企画主旨
現在,教育の場において児童・生徒や保護者に対す る相談援助や発達障害児に対する適切な支援などの新 たな福祉的ニーズが生じている.また近年,特別支援 学校および特別支援学級の児童・生徒数が増加傾向に あり,特別支援教育のニーズも高まっている.このよ うな現状にあって,教育に携わる教員にも福祉的な観 点と援助スキルを持って対応することが求められる.
また教員養成現場にあっては,これらに十分対応でき る力を備えた教育が求められているといえよう.
一方,福祉専門職養成における教育のあり方につい ても検討すべき点が多い.社会福祉士や精神保健福祉 士,介護福祉士等の福祉専門職の養成を行っている福 祉系高校や福祉系学部・学科を擁する大学等の教育現 場においても,福祉専門職へ就くことを希望する学生・
生徒に対して社会福祉の価値・知識・技術をより効果 的に教育し育成するという観点が重要である.
本シンポジウムは,「教育」と「福祉」という従来別 個に論じられてきた学問領域を統合し,「教育福祉」と いう新たな地平を築き,相互の認識と諸問題を共有し つつ今後の研究・教育活動へとつなげることを終局的 な目的とするテーマ設定とした.
今回はその嚆矢として,教育現場に現れる福祉との 連携の必要とされる実情を共有しながら,教育現場に おいて福祉的ニーズをもつ子どもへの支援のあり方と,
福祉的視座をもつ教員養成の両面からこのテーマを論 じることを試みるものである.
なお,立正大学社会福祉学部では平成23年度より人 間福祉学科に小学校教員養成課程を設置し,従来の幼 児教育のみならず初等教育教員養成にも道を開いた.
そして翌平成24年度より学科名称を子ども教育福祉学 科に変更し,より教育に軸を置く学科へと進展してき た.また社会福祉学科に開設している特別支援学校教 員養成課程についても順調に推移し,多数の卒業生が 特別支援学校教員として教育現場で活躍している.
このように,福祉・保育を専門とする学部の中に教 育を柱とする学科および課程を擁し,教育のみならず 福祉・保育の専門性をあわせもち,教育現場へと卒業 生を輩出することができるのは,特筆すべき本学部の 特徴であるといえる.
本シンポジウムを契機に,こうした本学部の特徴で ある教育を柱に据え,今後あるべき教育と福祉の連携 について,本学に期待される課題や役割は何かを考え るきっかけともなれば幸いである.
(企画委員会 濵畑芳和)
基調講演
基調講演は,さいたま教育文化研究所の白鳥勲氏よ り「教育と福祉の連携を考える」とのテーマで,埼玉 県のアスポート教育支援事業の活動に基づいてお話し いただいた.白鳥氏は,かつて埼玉県立高等学校で教 立正社会福祉研究 第14巻2号(2013)63~66
立正大学社会福祉学会第14回大会シンポジウム報告
教育と福祉の連携を考える
基調講演
白鳥 勲(さいたま教育文化研究所)
シンポジウム 討論参加者
岡 多枝子(日本福祉大学社会福祉学部)「福祉系高校をめぐる教育的視座」
堺 正一(立正大学社会福祉学部) 「教育におけるノーマライゼーションと就学支援」
齋藤 昇(立正大学社会福祉学部) 「初等教育における教育と福祉」
コーディネーター
濵畑 芳和(立正大学社会福祉学部)
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員をされており,その経験を活かして,現在はアスポー ト教育支援事業で活躍されている.以下,講演内容の 概要を紹介する.
アスポート教育支援事業は,「貧困の連鎖を断ち切 る」ことを目的に,2010年9月から始まった埼玉県の 独自事業である.中学生のいる生活保護受給世帯を対 象として,家庭訪問と対象中学生に対する無料学習教 室の提供という2つの活動を柱に据えている.2012年 度は,埼玉県内で約2,300人の中学生やその保護者を対 象に活動を展開し,県内17ヶ所の学習教室に約600人の 中学生が通っている.
生活保護受給世帯の高校進学率は一般と比べ10%程 低く,また,貧困が三世代にわたっている家庭もある 等,「連鎖している」という実感がある.以前高校に勤 めていたとき,夜に父親の母親に対する暴力(ドメス ティックバイオレンス)を見てから,朝,高校へ登校 してくる子どもたちがいる実態に触れ,そうした子ど もたちへのフォローがきわめて重要であると感じた.
教室に通ってくる生徒たちに感想文を書いてもらう と,学校の内外での混乱を読み取ることができる.学 校内においては,授業内容について分からないことが あっても,分からないと言えない状況があることが分 かった.そのため,学習教室では,生徒たちが鉛筆を 止めればこちらから聞く姿勢を大事にしている.ふじ み野市のケースでは,2分の1と3分の1を足した分 数の計算を初めて理解した生徒がいたとの報告もあっ た.対象となる生徒たちの学習教室内での学習意欲は 非常に高く,休憩もあまりとろうとしないほどである.
教師時代の後半は,ほとんど「教育困難校」といわ れる学校で教えていた.2000年以前は,そうした学校 に入学してくる高校生の中には,小学校6年生程度の 学力の者がいたが,最近はそれが小学校3~4年生程 度にまで学力が落ちてきたと感じている.加えて,2000 年以降,貧困層の親の生活も変わり,親自体が失業中 というケースが増えてきている.
現代の教育システムにおいて,有能な生徒は早くか ら優遇されるシステムが学校の中に持ち込まれており,
学力試験の結果が発表されると,結果が悪かった生徒 は早々に諦めてしまう現実がある.また,結果が悪け ればその生徒の責任という自己責任に帰されてしまい,
「生徒の教育を受ける権利が十分に保障されているか」
という考えには及んでいないと感じる.
2011年度のアスポート教育支援事業の成果として,
296人の生徒たちが高等学校に進学できた.定時制や通 信制の高校に進学した生徒が多いが,学習教室で,① 分からない問題があれば質問すること,②大人は信用 してもいいこと,の2つを学ぶことができていれば,
高校卒業まで到達できる生徒が大半である.加えて,
工業高校に進学した者の多くは卒業後に就職をするが,
先輩や周りの人に質問できる者は,就職しても辞めな いケースがほとんどである.
家庭訪問からみえてきた親と子どもの姿についても ふれておかなければならない.親からは子どものこと を相談できる人が身近にいない,子どもからは授業が 分からないとは親に言えず「うるせぇな」しか言えな い,といった現実があることが分かった.また,対象 となった家庭の約70%が母子家庭や親が鬱を患ってい るといった現状があり,親の側に子どもに関心を寄せ る余裕がないのも事実である.しかし,子どもが高校 に進学することで,親だけでなく,中学の先生,高校 の先生といったたくさんの大人も喜ぶことを考えてみ てほしい(「いい生徒を入学させてくれてありがとう」
と言った教師もいた).
特別養護老人ホームの一室を借り学習教室を実施し ているので,多くの高齢者が子どもたちの訪問を喜び,
子どもたちの合格を祈願したお守りを作ってくれたり,
餅つき大会に招待してくれたりした.そうした経験か ら介護の道を志す生徒も出てきた.
いま,学校の教員は数値目標をもって教育に臨むこ とを求められる.テストの点数や遅刻者の数,部活動 の成績といったことが数値化され,それを上げること のできる教員は良い教員とされるのだ.しかしながら,
こうしたシステムの中では,子どもの人格を発達させ る教育は行い難いと考える.遅刻をしかる前に,「なぜ 今日遅刻したのか」と生徒の声に耳を傾ける教師でな ければならないだろう.そうしたとき,生徒が抱える 福祉的課題もリアルに見えてくるのではないだろうか.
シンポジウム
続いて行われたシンポジウムでは,コーディネーター の濵畑芳和氏(本学社会福祉学部)よりシンポジウム の企画趣旨が説明され,「教育と福祉の連携を考える」
とのテーマのもと3名のシンポジストより報告が行わ れた.
岡多枝子氏(日本福祉大学社会福祉学部)からは「福 祉系高校をめぐる教育的視座」というテーマで,①福 教育と福祉の連携を考える
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祉系高校の創設と生徒の進路選択,②福祉系高校の職 業的,教育的レリバンス,③高大接続福祉教育の推進 と成果の3つの視点からお話しいただいた.
①では,福祉社会の基軸となる福祉専門職の質的・
量的担保は喫緊の研究課題であることが提起され,福 祉系高校の卒業者の進路は福祉系就職と福祉系進学を あわせて65.5%であることが報告された.②では,入 学時と卒業時の進路推移が「福祉から福祉」の者は能 動的で反省的な実習を行い,「一般から一般」は能動性 も反省性も低い実習を行っていることが報告され,あ わせて,福祉系進路選択者には職業的レリバンスが,
一般系進路選択者には「人間的成長」「社会的視野の拡 大」等の教育的レリバンスが見出される反面,「現場不 適応」等の「レリバンスの未達成」も認められること が報告された.③では,日本福祉大学において高大接 続教育を推進する理念の下に「高大接続教育推進室」
を設置し,オンデマンド配信によるデュアルクレジッ トシステムや,高校「福祉」の教育実習に関する共同 研究,福祉教育研究フォーラム,高校生と大学生のつ どい等の高大連携事業を推進していることが報告され た.
堺正一氏(本学社会福祉学部)からは,「教育におけ るノーマライゼーションと就学支援」というテーマの もと,障害のある子どもの就学における保護者の学校 選択を可能とした東松山市の学校制度を中心としてお 話をいただいた.
2000年度以降,特別支援学校で働いている本学卒業 生は140名を超えていることが報告され,学校現場の本 学卒業生の評価としては,「子どもの方をしっかり見て いる」「困っている子どもにきちんと目を向けている
(排除するのではなく)」等々の福祉の視点に立った教 育を実践しているとの評価であることが報告された.
埼玉大学や文教大学,十文字大学,聖学院大学といっ た大学の卒業生は教育的な視座をもつのに対し,本学 の卒業生は教育に関する単位は必要最低限であり,む しろ福祉に関する科目を多く履修していることから,
福祉的な視座をもち,これが本学卒業生の特徴となっ ていると説明された.今後,特別支援学校が地域のセ ンター的な役割を果たしていく中で,医療や保健機関 や保護者とのコーディネートを行うとき,本学卒業生 が福祉をベースに活躍することを期待するとのことで あった.
東松山市の話に戻ると,かつての市長・坂本祐之輔
氏は学校制度について以下の3点のような考えをもち,
平成19年度には就学指導委員会を廃止して,保護者が 就学先を選択できるようにした.
①家の近くに両親や兄弟が通っていた小学校があるの に,心身の障害を理由に,通常の通学区外の遠方の 特別支援学校に就学しなければならないのは,児童 の体力の課題に加えて,社会参加と自立を考える上 からも不合理である.
②社会参加を進める上での各種のバリア,特に心理的 バリア(偏見,差別等)を解消するには,居住する 地域社会で共に学び共に育つという教育の在り方が 重要である.
③通常の学校を就学先として選択した場合は,可能な 限り人事,施設設備,教育内容等について合理的配 慮をすることによって,種々の課題を解決できる.
この東松山市の動向は全国に大きな波紋を投げかけ たが,文科省による特別な指導はなく,単に状況を見 守ることになったのは異例なことであることが説明さ れ,障害者の権利条約批准を目前とし,教育における ノーマライゼーションの理念の実現のために,今後の 国の教育制度改革の動向を注視していく必要があるこ とが提起された.
齋藤昇氏(本学社会福祉学部)からは,「初等教育に おける教育と福祉」とのテーマで,①小学校における 福祉教育の位置づけ,②小学校における福祉教育の実 践例,③小学校における福祉教育の課題の3つの視点 からお話をいただいた.
①小学校における福祉教育の位置づけとしては,平 成20年の小学校学習指導要領の改訂を経て,「総合的な 学習の時間」の目標が「横断的・総合的な学習や探究 的な学習を通して,自ら課題を見付け,自ら学び,自 ら考え,主体的に判断し,よりよく問題を解決する資 質や能力を育成するとともに,学び方やものの考え方 を身に付け,問題の解決や探究活動に主体的,創造的,
協同的に取り組む態度を育て,自己の生き方を考える ことができるようにする」と定められた.そして,「指 導計画の作成と内容の取扱い」の中では「福祉」や「ボ ランティア活動」,「体験活動」といった言葉が使用さ れた.また『特別活動』においては,その内容につい て,勤労生産や奉仕的活動が掲げられ,「道徳」におい ては「指導計画の作成と内容の取扱い」の中で「ボラ ンティア活動」,「体験活動」の言葉が使用されている.
つまりは,「総合的な学習の時間」「特別活動」「道徳」
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「各教科」の授業を通して,福祉教育を実践していくこ とが説明された.
②小学校における福祉教育の実践例では,神奈川県 の小学校の福祉教育の年間指導計画案,静岡県静岡市 教育委員会の福祉教育モデルプログラム,大阪府教育 委員会の事例集,茨城県教育委員会の小学校における 福祉教育のねらいと展開の4つの実践例が紹介された.
③小学校における福祉教育の課題では,校内におい ては,⑴子どもが抱える課題,保護者が抱える課題に 対する支援,⑵教員に対する十分な研修機会の提供(専 門知識の獲得),⑶福祉教育支援を意識した教材研究・
教科指導の実践,校外においては,⑷地域の関係諸団 体,福祉機関,医療機関等との緊密な連携,⑸学校と 地域,当事者や社会的支援等との協働による学習プロ グラムの開発(学校内や教師と児童だけの取り組みに 終始する傾向がある)の5つの課題が提起され,最後 に,教員に対する支援,福祉教育を一般化・普遍化し ていくことが重要であるとそのお考えをお示しになっ た.
以上3名の先生方の報告を受け,フロアからは,介 護福祉士のカリキュラムの改訂で高校福祉科では授業 時間数や科目数が増大し,職業学科としての福祉系高
校から撤退する学校が出てきているがそのことをどの ように考えるか,また特別支援教育を必要とする子ど もたちに対してのこれからの展開としては,学校内の システムを変えるのか,あるいは学外の学びの場を変 えるのかといった質問が出された.
質問の回答を含めたシンポジストの発言として,現 在の国の福祉の人材養成のスタンスはより安くという 方向であることや,福祉科教員の職の枠がとても少な いこと,そして,近年,特別支援学校を含めた学校教 育の中で家庭訪問を実施していない現状があり,家庭 の実情を知らないままでは子どもの教育を行うことは 難しいのではないかとの発言がシンポジストよりなさ れた.
最後に,コーディネーターの濵畑氏からは,全体の まとめとして,社会福祉学部の中で福祉を基盤とした 教員の養成を行っている本学部に寄せられる社会から の期待は,今後より一層高まってくる中で,これかも 引き続いて福祉を学んだより良い教員を一人でも多く 輩出していきたい,との力強いメッセージが発信され,
シンポジウムは終了した.
(構成:長谷川 大)
教育と福祉の連携を考える
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