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取締役と韓国商法

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取締役と韓国商法

志 津 田

1 序

 昭和25年の改正前の旧商法のもとでは,原則として各取締役が,会社の業務執行及び代 表の権限を有し,この意味で各取締役は,単独制の業務執行機関であり,かつ会社代表 機関であった。ところが昭和25年の改正によって;取締役会が法定され,各取締役は その構成員となったために,取締役の地倖は,会社機関そのものではなくなり,取締役 会なる会社機関の構成者としての地位に変わったのである。近時アジア諸国の会社法で も,法的にこの体制を確立していく傾向にある。例えば,韓国商法のものでは,第3節

「会社の機関」中に「取締役および取締役会」の項目を置き,382条から408条にかけて,

かなり詳細な:規定を設けている(日本商法254条〜272条)。ここで特に注意したいことは,

機関構成者としての取締役と,その地位を占める取締役(個人としての取締役つまり取締役員)

とを区別して考察する必要があることであろう。前者は,会社組織の一部で,会社と対立 的な法律関係にたつものではないが,後者は会社と委任関係にたち,会社に対して,諸種 の権利義務を有するものである。本稿は,企業経営の中枢的存在である取締役の会社に対 する責任関係について,あるいは第三者もしくは株主に対する責任関係について,あるいは 対第三者もしくは株主に対する責任負担の仕組みについて考察したい。

 ※ 台湾会社法でも,第4節「取締役および取締役会」の項目を置き,192条から215条   にかけて,明文を設けている。タイの会社法では,各条文中に取締役会なる文字を使   用しているが(1160条,1161条,1162条など),独立して取締役会という項目を設けてい   ない。詳細は,谷川久監修・陳柄熊訳「台湾の会社法」(経済協力調査資料7号),谷川久   監修・正田寿一郎・青木俊男訳「タイ・インドネシアの会社法」(経済協力調査資料8   号)参照。なお,韓国商法の条文については,法務大臣官房司法法制調査部編集「韓   国六法」(昭和57年刊)を引用した。また,アジア諸国の会社法の各条文については,上   記資料に負うことが大であり,ここに記して謝意を表したい。

2 取締役解任の訴え 一経営者不適任の問題

 韓国商法385条1項では,取締役の解任に関する条項を設けている。すなわち,「取締役は 何時でも,第434条の規定による株主総会の決議をもって,これを解任することができる。

ただし,取締役の任期の定めがある場合において,正当な理由がなくして,その任期の満

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了前にこれを解任したときは,その取締役は,会社に対し解任によって隼じた損害の賠償 を請求できる」こととしている。1 墲ェ国の商法でも,『』これと向様のことを定めている(275

条1項)。

ここでいう取締役の解任とは,取締役本人の意思に反しても,その資格を喪失させること であって,それには株主総会の決議による場合,裁判所の判決による場合,会社更生法に おける会社更生計画の認可による場合などがある。ところで,株主総会は,その事由のい かん,任期の定めの有無を問わず,何時でも総会の決議をもって,取締役の解任が可能で あるが(スウェーデン株式会社法77N・オランダ商法48条bI),これは業務執行の合理性に関する 判断を株主総会に保留しているものである。もちろん,取締役の解任を,その地位の重要 性にかんがみ,株主総会における解任決議の要件を厳格にしていることは特筆すべきであ ろう。例えば,韓国商法434条によると,「発行株式の総数の過半数に当たる株式を有する 株主が出席し,その議決権の3分の2以上の多数をもって,これをしなければならない」

(日本商法343条参照)としている。

 取締役の解任は,株主総会の専属的決議事項であるから,会社や取締役が,株主総会の 取締役解任権を排除する旨を第三者と特約をしても,株主総会を拘束しない。また株主総 会自身が,その解任権を放棄することも認められない(東京地平昭和27・3・28下民集3巻3号 426頁)。たとえ,代表取締役が,会社を代表して他の取締役との間に,一定期間取締役を 解任しないことを特約しても,株主総会における取締役解任の決議を排除するものではな

い(東京守旧昭和27・2・13高民集5巻9号363頁)。また,解任は,特定の取締役からその資格 を剥奪するものであるので,株主総会の招集通知に,取締役○○の解任なる旨を具体的に 表示しておく必要がある(大阪地引昭和13・11・16新聞4348号18頁)。もっとも,この場合に,取 締役解任の件として通知すればよく,それで十分であるとする判例(東京地判昭和15・

11・24新商判集(二)14頁上48)もある。なお,・取締役の解任は,単独行為であり,その効力 の発生には相手方の承諾を必要としないが,判例によれば,当該解任取締役に対する「告 知」によって,解任の効果が生ずるものと解されている(東京地引昭和27・3・28下民集3巻3 号425頁)。最近の判例で注目したいことは,第一に,解任決議により,解任された取締役に

も,解任決議取消の訴えを提起する資格を認めていることであろっ(東京必読昭和34・3・31 下民集10巻3号659頁)。第二に,取締役の解任決議において,解任の対象で毒る取締役が株 主である場合に,その者は,その解任決議において,特別利害関係人として,議決権の行 使が停止されるかどうかの問題があるが,判例はこれを肯定していることであろう(野卑昭

和42・3・14民集21巻2号378頁)。

 次に韓国商法385条2項によれば,少数株主による解任請求権を明示している。すなわ ち,「取締役が,その職務に関し,不正の行為又は法令もしくは定款に違反する重大な事 実があったにもかかわらず,株主総会において,その解任を否決したときは,発行株式の 総数の100分の5以上に当る株式を有する株主は,総会の決議があった日から1ヶ月内にそ

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 取締役と韓国商法       3 の取締役の解任を法院に請求することができる」ことを定めている.わが国の商法でも同 趣旨のことを規定している(257条3項)。ただ多少相違する点は,韓国商法では,6月前か

ら引き続き一定数以上の株式を保有することを要件としていないことである。また韓国商 法では,100分の3以上に当る株式を保有要件とせず,発行株式総数の100分の5以上に当 る株式を保有要件としていることであろう。

 取締役の解任請求訴訟においては,訴えの提起権者としての株主は,株主である限り,

その株主総会で決議に賛成したかどうかは問題ではなく,またその総会の決議によって,

当該株主の利益が害されたかどうかも問題ではないとされている。問題なのは,無議決権 株主は,この訴えを起こすことができるか否かであろう。有力説によれば,「取締役解任の 訴は,解任を否決した総会の決議を不当として,少数株主たる立場から訴の方法によって 経営担当者として不適任な取締役をその地位から排除するために与えられたものであり,

無議決株主でも総会に出席して討議に参加する権利を有し,議決権以外の共益権はすべて これを有するのが原則であって,定款の規定をもってもこれを奪いえないものである諸点 からして,無議決株主もこの訴提起権があると解すべきである」(服部栄三・菅原菊志編「逐

条判例会社法社書」276頁)としている。 解任請求の訴え提起の要件としては, 「その職務 に関し」,「不正の行為」または「法令㌔定款違反の重大事実」が法文上要求されているが,

「その職務に関し」とは,職務の遂行に直接・間接かかわりあいのある場合を含むもので あり,競業避止義務違反のようなものがこれに該当しよう。「不正の行為」とは,忠実義 務《善管注意義務)に反して会社に損害を与える故意的な行為である。また,「法令・

定款違反の重大な事実」とは,各場合の具体的な諸事情を判断して決定しなければならな いが,判例より推測をすると,競争会社をきわめて高価に買収したり,あるいは法律によ.

って要求されている定時の株主総会を長年にわたって開催しないことなどをあげている(東

京寒明昭和28・12・28判タ37号80頁)。

 なお,取締役解任の訴えの被告は誰であるかについて問題がある。この点については,

訴えの被告を①会社とする説(鈴木竹雄「会社法」130頁,石井照久「会社法」上372頁)である。

この説は,この訴えが,会社をして特定の取締役からその資格を剥奪せしめることを目的 とし,会社が取締役の解任を否決したことを,判決をもって修正しようとするものである から,会社を被告とすべきであることを理由とする。②取締役とする説(大隅健一郎「会杜 法論」中96頁,松田二郎「会社法概論」194頁)である。この説は,この訴えは,判決をもって取 締役の資格を剥奪すべきことを求める形成の訴えであるので,当該取締役を被告とすべき であることを主張する。③会社と取締役の両者であるとする説講中誠二「会社法詳論」上445 頁)である。この説によれば,この訴えは他人間に存在する法律関係の変更を求める形成 の訴えであり,少数株主が,会社と取締役との間に存する委任関係の解消を求めるもので あるから,その委任関係の当事者である会社と取締役とを共同被告とすべきものと解して いる。以上のように学説が対立しているが,最近の判例は,委任関任の当事者である会社

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と取締役とを共同被告とする立場を支持している(高松高決昭和28・5・28高民集6巻5号294 頁)。第1説は,会社を被告とする判決の効力が取締役に及ぶことを説明できないし,第2 説の取締役被告説は,商法257条3項の法文の趣旨により肯定することができず,最後の 第3説を妥当と解すべきであろう。

 ※ 台湾会社法199条では,「取締役は,株主総会の決議により,何時でも解任すること   ができる。ただし,任期の定めがある場合において,正当な理由がなくて,任期の満   夢前にこれを解任したときは,その取締役は会社に対して,解任によって受けた損害の   賠償を請求することができる」旨を定めている。この点英米法でも,取締役は,正当   な理由がない限り,その任期満了まで,解任されたり職務を停止されることはないと   している。ただアメリカでは,基本定款または附属定款が規定する場合には,株主総   会の決議によっ.て,正当な理由がなくとも,取締役の全部または一部を解任できるの   であり,このようにアメリカでは株主総会の決議によって,取締役の解任が担当広範

  囲に認められているところに特異性が指摘されよう。・(ニューヨーク州会社法716条参照。並木俊守   「アメリ,力会社法」164頁,同「アメリカゼジネス法」122頁)。なお,タイの会社法では,「取締役

  は株主総会においてのみ選任されまたは解任される」(1151条)と定めているにすぎない。

   他方,台湾会社法200条では,「取締役に職務の執行につき会社に重大な損害を与   える行為または法令もしくは定款に違反する重大な事項がある場合において,株主総   会においてその解任の決議をしなかったときは,引き続き1年以上発行済み株式の総   数の100分の5以上に当る株式を有する株主は,株主総会後30日以内に,裁判所に訴え   を提起することができる」ことを規定している。わが国の商法と比較して,①引き続   き1年以上としていること,②発行済み株式の総数の100分の5以上としている点に   相違がある。

   取締役解任の訴えは,会社の本店所在地の地方裁判所の管轄に専属する(韓国商法   385条3項,日本商法257条4項)。取締役解任の訴えの提起があった場合,本案の管轄裁判   所は,当事者の申立により,仮処分をもって,取締役の職務の執行を停止しまたは代行   者を選任することができる。急迫な事晴があるときは,.本案訴訟の提起前においても,

  その処分をすることができる。(韓国商法407条,日本商法270条)。では,ここでいう急迫   な事情とは,「取締役が会社を経営するについて,その職務の執行が適切を欠くため,

  その経営に著しい支障を生じ,または会社財産を喪失するおそれがある等のために,

  会社の受ける損害を防止する必要がある場合をいう」と判示している(大阪高決昭和26   ・2・28高民集4巻2号34頁)。

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取締役と韓国商法

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3 株主の代表訴訟提起権 株主の代位訴権

 韓国商法403条によれば,代表訴訟(representative suit)の制度を設けている。すな わち,「①発行株式の総数の100分の5以上に当たる株式を有する株主は,会社に対して取 締役の責任を追及する訴えの提起を請求することができる。②前項の請求は,その理由を 記載した書面をもってこれをしなければならない。③会社が前項の請求を受けた日から30

日内に訴えを提起しないときは,第1項の株主は,直ちに会社のため訴えを提起できる。

④前項の期間の経過によって,会社に回復することのできない損害を生ずるおそれがある 場合には,前項の規定にかかわらず,第1項の株主は,直ちに訴えを提起することができる」

ものとしている。これは,端的にいえば,会社が取締役の責任追及を怠る場合に,個々の 株主が会社に代って,取締役の責任を追求するために提起する訴えである。取締役が会社に 対して責任を負う場合には,本来会社自身が,その責任を追及するのが当然であるが,会 社による責任追及は,つまるところ取締役が他の取締役の責任を問う形になり,現実的に は行われ難いので,アメリカ法にならい株主みずからが原告となって,会社のために取締 役の責任を追及することを認めたのである(日本商法267条〜268条の3参照)。

 この代表訴訟で問題となるのは,対象となる取締役の責任の範囲であろう。いわゆる代 表訴訟は,取締役が会社に対して責任を負う場合にのみ認められるべきものであるから,

代表訴訟によって追及できる取締役の責任の範囲は,取締役としての地位にもとづいて負 担する損害賠償責任(日本商法266条・韓国商法399条)および資本充実の責任(日本商法280条の 13・韓国商法428条)のほかに,取締役が第三者の立場で負担する,契約または不法行為によ る責任など,取締役が会社に対して負担する,いっさいの責任を含むものと解するのが通 説である(蓮井良憲編「会社法」211頁,反対説服部栄三「会社法提要」226頁)。従って,取締役と

しての地位にある間に生じた責任だけではなく,取締役となる以前から負担する責任につ いても代表訴訟が認められ,取締役にこのような責任が発生した以上,下締役が退任し た後でも,代表訴訟によってその責任を追及することができる。

 韓国商法によれば,株主による代表訴訟提起権は,発行株式の総数の100分の5以上に 当る株式を有する株主であることを要件とする,少数株主権としているのに対して,わが 国の商法では,単独株主権として1株の株主にも認めている点に著しい相違がみられる。

ただ,わが国の商法の場合には,韓国商法と異なり,濫訴を防止する趣旨から,提訴権者 は,6ヶ月前から引き続き株式を有する株主に限られている点を注意すべきであろう。こ こでいう株主とは,議決権のない株式の株主でもよく,かならずしも同一株式を引き続き 所有することを要しない。相続や合併による株式取得のときは,被承継人の保有期間を通 算し,会社設立後6ヶ月に満たないときは,会社設立後引き続き株主であればよいと解さ れている。また,取締役の責任発生の当時,株主であったか否かは問わないが,提訴の時

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週半ら訴訟終了の時点まで,継続して株主であることを要するとされている(大隅・戸田・

河本編,判例コンメンタール・商法1下719頁)。ところが,株主の代表訴訟の提訴資格を有する 者であっても,会社に特別の事態があれば,これを提起しえないことがある。たとえば,

株主は,更生手続開始後は,代表訴訟を提起することができない。けだし,更生手続の開 始決定があると,管財人が会社財産の管理および処分の権限を専有するものであるから,

取締役に対する損害賠償請求権の査定の申立をなすか否かは,もっぱら管財人の判断に委 ねられているからである。破産の場合も同じように,訴提起は破産管財人に専属し,代表 訴訟を提起することができない(大森忠夫・矢沢惇編「注釈会社法」(4)513頁)。

 また株主が代表訴訟を提起するには,まず会社に対して,「書面」をもって,取締役の責 任を追及する訴えの提起を請求しなければならない。この書面には,訴えを提起すべき旨 の請求,被告たる・ドき者の氏名,その責任発生の原因たる事実を記載すべきものとされて いる(大阪地響昭和41・12・16下民集17巻11・12号1237頁)。このことは,韓:国商法403条2項でも わが商法と同じく書面主義を採用している。この書面が会社に到達してから,30日以内に 会社が訴えを提起しないときは,株主は代表訴訟を提起できる。この場合にその株主は,

会社に対して訴え提起の請求をした株主に限ると解するのが有力説である。もちろん,こ の30日の期間経過によって,会社に回復すべからざる損害を生ずるおそれがあるとき(例 えば,取締役が財産を隠匿したり,無資力となるとか,会社の債権が時効にかかるとか・取締役 の責任が解除されるとかなど)は,直ちに代表訴訟を提起できる。問題なのは,この30 日間の解釈上の意味であるが,会社が提訴するかどうかの熟慮期間であると解されて いる。従って,会社が提訴意思のないことを表示したときは,株主は直ちに代表訴訟を提 起してもよかろう(大阪地判昭和41・12・16下民集17巻11・12号1237頁)。この30日の期間が,被 告取締役に防訴のための十分な準備期間を与えるものと解することはできない。なお,代 表訴訟提起権が,株主によって濫用されることを防止する趣旨から,被告である取締役は,

代表訴訟が原告株主の悪意にでたものであると疎明をした場合には,裁判所は原告株主に 対して,相当の担保を供すべきことを命ずることができる(韓国商法403条5項,日本商法267 条4項・5項)。ここでいう悪意とは,不当に被告を害する意思であるとする説(徐田二郎「会 社法概論」145頁)もあるが,一般的には,取締役を害することを知ることであると解する説 が有力である。

 さらに代表訴訟の制度で注目すべきことは,馴合訴訟の防止条項を置いていることであ ろう。つまり,取締役の責任を追求する訴えについて,会社がその訴えを提起したときは,

株主が,逆に株主が代表訴訟を提起したときは,会社または他の株主が,重ねて訴えを提 起できなくなる。民事裁判で二重起訴の禁止(裁判所に係属する事件については当事者は 更に訴を提起することができない) の明文を設けているからである (韓:国民事訴訟法234条,

日本民事訴訟法231条)。それでは,原告と被告との馴合訴訟によって,会社の権利が不当に        の侵害されるおそれがある。そこで,商法では,上記の株主または会社は,すでに提起され

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 取締役と韓国商法       7

た訴訟に参加することができるとしている。また,会社の訴訟参加を容易にするために,

代表訴訟を提起した株主は,遅滞なく会社に対して,右の訴訟の告知をする義務を負って いる(韓国商法404条1項・2項,日本商法268条2項・3項)。会社は,訴訟告知により,代表訴 訟のあったことを知るので,参加の機会が保障されることになるが,しかし,「公知」がな

されないために,株主については,参加の機会がかならずしも十分に保障されているわけ ではない。今後の立法課題であるといえよう。また,さらに原告と被告との共謀により,

会社の権利を詐害する目的で判決をなさしめた場合,会社(株主が原告のとき)または株 主 (会社または他の株主が原告のとき)は,確定した終局判決に対して,再審の訴えを提 起できる道も開いている(韓国商法406条,日本商法268条の3)。

 ※ 台湾会社法では,「引き続き1年以上発行済み株式の総数の100分の10以上に当る株   式を有する株主は,書面をもって監査役に会社のために取締役に対して訴えを提起す   ることを請求できる。②監査役が前項の請求の日から30日以内に訴えを提起しないと   きは,前項の株主は,会社のために訴えを提起することができ,株主が訴えを提起し   たときは,裁判所は,被告の請求により,訴えを提起した株主に,相当の担保を提供   することを命ずることができ,敗訴によって会社が損害を受けたときは,訴えを提起   した株主は,会社に対して賠償の責任を負う」(214条)。また,「前条2項の訴訟の根   拠となる事実が,明らかに虚構であることが,最終判決によって確定したときは,こ   の訴えを提起した株主は,告訴された取締役に対して,この訴訟によって受けた損害   について,賠償の責任を負う」(215条)と定めている。また,同条の2項によると,

  「前項第2項の訴訟の根拠とする事実が,明らかに実在するものであることが,最終   判決によって確定したときは,告訴された取締役は,訴えを提起した株主に対して,

  この三界によって受けた損害について,賠償の責任を負う」ことを明示している。い   ま韓国商法と比較してみると,第1に,台湾会社法と異なり,「100分の5以上」を株   式保有要件としていることであろう。日本商法では,このよつな株式保有要件がなく,

  1株主でも差支えない(単独株主権)。第2に,台湾会社法では,. 「引き.続き1年以上」

  という株式保有の継続期間を要求しているのに対して,韓国商法では,まったくこれ   に触れていない。この点日本商法では,「6月前ヨリ引続キ」の文言を挿入して,株式   保有の継続期間を掲げており,台湾会社法の態度に近接している。第3に,韓国商法   や日本商法では,「会社が……訴えを提起しないときは」としているのに対して,台湾   会社法では,「監査役が……訴えを提起しないときは」としていることであろう。立法   論としては,監査役がとするよりも,会社がとする方が適切ではなかろうか。参考ま   でに,タイの会社法によれば,「取締役が会社に与えた損害についての取締役に対する   賠償請求は,会社がこれを行なうことができるが,会社がこれを拒むときは,株主が   これを行うことができる」(1169条)とじて,代表訴訟制度を設けている。アメリカ法   では,代位訴訟という特異な制度を置いている。すなわち,会社の名において,責任

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追及にあたるべき会社が,もしも代表機関が,これを怠る場合の対策として一 アメ リカ法上は普通監査役の制度を設けていない一,衡平法上,各株主が会社の権利につ いて,みずから原告となって訴えを提起するものである。従って株主が,この訴権を 行うためには,まず本来会社のために訴訟提起を行うべき取締役その他の役貝に対して,

訴え提起を要請し,督促するための相当の手段を尽したことと,それにもかかわらず,そ の実効がえられなかったことが,前提条件となっていることを注意すべきである。原告は,

各株主であり,訴え提起の当時ならびに訴訟期問中,株主であることを要する。その持株数 については,別段の制限がない。これに対して,被告は,責任を追及されている取締役で あることは当然であるが,この訴えの判決の判決の効力が及ぶべき会社もまた名義上 の被告とすることができる。この訴訟の判決の既判力は,会社を含めた当事者の外に 他の株主にも及ぶことを注目すべきであろう。拙著「英米商事法概説」73頁一74頁。

大森忠夫「株主の地位の強化とアメリカ法」。判例のもとでは,代位訴訟の場合に,取 締役が,会社のために誠実にかつ賢明な配慮をなしており,きわめて妥当な措置であ

ると認められるときは,このような株主の提起を肯定すべきではないと解されている。

B包11antine,On Corporation, §147。

4 株主の差止請求権 一経営者の職務執行停止処分

 韓国商法402条によれば,「取締役が法令または定款に違反する行為をし,これにより会 社に回復することができない損害を生ずるおそれがある場合には,発行株式の総数の100 分の5以上に当る株式を有する株主は,会社のため取締役に対しその行為を止めるべきこ とを請求することができる」旨を定めている。これと同じように,わが国の商法272条で も,「取締役が会社ノ目的ノ範囲内二在ラザル行為其ノ他法令又ハ定款二違反スル行為ヲ 為シ之二審リ会社二回復スベカラザル損害ヲ生ズル虞アル場合二於テハ六月前ヨリ引続キ 株式ヲ有スル株主ハ会社ノ為取締役二対シ其ノ行為ヲ止ムベキコトヲ請求スルコトヲ得」

と明示している。もともと,これら株主の差止請求権は,イギリス・アメリカ法の差止命 令(injunction)の制度にならい認められたものであり,わが国でも経営者つまり取締役 の権限の強大化に対応して,その活動の監督是正のために,昭和25年の商法改正により制 度化されたものにほかならない。

 本条の差止請求権は,本来会社が有する請求権を会社が怠って行使しない場合に,株主 が会社に代って会社のために行使するものであるから,代表訴訟提起権と同様の性質を有 するものである。この場合に株主は,実質上会社の代表機関的な地位に享つのである。し かし,株主の違法行為差止請求権が,代表訴訟提起権と異なる点は,後者が,いわば事後 における積極的な給付を目的とする措置であるのに対して,前者は,違法行為がなされる

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 取締役と韓国商法      g

前における事前の消極的な防止措置であることであろう。なお通説によれば,これらの権 利は,ともに共益権的な性質を帯びている点では一致ずる。(大森忠夫・矢沢惇編「注釈会社法」

(4)554頁)。また,本条による違法行為差止請求権は,取締役の個々の具体的な違法行為の 差止であって,職務執行停止の仮処分(韓国商法407条・日本商法270条)のように,取締役と しての全行為を禁止するものではない。本条による差止めの対象となる「違法行為」には,

法令や定款の具体的な規定に違反する場合だけではなく,善管注意義務(韓国商法382条2項,

韓国民法681条)に反する行為も含まれるものと解されている。すなわち,取締役の任務酔狂 行為すべてを含むと解してよかろう(大隅健一郎「全訂会社法論」中134頁)。なお,旧商法によ ると,前任取締役の違法行為の事後処理としての現取締役の損害賠償請求等の請求訴訟を 含むものではないとしていることも指摘しておきたい(東京地判昭和12・1・25新商判集(⇒367

頁中一参照)。また,ここでいう違法行為は,代表取締役が商法265条に違反して,取締役会 の承認を得ることなく,会社の有する他会社の株式を取締役に譲渡する行為のような違法 ではあるが有効な行為も含むものと判示している(東京地判昭和37・9・20黒酢136号104頁)。

もちろん,違法であって無効な行為も含まれるものであると解するのが通説である。

 また,本条でいう「回復することができない損害」とは,損害の回復が絶対に不可能な 場合のみならず,会社にとって費用・手数などからみて,損害の回復が相当に困難な場合

も,これにあたると解するのが有力説である(服部栄三・管原菊志編「逐条判例会社法全書」

515頁参照)。

 差止請求の手続であるが,わが国の商法によれば,請求をしうる者は,6ヶ月前から引 き続き株式を有する株主であるとしていて,保有株式数にはなんらの制限を設けていない。

ところが韓国商法では,請求をなしうる者は,発行株式総数の100分の5以上にあたる株式 を有する株主としており,株主の保有株式数に制限を加えている。韓国商法のように,わ が国商法でも,株主による差止請求権の濫用をおそれて,一定数以上の株式の保有を義務 づけておくことが立法上は,より適切ではなかったろうか。差止請求の相手方は,違法行 為をなくそうとする取締役であって,会社ではない。差止の請求は,訴えによることは必 要ではなく,裁判外でも請求できる。しかしながら裁判外の差止請求によって,違法行為 を取締役が中止しなければ,裁判上の訴えにより,その行為を差し止めるほかはない。上 述のように,差止請求権の法的性質は,代表訴訟提起権と同じく共益権的なものであるか ら,差止の訴えには,専属管轄に関する以外は,代表訴訟に関する規定が類推適用される

(商法267条〜268条の③)。取締役は,差止請求を受けても,当然にその行為を中止しなけれ ばならないものではなく,中止すべきかは,善良なる管理者の注意義務をもって判断すべ きである。もしも中止をしないで,その行為を行った場合に,後でそれが違法行為である と確定すると,その取締役は,会社に対する責任を生ずる(日本商法266条1項5号,韓国商法 399条)。ただこの責任は,差止請求の有無にかかわらず認められるものであって,差止の 直接的な効果であるとはいえない。この差止請求権の制度については,次のような立法上

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の疑問が提起されている。すなわち,「差止は,対象たる行為を個別的に判断するものであ るから,その行為が新株または社債発行のようにその効果が画一的に決せらるべき行為で はなく,かつ差止が善意の第三者を害しない場合に,会社がその無効を主張しうる」(服部

栄三・菅原菊志編「逐条判例会社法全書」 516頁,大森忠夫・矢沢1享編「注釈会社法」(4)560頁参照) と

いうことである。このように株主による違法行為差止請求権の行使は,実効性の乏しいこ とを認めざるをえない。少しでも差止の実効性を確保しようとすれば,法廷侮辱罪のよう な規定を設けて,仮処分違反そのものを処罰すべきである とする有力な主張もある。いず れにせよ,立法による実効性の確保が望まれている。

 ※ 台湾会社法では,「取締役の決議が会社の登記した業務範囲外の行為または,

  その他法令もしくは定款に違反する行為であるときは,引き続き1年以上株式を有す   る株主は,取締役会にその行為の停止を請求できる」(194条)旨を明示している。この   点で,わが国や韓国の商法では,会社のため取締役に対して差止請求権の行使を認め   ているのに対して,台湾会社法では,取締役会に対して,これを認めている点に著し   い特色がうかがわれる。このような株主による違法行為差止請求権の制度は,英米法   に由来するものであろう。すなわち,イギリス会社法の場合にも,取締役がその義務   に違反するおそれがあるとき,または会社が能力外の行為をするおそれがあるときに,

  これを阻止するために,裁判所が差止命令9(ir⑩nction)を発することがある。この 一 ことはアメリカでも同様である。すなわち,アメリカでは,取締役その他の役員が,

  会社の名において,会社の目的の範囲外の行為,その他法令または定款の違反行為を   しょうとする場合には,各株主は利益を不当に害される危険に陥る。そこで各株主は,

  自己および他の株主のために,衡平法上の救済方法として,差止命令による保護を受   けるのである。違法または不公正な新株発行も,当然この請求権の対象となることは

  いうまでもない。BaUantine, On Corporation, vol. II。§1932.§5141.§5176.(拙著   「英米商事法概説」75頁,京都大学商法研究会繍「英米会社法研究」192頁)。なお,わが国の商法

  によると,昭和25年の改正により,新株発行が取締役会の権限に移されたために,層取   締役の不公正な新株発行により,株主が不利益を受けることを防止する手段として,

  不公正な新株発行に対する株主の差止請求権が法文化されている(280条の10)。これと   同じように韓国商法424条でも「会社が法令もしくは定款に違反し又は著しく不公正   な方法によって株式を発行することにより株主が不利益を受けるおそれがある場合に   は,その株主は,会社に対してその発行を止めるべきことを請求することができる」

  ものと定めている。また,台湾会社法271条でも多少表現に差異はあるが,同様のこ   とを規定している。すなわち,「①会社が新株を発行する場合において,許可後その   届出事項に法令に違反しまたは虚偽もしくは不実の事項があることを発見したときは,

  中央主務官庁はその許可を取り消すことができる。②煎項の許可の取消しがあった場   合において,新株を未だ発行していないときは,発行を中止し,すでに発行したもの

(11)

取締役と韓国商法       11

 については,株式の所有者は,取消しの時から,株式の発行金額に法定利息、を加算:し  て,会社に対して,返還を請求することができ,会社は,これによって株式の所有者  が受けた損害をも賠償しなければならない」と定めている。では,どのような場合に  差止が認められているだろうか。わが国の判例によると,まず法会違反による差止の  ケースはないようである。あるとすれば,定款違反であろう。すなわち,定款に定め  た株主の新株引受権を無視した新株発行に対して,差止が認められている(東京地目昭  和30・5・9下民集6巻5号950頁)。しかしながら,最も注目すべきケースとしては,著  しく不公正な方法による新株発行の差止であろう。判例では,特定株主の少数株主権  排除の不当な意図が伴っていても,資金需要があって,新株発行がなされたのであれ  ば,著しく不公正な方法によるものといえないと判示している(大阪地学昭和48・1・31

 週刊金融商事判例355号10頁)。      ・

5 取締役の対第三者責任 取締役の個人責任

 韓国商法によれば,「取締役が悪意または重大な過失により,その任務を怠ったときは,

その取締役は第三者に対して連帯して損害を賠償する責任を負う」(401条1項)ことを定め ている。わが国の商法266条の3でも,「取締役が其ノ職務ヲ行フ門付悪意又ハ重大ナル過 失アリタルトキハ其ノ取締役ハ第三者二対シテモ亦連帯シテ損害賠償ノ責二二ズ」と明示 しており,これと同じような趣旨のことを規定しているが,いま両国の商法を比較対照し てみると,多少法文上に相違があることがわかる。すなわち,わが国の商法では,韓国商 法のように「その任務を怠ったとき」としないで「其ノ職務ヲ行フニ付」としている点で

あろう。

 およそ,現代の社会社会において,株式会社は実に枢要な地位を占めており,その活動 は,もっぱら機関である取締役の職務執行に依存するところが大である。そこで,第三者 保護の観点から,株式会社の機関である取締役の違法な職務執行(任務戦勢)の結果とし て,もしも第三者に損害が生じた場合には,取締役が個人として,その第三者に対して直 接に損害賠償責任を負担するのである。この旨を明らかにしたのが上述の条項にほかなら

ない。

 ところで,この責任の法的な性質について,基本的に二つの対踪的な見解がある。1つ は,「特別法定責任説」といわれるものである(最判昭和45・3・26判時590号76頁)。この説は,

会社にだけ責任を負う取締役に対して,第三者保護のために,不法行為責任とは別個に政 策的な立場から,責任を法定したものと理解する。2つは,「特殊不法行為責任説」であ る(最判昭和44・11・26呼時578号3頁,反対意見参照)。この説は,一般不法行為の原則では,

取締役の責任が重過ぎるので,本条により不法行為責任を軽減して,軽過失にすぎない場 合は,責任を免除した特殊の不法行為責任と解する。しかしながら両説は,一見まったく

(12)

相容れない主張のようにみえるが,現実的な観点からすれば,さほど距離をおくものでは

なかろう (服部栄三・菅原菊志編「逐条判例会社法全書」438頁,大森忠夫・矢沢部位「注釈会社法」

(4)493頁)。

 では本条によって,損害賠償責任の帰属主体となることのできる取締役とは,どの範囲 までを指すものであろうか。たんに代表取締役だけではなく,代表権や業務執行権を有し ない,いわゆる平取締役などの,すべての取締役を含めると解するのが通説である。問題 なのは,法律上は完全な取締役の地位にあるが,会社または代表取締役その他の者から,

懇請されて,名義だけを貸与し,義務を負担しない約束のもとに,その職務についた取締 役,いわゆる名目取締役(看板取締役)にも,本条の適用があるだろうか。一般的に取締 役である以上は,それが名目的あるいは形式的であるにせよ,次のような職務を負ってい る。すなわち,①取締役会の構成員として,取締役会に出席し,業務執行の意思決定に参 加すること,②位表取締役ないし社長・専務・常務などの業務執行全般について,これを 監視し,監督し,必要があれば取締役会を招集して,その権限を行使することができる(最 判昭和48・5・22抽出27巻5号655頁)。②の職務を,取締役の「監視義務」と称しているが,

取締役会に上程されない事項にまで監視義務が及ぶものと解したい(蓮井良憲編「新版会社法」

205頁)。そこで最近では,名目だけの取締役に就任し,取締役会の招集もなく,会社の経 理内容の報告も受けなかった取締役について,最高裁判所は,会社の取締役(機関)とし て,代表取締役の業務執行を監視すべき義務があるのにもかかわらず,それについて,な んらなすことがなかったことは,その職責を尽さなかったものであり,会社債権者に対し て責任を卜うと判示していることは注目したい(評判昭和55・3・18引時971号10頂)。このよ

うに,昨今の法人成りの現象のもとで,安易な気持ちで小規模会社の名目取締役に就任し た者は,会社債権者に対する責任を免れることがきわめてむずかしいことを十分認識して おくべきであろう。

 次に,どのような場合に,本条による取締役の責任が生ずるものであろうか。(1)会社り 経営を専務取締役に任せきりであったため,業務が極端に悪化し,経理状態が危機に頻し ていることを知らないで,漫然と第三者に融通手形を振出させ,第三者に損害を与えた場 合(東京地判昭和41・7・29半llタ198号17頂),(2)調査不十分の事業に多額の投資をして破綻を 招いた場合(最判昭和41・4・15民集20巻4号660頁),(3)営業状態が,かなり悪化して,倒産の 危機を予知できたはずであるのに,他の企業に漫然と融資を行ったばかりではなく,内容 の不明確な債務を計上し,相殺をもって払込に代えるという,資本充実の原則を無視した 新株発行を行ったことによって,会社を倒産に追い込んだ場合(東京地熱昭和42・9・30判時

511号69頁),(5)手形の取立を解怠した場合(大判昭和8・7・15民集12巻1897頁)(6)不必要な債務

の継承および現物出資の過当評価をした場合(大阪平鋼昭和7・10『・10新聞350号11頁,(7)蛸配 当すなわち法令・定款所定の配当要件に違反する利益醜当を行った場合(福島地平支判昭和 15・1・26新聞4560号5頁)などが,いわゆる取締役の任務解怠となり,本条による責任を負う

(13)

 取締役と韓国商法      13

ことになろう。この点では,韓国商法のように,「その任務を怠ったときは」と表現してい る方が,より立法的に適当であるといえよう。以上のどとからも,うかがえるように,会 社の最高の経営者である代表取締役は,会社の財産を善良な管理者の注意をもって保管す べき義務を負うものであり,かつまた他の取締役ないし商業使用人に対して,監視・監督 の義務を負うものであるから,放漫ずさんな経営のために,会社の資産状態を悪化させ,

その結果会社債権者が著しい損害を受けた場合には,代表取締役が個人として責任を追及 されることになる。

 なお,ここで若干触れておきたいことは,「悪意」,「重過失」の理論構成であろう。ここ でいう悪意とは,①会社を害する意思であるζする説,②第三者の加害について予見があ るとする説,③任務解織であることを知っているとする説など多岐であるが,最後の見解 が通説である。このことからも韓国商法の条文体裁は,解釈論的にも実益があるものとい

えよっ。

 また,日韓両国の商法によれば,明文をもって,第三者に対して取締役相互間に連帯賠 償責任が生ずることを定めている。ここで注目しておきたいことは,本条の連帯責任は,

いわゆる連座性を意味しないから,取締役全員が当然に連帯責任を負担するものではなく,

職務を行うについて悪意,重過失のあった者(韓国商法の場合には,任務解怠について悪意,

重過失のあった者となろう)が連帯責任を負担することになることである(東京地判昭和42・9

・30四時511号69頁)。

 最:後に,放漫経営と取締役の責任との関係について,もう少し検討してみることにしよ う。企業経営の方法が,ずさんで,会社の業績や資産状態を悪化させることは,もともと 会社に対する経営者の任務解怠の問題であって,受寄物の横領等の行為がない限り,企業 の経営者は,第三者に対する責任を負うものではない。しかしながら,,このような放漫経 営の結果㌧会社債権者が会社財産から満足を得られないので,損害を蒙ることになれば,

取締役の対外的な責任が大きくクローズ・アップされてくる。この場合に1 C会社債権者とし ては,民法上の債権者代位権(日本民法423条,韓国民法404条)を行使することによって,ま た転付命令の交付により(日本民事訴訟法159条,韓国民事訴訟法564条),取締役の責任財産から 満足を得ることができるのである。けれども会社債権者にとっては,以上のような迂路を 経ることなく,直接取締役に損害賠償を請求できるようにすることが望ましい。ここに取 締役の第三者に対しる責任が法定されたのである。

 ここ数年間を考察してみると,会社倒産の増加と関連して,会社が無資力のために,満足 を受けることのできない会社債権者その他の第三者が,この条項を利用して,取締役個人 の責任を追及するケースが急速に多くなってきている。また,法人成りの現象のもとで,

閉鎖的・個人的企業ともされる,いわゆる一人会社の場合においては,「法人格否認の法理」

(会社の法人格の機能を一時的に停止させ,その背後にある実態に即した法律的な取扱いをする こと)の代替的な役割を果しているともいわれている。昨今のように,代表取締役

(14)

あるいはその他の個人取締役には財産があっても,会社にはなんら目ぼしい資産がないと いう会社が,非常に多く存在する現状において,それらの会社と取引する者にとって,商 法226条の3(韓国商法401条1項)の規定は,きわめて重要な意味をもっているのである。こ れを裏がえしていえば,資力のある取締役がいることは,あたかもその会社と取引をする 者の債権を担保するような形になるのである。以上のような諸点からも,近時の裁判所は,

第三者保護のために,本条による取締役の責任を広く認める傾向にある。とはいっても,

本条の適用を安易に考えてはいけない。ごく最近の判例では,その適用範囲の広がりをチ ェックするものがあることを念のために指摘しておこう。

 ※ 台湾会社法266か日は,韓国商法と異り,監査役(第5節)の箇所で,結論的には同   様の趣旨のことを明示している。すなわち,「監査役が会社または第三者に対して損   害賠償の責任を負う場合において,取締役もまたその責任を負うときは,その監査   役および取締役は連帯債務者とする」としている。また,タイの会社法では,韓国  商法や日本商法のように,第三者という表現を避けて,会社債権者という文字を使   用して,取締役に対する責任追及を可能にする条文を置いている。すなわち,「取   締役が会社に与えた損害についての取締役に対する賠償請求は,会社がこれを行   うことができるが,会社がこれを拒むときは,株主がこれを行なうことができる。

  前項の請求については,会社債権者もまた会社に対する債権の履行を受けていない   限度でこれを行うことができる」と定めている(1169条参照)。

  これに対して,インドネシア会社法では,まず原則として,取締役は会社に対する責   任を負うものであり,第三者に対して責任を負うものではないことを明らかにしてい   る。ただ取締役が定款に違反する行為をなした場合にのみ,第三者に対する個人責任   が問われるものとしている。すなわち,「取締役の責任は,与えられた職務を,最善   をつくして遂行することを超えない。取締役は,第三者に対して,個人として責任を   負うことはない。ただし,取締役が,設立証書の定めまたは設立条件もしくはその後   変更された規定または条件に違反したときは,それにより第三者が受けた損害につい   て,おのおの個人として全責任を負う.」(45条)と定めている。なお,フィリピン会社法で   も,取締役が権限鍮越を知りながら,あるいは知り得べきでありながら,行ったその   権限をこえる行為については,取締役個人として会社におよぼした損害を賠償する義   務があると明言する。また,マレーシア会社法132条によれば,取締役の善管注意義務   について規定をしているが,第三者に対する責任は明示していない。なお,アメリカ   では,取締役と役員の責任は厳重に規定されている。従って,取締役や役員は,自己   が責任を負わないように事前に注意をしているばかりか,また責任を負わされる場合   に備えて,事前に責任保険に加入していることもある。(並木俊守「アメリカのビジネス法」

  116頁,同「アメリカ会社法」179頁以下)。イギリス会社法によれば,取締役の対第三者に対   する責任関係として,次の2点を指摘していることを付記しておきたい。まず,その

(15)

取締役と韓:国商法       15

 第1点としては,取締役が会社のためになした契約であるが,その場合は会社自身が  第三者に対して責任を負わなければならないとしている。第2点としては,取締役が  その職務の執行にあたって,故意に目論見書に虚偽の事害を記載するなどして,不法  行為をなしたために,第三者に損害を加えたるときは,会社はもちろん,取締役も被  害者に対し℃,揖害賠償の責任を負うことにしている。Leeds Estate,Building and  Investment Co.v. Shepherd(1887),36Ch。 D.787;Faure Electric Accumulator  Co. v. Phillipart(1888),58L. T.525.これらのケースでは,取締役の連帯責任を判  示する。詳細は,拙著「英米商事法概説」54頁参照。

6 結

 日本と韓国とは,政治,経済,社会,文化など多方面にわたって,密接な関係にあり,

最:近では,企業相互間の人的物的な交流もますます盛んとなっている6アジア諸国のなか でも,最も近接している韓国の商法ことに会社法を研究することは,企業の経営者にとっ て,現地法人の設立や合弁企業による経営参加の気運が高まれば高まるほど,その重要性

を:増しつつある。とりあえず本稿では,経営者すなわち取締役の業務執行に伴う責任帰属 のいかんについて,多少考察を試みてきたが,端的にいえることは,ほとんど法制度上の 仕組みが,日本と酷似しているために,わが国で立法上あるいは法解釈上問題となること は,韓国でも同様に問題として提起されるごとになろう。今後も,経営法学の観点から,

引き続き株主総会,監査役などの会社機関を中心に検討を進めていきたいと思う。

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