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平成27年 1 月20日
トシリズマブ使用患者における Serratia marcescens による 壊死性軟部組織感染症の 1 例
1)
神戸大学大学院医学研究科微生物感染症学講座感染治療学分野,
2)神戸大学医学部医学科,
3)
公益財団法人田附興風会北野病院診療部門
松尾 裕央
1)小坂 恭子
2)3)岩田健太郎
1)大路 剛
1)(平成 25 年 9 月 26 日受付)
(平成 26 年 8 月 1 日受理)
Key words : necrotizing fasciitis, Serratia marcescens
序 文
壊死性筋膜炎! 軟部組織感染症は,主に偏性嫌気性 菌や腸内細菌属などの混合感染である 1 型と,連鎖球 菌属の単一病原菌 ま た は そ れ に 加 え Staphylococcus
aureus などとの混合感染を呈する 2 型に分類され,外
科的デブリドマンと迅速な抗菌薬治療が必要である.
典型的には基礎疾患を有する患者は 1 型発症の高リス ク群と考えられているが,生物学的製剤使用や発症地 域によってグラム陰性桿菌による 2 型壊死性筋膜炎の リスクが上昇する.本症例において関節リウマチで生 物学的製剤使用中の患者が S. marcescens を原因とす る壊死性筋膜炎を発症した.近年関節リウマチに対し て使用されている IL-6 阻害薬のトシリズマブにおい て既に 2 件の壊死性筋膜炎が報告されているが,グラ ム陰性桿菌である S. marcescens による同症例は未報 告である.非典型的な原因微生物の迅速同定にグラム 染色が有用であったこと,およびその限界も含め,ト シリズマブ使用下の S. marcescens による壊死性軟部 組織感染症を報告する.
症 例
患者は 64 歳女性で,前日から続く右下肢の疼痛を 主訴に前医の二次救急病院に来院した.18 年前から 関節リウマチ,ステロイド性糖尿病,高血圧,両股関 節および両膝関節への人工関節留置の既往があり,関 節リウマチに対してプレドニゾロン 12.5mg! 日,タク ロリムス 1mg ! 日,トシリズマブ 8mg ! kg ! 月にて加 療中であった.
元々右下肢に浮腫を認めていたが,来院前日に右足 関節に発赤と疼痛が出現し,その翌日には発赤範囲が
大腿まで広がり水疱を伴う出血斑が出現した.右下肢 全体に疼痛を訴えて前医を受診したところ血圧低下が 認められ,軟部組織感染症による敗血症性ショックと 診断された.入院後,輸液およびカテコラミン投与が 開始された.血液培養 2 セット採取後にセフトリアキ ソン 2g! 日とクリンダマイシン 600mg! 日による治療 が開始されたが外科的デブリドメントは行われなかっ た.炎症所見としての CRP は 1.3mg ! dL であった.前 医入院翌日に抗菌薬投与のみで敗血症性ショックを離 脱し,入院 2 日後に当院に転院となった.転院時,患 者は意識清明で体温 35.8℃,血圧 142! 72mmHg,心 拍数 80 ! 分,呼吸数 20 ! 分,SpO
299%(room air)で あった.身体所見では右下腿から大腿部にかけて著し い腫脹と水疱形成,足関節部位に紫斑を認めた(Fig.
1).採血所見では明らかな臓器障害は認められなかっ たが,CRP は 15.05mg! dL と上昇していた(Table 1).
原因菌が判明しておらず,循環動態は改善していた事 から,当院転院後もセフトリアキソンとクリンダマイ シンによる治療を継続した.しかし,転院翌日に右足 関節周囲の紫斑が拡大したために試験切開を行ったと ころ,浅筋膜まで壊死が及んでいたことから壊死性筋 膜炎と診断し,直ちに下腿までの浅筋膜レベルまでの デブリドマンを行った.前医で採取された創部ぬぐい 液と当院で採取された水疱穿刺液および深部組織検体 よりそれぞれ Serratia marcescens が培養された.
その後,深部筋層まで壊死が進行したためさらにデ ブ リ ド マ ン を 施 行 し た.創 部 の 状 態 が 安 定 し,S.
marcescens の感受性結果が判明した時点でクリンダマ
イシンを投与終了とした.セフトリアキソンは総計 17 日間の投与で終了とした.その後,創部への皮膚移植 を行われ退院となった.
症 例
別刷請求先:(〒650―0017)神戸市中央区楠町 7―5―2
神戸大学医学部感染症内科 大路 剛
松尾 裕央 他 54
感染症学雑誌 第89巻 第 1 号 Fig. 1 Physical examination reveals marked
swelling with bullae in the patientʼs right distal leg
Table 1 Laboratory findings on admission
WBC 13,900 /μL LDH 337 U/L
RBC 537×10
4/μL CK 51 U/L
Hb 14.9 g/dL Na 137 mmol/L
Plt 20.1×10
4/μL K 3.8 mmol/L
AST 21 IU/L Cl 95 mmol/L
ALT 32 IU/L Ca 9.5 mg/dL
T-Bil 1.2 mg/dL RF 15 IU/mL
BUN 23 mg/dL
Cr 0.51 mg/dL HbA1C 8.6 %
HBS Ag: (−) HCV Ab: (−)
考 察
壊死性筋膜炎は Bacteroides 属などの偏性嫌気性菌 と Streptococcus pyogenes や腸内細菌属などの混合感染 である 1 型と,S. pyogenes など連鎖球菌の単一病原 菌またはそれに加え Staphylococcus aureus などとの混 合感染を呈する 2 型に分類される
1).壊死性筋膜炎を 含む壊死性軟部組織感染症の治療の原則は外科的デブ リドマンと迅速な抗菌薬投与である.特に,壊死性軟 部組織感染症の原因微生物の中でも急激に壊死を進行 させる S. pyogenes と Clostridium 属に加え,グラム陽 性菌,グラム陰性桿菌,嫌気性菌は広域にカバーすべ きとされる
2).本症例では,これらの原因菌をカバー するため前医からセフトリアキソンとクリンダマイシ ンが投与された.壊死性筋膜炎における原因菌は基礎 疾患や地域性と密接に関係する.具体的には,肝硬変 や腎不全,糖尿病などの疾患ではグラム陰性桿菌によ る壊死性筋膜炎のリスクが上がることが報告されてい る
3).原因微生物の疫学には地域差があり,欧米諸国 に比べてアジアは緑膿菌などを含めたグラム陰性桿菌 が原因となる 2 型壊死性筋膜炎 の 好 発 地 域 と さ れ る
4)5).アジア以外からの報告ではあるが, S. marcescens 単独による壊死性軟部組織感染症も壊死性筋膜炎とし て報告されている
6).本症例において,症例報告
7)と前 述のアジアにおけるグラム陰性桿菌による壊死性筋膜 炎の疫学の観点から,抗緑膿菌活性を有する抗菌薬を 選択すべきであったかもしれない.一方,グラム陰性 桿菌による壊死性筋膜炎と早期から診断できた点では グラム染色が有用であったと考えられた.壊死性軟部 組織感染症を起こすグラム陰性桿菌には他に Vibrio vulnificus と Aeromonas hydrophila が知られている.グ ラム染色所見における鑑別点として S. marcescens は 陰性小桿菌であり,V. vulnificus はバナナ状の中央が 湾曲した陰性桿菌,A. hydrophila もやや湾曲したグラ
ム陰性桿菌であることが挙げられる
8).また病歴上の 鑑別点として,V. vulnificus における基礎疾患として の肝硬変,A. hydrophila における淡水暴露歴が有用な 情報と考えられている.本症例の患者はこれらの基礎 疾患や病歴を有さなかったため,Vibrio 属を原因菌と して想定しなかった.本症例のようにグラム陰性桿菌 を明らかに認めた場合は当初より Vibrio 属の分離培養 も意識し TCBS 培地の使用も考慮すべきであった.
本症例では,関節リウマチに対してプレドニゾロン,
タクロリムス,トシリズマブが投与されていた.この 中で関節リウマチに対する生物学的製剤としては新し い IL-6 阻害剤のトシリズマブは近年プレドニゾロン などに追加して使用されるが,中等度以上の重症感染 症を増加させることが後ろ向き研究で示唆されてい る
9).PubMed での英文文献検索では,トシリズマブ 服用患者における壊死性筋膜炎および壊死性軟部組織 感染症の報告例はこれまでに本例を入れて 3 例であ る
10)11).他の 2 例はいずれも S. pyogenes を原因菌とす ることから,S. marcescens を含むグラム陰性桿菌によ る壊死性筋膜炎! 軟部組織感染症報告は検索しうる限 り本症例が初である.トシリズマブは生体において炎 症性サイトカインの一つである IL-6 を阻害するため か,典型的な感染症の兆候を示さない症例も報告され ている
12).しかしながら,本症例における臨床経過は 通常の壊死性筋膜炎 ! 軟部組織感染症と同様であった.
さらにトシリズマブ服用患者において重症感染症の経 過中に CRP が上昇しない症例が報告されている
13).本 症例において前医受診時に CRP は軽微な上昇のみ認 め,当院転院時に感染巣の拡大に伴って 15.05mg! dL と著増を認めた.本症例の経過からもトシリズマブ投 与下では発症初期における CRP 値が重症感染症の除 外に有用な指標でないことが示唆される.
抗炎症作用を有する薬剤と壊死性筋膜炎! 壊死性軟
部組織感染症の相関関係として S. pyogenes の壊死性
感染症は非ステロイド系抗炎症薬の使用量の増加と相
トシリズマブ使用患者における壊死性軟部組織感染症の臨床像 55
平成27年 1 月20日
関していることが知られており,炎症性サイトカイン の阻害によりリスクが上がっている可能性が考察され ている
14)15).トシリズマブが同様の機序から壊死性筋 膜炎のリスク因子であるか,今後のさらなる知見の蓄 積が望まれる.
利益相反自己申告:申告すべきものなし
文 献1
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Necrotizing Soft Tissue Infection Caused by Serratia marcescens in a Patient Treated with Tocilizumab Hiroo MATSUO
1), Kyoko KOSAKA
2)3), Kentaro IWATA
1)& Goh OHJI
1)1)
Division of Infectious Disease Therapeutics, Department of Infectious Diseases and Microbiology, Kobe University Graduate School of Medicine,
2)Kobe University School of Medicine,
3)