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【学位論文審査の要旨】

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Academic year: 2021

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【学位論文審査の要旨】

1 研究の目的

本研究は,コンドライト隕石のなかでルムルチ・タイプと総称される R コンドライトを 対象に,その元素組成を調べ,R コンドライトの生成過程を考察することを目的とする。R コンドライトはコンドライトグループのなかで最も研究例が少なく,その形成過程に関し は不明なことが多い。Rコンドライトの全岩元素組成は普通コンドライトのそれに似ている ものの,鉱物組成では大きな違いがある。たとえば普通コンドライトには普遍的に存在す る金属相(鉄ニッケル合金)が殆ど存在せず,鉄はケイ酸塩や硫化物として存在する。そ の点においては炭素質コンドライトと類似するが,各隕石グループを特徴づける酸素同位 体比をみると,Rコンドライトと炭素質コンドライトに類似性はない。このように,Rコン ドライトはコンドライト隕石の中で独自の特徴を持ち,その成因を明らかにすることは太 陽系初期におこった諸過程を理解するため重要である。これまで,Rコンドライトの研究が 進展しなかった最大の理由は R コンドライトに分類される隕石試料が少なかったことであ ったが,南極大陸で組織的に隕石採取が行われた結果,そうした状況が改善されつつある。

本研究では日本と米国の観測隊が南極から持ち帰った隕石15試料を用いて,組織的に元素 組成を調べることができた。その詳細な元素組成をもとに, R コンドライトの母天体形成 に至る生成環境,生成過程を考察し,さらには母天体上で起こった熱変成過程の元素組成 に及ぼす影響を明らかにした。

2 研究の方法と結果

Rコンドライトは普通隕石同様,熱変成を受けており,その変成の度合いに拠って岩石学 的な分類が行われている。本研究ではこの熱変成過程の違いが元素組成にどのような変化 を与えているかを明らかにするために,岩石学的に異なる種類の隕石を用いた。隕石試料 は全て南極大陸で採取され,回収された南極隕石で,日本の国立極地研究所から 8 試料,

米国NSF-NASAのもとでのMeteorite Working Groupから7試料をそれぞれ借用した。元素 分析は機器中性子放射化分析(INAA),誘導結合プラズマ原子発光分析(ICP-AES),ICP 質 量分析(ICP-MS)の 3つの手法を用いた。これらの分析には,約 0.5 g の各隕石をメノウ 乳鉢で組成が均一になるように粉砕した粉末状試料を用いた。INAAは非破壊分析法であり,

京都大学原子炉実験所(KURRI)の研究用原子炉を用いて行った。粉末試料を化学操作せず にそのままの形状で中性子照射を行い,放射化された試料から放出されるγ線を測定した。

γ線の測定はKURRIと首都大RI研究施設で行った。INAAによって24元素(Na, Mg, Al, Ca, Sc, V, Cr, Mn, Fe, Co, Ni, Zn, As, Se, Br, Sb, La, Sm, Eu, Yb, Lu, Os, Ir, Au)を 定量した。ICP-AESとICP-MSは宇宙化学研究室の装置を用いて行った。ICP-MSでは微量親 石元素群として希土類元素(La, Ce, Pr, Nd, Sm, Eu, Gd, Tb, Dy, Ho, Er, Tm, Yb, Lu), Th, Uの16元素と,微量揮発性元素(Zn, Cd, In, Tl, Pb, Bi)の6元素を定量した。ICP-MS では試料を溶液化する必要があり,酸分解法により測定試料を調整した。親石元素群の測

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定では分解した試料溶液を希釈した後,そのまま装置に導入した。一方,揮発性元素の測 定では溶媒抽出法,イオン交換法を用いて共存する元素から目的元素を分離した後に装置 に導入した。ICP-AESではICP-MSに用いた溶液の一部を利用してPの定量を行った。得ら れた R コンドライトの分析値の信頼性の評価を、いくつかの比較標準試料を分析すること によって行った。その結果,精度(繰り返し再現性),確度(正確さ)ともに十分高いこと が確認できた。

得られた元素分析の結果をもとに以下の3つの観点から考察した;(i) Rコンドライトの もつ元素組成の特徴,(ii) 希土類元素,Th, U の存在度に基づくRコンドライト母天体形 成過程,および形成後の諸過程,(iii) 揮発性元素存在度に基づく R コンドライト母天体 形成過程,および母天体での熱変成過程。以下にそれぞれの課題について簡単に考察結果 を記す;

(i) Rコンドライトのもつ元素組成の特徴:CIコンドライトとMgで規格化したRコンドラ

イトの元素組成は普通コンドライトの組成とよく似ていて,特に親石性難揮発性元素の存 在度には殆ど差が見られなかった。親石性難揮発性元素は普通コンドライト間で殆ど差が なく,Rコンドライトもその特徴を共有している。難揮発性親鉄元素の組成は普通コンドラ イト間で大きな変動が認められるが,Rコンドライトのこれら元素群の存在度はHグループ とLグループの間に入ることが分かった。一方,Sb, Se, ZnはRコンドライトに富み,普 通コンドライトとの間に明らかな差が認められた。これらのことから,Rコンドライトは普 通コンドライトと類似した特徴と、大きく異なる特徴を持つことがわかった。

(ii) 希土類元素,Th, Uの存在度に基づく Rコンドライト母天体形成過程,および形成後

の諸過程:Rコンドライト中の希土類元素,Th, Uの元素組成を詳細に調べた結果,これま でに明らかにされたかった次の様な特徴が見いだされた − 軽希土類元素に比べて重希土 類元素が相対的に多く存在すること,Ceの正の存在度異常があること,希土類元素とTh-U が分別していること,ThとUが分別していること,希土類元素とPの存在度に負の相関関 係があること。これらの結果から,Rコンドライト母天体の形成過程,母天体形成後の熱変 成過程について考察した。

(iii) 揮発性元素存在度に基づく R コンドライト母天体形成過程,および母天体での熱変

成過程:ここでいう揮発性元素とは元素の凝縮過程で比較的低温で気体分子種から固体に 移行する元素を指し,10-5気圧での凝縮温度が600Kから400K位のものである。これらの元 素は太陽系の元素組成を与えると考えられているCIコンドライトで最も高い存在度を持ち,

普通コンドライトでは揮発性が高くなるに従って(凝縮温度が低くなるに従って)その存 在度が小さくなる。Rコンドライトでも同様の傾向が認められたが,減少の度合いは普通コ ンドライトよりも少ないことがわかった。Rコンドライト間でも,熱変成の程度の違いに基 づく鉱物学的分類と揮発性元素(特に Bi, Cd, Tl)の存在度には明らかな相関が見いださ れた。

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3 審査の結果

本論文は上記3つの点でそれぞれ顕著な成果を得ることができた。先ず, INAA における Rコンドライト全岩の化学組成から,これまで良く研究されてきた普通コンドライトや炭素 質コンドライトとの元素組成上の類似性と非類似性が明らかになった。難揮発性親石元素 は炭素質コンドライト組成とは異なり,普通コンドライトと同様の存在度を示す一方,揮 発性の高い元素は普通コンドライトより、炭素質コンドライトの組成に近い。難揮発性心 的元素の存在度は普通コンドライトが示す幅の中に入ることが分かった。これらの結果か ら、本研究によって R コンドライトの元素組成上の特徴がこれまで以上に明らかにできた 点は大きな成果であると認められた。次に,ICP-MS による希土類元素,Th, U の元素組成 の詳細な検討結果から,これまで全く明らかになっていなかった R コンドライトの形成過 程が詳細に議論できた。特に、Rコンドライト母天体形成まえの原始太陽星雲における元素 組成や、形成の過程における周辺物質との混合,およびその均一性,更には母天体形成後 の熱変成に基づく元素の移動の程度についても議論することが出来た点は大いに評価され た。さらに,ICP-MS によって揮発性元素組成を詳細に求めた結果,これまで明らかにされ ていなかったこれら R コンドライト間での揮発性元素の組成,および岩石学的タイプの応 じた組成変化の様子が初めて明らかになった。組成からは R コンドライトの集積温度が普 通コンドライトより低いこと,岩石学的タイプによる組成変化からは揮発性元素の濃度変 化が凝縮過程と集積過程が重なって起こったことが示唆された。これら成果の一部は国際 論文誌に掲載され,また,残りの部分を投稿準備中である。これらの成果は,2013年3月,

および2014年3月に米国で開催された「月惑星科学会議」で発表され,少なからぬ研究者 に注目され,高い評価を得ることができた。

以上の理由により,本研究は博士(理学)の学位に十分値するものと判定した。

4 最終試験の結果

本学の学位規定に従って最終試験を行った。公開の席上で論文内容の発表を行い、化学 専攻教員による質疑応答をもって論文および関連分野についての最終試験とし、合格と判 定した。

参照

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