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7.アジア太平洋の安全保障秩序構想

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Academic year: 2021

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(1)

7.アジア太平洋の安全保障秩序構想

 アジア太平洋地域においても様々な多数国間の安全保障構想はフロートしていた。

 歴史を振り返れば、国際的な非政府間組織である「アジア太平洋問題調査会」では、

1933

に日本の国際法学者横田喜三郎博士らが多数国間条約構想の提案が起草されたこ とがあった。(注1)

 冷戦期には、ソ連がブレジネフおよびゴルバチョフ書記長の時期にアジア集団安全 保障構想を掲げ、これは米国の同盟の影響を排除することが狙いだと西側には受け取 られていた。

 オーストラリアからは

1998

年のホーク首相、1990年のエヴァンス外相、2008年の シドニー演説でラッド首相による提案がなされた。カナダは、1990年にクラーク首相 が北太平洋における安全保障協力対話を提議した。

 ラッド元首相は、2011年

12

月、OSCE外相理事会に外相として出席し、そこでの演 説で、アジアでは

ARF、東アジアサミット、APEC

を作ったが、OSCE型のヘルシン キ最終合意書のアジア太平洋版が必要であるとし、「東京協定、ジャカルタ協定、ソ ウル協定、キャンベラ協定」の順に将来の可能性に言及した。(注2)政権交代後も、2013 年

12

月のキエフにおけるOSCE外相理事会でのオーストラリアの演説は、OSCE方式 のアジア太平洋の安全保障の有効性に言及した。

 日本では野田政権下で、「太平洋憲章」が準備されていたが、日の目を見ることは なかった。(注3

 韓国の朴大統領は、2013年に一種の非軍事的な信頼醸成措置である「北東アジア平 和協力イニシアチブ」を掲げ、インドネシアのマルティ・ナタレガウ外相は、2013年

5

月に「インド太平洋友好協力条約」を提唱した。同じ構想は、インドネシアのユド ヨノ大統領の

2013年 12

月の訪日の際の講演でも繰り返された。このほか、台湾の馬 英九総統の

2012

年の「東シナ海平和イニシアチブ」が挙げられよう。モンゴルは、朴 大統領構想を補完すると説明される北東アジアの「ウランバートル対話プロセス」を 打ち出している。

46

(2)

 筆者の考え方は、すでに述べたように、条約や行動規範を策定しても、履行を担保 する国際組織を欠くと、空文化する可能性が残るとするものである。

 2013年11月、日ロ間の初回の

2

2

(外務、防衛大臣の協議)では、外務省のホー ムページによれば、「ラヴロフ外相から、ロシアの構想である『アジア太平洋地域に おける安全保障の新しいアーキテクチャー』について説明があり、今後東アジア首脳 会議(EAS)での議論に日本も積極的に参加することへの期待を表明した。」(注4)

 この提案の背景としては、第二次プーチン政権発足直後に出された外交分野の大統 領令(2012年

5

7

日付)の中で初めて、「アジア・太平洋地域で新たな安全保障・

協力構造を形成するイニシアティブを推進すること」という指示が出されたことが挙 げられよう。(注5

 ウクライナ問題をめぐる米ロ関係の悪化で、東アジアサミットの枠内での議論が今 後どのようになされてゆくのかは不透明であるが、このような将来構想の議論に、関 係国が積極的に関与することは重要である。

 アジア太平洋地域の緊張は、経済成長の中枢として世界から注目を集めているだけ に、地域内の国々だけの問題ではなく、世界の安定と平和に直結した問題である。中 国がルールを守る責任ある大国としての行動を今後とるのかどうか、が重要な問題で ある。ルールに基づく関係構築の議論には、まさに、それを先行して実践している

EU

の関与が必要である。EUが、政治過程に招き入れられず、経済危機回復のために 中国を市場としてのみ、見なして、汎用品などの輸出を拡大するリスクは大きいだろ う。(注6

 いかに、ルールの遵守を確保し、紛争を予防するのか、あるいは勃発した紛争の拡 大を防ぐのか、このための危機を低減する仕組み、ひいては、このような仕組みが内 臓されたアジア太平洋地域の秩序をめぐり、建設的な将来構想の議論を活発化するこ と自体が、危機低減や信頼醸成に役立つだろう。

(注)

1

Kisaburo Yokota and ,” Some considerations on the future of peace machinery in the Pacific,”

47

(3)

『国際法外交雑誌』、

32

10

号、

1933

年。片桐庸夫『太平洋問題調査会の研究―戦間期日本

IPR

の活動を中心として』、慶応義塾大学出版会、

2003

年。中見眞理「太平洋問題調査会と 日本の知識人」『思想』、

728

1985

2

月参照。

2

Kevin Rudd, Statement to the Plenary Session, OSCE, 7 December 2011, MC.DEL/68/11, 8 December 2011.

なお、ラッド元首相は、朝日新聞のインタビュー記事「米中、衝突回避の道 中国通の豪 州前首相、ケビン・ラッドさん」で、アジア太平洋における信頼醸成という文化の欠如を 嘆いている。(2013年

4

3

日、朝日新聞、朝刊)

3

. 長島、前掲書、

186 191

ページ。なお、

1990

年代と

2000

年代の日中間の防衛交流について は、秋山昌廣・末鋒共編著『日中安全保障・防衛交流の歴史・現状・展望』、亜紀書房、

2011

年が貴重な全体像を提示している。

4

. 外務省「第

1

回日露外務・防衛閣僚協議(「

2

2

」)(概要)」

2013

11

2

http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/page18_000096.html

5

. この点に関しては、北海道大学スラブ研究センターの加藤美保子研究員より、貴重な示唆 をいただいた。関連の論考については、以下を参照。加藤美保子「第二次プーチン政権の アジア太平洋政策」『ロシア・東欧研究』、第41号、2012年、29 44ページ、同「2013年 版『ロシア連邦の対外政策概念』における変化とその意味―アジア・太平洋地域を中心に」

『ロシア・ユーラシアの経済と社会』、

970

号、

2013

6

月、

36 49

ページ。なお、斎藤元秀

「『日露

2

プラス

2

』の始動」『アジア時報』、

2013

12

月号では、新アーキテクチャーは、メ ドヴェージェフ大統領の

2010

9

月の訪中時に中国側と合意したとされ、国家主権の尊重、

武力不行使、国際法の遵守、軍事ブロックの解消などが含まれる(同論文

31

32

ページ)。

6 . Takako Ueta, The Role of Europe in Enhancing Cooperative Security in Asia and the Pacific:

A View from Japan, op.cit. および植田隆子「ユーロ危機の時期の EUの対外関係(2008

9

月―2014年

1

月)」『日本EU学会年報』34号、2014年

5

月刊行予定(印刷中)。植田他共編 著『新EU論』信山社、

2014

4

月刊行の関連の章を参照。

【追記】従来、中国は、多数国間の信頼醸成措置については支持していないものと推 察されていたが、2014年

4

月15日、ソウルにおいて開催された、日中韓協力事務局主 催の国際会議において、北京大学国際関係学院の

ZHANG Xiaoming

教授(国際関係論)

は、領土問題による衝突を避けるため、欧州、EU、ASEANから学び、北東アジアの リスク・マネジメントのための

CSBN

のメカニズムを作ることが焦眉の問題だと述べ た。同教授は二段解説をとっており、長期的には、和解と平和のための共同体づくり を提唱した。

48

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