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Mining & Sustainability (27) の動向 欧州化学物質規制 REACH と欧州リスク アセスメントの動向 特ロンドン事務所フレンチ香織 1. 銅はじめに欧州化学物質規制 REACH とは 欧州域内で化学物質を製造 輸入している企業に対して 化学物質を登録する義務を課し その登

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特集・連載

〔 Mining&Sustainability 〕( 27 )欧州化学物質規制“ REACH ”と欧州リスク ・ アセスメントの動向

〔Mining & Sustainability〕(27)

欧州化学物質規制“REACH”と欧州

リスク・アセスメントの動向

フレンチ香織

1. 銅

はじめに

欧州化学物質規制“REACH”とは、欧州域内で化学物質を製造・輸入している企業に対して、化学物質を登録 する義務を課し、その登録によって収集されたデータを、欧州議会が設置した ECHA(欧州化学品庁)が管理・ 評価することによって、ヒトの健康または環境に悪影響を及ぼす危険物質の使用を警告・制限する規則である。 REACH は、その規制の段階の頭文字(Registration, Evaluation and Authorization of Chemicals:REACH)から 由来しており、現段階は 2008 年 12 月 1 日に化学物質の予備登録が完了した後の段階で、各該当企業が登録準備を 行っている。 金属業界との関係で言えば、金属も REACH 対象の化学物質と認識されている。そして、欧州圏内で 1 企業当た り年間生産量・輸入量 1,000t を超える企業が多いため、REACH の登録トン数帯は最短期限に当てはまり、その登 録完了期限は 2010 年 11 月 30 日までと迫っているケースが多い。 こうした現状のなか、本稿では、先ず銅、鉛、貴金属・レニウムを対象に、各コンソーシアムが現在、REACH 登録準備をどこまで進めているのか、また、REACH 登録の“要の情報 ” となる従来からの各物質の自主的リス ク・アセスメントの動向について焦点を当てたい。加えて、REACH 登録でもう一つの重要な情報となる分類・ラ ベル表示(C&L)に関する動向も紹介する。なお、本稿の主な情報は、各コンソーシアムの公式 HP 及びインタ ビューと、Eurometaux が公開する REACH Gateway(http://www.reach-metals.eu)、Eurofer が 2009 年 2 月に発 行した『Steel-related Substance Consortia and REACH Contacts』の報告書を参考としている。また、REACH 規 制の背景及び制度に関しては、過去の JOGMEC 報告書(以下のウェブサイト)を御参照頂きたい。

参考:SIEF とコンソーシアムとの違い

本題に入る前に、以下の報告書に頻出する SIEF と コンソーシアムの違いを説明する。 物質情報交換 フォーラム(SIEF:Substance Information Exchange Forum)とは、企業が REACH における予備登録を行 うと自動的に加入することとなり、化学物質の製造業 者、輸入業者、川下ユーザー等各企業が各化学物質の 登録に対して協力し、データの共有を行うグループで ある。SIEF は、REACH 登録手数料が割引となる共 同提出(補足①を参照)の仲間を探すのにも良い場所 である。一方、コンソーシアムとは、化学物質の製造 業者、輸入者、川下ユーザー等が自主的に参加し、そ のコンソーシアムが対応する物質の金属専門団体が 総括して、REACH 登録の技術書類(Registration do-ssier)に対する必要な関連情報の収集、金属リスク 評価及びデータの共有をサポートしているグループで ある。 ただし、現状としては、本来 SIEF が担うべきデー タ共有等が十分に機能していない面もあることから、 化学物質によっては自主的に設けられたコンソーシア ムが SIEF の機能を代替している。そのため、本稿で は、各コンソーシアムの動向を中心に紹介することと したい。 ・『鉱業界の CSR と EHS 規制』(第 3 章、第 4 章:2007 年 6 月発行) http://www.jogmec.go.jp/mric_web/report/restriction/restriction.html ・ 『欧州規制「REACH」と欧州金属産業界の動向』(JOGMEC 金属資源レポート、2007 年 7 月発行) http://www.jogmec.go.jp/mric_web/kogyojoho/2007-07/MRv37n2-08.pdf ・『欧州規制「REACH」と欧州金属産業界の動向 2』(JOGMEC 金属資源レポート、2007 年 9 月発行) http://www.jogmec.go.jp/mric_web/kogyojoho/2007-09/MRv37n3-06.pdf ・『欧州化学物質規制(REACH)の動向-鉱石・精鉱の定義改訂草案と中間産物について-』 (JOGMEC カレント・トピックス、2009 年 4 月発行) http://www.jogmec.go.jp/mric_web/current/09_20.html ロンドン事務所

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表 1. SIEF とコンソーシアムの相違点 SIEF コンソーシアム 参加方法 REACH の予備登録を行うと自動的に加入。 REACH の手続きに拘らず、企業が自主的に参加。但し、コンソーシアム合意書に合意することが必要。 参加する企業 予備登録を完了した企業(製造業者、輸入業者、 川下ユーザー、データ保有者等)。 コンソーシアム合意書に合意した企業(守秘義務、欧 州独占禁止法、REACH を遵守。製造業、輸入業者、 川下ユーザー等が参加)。 代表者 SIEF 会員内で決められた企業。 (各物質の専門団体が結成)。コンソーシアム 法的上管理 ECHA (欧州化学物質庁) (※ただし、各 SIEF 内で代表企業を決定し、運営 方法を決議)。 コンソーシアム (合意書に全て記載)。 対応する物質数 1 物質につき、1 つの SIEF が成立。 コンソーシアムにつき、1 つまたは複数の物質に対応。 1-1. 銅コンソーシアム(参加企業:32 社、ブラッセル 拠点) 1-1-1. コンソーシアムの概要 銅コンソーシアムは、ECI(欧州銅協会)が事務局 を務めており、2008 年 2 月 26 日に正式に結成された。 銅コンソーシアムの主な役割は、予備登録のサポー ト、対象物質の REACH 登録に要する技術書類一式の 準備である。現在のコンソーシアム対象物質は、銅 1 種(サブグループ A)、中間産物 30 種(サブグループ B)、銅スラグ製品 1 種(サブグループ C)で、ECI は REACH 制定後の 2006 年から、銅地金の製造工程で 生成される中間産物の物質定義を研究している。ただ し、銅化合物については、銅化合物コンソーシアムが 対応しているので、本コンソーシアムは対象としてい ない(※コンソーシアム対象物質の詳細に関しては、 補足②を参照)。 1-1-2. コンソーシアムの動向 ・REACH の予備登録では、4,500 以上の企業が銅 (サブグループ A)に対して予備登録を行い、銅 の SIEF 代 表 に は Norddeutsche Affinerie 社( 本 社:独)が選出されている。なお、実際に本登録 を行う企業は、これより少なくなると予想され る。なぜなら、予備登録は誰でも行うことができ たため、実際に欧州で製造・輸入していない企業 が 参 入 し た か ら で あ る。 そ の 他、 銅(Copper) の定義は、『銅地金または銅カソードの銅含有量 が 99.90%の場合、または、その他の上市してい る銅製品(銅アノード、粗銅等)の銅含有量が 80 ~ 99.90%』と定められており、登録企業の製 品が本定義に該当しない場合は、『同一物質では 無い』と判断され、違う分類の SIEF へ移動しな ければならない可能性もある。 ・銅の登録に関しては、 技術書類一式の 90%が ECI の自主的リスクアセスメント(後述 1-2. 参 照)から適用できるため、ほぼ準備は完了してい る。追加要項は、海洋の閉鎖生態系実験(Marine Mesocosm) 及 び 吸 入 投 与 の 研 究、 そ し て 川 下 ユーザーのばく露情報の収集のみである(2008 年 9 月時点)。 ・スラグの登録に関しては、2008 年末にコンソー シアムの対象物質に導入を開始したところで、企 業の入手可能な情報の評価に基づいて、登録対策 及びコストを検討している状況である。 ・中間産物の定義と分類は、順調に進んでおり、分 類・ラベル表示(C&L)、そして Read-across 対 策が現在研究されている。(※ Read-across とは、 物質を試験する必要性を回避するために、規則的パ ターンに従いそうな類似物質の特性[物質化学的性 状、生態毒性等]を利用して、不明瞭な物質のカテ ゴリーまたは物質群を「見なす」方法である。) 1-1-3. コンソーシアムの主な課題 1-1-2 のとおり、銅に関しては明確に定義され、リ スク・アセスメントもほぼ完了している。よって、銅 コンソーシアム事務局の Katia Lacasse 女史は、中間産物 に関する以下の 2 点を主な課題として挙げている。 ・中間産物の同一物質の定義及び、中間産物の物 質特性の分析 ・中間産物の登録内容の準備 (※ なお、中間産物の登録は、通常の登録に比 べて、内容・コスト共に軽減できる。) Lacasse 女史によれば、2008 年 12 月 1 日に予備登 録が締め切られたが、非鉄金属及び金属鉱物の同一物 質の定義は、非常に複雑で容易ではない。また、既存 の EINECS(欧州既存商業化学物質リスト)の番号に おける物質識別は、金属に対しては広範囲過ぎて不適 当と考えられ、特定の物質を正確に定義できないとい う問題を含む。従って、銅コンソーシアムとしては、 銅の中間産物等の複雑または不明な構成要素を持つ物 質に対して、物質の再分類や再定義を行うことに注力

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〔 Mining&Sustainability 〕( 27 )欧州化学物質規制“ REACH ”と欧州リスク ・ アセスメントの動向 している。また、現在もそれらの詳述を行っているた め、コンソーシアム対象の中間産物は定期的に更新さ れる可能性がある。 1-1-4. その他の情報 銅コンソーシアムの参加料は、最低額は 37,000 €/ 年と紹介されている。参加料は、物質の生産量 / 輸入 量、そして登録する物質の数の選択によって異なる (詳細:http://www.eurocopper.org/doc/uploaded/File/ Fee_Information_050109.pdf)。2009 年 1 月 1 日時点で は、コンソーシアムに 32 社が参加しており(表 2 を 参照)、総会は年に一回行われている。なお、直近の 総会は 2009 年 2 月 24 日に開催され、次回は 1 年後の 2010 年 2 月を予定している。 表 2. 銅コンソーシアム会員企業(32 社)(2009 年 1 月 1 日時点)

• Anglo American Services UK • Antofagasta plc

• Atlantic Copper S.A.U. • BHP Chile Inc. • Boliden Mineral SA

• Chile Copper Ltd (Codelco) • Corporacion Metalurgica Catalana SL • Cunext Copper Industries

• Glencore International AG • Halcor S.A.

• Haldeman Chile • Höganäs AB

• Huta Cynku Miasteczko Slaskie S.A. • KGHM Polska Miedz SA

• KME Germany AG • Luvata

• Metallo-Chimique N.V. • Minera Escondida Limitada • Montanwerke Brixlegg AG • MMC Norilsk Nickel • Mueller Europe Ltd • Nexans SA

• Norddeutsche Affinerie/Cumerio S.A. • OMG Kokkola Chemicals

• Recylex GmbH • Rio Tinto London Ltd • SIA Copper

• Umicore S.A. • Teck Cominco • Wieland-Werke AG

• Wilhelm Grillo Handelsgesellschaft mbH • Xstrata Copper Chile S.A

1-2. 銅の自主的リスク・アセスメント(VRA)  1-2-1. 自主的リスク・アセスメントの概要 1-1-2 のとおり、銅の REACH 登録に関しては、登 録に要する技術書類一式の 90%が ECI の自主的リス ク・アセスメントから適用できるため、本リスク・ア セスメントの内容は REACH 登録の核となる。銅の VRA は、ECI が 2000 年に公式に開始した。対象物質 には、欧州圏内で大量生産される物質を優先して、金 属銅(粉)及び 4 種類の銅化合物が選定された。本ア セスメントの内容は、既存化学物質のリスク・アセス メントに関する規則(793/93/EEC 及び 1488/94/EC) に基づき、本 5 種の対象物質の製造、使用、再利用回 収、廃棄のライフサイクルを通じて、①環境への放出 レベル、②ヒトの健康に対するばく露レベルの分析及 びリスク評価等を行っている。2005 年 5 月、論評国 (イタリア)は ECI が行った VRA の評価プロセスに 合意して、欧州委員会及び EU 加盟国へ銅リスク・ア セスメントの最終草案を提出した。 1-2-2. 自主的リスク・アセスメントの動向 2005 年以降の 3 年間による詳細分析及び修正のも と、欧州委員会及び EU 加盟国は 2008 年 4 月、審議 を完了した。本リスク・アセスメントの文書は、1,800 ページにも及ぶ。ECI より承認されている分析結果の 要旨は表 3 のとおりで、特に注目すべき点は、「銅は CMR(発がん性、突然変異誘発性、及び生殖毒性) 及び PBT(残留性、生態蓄積、毒性)物質ではない」 と評価・検証されていることである。EU の健康及び 環境リスク評価委員会(SCHER)からは、「銅のリス ク・アセスメントは、他の金属に比べても優れてお り、SCHER も PNEC(予測無影響濃度)のアプロー チ法、リスク特性の評価結果等に好意的である」と高 い評価を受けている。 1-2-3. 自主的リスク・アセスメントの今後: ・現在のところ、大きな課題は無く、順調に進行して いると ECI は回答する。EU の健康及び環境リスク 評価委員会(SCHER)は、本文書の最終レビュー を行い、2009 年 2 月 12 日に金属リスク・アセスメ ントの一般的な欠点がコメントされた。ECI はこれ を建設的な意見として認め、今後の国際的な銅産業 の研究プログラムを考慮していく予定である。 ・欧州化学物質庁(ECHA)は 2008 年 12 月、銅リ ス ク・ ア セ ス メ ン ト の 手 法 に 同 意 し、ECI は ECHA と協力して、VRA の公開可能な範囲を検 討している。 銅コンソーシアムに関する参考資料:

http://www.eurocopper.org/doc/uploaded/File/Cu% 20REACH% 20Cons% 20Agrmt% 20240209(1).pdf http://www.eurocopper.org/copper/reach.html

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表 3. 銅リスク・アセスメントの概要 対象物質:

金属銅(粉)、4 種類の銅化合物 【化学式:Cu、CuO、Cu2O、CuSO4、Cu2Cl(OH)3】

・ 飲料水における急性影響閾値は、銅含有量 4.0mg/L で、一般の人が銅にばく露しても影響ない値は、0.7mg/L と認めら れた。 ・ 大人 1 人当たり 1 日の必要な銅摂取量は、最低量 1mg から最大量 11mg で、実際の摂取量は平均して 0.6 ~ 2mg であ ることから、銅摂取不足の懸念がある。 ・ 淡水における銅含有量の安全値は 7.8μg/L で、海水においては 2.6μg/L。 ・ 土壌における銅含有量の安全値は 79mg/kg で、淡水の表層は 87,144mg/kg、河口及び海底表層は 338mg/kg。現状、 欧州圏の水、土壌は、上記の安全値以下である。 ・ 十分な水の処理を行っていない工業地帯(14%、主に銅化合物と銅粉を製造している地域)において、環境的リスクの 可能性がある。 ・ 労働衛生上のリスクとして、幾つかの工業現場、特に銅化合物や銅粉を生産する現場における、作業者に対するリスク の可能性が認められた。 ・ 銅は、CMR(発がん性、突然変異誘発性、及び生殖毒性)及び PBT(残留性、生態蓄積、毒性)物質ではない。 1-3. 銅の分類・ラベル表示(C&L) 1-3-1. 分類・ラベル表示の概要 REACH 規制の登録で、リスク・アセスメントの次 に重要となる情報は、分類・ラベル表示(C&L)で ある。欧州委員会の計画では、REACH の登録を通じ て、供給者間で共通とされている危険物質の C&L の 情報を収集し、その後、その情報を参考にして、国際 連合の GHS(危険化学品の分類及び表示に関する世 界調和システム)への適合に向けた新 CLP 規則の修 正及び追加、そして REACH の認可に該当する SVHC (高懸念化学物質)の追加決定を行う。従って、ここ で収集される C&L の情報は、欧州委員会にとって非 常に有益な蓄積情報となる。なお、REACH 規則で は、本登録を行う者は、2010 年 12 月 1 月までに、既 存入手可能データに基づく共通的に合意された危険物 質 の 分 類・ ラ ベ ル 表 示(Classification & Labeling: C&L)を、登録手続きの一部または別途で、ECHA へ通知しなければならない(※新 CLP 規則の詳細に 関しては、補足④を参照)。 1-3-2. 銅の分類・ラベル表示の動向 銅コンソーシアムへのインタビュー(2009 年 5 月 29 日時点)によれば、塊状の銅金属は自主的リス ク・ アセスメントによって検証されているとおり、 発がん性カテゴリーにも含まれず、どの危険物質のカ テゴリーにも属さない。しかし、銅金属粉に関して は、環境分類の R50 及び R53(水生生物に有毒)に当 てはまる可能性があり、現在も分析中である。 中間産物の C&L に関しては、現在もコンソーシア ムが研究中で、詳細は公開されていない。なお、欧州 委員会の共同研究センター(JRC:http://ecb.jrc.ec. europa.eu/esis)の C&L 情報によれば、コンソーシア ムが対象としている中間産物のうち、EINECS 番号 (補足③を参照)の 305-433-1 と 295-859-3 は、危険物 質 指 令(67/548/EEC) か ら 引 継 い で、 新 CLP 規 則 (補足④を参照)の Annex VI で、CMR カテゴリーに 分類されている。ただし、中間生産物は、『厳重に管 理された環境』と証明された場合、REACH の認可に おける販売及び使用制限対象にはならないため、大き な影響は無いと考えられる。 1-4. おわりに 銅金属に関しては、銅コンソーシアムの事務局であ る ECI が 2000 年から規則 793/93/EEC に基づいたリ スク・アセスメントを行っているため、銅に関する登 録準備はほぼ完了している。これまでのリスク・アセ スメントでは、塊状の銅金属は、CMR カテゴリーに 当てはまらないと検証されているため、REACH の認 可によって、生産及び使用を制限されることは無いだ ろうと言われている。現時点では、どのコンソーシア ムとも共通する点であるが、今後は、中間産物をどの ように定義するのか、そしてその登録に必要な情報を 収集することが課題であると考えられる。 ◆補足①:REACH 登録の共同提出

REACH 登録の共同提出(Joint Submission)とは、1 企業(Lead Registrant)が複数の企業の代表となって、 同一物質の REACH 登録の一部を提出することである。 共通提出できる項目は、技術書類一式の一部で、その 内容は①分類・ラベル表示の情報、②物質評価及び化 銅リスク・アセスメントの参考資料: http://www.eurocopper.org/copper/copper-ra.html http://ec.europa.eu/health/ph_risk/committees/04_scher/docs/scher_o_115.pdf http://ec.europa.eu/health/ph_risk/committees/04_scher/docs/scher_o_100.pdf

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〔 Mining&Sustainability 〕( 27 )欧州化学物質規制“ REACH ”と欧州リスク ・ アセスメントの動向 学物質安全性報告書の作成に向けた研究概要、③必要 な場合の追加テストに関する提案である。ECHA は、 ①供給者間の合意された分類・ラベル表示の情報を収 集すること、そして、②動物実験をなるだけ少なくす ることを目標として、企業が共同提出を行うことを推 進しており、企業は、共同提出を行うと、REACH 登 録手数料が個別登録手数料の約 25%割引となる。 なお、REACH 登録の一部共同提出に関する登録手 数料については、以下のウェブサイトで詳細が解説さ れている。http://j-net21.smrj.go.jp/well/reach/column/ 080516.html また、REACH 登録で共同提出できる内 容の詳細については、以下のウェブサイトの『2. 共有 しなければならないデータと個別に提出するデータ』 で解説されている。http://j-net21.smrj.go.jp/well/reach/ basic/enrty.html ◆補足②:銅コンソーシアムが REACH 登録の準備 を行う対象物質 補足②では、1-1-1 で説明した 2009 年 2 月時点の銅 コンソーシアムが対応する物質(銅 1 種、中間産物 30 種、銅スラグ製品 1 種)を、以下に紹介する。下 表のとおり、REACH では銅 1 つでも、その製造工程 に発生する様々な中間産物の登録が必要とされてい る。なお、これらの物質は、コンソーシアム参加企業 の要望によって、銅コンソーシアムが選出したものの みである。よって、各企業が登録に必要な中間産物 は、製造工程や最終製品によって異なると推測でき る。 (注:下表の“*”は EINECS 番号で登録されて いる正式名で、“**”は正式名ではないが、国際呼称 規則に従った提案名を示す。) サブグループ B.『中間産物』 中間産物 B1(物質名:Copper Anode、銅アノード)

Waste solids, purif’n. Cathode* Removal cathodes 273-720-8 69012-20-0 Waste solids, copper refinery anodes* Spent Anode 273-719-2 69012-19-7

Blister, copper ** Copper Blister N/A N/A

Anode, copper ** Copper anode N/A N/A

中間産物 B2(物質名:Copper Matte、銅マット)

Matte, copper* Copper Matte 266-967-8 6711-91-5

White matte, copper** White matte N/A N/A

中間産物 B3(物質名:White Copper Matte) → 2008 年 10 月 17 日に削除  中間産物 B4(物質名:Copper Cement、沈殿銅)

Cement copper* Copper Cement 266-964-1 6711-88-0

中間産物 B5(物質名:Black Copper, Copper Smelting、銅製錬におけるブラック・カッパー)

Black copper, copper Smelting** Black copper N/A N/A

中間産物 B6(物質名:Slimes, Copper Refining、銅精錬、スライム) Slimes and sludges,

Copper electrolytic* Anode Slime  266-972-5 67711-95-9

Slimes and sludges, copper

electrolytic refining, decopperized* Decopperized slimes 305-433-1 94551-87-8 Slimes and sludges, copper electrolytic

refining, decopperized, arsenic-rich* 309-772-6 100995-81-1

Decopperized, Ni sulfate* Slimes and sludges, copper

electrolytic refining, 295-859-3 92129-57-2

中間産物 B7(物質名:Speiss, Copper、スパイス)

Speiss, copper* Copper speiss, bottom alloy 273-836-9 69029-97-6

中間産物 B8(物質名:Slags, Copper Refining、銅精錬、スラグ)

サブグループ A.『銅地金』

EC 物質名(英語) 物質の同類名

(Substance covered/synonyms) EINECS 番号 CAS 番号 Copper*

Copper Metal

(massive or powder form);Copper cathode)

231-159-6 7440-50-8

注:『銅』は銅含有量が 99.90%と定義される。(カソード、加熱製錬によるインゴット、ビレット、スラブ、ケーキ等の未加工の形状も含む。) なお、VRA(自主的リス ク・アセスメント)に基づいて、銅 99.90%の残り 0.1%に、懸念されるべき物質が 0.1%未満しか含んでいない場合は、危険物質との分類とはならないと考えられ ている。また、『上市されているその他の銅製品』とは、銅含有量が 80 ~ 99.90%でなければならない。

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Slags, copper refining* Slags from copper refining 266-970-4 67711-94-8

Slags, copper converter* 266-969-9 67711-93-7

Slags, lead smelting* 273-825-9 69029-84-1

Copper, dross* 305-408-5 94551-59-4

中間産物 B9(物質名:Copper Slags, Product、銅スラグ、製品) ⇒ 2008 年 5 月 27 日に削除 中間産物 B10(物質名:Scale (coating), Copper、スケール(被覆加工))

Scale (coating), copper* Copper Slag, from fabricators 273-744-9 69012-45-9

Waste solids, copper-refinery* 273-718-7 679012-18-6

Waste solids, copper-casting* 273-717-1 69012-17-5

Scale (coating), mill, Copper* 305-427-9 94551-81-2

中間産物 B11(物質名:Flue Dusts, Copper Refining、煙灰、銅精錬)

Flue dust, copper refining* Flue dusts 266-966-2 67711-90-4

Wastes, copper-manuf, calcium

hydroxidetreated* 302-676-5 94114-41-7

Slimes and sludges, copper conc. Roasting off gas scrubbing, lead-mercury-selenium-contg.*

Off gas scrubbing 310-062-3 102110-61-2

Slimes and sludges, copper-lead ore roasting, Off gas scrubbing,

arseniccontg.*

Off gas scrubbing 310-063-9 102110-62-3

中間産物 B12(物質名:Electrolyte, Copper Manufacturing, Spent)

Electrolytes, copper-manufg., spent* Spent electrolyte;bleed, white acid 273-752-2 69012-54-0 Electrolytes, copper-manufg.,

spent, demetalised*

Spent demetalised

electrolyte; black acid 273-716-6 69012-16-4 中間産物 B13(物質名:Sulphuric acid, Waste Gas Washing, Copper Smelting)

Sulphuric acid, waste gas cooling and

cleaning, copper smelting ** Weak acid N/A N/A

中間産物 B14(物質名:Residues, leaching、残留物、リーチング) ⇒ 2008 年 10 月 17 日追加

Residues, Nickel matte leaching** Copper containing residue from leaching N/A N/A 中間産物 B15(物質名:Cupro, Copper processing) ⇒ 2008 年 10 月 17 日追加

Cupro, copper processing** Cupro N/A N/A

サブグループ C:『銅スラグ製品』← 2008 年 5 月 27 日追加

Slag, copper smelting* “Final” slag 266-968-3 67711-92-6

(出典:Copper Consortium Agreement, amended on 24 Feb, 2009)

◆補足③:EINECS 番号

EINECS 番号とは、欧州共同体(EC)の委員会が 定めた EINECS(European Inventory of Existing Co-mmercial Chemical Substances)に記載された 7 桁の 物質の同定番号である。本番号によって、欧州は物質 の詳述(物質の化学式、物質特性等)を整頓してい る。EINECS 番号で登録されている物質に関しては、 欧州委員会の共同研究センターのウェブサイトで確認 できる(http://ecb.jrc.ec.europa.eu/esis)。なお、CAS 番号は、米国バージョンの物質同定番号である。 ◆補足④:新 CLP 規則 新 CLP 規則とは、『化学物質及び化合物の危険性に 基づく分類・ラベル表示・梱包(CLP)に関する規 則 』(Regulation(EC)No 1272/2008)で、2009 年 1 月 20 日に制定された。新 CLP 規則の主目的は、国際 連合の GHS(化学品の分類及び表示に関する世界調 和システム)に応じて、欧州レベルの調和的な C&L (分類・ラベル表示)を統合するためである。よっ て、新 CLP 規則には、既存の危険物質指令(67/548/ EEC)及び危険な調剤に関する指令(1999/45/EC) に含まれていない GHS 準拠の新規のカテゴリー基準、 ハザード・シンボルが含まれている。なお、現在の CLP 規則には、既存の 67/548/EEC 及び 1999/45/EC に応じて、約 8,000 種の化学物質が分類されており、 それらは Annex VI に掲載されている。ただし、今 後、REACH の C&L 情報の通知で得られた結果や更 新された科学データに基づいて、いくらか修正または

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〔 Mining&Sustainability 〕( 27 )欧州化学物質規制“ REACH ”と欧州リスク ・ アセスメントの動向 (出典:欧州委員会の企業・産業総局、第 11 回 EHS セミナー資料より) 注:図中の「既存システム」は、危険物質指令及び危険な調剤に関する指令を示す。 図 1. 新 CLP 規則の移行期間 参考資料: 新 CLP 規則について: http://ec.europa.eu/enterprise/reach/ghs/legislation/index_en.htm http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2008:353:0001:1355:EN:PDF GHS について: http://www.jogmec.go.jp/mric_web/current/08_85.html 追加がなされる可能性がある。 新 CLP 規則が制定された 2009 年 1 月 20 日以降、次 の 移 行 期 間 に 応 じ て、 新 規 の 分 類・ ラ ベ ル 表 示 を SDS(物質安全性データシート)に記載、またはハ ザード・マークをラベルに表示しなければならない。 なお、既存の分類・ラベル表示(危険物質指令及び危 険な調剤に関する指令)は、2015 年 6 月 1 日には無 効となり、それ以降はそれらの表記を必要としない。 ・“物質”が新 CLP 規則の Annex VI(または、2009 年 夏 に 追 加 発 表 さ れ る ATP1) に 含 ま れ た 際、 2010 年 12 月 1 日以降は、その C&L に基づいた 表示を義務とする。ただし、既に市場に置かれて いる“物質”に対しては、2012 年 12 月 1 日まで 猶予期間がある。 ・“混合物”が新 CLP 規則の Annex VI(または、 2009 年夏に追加発表される ATP1)に含まれた 際、2015 年 6 月 1 日以降は、その C&L に基づい た表示を義務とする。ただし、既に市場に置かれ ている“混合物”に関しては 2017 年 6 月 1 日ま で猶予期間がある。 (2009.6.4)

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〔 Mining&Sustainability 〕( 27 )欧州化学物質規制“ REACH ”と欧州リスク ・ アセスメントの動向

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2. 鉛

はじめに

本稿では、『欧州化学物質規制 REACH と欧州リスクアセスメントの動向-銅-』に引続き、鉛コンソーシアム の 公 式 HP 及 び イ ン タ ビ ュ ー と、Eurometaux が 公 開 す る REACH Gateway(http://www.reach-metals.eu)、 Eurofer が 2009 年 2 月に発行した『Steel-related Substance Consortia and REACH Contacts』の報告書に基づいて、 鉛コンソーシアムの動向、そして鉛のリスク・アセスメントの進捗を紹介する。

2-1. 鉛コンソーシアム (参加企業:約 90 社以上、ロ ンドン拠点)

2-1-1. コンソーシアムの概要

鉛コンソーシアムは、国際鉛開発協会(Lead Deve-lopment Association International、 略 称:LDAI) と、 欧州酸化鉛協会(Europe Lead Oxide Association)、欧 州鉛安定剤協会(European Lead Stabilizers Associa-tion)の 3 組織が協力し、2007 年 7 月 6 日に公式に設 立された。 なお、LDAI は 2008 年 12 月 23 日、 国際 鉛協会(International Lead Association、略称:ILA) と改名している。 鉛コンソーシアムの主な役割は、予備登録のサポー ト、対象物質の REACH 登録に要する技術書類一式の 準 備 で あ る。 鉛・ 鉛 化 合 物 は 現 在、REACH「認 可 (Authorisation)」段階の対象物質とはなっていない ことから、現行の合意書においてコンソーシアムは認 可段階を担当していないが、今後、必要性に応じて担 当することも検討予定である。本コンソーシアムの対 象物質は現在、金属鉛 1 種、鉛化合物 13 種のみであ る。その他の鉛化合物は、会員企業からの関心が低い ために対象としていない。また、鉛鉱石・精鉱は化学 合成が行われないことから、登録義務免除として対象 としていない。ただし、粗鉛(ブリオン)等の中間産 物の登録準備に関しては、現在のところコンソーシア ムで対応していないが、参加企業からの要望が多いた め、今後、20 種類の鉛中間産物を対象に含めること を検討している。 2-1-2. コンソーシアムの動向 ・「鉛に関する物質を予備登録した企業は、予想を 超える規模であった。」と鉛コンソーシアムは述 べている。予備登録の結果は、金属鉛で約 3200 企業(うち 57 企業が鉛コンソーシアム会員)、酸 化鉛で約 350 企業(同 38 企業)、四酸化鉛が約 300 企業(同 8 企業)、その他の 10 種の鉛化合物 が約 600 企業(同 67 企業)、また、鉛製品の製造 工程から発生する複雑な中間産物(ドロス、煙塵 等)に対しては、約 900 企業が予備登録を行って いる。予備登録を行った企業がこのように大多数 であったため、自動的に加入されてしまう SIEF の運営は、意見の調整が容易ではないと想定され た。また、複雑な構成を持つ中間産物に関して は、企業間でも製造工程の相違等によって、物質 の定義(物質の組成及び成分、生成方法等)が異 なることがあり、最終的には違う SIEF へ移動し なければならない可能性もある。従って、コン ソーシアムとしては、SIEF 運営の円滑化に向け て、SIEF 形成の第一歩となる同一物質の定義を SIEF に代わってサポートしている。 具体的には、鉛コンソーシアムの公式 HP を媒 体にして、同一物質の定義の情報(物質の組成及 び成分、生成方法等)を公開した。本対象物質 は、純物質(Pure Substances)の 10 種と、複合 物質(Complex Substances)の 24 種である。な お、異議のある企業に対しては、アンケートを開 設し、SIEF 企業のコンサルテーションも一時 行った。本アンケートは、2009 年 3 月まで開設 され、複雑な構成を持つ物質に対しては、2009 年 4 月上旬までアンケート期限が延期されていた。 ・粗鉛(ブリオン)等の多くの複合物質は、多成分 物質または UVCB 物質(組成が不明または不定の 物質、複雑な反応生成物及び生体物質)として予 備登録されているように、鉛コンソーシアムが公 開 HP で SIEF の同一物質の定義の一環として紹 介する粗鉛の典型的な組成範囲も広い定義である。 例えば、粗鉛(ブリオン)は、『主成分の鉛が 10 ~ 96%で、他の含有物質は、Cu, Sb, Sn, As, Au, Ag』 と、現時点ではやや曖昧に定義するしか方法は生 み出されていない。よって、中間産物等の複合物 質に関しては、後に一部をコンソーシアムの対象 物質に含めることを考慮して、REACH 登録に要 するリスク評価のためにも更なる物質の詳述を研 究している。 ・金属鉛及び鉛化合物の REACH 登録に関しては、 技術書類一式のほとんどの要項が、既存の自主的 リスク・アセスメントから適用できるため、ほぼ 準備は完了している。ただし、現在は、既存リス ク・アセスメントの EU15 か国対象から、REACH で EU27 か国対象に拡大したことによって、登録 の情報に追加作業が行われている。なお、鉛コン ソーシアムは、コンソーシアム非会員の SIEF 会 員 が 多 い た め、1,000t 以 下 の 登 録 ト ン 数 帯 で REACH 登録を行おうとしている企業に対しては、 利用状(Letter of Access)を購入することで、技 術書類へアクセスできるよう検討している。

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〔 Mining&Sustainability 〕( 27 )欧州化学物質規制“ REACH ”と欧州リスク ・ アセスメントの動向 2-1-3. コンソーシアムの主な課題

鉛コンソーシアム事務局 David Wilson 博士(Dire-ctor)、Cliodhna McCartney 博 士(Scientific Officer) によれば、これからの大きな課題は、中間産物の定義 に関する検討である。本コンソーシアムは現時点で は、中間産物を対象としていないが、SIEF の促進の ためにも、中間産物の特別な成分及び生成・処理工程 を分析し、物質の同一性を確認している。また、鉛の 中間産物には、危険性を有する UVCB に分類される 物質も存在し得るが、先ずは、登録に必要とされる物 質化学的性状や有害性をどのように試験すれば良いの かという初期段階の課題も存在する。なお、一部の企 業では、中間産物の一部を REACH 義務からの全免除 となる『廃棄物』として再検討する動きもある。 2-1-4. その他の情報 鉛コンソーシアムの参加料は、金属鉛の定額 1 万€/ 年、鉛化合物の定額 7,500 €/ 年に加え、生産量によっ て異なる徴収金+ VRAL(自主的リスク・アセスメ ントの情報使用料)が課せられる(詳細は、以下の鉛 コンソーシアム合意書を参照)。参加企業は、鉛コン ソーシアム会員企業(90 社以上)のうち、SIEF 代表 企業は鉛コンソーシアムの公式 HP に掲載されてい る。例えば、純物質である金属鉛は、Berzelius Stolberg GmbH(本社:ドイツ)、複合物質である粗鉛(ブリ オン)は、Britannia Refined Metals Ltd(本社:英国 ケント州)が SIEF 代表企業である。なお、直近の総 会は 2009 年 6 月 9 日で、年 2 回開催している。 鉛コンソーシアムに関する参考資料: http://www.reach-lead.eu/documents/Reach%20Consortium% 20Agreement%20for%20Full%20Members    %20(Non-EU)%20FINAL%20-%20Mar%2009.pdf http://www.reach-lead.eu/PreSIEF.html http://www.reach-lead.eu 2-2. 鉛の自主的リスク・アセスメント(Voluntary Risk Assessment for Lead、以下“VRAL”)

2-2-1. 自主的リスク・アセスメントの概要 2-1-2 のとおり、鉛及び鉛化合物の REACH 登録に 関しては、登録に要する技術書類一式のほとんどがリ スク・アセスメントの内容であるため、VRAL の情 報は、REACH 登録の核となる。VRAL は、2002 年 1 月から公式に開始された。鉛は、EU のリスク・アセ スメント優先物質には選出されていなかったが、許容 しがたいリスクがその使用にあるのかどうかの調査無 しに使用を制限する傾向があったことから、鉛産業界 は 100t を超える鉛・鉛化合物のリスク・アセスメン トを自主的に開始した。本内容は、既存化学物質のリ スク・アセスメントに関する規則(793/93/EEC 及び 1488/94/EC)に基づき、環境リスク評価パート及び 健康リスク評価パートで構成され、論評国は亜鉛と同 様オランダである。VRAL は既に完了し、2005 年に は欧州化学品庁(ECHA)へ提出されている。ただし、 その後も国際鉛開発協会は、EU 加盟国の技術専門家 及び EU の健康及び環境リスク評価委員会(SCHER) の評価コメントに基づいて追加で見直しを行ってい る。なお、VRAL は約 2,000 ページに及び、会員企業 のみ閲覧可能である。 2-2-2. 自主的リスクアセスメントの動向 VRAL は有料で会員のみに公開されているため、詳 細情報は入手できていない。ただし、金属資源レポー ト(2006 年 7 月号)では、同時点までの VRAL 結果 概要が紹介されている(http://www.jogmec.go.jp/mric_ web/kogyojoho/2006-07/MRv36n2-02.pdf)。なお、2-2-1 のとおり、VRAL は一旦完了しており、鉛コンソー シアム側は REACH 登録に必要なリスク・アセスメン ト情報は現在の VRAL でほぼ整っているとの姿勢で あるが、EUの健康及び環境リスク評価委員会(SCHER) は、2009 年 1 月 13 日 に VRAL の 環 境 パ ー ト、2009 年 2 月 12 日には健康(人体への影響)パートの以下 の評価コメントを発表している。このコメントから推 測できるように、今後、以下に記した生物学的利用能 (bioavailability)及び BLM(Biotic Ligand Model:補足 ⑦を参照)等の研究の進展により、鉛化合物のリスク 評価が多少変わる可能性があると考えられる。

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表 1.VRAL に対する SCHER からのコメント(2009 年 2 月現在) ◆ ばく露評価(鉛血中濃度、食品及び飲料水の鉛濃度の観察及び分析等) ◦一般人口評価では、1970 ~ 2006 年は、鉛血中濃度は 10μg/dL 以上であったのに対して、有鉛ガソリンの撤廃により、現在は 1 ~ 3μg/dL へと減少している。本データから発展させて、あらゆるソースからの児童、妊婦、高齢者、社会経済水準の低い家族を対象と する鉛ばく露量をさらに評価することを薦める。[理由は、生物学的利用能(bioavailability:補足⑥を参照)の差により、例えば、鉛の 経口投与における吸収率は、大人(経口投与後の吸収率 10%)と児童(同率最大 50%)等と血液中の吸収率が大きく相違するため。] ◆ 影響評価 (人体に対する毒性及び有害性評価等) ◦現在使用されている鉛を含有する大半の製品によるリスクは、ほとんど影響を及ぼさない。よって、消費者に対するリスクは否定で き、また、作業場での腎臓ガンのリスク要因でも無いという結論にも賛成する。ただし、作業場では様々な場面に有害性リスクが潜ん でいると判断され、追加の研究を必要とする。特に、労働者の胃がんに対するリスクの潜在評価を求める。また、MOS(安全マージ ン= NOAEL[無毒性量]または LOAEL[最小毒性量]÷実際または予測ばく露量)が 1 以下である職場ばく露シナリオが複数存在す るので、それらに対してはリスク削減対策を必要とする。 ◦飲料水における鉛の WHO ガイドラインは 10μg/L であるが、欧州のサンプル平均値は 5μg/L 以下と低い。ただし、古い家等での鉛 塗料パイプの使用者等に対しては、リスク削減対策を必要とする。 ◦生物学的利用能(bioavailability)の相違により、児童、妊婦、高齢者等に対する鉛ばく露量の測定及び、安全値の研究を薦める。 ( ◦議論の余地を残していた児童神経系に対する鉛閾値の評価に関して、VRAL の分析アプローチ法では、10μg/dL を超える実験は、 危険性を考え不可能と判断し、児童神経系の鉛無毒性量[NOAEL]は、鉛血中濃度 5μg/dL が「実用的な」安全値であるという結 論に達した。SCHER 及び EU 加盟国の専門家共にそれを同意する。) Ⅱ)環境パート [対象:水質、堆積物、EU 圏内全域の地域とローカル[工業・生産地帯]レベルにおける土壌等] 総合的な結論:鉛産業界は短期間で VRAL を作成し、金属アセスメントに共通する多くの課題に取組んだことを評価する。しかし、 現時点では、VRAL は「進行中(Work in progress)」であることを認め、SCHER からは批判的であるが建設的な分析方法を提案し たい。最近は金属リスク・アセスメントの進化した新モデルとして、BLM(Biotic Ligand Model:補足⑦を参照)が注目されてお り、鉛に対してもリスク評価への本分子系システムの適用を促進したい。BLM を採用した銅とニッケルの自主的リスク・アセスメ ントの PNEC(予測無影響濃度)のアプローチ法を薦める。総じて、現時点ではリスクの是非は決定できず、今後も総合的に追加 情報及びテストを求める。 ◆ ばく露評価 (鉛化合物からのイオン種によるばく露量評価) ◦ローカルレベルの鉛 PEC(予測環境濃度)は、金属鉛(一次・二次)、薄鉛板、鉛電池、酸化鉛、鉛安定剤、鉛クリスタル・グラス製 造からの排出で評価された。土壌以外の区分における実測値は PEC とほぼ同等であるが、土壌に関しては予測値より実測値の方が高 い。これは、過去からの汚染蓄積に因ると考えられる。また、地域レベルの PEC は、複数のモニタリングデータから得られた実測値 より低い。これには、考えられる理由が 3 つある。1 つは、VRAL では EUSES(European Union System for the Evaluation of Sub-stances 2003)の改定モデルに基づいて PEC が推定されている。従来の EUSES は金属リスクアセスメントに不適と考えられる定常 予測値が利用されていたが、EUSES の改定モデルは、有機汚染物質と金属の区別を考慮し、VRAL では適切に本モデルが適用されて いる。しかし、本モデルの改定箇所は幅広いため、本モデルで金属の新しい運命 / ばく露モデル(Fate/Exposure Model)を決定する には未だ懸念が残される。2 つ目は、鉛の地域レベルの PEC は、2003 年の TGD(Technical Guidance Document)から、オランダ または EU15 のデフォルト排出が本モデルの参考データとなっている。しかし、オランダにおける地域レベルの排出は低水準と考え られ、その他の加盟国の十分な代表例には成り難い。3 つ目はローカルレベルと同様に、過去からの汚染蓄積が要因と考えられる。結 論、PEC をより正確にするには、『EUSES の改訂版』を金属アセスメントに利用する際、より一層の注意が必要と考えられ、また、 過去データの採用が重要と考えられる。 ◦ VRAL の地域レベルにおけるばく露シナリオの多くは、北部の欧州諸国に基づく。地球科学、気候条件及び生態等の多様性から、南部 の欧州諸国でもばく露アセスメントも必要と考えられる。 ◦ EU27 では、射撃及び魚釣りの道具である鉛含有弾薬 / 鉛錘からの鉛放出は、40 百万 kg/ 年と観測されており、沼地及び射撃場での 更なる調査、そしてそれらの場所に生息する野生生物へのばく露量の評価も提案したい。 ◆ 影響評価 (鉛化合物からのイオン種による生態毒性評価)

◦淡水における PNEC(予測無影響濃度)の評価には、1970 年代から利用されている NOEC(No Effect Concentration)と、ECx (x%の影響濃度、例:EC5 の意味は、その動物実験で 5%が死亡すること。) が混在しており、結果が鮮明でないと思われる。NOEC 及び ECx の両方の情報が入手できる場合は ECx を優先することを好むが、できれば BLM を採用し、生物学的利用能を考慮したリス ク・アセスメントを薦める。 ◦海水、堆積における PNEC に関しては、一般的に今後も追加情報及びテストを要求する。 ◦多くの自主的リスク・アセスメント報告書では、金属毒性に対する生態系の順応性を取上げているが、現時点では提案レベルで決定要 素にはならない。よって、SCHER は、一般的に、自然バックグラウンド及び人為的影響での、生態系の順応性に関する多様な効果の 更なる調査を促進する。 対象物質:鉛と 12 種類の鉛化合物 (補足⑤に示す対象物質の塩化鉛以外) Ⅰ)健康(人体への影響)パート  [対象:一般人口における評価、工場・事業場(点源)近隣の評価、消費者評価、労働衛生な等] 総合的な結論:SCHER は一般的に VRAL 人体影響パートが達した結論に異議は無い。しかし、数々の点で追加研究の提案を示し たい。また、生物学的利用能(bioavailability)に関連する更なる研究を推奨する。

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〔 Mining&Sustainability 〕( 27 )欧州化学物質規制“ REACH ”と欧州リスク ・ アセスメントの動向 2-2-3. 自主的リスク・アセスメントの今後 前述のとおり、REACH 登録までの対象物質のリス ク評価はほぼ完了しているが、ILA 及び ILZRO(ILA が環境・人体影響等の研究を委託している国際鉛亜鉛 研究機構)は、科学の進歩に応じて、生物学的利用能 (bioavailability)別の鉛影響評価や、土壌及び水中に おけるより精密な鉛予測環境濃度を測定するために も、新リスク評価モデルの研究を効果的に行っている。 例えば、上述の最新リスク評価アフローチ方法である BLM の開発は既に着手しており、水中での鉛の生物 学的利用能(bioavailability)別の、水生生物に作用 する有害性をより正確に測定するよう注力している。 今後、ILA は、SCHER のコメントを受けて更なる技 術的な分析を行い、近日中に現時点までの研究内容を 含めて SCHER に回答する予定である。 鉛リスク・アセスメントの詳細資料: http://ec.europa.eu/health/ph_risk/committees/04_scher/docs/scher_o_111.pdf http://ec.europa.eu/health/ph_risk/committees/04_scher/docs/scher_o_114.pdf http://ila-lead.org/documents/FS_VRAL.pdf http://www.ila-lead.org/Pb_facts_chpt_4.html www.icmm.com/document/268 http://www.icmm.com/page/1185/metals-environmental-risk-assessment-guidance-merag 2-3. 分類&ラベル表示(C&L) REACH 規制では、本登録を行う者は、2010 年 12 月 1 月までに、既存入手可能データに基づく共通的に 合意された危険物質の分類・ラベル表示(C&L)を、 登録手続きの一部または別途で、ECHA へ通知しな ければならない。この情報は、REACH の「認可」物 質 の 決 定 や、 新 CLP 規 則(『 欧 州 化 学 物 質 規 制 「REACH」と欧州リスク・アセスメントの動向-銅-』 の補足④を参照)の修正及び追加に利用されるため、 欧州委員会にとっては非常に重要な情報となる。鉛コ ン ソ ー シ ア ム へ 問 い 合 わ せ た と こ ろ、 鉛(Lead Metal) そ の も の は 現 状、 危 険 物 質 指 令(67/548/ EEC)では分類されていないが、『鉛化合物』全体が 集合的に分類されているため、将来分類される可能性 があるとのこと(2008 年 4 月時点)。なお、危険物質 指令(67/548/EEC)の Annex I における鉛化合物の 分類の位置付けは以下のとおり。 鉛の有機化合物(群)(EINECS 番号:200-897-0/ 201-075-4/241-894-4/273-688-5/214-005-2/ 235-702-8/217-170-9)は、生殖毒性カテゴリー 1、 2 と PBT(生物濃縮性で有毒な難分解性化学物 質)、そして神経毒性に該当する。ただし、鉛の 有機化合物(群)には複数の異性体を含むが、現 在では本群のなかで最も毒性のある物質を参考に して分類付けられている。 鉛の無機化合物(群)(EINEC 番号:235-067-7/ 235-252-2/235-380-9/215-235-6/215-267-0/270-148-0/ 231-100-4)は、生殖毒性カテゴリー 1、2 と神経 毒性に該当する。 (※ EINECS 番号については、『欧州化学物質規 制「REACH」と欧州リスクアセスメントの動向 -銅-』の補足③を参照) また、鉛化合物は、新 CLP 規則の Annex VI にお いて、無機物及び有機物の分類ではなく、複数の個別 の鉛化合物質と、『その他の鉛化合物』という集合的 な物質名で掲載されている。この新 CLP 規則におい ても、鉛化合物については、現行の危険物質指令と分 類は変わったものの、分類の考え方に大きな変化はな い(同等分類とラベル表示(生殖毒性、急性毒性、急 性水性毒性等のカテゴリーが存在)。鉛コンソーシア ムは、今後も更なる討議を予想するが、現時点では、 本 CLP 規則の記載が、公式な分類とラベル表示と捉 えている。 (新 CLP 規則の原文:http://eur-lex.europa.eu/Lex-UriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2008:353:0001:1355: EN:PDF) 2-4. おわりに 鉛コンソーシアムは、鉛及び鉛化合物のみを対象と し、既存のリスク・アセスメントの情報により、これら の REACH 登録準備はほぼ完了している。ただし、参 加企業の多くの要請からも、今後、粗鉛(ブリオン) 等の中間産物を採用することはほぼ決定しているとコ ンソーシアムは暗示する。従って、中間産物となる と、現状も定義が広範囲または不詳であるため、物質 の詳述(物質の組成及び生成工程等)に関する更なる 研究、そしてその物質の物質化学的性状や有害性を研 究する試験方法の決定が、現在のコンソーシアムの大 きな課題となっている。また、鉛化合物の分類とラベ ル表示に関しては、従来の科学データから PBT のリ スク特性が挙げられているため、万が一、鉛化合物が REACH の 認 可 段 階 で 対 象 と な る 高 懸 念 化 学 物 質 (SHVC)に選ばれた場合は、使用が制限されるとい う懸念もある。その場合は、鉛コンソーシアム及び鉛 産業が、社会・経済的(Socio-Economical)な側面 から議論を立てるか、新しい無害の鉛適用法を研究す ることとなるであろう。

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〔 Mining&Sustainability 〕( 27 )欧州化学物質規制“ REACH ”と欧州リスク ・ アセスメントの動向

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加えて、鉛コンソーシアムによれば、REACH の登 録に要する技術書類一式は、既存のリスク・アセスメン トの情報でほぼ整っているが、EU の健康及び環境リ スク評価委員会(SCHER)から、今後の BLM を取り 入れた環境影響予測を含めた鉛のリスク評価が期待さ れていた。他の金属と同様、ILA 及び ILZRO も、BLM を取り入れた鉛のより精密な無影響濃度の研究、ま た、鉛使用によるリスク削減対策の開発に積極的に取 り組んでいる。ILA は、「鉛リスク・アセスメントでは、 現在も BLM のアプローチ方法は開発中であるため、 既存の VRAL 文書には未だ更新されていない。しか し、BLM はとても優良なリスク評価モデルであるた め、REACH 登録完了期限までには、研究をひと段落 完了させて、そして、REACH 登録の技術書類一式に は BLM を良い参考モデルとして効果的に利用した い。」との願望を示していた。このように、今後も科 学の進歩に応じて、リスク評価がより精密なものへと 更新されていくことが期待されていた。 補足⑤:鉛コンソーシアムが REACH 登録の準備を 行う対象物質 補足⑤では、2-1-1 で説明した鉛コンソーシアムが 対応する物質(鉛と鉛化合物 13 種)を、以下に紹介 する。コンソーシアム対象物質は、REACH が制定さ れた後に、コンソーシアム参加企業の要望に基づい て、鉛コンソーシアムが選定している。下表で気付く 点は、その他のコンソーシアムとは違って、2009 年 6 月時点では、中間産物は対象とされておらず、また、 国際鉛開発協会が当時の 2002 年に公式に開始した自 主的リスク・アセスメント(VRAL)の対象物質(鉛 と 12 種の鉛化合物)と比較すると、塩化鉛が追加さ れている。 『鉛化合物』 物質名(英語)

※カッコ内は EINECS の物質表記 (仮訳)物質名 純度(コンソーシアム HP より) EINECS 番号 CAS 番号

Lead oxide 酸化鉛 PbO 純度

99.9%以上 215-267-0 1317-36-8

Lead tetroxide(= Orange Lead) 四酸化鉛 Pb3O4純度

99.9%以上 215-235-6 1314-41-6

Dibasic lead phthalate

(=[phthalate(2-)]dioxotrilead)

二塩基性 フタル酸鉛

C8H4O4Pb3純度

99.9%以上 273-688-5 69011-06-9

Basic lead sulphate

(= Lead oxide sulfate) 硫酸鉛 N/A 234-853-7 12036-76-9

Tribasic lead sulphate

(= tetralead trioxide sulphate)

三塩基性 硫酸鉛

O7Pb4S 純度

99.9%以上 235-380-9 12202-17-4

Tetrabasic lead sulphate

(= pentalead tetraoxide sulphate)

四塩基性 硫酸鉛

O8Pb5S 純度

99.9%以上 235-067-7 12065-90-6

Neutral lead stearate (= lead distearate)

中性ステアリ ン酸鉛

Pb(C18H36O2)2純度

99.9%以上 214-005-2 1072-35-1

Dibasic lead stearate

(=Dioxobis(stearato)trilead、Dioxobis (stearato)trilead) 二塩基性ステ アリン酸鉛 C36H70O6Pb3純度 99.9%以上 235-702-8 12578-12-0

Dibasic lead phosphate

(=Trilead dioxide phosphonate、Trilead dioxide phosphonate)

二塩基性亜リ ン酸鉛

HO5PPb3純度

99.9%以上 235-252-2 12141-20-7

Polybasic lead fumarate

(=2-Butenedioic acid (E)-, lead(2+)

salt, basic) (訳不明) N/A 290-862-6 90268-59-0

Basic lead carbonate

(=trilead bis(carbonate) dihydroxide) 鉛白 N/A 215-290-6 1319-46-6 Basic lead sulphite

(=Sulfurous acid、lead salt、dibasic) 硫化鉛 N/A 263-467-1 62229-08-7 Lead chloride(=Lead dichloride) 塩化鉛 Cl2Pb 純度

99.9%以上 231-845-5 7758-95-4

(参考資料: 『金属鉛』

物質名(英語) (仮訳)物質名 純度(コンソーシアム HP より) EINECS 番号 CAS 番号

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〔 Mining&Sustainability 〕( 27 )欧州化学物質規制“ REACH ”と欧州リスク ・ アセスメントの動向 補足⑥:生物学的利用能(bioavailability) 生物学的利用能(bioavailability)とは、投与され た物質の何パーセントが血中に入って体内に作用する のかを表す指標で、薬物や製剤からの利用性を評価す る概念である。物質の投入経路(例えば、経口摂取 等)により、全身循環に達するまでに不十分な吸収と 初回通過効果を受けるため、その生物学的利用能が減 少することとなる。鉛で言えば、吸入による吸収率は 大人 / 児童に拘らず 100%で設定されており、皮膚か らの吸収率は低いとされている。吸収された鉛成分は 主に人体の軟組織から骨へと運ばれる。なお、生物学 的利用能は、水生及び陸生生物すべてに適用される。 補足⑦:BLM(BioticLigandModel)

BLM(Biotic Ligand Model)とは、pH や DOC(Di-ssolved Organic Carbon)、硬度等の様々な水質条件 によって異なる重金属の急性・慢性の毒性を予測する 分子モデルである。現在も多くの研究者によって開発 が進められており、鉛に関しては、水中の鉛における 生物学的利用能(Bioavailability)別の、より精密な PNEC(予測無影響濃度)または PEC(予測影響濃 度)、そして水生生物に対する毒性をより正確に測る ことができると期待されている。ICMM(国際金属・ 鉱業評議会)の MERAG によれば、BLM による水面 上の毒性レベルは、銅(Santore et al., 2001;De Scha-mphelaere et al., 2002a,b), 銀(Paquin et al., 1999)そ して亜鉛(Heijerick et al., 2002a,b) によって効果的な 結果が示されている。また、最近では BLM の概念は さらに展開されて、異なった栄養段階に対する慢性銅 中毒と亜鉛毒性の予測に成功している(De Schamph-elaere et al., 2003;De SchamphSchamph-elaere and Janssen, 2004)。なお、ICMM は、発展した BLM 評価に関す る 参 考 文 献 と し て、Paquin et al.(2002) と Niyogi and Wood(2004)を薦めている。

BLM の参考資料:

http://www.hydroqual.com/wr_blm.html

http://www.icmm.com/page/1185/metals-environmental-risk-assessment-guidance-merag

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〔 Mining&Sustainability 〕( 27 )欧州化学物質規制“ REACH ”と欧州リスク ・ アセスメントの動向

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3. 貴金属・レニウム

はじめに

本稿では、『欧州化学物質規制「REACH」と欧州リスク・アセスメントの動向-銅-、-鉛-』に引続き、貴 金属・レニウム・コンソーシアムの公式 HP 及びインタビューと、Eurometaux が公開する REACH Gateway (http://www.reach-metals.eu)の報告書に基づいて、貴金属・レニウム・コンソーシアム及びそれらのリスク・ア セスメントの動向を紹介する。 3-1. 貴金属・レニウム・コンソーシアム (参加企業:42 社(うち、貴金属 &RE は 18 社)、 ブラッセル拠点) 3-1-1. コンソーシアムの概要 貴金属・レニウム・コンソーシアムは、欧州貴金属 連盟(EPMF)が、2006 年 6 月より設立準備を開始 し、2007 年 9 月 15 日に公式に結成された。貴金属・ レニウム・コンソーシアムの主な役割は、REACH にお ける予備登録のサポート、対象物質の REACH 登録に 要する技術書類一式の準備である。また、参加企業の 決定によれば、評価と認可段階まで担うことも検討し ている。ここまではその他の金属コンソーシアムと同 様であるが、本コンソーシアムと他のコンソーシアム の違いは、対象物質の種類の多さである。貴金属・レ ニウム・コンソーシアムは現在、金、銀、貴金属、レ ニウム、そしてそれらの中間産物を合わせた合計 120 種を対象としている(そのうち、約 100 種が単純物質 (Simple Substances)で、20 種が複合物質(Complex

Substances)。一部を補足⑧で紹介)。 このように、本コンソーシアムでは対象物質が広範 囲であるため、図 1 のとおり、金、銀、貴金属、レニ ウムの 4 つのテクニカル・アドバイザリー・パネルに 分かれて運営されている。これらの各パネルの主な役 割は、同一物質の定義、REACH 登録に必要な技術一 式文書や化学品安全性報告書(CSR)の編集で、各パ ネルの作業段階フレームは、①試験方法を準備するた めのデータギャップ(登録に必要な既存データと無い データの差)分析、② Read-across の適用可能試験、③ 実験的試験、④化学的安全評価、⑤ IUCLID5 の技術一 式 文 書 の 準 備 と 5 つ の 段 階 に 分 か れ て い る。(注: Read-across とは、物質を試験する必要性を回避するた めに、規則的パターンに従いそうな類似物質の特性 (物質化学的性状、生態毒性等)を利用して、不明瞭な 物質のカテゴリーまたは物質群を「見なす」方法であ る。)

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図 1. 貴金属・レニウム・コンソーシアムの運営組織図 (出典:LBMA 主催 REACH セミナー資料、2008 年 6 月 26 日)

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〔 Mining&Sustainability 〕( 27 )欧州化学物質規制“ REACH ”と欧州リスク ・ アセスメントの動向 3-1-2. コンソーシアムの動向 ・貴金属・レニウムは従来から、欧州委員会の物質 リスク評価優先物質ではない。過去には企業単位 でリスク・アセスメントが行われてきたが、公に 産業団体がリスク・アセスメントを実行するのは REACH におけるプロセスが初めてである。よっ て、欧州連合の共同研究センターの公式 HP(JRC: http://ecb.jrc.ec.europa.eu/esis)でも、物質の詳述 及び分類・ラベル表示の公開情報が存在しない。 つまり、本コンソーシアムの各テクニカルグルー プは、ゼロからのスタートとも言える。幸いなこ とに、貴金属・レニウムについては、その他の重 金属に比べて、REACH 登録の負担が結果として 軽減されている。その理由は、以下の二つである。 まず第一に、生産量が 1 登録企業につき 1t/ 年以 上 100t/ 年未満である企業が多いため、登録期限 が 2018 年 5 月 31 日までと余裕がある(ただし、 貴金属・レニウム・コンソーシアムは、遅くて 2013 年に登録準備を完了することを目標としてい る。)。次に、REACH 規制では、欧州域内で 1 物 質 10t/ 年以上製造または輸入しない企業は、化学 物質安全性報告書(CSR)を追加で提出する必要は ないことから、登録準備の項目が少なくなっている。 ・他の金属コンソーシアムと同様、貴金属・レニウ ム・コンソーシアムの中間産物の対策は、先ず、 製造工程で生成される物質すべてが十分に予備登 録され、中間産物または廃棄物としての判断基準 が正しいのかを確証することである。さらに、中 間産物については、厳重に管理されていることを 証明することにより、REACH の登録項目が軽減 される。そのため、コンソーシアムでは登録企業 に対して各工場において中間産物が厳重に管理さ れているのかどうかを確認するよう推奨してい る。また、今後のリスク評価の研究のためにも、 中間産物の特別なケースに対しては、特に銅、 鉛、ニッケル・コンソーシアムとの情報交換を 行 っ て い る(中間産物の登録項目に関しては、 http://www.jogmec.go.jp/mric_web/current/ 09_20.html を参照)。 ・貴金属・レニウムの鉱石及び精鉱に関しては、化 学構造が変化する物、しない物の両方が存在する ため、現時点では、産業専門家が、各処理段階で それぞれの鉱石・精鉱が化学構造の変化が行われ るかどうかを分析している(2009 年 3 月時点)。 化 学 構 造 が 変 化 す る と 判 断 さ れ た 場 合 は、 REACH Annex V の 登 録 免 除 の 対 象 と な ら ず、 登録が必要になってくる。 3-1-3. コンソーシアムの課題 コンソーシアム事務局の Caroline Braibant 女史か らは、以下の主な課題が挙げられた。同コンソーシア ムの課題は、リスク・アセスメントが初めて公に実施 されているため、あらゆる決め事が現在進行形である ことを除いては、その他の非鉄金属コンソーシアムと あまり違いは無いと考えられる。 ・貴金属・レニウムの処理工程で生成される物質す べてが予備登録されていて、廃棄物または中間産 物として正しく識別されているのかを確証する。 (なお、Directive 2006/12/EC に該当する廃棄物 は、物質、調剤、形成品のいずれにも区別されな いため、REACH 義務の全免除となる。) ・同一物質の定義に対する話し合い(例えば、物質 の組成や一般的な生成方法の定義等)は、現在も 進行中である。 ・共同登録を準備するためには、貴金属・レニウム 登録企業の間での会合及びその会議の運営が必要 である。 しかし、 その際には、 言語バリアや、 REACH に対する知識・研究進捗の差、REACH に対する関心度には大きな違いがあるのではない かと懸念される。 ・情報のフリー・ライディングや情報の誤用、そし て反トラスト的な行為の回避なども考慮する必要 がある。 3-1-4. その他の情報 貴金属・レニウム・コンソーシアムの参加料は、重量 ベース及び物質選択数によって異なるが、約 5,000 ~ 80,000 €/ 年とされている。2008 年 6 月時点では参加 企業は合計 42 社(下表 1 で一部を紹介)で、2008 年 12 月には、日本企業で初めて田中貴金属工業株式会 社が入会している。なお、本コンソーシアムの総会は 年 2 回とされており、直近は 2009 年 6 月 19 日、次回 は 2009 年 12 月に開催される予定である。

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〔 Mining&Sustainability 〕( 27 )欧州化学物質規制“ REACH ”と欧州リスク ・ アセスメントの動向

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表 1. 貴金属・レニウム・コンソーシアムの会員企業(一部) • Agnico-Eagle AB

• Ames Goldsmith U.K. Limited • AMI DODUCO GmbH • Anglo Platinum Limited • Argor-Hereaus S.A. • BolidenAB

• Britannia Refined Metals Limited • Carl HafnerGmbH + Co. KG • Cendres & Métaux Holding S.A. • Climax Molybdenum Marketing Company • Commerzbank International S.A. • Eurotungstene Metal Powders • Falconbridge Europe S.A.

• Handy & Harman Precious Metals Group • Huta Cynku“Miasteczko Slaskie”S.A. • Heimerle + Meule GmbH

• Johnson Matthey Plc. • KCM 2000 S.A. • KGHM Ecoren S.A.

• KGHM Polska Miedz S.A. • LipmannWalton & Co. Ltd. • LonminPlc.

• Metalor Technologies (France) SAS • MontanwerkeBrixleggAG • Norddeutsche Affinerie AG • NorilskNickel Finland Oy • PAMP S.A. • PemcoEuroinksS.R.L. • PX Holding S.A. • Recylex GmbH • SAFIMET S.p.a.

• SEKOM Handelsge s.m.b.H. & Co. KG. • SEMPSA Joyería Platería S.A.

• Société des Fonderies de Plomb de Zellidja • Umicore S.A./N.V.

• Vale Inco Limited • W.C. Heraeus GmbH

• Wieland Dental + Technik GmbH & Co. KG • 田中貴金属工業株式会社 3-2. 貴金属・レニウムのリスク・アセスメント REACH 規制の登録に要する技術書類一式では、リス ク・アセスメントの内容が重点となる。しかし、3-1-2 の とおり、公に関連産業団体がリスク・アセスメントを実 行するのは初めてであるため、現時点ではデータの入手 はできず。今後も動向を追っていく予定である。 3-3. 分類・ラベル表示(C&L) REACH 規則では、本登録を行う者は、2010 年 12 月 1 月までに、既存入手可能データに基づく共通的に 合意された危険物質の分類・ラベル表示(Classific-ation & Labeling : C&L)を、登録手続きの一部また は別途で、ECHA へ通知しなければならない(詳細 は、『欧州化学物質規制「REACH」と欧州リスク・ アセスメントの動向-銅-』の 1-3-1 を参照)。しか し、3-1-2 の理由から、現時点では公開情報は入手で きず。なお、コンソーシアム事務局に問い合わせたと ころ、下の補足⑧に記された一部の対象物質では、既 存の危険物質指令(Directive 67/548/EEC)に該当す る物質は無いと言う。今後は、中間産物等も併せて、 貴金属・レニウムの C&L の分析を行っていくとの回 答が得られた。 3-4. おわりに 貴金属・レニウムは、欧州委員会の物質リスク評価 優先物質でもなく、欧州連合の共同研究センターの公 式 HP でも物質の詳述が見つからないように、リスク・ アセスメント及び分類・ラベル表示に関する公開デー タが存在しない。従って、上述のとおり、貴金属・レ ニウムは、初めての総括・リスク・マネジメントにな るが、その多くが 2018 年 5 月 31 日に登録完了期限に 当てはまることから、その他の金属に比べて登録準備 期間に余裕があると考えられる。貴金属・レニウム・ コンソーシアムは REACH 登録準備を 2013 年までに 準備するよう計画しており、今後もコンソーシアムに よる貴金属・レニウムに関するリスク・アセスメン ト、そして分類・ラベル表示の公開研究発表を注目し ていくこととしたい。 ◆補足⑧:貴 金 属・ レ ニ ウ ム・ コ ン ソ ー シ ア ム が REACH 登録の準備を行う対象物質 3-1-1 のとおり、現時点の対象物質は 100 種の単純物 質と 20 種の複合物質の計 120 種を計画している。全種 は公表されていないが、Eurometaux の Reach Gateway では下表の対象物質の一部が紹介されている。 貴金属・レニウム・コンソーシアムに関する参考資料:

http://www.epmf.be

http://www.reach-metals.eu/index.php?option=com_substance&task=view&id=38&Itemid=68 http://www.lbma.org.uk/london/reach

表 3. 銅リスク・アセスメントの概要 対象物質:
表 1. 貴金属・レニウム・コンソーシアムの会員企業(一部)

参照

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