は製造者・販売者と需 ︵7︶ 要者間の縦型での垂直的機能をそれぞれ言っているのであって︑機能自体に違いはない︒このため︑これらを混合
︵8︶ した出所識別機能という表現︑用語も使用されるに至っている︒裁判例で屡々使用される﹁特別顕著性﹂は︑ 旧
商標法︵大正一〇年法律第九九号︶二条一項上の用語で︑出所表示機能性を意味する︒現在でも︑不正競争防止法
二条一項一号に規定する商品等表示について︑出所表示機能性を意味する用語として使用される︒
侵害訴訟においては︑前掲﹁POS事件﹂裁判例以降︑被告使用の標章について出所表示機能の有無を基準とし
て侵害の成否を判断することが定着している︒最近の裁判例でも︑商標的使用を踏襲して︑﹁被告が被告商品にお
いて被告表示を用いた行為は︑被告表示を︑被告商品の自他商品識別機能ないし出所表示機能を有する態様で使用
する行為︑すなわち商標としての使用行為とはいえないから︑原告商標権の侵害行為に当たらない﹂︑﹁被告標章は︑
被告製品の自他商品識別機能ないし出所表示機能を有する態様で使用されているとはいえないとした原判決の認定 ︵9︶ 判断は︑是認し得るものであり︑これを非難する控訴人の主張は︑採用することができない︒﹂としている︒前掲
出所表示機能の外︑商標は品質保証機能及び広告宣伝機能を有する︒
四 旧商標法以前の商標概念
商標とは自他の商品や役務を識別する乃至は商品や役務の出所を表示する標識であり︑これは商標條例以来現在
でも異なることはない︒
我が国最初の登録制度は明治一七年制定の商標條例︵明治一七年太政官布告第一九号︶である︒そのための外国
制度等の調査研究段階での記述と思われる資料において︑﹁商標トハ商品ノ目印ナリ 即チ商品ヲ販売セント欲ス ︵10︶ ル人我商品ト他人ノ商品ト紛レヌヨウニ種々ノ仕方ヲ以テ其商品二付ケル目印ヲ云フナリ﹂と解説されている︒
商標法の構造と出所表示機能の保護︵上︶ ︵都法四十九ー一︶ 二七
二八
商標條例一条の解説においては︑﹁元来此の商標 即ち目印を附くるはその物品を製造したる人又は之を売捌く
者が此品は私方にて売出すものに相違之なく 其証拠には斯様の目印を附けたり 其を見当にお買い下されたしと ︵11︶ いふ意にて物品に誌し以て世の信用を求めるにあり﹂と解説されている︒
明治四二年商標法︵法律第二五号︶一条については︑﹁自己ノ製造シタル商品二標章ヲ附シテ之ヲ他人ノ製造シ
タル同一商品ト市場二於テ甑別シ易カラシメ⁝⁝﹂と解説し︑商品の販売についても同様としている︵﹁甑別﹂と ︵12︶ は見分ける意で︑﹁識別﹂と同義である︶︒
大正一〇年商標法一条については︑﹁商標トハ自己ノ営業二係ル商品ヲ他ノ商品ト甑別スルノ標識ト為スコトヲ ︵13︶ 目的ト為スモノヲ謂フ﹂と解説し︑﹁商標ハ商品ノ出所ヲ表示スルモノナリトハ通説デアル﹂︑﹁⁝⁝文字図形若ハ
記号又ハ其結合ニシテ 商品ヲシテ一定の営業者二専属スルモノ 即チ其者ヨリ製造セラレ若ハ拡布セラレ 彼ノ
営業ヨリ発源セルモノトシテ認識セシメ 同時二他ノ営業者ノ商品ヨリ明ラカニ之ヲ甑別スヘク⁝⁝客観的二此認 ︵14︶ 識甑別に適応スルモノナリ﹂とドイッの学説を引用して︑これと同じと解説している︒また︑﹁商標は︑一定の営
業者が自己の取り扱ふ商品を一般取引者の眼から見て他の営業者の商品と識別することを得しむる為に使用する標 ︵15︶ 章⁝⁝﹂としたものがある︒
︵1︶ 拙稿﹁現行商標法上の諸問題の概括﹂特許研究三五号三六頁︒ ︵2︶例えば︑平成一九年一月三一日 知財高同一入年︵行ケ︶第一〇三五六号知的財産権判決速報︵発明協会発行以下
﹁速報﹂と略︶三八ニノ一四一三一︑小野昌延編﹁注解商標法﹂平成六年一五頁︒
︵3︶ 昭和三一年八月発行井上一平著﹁日本商標の研究﹂︵三六二頁以下︶では︑商標の作用効果として︑﹁商品出所指示作用︑
自他商品甑別作用︑品質一定観念作用︑販売作用﹂等を挙げている︒その後︑昭和三二年一一月発行アメリカ合衆国商標
管理委員会﹁商標の管理﹂︵五頁以下︑薯優美訳︶では︑﹁商標は商品を識別させる︑品質の一定不変であることを保証す
る︑生産品の売上げを増進する﹂と三機能を挙げて紹介している︒昭和三四年一月発行﹁日本商標大事典﹂︵七八頁︶にお
いては︑商標の⁝機能として︑﹁出所表示の⁝機能﹂﹁品質保証の⁝機能﹂及び﹁広告的⁝機能﹂を明示している︒ ︵4︶ この頃の解説では外国参考文献として﹁○巴∋碧旬已烏﹃弓ゴΦ冨司︒hd曇Oo∋bΦ暮ざ5昌巳頃巴︒日胃オ︒︒N⇒島巳一⑩mO︒﹄﹂
を掲げている︵前掲﹁日本商標大事典﹂五五〇頁等︶︒ ︵5︶ ﹁POS事件﹂昭和六三年九月一六日判決 東京地同六二年︵ワ︶第九七五二号 無体裁集二〇巻三号四四四頁︒
︵6︶ ﹁テレビまんが事件﹂東京池裁昭和五五年七月一一日判決 同五三年︵ワ︶第二五五号 無体裁集一二巻二号三〇四頁︑
中山信弘編著﹁工業所有権法の基礎﹂昭和五五年二九三頁︒ ︵7︶拙稿﹁事件に学ぶ商標管理の実際二﹂特許ニュース平成一七年二月一八日号四頁︒
︵8︶ ﹁セイコーアイ事件﹂最高裁平成五年九月一〇日判決 同三年︵行ツ︶第一〇三号 判例時報一四七四号二二八頁︒
︵9︶ ﹁尿素とビアルロン酸の化粧水事件﹂平成一六年五月三一日 東京地同一五年︵ワ︶第二八六四五号速報三五一−一二
四五七︑﹁ブラザーインクリボン侵害事件﹂平成一七年一月一三日 東京高同一六年︵ネ︶第三七五一号 速報三五八ー一
二八五八︒不使用取消審判における登録商標の使用についても︑商標的使用か否かにより認定︑判断する裁判例がある
︵﹁賃貸住宅情報事件﹂平成=二年一〇月二一二日 東京高同=二年︵行ケ︶第一九〇号 速報三一九−一〇三九四︶︒
︵10︶ 豊島住作﹁商標或問﹂明治一二年︑一頁︒
︵11︶ 高橋是清検閲︑金子精一校正︑小野次郎解説﹁商標條例解説﹂明治一七年︑一頁︒
︵12︶ 田中鐵二郎﹁商標法要論﹂明治四四年︑九頁︒
︵13︶ 三宅襲士郎﹁商標法講話﹂大正=年︑六三頁︒
︵14︶ 村山小次郎﹁特許新案意匠商標四法要義﹂大正=二年︑三五六頁︒
︵15︶末弘嚴太郎﹁工業所有権法﹂昭和一七年︑一五頁︒
商標法の構造と出所表示機能の保護︵上︶ ︵都法四十九−一︶ 二九
三〇
第一節
一 商標の機能と現行法の構成
︵一︶登録主義と出所表示機能
我が国商標法は登録主義を採用している︒登録の査定時において使用意思があれば足り︵三条一項柱書き︶︑商
標権の発生には実際の使用は要求されない︵一八条一項︶︒登録後の使用に基づき出所表示機能を通じて獲得する
信用︑すなわち顧客吸引力の獲得︑蓄積を期待して登録を認め︑商標権を付与するものである︵一条︶︒登録後も
使用されないものについては︑=疋期間の経過を待って︑取消審判の対象とする︵五〇条一項︶︒
他方︑商標の出所表示機能は使用された場合に発揮するものであり︑このため︑三条一項において出所表示機能
の具備を登録要件としている︒未使用の段階で出所表示機能の存否について︑審査や審判で判断が可能かと指摘さ
れる︒ここでは︑実際に指定商品や指定役務について使用された場合を想定はするが︑商標の有する本来的な属性
において出所表示機能の存否について判断されるのが原則である︒
例えば︑商標﹁アップル﹂は指定商品﹁りんご﹂についてはその普通名称として出所表示機能を欠くと︑指定商
品﹁コンピュータ﹂については出所表示機能があるものと︑また︑商標﹁つばめ﹂は指定商品﹁菓子﹂については
出所表示機能があるものと︑ 指定商品﹁食器﹂についてはその産地表示として出所表示機能を欠くものと判断さ
れる如くである︒出所表示機能を欠く商標はその出願が拒絶される︵一五条一号︶︒その使用によっても︑将来の
顧客吸引力の蓄積が期待できず︑商標法の目的達成に沿わないからである︒
しかしながら︑現実においては︑使用方法等の如何によっては︑商標法上出所表示機能を欠くとされるものでも︑
出所表示機能を発揮するものもあろうし︑またその逆もあろう︒商標法も︑例外的に︑三条二項において︑出所表
示機能を欠くと判断されたものでも︑使用の結果出所表示機能を獲得した商標については︑登録の途を開いている︒
また︑三条一項三号に掲げる産地︑販売地等に該当するものでも出所表示⁝機能を欠くとは言えないものもあると
の指摘もあるが︑商標法は登録要件を明定して︑予測可能性を担保しているのであって︑経験則に基づいて︑いわ
ば出所表示機能を欠くものとみなす取り扱いこととしたものと言えよう︒したがって︑例えば︑商品の生産方法等
を表示するものに該当する登録出願商標については︑仮に国内で︑当該出願人一社のみの採択︑使用でも︑出所表
示機能を欠くものとして三条一項三号に該当することに記・
︵一一︶商標法の目的とその展開
商標法一条は︑商標法を保護することにより︑商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り︑もって産業の
発達に寄与し︑あわせて需要者の利益を保護すると規定する︒すなわち︑商標権者は︑登録商標を使用することに
より︑同商標が持つ出所表示機能を通じて︑業務上の信用︵顧客吸引力︶を獲得し︑取引上︑流通秩序を維持して
産業の発展に繋げ︑また︑出所の混同や品質の誤認を防止して︑一般需要者へも貢献しようとするものである︒こ
のため︑商標権は独占権として構成されて︑商標権者は︑指定商品・役務について登録商標の唯一の使用者として︑
出所表示機能の発揮が法律上確保されている︵四条一項一一号︑二五条︑三七条一号等︶︒すなわち︑業務上の信
用︵顧客吸引力︶は商標権者の自己の使用により出所表示機能を通じて獲得︑蓄積されるものである︒信用の化体
ともいう︒他方︑他人の使用により獲得が妨げられ又は蓄積された信用が害される︒したがって︑商標法は︑登録
商標法の構造と出所表示機能の保護︵上︶ ︵都法四十九ー一︶ 一一二
三二
商標と同一又は類似範囲にある他人の後願商標の登録を禁止し︑またそのような他人の使用を排除する権利を付与
するものである︒
最高裁判決も︑﹁商標権は︑商標の出所識別機能を通じて商標権者の業務上の信用を保護するとともに︑商品の ︵2︶ 流通秩序を維持することにより一般需要者の保護を図ることにその本質があり⁝・:﹂としている︒
︵三︶出所表示機能の保護とその展開
商標は︑使用に係る商品・役務が特定の者から流出していることを示す機能を有する︒同一の商標を使用する商
品等は常に同一の者の製造・販売又は提供に係るものであることを示す働きで︑商標の基本的な機能である︒何人
かの業務に係る商品等であることを認識することができる商標を言う︵三条一項六号︶︒この場合︑特定の者とは︑ ︵3︶ ある一定の者であって︑具体的な事業者名までを特定されることを要するものではない︒
登録商標において︑この基本的な機能が確保されなければ顧客吸引力の獲得︑蓄積の期待はできず︑また出所の
混同が生じてしまう︒このため︑商標法は三条一項において︑出所表示機能性を絶対的な登録要件とし︑四条一項
一〇乃至一五号において︑相対的な出所表示機能性を登録要件︵不登録事由︶としている︒
他方︑二五条において登録商標に専有権︑三七条一号において禁止権をそれぞれ付与して︑登録商標の出所表示
機能が害されないよう他人の使用を規制している︒
この結果︑登録商標は商標権者自身の使用によって︑出所表示機能を通じて顧客吸引力が蓄積される︒他人の使
用は商標権侵害として排除される︒また︑他人の登録も排除される︒
このようにして︑登録商標の出所表示機能が確保され︑使用の結果︑顧客吸引力が獲得︑蓄積されて商標法の目
的が達成される︵一条︶︒
更に商標法は︑使用の結果周知・著名性を獲得した登録商標については︑指定商品・役務とは非類似の分野にま
で保護の拡大を図って︑出所表示機能の維持︑希釈・分散の防止に努めている︵六四条︶︒
しかしながら︑登録商標であっても︑商標権者の使用態様や他人の使用の放置等によっては︑出所表示機能が衰
退し︑喪失するときがあり︑喪失したときは慣用商標化や普通名称化に至る︒商標法はこれを想定している︵二六 ︵4︶ 条一項二︑三号︶︒特に︑出所表示機能が弱い登録商標︑いわゆるウィークマークについては︑登録商標の管理が
重要である︒
前述したように商標権の侵害においては︑無権原者の使用が︑商品や役務に係るものでも登録商標と同一又は類
似の商標の使用だけでは足りず︑その使用が出所表示機能を有し又は有する態様か︑即ち登録商標の出所表示機能
の妨害の有無でその成否が決まる︒
また︑真正品の並行輸入については︑我が国では機能論を採用して︑形式的には我が国商標権の侵害構成要件を
満たすとしても︑同一人等が輸入する真正品であれば当該登録商標の出所表示機能及び品質保証機能も害しないか ︵5︶ ら︑実質的違法性を欠き︑侵害を構成しないと解するものである︒
︵四︶品質保証機能の保護とその展開
商標は︑同一商標が付された商品は同じ程度の品質を有することを保証する機能を有する︒商品・役務の同一性
表示機能には︑その出所及び品質も含むものである︒事業者は通常︑品質の向上は目指しても自ら低下させること ︵6︶ はないという経験則に基づく︒商標法上は︑商品・役務を証明する標章も商標に加えている︵二条一項一︑二号︶︒
商標法の構造と出所表示機能の保護︵上︶ ︵都法四十九ー一︶ 三三
三四
︵7︶ 品質を証明するもので︑例えば︑﹁ウールマーク﹂やホテルに係る﹁適マーク﹂のような商標を指す︒
また︑商標法は︑品質を誤認するような商標は登録しない︑そのような登録後の使用は登録を取り消すという規
定を設けている︒品質保証機能を持つ︑パリ同盟国等の所定の監督・証明用印章等と同一又は類似の商標及び商
品・役務については登録を禁止し︵四条一項五号︶︑所定の博覧会の賞についても︑同様である︵四条一項九号︶︒
また︑品質の誤認のおそれのある商標は登録されない︵四条一項一六号︶︒そして︑商標法は︑品質保証機能に係
る登録要件については︑公益性を認めて︑無効審判請求については除斥期間を設けていないし︵四七条︶︑登録後
に該当した場合も︑一部については無効事由としている︵四六条一項五号︶︒無効理由の例外的な扱いである︒
また︑登録商標の不正使用の一つとして︑品質の誤認の虞のある使用については︑取消審判の対象としている
︵五一条︑五三条︶︒商標権者の不正使用については故意を要件としている︒他方︑使用権者の不正使用については︑
使用権者に係る品質が︑商標権者に係る品質より劣悪なものである場合も適用あることをも意図して︑指定商品に
ついての登録商標の使用も不正使用としている︒商標権者が注意義務を果たしていたときは除かれる︵五三条一項
但し書︶︒現行法において使用許諾制度の採用に当たり︑使用商品の品質についても︑間接的に商標権者に監督義
務を課したものである︒これら不正取消審判の請求人適格は何人にも認められる︒
商標権侵害に対する民事上の救済措置の一つとして︑信用回復措置請求権を認めている︵三九条・特許法一〇六
条︶︒侵害者の品質が劣悪で商標権者や専用使用権者の信用が失ったときに認められるもので︑侵害者に対してそ ︵8︶ のための謝罪広告等を請求することができる︒
平成一七年の改正︵法律第五六号︶で設けられた地域団体商標はその登録要件として︑登録対象の地域の名称に
は指定商品・役務との密接的な関連性︵収穫地︑漁獲地︑生産工程地等︶が求められている︵七条の二第一項︑二
項︶︒このため︑地域団体商標は︑当該地域の産物との結び付きが強い特徴を有して︑また構成員が使用するため︑
品質を保証する機能が強いと言える︒パリ条約上の団体商標的な機能を有する︒
平成一入年の改正︵法律第五五号︶で認められた商品の小売・卸売り役務に係る商標は︑品揃えや展示︑取扱い
を表示するもので︑出所表示機能よりは品質保証機能に特徴があろう︒
︵五︶広告宣伝機能の保護とその展開
商標は商品や役務の広告宣伝に役立つ︒広告宣伝の場では︑商品の全容や製造者等を示さなくとも︑商標によっ
て端的に広告宣伝することができる︒出所表示機能や品質保証機能を有するからである︒特に︑周知・著名性を獲
得すれば︑宣伝広告機能は増加し顧客吸引力が発揮されて︑また蓄積される︒このため︑現行法は︑旧法時代は否
定されていた広告への商標の使用については積極的に認め︵二条三項入号︶︑商標権者の使用についてはその出所
表示機能の強化に繋げ︑無権原者の使用については侵害を構成するとして︵二五条︑三七条一号︶︑登録商標の出
所表示機能の減殺を防いでいる︒マスメディア全盛の現代においては︑それらの広告の中で商標の果たす役割は大
きい︒そして︑出所表示機能の獲得に係る三条二項や不正競争防止法二条一項一号の裁判例の中でも︑常套句のよ
うに︑﹁⁝⁝短期間でも強力な宣伝が行われた場合には︑⁝⁝出所表示機能を有するに至る⁝⁝﹂のような説示が
なされている︒
使用による出所表示機能の獲得に係る三条二項の適用において︑過去の使用を立証するには︑その後においても
常に入手可能な新聞や雑誌等が中心となる︒使用日付や使用地域︑使用回数︑購読者数等が証明可能である︒周 ︵9︶ 知・著名性の獲得においても︑同様である︒不使用取消審判での使用の立証については︑広告に係る立証の例が多
商標法の構造と出所表示機能の保護︵上︶ ︵都法四十九ー一︶ 三五
三六
い︒最近ではインターネット上の広告も商標の使用に含まれることと改正されて︵二条三項八号︶︑早速そのよう ︵10︶ な使用に対する裁判例が現れている︒
︵1︶ ﹁負圧燃焼焼却炉事件﹂平成一二年九月四日 東京高一二年︵行ケ︶第七六号 速報三〇五−九六二〇︑﹁玄米酵素事件﹂
平成一五年一二月一一日 東京高一五年︵行ケ︶第二二四号 速報三四五−一二〇二九︒
︵2︶ ﹁小僧寿し事件﹂ 平成九年三月一一日判決 最高裁同六年︵オ︶第一一〇二号 民集五一巻三号一〇五五頁︒
︵3︶ 判決理由において︑﹁使用された結果︑取引者が連合会ないし構成員の業務に係る商品であることを認識することができ
るものと認めることはできない︒﹂としたもの︵コニ浦葉山牛事件﹂ 平成一八年六月=一日 知財高同一八年︵行ケ︶第一
〇〇五四号 速報三七五−二二七六九︶や︑原告が販売する商品として自他識別力はないと判断して侵害を否定した裁判
例︵コニ輪素麺事件﹂平成一五年七月三〇日 奈良地同一一年︵ワ︶第四六〇号 判例集等未登載︶があるが︑商標の出所
表示機能の説明としては勿論︑三条二項の適用においても︑個々の何某の出所を表示すると認識されること迄は必要とさ
れないと解するのが一般で︑商品等の流出先として︑取引上一定の出所を表示していれば足りる筈である︒
︵4︶ このような裁判例として︑﹁システムダイアリー事件﹂︵平成一一年三月二九日 東京地同一〇年︵ワ︶第一五九七二号
速報二入八−八六七〇︶︑﹁巨峰事件﹂︵平成一四年一二月一二日 大阪地同二二年︵ワ︶第九一五三号 速報三三四−一
一三三四︑控訴審平成一五年六月二六日 大阪高同一五年︵ネ︶第七六号速報三四四1=九九八︶︑﹁正露丸事件﹂︵平 成一八年七月二七日 大阪地同一七年︵ワ︶第=六六三号速報三七七−二二八八四︶等がある︒これらは先駆的な商
品に係る商標が普通名称化したのに対して︑そのような事情にない商標が業界全体の使用実態に起因して出所表示機能を
喪失したと判断された﹁ベアー事件﹂︵平成一五年=月二七日 東京高同一五年︵行ケ︶第四二号 速報三四四ー一一九
八五︶がある︒使用や登録の際の類似の幅が自然に狭まったことにも一因があったと思われる︒
︵5︶ ﹁PARKER事件﹂昭和四五年二月二七日 大阪地同四三年︵ワ︶第七〇〇三号 判例時報六二五号七五頁︑﹁フレッ
ドペリー事件﹂平成一五年二月二七日 最高裁同一四年︵受︶第一一〇〇号 判例タイムズ一一一七号二一六頁︒
︵6︶ 昨今の企業トップによる消費期限改ざん事件や産地偽装事件︵﹁船場吉兆本店を捜索﹂二〇〇七年一一月一六日讃責新
聞︶が頻発して︑従来の経験則は揺らぎつつあるというべきであろうか︒
︵7︶ 我が国では希な商標の品質の証明について争われた不使用取消審判成立審決取消の裁判例︵﹁ザックス不使用取消事件﹂
平成一七年三月一七日 東京高同一六年︵行ケ︶第四〇四号速報三六〇1一二九八八︶では︑被服に付した素材の商標
については需要者の認識を正面からのみ判断して︑側面的な品質保証⁝機能については考慮されていない︒
︵8︶ ﹁︵株︶トミー事件﹂平成一八年二月二一日 東京高同一六年︵ワ︶第一一二六五号 速報三七ニーニニ六四七︒
︵9︶特許庁商標課編﹁商標審査基準﹇改訂第九版﹈﹂三条二項 3.︵1︶④等︒
︵10︶ ﹁中古車の110番事件﹂平成一七年一二月八日 大阪地同一六年︵ワ︶第一二〇三二号 速報三六九ー二二五〇五︒
第二節出所表示機能と登録要件一
一 登録要件と出所表示機能
前述したように商標法の目的は︑登録商標の使用によりその出所表示機能を通じて︑登録商標へ信用︵顧客吸引
力︶の蓄積を図るものである︵一条︶︒出所表示機能は使用の結果に従い︑登録商標の周知・著名性の獲得へと繋
がり︑またその機能自体も強化︑拡大するものである︒防護標章登録制度はそのような著名登録商標の保護範囲を
拡大して︑非類似商品・役務分野に係る他人の使用によって生ずる出所表示機能の希釈・分散化や顧客吸引力の減
殺を防止するものである︵六四条︶︒
また︑出所表示機能は使用の結果に従い︑登録商標の周知・著名性の獲得に繋がれば︑その類似範囲や混同範囲 ︵1︶ にも影響する︒すなわち類似範囲については︑﹁氷山印事件﹂最高裁判例によれば︑その判断においては︑商標が
取引者に与える印象︑記憶︑連想等を全体的に考察すべきとされる︒周知・著名性を獲得した登録商標が取引者.
需要者に与える印象︑記憶︑連想等はそれらが未獲得のものと同じでないことは明らかである︒
このように︑周知・著名性を獲得した登録商標とそうでないものの類似範囲は常に同じであるわけではない︒混
商標法の構造と出所表示機能の保護︵上︶ ︵都法四十九ー一︶ 三七
三八
同の虞の範囲も同様である︒商標は生き物と言われるように使用の結果によっては︑取引者・需要者に与える印象
等が異なり︑それに応じて保護範囲も変化することになるからである︒例えば︑登録商標﹁QoO旨﹂は単なる電気
製品に係る商標から︑世界的ブランド﹁°力○邑へと取引者・需要者の認識も変化している︒同様の意味で︑造語
商標と既成語商標とでは出所表示機能が同じでなはなく︑類似範囲が異なる場合もあるとされる︵類否判断におい ︵2︶ ても︑造語﹁乙︒O邑から電⁝機メーカーの社標との観念が認定されることになる︒︶︒
これに対して︑同業他社の社標﹁Z昌oづ巴﹂や﹁Q力20﹂︑﹁田目○呂﹂はブランドカとしては前者ほどには評価 ︵3︶ されていない︒これらはいずれも造語商標ではない︒
商標法は︑登録されるべき商標については︑三条一各号において絶対的な出所表示機能の具備を要求し︑そして︑
四条一項一〇号乃至一五号においては相対的な出所表示機能の具備を求めている︒
二 登録要件商標法三条一項柱書き
前述したように商標の出所表示機能は︑その保護の客体顧客吸引力獲得の前提となるものである︒このため︑基
本的要件を定めた三条一項において次のように規定し︑登録すべき商標は︑すべからく出所表示機能を具備すべき
ことが求められる︒
先ず︑三条一項は︑その柱書きで登録後も使用されないものを︑各号で出所表示機能を具備しないものを排除し
て︑法目的の実現を図っている︒
三条一項柱書きは︑現に使用している商標の外︑使用意思︑すなわち︑指定商品・役務に関する自己の業務の存
在やその開始を条件として︑近い将来の使用に備えた登録を認めるものである︒登録主義を担保するもので︑判断
時期は査定又は審決の時である︒
反対に︑近い将来も使用されないこと確実な出願商標は三条一項柱書きに反するものとして登録されない︒具体
的には︑前掲した自己の業務の存在︑近い将来その開始の予定もない場合である︒このような出願商標は︑登録後
も使用される可能性がなく︑したがって︑顧客吸引力の蓄積も見込まれないため法目的には沿わず︑登録して保護
する必要はない︒いわば︑門前払い的に登録が拒否される︵一五条一号︶︒
出願人に︑指定商品・役務に関する業務の存在もなく︑近い将来その開始の予定もない場合の外︑審査基準によ
れば︑三条一項柱書きに該当する例として︑出願人の業務範囲が法令上制限されている場合や指定商品.役務に係
る業務を行うことができる者が法令上が制限されている場合で︑出願人が指定商品・役務に係る業務を行わないこ ︵4︶ とが明らかなときとしている︒前者は銀行業のように︑法令上兼業が制限されているもので制限業務に係る商品等
を指定するときである︒後者は︑弁理士のように当該業務が国家資格取得者に限られているもので︑無資格者がそ
の役務を指定するときとされる︒これらは多分に政策的な解釈︑運用であって︑商標登録を認めることと実際の使
用は別問題である︵パリ条約七条︶︒法令上製造や販売について禁止や専売になっていても︑その改正によって解
禁されることもあり︑許認可制の場合は許認可の前に登録を受けても︑使用の際の許認可の問題である︒先願登録
主義の下では︑使用意思があれば足りるもので︑それは査定又は審決の時点である︒
なお︑登録後に︑専ら他人に対する使用許諾を目的として登録を受ける場合で︑自己の業務と関係しないときは︑
三条一項柱書きに該当するとされる︒
商標法の構造と出所表示機能の保護︵上︶ ︵都法四十九ー一︶ 三九
四〇
三 登録要件商標法三条一項各号
︵一︶登録要件は出所表示機能性の具備
三条一項一乃至五号は︑出所表示機能を有しない商標を例示したものである︒同六号はその総括規定で︑﹁需要
者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標﹂は商標の出所表示機能性と同義
とされる︒東京高裁も︑﹃法三条は︑商標登録の要件を定めたものであって︑同条一項は︑自己の業務に係る商品
又は役務についての識別力あるいは出所表示機能を欠く商標を列挙するものであるところ︑その規定の体裁及び内
容等からみて︑同項一号から五号までの規定は︑﹁需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識す
ることができない商標﹂を例示的に列挙するものであり︑同項六号の規定は︑同項一号から五号までにおいて例示
的に列挙されたもの以外に︑﹁需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商 ︵5︶ 標﹂を総括的︑概括的に規定しているものと認められる︒﹄と解している︒
例示列挙である結果として︑審査や審判において︑先に六号該当として拒絶理由を示して拒絶査定をした後︑三
号該当として拒絶審決をしても︑既に拒絶理由を示して反論の機会を付与しているので︑手続的違法はないとする︒
六号も三号も︑共に出所表示機能の欠如に係わる趣旨のものであるから︑既に反論の機会はあったというものであ
る︒裁判例も︑﹃本件においては︑前示のとおり︑本件査定で援用された第二回理由通知は︑本願商標が法三条一
項六号及び法四条一項一六号に該当するものとし︑本件審決は︑本願商標が法三条一項三号に該当するものとして
いるところ︑⁝・:第二回理由通知と本件審決とは︑いずれも本願商標から﹁室内装飾品を販売する店﹂という共通
の認識が生じることを前提として︑これを本願指定商品に使用しても︑自他商品識別標識としての機能を有するも
のではなく︑法三条一項所定の商標登録の要件を欠く商標に該当するという共通の結論に至るものであるから︑両
者は︑その判断の内容において実質的に相違するものではなく︑本件審決が︑新たな拒絶理由を示したものでない
ことは明らかである︒﹄としている︒
そして︑この中で︑三条一項三号︑四号又は五号については︑使用の結果出所表示機能を獲得したときは︑当該
各号の規定の適用はない︵三条二項︶︒
このように︑法目的実現の前提として︑商標法は出所表示機能の具備を登録要件として定めて︑登録後の使用に
ょる出所表示機能を通じた顧客吸引力の獲得に向けている︒このことは︑商標の本質的な要件については︑公益的︑
私益的な登録要件︵四条一項各号︶よりは先に規定しその重要性を示しているもので︑法目的実現の決意を形式的
にも表わしている︒
したがって︑出所表示機能を具備しない商標は最初の関門で登録から飾い落とされる︒登録後の顧客吸引力の獲
得が期待できないからである︒
商標の出所表示機能は︑原則として︑当該商標を構成する文字や記号︑図形等の属性から認定︑判断される︒指
定商品・役務に関する取引者・需要者の認識が基準である︵三条一項六号︶︒
しかし︑商標法は︑本来的には商品・役務の記述的な商標等で出所表示機能を具備しないものであっても︑特定
者による商標としての使用の結果︑出所表示機能の獲得を認めて︑三条一項三号︑四号及び五号の例外を定めてい
る︵三条二項︶︒具体例としては︑﹁ミルクドーナツ﹂︵登録第一二七八一九五号︶︑﹁夕張メロン﹂︵登録第二五九一
〇六七号︶︑ウィスキーについて﹁角瓶﹂︵登録第四五六一二一二号︶等がある︒この点でも︑商標は取引の界の生
き物であることが現れている︒
出所表示機能性は該商標を構成する文字や記号︑図形等の属性から認定︑判断されると前述したが︑この点でも
商標法の構造と出所表示機能の保護︵上︶ ︵都法四十九ー一︶ 四一
四二
例外がある︒商標の普通名称化がそれである︒登録商標であっても︑同業者の使用を放置し続けると出所表示機能
を失い︑当該商品.役務の一般的な名称になってしまうことがある︒辞書への登載やマスコミでの使用が拍車を掛
ける︒商標権者はこまめに登録商標であることをアピールし︑また権利行使をする外はない︒
また︑本来的には︑その属性上出所表示機能を有する文字等ではあるが︑その文字を中心に他の文字を付加して
当該業界において各社が挙って使用した結果︑出所表示機能を失う場合もある︒﹁ACE﹂﹁SUPER﹂﹁HI﹂
など記述的商標の外︑裁判例では︑被服業界において︑﹁ベア○○○﹂と使用例が多数に昇り︑﹁ベア﹂のみでは識 ︵6︶ 別し難くて出所表示⁝機能が喪失したとしたものもある︒
これらはいずれも判断時における当該商品・役務の取引者や需要者の認識によるからである︵三条一項六号︶︒
︵二︶﹁普通に用いられる方法で表示する標章﹂の意義等
三条一項一号乃至五号は︑﹁⁝・:普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標﹂と規定する︒これは︑
標章の表示の態様︵ロゴ・レタリング等︶を意味し︑特殊な表示態様である場合は該当しない趣旨ではある︒文字
列や意味的には普通名称で出所表示機能を欠くが︑外観に特徴を有するが故にそこに出所表示機能を認めるもので
ある︒ このため︑指定商品の普通名称についてレタリングを施したとしてもそれが業界において通常行われている方法
内であれば︑その場合も一号に該当することになる︒普通名称を漢字で表すのが一般的でも︑平仮名︑片仮名︑
ローマ字又は英語翻訳による表示も取引上普通に行われていることから︑これらによる表示も一号に該当すること ︵7︶ になる︒最近の商標審査基準に追加されて︑明確になった︒
この点に関して︑三号の品質表示等に該当するというには︑取引上において︑当該商標が品質表示等として取引
上普通一般に用いられている事実が必要であるとする見解があり︑審決例も散見される︒前掲﹁普通に用いられる
⁝⁝標章﹂の解釈の問題でもあろうが︑文理的のみならず︑出所表示機能具備の判断の基準は需要者の認識である
︵六号︶︒最高裁も︑三号の産地販売地の解釈に関して︑需要者が産地表示と認識するか否かであって︑現実に当該 ︵8︶ 商品の産地や販売地であることは要しないと判示している︒需要者とは︑取引者を含み︑当該指定商品・役務の需
要者であって一般消費者を指すものではない︒また︑一号の普通名称は普通に用いられるものであるのに︑さらに
﹁普通に用いられる⁝⁝標章﹂と規定しているのであるからこのような解釈は採り得ない︒東京高裁も︑普通に用
いられるとは表示態様を意味し︑そして︑品質表示に該当すると言うには必ずしも品質表示として実際の使用の事 ︵9︶ 実は要しないと繰り返している︒
また︑﹁⁝⁝のみからなる標章﹂とは︑例えば︑指定商品の普通名称のみからなる出願商標は該当するが︑普通
名称に他の文字等が付加されている商標は該当しないことを意味し︑そのような出願商標は一号には該当しない︒
﹁スーパーパソコン﹂︵指定商品﹁電子計算機﹂︶などは三号に該当するとされるが︑品質表示と普通名称からなる ︵10︶ ものなど︵いわゆる﹁のみのみからなる商標﹂︶は六号該当と解すべきとの見解︑審決例もある︒
︵三︶立体商標・商品やその包装の形状と三条一項三号
平成八年の改正︵法律第六入号︶において立体商標の登録制度が導入された︒商品やその包装の形状についても
出所表示機能を具備すれば登録されるが︑これまで︑殆どが三号該当として拒絶されていることから︑我が国の運
用が厳しい︑国際的整合性がないなどと言われているようである︒しかしながら︑商品やその包装の形状は商品そ
商標法の構造と出所表示機能の保護︵上︶ ︵都法四十九−一︶ 四三
四四
のもので本来的に識別標識ではない︒それが用途︑機能から予測しがたいような特異な形状や特別な印象を与える ︵11︶ 装飾的形状である場合には出所表示機能性を有するとされよう︒また使用の結果出所表示機能を獲得したときは登 ︵12︶ 録要件を満たし︑そのような立体商標もある︒要は︑立体商標とは︑文字︑図形等が立体的に表現された識別標識
︵自動車のエンブレム︑タクシーの表示灯︑広告用人形等︶をいうのであって︑商品やその包装の形状を対象とす
るものではなく︑直接的にそれらの形状について意匠とは別に登録の途を開いたとみるべきではない︒不正競争防
止法︵平成五年法律第四七号︶でも︑商品又はその容器の形状が商品等表示︵同法二条一項一号・旧不正競争防止
法︵昭和九年法律第一四号︶一条一項一号︶に含まれるか否かが争われて︑そこでは︑商品等の形状はその機能を
発揮させるためや美観を高めるために採用されるもので︑本来的には出所表示機能を具備しないが︑そのような形
状でも使用の結果出所表示機能を獲得するに至る場合があり︑このときは商品等表示に当たるとして保護の対象と ︵13︶ されてきたことは︑これまでも多く裁判例で繰り返して示している︒中でも︑特許や実用新案登録︑意匠登録に係
る形状ついては各権利の存続期間満了後は何人も実施可能となるのであって︑これに反するような立体商標の登録 ︵14︶ は許されるべきではない︒権利存続中の独占的実施による出所表示機能の獲得は三条二項適用の考慮外とされる︒
四 商標法三条二項 使用による出所表示機能の獲得
三条二項は︑本来的には出所表示機能を具備しない商標ではあるが使用の結果︑出所表示機能を獲得したものを
救済するために設けられた規定である︒現行法で新設された規定ではあるが︑旧商標法︵大正一〇法律第九九号︶
時代も実務上使用による顕著性の発生を認めていたとされる︒また︑パリ条約上も︑商標の保護の適否の判断に当
たっては︑﹁特に︑当該商標が使用されてきた期間を考慮しなければならない︒﹂︵パリ条約六条の五C︵1︶︶とさ
れている︒
三条二項の適用を受けるには︑使用の実績に基づくためその事実を立証しなければならない︒立証責任は︑出願
人側にあると解されており︑三条一項と同様︑判断時期は査定又は審決時である︒
三条二項の適用を受けることができる商標は同三号乃至五号に該当する商標に限られ︑同一号の商品・役務の普
通名称や二号の商品.役務の慣用商標は含まれない︒その理由としては︑おそらくは前記普通名称や慣用商標は取
引上における役割や性質上︑使用の結果によっても出所表示機能を獲得することは殆どあり得ないと考えられたこ
とによると思われる︒需要者が何人かの業務に係る商品・役務であることに係る認識の範囲については︑審査基準
では全国的な認識を要する匡・裁判例では・立体商標について・全国的な周知性を要するとしたもの薮馳・
なお︑一号︑二号及び六号については︑三条二項の適用はないとされていることに対しては異論がある︒商品や
役務の普通名称はある者の使用によっても︑使用の結果︑仮に特定者に関して出所表示機能の獲得した場合︑その
限りでは︑査定又は審決時においては普通名称ではないと認定︑判断する問題と思われる︒審判決例もなく︑議論
の実益にも乏しいものである︒
六号該当商標については︑使用の結果出所表示機能の獲得したときは︑もはや﹁何人かの業務に係る商品である
かを認識できない商標﹂には該当しないので︑三条一項の適用除外規定三条二項を適用するまでもない規定と解す
︵17︶ ることになる︒
商標法の構造と出所表示機能の保護︵上︶ ︵都法四十九ー一︶ 四五
四六
五 商標法三条一項と独占適応説
登録要件として出所表示機能を要求したものとする通説に対して︑独占適応説と呼ばれる見解がある︒商品の産
地︑販売地表示等記述的な商標は︑取引上何人も使用を欲するものであり︑このため一私人に独占権を付与するこ
とは適当ではなく︑開放しておくべきものとする︒この説では︑判断時点では出所表示機能性は否定できないが︑
将来指定商品について使用された場合には原材料や品質表示等として認識されるに至る蓋然性が高いと判断される
ときは︑登録しても二六条一項二︑三号により商標権の効力が及ばないものであるから︑そうであるならば︑その ような商標は登録すべきでないとして︑一私人に独占が馴染むか否かを登録可否の基準とする︒
独占適応性説を採る判決では︑﹁商標法三条一項三号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くとされているのは︑
このような商標は︑取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから︑特定人によるその
独占使用を認めるのは公益上適当でないとともに︑一般的に使用される標章であって︑多くの場合自他商品識別力 ロ を欠くものであることによるものと解される︒﹂とする︒登録しない理由については公益性を挙げるがその理由や
内容︑範囲が明らかではない︒三条一各号は公益的登録要件ではない︵四七条︶︒
しかし︑この説は出所表示機能とは何ら関わりのないもので︑商標法の目的とも整合しないと思われる︒また︑
この説の下では︑前述した使用の結果による出所表示機能の獲得を定めた三条二項の規定とも整合しない︒三条一
項の総括規定同六号は︑﹁需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標﹂
と規定し︑出所表示機能性と同義と理解されて異論はない上に︑私人による独占が馴染むか否かの独占適応性とは
お 相容れない︒裁判例でも︑出所表示機能を欠くことを定めた三条一項六号に公益性を持ち込むことは︑誤りとした び ものがある︒やはり︑同六号は︑文理上からも明らかなように︑専ら出所表示⁝機能性を欠くことのみについて定め
た規定で︑三条二項は使用の結果出所表示機能性を獲得した場合の規定である︒
なお︑前掲﹁三浦葉山牛事件﹂裁判例は︑三条二項の適用において︑﹁当該商品の取引界において当該特定人の
独占使用が事実上容認されている以上︑他の事業者に対してその使用の機会を開放しておかなければならない公益
上の要請は薄いということができる﹂と︑独占適応性の観点から肯定的解釈を示した最初のものであるが判断基準
を示さず︑また︑当該事案では結局は出所表示機能性の有無のみを基準として判断して莚・因みに・前掲立体商
標﹁ひよこ﹂事件では︑全国的な周知性の獲得が必要で︑三条二項適用の認定︑判断には他社の使用例はの存在は
直接的には影響しないとしている︒
また︑一私人の使用であっても独占的な使用状態があれば公益性が破れて︑登録性を獲得するとするが︑この場
合独占的な使用の立証は困難であり︑その責任が審査官・審判官側にあるとすれば事実上動かないだろうし・また
出願人側にあるとしても︑不利な立証となり期待はできない︒他方︑現に記述的に使用している同業者の立証は容
易で︑その者の無効審判の請求等で権利の安定性が欠けることになな狸︒
三条一項三号に該当しない商標は︑独占適応性があれば該当しないのか︑それとも独占適応性と出所表示機能性
の双方を具備しないと該当しないのかはっきりしない︒裁判例では︑双方満たさないときに三号に該当すると判断
︵24︶ されるように思われる︒
三条一項の趣旨は出所表示機能性と解し︑将来の問題である独占適応性の射程範囲は︑侵害訴訟の事実審口頭弁
論終結時点で認定判断して︑二六条で処理する︒その方が︑理論的にも実務的処理も妥当だろうし︑ユーザーにも
商標法の構造と出所表示機能の保護︵上︶ ︵都法四十九ー一︶ 四七
四八
予測可能性があろう︒
︵1︶ 昭和四三年二月二七日 最高裁同三九年︵行ツ︶第二〇号民集二二巻二号三九九頁︒
︵2︶ ﹁サンアンソニー事件﹂平成八年三月二七日 東京高同七年︵行ケ︶第一〇八号 速報二五一ー七一二一二︒
︵3︶ ﹁ブランド・ジャパン心︒OON﹂日経寓﹄O卜︒ム◆⑩︒本年一月﹁Z知自o田㏄ごは﹁賠5器o己︒﹂へ全面的に変更された︒
︵4︶ 特許庁商標課編﹁商標審査基準﹇改訂第九版﹈﹂三条一項柱書き ー.︒
︵5︶ ﹁インテリアショップ事件﹂平成一七年一月二六日 東京高同一六年︵行ケ︶第三六九号 速報三五八−一二八七一︑ ﹁q<目巨事件﹂平成一八年三月九日 東京高同一七年︵行ケ︶第一〇六五一号 速報三七二ー=二六一二︒
︵6︶ 前掲﹁ベア一事件﹂参照︒
︵7︶特許庁商標課編﹁商標審査基準﹇改訂第九版﹈﹂三条一項一号3.︒
︵8︶ ﹁ジョージア事件﹂昭和六一年一月二三日 最高裁同六〇年︵行ツ︶第六八号 判例タイムズ五九三号七一頁︒
︵9︶ ﹁昆布しょうゆ︵甲︶事件﹂平成=一年八月二九日 東京高裁一二年︵行ケ︶第四四二号 速報三〇五−九六=二︑前掲
﹁負圧燃焼焼却炉事件﹂︑前掲﹁玄米酵素事件﹂参照︒
︵10︶ 例えば︑商品﹁茶﹂について﹁宇治新茶﹂は︑産地と製造時期からなるが︑審査基準では三条一項三号該当として取り 扱うこととしている︵特許庁商標課編﹁商標審査基準﹂三条一項三号 1.︶︒
︵11︶ ﹁立体商標筆記具事件﹂平成一二年一二月二一日 東京高同一一年︵行ケ︶第四〇六号 判例時報一七四六号一二九頁︒
︵12︶ ﹁立体商標ミニマグライト事件﹂平成一九年六月二七日 知財高同一八年︵行ケ︶第一〇五五五号 速報三八七−一四四
三六︒
︵13︶ ﹁ナイロール眼鏡枠事件﹂昭和四八年三月九日 東京地同四六年︵ワ︶第五八=二号 判例タイムズニ九五号三六一頁︒
︵14︶ ﹁立体商標合成樹脂止め具事件﹂平成=二年=月二七日東京高同=二年︵行ケ︶第四号速報三二一−一〇四九七︒ 存続期間中独占権の行使の結果必然的に︑使用者の意思にかかわらず取得する場合があるからであろう︒商品形態等の出
所表示機能の獲得については︑識別標識として使用との使用者の意思が必要とする見解もあるようである︒
︵15︶ 特許庁商標課編﹁商標審査基準﹇改訂第九版﹈﹂三条二項 1.︒
︵16︶ ﹁ひよこ立体商標事件﹂平成一八年=月二九日 知財高同一七年︵行ケ︶第一〇六七三号 速報三八〇ー一四〇二五︒
︵17︶ 拙著﹁商標審査基準解説﹇第五版﹈﹂三四頁参照︒
︵18︶網野 誠﹁商標﹇六版﹈﹂一七五頁︒同旨玉井克哉﹃商標登録阻止事由としての﹁自由使用の必要﹂﹄︵﹁知的財産の潮流﹂
所収︶二一〇頁︒
︵19︶ ﹁ワイキキ事件﹂昭和五四年四月一〇日 最高裁同五三年︵行ツ︶第一二九号 民集=一六号五〇七頁︒
︵20︶ 田村善之﹁商標法概説﹇二版﹈﹂一七〇頁︒なお一七二頁以下参照︒
︵21︶ ﹁クエン酸サイクル事件﹂平成一八年四月二七日判決 知財高同一七年︵行ケ︶第一〇七一四号 速報三七三−ニニ六八
九︒