女子学生のレジリエンスに関する研究
−感情調整の動機および方略に着目して−
山本明日香(新潟こころの発達クリニック)
横谷 謙次(新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科)
キーワード:レジリエンス、感情調整、抑制方略
A Study on Resilience in female students:To focus on of Emotion Regulation motive and strategy
Asuka Yamamoto
(Niigata Mental Developmental Clinic)Kenji Yokotani
(Graduate School of Niigata Seiryo University)Keywords:Resilience, Emotion Regulation, Suppression strategy
Ⅰ.問題と目的
人は生きていく上で、様々なストレッサーに晒さ れながら日々を過ごしている。同じ出来事を経験し ても不適応状態になる者とならない者がいる。それ を説明する概念として、レジリエンス(resilience)
が挙げられる。レジリエンスとは、「深刻な危険性 にもかかわらず、適応的な機能を維持しようとする 現象」とRutter(1985)によって初めて定義された。
これまでの研究から、レジリエンスは「新奇性追 求 」、「 感 情 調 整 」( 小 塩・ 中 谷・ 金 子・ 長 峰,
2002) な ど の 個 人 要 因、「 ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト
(Friborg et al.,2003)」「家族・友達・先輩資源の 活用(井隼・中村,2008)」などの環境要因から構 成されると考えられている。本研究では、レジリエ ンスの個人要因の中でも感情調整について着目して いく。
感情調整は社会心理学や発達心理学など様々な領 域から研究され、感情調整を統合的に捉えようとす る枠組みとして、Gross & Thompson(2007)の感 情調整のプロセスがある。Gross & Thompson
(2007)によると、感情を調整する方略は、感情が 生起する過程に応じて行われる。感情が生起する前 の段階における先行焦点型感情調整は、再評価方略
(reappraisal strategy)が代表的な感情調整となる。
再評価方略とは、感情の原因となる出来事を再解釈 することにより感情の生起そのものを調整する方略 のことを指す。感情が生起した後の段階における感 情 調 整 と し て は、 抑 制 方 略(suppression strategy)が挙げられる。抑制方略とは、感情が生 起した後に感情の表出を抑える方略である。
レジリエンスは一般的に適応を導く機制であり、
精神的健康(石毛・無藤,2005)との関連が示唆さ れている。レジリエンスを測定する尺度の因子にお いて「感情調整」が組み込まれていることや、再評 価方略はポジティブ感情を増加させ、適応的な結果 を導く(Gross & Thompson,2007)という先行研 究から、レジリエンスと再評価方略による感情調整 との関連が考えられるのではないだろうか。
一方で樋口・橋本(2012)は、レジリエンスが低 い者の特徴の行動面として、周囲に意見を合わせる などの自己を抑制する行動を多くとると述べている。
そして感情調整の観点では、困難な状況に置かれた 際は周囲に協力を求めずに自らで対処するなど、感 情を他者に表現せず、抑制する特徴があるとしてい る。したがって、レジリエンスが低い者の感情調整 の方略としては抑制方略を用いることが予想される。
このように、人は感情をいくつかの方略によって
感情を調整しているが、どのような動機によって感 情調整を行っているのだろうか。感情調整を行う動 機としては、向社会的動機と自己防衛動機が挙げら れる(Gnepp & Hess,1986)。向社会的動機とは、
他者の気持ちを傷つけないことを目的とする動機で ある。自己防衛動機とは自尊心を保ち、自己の損失 を避け利益を得る動機である。本研究では、レジリ エンスにおける感情調整の動機と方略との関連に着 目していく。
向社会的動機に基づいて起こる向社会的行動
(prosocial behavior)とは、他者に利益をもたら す自発的行動全般をさす。向社会的行動を動機づけ る要因の一つに、共感性(empathy)が挙げられる
(松崎・浜崎,1990)。共感性とは、他者の感情や 状況を認知して、それとは一致はしないまでも同じ 方向の感情を共有することである。篠島・川崎
(2011)は、共感性が再評価方略に有意な影響を及 ぼしており、共感性が再評価方略を支えているとい う知見を見出している。そのため、向社会的動機が 高い人は、共感性も高いと考えられ、再評価方略を 用いやすいと考えられる。
自己防衛動機によって守られる自尊心にはさまざ まな類似概念があり、梶田(1988)によると、自尊 心は優越感、自負心、誇り、自信といった呼び方で 呼ばれるときもある。斉藤・前田(2004)は自信の ない人は自尊心が低いと述べている。Leary(1983)
によると、自尊心が低い人は社会不安が高く、
Cheek & Buss(1981)は社会不安が高い人は抑制 行動を示すとしている。抑制行動とは自分から会話 をはじめず、相互作用の間にあまり話をせず、発言 時間の割合が低く、自分が話す番になっても話し始 めるのに時間がかかる、会話中の沈黙を破って話し はじめることも少ないなどの行動をさす(Cheek
& Buss,1981)。したがって、自信のなさと感情調 整における抑制方略との関連が示唆される。
本研究では、青年期の友人場面に着目する。青年 期にある者にとって友人関係は、自尊心(豊田・松 本,2004)や精神的健康(松永・岩本,2008)など、
適応との関連が過去の研究から検討されてきた。青 年にとって最も重要な人間関係は友人であることか ら(遠矢,1996)、本研究においても友人場面にお ける感情調整を検討する。また一般には男性より女 性において自己開示が積極的に行われ(小口,
1999)、コミュニケーションをとる機会が多いと推 測されることから、女子大学生を対象とする。
本研究の目的は、レジリエンスにおける感情調整 に着目し、レジリエンスが高い者における感情調整 の方略と動機との関係を明らかにすることである。
研究に際し、以下の仮説を検証する。
仮説1.レジリエンスが高い人は低い人に比べて、
再評価方略を用いる。
仮説2.向社会的動機が高い人は低い人に比べて、
再評価方略を用いる。
仮説3.レジリエンスが低い人は高い人に比べて、
抑制方略を用いる。
仮説4.自信のなさが高い人は低い人に比べて、抑 制方略を用いる。
Ⅱ.方法 1.調査対象者
関東甲信越地方にある私立大学・短期大学の女子 学生193名のうち、回答に不備のある19名を除く174 名(平均年齢18.37歳、SD=±0.62)を分析の対象 とした。
2.質問紙の構成
⑴ フェイスシート(学部、学科、年齢)
⑵ 精神的回復力尺度(小塩ら,2002)
レジリエンスの状態にある者の心理的特性を反映 する尺度である。本尺度は①「新奇性追求」7項目、
②「感情調整」9項目、③「肯定的な未来志向」5 項目の3因子21項目から構成されており、5件法を 採用している。得点は各項目の回答の平均点で算出 するため、尺度全体で1〜5点で、得点が高いほど レジリエンスを導く精神的回復力が高いとされる。
小塩ら(2002)によると、内的整合性を示すα係 数は尺度全体でα=.85、「新奇性追求」でα=.79、
「感情調整」でα=.77、「肯定的な未来志向」でα
=.81と、信頼性は十分あると考えられている(小 塩ら,2002)。自尊心尺度との構成概念妥当性が検 討され、十分な妥当性が示唆されている。
⑶ 向社会的行動尺度(菊池,1988)
援助行動や親切行動などの向社会的行動をどの程 度行っているか、行動経験を自己報告により測定す る尺度である。本尺度は単因子構造20項目から構成 されており、5件法を採用している。菊池(1988)
によると、内的整合性を示すα係数は尺度全体でα
表1 各変数の基本統計量
変数名 N 項目数 最小値 最大値 平均値 標準偏差α 係数
精神的回復力 171 21 44 101 70.83 9.85 .83
新奇性追求 170 7 15 35 25.02 4.06 .76
感情調整 172 9 12 41 27.30 5.32 .73
肯定的な未来志向 166 5 7 25 18.44 3.61 .79
向社会的行動 168 20 26 97 53.24 14.59 .91
自信のなさ 174 4 4 20 12.98 3.28 .76
感情調節 173 10 10 68 41.49 8.08 .86
再評価 173 6 6 42 25.65 5.49 .86
抑制 173 4 4 26 15.84 3.78 .69
表2 各変数の相関係数
1 2 3 4 5 6 7 8 9
1.新奇性追求 – .33 **a) .45 **b) .75 **c) .33 **d) –.29 **e) .14 f) –.05 f) .07 f)
2.感情調整 – .29 **b) .79 **c) .01 d) –.33 **f) .23 **b) .17 *b) .24 **b)
3.肯定的な未来志向 – .72 **c) .15 g) –.30 **h) .07 e) –.06 e) .02 e)
4.精神的回復力 – .20 *h) –.41 **c) .20 **d) .05 d) .16 *d)
5.向社会的行動 – .08 i) .20 **j) .17 *j) .22 **j)
6.自信のなさ – .08 k) .32 **k) .21 **k)
7.再評価 – .51 **k) .92 **k)
8.抑制 – .81 **k)
9.感情調節 –
** p <.01, *:p <.05
a):N=167, b):N=169, c):N=166, d):N=165, e):N=171, f):N=170, g):N=167, h):N=172, i):N=168, j):N=167, k):N=173
=.82と十分に高い内的一貫性を得ている。また妥 当性についても「情動表出に対する役割とり傾向」
(三原,1998)との構成概念妥当性が検討され、十 分な妥当性が示されている。
⑷ 自信のなさ下位尺度(斉藤・前田,2002)
自己防衛傾向における自信のなさを測定する尺度 である。本尺度は「自信のなさ」4項目で構成され て お り、 5 件 法 を 採 用 し て い る。 斉 藤・ 前 田
(2002)によると、「自信のなさ」の内的整合性を 示すα係数はα=.74と概ね高い値が得られている。
⑸ 感情調節尺度(吉津・関口・雨宮,2013)
感情調節方略のうち、再評価方略と抑制方略に焦 点を当て、その慢性的な使用傾向を測定する尺度で ある。本尺度は①「再評価」6項目、②「抑制」4 項目の2因子10項目から構成されており、7件法を 採用している。吉津ら(2013)によると、内的整合 性を示すα係数は「再評価」でα=.77、「抑制」で α=.78と、概ね高い値を示している。
3.場面設定
友人との相互理解、相互開示は友人との親密性を 高める要因の一つであり(美山,2003)、感情を表 出する相手と親しくなるほど感情表出の量が多くな
る(榎本,1997)。友人場面において相手によって 親密性が異なるため、それに伴い感情調整の方略も 異なると考えた。また付き合いの長い友人など、相 手に対するイメージが安定している状況では自己評 価への敏感さも異なってくる(下斗米,2008)。そ のため、質問紙において感情調節尺度の教示に「大 学・短期大学に入学した4月の学校での過ごし方に ついて」の記述を加え、友人との親密性が深まって いない場面に限定した。
4.調査時期
2014年7月に授業担当教授に了解を得て授業時間 中に質問紙を配布し、その場で回収した。
Ⅲ.結果
1.各変数の基本統計量と信頼性の検討
各測定尺度の基本統計量として、尺度を構成する 項目数、最小値、最大値、平均値、標準偏差、α係 数を算出した(表1)。
2.各変数間の関連
各変数において、項目の合計得点を下位尺度得点 とした。各変数間の関連を調べるため、相関係数を 算出した(表2)。
表3 再評価を目的変数としたステップワイズ法に よる重回帰分析の結果
説明変数 標準回帰係数β
精神的回復力 .197 *
向社会的行動 .158 *
R2 .064 **
N=159
目的変数:再評価得点
*:p <.05, **:p <.01
表4 抑制を目的変数としたステップワイズ法によ る重回帰分析の結果
説明変数 標準回帰係数β
自信のなさ .399 ***
精神的回復力 .216 **
R2 .124 ***
N=164
目的変数:抑制得点
**:p<.01, ***:p<.001
3.仮説の検討
精神的回復力と向社会的行動が再評価の感情調整 に与える影響を検討するために、感情調節尺度にお ける「再評価」を目的変数とし、精神的回復力尺度 と向社会的行動を説明変数として、ステップワイズ 法による重回帰分析を行った。その結果、精神的回 復力と向社会的行動の2つの説明変数を用いること により、再評価得点の分散の6.4%(調整済みR2= .064, p<.05)が説明された(表3)。また、この予 測において「精神的回復力」(β=.197, p<.05)、
「向社会的行動」(β=.158, p<.05)が有意に寄与 しており、精神的回復力得点と向社会的行動得点が 高いほど再評価が高いことが推測された。したがっ て、仮説1と仮説2は支持された。
次に精神的回復力と自信のなさが抑制の感情調整 に与える影響を検討するために、感情調節尺度にお ける「抑制」を目的変数とし、精神的回復力尺度と 自信のなさを説明変数として、ステップワイズ法に よる重回帰分析を行った。その結果、精神的回復力 と自信のなさの2つの説明変数を用いることにより、
抑制得点の分散の12.4%(調整済みR2=.124, p<
.001)が説明された(表3)。また、この予測にお いて「自信のなさ」(β=.399, p<.001)、「精神的回 復力」(β=.216, p<.01)が有意に寄与しており、
精神的回復力得点と自信のなさ得点が高いほど抑制 が高いことが推測された。したがって、仮説4は支 持されたが、仮説3は支持されなかった。
Ⅳ.考察 1.結果の考察
レジリエンスと向社会的動機の高さによる再評価 方略について検討した結果、精神的回復力と向社会 的行動が有意に寄与しており、精神的回復力と向社 会的行動が高いほど再評価方略の感情調整を行うこ とが推測された。
Saarni(1999)は感情が他者との相互作用の中で 適応的に機能した結果、獲得されるものとしてレジ リエンスを挙げている。レジリエンスは適応してゆ く過程や結果だけでなく、その者の心理特性を指す
(小塩ら,2002)ことから、今回の結果においても 心理特性としてのレジリエンスと感情調整における 再評価方略は、相互に影響を与え合っていることが 示唆された。
向社会的行動をとるためには、まず他人の要求を 認知するところから始まる(菊池,1988)。すなわ ち、自らの視点だけでなく、他者視点を取得した上 で状況を把握する。再評価方略においても状況を解 釈し直した上で感情を調整するという点で、向社会 的行動が再評価方略を高めたのではないだろうか。
次にレジリエンス、自信のなさの高さによる抑制 方略について検討した結果、精神的回復力と自信の なさが有意に寄与しており、精神的回復力と自信の なさが高いほど抑制の感情調整を行うことが推測さ れた。まず、重回帰分析において有意な値を得た自 信のなさについて考察する。
自信のなさは、自尊心を構成する要因の一つに自 信が挙げられている(斉藤・前田,2002)ことから、
自尊心の低さと解釈することができよう。今回の結 果は、自尊心の低い者は抑制行動を示すという Cheek & Buss(1981)と類似するものとなった。
一方で精神的回復力が高いほど抑制方略を用いる という結果は、仮説3「レジリエンスが低い人は高 い人に比べて、抑制方略が高い」とは異なる結果と なった。考えられる理由として、抑制方略の適応的 機能が挙げられる。抑制方略は、従来不適応的な感 情調整方略であるとされてきた(Gross & John,
2003)。しかし、吉津ら(2013)によると、日本人 のデータでは抑制方略の感情調整が不適応と結びつ かないという結果も示されている。謙遜することが 対人関係において他者から好印象をもたれる日本文 化では、自分の感情を率直には示さずに周囲に合わ せていくことによってその場の状況に適応していく
という一連の流れが存在すると考えられる。
レジリエンスが高い者は感情調整において再評価 方略のみを行うのではなく、再評価方略と抑制方略 の両方を用いていることが推察された。山田・杉江
(2013)は日本語版感情制御困難性尺度の作成にお いて、感情制御方略の少なさを因子の一つに挙げて いる。すなわち、感情調整の方略を選択する幅が広 いことも適応的に感情を調整する過程に含まれるこ とを示している。抑制方略を適応的に用いるために は、状況に合わせた感情調整方略の選択が必要であ ると考えられる。
また先行研究からは、レジリエンスは自尊心と正 の相関関係が示されている(小塩ら,2002)ことを 踏まえると、レジリエンスの高い者が用いる抑制方 略と、低い者が用いる抑制方略の意味合いは異なっ てくるのではないだろうか。吉津(2010)は感情抑 制の方略を、感情に積極的に関与するEngagement、
感情に関与せず回避しようとするDiversion、感情 の意味を考えずに回避するReatraintの三種類に分 類している。DiversionとReatraintの相違点は、そ の感情と距離を置くか、感情そのものを抑え込もう とするかという距離感にあるのではないだろうか。
杉浦・馬岡(2003)は非適応的な思考の枠組みをコ ントロールできている者は、コントロールできてい ない者に比べ、抑うつが低いと述べている。このよ うな結果からも、感情や思考を司っているという感 覚の有無によってレジリエンスの高い者が用いる抑 制方略とレジリエンスが低い者が用いる抑制方略に は何らかの違いが存在すると推察される。
2.今後の課題
感情はかつて理性や認知を阻害する存在とみなさ れてきたが、今や適応的機能の存在が認められ、対 人相互作用の上で重要なメッセージを担っている
(遠藤,2007)。海外におけるレジリエンス育成プ ログラムでは感情の表現や理解、調整に焦点を当て ているものもある(原・都築,2013)ことから、レ ジリエンスの向上における感情調整の重要さが窺え る。抑制方略も含めた感情調整の方略を適応的に用 いるには、感情をコントロールできているという感 覚を身につけるプログラムなどを通して、コントロ ールの感覚を養うことが社会場面に適応していくに あたって重要になると考える。
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