整理解雇の主張立証責任
山 口 幸 雄
*
はじめに
筆者は、平成 年 月から平成 年 月まで東京地裁の労働部に在籍し、
労働事件の処理を専門的に担当した。本稿は、筆者の実務経験を踏まえ、整 理解雇の主張立証責任について検討を加えるものである。
整理解雇の意義・判断要素
整理解雇とは、企業が経営上必要とされる人員削減のために行う解雇をい い、労働者の私傷病や非違行為など労働者の責めに帰すべき事由による解雇 ではなく、使用者の経営上の理由による解雇である点に特徴がある。
整理解雇法理は、 年代のオイルショック後に裁判例によって形成され てきた。企業は、景気の後退局面においては、雇用調整策として人員削減策
整理解雇一般については、下井隆史・労働基準法(第 版)(有斐閣・ 年) 頁以下、
菅野和夫・労働法(第 版)(弘文堂・ 年) 頁以下、荒木尚志・労働法(第 版)(有 斐閣・ 年) 頁以下、山川隆一・雇用関係法(第 版)(新世社・ 年)、西谷敏・
労働法(第 版)(日本評論社・ 年) 頁以下、三浦隆志「整理解雇」(宗宮英俊ほか 編・現代裁判法大系 労働基準・労働災害(新日本法規・ 年) 頁以下、松本哲泓「整 理解雇」(林豊ほか編・新裁判実務体系 (青林書院・ 年) 頁以下、吉川昌寛「整理 解雇」白石哲編・労働関係訴訟の実務(商事法務・ 年) 頁以下など参照。
*福岡大学法科大学院教授
をとるが、正社員に対する解雇については、正社員の雇用確保の見地から、
①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③人選の合理性、④手続の妥当性の 点を踏まえ、その有効性を判断していこうとする態度をとってきた。
具体的には、①人員削減の必要性については、人員削減策として正社員を 解雇しなければならないことが企業の経営上十分な必要性に基づいているか を検討し、②解雇回避努力については、残業規制、中途採用停止、配転、出 向、新規採用の縮減・停止、非正規従業員の雇止め、一時休業、退職金を上 積みしての希望退職募集といった、解雇を可能な限り避けようとする措置を 企業が執ったか 、③人選の合理性については、被解雇者の選定が恣意的な ものではなく、合理的な基準に基づいて行われたか、④また、手続の妥当性 については、企業が労働者に対して、整理解雇の必要性・規模などについて、
その理解と納得を得るよう努めたか、以上の諸点を総合的に判断し、これら が十分でないと認められるときは、整理解雇は解雇権を濫用したものとして 無効となる、とするものである。
以上の①ないし④の 点は、解雇権の行使が濫用となるかどうかを判断す る要素を類型化したものであり、例えば、①の人員削減の高度の必要性が認 められれば、②の解雇回避措置は必ずしもすべてを履践する必要がないと相 関的に考えることで、妥当な判断を導くことができるし、必要があれば①な いし④以外の点も考慮に入れることができるから、①ないし④の要件が一つ でも欠ければ整理解雇は解雇権を濫用したものとして無効となるという意味 での要件であると硬直的に考えるべきではなく、①ないし④は、整理解雇の 有効性を判断する考慮要素であると考えるべきであろう。
解雇回避努力の具体的内容は、和田良一「人員解雇事件の審理」(三ケ月章ほか編・新実 務民事訴訟講座 (日本評論社・ 年 頁)以下参照。
前掲注 下井 頁、菅野 頁、荒木 頁、三浦 頁、松本 頁、山川隆一・労働紛 争処理法(弘文堂・ 年。以下、山川・紛争処理法として引用) 頁。
整理解雇の主張立証責任に関する諸見解
整理解雇の主張立証責任を検討した主なものとしては、次のものがある。
以下では、発表された年代順に諸説の概略を紹介する。
( )山川説
ア 整理解雇の無効を主張して労働者が労働契約上の地位の確認の確認を 求める場合、請求原因は、労働契約の成立要件事実である「労働契約の 締結」と、確認の利益を基礎づけるために「使用者による労働契約の終 了の主張」を主張立証すれば足りる。
イ 使用者は、労働契約の終了(解雇の意思表示)を抗弁として主張する ことになる(民法 条 項、労基法 条)。
ウ 権利濫用は権利行使の効果の発生を阻害するものであるから、解雇が 権利濫用に当たることは、労働者の再抗弁として位置づけられるが、権 利濫用は規範的要件であるから、労働者は、再抗弁として、その評価根 拠事実(当該労働者の平素の勤務状況が通常のものであったこと)を主 張立証する責任を負い、使用者がそれに対する評価障害事実(解雇が合 理的理由によるものであることを根拠づける具体的な事実)を、主張立 証する責任を負う。
エ 整理解雇の 要素の主張立証責任については、①人員削減の必要性と
②解雇回避努力を尽くしたことは、使用者が解雇を行うこともやむをえ ない事態に至っているという意味で、解雇の合理的理由を構成するもの といいうるから、権利濫用の評価障害事実として、使用者が主張立証責
山川・紛争処理法 頁以下、 頁以下。山川・紛争処理法は、労働紛争についての主張 立証責任を巡る同氏の考察の現下の集大成と思われるので、同説の紹介はこれによる。同氏 による先行の論稿として、「解雇訴訟における主張立証責任」季刊労働法 号 頁( 年)、
「労働訴訟と要件事実」(伊藤滋夫ほか編・民事要件事実講座第 巻・青林書院・ 年)
頁)などがある。
任を負う。解雇の合理的理由は、最終的には個々の労働者について考え るべきであるから、③人選の合理性も、使用者が主張立証責任を負う。
④整理解雇の手続については、労働協約等に協議条項がない場合にも手 続の相当性が要求されるのは実質的には信義則に基づくものであり、信 義則違反については一般にそれを主張する者がその評価根拠事実を主張 立証すべきであるとされること、手続の相当性は、実体的な解雇の合理 的理由とはやや異なる次元に位置づけられることなどから、他の要素と は別の観点から解雇権濫用を基礎づける事実として、労働者側において 手続が相当でなかったことを基礎づける事実を主張立証する責任を負う。
オ 「やむを得ない業務上の都合による場合」などの整理解雇事由が就業 規則に定められている場合は、その事由に解雇権の行使を限定する意思 であるとみられるから、就業規則にこのような定めがあることは解雇権 を制限するものとして、労働者の再抗弁事実を構成する。この場合、使 用者は、再抗弁を前提とする予備的抗弁として、就業規則の整理解雇事 由に該当する事実を主張立証すべきであるが、この解雇事由は抽象的か つ評価的な概念であり、通常の場合、実体的にみた解雇の合理的理由を 意味していると解釈できるので、①人員削減の必要性、②解雇回避努力、
及び③人選の合理性は解雇事由の内容をなすべき抗弁の評価根拠事実と して使用者が主張立証責任を負う。そして、この抗弁に対する再抗弁と しての解雇権濫用の主張の一内容として、労働者が④解雇手続が相当性 を欠いていたこと(評価根拠事実)についての主張立証責任を負う。
( )三浦説
ア 整理解雇も普通解雇の一種であるから、原則的には解雇は自由であり、
前掲注 三浦 頁以下。
それが権利の濫用に当たる場合に無効になるにすぎない。
イ 労働者が雇用関係の存続を主張する場合には、雇用契約の成立が労働 者側の主張立証すべき請求原因で、解雇の意思表示が使用者側の抗弁と なり、解雇権濫用は再抗弁になるから、整理解雇の考慮要素はすべて労 働者側の再抗弁になる。
ウ 実務上は、就業規則等により一定の解雇事由が定められていることが 多いが、これは、使用者が解雇権を右の場合に限定する旨の自己制約と 解されるから、この場合には、解雇制限条項の存在が労働者側の再抗弁 になり、右解雇事由(例えば「やむを得ない事業上の都合」)が使用者 側の再々抗弁になり、解雇権濫用は労働者側の再々々抗弁になる。
再々抗弁事実たる解雇事由に該当する事実と再々々抗弁事実たる解雇 権の濫用に当たる事実との振り分けは、就業規則等で「やむをえない事 業上の都合」という解雇事由を定めている場合で考えると、再々抗弁と して使用者側が主張立証責任を負うのは、当該解雇が「やむをえない事 業上の都合」によること、すなわち「経営の必要性」「解雇回避努力」「人 選の合理性」の存在であり、その余の考慮要素(例えば「解雇手続の相 当性」は労働者側が再々々抗弁の中で主張立証すべきことになる。
( )古川説
使用者は、「職業の安定」を実現させるために、信義則上、労働契約又は 労働関係の継続性について配慮する義務があるから、解雇を争う労働者は、
請求原因として、①労働契約の締結(又は労働関係の成立)、②労働関係上 の信義則に基づく継続性配慮義務を主張立証するほか、②の配慮義務の内容 を具体的に特定する必要がある。ただし、労働者が使用者に対し、配慮義務
古川景一「解雇権濫用の法理と要件事実・証明責任、及び解雇に関する正当事由必要説の 再構成試論」季刊労働法 号 頁( 年)。
に基づき債務の履行請求をする場合であるから、義務違反の具体的事実の主 張立証責任までは負わない。例えば、経営不振の解雇の場合は、整理解雇の 要件の遵守が配慮義務の具体的内容であり、使用者は抗弁として、債務の 本旨に従い履行したことなど、継続性配慮義務履行請求権の消滅及び解雇の 意思表示を主張立証することを要する。
( )大江説
ア 請求原因及び抗弁は、山川説と同旨である。
イ 労働者は、再抗弁として、解雇の意思表示は解雇権の濫用であること を基礎づける事実として、整理解雇に関する 要素、すなわち、①人員 整理の必要性がないこと、②解雇回避努力義務がなされなかったこと、
③解雇者選定につき、客観的・合理的な基準が設定されていないこと、
④労働組合との間で協議を尽くさなかったこと、を主張立証することを 要する。
ウ また、限定的解雇事由の再抗弁として、使用者の就業規則に限定列挙 として「やむ得ない事業上の都合」の定めがあることを主張立証するこ とができる。この再抗弁が成立した場合は、就業規則の限定的列挙事由
(整理解雇)に基づく予備的抗弁として(抗弁(使用者による解雇の意 思表示)及び再抗弁(限定的解雇事由)を前提とする予備的抗弁)、「や むを得ない事業上の都合」に該当する事実の存在を基礎づける事実とし て、①人員整理の必要性、②解雇回避努力義務、③被解雇者選定につき、
客観的・合理的基準が設定されていることを、使用者が主張立証し、再 抗弁として、労働者が、使用者による解雇の意思表示が解雇権の濫用で あること基礎づける事実、すなわち、使用者が労働組合との間で協議を
大江忠・要件事実労働法(第一法規・ 年) 頁以下。
尽くさなかったことを主張立証することになる。
( )川口説
整理解雇 要件は、労働契約上の信義則から抽出される解雇権の行使要件 であるから、その全てを充足しなければ解雇は無効であり、当該要件を充足 していることの証明責任は使用者が負担する。
( )難波説
ア 普通解雇は、勤務成績の不良等契約責任の有無が問題となるが、整理 解雇においては、労働者自身が予防することのできない事由により身分 を喪失するもので、両者は、支配する法理が異なる別類型の解雇である。
イ 使用者は、整理解雇を主張する場合、民法 条の解雇を主張してい るという意識を持っていないのが通常であり、使用者は整理解雇を主張 しているのだから、端的に、整理解雇による解雇の主張を抗弁に据える のが相当である。
ウ 山川説や大江説によった場合、就業規則の解雇事由の定めが限定列挙 の場合と例示列挙の場合とで攻撃防御方法ががらりと変わるが、それで よいのかという根本的な疑問がある。整理解雇の法理が判例に根拠を持 つこととの整合性からすると、就業規則に規定があるか否かにかかわら ず、攻撃防御方法について同一の位置づけをするのが相当である。
エ 以上から、就業規則に整理解雇の規定があろうとなかろうと、あった として、それが例示列挙であろうと限定列挙であろうと、使用者側は、
川口美貴「解雇法理の展開(下)経営上の理由による解雇」季刊労働法 号 頁(
年)。特に 頁以下。
難波孝一「労働訴訟と要件事実―整理解雇の主張立証責任についての一考察」伊藤滋夫先 生喜寿記念「要件事実・事実認定論と基礎法学の新たな展開」 頁(商事法務・ 年)
以下。
立証の難易を考慮して、抗弁として、整理解雇の意思表示をしたこと、
整理解雇が有効であることを根拠づける事実として①ないし③に該当す る事実(評価根拠事実)を主張立証すべきであり、再抗弁事由として、
労働者側で、整理解雇が有効であるという効果を障害する事実である④ の手続が相当でなかったことという事実を主張立証すべきである。
諸説の検討と私見
( )検討の視点
私見は、立証責任の分配としては、実務で採用されている、いわゆる修正 法律要件分類説に依りつつ、立証責任の所在と主張責任の所在とは一致する、
権利濫用などの規範的要件については、当事者は、当該評価を根拠づける具 体的事実(評価根拠事実)を主張しなければならず、相手方は、当該評価を 障害する具体的事実(評価障害事実)を主張立証することを要するとの立場 を採用している。なお、修正法律要件分類説とは、実体法上の規定は、権利 発生規定、権利障害規定、権利消滅規定、権利阻止規定に分類できるが、当 該法条の適用を受けようとする者は、原則的には自己に有利に働く規定の要 件事実について立証責任を負担する、ただし、公平上、それによりがたい場 合は、修正を認めるという立場である。
( )実体法の構造
ア 労働契約の成立、終了に関する実体法上の規定は次のとおりである。
まず、雇用契約の成立については、民法 条が、「雇用は、当事者の一 方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対して
司法研修所編・増補民事訴訟における要件事実第一巻(法曹会・ 年) 頁以下、 頁 以下、 頁以下、山口幸雄ほか編・労働事件審理ノート( 訂版。以下、審理ノートとして 引用)(判例タイムズ社・ 年) 頁以下参照。
報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。」と規定 し、労働契約法 条は、「労働契約は、労働者が使用者に使用されて労 働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使 用者が合意することによって成立する。」と規定している。民法上の雇 用契約に当たるかどうか、労働契約法上の労働契約に当たるかどうかは いずれも実態に即して判断すべきであり、雇用契約と労働契約とは同一 の概念であると解するのが通説である。
イ 次に、雇用契約(=労働契約)の終了については、民法 条 項が
「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解 約の申入れをするができる。この場合において、雇用は、解約の申入れ の日から 週間を経過することによって、終了する。」と規定しており、
また、労働基準法 条 項では、「使用者は、労働者を解雇しようとす る場合においては、少なくとも 日前にその予告をしなければならない。
日前に予告をしない使用者は、 日分以上の平均賃金を支払わなけれ ばならない。」(ただし、同条但書で解雇予告の除外事由が、同法 条で 解雇予告義務の適用除外が、定められている。)と規定されているから、
同法の適用を受ける労働者(労基 条。なお、同法 条)については、
使用者による解約申入れ(解雇の意思表示)は、 日前にされることを 要する。
ウ もっとも、「権利の濫用は、これを許さない。」(民法 条 項)ので あり、「労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たって は、それを濫用することがあってはならない。」(労働契約法 条 項)
のであって、解雇権濫用法理を立法化した労働契約法 条は、「解雇は、
客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場
前掲注 菅野 頁、荒木 頁など。
合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と規定している。
( )攻撃防御方法 ア 請求原因
( )で概観した実体法の構造からすれば、使用者Yによって整理解雇 された労働者Xが整理解雇が無効であると主張して、労働契約上の権利 を有する地位にあることの確認を求める場合には、労働契約の成立をい えば、その後の労働契約の存続、つまり一旦発生した労働契約上の権利 を有する地位にあることについて、同地位はその後も存続していること が事実上推定されるから、Xは、請求原因としては、「労働契約を締結 したこと」を主張立証する必要がある。そして、確認訴訟では確認の利 益があることが必要であるから、使用者が労働者が同地位にあることを 争っていること、すなわち、「YがXとの労働契約が終了したと主張し ていること」も主張立証すべきである。
以上から、Xの請求原因としては「XY間の労働契約の締結+Yが労 働契約が終了したとの主張していること」で足りる。
古川説のいうように、そもそも「職業の安定」を理由に、労働契約終 了の際にも、信義則上労働関係の継続性についての配慮義務を導き出せ るかは疑問である上、同説は主張責任と立証責任のかい離を認めるもの であるから、賛成できない。
イ 抗弁
(ア)XとY間の労働契約の締結によりいったん発生したXの労働契約 上の権利を有する地位は、労働契約の終了により消滅するから(民法 条 項)、これは権利消滅事由として使用者の抗弁となる。Yは、「Yが Xに対し、解雇の意思表示をしたこと」を主張立証すべきである(Xが 労働基準法の適用を受ける労働者である場合には、解雇予告手当を支
払ったこと又は予告手当の除外事由があることあるいは解雇の意思表示 後 日を経過したことも主張立証する必要がある。) 。
(イ)ところで、就業規則において、「やむを得ない事業上の都合によ る場合」は解雇できる旨の条項が定められていることが多いが、このよ うな整理解雇条項の定めがある場合にはどのように考えるべきであろう か。
就業規則において整理解雇条項を定めている場合、当事者の合理的意 識としては、通常は、当該解雇は、整理解雇条項に基づく解雇であると 主張していると見るのが自然であろう。当事者の主張については、当事 者の意識したものを採り上げ、法的観点についても当事者に一定の関与 の機会を与えるのが相当であるから、この場合は、使用者は整理解雇条 項に基づく解雇を主張しているとみるべきである。
使用者による解雇の主張をこのように理解できるとすれば、Yは、「Y がXに対し、解雇の意思表示をしたこと」のほかに、解雇権発生事由と して、「解雇が整理解雇条項に基づくこと」を主張立証すべきである。
難波説は,普通解雇と整理解雇は別類型であることを一つの論拠として いるが、実定法上、解雇(解約申し入れ)に関する規定は( )でみた とおりであり、解雇一般に関する規定以外は存しないから、整理解雇も 普通解雇の一種であり、立論の前提に賛成できない。本来は、使用者は、
民法 条に基づく解雇も主張できるが、使用者の意思からして、整理 解雇条項に基づく整理解雇を主張していると見るべきである。
そして、整理解雇条項は、抽象的であり、評価的な要件を定めている ところ、整理解雇に関する判例法理によれば、①人員削減の必要性、②
審理ノート 頁。
司法研修所編・改訂紛争類型別の要件事実 頁(法曹会・ 年)。裁判所は、必要に応 じ、釈明権を行使すべきである。
解雇回避努力、③人選の合理性、④手続の妥当性の 点に即して検討す べきであるから、この 点の主張立証責任を使用者、労働者のいずれに 負担させるかを次に検討することになる。
これについては、立証の難易も考慮して、山川説、難波説の説くとお り、①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③人選の合理性の 点は使 用者に、④手続の妥当性の欠如は労働者に、負担させるのが相当であろ う。私見では、難波説と同じく、①人員削減の必要性、②解雇回避努力、
③人選の合理性の 点が整理解雇の評価根拠事実として使用者が主張立 証責任を負担し、④手続の妥当性の欠如は評価障害事実として、労働者 が主張立証責任を負担することになる(したがって、④は、労働者の再 抗弁となる。)。
(ウ)では、就業規則において整理解雇条項が定められていない場合は どうであろうか。整理解雇条項がない場合でも、経営上の必要から整理 解雇をする必要があることは否定できないし、この場合に整理解雇条項 の不存在を理由に、整理解雇の 要素を検討することなく、解雇は不当 であるとの結論を導くことが相当とは思われない。
この場合に、使用者が整理解雇であると主張していると見られる場合 は、解雇権の発生事由として、「YがXに対し、解雇の意思表示をした こと」とともに、「同解雇は整理解雇であること」は使用者が主張立証 すべきであろう。この場合の整理解雇の 要素の主張立証責任の振り分 けは、整理解雇条項が存在する場合と同様に考えることになる。三浦説、
大江説は、整理解雇条項が存在しない場合には、整理解雇の 要素すべ
広島硝子工場事件・広島地判昭和 ・ ・ 労判 号 頁。その意味で、就業規則の解 雇事由は例示列挙と解するのが理論的には正当である。前掲注 荒木 頁以下。実務的に も、就業規則に不備があるのはしばしば経験するところである。渡辺弘・労働関係訴訟 頁
(青林書院・ 年)。
てについて労働者にそれを欠くことの主張立証責任があるとするが、① 人員削減の必要性、②解雇回避努力、③人選の合理性の 点は、使用者 の判断の下に整理解雇が行われている以上、証拠資料は使用者側に存す ると見られるから、公平上問題がある。
(エ)ただし、通常は考えにくいが、使用者が明示的に民法 条に基 づく解雇を主張している場合は、このような構成によることができない から、抗弁事実としては、「YがXに対し、解雇の意思表示をしたこと」
だけにならざるを得ない。
ウ 再抗弁以下
使用者が明示的に民法 条に基づく解雇を主張している場合は、山 川説は、労働者は、解雇権濫用の評価根拠事実として、「当該労働者の 平素の勤務状況が通常のものであったこと」の主張立証を要するとして いる。
しかし、整理解雇は、労働者の責めに帰すべき事由によらない解雇で あるから、原則として客観的に合理的な理由を欠き、無効であり、ただ、
例外的に、整理解雇の 要素を満たしたときに有効となると考えられる。
評価根拠事実あるいは評価障害事実とは、評価根拠要件に該当する具体 的事実あるいは評価障害要件に該当する具体的事実の意味であり、それ らを当事者に主張立証させるのは、攻撃防御目標の明確化と当事者への 不意打ち防止にあるから、そのような必要がない場合には評価根拠要件 ないし評価障害要件についての自白の成立を認めてよいと考える 。そ うすると、解雇権濫用の評価根拠要件については、評価自白が成立して
審理ノート 頁。
権利自白に類する、いわば評価自白である。評価根拠要件についての自白が成立すれば、
評価根拠事実を基礎づける事実を主張立証する必要がないという意味では、権利自白に類す る機能を持つが、もとより裁判所に対する拘束力や当事者に対する拘束力は生じない。
いると見てよいから、「当該労働者の平素の勤務状況が通常のものであっ たこと」などの評価根拠事実の主張立証は不要であると考える。
したがって、労働者が、再抗弁として、「当該解雇が労働者の責めに 帰すべき事由によらないものであること」を主張すれば、これについて 自白が成立するから、使用者は、再々抗弁として、解雇権濫用の評価障 害事実を主張立証しなければならないが、整理解雇の 要素の主張立証 責任の振り分けで検討したところによれば、①人員削減の必要性、②解 雇回避努力、③人選の合理性については、使用者が主張立証責任を負い、
④手続の妥当性の欠如など使用者の信義則違反の事実については、労働 者が主張立証責任を負うと解すべきであろう。
なお、この点、山川説は、④手続の妥当性の欠如など使用者の信義則 違反の事実については、解雇権濫用の評価根拠事実として、労働者の再 抗弁となるとするが、整理解雇の 要素のうち、実体的理由である①人 員削減の必要性、②解雇回避努力、③人選の合理性の 要素は満たしな がら、④手続の妥当性の欠如など使用者に信義則違反とみられる事由が あることから整理解雇を無効とするものであるから 、同系列の攻撃防 御方法とみるべきであり、④手続の妥当性の欠如など使用者の信義則違 反は、使用者による解雇権濫用の評価障害事実の主張立証に対し、それ と両立し、先の評価障害事実を覆滅させる評価障害事実を主張立証する ものとして、労働者が主張立証責任を負う再々々抗弁事実であると解す べきであろう。
前掲注 渡辺 頁は、「整理解雇の 要件」を意識した整理解雇を行っていると評価でき るものの、そのような整理解雇をすることが信義則に反するという特別な事情が存する事例 もあるとする。
規範的要件について、評価障害事実に対する評価障害事実があり得ることにつき、難波孝 一「規範的要件・評価的要件」 頁(伊藤滋夫ほか編・民事要件事実講座第 巻・青林書 院・ 年)。
近時、整理解雇の 要素のうち、実体的理由である①人員削減の必要 性、②解雇回避努力、③人選の合理性の 要素は使用者に、④手続の妥 当性の欠如などは労働者に、それぞれ主張立証責任があると明言する裁 判例がみられるが 、私見の立場からも、賛同できるものである。
( )まとめ
以上から、労働者が整理解雇が無効であると主張して労働契約上の権利を 有する地位にあることの確認を求める訴訟の要件事実は、以下のとおりとな る。
【請求原因】
「労働契約の締結+使用者による労働契約終了の主張(確認の利益)」
【抗弁】
ア 整理解雇条項が存在し、使用者が同条項に基づく解雇を主張している と見ることができる場合
「整理解雇条項の存在+解雇の意思表示+①人員削減の必要性+②解雇 回避努力+③人選の合理性」
イ 整理解雇条項が存在しないが、使用者が整理解雇を主張している場合
「整理解雇であること+解雇の意思表示+①人員削減の必要性+②解雇 回避努力+③人選の合理性」
ウ 使用者が明示的に民法 条に基づく解雇を主張している場合
ゼネラル・セミコンダクター・ジャパン事件・東京地判平成 ・ ・ 労判 号 頁(同 事件の評釈として、中山慈夫・ジュリスト 号 頁)、山田紡績事件・名古屋地判平成 ・
・ 労判 号 頁、コマキ事件・東京地決平成 ・ ・ 判時 号 頁、東京自転車 健康保険組合事件・東京地判平成 ・ ・ 労判 号 頁、クレディ・スイス証券事件・
東京地判平成 ・ ・ 労判 号 頁等、日本通信事件・東京地判平成 ・ ・ 労判 号 頁、ジャストリース事件・東京地判平成 ・ ・ 労判 号 頁、東亜外業(本 訴)事件・神戸地判平成 ・ ・ 労判 号 頁等。
「解雇の意思表示」
【再抗弁】
抗弁でア、イの場合
「④手続の妥当性の欠如など使用者の信義則違反」
抗弁でウの場合
「解雇が労働者の責めに帰すべき事由によるものではないこと」
【再々抗弁】
「①人員削減の必要性+②解雇回避努力+③人選の合理性」
【再々々抗弁】
「④手続の妥当性の欠如など使用者の信義則違反」
以 上