開放経済における集中と競争
開放経済における集中と競争
田 中 茂
89
和
I II
III
w
V
皿
序 論
産業組織論と国際貿易論 貿易依存度と競争 外国競争の計測尺度 輸入競争と利潤率 輸出機会と利潤率
利潤率決定における国内要因と国際要因 修正集中度の確立
結びにかえて
1 序
論利潤率と集中度の関係については,ペインの先駆的な論文(Bain〔1951〕)が発表され て以来,数多くの理論的および実証的研究が相次ぎ活発な議論が行われてきた。産業の集 中度と利潤率の関係について分析する場合,まず明らかにしておかねばならない事は,い ユ
かにして集中度・利潤率を計測するかである。
集中度については四つの集中度指標が利用可能である。すなわち,生産集中度(CRi,i=
3.4.5……),累積集中度(ローレンツ曲線L)〜・一フィンダール指数(H),エントロピー 指数(E)である。これらの集中度指標の比較優i位・劣位については,デーヴィス(Davies
〔1979〕)が等集中曲線というユニークなトヴールを用いて検討している。一方,利潤 率の計測方法には二つのアプローチが存在する。一つは価格・費用マージン(PCM)メ
ソッドであり,いま一つは資本収益率(RC)メソッドである。両メソッドの費用・便益 については,フィリップ(Phillips〔1976〕)によって考察されている。
このように集中面一利潤率分析は,市場構造(集中度)と市場成果(利潤率)を計る適
* 本論文をまとめるにあたり,この問題に意欲的な取り組みをみせている関西学院大学土井教之助教 授から多くの有益な示唆をうけた。又,文献の所在に関して京都大学馬場正雄教授の助力をえた。記し て謝意を表したい。この問題については,馬場〔1979〕が小論ながらすぐれて啓蒙的なサーヴェイをな
している。
1.市場構造と利潤率に関する諸研究のすぐれたサーヴェイがShepherd〔1979, Chap.13〕および Weiss〔1971〕で与えられている。
切な尺度という基本的な問題を有するが,本論文で関心が寄せられるのは,集中度計測に おける市場範囲の定義である。すなわち,これまで産業組織論において無視されてきた市 場構造の国際的諸要素に注目する。それらは国際貿易と対外直接投資から構成される。し かし,以下では前者のみとり上げることにする。子会社生産と利潤率との関係は,貿易と 利潤率との関係よりも理論的予測においてさえはるかに複雑多岐にわたる。紙数の都合と 予想される錯綜した関係の二つの理由から,対外直接投資の側面については,稿を改め別
の機会にゆずりたい。
集中度と利潤率との関係において,国際貿易がいかなる影響を及ぼすのかという問題が ヨ
ここでの主要関心事である。この問題についてはエスポジトニエスポジト(Esposito&
Esposito〔1971〕)の研究に端を発して,これまで若干の分析が行われてきた。われわれ はこれまでに行われた研究成果をふまえながら,開放経済における集中度一利潤率分析の 適切なフレイムワークを模索しようとする。
その予備的な作業として,産業組織論,国際貿易の理論が,今日までこの問題に対して どのような対応をみせてきたかをみる(第II節)。次に集中度一利潤率分析に国際要因を導入 する意味を吟味する(第III節)。国際要因を導入する場合,まず問題になるのは外国との競
ヨ
争をはかる上で望ましい尺度は何かである。この点については第IV節で論じられる。外国 との競争をいかなる尺度で計測するにせよ,その場合国際貿易がどのような影響を利潤率 に及ぼすかについて,国際貿易論および産業組織論の観点からどのような仮説(理論的予 測)が導かれるかは,検証結果を理論的に解釈する上で重要である。それについては,様 々な相対立する仮説が共存する。第V節,第VI節ではそれらについて,輸入競争と輸出機 会に分け整理される。これまで国内要因しか考慮しなかった集中度一利潤率分析に国際 要因を導入するとき,国際要因が,国内市場における集中および競争の程度をいかなるウ エイトをもって説明しうるかという点が気がかりである。それについては第皿節で検討さ れる。最後に一歩進んで,国際要因を直接集中度指標の中で考慮する方法,外国との競争
2.対外直接投資と輸出が,外国子会社の輸出行動をつうじて何らかの相互依存関係にあるならば,対 外直接投資と国際貿易とを切りはなして利潤率との関係をみることは,不十分な成果しかもたらさない であろう。この点は,別稿で論じなければならない残された問題である。
3.外国との競争(国際貿易)と利潤率との関係についての諸研究はCaves〔1974〕,土井〔1977〕,
馬場〔1979〕により展望されている。
4.外国との競争(foreign competition)という場合,輸出機会を含まず単に輸入競争をさすことが多 い。この認識は自由貿易の最:適性定理に通じ,輸入の競争促進効果(正の資源配分効率効果)を暗黙の 内に仮定している。例えば,外国との競争,輸出機会というように並列して用いられる。その場合には,
輸出機会が競争促進効果をもつか否かについて,一一義的な判断ないし予想を留保する志向が働いている といえよう。ただし,輸出機会,輸入競争が,ともにその資源配分効率効果において同等であるという 考えに基づいて,両者を一括して外国との競争とよぶ場合がないわけではない。
開放経済における集中と競争 g1 に関して調整された集中度指標の確立について考察する(第V皿節)。
以下ではできるだけビブリオグラフィカルなサーヴェイにおちいることをさける。した がって,ここでの課題に関する既存の諸研究の内容については,末尾の付表1および付表
IIの要約にとどめている。また,この種の実証分析については,その統計的検定方法の適切 さ,データのアヴェイーラビリティといった事が重要なかかわりをもつが,本論文では,それら について最少限にとどめ,余り注意が払われないことをあらかじめお断りしておきたい。
II 産業組織論と国際貿易銀
産業組織論
産業の集中度と利潤率に関する仮説を検定する場合,仮説がかかわっているのは,厳密 には理論上の産業についての売手集中の利潤率に対する関係である。産業組織論における 売手集中の利潤率との関連についての分析は,産業の選定に関して,国内の生産額に比
して輸入される割合がとくに大きいような産業を,あらかじめ除外する立場をこれまで一 貫してとってきた。いうなればこうした姿勢は,そのような産業の国内生産者のみでの集 中度が,利潤率に対してそれ程大きな影響を及ぼすとは考えられないという判断に基づい ている。産業の売手集中度と産業利潤率の関係について仮説を検討する際には,標本とな る産業をどのようにして選定し,その売手集中度を具体的な資料からいかにして計測する かというこのについて慎重な配慮が必要となる。 ペイン(Bain〔1968〕, pp.128−137)
はこの点に関して,「理論上の産業」と「センサス産業」の違いを指摘し,仮説の検定に とって問題となるのは理論的な産業の集中度であり,そのためには多数のセンサス産業 が,標本から除外されねばならないことを強調している。
ペインの研究以後アメリカを中心として,集中度と利潤率についての研究が数多くあら われたが,そうした展開にあってはとくに高い輸入比率をもつ産業は,例外的なケースと して考察対象からはずされるのが常であった。せいぜいアメリカ企業の子会社からの輸入 ということで輸入競争は看過されてきた。
しかし,生産の集中度と売り手の集中度の相違は,他国で生産された商品が,国内市場 に輸入されて販売される場合にはとくに重要である。産業組織論において,市場構造の最 も基本的かつ重要な要素と考えられている集中は,本来「売り手の集中」であり,「生産 の集中」ではないのである。この点についてステイダラー(Stigler〔ユ968〕, p.43.)は,
企業の独占行動を適確にあらわす指標を見い出す困難を克服するため調べなければならな い側面の一つに輸出入を考慮して市場規模のさまざまな測定値の影響が挙げられている。
さらに産業組織論で,伝統的に取り入れられていない外国貿易などを考慮することは,専 門家にとって興味深い材料と問題が秘められていると述べている。
また日本における集中度一利潤率分析の先鞭をつけた小宮は次の様に述べている。輸入 との競争関係を無視して計算された,生産の集中度およびその他の市場構造変数をもって
独占度を表わすという考えは,理論的にまったく誤りであると主張している。センサス集 中度は生産の集中を表わすものであって,市場集中の指標たりえない(館・小宮〔1964〕,
pp.393−395.)。
以上のように,産業組織論においてはその重要性にもかかわらず,外国競争を無視した まま市場構造と市場成果の関連が考察されてきたといってもいいすぎではない。もっとも 国際貿易を考慮に入れることにより,生産集中度が市場集中(売り手の集中)をできるだ け反映するように調整する作業には,利用可能なデータ上の制約という困難がないわけで はない。
以上,産業組織論において,資源配分効率からみた市場成果と市場構造の諸要因の関係 についての研究は,市場構造の国際的諸要素を無視した結果,諸国民経済の相互依存性の 高い今日の開放経済体制の下では,真の市場集中を示しえないと論じられた。
国際貿易論
ところでそれに対して国際経済学,とくに国際貿易の理論において,産業ないし企業の 布場支配力は,外国貿易との関係でいかなる取り扱いをうけてきたのであろうか。われわ れが,この問いに対してすぐに思いおこすのは,国際貿易理論の基本的定理の一つとして 存在する「自由貿易の最適性」定理である。「小国」の仮定から導かれるこの定理は,た とえ当該産業が国内市場において何らかの独占的市場支配力をもっていても,自由貿易の 開始は外国の潜在的競争者の国内市場への参入を引きおこし,競争を促進させ,独占利潤 を排除する。こうして自由貿易は資源配分効率を改善させる結果,経済厚生を高めうると いう帰結をもたらす。結局,輸入競争にせよ,輸出機会が開かれるにせよ,いずれも資源 配分効率効果はポジティヴであることを内包する。
世界市場は国内市場に比して競争者の数が多く,通常かなり競争的な市場と認識されて いる。それゆえ国際貿易と独占的要素との関連は,ダンピングなどの限られた分野におけ る理論を除いては,今日まで理論展開の著しく遅れた分野であるといわざるをえない。国 際貿易の理論分析において,輸送費用,関税という形での考慮を除けば,通常国内市場に 対する外国企業の参入(輸入)について,国内の輸入競争企業との問で参入障壁は存在し ないと暗黙の内に仮定されている。
貿易を上回る伸びで急速な成長をみせている今日の対外直接投資現象について考えると き,この暗黙の仮定の成立は,一層疑わしいものとなろう。貿易にせよ,対外直接投資に せよ国内市場に対する外国企業の参入,すなわち,国籍を異にする企業の市場参入に対す
る参入障壁の問題は,単にそれらの資源配分効率上の分析に限らずきわめて重要な課題で
ある。
産業組織論においては,X効率概念を用いて独占の資源配分効率に及ぼす影響について,
量的推定が試みられている。しかし,それとは対照的に,自由貿易の競争促進効果につい
開放経済における集中と競争 − 93 ら て実証研究はほとんどなく,その経験的証拠はほとんど何も示されていないのである。
センサス集中度の偏向
輸出入を考慮しないセンサス集中度は,轍入を排除することによって国内市場での外国 競争を無視し,国内企業の輸出をあたかも国内市場で売られるかのように扱っている。し たがって,輸入割合が大きい産業では,売手の国内における独占的地位が過大評価され,
輸出割合が大きい産業では逆に過少評価されることになる。また外国企業の参入を経験す る産業においては,輸入品との競争と同様にセンサス集中度は,国内市場における競争の 程度を正しく反映しない。したがって,これまでのように例外的なケースを排除するとい うのではなく,貿易,対外直接投資などをつうじた外国との競争を明示的に取り扱うこと が要請される。戦後のIMF・GATT体制の下での貿易および.資本の自由化の進展に伴う 外国競争のウエイトの高まりを考えると,このような方向での展開は,理論的にも政策的 にも重要な意味をもつであろう。
市場範囲の定義にかんがみて,センサス集中度の真の市場集中との乖離が世界経済の自 由化動向といかにかかわりをみせているかについては,輸出依存度,輸入依存度の推移を みればうかがえる。1960年〜1970年の10年間での主要先進諸国の両依存度の上昇傾向をみ ると,第1表のようになる。
第1表輸出依存度,輸入依存度の時間的変化
単位(%)
輸出依存度(輸出総額国内総生産)
轍依存度(輸入総額国内総生産)
ベルギー・ルクセンブルグ 12.1 9.8
カ ナ ダ 4.2 0.7
西 ド イ ツ 2.2 1.7
日 本 0.4 一〇.8
イ タ リ ア 3.9 2.8
オ ラ ン ダ 1.9 2.7
イ ギ リ ス 2.0 O.6
ア メ リ カ 0.4 1.2
出所:経済企画庁調査局編『国際経済要覧』1974.
したがって,以上の輸出入依存度の年次数値(当年価格値)の単純比較の結果は,外匡 貿易を除外することによって生じるセンサス集中度の偏向は,年々大きくなっており,真 の市場構造を反映しないことを物語る。集中度一利潤率分析の多くがアメリカの国内市場
5.こうした国際経済学の立ち遅れは,Caves〔1974〕, Chap.2.における外国貿易と市場成果につ いての実証研究の引用の多くが,国際経済学の側からでなく,産業組織論側に求められていることから
も十分にうかがえよう。
を対象としていることは,すでに指摘したところであるが,先進諸国間の中でアメリカは,
貿易依存度が依然としてきわめて低い水準にとどまっている。ちなみに1972年の輸出依存 度,輸入依存度は,それぞれ4.2%,4.6%であった。
かくして個々の産業ないし商品市場はさておき,貿易依存度が高く,外国企業子会社生 産のウエイトの大きい他の先進諸国に比して,概して外国競争の影響をさほどうけないと 予想される。シェパード(Shepherd〔1972a〕, p.38,)が,イギリスとアメリカの市場構 造および市場行動についての分析を行うなかで導いた,輸入競争が集中度に及ぼす影響 についての計測結果は,興味深い。注目されるのは,1958〜63年にかけて輸入を考慮した 場合,上位5社集中度50%水準を境として輸入ウエイトの時間的趨勢が,イギリス産業に おいて対称的な動きを示していることである。すなわち,1958年に比して1963年には集中 度50%以上の産業の輸入ウエイト調整ずみの売上高シェアは拡大し,50%以下の産業のシ ェアは減少した結果,前者のシェアは増加傾向をみせた。以上の観察結果は高集中度産業 と低集中度産業との間で輸入競争の集中度へのインパクトが異なることを意味している。
以上検討してきたように,集中度一利潤率分析における国際的諸要素の導入は,産業組
織論,国際経済学両分野にかかわる重要な課題である。開放経済における集中度一利潤率 の関係についての研究は,国際貿易の理論と産業組織論から幾つかの命題を引き出す作業,
それらの仮説を適切と思われる方法で検証する作業,そして得られた検証結果の解釈する 作業の三つから構成されよう。この問題に関して未成熟な理論水準を考えれば,われわれ は仮説の検証方法,検証結果の解釈の両面において慎重な配慮を払わなければならない。
III 貿易依存度と競争
既存の諸研究
外国との競争(輸出機会および/ないし輸入競争)を考慮した集中二一利潤率について,
エスポジト;エスポジトに始まり今日までそれほど多くの分析がみられたわけではない。
それらについては,その分析方法の特長と検証結果が容易に比較可能できるように,末尾 の付表1で要約されている。
それら諸研究は,共通して市場成果の基準としての利潤率を従属変数とし,市場構造の 基本的諸要素である生産の集中度,噺規参入の難易,企業規模,需要の成長率等を独立変数
として回帰分析を行う方法がとられている。したがって,外国との競争は輸出機会・輸入 競争・対外直接投資等の国際的諸要素を,市場構造に関する独立変数として付加的に考慮
される。これまで発表された分析は,先進諸国を考察対象とするものが圧倒的に多く,わ
6.ハーヴァード大学のケイヴズ教授は両分野に精通し,産業組織論と国際経済学の有機的総合に多大 の貢献をしている傑出した存在であるといえよう。
開放経済における集中と競争 g5 ずかにハウス(House〔1973〕)が開発途上国を取り扱っているにすぎない。しかもその 分析はLDCにおいてとくに強い分析上の制約条件となるデータの不備から,集中度以外 の市場構造変数は資本・産出比率に限定され,外国貿易と他の市場構造変数との相互依存 性について知るべくもない。そして先進諸国の中でもとくにアメリカ・カナダに偏りをみ せている。
国の経済規模と貿易依存度
外国との競争の程度はすでに指摘したように,マクロ的には貿易依存度の水準によって 大よその見当がつけられる。他の事情にして等しければ,センサス(生産)集中度の真の 市場集中との垂離の程度は,貿易依存度の大きさに比例的であるといえる。
GNP
(百万米ドル)
1,000,000
500,000
100,000 40,000
30,000
20,000
10,000
● 1
アメリカ iI
西ドイツi ● ●イギリス日本 ● ● ; フランス●イタリア
● i カナダ1 .iコ
スウェーデンi オランダ ●
; ベルギー・ルクセンブンレグ 1 ●
i スイス
オーストリアi● ●デンマーク
i ノルウェー ●ニュージーランド
0 10 20 30 40
第1図 国の経済規模と貿易依存度(1971年)
50 輸入依存度(%)
出所:第1表に同じ。
そこで国の経済規模(GNP)と貿易依存度(輸入依存度)を同時にみると,第1図 のように二つのグループに分かれる。すなわち,アメリカ,イギリス,フランス,西ドイ ツ,日本といった大国では貿易依存度は相対的に低い水準にある。一方ルクセンブルグ,
デンマーク,オーストリア,ニュージーランド,ノルウェー,スイス,ベルギーなどの小 国では相対的に高い貿易依存度をもつ。
大国の中でも他の国々は,貿易依存度が輸出ベースでも輸入ベースでも10%以上の水準 に位置するのに対して,アメリカは4%水準とかなり低い。それゆえ,マクロ指標である
7・ 理論的には貿易収支が均衡していれば,一国の貿易依存度は輸出,輸入のいずれのタームではかっ ても同じ値をもつ。実際的には輸出依存度,輸入依存度は無視できないほどのへだたりをもたない。
貿易依存度を,直接一般集中でなく市場集中に結びつけるわけにはいかない。それでもな お貿易依存度が最も低いグループに属するアメリカについて,外国競争の利潤率に与える 影響をみる場合,対象とするに適切でないとする考えはおおむね支持されよう覧
国の経済規模と国内集中度
国の経済規模と貿易依存度の関係に加えて,いまひとつの関係に注意しなければならな い。それは国の経済規模と集中度の関係である。国の経済規模からみて,小国とされる国 では集中度が高くなる傾向がある。しかし,小国における本来的に高い集中度は,さきの 小国ほど貿易依存度が高いという関係から,輸入をつうじての競争が激しいと予想される。
したがって,生産の集中度からみれば市場集中の程度が大きいと判断される=場合において,
外国との競争を考えるならば真の市場集中よりも上方のバイアスをもっていると判断 されよう。
カナダの場合は,カナダ以外とくにアメリカ系企業によって支配されている巨大企業の 比率が高い事実からみて,対外直接投資の産業利潤率に与える影響を検討する上で恰好の 対象となりうる。
IV @外国競争の計測尺度
貿易をつうじる外国からの競争圧力が国内の市場成果,とくに利潤率に対してどのよう な影響を及ぼすのかを明らかにしょうとするとき,幾つかの接近方法が考えられる。これ までの所,それを正確に反映しうると期待される計測尺度は確立されていない。
外国競争
輸入競争についてはまず第一に,外国との競争の程度を輸入の相対的規模をもって測る 方法が考えられる。第二の方法として関税を一つの参入障壁と考え,関税による産業保護
との関係で輸入と利潤率との関係を説明しようとするアプローチがある。
前者の方法は,輸入競争の代理変数として輸入比率(産業の輸入総額の対出荷額ないし 売上高,または生産高に対する比率,MR)を用いる。後者の方法は,名目関税率(NT)
ないし実効関税率(ET)が,外国輸出企業に対する国内市場における参入障壁の高さを 表わすことが前提される。又関税とならんで非関税障壁(NTB)で輸入競争の程度を測
8.シェパード(shepherd〔1972 a〕, pp.40−41)は,アメリカとイギリスの比較分析の結果,イギリ スにおいて輸入をつうじる対外競争の程度はアメリカに比して大きいという結論を述べている。
9.パグラトスーソレンセン(Pagoulatos&Sorensen〔1976b〕)は, E E C諸国についての実証分 析の結果,小国で貿易依存度が高い国程国内産業集中度は国内産業の独占力を正確に反映しないことを
裏付けた。
開放経済における集中と競争 g7 ることも考えられる。末尾の付表1で明らかなように,既存の諸研究はいずれかの方法を 用いている。一方,輸出が競争や市場成果に及ぼす影響については,海外市場での競争の 程度を輸出の大きさによって測定する方法しか今の所工夫されていない。輸出比率(XR)
は輸入比率と対になる概念であり,後者と同様に定義される。
国際貿易の理論においては,国で生産されるすべての財を三財モデルで扱うとき,通常 輸出可能財,輸入可能財,国内財に区分される。そうした三分類に即していえば,輸出可 能財は輸出比率の大きい財,輸入可能財は輸入比率の大きい財に対応し,いずれの比率も 無視できるほど小さい場合には国内財に分類されよう。その意味では輸出比率,輸入比率 は,目新しい概念ではない。以下では外国との競争を輸出,輸入に分け,最初に,輸入を ユむ つうじる外国競争圧力の代理変数として適切なものは何かという問題を論じよう。
輸入競争(M)
産業組織論によれば,市場における競争の程度は,競争単位の数とその規模の分布に関 係している。これらの要素は産業集中度概念によく反映されている。それほ二つの要素,
すなわち,その産業における企業数とそれら諸企業の市場シェア格差(規模格差)から構 成されている。
このことは,輸入競争の尺度として輸入比率を用いる場合,とくに注意を払わなければ ならないことを示唆している。けだし,輸入比率が産業間で同一水準にあっても,外国輸 出企業数と規模格差の異なった組み合わせをもつ場合,輸入の国内市場成果に及ぼす影響 のしかた,程度において同じであるとはいえないからである。これらの識別不可能なケー スは,支配企業モデルによってよく説明される。つまり,外国輸出企業が大規模な支配企 業である場合と自国企業が大規模な支配企業である場合である。このように輸入可能財市 場において,支配企業が外国企業かそれとも国内企業かによって,同じ輸入比率でも国内 ユユ
市場に与える競争のインパクトは違ってくる。
産業組織論が外国競争の適切な尺度の選択について教える第二の点は,集中が企業の
「現実」の市場における競争者の数を反映するのとちょうど同じように,参入条件は「潜 在的」競争者についての事情を明らかにするものであることにかかわる(Caves〔1964〕
p.34)。輸入競争の代理変数として,輸入比率,関税水準のいずれを用いるにせよ,現実の 輸入競争ばかりでなく潜在的なそれも無視できない。
10.輸入競争の程度を正しく表わす尺度をめぐって,Pagoulatos&Sorensen〔1976 c〕, pp.429−430
が示唆にとむ。
11.支配企業モデルと国際要因の関係については,Hitiris〔1978〕参照。残念なことに外国競争に対す るモデルのインプリケーション,そして統計的検定方法とのかかわりについてはほとんど言及されてい
ない。
輸入比率は現実の競争を表わすにとどまり,潜在的競争を無視している。その意味にお ユ
いて輸入比率は,輸入競争の適切な指標たりえない。この点についてケイヴズは次のよう に述べている。
国内企業の利潤率を制限するのは厳密には輸入品のシェアではなく,国内価格が競争水 準以上に上昇するときの輸入品の供給弾力性である。輸入比率は「事後的」な数値であり,
したがって,その小さい比率でも輸入品の弾力的供給,すなわちより低い利潤率しか支え ない輸入品に対する「制限価格」を反映しているかも知れない(Caves〔1974〕, p.6))確 かに輸入比率が小さい場合,潜在的競争者の存在を無視するきらいがあると思われる。
かくして,輸入比率は企業規模の格差,潜在的競争の無視という二つの点で,輸入競 争を正しく反映しないおそれが十分予想されることが明らかになった。それゆえ輸入比率
を用いての検証結果は,その解釈において十分な配慮が払われる必要があることを強調し ておかねばならない。
次に第二の代理変数である関税に議論を移そう。外国企業の貿易面での参入障壁として は,輸送費以外では関税障壁および非関税障壁(NTB)があげられよう。NTBはその 形態が多様かつ複雑であり,そのため比較可能な客観的基準としての要件に欠けるむきが大
きく,実際われわれにとって利用可能なものはやはり関税率(名目関税率:NT,実効関 ユ関
税率:ET)に限られると思われる。
とはいえ参入障壁としてのNTBの重要性を否定するわけでない。例えば日本の場合,
これまで製造工業品の輸入が非常に少なかった理由として,輸入割当,関税などの直接的 な原因と同時に販売網などの流通面での参入障壁が大きいことが,しばしば引き合いに出 される。そして,GATT体制の下での関税一括引下げが促進されるにつれ,参入障壁と して関税よりもむしろNTBが重要となり,今後その重要性は一層の高まりをみせるもの と考えられる。
関税は差別関税でない限り,既存の外国輸出企業のみならず潜在的外国企業にも適用さ れるものである。したがって,輸入比率の門下的競争者を考慮していないという難点を,
関税はガヴァーする意義をもっている。しかし,関税率の引き下げによる輸入増大効果 は,引き下げ後一定期間を経ないと表われない。このことを念頭におけば,輸入自由化措 置がとられてからある一定の期間を経た産業サンプルを用いなければ,輸入競争と利潤率 ヒ
12.ただし,エスポジトーエスポジトは,輸入比率は外国との潜在的競争を示しうると主張している。
Esposito&Esposito〔1971〕, p.345参照。
13.NTBを用いた分析は, Pagoulatos&Sorensen〔1976 a〕にのみ,みられるにすぎない。 N T Bと 利潤率との間に有意な正の相関がえられたが,NTB水準は各SITC商品グループにおけるNTBの ある商品のパーセントで定義されている。NTBの客観的指標を模索する作業は,その重要性からみて 一層のつみかさねが今後なされる必要がある。
開放経済における集中と競争 ・ gg との間で有意な関係が期待できないことになる。いいかえれば,分析に際して比較的長期 にわたる時系列データを用いる必要性が指摘される。
関税を輸入競争の代理変数として用いる場合,名目関税率と実効関税率のいずれがより 適切であろうか。名目関税率を用いる理論的根拠は,輸入品の landed price が依存する のは名目関税率であることに求められている(Bloch〔1974〕)。名目関税は価格水準を左右 するが,ヒティリス(Hitiris〔1978〕, p.110),マクフェトリッジ(Mc Fetridge〔1973〕,
p∫346)が指摘するように,生産コストを含めて企業の超過利潤に関係するのは実効関税 保護である。
しかし,関税保護が国内産業の確立ないし存続を保証するレヴェルで認定されることを 前提とすれば,関税水準は国内平均費用との関係で決定され,国内生産者の潜在的利潤と 無関係であるとも主張されうる。もとより関税は,その水準それ自体が外国企業に対する 参入障壁の高さをそのまま示しているとはいいがたい。外国企業の他の側面での優位性を ユ
同時に考慮する必要があるし,また非効率的 な保護関税(redundant tariff)の問題もあり,
関税水準と実質的な参入障壁の高さとの間に差が生じる可能性は十分に考えられる。
輸出機会(X)
輸出機会の利潤率に及ぼす影響をみる上で,輸出機会の代理変数として輸入比率に対応 する輸出比率(XR)がある。
輸入競争の利潤率に及ぼす影響は,非競争的な輸入を除けば,理論上おおむねポジティ ヴであると予想されるが,輸出機会に転ずれば事は複雑になる。海外市場では競争者の数 が多く,国内企業の新規参入が単なる競争者の付加にすぎなければ,輸出比率は国内産業 の利潤率と負の相関をもつといえそうである。しかし,利潤率が比較的高く,しかも輸出 比率も高い産業の場合,その高い利潤率が国内市場での販売に依るとは必ずしもいえない。
負の相関でなくむしろ正の相関が輸出と利潤率の間によりはつきりと期待されるのは,輸 出企業が海外市場においてダンピングを行う場合である。そしてダンピングは,理論の教 えに従えば,規模の経済と必ずしも無関係ではない。この関係は輸出活動が規模の経済を つうじて,集中度にフィードバック効果をもたらす可能性を示唆する。
かくして,輸出比率が外国との競争の程度を体系的に示しうるかという点については,
あいまいさがつきまとうのである。とはいえ今の所,輸出比率以外に輸出機会に関する適 切な尺度は見当らない。
14.リダンダント・タリフについては,Fishelson&Hmman〔1979〕参照。
V 輸入競争と利潤率
輸入と競争
理論的には他の事情にして等しければ,輸入は国内市場において競争促進作用をもつと 考えられる。この点について,これまでなされた実証研究の成果をみると(付表1参照),
輸入と利潤率について予想される負の相関関係が証拠づけられたとはいいがたい。表で要 約された諸研究は,カナダ,アメリカにかたよっている上に,分析期間ないし時点,利潤 率および輸入競争の尺度,考慮された市場構造変数そして産業サンプルの分類および範囲 等々に関して多種多様である。
このように分析手続が異なっている以上,輸入の市場成果を各々の検証結果によって単 純に比較することは危険を伴う。そこでとりあえず,接近がなされた国民経済ごとに内容 をみてみると,日本およびイギリスについてはおおよそ有意な負の関係がみられ,アメリ カ,カナダについては有意,非有意双方にわたっていずれの関係もみられ,確定的なこと はいえないことがわかる。
既存の諸研究の検証結果の多くは,有意な負の関係を輸入と利潤率の問に見い出してい る反面,有意な正の結果を得ているものもあり,何とも判断がつきかねるというのが現状 である。前節では,実効関税率が他にすぐれた尺度が工夫されないかぎり,輸入競争を示 す尺度として今の所最も適切であると主張された。さきの議論において,輸入競争の利潤 率に与える影響について,一義的な予測が成立しうることを前提としていたわけではな
い。すでに詳述したように,国際経済学の教えからは輸入競争の利潤率に与える影響につ いて,アプリオリな負の関係が期待できそうである。しかし,輸入比率,関税率いずれの 尺度を用いても,理論的な予測は明確でない。
輸入競争の資源配分効率効果が弱められる場合を考えよう。輸入は国内市場における競 争者の数を増加きせ,その結果産業の利潤率を低下せしめる。しかし,国内市場における 競争の激化は,同時に既存企業の市場確保を理由とする合併などをつうじて,逆に集中を 促進させる可能性がありうる。そうしたことがおこらなくても,製品の差別化などが外国 企業にとって参入障壁となり,競争を促進しないおそれがある。もっとも外国輸出企業が すでに外国市場での販売経験を多く積んでいれば,さほどの追加的投資を必要とせず,製 品の差別化要因などが輸入をつうじた国内市場での競争の妨げとなる可能性は低下する。
又消費者の舶来志向も同じ効果をもつであろう。
製品の差別化はいうまでもなく,流通等販売面での参入障壁を含む。ちなみに日本の製 品市場について,流通径路の支配をはじめとして製品差別化要素が,最も重要な参入障壁 となっているという事実が指摘されている。(植草益〔1975〕,PP。45−46)。流通チャネル
が最大の参入障壁となるような場合には,輸入比率,関税などよりもむしろ非関税障壁と の関係で,輸入競争と利潤率の関係をみなければならないであろう。
開放経済における集中と競争 101 製品の差別化とならんで,輸入競争の資源配分効率効果を弱める要因として,寡占企業 の相互依存性は無視できない。ケイヴズは,寡占企業間の相互依存関係が国境をこえても みとめられるとして,次のように考えた。その相互依存関係は国内企業間において強いの
に対して,外国企業と国内企業との間において弱い。そのように考えられる根拠は,差別 化寡占の場合その製品差別化は,国内市場において固有のものであるという判断に求めら れる(Caves〔1974〕, p.11−12)。
以上の論理から,輸入競争に直面した国内競争企業の行動について,9国内企業は価格引 き下げによる市場シェアの確保に努めるよりも,放棄する方法を選ぶ可能性が大きいこと が示唆される。こうした企業行動は,アメリカの鉄鋼産業における経験的事実によって裏 付けられる。
クラウズ,新野は1950年代後半において,国内鉄鋼価格の決定因として,外国との競争
(輸入競争)は意味あるファクターではなかったことを明らかにしている。つまり唱 C輸
入による国内市場の侵蝕に対して,管理価格と独占利潤の確保を追求した結果,輸入に対 する価格反応がみられなかったのである(Krause〔1962〕,新野〔1970〕, pp.177−180)。
このようにみてくると輸入は利潤率に対して必ずしもネガティヴな影響を与えるとはい えなくなるが,ここで問題としたいのはその検証方法にかかることであり,輸入と利潤率
との関係が,そもそも連続的なものであるか否かである。不連続性を仮定することは,一 ユらっに輸入に関して threshold effect の存在を仮定することに等しい。
また寡占の相互依存性の度合が,海外市場よりも国内市場において強いことは,国内市 場における輸入シェアがある程度大きな水準に達して始めて,国内企業の価格反応(価格 引き下げ)がみられ,輸入競争の利潤率に与える影響が明白になることを意味する。した がって,輸入比率と利潤率の関係は,連続的というよりはむしろ不連続であるといった方 が正しい。こうした臨界水準ないし不連続性を考慮する上で,輸入比率によって外国との 競争の程度をはかる場合,輸入の大きさによる二分法を用いることが望ましい。
輸入比率と利潤率
前節において,輸入比率を輸入競争の尺度として用いることは,潜在的競争を無視する 点で望ましくないと論じられた。この欠陥については,輸入の成長率(GM)と利潤率と の関係を検討することによって,ある程度回避できると思われる。
輸入比率が同一の産業において,当該時点ないし期間における輸入需要の成長率が大き い産業程,競争の程度が大きいとみなすことは理にかなっている。輸入比率が比較的小さ くても輸入成長率が大きければ,輸入比率は輸入競争の程度を過小評価することになる。
15.輸入比率水準に応じた三つのダミー変数を用いての回帰分析によれば,高位輸入水準産業について は回帰係数は有意で正の値をもつ。Jones, Laudadio&Percy〔1973〕参照。
その逆のケース,すなわち,輸入比率が大きな値を示していても,輸入成長が緩慢であっ たり,もしくは衰退傾向にある場合には,輸入比率は輸入競争の程度を過大評価すること になろう。その意味で注目されるパグラトス=ソレンセンの研究は,輸入比率,輸入成長 率がともに利潤率に対して有意な負の相関にあることを示した(Pagoulatos&Sorensen
〔1976a〕)。
輸入は他の事情にして等しく,かつ非競争的輸入がないものとすると,輸入は国内市場 における競争を促進させるというのが,国際貿易論における伝統的な認識であった。(第 II節参照)。このことは国際貿易の標準モデル(小国)において,国内の生産物市場におい て独占力が存在する場合の貿易利益が,独占に基づく資源のミスアロケーションの自由貿
易をつうじる改善の分だけ,完全競争のときに比して大きいと結論されることからも肯定
される。
しかし,輸入と利潤率との関係について,正の相関関係がえられるかも知れない。いま 国民所得水準の上昇によって需要が増大するケースを想定しよう。需要成長は一般に,利 潤率にプラスの貢献をしうると考えられている。国内消費財の需要を増加させる所得の増 大の一部は,消費財の輸入需要の増加をひきおこすであろう。あるいはまた,外国との競 ユ
争が国内企業の生産性改善努力のインセンチィヴになるかも知れない。以上の事は,輸入 が利潤率にプラスの影響を及ぼす可能性を示唆している。
このように輪入と利潤率の関係について相反する理論的予想が成立しうる。その結果,
輸入比率と利潤率との回帰分析において,前者の回帰係数がマイナス,プラスいずれの符 号をもつにせよ,それなりの解釈ができよう。しかし,輸入増加の原因が問題であり,輸 入需要の増加が所得効果よりも代替効果に主として依存するような場合には,輸入と利潤 率について負の相関が期待できそうである。
関税と輸入競争 .
関税を一つの参入障壁と考えた場合,一つのありうる推論は,関税はそれだけ国内生産 者が外国生産者の参入をひきおこすことなく設定しうる制限価格(limit price)を引き上 げ,その結果,他の事情にして等しいかぎり,関税は利潤率を引き上げる作用をするとい うものである。しかし,関税が外国企業にとって参入障壁となるのは,外国企業が輸出を 国内市場への参入の手段として選択する場合に限られるのである。他の代替的手段である 技術提携や対外直接投資は,この参入障壁をのりこえることができる。
関税工場の議論は,市場参入の形態からみると,関税水準に何らかの臨界水準が見い出
16.例えば,Caves&Jones〔1977〕, pp.146〜149.を見よ。
17.Jones, Laudadio&Percy〔1973〕, p.360を参照。しかし,そこでは利用可能なデータがないと いう理由で検証されるに至っていない。この仮説は見過すことができない。今後の検討が要請される。
開放経済における集中と競争 103 されうることを示唆する。その意味では関税水準によって輸入競争の程度を計測し,輸入 と利潤率の関係を分析する方法は,対外直接投資と貿易の相互依存性の考慮に基づいて行 わなければ,十分な成果を期待しえないであろう。
対外直接投資と貿易の相互依存関係については,冒頭でことわったように,ここでは立 ち入らない。それでもなお,関税と利潤率との間に負の相関が見い出される場合が生じる。
ユ
いま議論を単純化するために支配企業モデルを用いる。その場合産業保護の目的で賦課さ
れる関税がリリーヴァントであるケースは二つである。一つは支配企業が自国に属し,よ り小さな企業および潜在的参入企業が外国に属する場合である。いま一つは支配企業が外 国に属し,より小さな企業が自国に属する場合である。両者の間に正の相関が予想される のは前者のケースであり,後者のケースでは逆に負の相関が期待されよう。
国内市場が小規模企業集団でしめられているとき,貿易の自由化(関税率の引き下げ)
に対抗して,合併などをつうじて産業の再編成が行われることがよくある。そうした成り 行きは集中度の上昇を招く。このような場合には,関税の賦課それ自体が,国内市場にお ける競争の維持に貢献しているとみなせよう。それとは逆に国内大企業によって市場が支 配されている場合には,自由化は外国企業の参入を促進させ,結果として資源配分効率が 改善され,集中度の低下をひきおこすと考えられる。
以上をまとめると,支配企業が外国企業である場合と自国企業である場合とでは,関税 の利潤率に与える影響は相異なる。換言すれば,関税が国内市場において,独占力維持の 方向で作用する場合と競争の維持に作用する場合両方の可能性があると思われる。
ひるがえって考えてみると,関税を一つの参入障壁と考え,関税と利潤率について回帰 分析をなす方法において,両者の間にもともと連続的な関係が予測されるとはかぎらない
ことに注意せねばならない。この点については次の様に述べられる。
効果的な参入阻止の範囲内では,連続的な正の関係が,参入障壁の高さと利潤率の間に 予測される。しかし,同時に予測されることは,参入障壁に必要な最低水準を越えて継続 的に引き上げられても,それは利潤率に影響を及ぼさないし,また参入障壁が非効果的な 参入阻止と結びつく最高水準以下に継続的に引下げられても,それは利潤率に影響を及ぼ すことはないということである。したがって参入障壁と利潤率に関する基本的仮説を検定 するにあたって,われわれは単純化された関係よりも,複雑な関係を検定しなければなら
ない。
この関係とは次のようなものである。参入障壁がきわめて高位だが,その高さを異にす
18.Corden〔1974〕, PP.216−219参照。
19.保護関税の市場構造に及ぼす影響については,Eastman&Stykolt〔ユ967〕参照のこと。外国との 競争は資源配分効率のみならず,技術効率にも関係する。その意味で関税の競争および生産性に及ぼす 影響については,Eastman&Stykolt〔1960〕が詳しい。
るすべての産業の間では,長期利潤率は高いが,その高さはそれほど大きく相違していな いこと,参入障壁が相対的に低位だが,その高さを異にするすべての産業の間では,利潤 率は低いが,その高さは大きく相違しないごと,および参入障壁が高位・かなり高位・中 位の産業の間では,利潤率は前二者の中間の高さにあるが,参入障壁の高さに応じて変化 することがある(Bain〔1968〕, p.493)。つまり,ペインは参入障壁の高さと利潤率との関 連は,少なくともいくぶん不連続であると主張する。以上のペインの考えは,関税と利潤 率の関係を検討する場合,念頭におかねばならない。
輸入と集中度の相互依存性
利潤率決定において集中度,参入障壁の相互作用の問題は重要である。これまでの研究 からそれを図示すると,次の様になることが明らかである。輸入競争の尺度として関税,
輸入比率のいずれを用いるにせよ,外国企業を含め企業規模格差を明示的にとり扱うこと
利 潤
率高い参入障壁
低い参入障壁
集中度
利 潤
率 高い参入障壁
低い参入障壁
集中度 第2図 集中度・参入障壁・利潤率
ができないならば,少なくとも輸入と集中度の利潤率決定における相互依存の程度をしら べることが肝要である。
輸入比率と集中度の利潤率決定における相互作用については,第2図とほぼ同様の仮説 が立てられよう。すなわち,輸入比率の大きな産業では,その国内集中度は利潤率にほと んどもしくは全く影響を与えない。輸入がわずかな産業では,国内集中度は利潤率に正の
利 潤
率利 低い輸入水準 潤 率
高い輸入水準
国内集中度
低い輸入水準
高い輸入水準
国内集中度
第3図 集中度・輸入・利潤率
開放経済における集中と競争 105 インパクトを与えるであろう。かくしてこうした関係を図示すると第3図がえられる。
パグラトス=ソレンセン(Pagoulatos&Sorensen〔1976b〕)は,この輸入と集中度の 利潤率決定における相互作用に関する仮説を検証するために,集中度に輸入比率を乗じた
タームを用いた。仮説が正しく検定される場合には,この変数の回帰係数値は負の符号を とるものと予想される。その結果はEC5力国(ベルギー,フランス,イタリア,オラン ダ,西ドイツ)について,イタリアを除いて負の相関がえられている。またノイマン;べ 一ベル=・ハイドの研究(Neuman, Bδbel&Haid〔1979〕)は,もっと単純な方法で集中度 の決定において輸入比率が負の要因となることを示したが,その回帰係数値は他の決定要 因に比してかなり小さい。
一方,関税を一つの参入障壁と考えた場合,基本的には第2表であらわされた仮説が成 立すると考えられる。ブロックは関税と集中度の利潤率に及ぼす影響の相互依存性,そし てその影響力の不連続性の二つの理由から,関税と利潤率の関係をみる上で,回帰分析は 適切でないとして, 比較分析を行った(Bloch〔1974〕, p.602,脚注11)。すなわち,関税 水準(二分類)と集中の大きさ(二分類)に応じて産業グループを四つに分け,アメリカ 産業との比較で価格,直接コスト,利潤率についての指数値を求め,比較する方法をとっ ている。
そこで導かれた結論は,第一に関税と集中度は価格引き上げ作用について相互依存的で あるが,関税は二次的な影響力しかもたないこと。第二に,高い関税率は高集中産業での み高い単位費用と関係する。高関税が,高位集中における高い単位費用の結果である,と いつよりはむしろ原因とみられる。いいかえれば,市場規模に比して企業規模が大きすぎ るのである。この結論はイーストマン=スタイコルトの解釈と一致する(Eastman&Sty−
kolt〔1967〕)。第三に,関税が利潤率に影響するという証拠も,集中度の利潤率への影響 の程度が関税水準に依存するという証拠も示されなかった。かくして関税と集中度の相互 依存性については,これまでの所,確定的なことはいえそうもない。
VI 輸出機会と利潤:率
輸出と競争
前節では,輸入競争と利潤率の関係について,相対する幾つかの仮説を展望したが,輸 出機会と利潤率についても状況は変らない。付表1が示すように,輸出機会と利潤率の関 係についてこれまで行われた実証研究の問で,一致した観察結果がみられたわけでない。
有意な正の相関,有意な負の相関のいずれも得られた。
輸入競争の場合には,理論的には一応正の資源配分効率効果が期待された。しかし,輸 出機会に目を転ずると,一義的な予測がそもそも成り立たない。そのことは,完全競争の 仮定に基づいた国際貿易の理論の唯一の例外とでもいうべきダンピングを考えてみると,
明らかであろう。輸出企業が,その国内市場支配力を利用して差別価格政策をとることに よって,利潤を増加させうる余地が存在することは,差別価格の理論において周知のこと がらである。かくして,他の事情にして等しいかぎり,ダンピングが行われていなければ,
輸入比率と異なり,輸出の大きさ(輸出比率)それ自体は,基本的には国際競争圧力の高 さをほぼ反映すると考えられる。
国内企業の輸出経験が乏しければ,外国消費者の嗜好に合わせた製品を輸出するために は付加的な投資を必要とする。ただしそれは固定費用であることに注意せねばならない。
規模の経済の存在は,産業によっては国内市場における集中を高めるとともに,世界市場 での絶対コスト上の優位をもたらす。したがって,輸出をつうじての生産量の増大は,規 模の経済が集中度にフィードバック効果をもつ場合には,輸出と利潤率との間に正の相関
関係がみいだされる可能性は十分に大きくなる。製品の差別化と規模の経済が,広告支出 の不可分性をつうじて相互に関連する場合も同様である。
また,外国市場への参入は,企業にとってそれ自体リスキイな事業活動であり,それゆ え大規模生産企業はそのリスクの分散によって,相対的に有利な立場にあると考えられる。
かくして輸出機会と利潤率について,負の相関を強く期待することはむずかしく,複雑な 関係を検定しなければならないことが予想される。
産業内貿易論
今日の先進諸国間の貿易の大半は産業間貿易でなく産業内貿易によって説明されるとい われる。産業内貿易理論は,今日の先進諸国間貿易を考える上で,規模の経済と製品の差 別化を重要視しなければならないことを示唆する。すなわち,産業内貿易の原因は製品の 国際的差別化に求められる。しかし,その要因のみでは先進諸国間貿易の著しい拡大は説 明できない。そこに至っては規模の経済の存在が注目される。この理論は,輸出企業はと くに世界市場で需票をひきつける製品を販売する結果,海外で収益をあげることを示唆す る。この場合輸出は利潤率の増大に関係するであろう。
輸出リスク仮説
輸出リスク仮説とは,輸出がリスキーな事業であり,したがって企業がそれに従事す る場合には,輸出はリスク・プレミアムによって報いられる事業に違いないというものであ
り,それは輸出と利潤率との間に正の相関を期待させる。この輸出リスク仮説は,大企業
20.最近の研究によれば,輸出が集中度にポジティヴな役割を果すという興味ある検証結果が示された。
(Neuman, Bδbe1&Hald〔1979〕)。このことは輸出をつうじる規模の経済と集中度のフィードバック 効果を裏付けているかも知れない。
開放経済における集中と競争 107 ユ
が輸出の大半をしめるという経験的事実によって一見支持されるようにみえる。しかし,
大企業の輸出シェアが中小企業に比して高いことは,実は大企業について,研究開発支出 の対売上高比率が高いことに帰因するかも知れない。
輸出リスクの考えは,リスク・収益仮説に基づいている。しかし,この仮説に関して,
リスク・収益をめぐる資産選択は企業の収益,リスクと何の関係ももたないとする見方と,
他方では,それらと部分的な関係があり,それ故企業の収益率は,均衡においてある程度 のリスク・プレミアムを反映すると推測する見方の両方が存在する。
このようにこの問題は理論的にも経験的にも未解決のままであるが,もう一つの国際要 因である対外直接投資と利潤率の関係を論じるとき,再検討せねばならないであろう。
需要成長に関するケイヴズ仮説
市場構造の基本的要素として,需要面では需要の成長率が重視される。その場合需要の 成長率は,一般に利潤率にプラスの作用をすると考えられている。しかしケイヴズ(Caves
〔1964〕,pp.30−31)はそれとは逆の帰結をまねく別の仮説をたてた。それは競争産業 と寡占産業との間で,需要成長の利潤率に与える効果が異なるというものである。すなわ ち,競争産業においては,需要成長は利潤率に有利,寡占産業においては不利な動きをす
る。
この需要成長に関するケイヴズ仮説は,輸出との関連で一層の検討が必要と思われる。
需要成長は産業の売上高の増加で示されるが,ここで注目したいのは輸出増加率である。
今輸出比率が比較的大きい産業を考えよう。輸出比率が大きいほど,他産業に比べてそ の利潤率が高いものとする。そこで需要成長(輸出の増加)があったとき,当該産業が競 争産業であれば,それは利潤率にプラスの作用をする。寡占産業の場合には,産業間利潤 率格差の縮小に作用すると考えられる。もっとも輸出の成長は,外国需要の拡大によって 支えられる部分と,国内の供給のシフトに由来するものとに二分される。輸出増加が真の 意味で需要成長とみなしうるためには,輸出比率がきわめて高く,その企業の成長が主と
して外国市場での販売に依存する場合においてさえ,価格と輸出数量の変化が正の相関を もっていなければならない。
輸出と規模の経済の関係については,輸出増加が産業の一層の拡大を可能にし,規模の 経済を確保することを可能ならしめるプロセスがしばしば指摘される。このプロセスは,
輸出と利潤率との関係をさぐる上で,見逃せない重要な側面には違いないが,それが輸出 と利潤率の正の相関を期待させるケースは,これら産業の産出総量において,国内市場向
21.KhalilzadeトShirazi〔1974〕, p.70,脚注18参照。
22.Shepherd〔197g〕, Chap.13。, pp.274−76参照。さらにリスクと寡占の相互依存との関係については,
Caves&Yamey〔1971〕を参照のこと。