都市型農村の研究
~畑作転換による生産性向上に転用期待が与える影響~
政策研究大学院大学 まちづくりプログラム
MJU09067 本木大一
1 問題意識・研究対象
1-1 問題意識
経営規模が小さい都市近郊農業の場合は、
畑作の方が稲作に比較して、生産性が高く 農業経営の観点からも効率的であるにもか かわらず、転用期待が畑作への転換の阻害 要因となっている。さらに、転用期待の大 きい大都市近郊では、生産性が高まるにも かかわらず畑作転換へのインセンティブが 低いのではないかという仮説の下、次の2 点に注目した。
• 畑作の生産性
• 転用期待が畑作への転換の阻害要 因であること
1-2 研究対象
・田畑全体から見た生産性
・畑と田それぞれの生産性
・転用面積が畑作転換に与える影響
2 分析
2-1 分析の対象等
本研究では“都市型農村”の定義を「市 街地に隣接している農地の集まりである。
特徴として、転用期待が生じている可能性 が高い地域である」とした。
分析の対象地域は、神奈川県内における
都市的地域と区分される29市町とし、農林 水産省「わがマチわがムラ」データ及び農 林業センサスより収集した販売農家戸数、
田・畑面積、田・畑生産額を主たる変数と して29市町ごとの生産性の推計をはじめ、
畑面積のシェアに対し、各都市の田畑間の 生産性ギャップ、転用前後の面積から転用 率を説明変数として、仮説である畑作・稲 作の生産性ギャップの上昇は畑作転換につ ながるか 、転用期待の上昇は畑作への転換 がされにくいか、について実証分析を行っ た。
2-2 採用データについて
分析は三段階に分けて行った。
農業関連のデータは、5 年毎に行われる 農林業センサスにより、相当に広範かつ詳 細に収集されている。しかしながら、5 年 毎のデータであるために、直近の推移を見 るには不向きでもある。そこで、農林水産 省ホームページにある「わがマチわがムラ」
のデータベースにより、2000 年~2006 年 のデータをパネルデータとして使用した。
このデータは市町村が作成する農林業セン サスの年度ごとの基礎データになっている もので、詳細度は農林業センサスに劣るが、
年度ごとのパネルデータが収集できること から採用した。
第二段階以降は、田・畑ごとの生産額と
いうより詳細な値が必要なことから、2000 年、2005年農林業センサスデータを使用し た。
2-3 分析の方法
第一段階として、農林水産省ホームペー ジにある「わがマチわがムラ」2000 年~
2006年の耕種生産額(田畑全体の生産額)、
販売農家戸数、耕地面積から、対象となる 29市町の田畑一括での生産性をOLSによ り推計し、それぞれの市町においての生産 性がそれぞれの市町においての畑面積シェ アの影響を分析した。
第一段階の推計式は次の通り。
耕種生産額 販売農家戸数 耕地面積年度ダミー 耕種生産額 販売農家戸数 耕地面積年度ダミー 得られた推計値からそれぞれの生産性を推 定。
生産性
第二段階として、②2005年農業センサス の市町村データ「経営面積の状況」「市町村 別生産農業所得統計表」を元に,米作及び 畑作に従事した農家数とそれぞれの耕地面 積を説明変数に,被説明変数に米生産額,
畑生産額としてOLSにより推計。
第二段階の推計式は次の通り。
米畑生産額
畑ダミー
田農家戸数
田面積 畑農家戸数 畑面積
田生産額 田農家戸数
田面積
畑農家戸数
畑面積
畑ダミー 畑生産額 田農家戸数
田面積
畑農家戸数
畑面積
得られた推計値からそれぞれの生産性を 推定。
生産性
第三段階として、第一段階・第二段階の 推計で得られた田・畑の生産性から、田畑 間の生産性ギャップを算出。
次に、2000 年~2004 年転用面積の合計
/2000 年~2004 年耕地面積の合計から、
転用確率を算出し、転用確率=転用期待とし て、転用期待の高さの増加及び田畑生産性 ギャップが畑の面積にどのような影響を与 えているかをOLSにより推計。
ダミー変数として市ダミー及び横浜近郊 ダミーを使用。
第三段階の推計式は次の通り。
年畑面積= 畑生産性
生産性ギャップ
転用確率
市部ダミー
横浜近郊ダミー
4 分析結果
5 考察
分析の結果から次の4点が示唆された。
①生産性の高い市町には次のような特徴が あった。
・ブランド品種…野菜生産性が高い三浦 市においては、三浦ダイコンをはじめ 多くの農産物が全国的にも有名である ・消費地近接…都市型農村のうちでも、
横須賀市、藤沢市、川崎市などはいず れも人口規模が大きく、大規模な消費 地を有する
・地産地消…寒川町は人口規模も農業規 模も小さいながら、「わいわい市」と称 した地場産作物の直売所を設け、近隣 市からも買い物客が訪れている
②生産性は田よりも畑の方が高く、都市型 農村の持続発展には、畑作への転換が有効 である。
③畑作転換への阻害要因の一つに転用期待 がある。
④畑作転換への流動化を高めるために阻害 要因を排除する必要がある。
標準誤差 t P
ln販売農家戸数 0.531328 *** 0.170646 3.11 0.002 ln耕地面積 0.525602 *** 0.186789 2.81 0.005 2000ダミー 0.10066 0.123596 0.81 0.416 2001ダミー -0.02633 0.12357 -0.21 0.831 2002ダミー 0.055924 0.123559 0.45 0.651 2004ダミー 0.041634 0.123559 0.34 0.737 2005ダミー 0.108997 0.126441 0.86 0.390 2006ダミー 0.177236 0.126163 1.4 0.162 定数項 -1.85391 *** 0.209643 -8.84 0.000 重決定R2
補正R2 観測数 分析①推計結果
係数
0.9020 0.8979 203
***、**、*は、それぞれ、1%、5%、10%水準で統計的に有意であることを示す
標準誤差 t P
畑ダミー 2.535709 * 1.302113 1.95 0.057 ln田農家 -0.77429 0.538797 -1.44 0.157 ln田面積 1.451224 *** 0.432471 3.36 0.002 ln畑農家 0.162979 0.248023 0.66 0.514 ln畑面積 0.711341 *** 0.213753 3.33 0.002 定数項 -6.18655 *** 1.016087 -6.09 0.000 重決定R2
補正R2 観測数
係数
0.9077 0.8981 54
***、**、*は、それぞれ、1%、5%、10%水準で統計的に有意であることを示す 分析②推計結果
生産性による順位 畑シェアによる順位
都市名 生産性 畑シェア 都市名 生産性 畑シェア
三浦市三浦市
三浦市三浦市 2.881143 0.9988 逗子市逗子市逗子市逗子市 0.969851 1 横須賀市
横須賀市横須賀市
横須賀市 1.568864 0.992968 真鶴町 0.542747 1 茅
茅茅
茅ヶヶヶヶ 崎市崎市崎市崎市 1.101443 0.972305 湯河原町 0.486996 1 藤沢市藤沢市
藤沢市藤沢市 1.086976 0.976455 三浦市三浦市三浦市三浦市 2.881143 0.9988 逗子市
逗子市 逗子市
逗子市 0.969851 1 二宮町 0.571488 0.998494 寒川町寒川町
寒川町寒川町 0.96658 0.93363 鎌倉市鎌倉市鎌倉市鎌倉市 0.923428 0.997812 川崎市
川崎市 川崎市
川崎市 0.929571 0.991344 横須賀市横須賀市横須賀市横須賀市 1.568864 0.992968 鎌倉市
鎌倉市 鎌倉市
鎌倉市 0.923428 0.997812 川崎市川崎市川崎市川崎市 0.929571 0.991344 大磯町 0.828308 0.982543 横浜市 0.771506 0.991003 海老名市 0.794318 0.900515 中井町 0.491211 0.989131 横浜市 0.771506 0.991003 相模原市 0.453277 0.98865 葉山町 0.739264 0.968775 綾瀬市 0.674103 0.987757 平塚市 0.728013 0.908044 大和市 0.612758 0.987272 綾瀬市 0.674103 0.987757 秦野市 0.520296 0.983168 大和市 0.612758 0.987272 大磯町 0.828308 0.982543 伊勢原市 0.575492 0.935364 藤沢市 1.086976 0.976455 二宮町 0.571488 0.998494 茅茅茅茅ヶヶヶ崎市ヶ崎市崎市崎市 1.101443 0.972305 真鶴町 0.542747 1 葉山町 0.739264 0.968775 小田原市 0.53667 0.953405 愛川町 0.392733 0.958123 秦野市 0.520296 0.983168 小田原市 0.53667 0.953405 中井町 0.491211 0.989131 南足柄市 0.365728 0.947967 湯河原町 0.486996 1 伊勢原市 0.575492 0.935364 厚木市 0.47601 0.918742 寒川町寒川町寒川町寒川町 0.96658 0.93363 座間市 0.465932 0.907854 大井町 0.404617 0.929325 相模原市 0.453277 0.98865 厚木市 0.47601 0.918742 大井町 0.404617 0.929325 平塚市 0.728013 0.908044 開成町 0.39325 0.616031 座間市 0.465932 0.907854 愛川町 0.392733 0.958123 海老名市 0.794318 0.900515 南足柄市 0.365728 0.947967 開成町 0.39325 0.616031
標準誤差 t P
ln畑生産性 3.523515 4.385313 0.80 0.430 ln生産性ギャップ -3.4537 4.137972 -0.83 0.413 ln転用確率 -0.62232 * 0.333032 -1.87 0.074 市ダミー 1.699354 *** 0.521494 3.26 0.003 横浜ダミー -0.36277 0.59048 -0.61 0.545 定数項 1.693248 1.903439 0.89 0.383 重決定R2
補正R2 観測数
係数
0.4463 0.326 29
***、**、*は、それぞれ、1%、5%、10%水準で統計的に有意であることを示す 分析③推計結果
6 提言
【農地転用期待の排除】
転用から得られる利得が大きいことが、
畑作への転換が進まないことの原因である。
このことから、転用から得られる利得をで きる限り減らす政策を推進する必要がある と思われる。例えば、土地譲渡課税の強化 などは非常に大きな効果が期待できると思 われる。
また、農地から宅地への転用ではなく、
農地としての取引を推進することは、離農 農家や担い手不足により耕作放棄される農 地からの集積が可能になる点にも注目した い。しかしながら、農地法における 農地 所有制限が足かせになっており、農地の集 約化を阻害している。こうした規制の撤廃 により、農地の流動化を図ることが必要で ある。
【畑作の生産性向上が畑作転換のインセン ティブに】
地域ブランド品目の創設や地産地消推進 などにより、畑作で収益を増やすという動 きを活発化させる。
これには、考察で見られた生産性の高か った市町の3点の特徴をふまえた生産者の 行動が必要である。
・都市生活者のニーズは何かを考え
・それは、味・安全・安心につながる食べ 物としての野菜であることを認識し
・生産者は都市生活者のニーズに応えるこ とで交換価値が高まる
といった行動をとることで、農産物に付
加価値が発生し、利益を十分に上げること ができるということを生産者自身が認識す べきである。
さらに、都市型農村は消費地に近接して いるという、地の利があることから、これ を活用して、地産地消を進めること、独自 の出荷規格創設により、無駄の出ないやり がいのある農業を行い、市街地の地域特性 を生かした新たな流通・販売ルートの開拓 を行うことが、都市型農村の持続発展に必 要である。
7 まとめ
本稿は、都市型農村の持続的な発展のた めには、どういった農業が必要かという観 点に立ち研究を行ったものである。
都市型農村には稲作よりも生産性の高い 畑作への転換が必要であるとし、さらに畑 作への転換は、農地から宅地へと転用され る転用期待によって阻害されているのでは ないかという仮説を立て実証を行ったもの である。
分析結果については、畑作の生産性の優 位が示され、転用期待が畑作への転換にマ イナスの影響を与えていることが実証され た。そして分析結果からは、転用期待を排 除することと畑作の生産性をさらに向上さ せることで畑作転換へのインセンティブを 上げると結論付けた。