内田滋
Abstract
In this article, we examine some governance issues with respect to some financial aspects in- cluding i) corporate financial relationships, ii) formation of capital, and iii) trends of personal finance, amid financial deregulation and globalization in Japanese economy, after revisiting some certain excellent literature both in studies of economics and business administration. And as some inference, we have touched upon the feasible direction to cope with the possible prediction of ex- panding inequality of income, concerning contents of public policies for structural changes as well as industrial and corporate reforms and restructuring. The concluding part has therefore paid cer- tain attention towards the management of organization and organizational culture, suggesting that the possible usefulness of funds for betterment of environment & ecology, and so forth.
Keywords: Corporate governance, corporate finance, management of organization
1 はじめに
企業経済に関する研究領域においては,従 来からさまざまな視点に基づく多くの研究成 果が蓄積されてきた。企業統治と訳される
コーポレート・ガバナンスについても,古く て新しい論点を持つところのトピックスの一 つである。それは,近年,規制緩和特に金融
自由化の進展や平成不況の長期化に伴う経済 構造変化との関連で,経営学や企業経済学に おいて「ガバナンス」について広く議論され るようになってきたことからもうかがうこと ができる。この言葉自体は,コーポレート・
ガバナンスが「企業統治」と訳されているよ うに「治める・統治する・支配する」「決定 的な影響を与える」「管理する」という意味
の動詞ガバーン(govern)と関係しており,
名詞の一つであるガバメント(government)
はその主体等を表して「政府・統治機関」
「政治・行政」などの意味を持っている。そ れとの関わりにおいて,「自由」,「公正」,
「規律」,「責任」等の用語が,経済・経営分 野において従来から重要視されてきた「効率」
に加えて,それと勝るとも劣らず意を払うべ きものとして登場することになる。
その「効率」についても, 経済の効率 が 市場効率 と 組織効率 の双方から構 成されると考えられるため, 組織 をめぐ って必ずしも「効率」の視点だけでなく諸種 の面から多くの研究がサイモンやアロー,
バーナード,ウイリアムソソなどをはじめと する経済学・経営学等の研究者によって取り 組まれてきた。最近では,さらに組織管理面
における研究のみならず,マクロ経済を考え
る際に重要な要因となりうる個人・家計部門
の意思決定や行動様式について,ミクロ経済
学的基礎付けの部分的展開としてその主体行
動面に心理的要因に基づくところをも併せ組
み込んで分析するアプローチ等も考えられて いる。
ただ, I 自由」については,既に経済体制 論をはじめとして資本主義経済や市場原理等 の議論においても一般化しており,今日でも 金融自由化や WTO C 世界貿易機関)での貿 易自由化交渉等々日常的に用いられる概念と なっている。いうまでもなく概念内容の定義 と関わることであるが, I 自由」が直ちに全 ての領域での完全な無規制ないし無法状態を 意味するものではない。また, I 規律」と自 主規制などにおける「規制」の区別について らそれらの定義者により概念規定がいくば くか異なることが考えられる。
「公正」については,従来の独禁法におい て見られるものから,日本版ビッグバンにお ける 3 原則「フリー J , I フェア J , I グローパ ル」として標拐されているように,フェアネ ス C f a i r n e s s :公正・公平)もまた,経済・
経営両分野で重用されるべき語実となってき た 。
これら「自由 J I 公正」といった概念は,
ガバナンスを考える場合に不可欠とされるも のの一つである「民主主義」という概念を構 成する重要な要素としての役割を持ってい る。この言葉は,かつてわが国で証券民主化 として用いられたように,政治分野のみに固 有のものではなく,政府‑企業・家計の各部 門やその活動体系においても用いられるもの である。
さらに,とりわけ経営分野では,多民族国 家である米国におけるように深刻なマイノリ ティないし人種問題は殆ど見られないもの の,近年わが国においても改正男女雇用均等 法の施行への対応をはじめとした「人権」問 題に対する一層の配慮が見られるようになっ てきた。
同様に,経営・経済面でわが国においては,
「責任」についても例えば 9 0 年代後半ないし 末期の金融等の不祥事をめぐって経営者及び 行政担当者に関して提起されたりしたことが 目新しいが,他方で,ディスクロージャー (情報開示)の拡大と自己責任原則の徹底と いうようなケースで個人ないし家計部門につ いても求められるようになってきた。したが って,かつて提示された職能‑権限ー責任と いう考え方から進んで,より広範に多様なフ ェイズでの「責任」概念を考慮する必要があ る。さらに,この言葉は,例えば企業の社会 的責任や企業倫理というような場合にも,主 体行動のあり方に関する実践性と規範性を備 えた属性を持つものといえる。その意味では,
「倫理」という用語も関係する概念となって くる。これについても,上で見たのと同様に 各経済・経営主体に対して考慮することがで きるであろう。
ガバナンスについて,本稿では主として民 間企業部門における内部組織とそれを実質的 に担う人的要素としての人材ないし人的資源 との関連に焦点を当てて考察する。しかし,
そこでも当然、のことながら,金融的諸要因な かんずく企業金融面での変化が少なからず反 映してくることは否めないところである。
周知のように,アメリカでは, 6 0 年代後半
からディスインターメディエーションが生
じ , 7 0年代に金融自由化が進展して, 8 0年代
ではそれがさらに拡大した。イギリスにおい
ても, 8 0年代のプライバタイゼーションの動
きが,企業に関する「所有(権) J と「経営
( 権) J をはじめとした資本主義への回帰や
民営化問題の考察ほかの議論を起こすと共
に,実体経済面を中心に経済活性化をもたら
した。さらに, 8 6 年の証券業分野を中心とす
る大幅な公的規制の撤廃いわゆるビッグバン
によりロンドン金融市場は国際的に一層強化
され,マーチャント・バンク等への影響とは
逆に英国の国益に対して相応の貢献を認める 評価がなされている。
一方,最近における情報通信技術(I T) 分野におけるイノベーションと多方面へのそ の応用には著しいものが見られ,産業経済か ら日常生活に至るまでのさまざまな経営・経 済活動に影響を及ぼしつつあることから IT 革命とさえ呼ばれる動きとなっている。ただ,
残念ながらわが国においては,不良債権問題 や平成不況などのため 9 0 年代の長期にわたる 経済的停滞状況から,米英等の主要先進国に 比べて特に金融部門における IT 化に遅れを とった感が否めない。景気の回復基調が,継 続的なものとなり,消費需要に裏打ちされた 自律的なものとして推移していけば, IT 化 も一層本格化していくことが見込まれる。
このような自由化やグローパル化, IT 化 等の動向は,わが国の産業・経済における構 造変化をもたらしているだけでなく,経済主 体とりわけ企業における経営戦略や組織構造 の在り方にも再検討を促している。それは,
例えば従来における内需向けの地場産業であ っても,一部のサービス部門を除けば,もは や国際競争の域外で市場活動を維持できる余 地は極めて小さく困難になってきたことから も推察できる。このような状況をより具体的 に取り上げるためのファースト・ステップと して,本稿ではそれらの中から,特に企業に おける新たな視点を織り込んでガバナンス問 題を中心に若干の考察を行うことにする。
2 ガバナンスと企業経済的視点
ガバナンスというものは,従来から社会科 学におけるさまざまな分野で取扱われてきた ところの今日的な主題であり,その対象は,
必ずしも企業のみならず中央政府・地方自治 体といった政府部門を含めてさまざまなもの
が考えられる。
経済学ひいては社会科学における古典とも 言うべきスミスの『国富論Jl ( 1 7 7 6 ) 以降,
経済学とりわけ主流ともいうべき古典派経済 学 に お い て は , リ カ ー ド ( 1 817) やミル ( 1 8 4 8 ) 等から,限界革命を支えたメンガー ( 1 8 7 1)や一般均衡理論を開拓したワルラス ( 1 8 7 4 ) ,さらには英国正統派経済学の中心 的地位を占めていたケンブリッジ学派の始祖 ともいうべきマーシャル(1 8 9 0 ) をはじめと して,主たるその研究対象には国家ないし国 民経済といった比較的にマクロ・レベルの視 点によるものから,生産・消費等をめぐり市 場取引と価格等に関するミクロ面にも及ぶよ うになった。また,従前の重農主義や重商主 義とその批判的検討を経て自由主義的な国際 貿易に関する理論展開をはじめ,必要に応じ て産業経済や企業経営,さらには部分的に家 計部門経済ないし生活経営等に及ぶところま でも振り返って参考にすることができる。そ して,そのなかでも,価値論・蓄積論・分配 論等が生産・供給から需要・所得等を中心に 展開されていた。
ガバナンスについては,生産要素としての 労働・土地・資本等からなる諸関係をはじ め,国家や地域社会(準国家ないし属領地域 を含む)における統治関係,事業体ないし企 業に関する資本の所有関係や事業経営との関 与関係までのものを,いわば統治運営ないし (地域あるいは組織)経営における総体的な 枠組みの設定ないし前提に基づくものとして の捉え方であったと見なされる。
そして,この傾向は,資本についても鋭意
取り組んだロビンソン(1 9 3 3 , 1 9 5 6 ) などの
流れにおいて,また,後のケインズ(1 9 3 6 )
等によるケインズ革命によるものや,厚生経
済学のピグー(1 9 2 4 ) ,価値と資本について
考察したヒックス(1 9 3 9 ) ほか多くの研究者
を擁し現代に至る主流派として一般均衡論等 の更なる展開を果たしてきた新古典派におい ても,さらには学界での影響力を高めつつあ るバロー(1 9 7 4 , 1976a , b ) ,やルーカス ( 1 9 7 2 , 1 9 8 7 ) ,サージェント(1 9 7 5 , 1 9 8 7 ) 等による合理的期待形成学派ないし新 L い古 典派経済学 (NewC l a s s i c a l E c o n o m i c s ) の 流れにおいても,一層増幅されてきたように 思われる。
ただ,期待形成主体である個人(ないし法 人)の意思決定や行動様式については,例え ば法制面や心理的要因等を併せて考慮し分析 していくならば,より的確に実相を捉えうる ガバナンス研究へとつながることが期待でき る 。
また,マルクス(1 8 6 7‑9 4 ) をはじめどす るマルクス経済学においては,逆にその総体 としての資本と分配関係に労働価値説を用い て社会経済事象を考えたものとして,ある意 味では階級聞におけるガバナンス関係に及ん で考察しているとも考えられようが,金融資 本ないし無機能資本に関するところにおいて も,われわれのいうところのガバナンスその ものを目的として直接取扱ったものとは異な るといえよう。ただ,資本回転論に関する論 点等からのガ、パナンスへの接近をなしとする
ものではない。
一方,シュムベーター(1 9 1 2 , 1 9 3 9 ) がド イツから移ったアメリカにおいては,限界革 命の流れを受けたクラーク, ] . B . ( 1 8 8 5 ) の もとからアメリカ制度派経済学の祖といわれ 顕示性に基づく消費ならびに企業(株式会社) 経済の分析他で知られるヴェブレン(1 8 9 9 , 1 9 0 4 ) が出た。それ以降,現代のガルプレイ ス(1 9 7 7 ) 等にいたるまで,資本主義経済の 主たる担い手である民間企業部門の活動状 況,特に経済発展に伴い生じた米国産業の独 占的市場構造やインフレーション又は失業と
いった景気循環問題,格差の大きい所得分布 などについて研究がなされてきた。これは,
今日の新しい進化経済学派にも大きな影響を 及ぼしているが,ガバナンス問題については,
むしろシュムベーター(1 9 4 2 ) の方が,その 資本主義経済自体の展望はともかくとして,
名実ともに示唆に富んだ内容を含んでいると いってよい。
また,アロー(1 9 5 , 1 1 9 7 4 ) や組織と意思 決定の研究でノーベル経済学賞(1 9 7 8 年)を 受けたサイモン(1 9 4 5 , 1 9 5 7 ) のほか,内部 組織論のウィリアムソン(1 9 6 7 , 1 9 7 5 ) たち による 組織の経済分析'や,近時進展を見 せてきたアオキ(1 9 8 8 ) や青木・奥野(1 9 9 6 ) をはじめとする 比較制度分析'なども,
市場と組織の経済分析'や 制度と政策の 国際比較'等に関して応用ミクロ経済学から 企業経済論をベースにした多角的な理論及び 実証的研究に拡張しうるものとして,ガバナ ンス研究にとってもその問題の範囲と枠組み 規定に関する意味を含めて重要視されうる情 報を与えている。
一般的には,企業に関するさらに直接的な
研究が多い伝統的な応用ミクロ経済学とりわ
け産業組織論における企業経済分析でも,企
業組織を企業間関係やそこでの取引様式等に
拡張したり,それらとの関連からの視点での
研究も行われてきた。かつてのペンローズ
( 1 9 5 9 ) やクラーク, ].M. ( 1 9 6 1)等におけ
る諸研究での一般的な企業成長をはじめとし
て,多角化ないし多様化や市場構造との関係
に加え,近年では例えばオダギリ(1 9 8 1)な
どにおいて見られるように,さらに市場競争
の視点をも対置させ分析する傾向にあり,こ
れは,企業戦略論につながりうるものといっ
てよい。ただ,ガバナンスについては,基本
的には上の流れの延長にあるものから大きく
異なっているというものではなく,むしろ今
後の開拓や発展が期待されるところのものと して考えられる。
商法など会社法や企業関連法といった法律 面では,企業行動とその意思決定に関するス テークホルダー間関係のあり方や枠組みを法 制的に規定する意味でも,さらには不完備契 約理論との関連における意味でも重要性を持 つものである。コーポレート・ガバナンス問 題に密接な関係のある企業金融分野に関して は,従来からの伝統的な財務論や応用ミクロ 経済学のこの分野への進出は,株式の相互持 合い制での株主とその報酬をめぐる,いわば 組織型ガパナンス論ともいうべきものなどの 展開をみた。さらに,応用ミクロ経済学から のアプローチに基づく株主行動等をめぐるユ ナニミティー理論やインセンティヴ・コンパ ティビリティーなどの研究が展開されてきて いるほか,ゲーム理論に基づく主体間行動の 経済分析との関連でも研究が行なわれてい る。また,多国籍企業の資本関係と組織管理 や,企業集団ないし企業系列に関する領域も 関心を集めているほか,近年のわが国におけ る企業株式の相互持合いの解消問題なども外 部資金の導入をめぐるガバナンス問題と並ん でガバナンスや構造変化に対する企業の経営 戦略の在り方を考える上で重要な論点であ る 1 ) 。
なお,応用心理学については,以下に見る ような経営学分野において果たしてきた役割 ほどではないが,経済学的分野においても例 えば消費経済や労働経済等の領域では十分認 められることであり,周知の合理的期待形成 学派の理論においても今後の成果が期待され ている。すなわち,いわゆる行動経済学
2)に おいては,マクロ経済水準に大きな影響を及 ぼす個人・家計部門における現在の消費行動 や貯蓄行動(貯蓄は将来の消費といってよい) さらには勤労収入と可変的労働時間に基づく
裁量的労働供給などは,情報化の進展と相侯 ったその主体的意思決定に規定されるととも に,いくばくか依存ないし影響を受け得るで あろう心理的諸要因から独立ではあり得ない からである,というものである。したがって,
そこでは,心理的側面の分析対象や与件とし てのさまざまな制度や政策体系のあり方と方 向性などが,関連する要因として考慮すべき 対象領域に含まれてくる。それは,また,実 験経済学領域とも関わりうるところを提供す
ることが予想される。
以上のように,企業経済に関する公的概念 の強い国民経済の潮流に対して,私的経済面 に関する考え方についても,例えばドイツ経 営学の源流などにおける私経済学等において 見ることができる。さらに,アメリカでも,
やがてバーリ=ミーンズ(1 9 3 2 ) がビッグ・
ビジネス 2 0 0 社に基づく調査分析を行い「所 有と経営」の分離に関する研究を発表して,
3 0 年代において早くもそれまでの通念的な企 業観の一部分として存在していた所有経営者 の企業経営イメージを改め,多方面から関心 を集めたのは周知のとおりであり,ガパナン ス研究においても代表的なマイル・ストーン のーっとみなすことができるものである。
また,民間部門にあっては,広く従来から も株式会社形態による企業とその活動が,産 業経済のみならず国民経済にわたって生産・
流通・消費に関与してきたこと,さらに,近 年盛んになってきたNPO(非営利活動組織・
団体)や NGO (非政府組織・団体)とそれ
らの活動や成果に対しでも,企業部門が蓄積
保有してきたところの効率性や組織管理等に
関するさまざまな技術やノウハウの活用等の
面で多大な影響を及ぼしていることなどがあ
げられる。その意味でも,本稿では,その対
象として株式会社に代表される民間企業の
ケースを参考にしながら検討していくことに
する
3)。
3 ガバナンスと企業経営的視点
ガバナンスを企業行動や経営組織などとの 関連において考える場合,従来からの経営学 説史的知見に基づいて整理・考察することが 有用である。現代における企業等の経営に関 する研究の源泉については,従来から大別し ていわゆるドイツ経営経済学とアメリカ経営 管理論等に区分され取扱われてきたといって よい。したがって,ガバナンスについても明 示的であると否とに関わらず,それぞれの立 場や視点において企業の理念,形態,内部組 織構造,経営戦略,行動様式等におけるさま ざまな幅広い研究の中で,例えば「所有形態 と経営権」や「管理領域と権限・責任 J , I 権 力と支配の構造」等々のテーマに関連しなが
ら考察されてきたものと考えられる。
周知のように, ドイツ経営学ともいうべき ものは 1 9 世紀末から設置されたドイツ国内各 地の商科大学での主要科目として発展してき た。当時,そこでは,経済学である国民経済 学に対する意味での経営学すなわち私経済学 としての位置付けがなされており,その学問 的立場には,理論的学派・技術論的学派・規 範論的学派などがあった
4)。なかでも,ニッ クリッシュは,国民経済学から独立し且つ並 存しうる学問的体系としての経営経済学(経 営学)の樹立に努め,その中心的役割を果た した代表的研究者の一人として評価されてい る
5)。
ドイツ経営学においては,所有ないし出資 と経営の分離についても,例えば資本家・企 業者・労働者等の範鴎を用いたりして取扱わ れていたが,ニックリッシュは資本と資産の 相互関係において後者をして資産聞の動態的 作用等から企業自らの活動の継続性との関係
で把握した
6)。
これらのことからも推察されるように,企 業を構成する出資者・企業者(経営者)・労 働者等の人的側面については一般に抽象度の 高い捉え方であったとみなすことができる。
したがって,ガバナンスについても,これに 準じて比較的に抽象性の高いものとして考え られるにとどまるといってよいが,例えば資 産聞の動態的作用を経時的増分等の累積運動 として捉え経営関係主体間におけるガバナン ス関係を見ることなどからの展開を試みるな らば興味深いものがあろう。
戦後においては,例えば理論学派のグーテ ンベルグ(1 951‑69 )のような経営参加権を 含む企業管理の意思決定論などでは,その展 開方向として直接的にガパナンスを取扱うと いう領域的拡張の可能性には十分大きなもの があると考えられる。
また,ディーン(1 9 5 1)は,アメリカの経 営経済学において利潤極大化論を含むマネジ リアル・エコノミクスを体系づけ,経済学か らの経営分野へのアプローチを行った。それ については,今日までとりわけ応用ミクロ経 済学者によりファイナンスを含む経営諸領域 のトピックスへの接近と研究成果が続いてい る。ガバナンスについて,ディーンは殆ど直 接に取扱ってはいないが,利潤と顧客関係を めぐる論点は後の経営成果の議論につながり 得ることを示唆するものとして読み取れる。
アメリカにおける企業経営に関する研究で
は,企業管理への応用性ないし有効性が大き
く評価されてきた傾向にあり, ドイツの場合
に比べて経営学そのものにも実践的ないし実
務的志向性といった特質を認めることができ
る。これには,英国やヨーロッパ大陸諸国か
らの多くの移住者ないし世界各地からの移民
等によって築かれた米国建国の歴史や多民族
国家等の特性にも少なからず依存していると
考えられる。そこには,地域社会から連邦国 家,ならびに企業から産業に至るさまざまな 組織や制度の在り方と運営・管理面で,欧州 とは異なる新たな独自の工夫や開拓が精神的 にも希求され且つ受け入れられる素地があっ たためと考えることができる。
そこでの企業経営に関する研究ないし学問 的成果としては,よく知られたテイラーの科 学的管理法を以ってその塙矢とされる
7)。彼 は,作業時聞を調べた上で課業標準化等に基 づいて合理的な経営管理の道を開いたと評価 されているが,後年において,それがために 人間を機械視したものであるという批判に直 面することになった。とはいうものの,それ は,米国産業史に残る有名なT型フォードの 移動組み立て生産工程等とも並んで,国際的 に展開されていく(少種)大量生産方式への マイル・ストーンとなったことは認められて よいものである。その後,アメリカ経済は,
大量消費さらには国民所得の三面等価の長期 的増大プロセスとも関連しながらロストウ ( 1 9 6 0 ) のいう 高度大衆消費社会'や,ガ ルプレイス(1 9 6 0 ) もいう 豊かな社会'へ の道を辿っていき,例えば大衆による株式投 資の時代,さらには学校にパーソナル・ファ イナンス教育が導入される時代へと移行して いったのである。
その意味では,社会における組織及び企業 のガバナンスに関する知識や考え方といった ものを,学校システムにおいて児童から青少 年,さらには大人までをも対象にして教育す ることは,職業教育のみならず教養教育面に おいても十分に意義あることと思われる。
一方,政治哲学から経営哲学やゲシュタル ト 心 理 学 に 理 解 を 示 し て い た フ ォ レ ッ ト
( 1 9 2 4 ) は,集団的対立等に対して権限ない し権力の統合性や共同性に基づく人事ないし 組織の管理の重要性を説いている。それは,
本稿において後述されるコンビテンシー・マ ネジメントとの関わりについても有用な示唆 を与えうるものである
8)。
欧州においても,フランスでは, M B A (経営学修士)の言葉にあるビジネス‑アド ミニストレーションのように,他の多くが用 いたやや広い概念でのマネジメント ( m a n a g e ‑ ment) という用語よりはむしろ限定的なア
ドミニストレーション ( a d m i n i s t r a t i o n ) と いうべきものとして,ファヨール(1 9 1 6 ) が 行政的経営(ガバーン ( g o v e r n ) )における 業務管理論ないし管理過程論の重要性を唱え て関心を集めたりした。
もとより,テイラーの場合などは,現在主 比較すればある意味では現代資本主義経済の プリミティヴな発展段階においてであること から,企業ガ"バナンスについても所有経営者 による企業経営方式 (ownershipmanage‑
ment s t y l e ) として同様視され,伝統性を持 ったところの比較的に単純化されたものであ ったという批判も考えられるが,フォレット のように,必ずしも明示的ではないがガパナ ンス研究に参考となりうる視点を含むものも 見出されたのである。
先のような企業経営における経済的効率性 ないし合理性に対して,フォレットのように 企業組織や経営に携わり参加ないし従事する 立場の人的側面について焦点を当てて研究す ることも,例えば後にいわゆる人間関係論 (Human R e l a t i o n s S t u d i e s ) 及び行動科学 ( B e h a v i o r S c i e n c e ) の流れを形成する研究 者達などによって始められていた。そこには,
前者では AT&T系列のウエスタン・エレク トリック社ホーソン工場の研究で知られたメ イヨ(1 9 3 3 ) や,後者ではパーソナリティと 組織行動の研究を行ったアージリス(1 9 5 7 ) などがいた。
ほかにも,かつての定説におけるものより
む し ろ 後 者 に 近 い と 思 わ れ る マ グ レ ガ ー ( 1 9 6 0 ) は外的管理による X 理論に対して自 己管理等に基づく Y理論を唱え,それを支持 しさらに動機付けないし衛生理論として展開 したハーズパーグ、(1 9 6 6 ) ,グループ・ダイ ナミクス(集団力学)研究で参画型のシステ ム 4 理論のリッカート(1 9 6 1 , 1 9 6 7 ) ,さらに 合意形成に基づく Z 理論のオオウチ(1 9 8 1 ) 等があげられる。
彼らは,職場や組織における人間関係を観 察・分析したり,社会心理学ないし産業心理 学や集団力学等からのアプローチによる分析 を行うことで,いわゆる人間関係論や組織行 動科学の研究を産業経済における労働・雇用 条件から企業福祉面での制度的整備に至る諸 種の改革・改善に活用・寄与するところに導 く素地を与えたといってよい。なお,そこで は , よく知られたマスゃロー(1 9 4 3 , 1 9 5 4 ) の 社会的欲求段階説などが与えた影響も少なく なかったといえよう。
動機付けやリーダーシップ,自己実現欲求,
社会的役割等の諸視点からも,それらは,ガ バナンスの役割担当が要求する経営管理のレ ベルとコンビテンスを考える場合の重要な素 材的論点を与えうるものである。同時に,こ れらに関わる今日的なケースに捉えなおして 考えることの可能性をも内包していると思わ れることから,これらのラインでの今後に おける研究の発展が期待されるところであ る 。
また,欧米ではさらに,企業組織自体の管 理などに関する研究も進展を見せ,そこでの さまざまな経営業務を担当するスタッフや管 理者ないし経営者についても,造詣深く著名 なバーナード(1 9 3 8 ) や上述した企業組織の 経済分析のサイモンなどによって優れた研究 が展開された。バーナード組織論は,著書名 どおり経営者の組織における役割の重要性を
説き,いわゆるバーナード革命とも呼ばれた りしたものである。他方,今世紀初頭 ( 2 0 0 1 年 2 月 9 日)に逝去したサイモンは,バウンデ
イッド・ラショナリティ ( b o u n d e dr a t i o n a l i ‑
ty: 限定的合理性)理論や組織行動など一連 の組織に関する経営経済分析によって企業研 究に優れた足跡を残した。
これらにおいては,企業のガバナンス問題 が基本的には株主ないし所有サイドにおける ものであって,経営管理者ないし専門経営者 のコミットメント部分やその中での管理分担 領域等に伴う権限関係などについては,企業 の在り方における意思決定では優先性に劣る 属性を備えたものとしてある程度インプリシ ットに捉えられていたと考えられる。しかし ながら,組織管理とその関係主体及び主体間 関係に関する優れた分析や考察は,当該問題 研究にとって極めて重要な示唆を与えうるも のである。
さらに,企業行動と組織のあり方等につい ては,マーチ=サイモン(1 9 5 8 ) やサイアー ト=マーチ(1 9 6 3 ) などカーネギー学派を含 めて多くが論じており,特に前者の集権化と 分権化や,後者の経営者の効用極大化説を含 む企業目標等に関するところは,経営経済学 の面でも興味深く,ガパナンス問題に対して 示唆するところが少なくない。
企業の社会的活動や外部環境との関わりが クローズ・アップされてきたのは,第 2 次大 戦後の経済発展に伴ない生じてきた公害問題 や消費者運動のほか,アメリカ国内における ベトナムに関する政治的社会的諸問題ともい くばくか関連する形での反体制(アンティ・
エスタブリッシメント)思潮とも相侠ったも
のである。それと前後する頃,いうまでもな
く学界の内外を問わず企業の社会的責任に関
する議論が高まりを見せて来た。ガルプレイ
スの 創造的破壊'やドラッカーの 断絶の
時代'等の言葉がさまざまに引用されたりし たが,産業技術面での「イノベーション(革 新 ) J が言葉の普及以上にやがて広く企業経 営面にも応用されるようになってきたのは周 知のとおりである
9)。
これに関しては,わが国においても高田 ( 1 9 7 0 , 1 9 7 4 ) をはじめとして多くの考察が,
企業の存在'ないし 経営の目的および成 果とその評価'等について行われた。特に,
社会的責任論においては,当時,経営者や実 務家をも巻き込んで種々議論されたが,実質 的なガパナンス主体に関する論点について は,関心を呼んだわりにはやや総体的な主体 論をめぐる議論のウエイトが大きかったとい
う印象が残る。
さらに経営学においては,市場における企 業の在り方や戦略についても企業の外部環境 全体との関連からの適応行動等を捉えて考え ていくという,いわゆるコンティンジェン シ一理論が構築された。これについては,ロー レンス=ローシュ(1 9 6 7 , 1 9 6 9 ) による市場 環境等と組織化レベルに関する研究があった が,技術水準と組織構造・組織設計の分析で はウッドワード(1 9 6 5 ) がおり,それ以降も 企業外部環境に対する経営の適応行動につい て研究が続けられてきた。
そこでのガバナンス問題については,経営 成果の形成と分配に関わる重要な変数のーっ としてのガバナンスの在り方が,企業ないし 経営における組織(風土)的条件が経時的に 環境対応型で最適性を保持しうるものという 制約に合致するようなものとして要求されて いたといってよい。その限りにおいては,そ の形態や内容などについて企業によっていく ばくか多様であり,ある意味ではそれぞれ固 有のガバナンス様式とその内容が許容されて いたとも考えられる。
周知のように,経済社会における効率問題
については,市場効率と組織効率が相侯って 達成されるところのものであり,市場におけ る競争状態とその水準やこれに密接に関係す るところの市場ないし産業の組織的な在り方 や態様は,このような市場での企業間競争に 大きく作用するものとなる。チャンドラー ( 1 9 6 2 ) によるまでもなく,そこでは,企業 の競争戦略のあり方やそれに基づいてデザイ ニングされるところの企業における内部組織 構 造 の 在 り 方 が 如 何 な る も の で あ る か が キー・コンセプトとして関われることにな る 。
とりわけ,ボーモル他(1 9 8 2 ) が理論的根 拠を提示した事業多角化の効果に関する分析 からは,特化・専業化 v s 多角化・総合化とい った経営戦略への意思決定上の示唆に富むも の が 得 ら れ る 。 そ れ は , 他 方 で ア ン ゾ フ ( 1 9 6 5 ) が取り扱った企業経営戦略における シナジー効果の研究とリンクして考えられる
ものといってよい。
同 じ く 米 国 経 営 学 を 代 表 す る ポ ー タ ー ( 1 9 8 5 ) は,経営経済学ないし経営学的背景 に基づき,主として市場における企業のさま ざまな競争に関する戦略の在り方を考察・研 究し経営戦略論の領域を確立した
10)。シナ ジーについても,あるいは事業部門等のプロ フィット・センターについても,概ね基本的 には組織ないしそれを構成する人材(人的資 源)とその活動や成果を源泉とするものであ る。したがって,そこにおいても,少なくと も内部組織メンバーに基づく範囲でのガバナ ンスの在り方が,人的資源管理の水準とも相 侠って,経営成果及び企業戦略に少なからず 介在してくることになる。
また,経営社会学においても,例えばワイ
ク(1 9 6 9 ) などに見られるように自己組織性
にも関わりうる構成員行動の研究が進められ
ている。そこでは,ガ、バナンスに関係する組
織内部構成員とそれらの間でのグループ・ダ イナミックス(集団力学)の様態や個別メン
ノ t ーの意思決定と主体的な在り方なども対象 になってくる。
近時における動向としては,経済社会的な 制約条件でもある地球環境問題や PL (製造 物責任)問題への取り組みとそれへの意思決 定に関わる諸分野・項目のほか, IT 化戦略 を含む経済社会の長期的構造変化への対応,
さらにはわが国における日本的経営の方向性 等が主要課題として各方面において議論され ている。そこでは,単に企業活動の領域から 広く企業市民としての責任やガ、パナンスのあ
り方が問われることになる。
4 資本関係と規範的要素について
一般にガバナンスを考える場合,既に見た ように,これに関わる重要な基本的要素概念 として次のものを挙げることができる。
① 効 率
② 民 主 主 義
③ 公 正
④ 自 由
⑤ 規 律
これらのうち,①効率,①公正,④自由な どについては,経営経済分野では改めて説明 する必要も無い周知の概念であろう。ほかに,
「成長」や「利益」等の概念との関連性につ いては,例えば経営目標などの議論において は必須のものであるとしても,ここではそれ らを①効率の中に含めて考えることとする。
この①効率については,古来より経営経済的 に広く用いられており,一般においても費用 対効果ないし便益を考える場合をはじめとし て,合目的的な手段や行動に対してその成果 との関係において評価をなす場合などによく 使われてきた用語である。その場合,いうま
でもないことであるが,費用ないしその構 成・項目を考えるに際しては機会費用とその 意味への考慮をも併せて行うことが重要であ る 。
さらに,企業経営においては,例えばルメ ルト(1 9 7 4 ) 等の事業多角化戦略を考える場 合にも,前述のようにボーモルほか(1 9 8 2 ) による費用補完性に基づくスコープ・エコノ ミーズ(範囲の経済)理論がシナジ一等に関 する理論的根拠を与えるところとなっている 点に留意したい。これは,今後一層,自由化 の進展が予想され,効率性が求められている ところのわが国の金融部門ないしそこでの諸 産業における再編成問題を考える場合にも,
十分に顧みられるべきポイントといってよ
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次に,③公正を考える場合,国内的には独 禁法等の法律や行政的措置といった法制面で の対応が行われてきた。しかし,国際的な面 では,各国における法制面の違いはもとより,
商慣習をはじめ国民文化や社会的風俗・習慣 の差異から当事者聞の思惑や解釈等の翻臨に 基づく紛争等の調停やこれらを回避するため の調整作業を伴なう場合が少なくない。しか も,企業経営におけるグローバリゼーション の進展につれて,この傾向はますます増大し ていくことが予想されており,企業法務部門 にとって一層の国際的対応ないし戦略の強化 を行うことが必要とされている。
その意味においては,組織的対応の一環と しての人的資源の配分において,事業部門の 関係するスタッフないしは関接部門における 法務部門のスタッフを関連する国へ駐在させ たり,内外のロー・スクール(法科大学院) へ留学派遣したりすることなどもいくばくか 有効となろう。
④自由については,②民主主義と密接な関
連を有するのみならず,⑤規律ともいくばく
か関わるところの言葉である。すなわち,
「規律」は「規制」に通じるが,これらは 自己管理ないし自主管理'のように 自己' や 自主'等の言葉を付けて解釈すると,企 業におけるガバナンス問題だけでなく,近時 における自由化問題などを考える場合にも使 用できる汎用的な概念であることが分かる。
この「自由」の概念こそは,それぞれの時代 背景や思想・思潮体系にあって,はじめに見 た先人達にも何らかの影響を投げかけたとこ ろのものとして作用し,且つ経営経済から政 治経済に及ぶ多くの優れた学術研究成果の中 にも明示的と否とに拘わらず反映してきたも のと考えられる。
かつてのレッセ・フェール・レッセ・パセ (自由放任)主義から,新自由主義経済論と もいうべきハイエク(1 9 7 9 ) やフリードマン ( 1 9 8 0 ) 等を含めて,現在までの伝統的な自 由競争原理に基づく市場主義経済体制におい ては,思想の多元性を許容し保証する意味に おける「自由」が提示されていたといってよ
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