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電気化学活性細菌におけるエネルギー代謝機構の解明

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Academic year: 2021

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氏 名 ( 本 籍 ) 廣瀬 篤弥 (静岡県) 学 位 の 種 類 博士(生命科学) 学 位 記 番 号 博 甲第120号 学位授与の日付 2020年3月19日 学位授与の要件 学位規則第 4 条第 1 項該当 学 位 論 文 題 目 電気化学活性細菌におけるエネルギー代謝機構の解明 論 文 審 査 委 員 (主査) 渡邉 一哉 教授 野口 航 教授 梅村 知也 教授 玉腰 雅忠 准教授

論文内容の要旨

現在、微生物を用いた有用物質の生産手法として、発酵法が利用されている。発酵とは微生 物が有機物を嫌気的に分解し、エネルギーを獲得する代謝形態のことであり、最終生産物と して乳酸やエタノールなどが得られる。一方、発酵では還元力の供給が有機物の酸化に依存 するため、細胞内の酸化還元バランスのとれる物質しか生産できないこと、出発物質よりも 還元的な物質は主要生産物質にならないことが問題点として挙げられる。

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達することによって呼吸を行い、電気合成菌はカソードから電子を受け取って細胞内代謝に 利用する (Fig. 1)。EAB 細胞内の酸化還元状態は細胞外電子伝達経路を介して電極電位と連 動するため、BES を利用すれば EAB の細胞内酸化還元状態を制御することができる。この制 御技術と発酵法を組み合わせた手法は電気制御発酵法と呼ばれ、従来の発酵法では生産でき ない物質の生産を可能にする手法として期待されている。しかし、本手法によって発酵産物 を適切に制御するためには、BES における EAB のエネルギー代謝機構や電極電位に対する応 答機構を理解する必要があると考えられた。 そこで本研究では、高い電気化学活性を持ち、遺伝子・代謝工学的知見が豊富に存在する Shewanella oneidensis MR-1 株を EAB のモデル菌株として用い、本株の BES におけるエネル ギー代謝機構と遺伝子発現応答機構の解明を目的として以下の 1~5 の研究を行った。 1. 電気化学リアクターにおける MR-1 株の水素利用 BES では、電極によるプロトンの還元反応によって水素が発生する場合がある。水素は多 くの細菌でエネルギー源として利用される物質であり、MR-1 株も水素を利用するための酵素 (hydrogenase) を有している。しかし、BES 内で発生する水素が MR-1 株に与える影響は不明 であった。そこで BES における MR-1 株の水素代謝系を解析した結果、本株は水素を主に Hya ([Fe-Ni] hydrogenase) によって酸化し、生じた電子を内 膜間キノン (ユビキノンとメナキノン) と細胞外電子 伝達経路 (CymA と MtrCAB/OmcA 複合体) を介して高 電位電極 (+0.5 V vs. 標準水素電極) へと伝達すること が明らかになった。この時、キノンの酸化還元サイクル によりプロトン濃度勾配が形成され、F0F1-ATP synthase による ATP 合成が行われる (Fig. 2)。したがって MR-1 株は水素を電子供与体、電極を電子受容体とすることで エネルギーを保存できることが示された。 2. 電極からの電子受容時における細胞増殖の検証 MR-1 株は低電位電極から電子を受容する能 力も有しているが、電気合成菌のように受容し た電子をエネルギー代謝に利用できているか は不明であった。そこで電極を電子供与体とし た場合の MR-1 株の細胞増殖を調べることで、 本株が電極から受け取った電子をエネルギー 代謝に利用できるかどうかを検証した。その結 果、酸素が存在する条件で、MR-1 株は低電位 電極から電子を受け取り増殖できることが明らかになった。低電位電極からの電子は、細胞 外電子伝達経路を介して内膜間キノンに取り込まれ、NADH dehydrogenase による NAD+の還

Fig. 2 水素を電子供与体とした代謝経路.

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元や末端酸化酵素による酸素還元に利用される (Fig. 3)。また、酸素還元の過程でプロトン濃 度勾配が形成され、F0F1-ATP synthase による ATP 合成に利用されることが示唆された。

3. 電極電位変化に対する応答 (研究業績 1、2) 電気制御発酵では様々な電極電位で EAB の培養を行う必要があり、電極電位に対する EAB の応答メカニズムの理解は電気制御発酵の高効率化につながる。そこで MR-1 株の電極電位 に対する応答メカニズムの解明を目指して、本株の電極電位変化に対する応答を調べた。そ の結果、MR-1 株は低電位条件ではギ酸を電子キャリアとした異化代謝経路 (ギ酸依存的経路) を利用するが、高電位条件では NADH を電子キャリアとした異化代謝経路 (NADH 依存的経 路) を活性化させ、ピルビン酸を NADH 依存的に酸化していることが明らかになった (Fig. 4)。NADH 依存的経路が活性化されると、ギ酸依存的経路と比べてより多くのプロトン濃度 勾配が形成されることから菌体収率が増加する。さらに、この代謝変動には内膜間キノンの 酸化還元状態を認識し、異化代謝系遺伝子の発現を制御する Arc system (ArcS/HptA/ArcA) が 関与していることが明らかになった。Arc system は電極と細胞外電子伝達経路を介して電気 化学的につながった内膜間キノンの酸化還元状態を認識し、高電位条件では NADH 依存的な 経路に関与する遺伝子の発現を向上させる。この結果は電極電位の制御によって EAB の代謝 を遺伝子発現レベルで制御できることを示唆しており、本研究ではこの電極による遺伝子発 現制御法を電気遺伝学として提唱 した。電気遺伝学では BES を還元力 の回収・供給装置として利用できる だけでなく、遺伝子発現の制御装置 としても利用できることから、本手 法は電気制御発酵を含む様々な微 生物電気化学プロセスの高効率化 に寄与すると期待される。 4. NADH dehydrogenase 遺伝子の発現制御機構の解明 MR-1 株は低電位電極から受容した電子を NAD+ の還元 (NADH の産生) に利用することができる (Fig. 3)。一方、MR-1 株は 4 つの NADH dehydrogenase (Nuo、Ndh、Nqr1、Nqr2) を持ち、これらの酵素を 環境条件に応じて使い分けていると予想されたが、 BES においてどの NADH dehydrogenase が利用され るのかは不明であった。本酵素の活性は電気制御発 酵の効率に大きな影響を与えると考えられることか ら、本研究では NADH dehydrogenase の発現制御機

Fig. 4 電極電位変化に依存した代謝経路の変動.

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構について解析した。各酵素を一つだけ残した 3 重 NADH dehydrogenase 欠損株を作製し、酸 素、フマル酸、および電極呼吸条件 (+0.5 V および 0 V) で培養した結果、Nuo、Ndh、Nqr2 は高電位の電子受容体存在下、Nuo と Nqr1 は低電位の電子受容体存在下で利用されることが 明らかになった。遺伝子発現を調べると、Nuo および Nqr2 は好気呼吸条件下、Nqr1 は嫌気 呼吸条件下で発現量が増加しており、これらの NADH dehydrogenase の活性は転写レベルで制 御されていることが示された (Fig. 5A)。また、これらの発現は Arc system によって直接的に 制御されていることも明らかになった (Fig. 5B)。一方、Ndh は培養条件によって遺伝子発現 は変化せず、恒常的に発現していると考えられたが、本酵素は好気呼吸時にのみ利用され、 嫌気呼吸時 (フマル酸および高電位電極呼吸時) には利用されていなかった。そのため、Ndh は酸素の有無によって酵素活性が制御されていると考えられた。これらの結果から、酸素の 有無や電極電位のような環境因子が NADH dehydrogenase の発現量や酵素活性に影響を与え ることが明らかになった。本知見は電気制御発酵における NADH dehydrogenase の活性化に寄 与すると期待される。 5. 電気遺伝学の創生 (研究業績 2) 第 3 項の結果から、電極電位の制御によって EAB の代謝を遺伝子発現レベルで制御する手 法 (電気遺伝学) を創出できる可能性が示唆された。しかし、適切な制御を行うには、電位誘 導に関与するプロモーター領域を同定する必要がある。そこで本研究では電気遺伝学の創生 に向け、電位誘導性プロモーターの同定と最適化を行った。その結果、高電位誘導性プロモ ーターとして PfeoA、低電位誘導性プロモーターとして Pnqr1を同定した。また、Pnqr1の電位応 答性を向上させることを目的に、プロモーター周辺の転写調節領域を解析した。その結果、 Arc system 以外に、酸素センサーとして機能する EtrA が Pnqr1の活性に関与していることが明

らかになった。そこで EtrA を欠損させた結果、誘導 性を残しながら基底レベルのプロモーター活性を低 下させることに成功した。本研究で同定・最適化さ れたプロモーターを用いることで、電極電位の制御 によって任意の代謝経路を活性化させることが可能 になる (Fig. 6)。本手法を電気制御発酵に応用すれば、 電極からの電子供給と同時に物質変換経路を活性化 させることができるため、物質変換の高効率化 につながると期待される。 【学位申請に用いる研究業績】

1. Electrochemically active bacteria sense electrode potentials for regulating catabolic pathways. Atsumi Hirose, Takuya Kasai, Motohide Aoki, Tomonari Umemura, Kazuya Watanabe, Atsushi Kouzuma, Nature Communications, 9, 1083 (2018). (IF = 11.9)

2. Towards development of electrogenetics using electrochemically active bacteria. Atsumi Hirose, Atsushi Kouzuma, Kazuya Watanabe, Biotechnology Advances, 37, 107351 (2019). (IF = 12.8)

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審査結果の要旨

(6)

導を精力的に行い、研究者・教育者としての資質が高いと判断された。

Fig. 2  水素を電子供与体とした代謝経路.
Fig. 4  電極電位変化に依存した代謝経路の変動.
Fig. 6  電位制御によるプロモーター活性制御

参照

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