2000 年代の世界貿易
本間 直行
【要旨】
2000
年代には世界貿易が以前にもまして大幅に増加した.08
年にはリーマン ショックが発生したものの,とりあえずは世界貿易は急速に回復した.この貿易 拡大の多くは途上国に関わるものであった.1990
年代からすでに先進国の世界貿 易における比重は低下していたが,この傾向は00
年代にさらに一層進むことに なった.新興国の工業化,経済拡大がさらに広範囲で進み,それらが途上国全体 の輸出入を拡大させたのである.とりわけ経済拡大の著しい中国の輸出入の増加 が,この時期の世界貿易拡大の中核部分をなしていた.同時に,中国を始めとす る新興国経済の展開は原材料や食料貿易の拡大を促進し,他方で工業製品をめぐ る国際競争の激化は製品価格を抑制することとなった.さらに先進国における金 融緩和の進展は一次産品価格の上昇を促進していった.こうして世界貿易におい ては一次産品貿易の大幅な増加と製品貿易の地位の低下がみられることになった.【キーワード】
世界貿易,グローバル経済,中国経済,新興国,金融緩和,リー マンショック1.
はじめに2.
地域別動向3.
品目別動向4.
世界貿易のマトリクス5.
結び1. はじめに
世界経済における新興地域の地位が,停滞傾向を示す先進国経済とは対照的に,
近年さまざまな形で高まっている.世界貿易においても
1990
年代にすでに大き な役割を果たすようになっていた1. NIES
やASEAN4
などの従来からの新興工 業地域に加え,中国等の諸国への工業化の広がりがその背景となっていた.2000
年代に入り,それらいわば新たな新興地域はさらに範囲を広げており,そ の中でもとりわけ経済発展の著しい中国は一層世界経済への影響を強めている.さしあたり貿易動向に絞ってみても,先進国産業との競合,原材料への需給関係,
製品価格への影響,消費の増加・高度化等により,従来とは異なる様相がみられ るようになった.しかも,テロや金融市場の不安定性を背景とした先進国の金融 緩和政策は国際的な資金移動に大きな影響を与え,一次産品市場への影響も無視 できないものになっている.
2000
年代の世界貿易は大幅に増加していた1990
年代を上回る規模の拡大を当 初示していたが,リーマンショックの影響をうけ,2009
年には急落した.その後 とりあえず急速な回復を見せたものの,世界経済の危機を受けて伸びは低下し,不安定な動きを示すようになっている.
本稿は,
2000
年代のこうした世界貿易動向について検討し,この時期の世界経 済動向の一端を明らかにしようとするものである.リーマンショック,その後の 世界経済危機に関わる論点にはここでは直接ふれず,あらためて検討することと し,それまでの時期の全体的な特徴を明らかにしたい.以下,地域別動向,品目 別動向,マトリクスによる検討,の順に検討していくことにしよう2.
1 拙稿「
1990
年代の世界貿易」,『経済学季報』第54
巻第3 ・ 4
号,2005
年3
月,所収,参照.
2 特に示さない限り,数値は各表の出所として示した
UNCTAD
の統計による.2. 地域別動向
世界の輸出総額は,
1990
年から2000
年に,後半には伸び率が低下したものの1.85
倍と大幅に増加していた.2000
年以降は,01
年の小幅な低下の後03
年以 降大幅に伸び08
年には2.5
倍と,90
年代に比しても大幅な増加を示した(表 1 ).
そしてリーマンショックを受けて
09
年に22.4 %
も急落した後,10
年には08
年 の94.1 %
の水準へと一定の回復をみせている.1980
年代からの世界貿易の拡大 は急激なものであるが,21
世紀にはいってからの,とりわけ00
年代半ばからの それはさらに一層大幅なものになったのである.輸出額
(十億ドル)
地 域
(%)
品 目(%)
先進国 途上国 移行経済 一次産品 製 品
1995 5,178.0 69.93 27.71 2.35 22.25 72.75
1996 5,406.4 68.96 28.57 2.47 22.99 72.85
1997 5,588.1 68.16 29.44 2.40 22.13 73.72
1998 5,502.8 70.10 27.79 2.11 19.67 76.20
1999 5,719.6 68.84 29.16 2.00 20.07 76.06
2000 6,448.6 65.72 31.88 2.40 21.90 73.39
2001 6,190.0 66.43 31.09 2.48 21.77 73.76
2002 6,480.7 65.63 31.86 2.52 21.36 74.29
2003 7,561.8 64.92 32.35 2.74 21.89 73.46
2004 9,189.0 63.11 33.82 3.07 22.87 72.63
2005 10,495.7 60.36 36.18 3.46 25.54 70.36
2006 12,129.8 58.82 37.42 3.76 26.52 69.03
2007 13,996.6 58.38 37.68 3.93 27.04 68.35
2008 16,122.8 56.40 39.01 4.59 30.32 64.96
2009 12,511.2 56.39 39.78 3.83 27.56 66.66
2010 15,174.4 54.15 41.78 4.07 29.10 66.21
表 1 世界輸出額
(出所)
http://www.unctadstat.unctad.org/,
Oct. 3, 2011, Nov. 4, 2011,
アップのデータより作成.世 界先進国途上国移行経済 アメリカ
EU
日 本中南米アジア 東アジア東南アジア西アジア 輸出量2000 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 2001 99.6 99.3 94.0 102.9 92.1 99.8 102.5 99.2 101.1 96.3 97.4 103.9 2002 104.3 101.8 90.3 106.6 99.3 109.1 103.6 111.2 117.0 103.5 103.6 114.7 2003 110.8 105.0 92.9 110.0 108.4 122.8 107.6 128.2 141.9 115.3 110.8 126.7 2004 122.9 113.9 101.1 119.3 122.9 142.2 117.8 151.3 174.1 132.5 124.4 141.6 2005 130.4 119.7 108.6 125.4 129.1 155.7 125.2 167.1 205.0 140.8 125.4 140.7 2006 142.3 129.8 120.0 136.3 144.4 172.1 131.9 189.2 242.5 155.1 129.6 150.7 2007 150.8 135.1 128.1 140.8 157.2 187.2 134.9 208.7 280.1 166.5 131.9 164.7 2008 154.5 138.5 135.2 144.1 160.8 193.4 134.4 218.9 300.5 169.2 137.7 164.4 2009 134.1 117.5 115.1 123.5 120.8 174.2 119.3 198.4 268.5 150.9 135.7 140.7 2010 152.1 132.6 132.7 137.6 154.0 200.0 131.9 231.2 332.2 179.3 131.2 157.0
輸入量2000 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 2001 100.3 99.8 97.1 101.5 101.2 100.4 101.0 99.6 100.7 95.7 100.6 118.6 2002 104.6 102.8 101.3 104.5 102.3 107.1 94.6 110.4 114.9 101.6 109.9 134.6 2003 111.9 107.8 106.8 109.8 108.4 119.6 95.0 126.7 135.7 110.2 124.4 159.8 2004 124.9 117.5 118.4 119.2 115.3 140.1 108.0 150.0 160.2 130.9 154.0 189.4 2005 134.0 124.3 125.3 126.2 117.6 154.4 119.0 164.5 170.7 141.4 170.7 212.8 2006 145.2 133.1 132.0 137.0 122.6 170.0 134.6 180.4 188.8 150.0 184.6 256.9 2007 155.1 138.2 133.5 143.9 123.6 188.8 150.3 199.8 208.1 160.8 220.7 325.8 2008 159.1 138.0 128.5 145.1 122.8 201.5 163.4 211.4 209.0 173.5 247.7 376.4
表2 貿易指数( 2000
年= 100 )
(出所)
h ttp://www.unctadstat.unctad.org/,
F eb. 27, 2012,
アップのデータより作成.2009 137.8 118.0 107.4 124.4 107.6 181.7 133.9 192.9 197.9 145.2 219.4 268.7 2010 156.8 130.6 123.3 136.3 118.5 216.0 164.6 230.3 247.2 176.8 234.3 311.0
輸出単価2000 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 2001 96.4 97.7 99.2 98.0 91.4 93.7 93.5 93.8 93.5 93.2 95.9 95.7 2002 96.3 98.6 98.2 100.7 87.6 92.0 93.5 91.5 90.7 91.2 94.6 92.1 2003 105.8 110.3 99.7 116.8 90.9 96.8 98.7 95.2 91.3 94.2 108.0 105.8 2004 116.0 120.2 103.6 128.6 96.1 106.3 111.1 102.9 95.3 99.5 131.2 129.0 2005 124.8 124.9 106.9 132.5 96.1 118.6 125.7 112.9 96.9 107.3 174.6 166.9 2006 132.2 129.7 110.7 137.5 93.9 128.3 142.6 119.5 98.0 115.0 203.8 195.8 2007 143.9 142.7 116.1 155.0 94.8 137.0 156.1 126.7 100.7 120.4 234.3 216.3 2008 161.7 154.9 123.1 167.2 101.5 158.2 183.0 143.1 106.3 136.7 302.7 289.8 2009 144.6 141.7 117.4 151.4 100.3 139.0 157.4 127.7 100.5 124.9 218.8 218.6 2010 154.6 146.2 123.1 152.9 104.3 154.1 180.5 139.9 105.5 135.8 266.4 253.2
輸入単価2000 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 2001 96.3 96.5 96.5 97.3 90.9 95.5 96.9 94.9 93.3 95.6 99.0 98.6 2002 95.8 96.4 94.1 98.6 86.8 94.3 96.7 93.4 90.5 94.8 98.3 96.9 2003 104.5 106.8 96.9 113.3 93.1 99.1 99.8 97.9 94.9 97.9 105.2 102.9 2004 114.1 116.7 102.3 125.5 103.9 108.1 106.7 107.1 103.5 103.3 117.1 112.7 2005 120.9 123.2 110.0 130.5 115.4 115.5 114.2 114.4 111.3 112.1 124.9 122.0 2006 127.8 130.0 115.4 137.8 124.6 122.4 120.2 121.4 117.5 120.7 134.3 129.3 2007 137.9 141.2 120.2 152.7 132.1 130.4 128.2 129.0 123.6 127.1 145.6 137.3 2008 155.2 157.8 134.1 169.5 163.6 148.6 144.0 147.2 142.3 143.5 165.9 153.7 2009 137.9 138.7 118.6 148.5 134.9 133.8 131.2 132.1 126.4 131.8 152.8 144.3 2010 146.8 146.3 126.8 153.6 154.0 144.7 138.0 143.8 137.2 141.7 162.5 150.3
量と価格に分けると,量で
01
年に,単価で01 , 02
年に低下した後08
年まで は価格の伸びの方が若干大きかったが,10
年時点では量,価格共に00
年のほぼ1.5
倍の水準となっている(表 2 ). 00
年代には両者のほぼ同等の伸びにより輸出 額が増加したのである.さて,地域別動向として注目されるのは,輸出における先進国の比重が,
00
年 代に大きく低下し10
年には54.2 %
と全体のほぼ半分近くにまで低下しているこ とである.絶対額としては00
年に対して08
年で2.12
倍,10
年で1.94
倍とかな りの伸びを示しているものの,世界輸出総額の伸びの00 〜 08
年で50.2 %, 00
〜 10
年で45.5 %
を占めるにとどまっている.こうした先進国の比重の低下は90
年代から継続しており,00
年代にはさらに加速することになったのである.このうち,アメリカの輸出額は
01 , 02
年と11.4 %
減少し,その後増加に転じ たものの,08
年には00
年の1.66
倍,10
年には1.63
倍への増加にとどまり,90
年代全体よりも伸びが小さく,90
年代とは一転して世界輸出に占める比重も8 %
台前半へと大きく低下した(表 3 ).先進国の輸出に占める比重でも 00
年の18.5 %
から08
年に14.3 %, 10
年に15.6 %
へと低下している.これは製品輸出の伸び 悩みに起因する.一次産品の輸出が00
年から10
年に2.76
倍に伸びたのに対し て,製品輸出は08
年までに1.49
倍,10
年までに1.33
倍になったにとどまる.化学品がある程度伸びを維持できたのに対して,機械の伸びが小さく,
04
年によ うやく00
年の水準を上回り,08
年に1.35
倍に達したにとどまる.また,熟練・技術水準別では中位の製品が
08
年までに1.56
倍,高位の製品が1.42
倍と,技術 水準の高い製品で必ずしも輸出が順調ではない.後二者については00
年代後半 に世界の輸出における比重,アメリカ輸出に占める比重ともに急速に低下してい る.一次産品では燃料が00
年代後半に急増しており,10
年には輸出総額の6.3 %
に達している.なおアメリカの輸出量および価格の上昇幅は共に世界全体の水準 に及ばず,輸出単価の伸びの方が小さい.これに対して
EU
の輸出額の伸びは,90
年代に1.58
倍であったのに対し,00
年から08
年には2.41
倍,09
年の22.4 %
減少後10
年には2.10
倍になっている.EU
の輸出はその地域性を背景に09
年を除いては毎年増加を続け,世界全体と同 様に90
年代と比較した00
年代の増加加速を実現している.ただし,90
年代にすでに生じていた世界輸出に占める比重の低下は
00
年代に入っても続いた.01
年から03
年については世界輸出の伸びが相対的に小さく,比重はむしろ小幅な がら高まっていた.しかしそれでも90
年代前半の水準は回復できず,さらにそ の後はわずかずつとはいえ比重を低下させ,10
年には世界のほぼ三分の一へと急 落している.商品別構成では,アメリカほど大きくはないものの,一次産品とく に食料と燃料比重の上昇と,製品の比重の低下を指摘することができる.後者で はわずかながら中位の熟練・技術を要する製品の比重が低下しているが,極端に 大幅とはなっていない.ユーロ圏の動向もEU
全体とほぼ同じになっている.EU
の場合,単価は世界平均にほぼ等しいが,量が世界より全体として1
割程度低い 伸びにとどまっていた.日本の輸出額は
90
年代には後半の停滞をうけて1.67
倍に増加したにとどまっ ていた.さらに00
年代には01
年の減少を挟み00
年から08
年には1.63
倍,10
年には1.61
倍への増加にとどまっている.00
年代後半の伸びも相対的に小さく,全体として世界の輸出増加幅をかなり下回るものとなった.こうして世界に占め る比重も
08 , 09
年には5 %
を下回り,93
年に10 %
近くにまで比重を回復させ ていたのと比べ5
ポイント近く比重を低下させている.量と単価をみてみると,輸出量は世界とほぼ同じ水準を維持している一方で,単価が大きく低下している.
とくに
02
年には00
年より1
割以上低い水準となっているなど01
年から07
年ま で00
年の水準を下回り,10
年時点でようやく4
ポイントほど00
年を上回って いるにとどまり,アメリカと比べても低水準となっている.品目でみると,製品 が9
割前後を占める中で,一次産品,とくに鉱物の伸びが相対的には大きい.機 械の比重は次第に低下し,化学品の伸びが相対的には大きい.熟練・技術水準に よる分類でみると,高位のものの伸びは小さく,中位のものが全体の伸びとほぼ 同じで,低位のものが00
年代半ば以降増加幅を高め,比重を高めている.中位 と高位とを合計すると,その比重はアメリカやEU
を上回っているが,高位単独 ではアメリカの比重を下回っている.以上のように先進国の輸出が世界全体よりも低い伸びであったとすれば,途上 国の輸出の伸びが大きかったことになる.ちなみに移行経済の輸出額は
95
年か ら00
年に1.27
倍に,00
年代に入り08
年までに4.79
倍,10
年に4.00
倍に大き表3 地域別品目別輸出 地 域総 額品 目(%) 年(十億ドル)総 額一次産品製 品 食 料農産原料鉱 物燃 料化学品機 械その他製品 世 界