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トシリズマブ使用患者における

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53

平成27年 1 月20日

トシリズマブ使用患者における Serratia marcescens による 壊死性軟部組織感染症の 1 例

1)

神戸大学大学院医学研究科微生物感染症学講座感染治療学分野,

2)

神戸大学医学部医学科,

3)

公益財団法人田附興風会北野病院診療部門

松尾 裕央

1)

小坂 恭子

2)3)

岩田健太郎

1)

大路 剛

1)

(平成 25 年 9 月 26 日受付)

(平成 26 年 8 月 1 日受理)

Key words : necrotizing fasciitis, Serratia marcescens

壊死性筋膜炎! 軟部組織感染症は,主に偏性嫌気性 菌や腸内細菌属などの混合感染である 1 型と,連鎖球 菌属の単一病原菌 ま た は そ れ に 加 え Staphylococcus

aureus などとの混合感染を呈する 2 型に分類され,外

科的デブリドマンと迅速な抗菌薬治療が必要である.

典型的には基礎疾患を有する患者は 1 型発症の高リス ク群と考えられているが,生物学的製剤使用や発症地 域によってグラム陰性桿菌による 2 型壊死性筋膜炎の リスクが上昇する.本症例において関節リウマチで生 物学的製剤使用中の患者が S. marcescens を原因とす る壊死性筋膜炎を発症した.近年関節リウマチに対し て使用されている IL-6 阻害薬のトシリズマブにおい て既に 2 件の壊死性筋膜炎が報告されているが,グラ ム陰性桿菌である S. marcescens による同症例は未報 告である.非典型的な原因微生物の迅速同定にグラム 染色が有用であったこと,およびその限界も含め,ト シリズマブ使用下の S. marcescens による壊死性軟部 組織感染症を報告する.

患者は 64 歳女性で,前日から続く右下肢の疼痛を 主訴に前医の二次救急病院に来院した.18 年前から 関節リウマチ,ステロイド性糖尿病,高血圧,両股関 節および両膝関節への人工関節留置の既往があり,関 節リウマチに対してプレドニゾロン 12.5mg! 日,タク ロリムス 1mg ! 日,トシリズマブ 8mg ! kg ! 月にて加 療中であった.

元々右下肢に浮腫を認めていたが,来院前日に右足 関節に発赤と疼痛が出現し,その翌日には発赤範囲が

大腿まで広がり水疱を伴う出血斑が出現した.右下肢 全体に疼痛を訴えて前医を受診したところ血圧低下が 認められ,軟部組織感染症による敗血症性ショックと 診断された.入院後,輸液およびカテコラミン投与が 開始された.血液培養 2 セット採取後にセフトリアキ ソン 2g! 日とクリンダマイシン 600mg! 日による治療 が開始されたが外科的デブリドメントは行われなかっ た.炎症所見としての CRP は 1.3mg ! dL であった.前 医入院翌日に抗菌薬投与のみで敗血症性ショックを離 脱し,入院 2 日後に当院に転院となった.転院時,患 者は意識清明で体温 35.8℃,血圧 142! 72mmHg,心 拍数 80 ! 分,呼吸数 20 ! 分,SpO

2

99%(room air)で あった.身体所見では右下腿から大腿部にかけて著し い腫脹と水疱形成,足関節部位に紫斑を認めた(Fig.

1).採血所見では明らかな臓器障害は認められなかっ たが,CRP は 15.05mg! dL と上昇していた(Table 1).

原因菌が判明しておらず,循環動態は改善していた事 から,当院転院後もセフトリアキソンとクリンダマイ シンによる治療を継続した.しかし,転院翌日に右足 関節周囲の紫斑が拡大したために試験切開を行ったと ころ,浅筋膜まで壊死が及んでいたことから壊死性筋 膜炎と診断し,直ちに下腿までの浅筋膜レベルまでの デブリドマンを行った.前医で採取された創部ぬぐい 液と当院で採取された水疱穿刺液および深部組織検体 よりそれぞれ Serratia marcescens が培養された.

その後,深部筋層まで壊死が進行したためさらにデ ブ リ ド マ ン を 施 行 し た.創 部 の 状 態 が 安 定 し,S.

marcescens の感受性結果が判明した時点でクリンダマ

イシンを投与終了とした.セフトリアキソンは総計 17 日間の投与で終了とした.その後,創部への皮膚移植 を行われ退院となった.

別刷請求先:(〒650―0017)神戸市中央区楠町 7―5―2

神戸大学医学部感染症内科 大路 剛

(2)

松尾 裕央 他 54

感染症学雑誌 第89巻 第 1 号 Fig. 1 Physical  examination  reveals  marked 

swelling with bullae in the patientʼs right distal  leg

Table 1 Laboratory findings on admission

WBC 13,900 /μL LDH 337 U/L

RBC 537×10

4

/μL CK 51 U/L

Hb 14.9 g/dL Na 137 mmol/L

Plt 20.1×10

4

/μL K 3.8 mmol/L

AST 21 IU/L Cl 95 mmol/L

ALT 32 IU/L Ca 9.5 mg/dL

T-Bil 1.2 mg/dL RF 15 IU/mL

BUN 23 mg/dL

Cr 0.51 mg/dL HbA1C 8.6 %

HBS Ag: (−) HCV Ab: (−)

壊死性筋膜炎は Bacteroides 属などの偏性嫌気性菌 と Streptococcus pyogenes や腸内細菌属などの混合感染 である 1 型と,S. pyogenes など連鎖球菌の単一病原 菌またはそれに加え Staphylococcus aureus などとの混 合感染を呈する 2 型に分類される

1)

.壊死性筋膜炎を 含む壊死性軟部組織感染症の治療の原則は外科的デブ リドマンと迅速な抗菌薬投与である.特に,壊死性軟 部組織感染症の原因微生物の中でも急激に壊死を進行 させる S. pyogenesClostridium 属に加え,グラム陽 性菌,グラム陰性桿菌,嫌気性菌は広域にカバーすべ きとされる

2)

.本症例では,これらの原因菌をカバー するため前医からセフトリアキソンとクリンダマイシ ンが投与された.壊死性筋膜炎における原因菌は基礎 疾患や地域性と密接に関係する.具体的には,肝硬変 や腎不全,糖尿病などの疾患ではグラム陰性桿菌によ る壊死性筋膜炎のリスクが上がることが報告されてい る

3)

.原因微生物の疫学には地域差があり,欧米諸国 に比べてアジアは緑膿菌などを含めたグラム陰性桿菌 が原因となる 2 型壊死性筋膜炎 の 好 発 地 域 と さ れ る

4)5)

.アジア以外からの報告ではあるが, S. marcescens 単独による壊死性軟部組織感染症も壊死性筋膜炎とし て報告されている

6)

.本症例において,症例報告

7)

と前 述のアジアにおけるグラム陰性桿菌による壊死性筋膜 炎の疫学の観点から,抗緑膿菌活性を有する抗菌薬を 選択すべきであったかもしれない.一方,グラム陰性 桿菌による壊死性筋膜炎と早期から診断できた点では グラム染色が有用であったと考えられた.壊死性軟部 組織感染症を起こすグラム陰性桿菌には他に Vibrio vulnificusAeromonas hydrophila が知られている.グ ラム染色所見における鑑別点として S. marcescens は 陰性小桿菌であり,V. vulnificus はバナナ状の中央が 湾曲した陰性桿菌,A. hydrophila もやや湾曲したグラ

ム陰性桿菌であることが挙げられる

8)

.また病歴上の 鑑別点として,V. vulnificus における基礎疾患として の肝硬変,A. hydrophila における淡水暴露歴が有用な 情報と考えられている.本症例の患者はこれらの基礎 疾患や病歴を有さなかったため,Vibrio 属を原因菌と して想定しなかった.本症例のようにグラム陰性桿菌 を明らかに認めた場合は当初より Vibrio 属の分離培養 も意識し TCBS 培地の使用も考慮すべきであった.

本症例では,関節リウマチに対してプレドニゾロン,

タクロリムス,トシリズマブが投与されていた.この 中で関節リウマチに対する生物学的製剤としては新し い IL-6 阻害剤のトシリズマブは近年プレドニゾロン などに追加して使用されるが,中等度以上の重症感染 症を増加させることが後ろ向き研究で示唆されてい る

9)

.PubMed での英文文献検索では,トシリズマブ 服用患者における壊死性筋膜炎および壊死性軟部組織 感染症の報告例はこれまでに本例を入れて 3 例であ る

10)11)

.他の 2 例はいずれも S. pyogenes を原因菌とす ることから,S. marcescens を含むグラム陰性桿菌によ る壊死性筋膜炎! 軟部組織感染症報告は検索しうる限 り本症例が初である.トシリズマブは生体において炎 症性サイトカインの一つである IL-6 を阻害するため か,典型的な感染症の兆候を示さない症例も報告され ている

12)

.しかしながら,本症例における臨床経過は 通常の壊死性筋膜炎 ! 軟部組織感染症と同様であった.

さらにトシリズマブ服用患者において重症感染症の経 過中に CRP が上昇しない症例が報告されている

13)

.本 症例において前医受診時に CRP は軽微な上昇のみ認 め,当院転院時に感染巣の拡大に伴って 15.05mg! dL と著増を認めた.本症例の経過からもトシリズマブ投 与下では発症初期における CRP 値が重症感染症の除 外に有用な指標でないことが示唆される.

抗炎症作用を有する薬剤と壊死性筋膜炎! 壊死性軟

部組織感染症の相関関係として S. pyogenes の壊死性

感染症は非ステロイド系抗炎症薬の使用量の増加と相

(3)

トシリズマブ使用患者における壊死性軟部組織感染症の臨床像 55

平成27年 1 月20日

関していることが知られており,炎症性サイトカイン の阻害によりリスクが上がっている可能性が考察され ている

14)15)

.トシリズマブが同様の機序から壊死性筋 膜炎のリスク因子であるか,今後のさらなる知見の蓄 積が望まれる.

利益相反自己申告:申告すべきものなし

文 献

1

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Necrotizing Soft Tissue Infection Caused by Serratia marcescens in a Patient Treated with Tocilizumab Hiroo MATSUO

1)

, Kyoko KOSAKA

2)3)

, Kentaro IWATA

1)

& Goh OHJI

1)

1)

Division of Infectious Disease Therapeutics, Department of Infectious Diseases and Microbiology, Kobe University Graduate School of Medicine,

2)

Kobe University School of Medicine,

3)

The Tazuke Kofukai Foudation, Medical Research Institute, Kitano Hospital

We report herein on a case of community-acquired necrotizing soft tissue infection caused by Serratia marcescens. The patient had been treated with prednisolone, tocilizumab and tacrolimus for rheumatoid ar- thritis. Since Gram staining of the tissue revealed Gram negative rod bacteria, ceftriaxone and clindamycin were administered as empiric therapy. Tissue culture revealed S. marcescens. Ceftriaxone was continued ac- cording to the antibiotic sensitivity. She underwent debridement of necrotic tissue and continued ceftriax- one for 17days. She recovered and was discharged after skin grafting.

〔J.J.A. Inf. D. 89:53〜55, 2015〕

参照

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